著者
藤野 昭宏 Tar Ching Aw 大久保利晃 加地 浩
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.37-44, 1998-03-01 (Released:2017-04-11)

英国における産業医学教育の現状を日本と比較しながら紹介した後, 英国と日本における卒後産業医学教育システムについて比較検討を行った. 産業医学専門医制度(英国王立内科医協会産業医学部門専門医制度と日本産業衛生学会専門医制度)における, 全研修期間, 臨床研修期間, 産業医学研修期間, 専門医試験方法および合格率に関して比較したところ, 前者の方がより多くの産業医の専門的訓練が要求される研修システムであり, また産業医学的臨床実施能力の訓練を重視していることが示唆された. また, 英国の産業医デイプロマ制度とこれに相当する日本の医師会認定産業医制度との比較では, 前者の資格取得のためには, 講習会の受講・基礎的実習のみならず, 試験に合格することが義務付けられていた. 日本の認定産業医制度においても, 試験制度の導入は今後の検討すべき課題あると考えられる.
著者
浦本 秀隆
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.215-219, 2008-06-01 (Released:2017-04-11)

企業の安全管理において通勤方法は重要な管理要素の一つである. 当事業所は特有の立地条件のため, 従業員の大半が自動車通勤であり, 高速道路を利用している人もいる. 本研究では高速道路通勤による健康への影響を調査した. 高速道路通勤を利用する群(highway: HW)は高速道路通勤を利用しない群(non-highway: NHW)に比べ男性に多く, 年齢が若かった. NHW群は5年間の観察期間にて(body mass index: BMI), 収縮期血圧, 拡張期血圧, 総コレステロールは有意に悪化したが, HW群は収縮期血圧を除いて増悪を認めなかった. さらに中性脂肪は有意に改善した. また運動する習慣や栄養バランスへの配慮が低く, ストレス解消法も無いと答えた人が多かったにもかかわらず, ストレスを感じない人が多く, 高速道路運転によるストレス解消が推測された. 高速道路通勤はむしろ健康に好影響を与える可能性がある.
著者
郡山 一明 保利 一 山田 紀子 井上 尚英 河野 慶三
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.25-28, 1991-03-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1 1

メタノール - トルエン系と酢酸エチル-トルエン系の混合有機溶剤の気液平衡関係について, それぞれの溶剤の気相濃度の実測値と, 溶液を理想溶液と仮定した場合の理論値とを比較検討した. 酢酸エチル-トルエン系の混合溶剤では, 酢酸エチルの気相濃度は実測値と理論値が, 比較的良く一致していた. メタノール-トルエン系の混合溶液では, メタノールの気相濃度は, 特にメタノールの含有率が5%以下の領域において, 理論値よりも著しく高濃度になることが分かった. 混合有機溶剤曝露の健康影響評価については, 液相成分の組成のみならず, 気相濃度の測定が重要であると考えられた.
著者
松浦 祐介 川越 俊典 土岐 尚之 蜂須賀 徹 柏村 正道
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.181-193, 2009
被引用文献数
3 3

細胞診による子宮頸がん検診はその有効性を証明する十分な証拠があるにもかかわらず. 日本のがん検診受診率は他の先進諸国と比較して格段に低い. 順調に低下してきた死亡率もここ数年上昇傾向にある. 子宮頸癌の発生にはヒトパピローマウイルス(HPV)が関与していることが明らかであり, 性意識の変革や性行動の多様化により若年層で子宮頸癌の発症率が特に増加していることは大きな社会的問題である. 細胞診による子宮がん検診には約10%の偽陰性率がありなかでも頸部腺癌症例に偽陰性が多い. 細胞診のみによるがん検診には限界があるため, わが国でもがん検診の精度を上げる目的で液状検体(liquid-based cytology: LBC)を使用したり, 細胞診検査にHPV検査を導入する動きがある. 細胞診によるがん検診は様々な問題を抱えているが, 子宮頸癌による死亡率を減らすためには国・地方自治体・医療機関・企業・教育の現場などが現状を正確に理解し, それぞれが課題に対して積極的に取り組む姿勢が必要である.
著者
豊田 裕之 森 晃爾
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.153-159, 2017

<p>大規模災害が発生した際,災害対応を行う労働者は,日常業務とは異なる健康障害要因に曝される恐れがある.そのような課題に対して適切な準備や対応を行うためには,過去の大災害の知見を参考にすることが有効と考えられるが,公開されている情報は少ないことが現状であるので,大規模災害発生時の労働衛生活動の在り方を検討するために,関連情報が比較的多く報告されている世界貿易センター倒壊テロ事件(WTCテロ)と福島第一原子力発電所事故(第一原発事故)を対象に文献上の知見について,比較検討を行った.WTCテロについて7編の文献が抽出され,1. 労働衛生管理を含む緊急時体制に関連したもの,2. 健康影響や労働衛生面の改善・予防に関連したもの,3. 健康影響の緩和を目的としたケアに関連したものに分類された.一方,第一原発事故については,先行レビューで整理された文献を用いた.大規模災害発生時に対応する労働者の健康確保のためには,防災基本計画に関連した諸規程に労働衛生に関する規定を盛り込むとともに,長期にわたって支援を行うことを前提とした実務的な支援機能,災害対応に関わる可能性のある労働者に対するトレーニングの仕組み,健康影響の緩和を目的としたケア体制などを構築することが必要と考えられた.</p>
著者
中澤 章 唐 寧 井上 嘉則 上茶谷 若 加藤 敏文 齊藤 満 小原 健嗣 鳥羽 陽 早川 和一
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.69-74, 2017

<p>著者らが開発した繊維状吸着材(DAM不織布)は,両性イオン型高分子であるジアリルアミン‐マレイン酸共重合体(diallylamine-maleic acid copolymer: DAM)を含有し,繊維表面に水和層を形成する.本研究では,悪臭物質の一つである半揮発性有機酸(C1-C5)を対象に水溶液だけでなくガス状でもDAM不織布の吸着特性評価を行った.まず,水溶液中のギ酸はDAM不織布の水和層へ溶解した後,DAMのイミノ基との静電相互作用で吸着することがわかった.一方ガス状では,ギ酸,プロピオン酸,酪酸,吉草酸,イソ吉草酸について高い吸着能を有し,吸着量は曝露時間に依存して増加する傾向があった.ガス状有機酸に対する吸着も水溶液と同様の機序で生じていると考えられるが,さらに酢酸を除く有機酸の吸着速度定数と空気 / 水分配係数(log <i>K<sub>aw</sub></i>)が良好な相関性を有したことから,DAM不織布は大気中から不織布表面に形成される水和層へ移行性が高い親水性化合物に対するほど高い選択性をもつことが示された.</p>
著者
山本 直 岡田 洋右 新生 忠司 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.55-60, 2015-03-01 (Released:2015-03-14)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

症例は56歳女性.外傷を契機に全身倦怠感や悪心・嘔吐が出現し近医入院.高カルシウム血症を伴う意識障害や全身の皮疹が出現したため当科転院となった.臨床症候(意識障害,食欲不振,悪心・嘔吐,血圧低下,発熱)および検査所見(血中cortisol 1.2 μg/dl と低値,高カルシウム血症11.0 mg/dl,末梢血好酸球増多1,600 /μl )より副腎皮質機能低下症と診断.皮膚生検で好酸球浸潤を認め,最終的にprednisolone 30 mg/day内服により上記症状は改善した.同症で認められる一般検査所見として高カルシウム血症および末梢血好酸球増多が知られているが,本例のように著明な症状を呈することは稀であるので報告する.
著者
ホー ヨン キム サンフン イ スッキ キム ヒョンア
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.249-258, 2017-12-01 (Released:2017-12-16)
参考文献数
31
被引用文献数
8

多発再発性症状を伴う後天性の病態である,多種化学物質過敏症(MCS)はその多様な環境要因との関連性について研究が行われている.本研究は韓国の公共施設の勤労者と一般人の多種化学物質過敏症の自己申告有症率に関係する要因について調べた.公共施設の勤労者(530名)と一般人(500名)を対象にQuick Environmental Exposure Sensitivity Inventory(QEESI)質問票を用いてMCSの有症率とその危険度を調べた.被験者の人口統計的情報,シックビルディング症やシックハウス症ないしアレルギー(SBS/SHS/Allergy)についての被験者の理解,および家庭ないし職場での出来事についての情報も得た.QEESI質問票の評価点について公共施設の勤労者と一般人の間で,統計的有意差はなかった.MCSの全有症率は14.4%で,二群間で統計的有意差はなかった.全MCS危険度については,被験者の21.8%が “very suggestive”と分類されたが,これも二群間で統計的有意差はなかった.性別と被験者のSBS/SHS/ Allergyの認識がMCSの有症率と危険度の選別基準に影響する.韓国ではMCSの鑑別基準や処置法がないことを考慮すると,本研究結果はMCSの今後の対処法を確立するために活用できる.
著者
山岸 稔 朝倉 昭雄 野崎 秀世 渡辺 登 小口 弘毅 阿部 由起子
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.385-401, 1981

小児の赤血球膜の電解質・プリン代謝酵素に対する調節機構を評価する目的で, 対照的な2病態として血清電解質異常と赤血球プリン代謝酵素活性異常を比較検討した. このうち血清電解質異常例には, 高K血症を伴った遠位型の腎尿細管性アシドーシス(RTA)の4歳男児例を選んだが, RTAの遠位K排泄障害型の報告例は本邦では最初(世界3番目)である. また赤血球プリン代謝酵素活性異常例には, 赤血球adenosine deaminase(ADA)高値を示した遺伝性球状赤血球症(HS)の一家族(両親・子供3人)を選び, 子供のうち弟妹が溶血性クリーゼを起こした際に全員測定を行った. その結果まずRTA症例は, 血清K値上昇(高K血症)に伴い赤血球K値の上昇も示した. しかし総合的な膜機能によるK取込みとNa汲出しが強力に認められたのは (赤血球K>血清K, 赤血球Na<血清Na), HSのクリーゼ弟妹例であり, ほかにRTA例でも増強が一時的(KCl負荷テスト中)にみられた. 次いで膜機能に関与するプリン代謝酵素の1つと見なされたnucleoside phosphorylaseは, HSの子供3人とも高い活性値を示したほか, ATPによって阻害されることが推測された. 同時に膜機能と直接的関与がみられなかったADAは, ATPによって刺激されることが今回・以前の成績を合わせて推測された.
著者
松浦 祐介 岡 ハル子 山縣 数弘 菊池 譲治 井上 功 大久保 信之 土岐 尚之 川越 俊典 蜂須賀 徹 柏村 正道
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.205-215, 2014-09-01 (Released:2014-09-12)
参考文献数
32

子宮頸癌は日本においてもっとも頻度の高い婦人科悪性腫瘍である.細胞診による子宮頸がん検診はその有効性を証明する十分な証拠があるにもかかわらず,日本の子宮頸がん検診受診率は約20%であり,他の先進諸国と比較して格段に低い.2001年度の北九州市の子宮頸がん検診受診者数は15,501人(受診率は6.8%)と全国平均の半分以下であった.厚生労働省は女性特有のがん検診事業の一環として2009年度から20,25,30,35,40歳の女性に対して「がん検診無料クーポン」を配布した.すると2012年度には北九州市の検診受診者数は31,970人(受診率は22.3%)と倍増し,ほぼ全国レベルまで到達してきた.子宮頸癌の発生にはハイリスク型のヒトパピローマウイルス(HPV)が関与していることが明らかであり,HPVはおもに性行為によって感染する.近年,若年者を中心に子宮頸部初期病変・子宮頸癌が増加しており,2008年には異常細胞診症例(要精検者)を2.3%に認めた.子宮頸がん検診受診率向上のためには,費用対効果を考慮した効果的な検診システムの確立も重要である.子宮頸癌による死亡率を減らすためには国・地方自治体・医療機関・企業・教育の現場などが現状を正確に把握し,積極的に子宮頸がん検診受診率向上の課題に対して取り組むことが必要である.
著者
樫山 国宣 園田 信成 尾辻 豊
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH = 産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.11-24, 2017
被引用文献数
2

心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患は,主に粥状動脈硬化を基盤に発生し,その主な危険因子は,高血圧,脂質異常,糖尿病,肥満,喫煙である.これまで,我が国の虚血性心疾患の発症率は,生活習慣や冠動脈の解剖学的な違いから,欧米(男性7.2,女性4.2人/1,000人・年)に比べ日本は(男性1.6,女性0.7人/1,000人・年)と低かったが,近年,生活習慣の欧米化によって状況は変化し,現在では心血管病による死亡は我が国の死因の2位,虚血性心疾患による死亡は全心血管病による死亡の4割を占めるようになった.特に心筋梗塞の既往のある患者では,心筋梗塞再発のリスクが2.5%と高く,心筋梗塞の2次予防のために冠危険因子の厳格な管理が必要であり,冠危険因子の管理実行について多くの治療指針やガイドラインが整備されているが,いまだ問題も多い.脂質管理について,low density lipoprotein(LDL)低下療法による虚血性心疾患の予防効果が証明され,動脈硬化疾患予防ガイドラインが策定されたが,2次予防を行っている患者の中でLDL目標値100 mg/d<i>l</i> を達成しているのは3分の1にとどまるという報告もある.また,虚血性心疾患の高リスク患者にさらに低いレベルの目標値が必要か否かは明らかではない.糖尿病も,厳格な血糖コントロール群で死亡率が5.0%と上昇(標準治療では4.0%)を認め,血糖コントロールの開始時期(早期の治療開始)や,評価指標(HbA1cや食後血糖),治療薬剤選択(ビグアナイド系薬剤やDPP-4阻害薬)についてもまだ議論の余地がある.現行の治療ガイドラインに従い,血圧では家庭血圧135/85 mmHg未満,脂質ではLDL-C 100 mg/d<i>l</i> 未満,high density lipoprotein(HDL) 40 mg/d<i>l</i> 以上,TG 150 mg/d<i>l</i> 未満,糖尿病では,HbA1c(NGSP)7.0%未満を目標に厳格な管理を行うことが,虚血性心疾患の2次予防として有効である.
著者
中野 信子
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.93-108, 1984-03-01 (Released:2017-04-11)

ロバート・グレイブスは, 英国やアメリカでは著名な神話学者であり詩人である. しかし, わが国に於ては, その厖大な, しかも多岐にわたる作品の量にもかかわらず, なぜかあまり知られていない. さらに, アメリカや英国に於てさえ, ある人々は, 彼を白い女神にとり憑かれた多芸なる偶像崇拝者として, 敬遠しているきらいさえある. 実際, キリストの生涯を描いたフィクション「キング・ジーザス」が世に出た時, その白い女神信仰を基盤としてひき出された, 彼の並はずれた神話的キリスト学は, 当時の人々に強い衝撃を与えたであろうことは, 想像するに難くない. キリストの中に, 彼はユダヤ教のアポロ的教義とは対称的な, 女性原理の断片を発見したが, しかし, 彼の目には, それは甚だ不完全で, 人生の根本的な要素, つまり, 愛と憎しみの理念を欠いているように見えたのである. これは, グレイブスが, 彼の博学を駆使して, いかに自分のキリスト理解をおしすすめているか, その背景と発展の過程を追求した一考察である.
著者
大橋 浩
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.429-437, 2002

本稿は日本医学英語教育学会第5回学術集会(平成14年8月3-4日 於川崎医療福祉大学)の報告, 本学医学部における英語教育の現状と課題の報告, さらにその課題を克服するための改善策の提案から成る. 同集会での発表からは, 特に本学の英語教育に生かすべきものとして,「医学英語」をどう捉えるかという問題, 医学系教員参加型授業の実例, その他英語の特定技能を養育する上での様々な試みを取り上げて報告した. 続いて本学医学部における英語教育の現状と課題を述べ, より効果的な英語教育に向けて, 今後医学専門科目担当者との連携が必要であることを述べた. 最後に文部科学省が策定した「『英語が使える日本人』育成のための戦略構想」に触れ, 本学の英語教育プログラムもこの構想に則った対応をする必要があることを述べた.
著者
エルヴイン・ニーデラ
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.481-492, 1983

哲学, 心理学, 社会学, 特に言語学の分野では, 多領域に亘る様々な理論を背景に言葉と思考との関連性が論じられているが, 現在なお意見の一致をみるに至っていない.これは, 言葉と思考の本義が問われる時, 常に生じる問題であり, 例えば,言葉を意志疎通の手段と定義するならば, 動物ですら言葉を有すると言えるであろう. この場合, 我々の言葉の特に人間的な面を動物の伝達方法と判別するのは困難となる. また, 心理学者, O.Setzの説のように, "考えること" を "Know How" と定義するならば, 猿も "考える" ことになる. 猿は手の届かぬ所にあるバナナを棒を利用して獲得するからである. 人間個有の思考能力を勘案する時, 人間の思考を単に動物的能力の上昇したものにすぎぬと解するのは, 適切とはみなされえないだろう. この小論では,特に, 人間の言語獲得能力とその再生的, 生産的思考性の考察を基に, 言葉と思考の関連性が論述される.
著者
池見 酉次郎
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.425-429, 1987-12-01 (Released:2017-04-11)

東洋医学では, 昔から, 病気の原因は, そのエコロジカルな側面を含めて, 人の心身をコントロールする自然良能としての生命力「気」の障害であるとされている. 一方, 「気」という言葉は, 内外で俗語的な日常語としてよく用いられている. また, テレパシー, サイコキネシス, 気功師が発する「気」による病気の治療といった超心理的な現象も, 「気」によって起こるとされている. 昨年11月にワシントンで催された第15回科学の統一に関する国際会議の「気の分科会」で, 私は『従来の俗語的な「気」の表現, 科学的な裏づけに乏しい不可思議な現象については, 今後の課題として残しておくこと, 各人に宿る生命力としての「気」を賦活し, それと自然の生命力との交流を促すことによって, 万人の健康な自己実現を助けるような理論と方法の研究に, 焦点を絞るべきこと』を提案し, 大方の賛同を得た.
著者
園本 格士朗 山岡 邦宏 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.141-146, 2014-06-01 (Released:2014-06-14)
参考文献数
33
被引用文献数
2 6

関節リウマチ(RA)は関節炎と関節の構造的障害を特徴とする疾患で,進行すると身体機能障害を引き起こし,就労率の低下や介護といった社会資源の損失をもたらす.元来RAは進行性の疾患と考えられていたが,近年の治療の進歩により関節破壊の完全な進展抑制が現実的となった.しかし,罹病期間が長く新治療の恩恵を受けられなかった,または新治療によっても疾患活動性が制御できないなどの理由で進行した関節破壊を呈する患者は稀でなく,破壊関節を再生しうる治療法の開発が待たれている.我々は,骨・軟骨に分化可能で抗炎症作用を持つ間葉系幹細胞(MSC)による治療をRAの新規治療法として位置づけ,これまでにMSCが破骨細胞分化抑制作用を持つこと,炎症がMSCの骨芽細胞分化を促進し,軟骨細胞分化を抑制することを報告した.さらに現在,足場によるMSC移植システムを構築中であり,RA患者への臨床応用は着実に近づきつつあると考えられる.
著者
広重 欣也 國藤 恭正 高杉 昌幸 黒岩 昭夫
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.211-218, 1992-09-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1 1

HPLC-UV法でプリン, ピリミジン代謝産物, アロプリノールとオキシプリノールの血中, 尿中濃度測定法について検討した. 溶媒には1%メタノール含有リン酸緩衝液(10mmol/ℓ, pH5.0), μBondapakC18カラムを用い, 13物質の同時分離が可能と考えられた. 再現性は連続測定にて1.56μmol/ℓ, allopurinol; 変動係数(CV)2.76%から50.0μmol/ℓ, pseudouridine; 変動係数(CV)0.38%と良好であった. 除蛋白法として限外濾過法を用いた血漿濃度測定では, 回収率はuric acid: 101.7-107.5%, hypoxanthine: 90.4-102.8%, xanthine: 95.9-99.5%, oxipurinol: 104.4-107.1%, allopurinol: 97.4-103.4%と良好であった. 各物質の同定は, retention time, 吸光度比, 純物質添加法と酵素反応法にて行った. また同条件下で, pseudouridine, uridine, adenine, inosineも血漿において測定が可能と考えられた.
著者
本田 智子
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.191-199, 2018
被引用文献数
2

産褥期は育児のために母親の睡眠が分断され,睡眠時間の減少や疲労の訴えがしばしばみられる[1].特に,産褥早期の育児において授乳の占める割合は大きく,睡眠への影響因子の一つであると考え,本研究では褥婦の授乳方法・授乳姿勢と睡眠感の関連について明らかにすることを目的とした.入院中(経腟分娩では初産婦6日目,経産婦5日目,帝王切開分娩では8日目)と産後1ヶ月の2回,授乳や睡眠に関する質問紙と,睡眠感の評価にOSA睡眠調査票MA版を用いて調査を実施した.その結果,分娩歴や分娩方法の違いによる睡眠感に有意差は見られなかったが,入院中の授乳方法において,夜間は直接授乳群(n = 46)で疲労回復や睡眠時間の項目の得点が有意に高く(<i>P</i> < 0.05),授乳姿勢においては添え乳群(n = 14)で疲労回復に関連する項目の得点が高かった(<i>P</i> < 0.05).さらに産後1ヶ月の授乳方法でも,昼(<i>P</i> < 0.01)・夜(<i>P</i> < 0.05)ともに直接授乳を行う褥婦の睡眠感が良好であることが分かったことから,産褥期の睡眠感を高めるには,直接授乳と添え乳が効果的であった.また,産後1ヶ月で睡眠感の改善がみられた.産後1ヶ月で睡眠感の改善がみられたのは,母親が育児に慣れたことや,授乳パターンが把握できるようになったことなどにより,スムーズに授乳できるようになったことが影響していると考えられる.