著者
池田 正春 南里 宏樹 姫野 悦郎
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.227-236, 1993-09-01 (Released:2017-04-11)

成人病予防に必要なことは今や早期発見, 早期治療(二次予防)でなく, さらに一歩進めて発病の原因を絶つことや体力づくりをすることにより発病を予防する(一次予防)ことにある. 厚生省, 労働省より健康増進政策が相次いで出され, 栄養, 運動, 休養のバランスのとれた健康的なライフスタイルの確立を目指しているが, この中でも運動を重視し, 健康づくりの大きな柱として位置づけている. この背景には運動不足, 相対的なエネルギー摂取過剰, 労働時間の短縮による余暇活用の問題また一般の人々の健康への関心の高まりなどがあげられ, 一方運動生理学の発展も大きく寄与している. しかし我が国では運動と健康や成人病の予防効果に関する科学的な報告などは乏しい状況にあり, 今後はこれらに関する研究を推進していく必要性がある. 本論では運動の健康に及ぼす効果を運動生理化学の面より述べ, 次いで高血圧の運動療法, 運動の降圧のメカニズムに言及し, 運動の生理的効果や成人病予防に対する効果について考察する.
著者
川波 祥子 井上 仁郎 高橋 公子 堀江 正知
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.237-245, 2011-09-01 (Released:2017-04-11)

電話交換手がヘッドホンから曝露される音圧を, 人工耳および音響測定用マネキンを用いた2段階の方法で測定した. スクリーニングとして実施した人工耳による測定では, 非通話時間を含む8時間の等価音圧レベル(Leq)が81.5dB, 通話時間のみのLeqが89.3dBと高かった. そこで, より作業者のヘッドホン着用に近い状態で測定でき, 鼓膜付近での測定値を外耳道入口での音圧に換算可能なマネキンによる測定(ISO11904-2)を行ったところ, A特性による日本産業衛生学会の等価騒音レベル(LAeq)の許容基準と比較すると得られた修正LAeqは非通話時間を含む8時間で68.3dB, 通話時間だけでは76.6dBであり許容基準を下回った. 今回のような静かな作業場(51.3dBA)での通信業務では, 80dB未満の音声でも良好な信号雑音(S/N)比が得られ, 聴力への影響は小さいことが確かめられた. また, 通話相手の性別, 電話機の種類による曝露音圧の有意差はなかった.
著者
アシット ケイ マックヘルジー ビーラッパ ラビチャンドラン サナット ケイ バッタチャリア サンジット ケイ ロイ サビール アーメド スリダー サクール ハビブラ エヌ サイエド
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.253-268, 2008

この研究はインドにおける主要な予焼タイプのアルミニウム製錬工場における労働・環境評価と労働者への曝露についての報告である. 主要な精錬工場現場, すなわち, 溶解炉室, 炭素室, 突合せ場, ロッド精造場, 電解浴準備室, 溶湯室の内部および附近での健康障害のレベルが測定された. 一般的な麈埃は高度から非常に高度であった. 3つのもっとも麈埃の多い領域での空気中の吸入麈埃の平均レベル(PM<sub>10</sub>)は, 炭素室では24.07mg/m&sup3;, 電解浴準備室では27.57mg/m&sup3;, ロッド製造場では4.44mg/m&sup3;であった. 粒子の40-60%は5μm以下の大きさであった。溶解炉室の空気では, 0.5-2.82%の固型弗化物が0.4-4.7μmの大きさの分画に存在した. 当然のこととして, 麈埃全体の曝露は, これらの過程で非常に高かった. NO<sub>x</sub>, SO<sub>2</sub>, 弗化物(ガス状と固型)のバックグランドのレベルは, インドで定められた基準値以下であった. ガス状と固型の弗化物(それぞれ3.85, 6.53mg/m&sup3;)の高度の曝露がロッド精造場の労働者で見られた. 多環芳香族炭化水素(PHAs)のレベルは炭素室で高いと思われた. 熱ストレスの測定は冬季に行われたので基準値以下であった.
著者
西風 脩
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.183-208, 1993
被引用文献数
14 1

H. Selyeはストレスをthe rate of wear and tearとした. 私たちは, 生物は無生物と異なり, エネルギー変換のもと, 摩耗(wear and tear)と修復(repair and recovery)の動的平衡においてその生を営むものとし, 生体適応能の把握は少なかれ摩耗と修復の両面よりもってすべきものとする考えのもとに, 17-OHCSを摩耗関連因子と捉え, 修復関連因子を他にもとめた. そのひとつが17-KS-Sである. 17-KS-S, 17-OHCS両者の同時測定は, ストレッサーによりもたらされた生体の歪み(適応の歪み)の把握を可能にし, 個々人の疾患の存在, 疾患に対する感受性に関る情報提供の客観的手法として有用であり, 特に今日の産業医学領域において, 医療関係者, 健康官理者に対し, 臨床検査に異常を認め得ない心理社会的ストレス下の生体におけるストレス原因の究明とその対応を提起する可能性が大きく, 本領域における本方法の適用が望まれる.
著者
スギアンティ ゲック ラカ ウィラワン アイ マディ アディ ウタミ ニ ワヤン アリャ
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.353-362, 2019
被引用文献数
1

観光地プンリプランの伝統的な飲料であるロロチャムチャムはチャムチャムの葉(<i>Spondias pinnata </i>(L.f.) Kurz)を含み,バリ島各地に広く流通している.この研究は,ロロチャムチャムの微生物学的特性と製造工程の衛生との関連を調べることを目的としている.バリのプンリプランで,ロロチャムチャムのすべての家内生産者と取扱業者,4つの貯水池,そして3ヶ所の水源サンプルを対象に横断的研究を行った.衛生に関するデータは,観察とインタビューにより得た.サンプルの微生物学的特性は生菌数,大腸菌群の最確数(MPN),そして大腸菌(<i>E. coli</i>)汚染について調べた.強毒遺伝子を同定するためにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査を行った.水源は腸管毒素原性大腸菌(ETEC)で汚染され,さらに貯水池の約25%とロロチャムチャムのサンプルの43.3%が大腸菌に汚染されていた.このことは,酸性条件下(平均pH 2.8)での大腸菌の生存を示している.30の家内生産者のうち,76.7%の衛生施設は安全基準を満たしていたが,器具の衛生管理(60.0%),取扱業者の衛生(50.0%),および生産現場の衛生管理(43.3%)は非常に低かった.取扱業者の不十分な衛生はロロチャムチャムの微生物学的特性と関連しており,調整オッズ比(AOR)は15.02(95%CI: 1.31-171.5,<i>P</i> = 0.029)だった.継続的な監視は,製造工程の衛生および事業従事者の衛生の改善に不可欠である.微生物学的研究は,酸性環境での生存能力を含む大腸菌の性質を理解する上で必要である.
著者
遠山 篤史 村上 緑 吉野 潔
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.317-325, 2020
被引用文献数
5

<p>Cervical cancer commonly metastasizes first to the pelvic lymph nodes and then subsequently spreads to distant organs, making lymph node metastases the most significant prognostic factor in cervical cancer, and the strategy for its treatment directly influences prognosis. This review focuses on the treatment strategies for cases of cervical cancer with bulky pelvic lymph nodes. Concurrent chemoradiotherapy is the standard treatment modality for patients with pelvic lymph node metastases, but it is inadequate for bulky pelvic lymph nodes. Accordingly, surgical resection of the bulky lymph nodes has been attempted, and its therapeutic significance has been reported. If the bulky lymph nodes are unresectable, definitive concurrent chemoradiotherapy is performed. If it yields an inadequate degree of lymph node shrinkage, boosted radiation should be considered. The addition of chemotherapy after concurrent chemoradiotherapy has also been reported to be effective in patients with lymph node metastases and is currently being evaluated in clinical trials.</p>
著者
永田 泰史 竹内 正明 大谷 恭子 園田 信成 尾辻 豊
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.343-349, 2019
被引用文献数
2

左室流出路狭窄は時に大動脈弁狭窄症に合併する.しばしば両者の狭窄を分離することができないため,大動脈弁狭窄症の真の重症度を正確に評価することが困難になる.症例は外傷性血気胸で入院となった75歳女性.心エコー図検査により大動脈弁狭窄症と左室流出路狭窄を認めた.ドプラーエコーでは収縮後期をピークとするダガー型の血流波形を認め,左室流出路と大動脈弁を通過する最高血流速度は6.0 m/sであったが,両者の最高血流を分離することが困難であった.正確な大動脈弁狭窄症の重症度評価のため,ランジオロール(短時間作用型βブロッカー)とシベンゾリン(ナトリウムチャネルブロッカー)を用いた負荷心エコーを行い,同時にカテーテル検査により左室圧と大動脈圧を測定した.ランジオロールは無効であったが,シベンゾリンにより左室流出路狭窄は消失した.シベンゾリン負荷心エコー検査により大動脈弁狭窄症の重症度は中等度以下と評価され,適切な治療方針の決定が可能となった.本症例によって,シベンゾリン負荷心エコーは左室流出路狭窄を合併した大動脈弁狭窄症の重症度評価に有用である可能性が示された.
著者
北條 暉幸
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.159-162, 1980-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1

解剖学用語(PNA)では, 弓状線は腹直筋鞘後葉と腸骨にあるが, 本研究は腹直筋鞘後葉にある弓状線の位置とその形状について, 行われたものである. 研究対象は男性23体, 女性3体, 合計26体である. 弓状線の位置と形状には, かなりの変異が認められた. すなわち, その最も高い位置は臍から下方へ1.7cmで, 後葉が恥骨結合に直接結合する場合が1例観察された. 最も多く出現するのは, 臍から下方へ7cmから12cmまでの距離の間にあり, 88%に出現する. また, 上下2本の弓状線を左右両側にもった重複弓状線が2例認められた.
著者
村松 圭司 久保 達彦 藤野 善久 松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.305-311, 2013-12-01 (Released:2013-12-14)
参考文献数
11

英国の雇用関連給付には,我が国の傷病給付金や雇用保険に対応するものとしてStatutory Sick Pay, Jobseekerʼs Allowance, Employment and Support Allowanceがある.英国では「福祉から労働へ」(Welfare to Work)のスローガンのもと,つねに労働のインセンティブが働くよう福祉制度改革が行われており,貧困と福祉への依存を解消するために,非拠出制給付を一本化したUniversal Creditという新たな給付方式が2013年から開始となった.また,これまでのフレキシブル・ニューディール政策は廃止され,「福祉から労働へ」施策はすべて「ワークプログラム」にまとめられ,就労を継続することにインセンティブが働くよう労働施策も改革が行われている.
著者
川本 利恵子 村瀬 千春 石原 逸子 生嶋 美春 中谷 淳子 原賀 美紀 清水 遵
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.305-313, 2005
被引用文献数
2 10

本研究は, 快適職場環境の形成に香りの効果を有効的に活用するための基礎的なデータを得る目的で行われた. 実験は, 被験者である14名の女子学生おのおのに対して, レモンの香りのある実験室とレモンの香りのない実験室という2つの異なった環境下における単純加算作業の成績, 生理的変化, 気分変化を調べ, その差を比較検討した. 実験結果は, レモンの香りは作業効率を変化させないが, 疲労を軽減させ, 活力の低下を予防することを示唆した.
著者
武見 太郎
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.247-260, 1979

As an introduction, I talked about my experience as a visiting professor at the Keio, Kitasato and Tokai Universities lecturing to the medical students on the introduction to medicine, finding that the Japanese students are passive in receiving education and are good at memorizing while the foreign students study hard and do not depend on memorizing alone. I also related my experience studying under Dr. Yoshio Nishina at the Institute of Physical and Chemical Research for 15 years and learned how important it was to have thorough discussions. In regard to the introduction to medicine, it is composed of the following aspects : historical, philosophical, technological, policy and human. With regard to the historical aspect, the most representative paper is "Enf&uuml;hrung in die Medizin."With regard to the philosophical aspect, this is represented in Japan by Prof. Emer. H. Omodaka and his group and these philosophers introspect medicine. In philosophical thinking there is a somewhat newer school called biophilosophy and Rensch's biophilosophy is used world-widely as a textbook. With regard to the human aspect, I always think of Alexis Carrel's "Man the Unknown". Next I touched on the macro theory of medical care where we have to consider the rapid increase of the old people and the changes in the population structure and what the effects of these changes will be in the future. In looking at the coming 21 st century we will see how we must conserve resources and use them effectively, and jointly with the other parties. Here we see the entrance of human survival order. This is very important sociobiologically but is not taught in the medical schools yet. I next touched on the metabolism of earth and stressed the role of industrial medicine in the effects of industrialization, Iike development of resources, recycling, pollution and so forth. I talked about the human survival order and the concept of health using illustrations which I always use in my talk on this subject.I talked about the DNA and RNA, reflection from the future, the phenomenon of adaptation. Next I talked about the micro order and macro order of survival, or the adaptation theory. I next talked about my concept of general economics which is composed of environment resources, human beings, which is related to comprehensive technology, and leads to service. This is related to the basic concept of medico-economics which I spoke about later on. I talked about considering the importance of the structure of the demand for medical care and about primary care, positive health, rehabilitation, community medicine, industrial medicine and medical reproduction and reproduction of health. This demand for medical care is not only from the side of the people. Demand changes with the level of culture, and by the popularization of health education there will be a true demand. I explained about the various sciences which surround medical care, such as social sciences, environmental science and social engineering. I commented on the present health insurance system and pointed out the weak and faulty parts and how it should be revised. I pointed out the many factors which this involves and how the future of medical care should be in our country. I also explained about the form of system science which should be in our country. I also explained about the form of system science which should be introduced in order for Japan to survive. Finally I expressed my hopes that the contents of the lecture in the introduction to medicine to be given at the University of Occupational and Environmental Health will contribute to making your future activity in society worthwhile.
著者
MOHLER Stanley R.
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-7, 1985-03-01

アメリカ合衆国には23の専門別委員会があり, これらの1つが予防医学である. 予防医学は3つの分野に分かれており, 1.航空医学, 2.産業医学, 3.公衆衛生, または一般予防医学である. 予防医学専門分野は, 生物統計学, 疫学, 保健サービス行政と環境衛生を含む必須研修がカリキュラムの中心となる. これらに加えて, 研修1年目には関連科目があり, 2年目になると臨床ローテションがあり, 特に眼科, 耳鼻科, 循環器科, 呼吸器科, 脳神経科の組み合わせに加えて民間パイロットレベルの訓練や修士学位取得に必要な論文も要求される. 3年目には航空医学専門医は, NASAや国立研究所や私立の施設において, フルタイムの航空医学の実地訓練を受ける. 現在までに40人以上の医師がWright State Universityにおいて航空医学の訓練を受けた. これらの中には日本, オーストラリア, 台湾, カナダそしてメキシコの医師が含まれている. Wright State Universityでは大学教授等によるカリキュラムに加えて, アメリカ空軍や海軍によって行われるものが含まれる. Wright State Universityの教育コースには, アメリカ陸軍, 海軍, 空軍から士官を受け入れる特権を与えられている. このWright State Universityのコースの大部分の後援はNASAによってなされており, 宇宙に関する問題も重要な題目となっている.
著者
宋 裕姫 西野 精治
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.329-352, 2008-09-01 (Released:2017-04-11)

睡眠障害や睡眠不足は, 肥満, 糖尿病, 高血圧などの生活習慣病, 労働者のヒューマンエラー, 交通事故, 産業事故などを引き起こし, 社会全体の経済損失は甚大なものになる. これらの問題を解決するために, 米国政府は1993年に睡眠に関連した事故による経済損失総額は年間5兆円あまりとした睡眠障害調査国家諮問委員会による報告書を発表した. その後, 様々な国家的対策により睡眠センターの数や睡眠研究に対する研究費が増加するなどにより睡眠医学が発展した. 日本においても睡眠障害に対する国家的対策が必要であるとして, 日本学術会議が2002年に"睡眠学の創設と研究推進の提言"を報告した. このような状況の中で, 米国における国家諮問委員会報告書をもとにした国家的な取り組みは, 睡眠学を創設したばかりの日本にとって参考になる可能性がある. 今回, この取り組みを総説としてまとめ考察を加え報告する.
著者
佐伯 覚 松嶋 康之 加藤 徳明 伊藤 英明 白石 純一郎
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.311-315, 2016
被引用文献数
8

<p>わが国の脳卒中リハビリテーションの状況は,近年,個別治療手技および診療システムの劇的な変化がみられた.すなわち,虚血性脳卒中発症率の増加,静脈注射用組織プラスミノーゲンアクチベーターの使用,病院の機能分化,回復期リハビリテーション病棟の導入,介護保険制度である.しかしながら,これらの変化が脳卒中後の職場復帰(復職)の経過に影響を与えているのかどうかは不明である.本研究では,20年以上隔てられて実施された2つのコホート研究-脳卒中後の復職の経過分析-を比較した.両研究は20年以上離れているが,初発脳卒中患者の累積復職率は両研究でほぼ同様であった.この結果は,脳卒中リハビリテーションの進歩が復職に大きな影響を与えず,むしろ傷病手当金などの社会保障システムが復職に大きな影響を及ぼすことを示唆している.</p>

1 0 0 0 OA 占い師の特徴

著者
種田 博之
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.263-276, 2001-09-01 (Released:2017-04-11)

今日の日本社会において, 占いは日常生活のいたるところで見ることができるほど, ひとつの「社会的事実」となっている. このような状況ではあるが, 占いは社会学的にはいまだに未知の現象のままである. 占いに関しての分析を行っていく上で, 占い師は占いの技法を管理する職能者であるということから, 重要な要素の一つをなしている. したがって, 占いについての十分な考察を進めていく上で, なによりもまず占い師の特徴を明確にする必要がある. この論文の目的は, 占いに正当性を付与する「根拠」と占い師を占いへと方向づけた「契機」を明確にすることで, 占い師の特徴を示すことにある. 「根拠」としては, 「直感=インスピレーション」か, もしくは経験を通して形作られた「体系的知識」かのどちらかをとられる. 「契機」は, 「自発」か, もしくは「強制」かのどちらかがとられる. こうした類型を用いて今日の占い師を捉えるならば, 「知識」と「自発」の両方の特徴をもつ占い師が顕著であることがわかる. では, なぜ, この類型の占い師が、今日, 顕著なのであろうか. この問題を, 本稿では社会構造の関係で分析する.
著者
北條 暉幸 中島 民治
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.265-268, 1985-09-01 (Released:2017-04-11)

北九州市とその郊外に住む23人の女子学生の足型の計測学的研究である. 彼等の両親は福岡県人である. 約20年前に計測された北部九州の非都会的環境(農村など)に在住した2つの異なった集団とこれらの女子学生の間に, 足長(足型の長さ)に関して有意の差は存在しなかったが, 女子学生の身長は最も高く, また足指数(足型の長さに対する足型の幅)は小さく足型は細長い形であった. これらの足型の特徴は, 都会的な生活と世代間の相違によるものと考えられる.
著者
平川 晴久 林田 嘉朗
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.117-129, 2002-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
3 2

低酸素によって引き起こされる自律神経系と循環系の反応、および暴露直後にみられる心拍の反跳現象について解析を行った. 血圧測定用カテーテル, 心電図そして腎交感神経活動記録用電極を慢性に植え込んだWistar ratを用い, hypocapnic (Hypo), isocapnic (Iso), hypercapnic (Hyper) hypoxiaの暴露を行った. Isoでは, 血圧及び心拍数は変化しなかったが, Hypoでは, 血圧は低下し心拍数は増加, Hyperでは, 血圧は上昇し心拍数は低下した. 腎交感神経活動はいずれにおいても増加した. IsoとHyperの終了直後, 心拍数は一過性に増加した. この心拍反応は, 腎交感神経活動の反応とは相関しなかった. このことより, この心拍の反跳現象は, 交感神経よりもむしろ副交感神経系のメカニズムによるものと考えられた. 低酸素時の循環反応は動物により異なると考えられているが, 類似した条件において行われた実験においては種差に関わらず, その結果は, ほぼ一致するものであった.
著者
田中 敏子 佐藤 寛晃 笠井 謙多郎
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.217-223, 2019-06-01 (Released:2019-07-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1

被解剖者は高度肥満で猪首の20代女性である.ダウン症による精神発達遅滞,難聴,先天性白内障および緑内障による弱視などの障害を有していた.他院において緑内障の眼圧検査に際し,チオペンタール(TP) 350 mgを5分間で点滴静注した深鎮静が施された.静注後10分で検査は終了したが,医師がその場を離れた隙に呼吸が急速に悪化した.直ちに人工呼吸が施されたものの約20時間後に死亡し,医療過誤の疑いで司法解剖に付された.剖検上,特記すべき損傷や疾病を認めず,血清中のTP濃度は0.80 µg/mlであった.TPは超短時間作用型の静脈注射麻酔剤で,患者とコンタクトを取りつつ,少量を頻回に投与して最少量のTP投与にとどめるのが一般的である.この事例は,障害のためにコンタクトの取りづらさが予想されたものの,安易なTPの単回投与によって呼吸停止が生じ,医師不在のために蘇生が遅れたことが死因と判断された.
著者
土肥 良秋 工藤 秀明 西野 朋子 藤本 淳
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.409-417, 2003-12-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1

新生血管形成(広義の血管新生)機序は血管発生(vasculogenesis)と血管新生(angiogenesis, 狭義の血管新生)に大別される. 前者は未分化間葉細胞が既存血管周囲に索状に集積し, 血管内皮前駆細胞に分化しながら血管に編入する血管形成機序を指し, 後者は既存血管内皮細胞が増殖・遊走して血管発芽(vascular sprouts or endothelial buds)を示す血管形成機序を指す. 血管発生は胎生期の初期の新生血管形成に限られ, その後は血管新生のみが行われていると考える研究者が多かった. しかし, 近年, 成体の末梢血中に血管内皮前駆細胞が存在することから, 成体でも血管発生が行われることが証明され, 目下, 新生血管形成機序の見直しが行われている.