著者
石川 康代 杉浦 絹子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.237-248, 2011-07

本研究は,男性のもつ月経観と月経の知識を測定する尺度を開発し,これを用いて男性のもつ月経観と月経に関する知識の現状を明らかにすること,ならびに男性に向けた月経に関する教育や情報提供のあり方について示唆を得ることを目的とした。月経観尺度,月経の知識尺度,月経に関する情報の入手方法,月経に関する情報提供に関する意見・考えで構成した無記名自記式質問紙による調査を行い,男子大学生および既婚男性計170名の回答を分析した結果,以下のことが明らかとなった。月経観尺度および月経の知識尺度は,内的整合性,弁別性いずれもおおむね良好な尺度であった。月経観尺度は第I因子「面倒」,第II因子「我慢」,第III因子「羞恥心」,第IV因子「誇り」で構成され,累積寄与率は51.96%であった。1項目あたりの平均得点は,「我慢」5.64±1.01,「面倒」4.52±1.40,「誇り」4.16±1.13,「羞恥心」3.18±1.08の順に高かった。月経の知識尺度は第I因子「気分の変化」,第II因子「留意」,第III因子「活動」で構成され,累積寄与率は54.03%であった。1項目あたりの平均得点は,「留意」5.75±1.07,「活動」5.21±1.06,「気分の変化」3.97±1.13の順に高かった。男子大学生群と既婚男性群間には,月経観尺度および月経の知識尺度の尺度総得点および下位尺度得点すべてにおいて有意差はみられなかった。また,対象の背景変数と両尺度の総得点および下位尺度得点にも関連はみられなかった。尺度のいずれかの項目に「わからない」と回答した者は計68.8%に及んだ。月経に関する情報源は,対象の大半が小中学校時,保健体育の教師からと回答しており,また月経について妻と話すことがある既婚男性では25.0%と少なかった。男性が月経について知っていたらよいと思うことについての回答は,多いものから「月経時に起こりやすい症状や心身の変化」(64.1%),「月経時のタブー」(62.4%),「月経時の過ごし方」(58.8%)の順であり,これらは「わからない」の回答が多かった項目と相応していた。以上より,男性が身近な女性の月経時の不調などを理解し配慮ができるよう,学校教育の場やマスメディアなどを通じて,より具体的かつ正確な月経に関する情報を提供していく必要性が示唆された。
著者
倉田 真由美 宮田 久枝 樋口 善之 松浦 賢長
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.468-475, 2009-01-01
参考文献数
14

【目的】本研究は現代の高校生と大学生の男女を対象にダイエットの実施状況について調査し,「ダイエットの経験の有無とその結果」と「自己肯定感」との関係を明らかにすることを目的に調査研究を行った。【方法】高校生235人,大学生305人の男女合計540名(有効回答数511名)を対象に,ダイエットの状況とあわせて,4つの下位領域からなる自己肯定感尺度を用いて質問紙調査を実施した。【結果】(1)学校別,性別のいずれも「ダイエットの有無とその結果」と「自己肯定感得点」との交互作用が有意であり,(2)高校生・大学生の「ダイエットに成功した」と答えた群の自己肯定感得点と他の2群(ダイエットをして失敗した・ダイエットをしたことがない)との間に有意な差は認められず,ダイエットの成功が自己肯定感得点を高める要因となるということは示されなかった。また,ダイエットの失敗が自己肯定感得点を引き下げるという逆効果も認められなかった。(3)男性の「ダイエットに成功した」と答えた群の「自己肯定感得点」が,他の2群(ダイエットをして失敗した・ダイエットをしたことがない)よりも有意に大きく,男性にのみ,ダイエットに成功した者の自己肯定感得点が高い傾向にあることが示された。以上の結果から,男性の体重変動に基づいた,健康目的のダイエットの成功経験のみ,自己肯定感得点を高める効果をもたらすことが示されたが,高校生・大学生のダイエットの結果(成功・失敗)のいずれも,自己肯定感を変動させる要因にはならないことが示唆された。
著者
中塚 幹也 秦 久美子 江國 一二美 高馬 章江 江見 弥生
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.404-411, 2005-07

性同一性障害の外来診療システムに関して当事者に自記式質問紙調査を行った。調査期間は2003年9月〜2004年2月, 対象は同意の得られた108名で, Female to Male Transsexuals(FTM)症例が68名, Male to Female Transsexuals(MTF)症例が40名であった。診察券上の氏名や性別の記載の変更は可能としているが, 性別を変更していた症例では, 診察券に満足している症例が多かった(FTM症例82.4%, MTF症例62.3%)。診察室への呼び込みは, 戸籍上未改名の症例では, 通称名や姓のみで呼ばれることを希望する症例が多かった。待合に満足していた症例は, 受付, 会計, 薬局, 各診察室とも70%以上であったが, FTM症例では産婦人科の待合が「恥ずかしい, 居づらい」という意見が多く, 満足している症例は34.6%と低率であった。トイレに関して満足している症例は, FTM症例, MTF症例とも30%台であり, 「男女共用にして欲しい」との意見がみられた。また, FTM症例では, 「男性用トイレの個室を増やして欲しい」「男性用トイレの個室に汚物入れを置いて欲しい」などの意見があった。これらの結果を検討し解決することで, 外来診療システムの改善につなげる必要がある。
著者
高瀬 恵子 吉留 厚子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.134-137, 2006-04

わが国では,看護学・助産学の成書および一般の育児書のなかで,哺乳瓶消毒に関して煮沸消毒,次亜塩素酸ソーダによる消毒が多く紹介されている。一方,アメリカでの哺乳瓶の取り扱いは,われわれの使用する食器と同様でよいとしている。今回,家庭における哺乳瓶消毒方法の実態を明らかにし,哺乳瓶消毒と児の消化管疾患との関連性を検討することを目的として調査を行った。対象者は産後1ヵ月健診を受けた母親72名で,調査項目は児の健康状態,栄養方法,哺乳瓶消毒方法など12項目であった。結果,栄養方法は72名中,母乳栄養22名(30.6%),混合栄養が48名(66.7%),人工栄養が2名(2.8%)で,消毒方法は複数回答で50名中,電子レンジは23名(46.9%),煮沸消毒は14名(28.6%),ミルトンが14名(28.6%)であった。湯を満たすは4名(8.2%),特に何もしないは1名(2%)であった。単独の方法は44名,併用は6名であった。以上より98%の母親が成書に記載され,病院で指導されている方法を遵守していることが明らかになった。消毒方法が原因と考えられる児の疾患は認められなかった。
著者
頼経 かをる 永山 くに子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.120-128, 2011-04

<目的>生後3ヵ月間における乳児の泣きをめぐる母親の体験を記述すること。<方法>初産婦1名の語りからナラティブ・アプローチを活用し質的記述的に分析を行った。データ収集は生後2週間,1ヵ月半,3ヵ月前後に半構成面接と参加観察を行った。<結果・考察>【泣きへの戸惑い】【乳児の欲求・感情の汲み取り】【泣きへの対処】【泣きの特徴をつかむ】【泣きやまないことへの自分なりの解釈】【泣きに対する余裕の自覚】【乳児の成長・発達への気づき】【自分の欲求や否定的感情との葛藤】の8つのカテゴリーを抽出した。そして,3ヵ月間の乳児の泣きをめぐる母親の体験を1つの物語として記すことを試みた。そのなかでは,母親は乳児の泣きに対し混乱や葛藤を抱えつつも,乳児の要求に応えようとさまざまな対応を試みながら母子相互に成長していく過程がみられた。
著者
井田 歩美 猪下 光
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.471-478, 2014-07

本研究の目的は,ソーシャルメディア上の発言内容を分析することで乳児をもつ母親の予防接種に対する不安・疑問の詳細を明らかにすることである。研究対象は,株式会社ベネッセコーポレーションが管理する口コミサイトに2011年4月から2012年3月までに書き込まれた乳児をもつ母親の発言42,325件とした。発言内容を「予防接種」に着目して係り受け頻度解析を行った結果,係り先単語には「受ける」「行く」「予約」「予定」という単語が高頻度に出現し,「受ける+ない」「受ける+?」「考える」「悩む」「相談」など困惑している状況を表す単語の出現が目立った。一方,係り元単語には「肺炎球菌」「ヒブ」「インフルエンザ」という具体的なワクチンの種類に関する単語が高頻度に出現した。現在,ワクチンデビューは生後2カ月からとの啓発がなされているが,乳児の母親は我が子に予防接種を受けさせるべきか,受ける場合には何をいつからどの順序で受けるのかなど多くの自己決定を迫られている。その際,母親は同じ月齢の子どもをもつ母親のアドバイスを求め,ソーシャルメディアを利用していることが明らかになった。
著者
笹田 麻由香 岩田 銀子 河口 明人
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.92-98, 2010-04
参考文献数
20
被引用文献数
1

背景:低出生体重児は将来的に生活習慣病を発症する頻度が高いことが指摘されている。一方,わが国では母親の低栄養状態との関連が示唆される低出生体重児の増加傾向が続いている。このため胎児発育にかかわる妊婦の体重管理の定量的な評価は重要な課題である。方法と結果:単胎妊婦33名を対象として,母親の体重変化を,母親実質体重増加量(子宮・皮下脂肪・循環血液増加量など).胎児体重,胎盤重量,羊水量に細分化し,胎児の発育に影響を及ぼす因子を検討した。母親の非妊時体重と非妊時BMIは,週あたりの児の体重増加量(非妊時体重:r=0.42,p<0.05,非妊時BMI:r=0.41,p<0.05),および週あたりの胸囲増加量と有意な正相関を示した。児の体重増加量は,週あたりの母親体重増加量と有意な関連を示さなかったが,週あたりの母親実質体重増加量と有意な正相関を示した(r=0.50,p<0.01)。結論:胎児発育は,妊娠前の母親の栄養状態,および妊娠中の母親白身の栄養状態を意味する実質体重増加に依存し,妊娠可能年齢女性の妊娠前からの栄養・体重管理と,妊娠中の母親の十分な栄養摂取に基づく代謝環境の形成は,良好な胎児の発育のために極めて重要である。
著者
中塚 幹也 安達 美和 佐々木 愛子 野口 聡一 平松 祐司
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.543-549, 2006-01
被引用文献数
6

日本の公的医療機関では, 精神神経学会の性同一性障害(GID)治療ガイドラインに従い, ホルモン療法は18歳以上に施行しているが, 年齢制限には検討の余地がある。このため, GID症例自身が, 説明, ホルモン・手術療法を何歳ごろ受けたかったかを調査した。対象はGID症例181名で, FTM症例117名, MTF症例64名であった。FTM症例の初経は12.8±1.6歳, 乳房増大の自覚は12.2±1.7歳であり, MTF症例の変声は13.6±1.7歳, ひげは15.3±2.5歳にみられた。中学生以前に性別違和感の生じた症例に限って検討すると, GIDについて知った年齢は, FTM症例で22.0±6.6歳, MTF症例では27.0±9.8歳であった。FTM症例では, GIDの説明は12.2±4.2歳, ホルモン療法の開始は15.6±4.0歳, SRSは18.2±6.0歳にしてほしかったとしていたが, MTF症例では, いずれも二次性徴の起こる前の各10.7±6.1歳, 12.5±4.0歳, 14.0±7.6歳と早期の治療を希望していた。現在のGID治療ガイドラインの年齢制限の緩和が必要であるが, 学校教育の中でのGIDの概念の解説, 思春期における適切なGID診断システムの確立などが重要となろう。
著者
清水 嘉子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.530-540, 2002-12-01
参考文献数
23
被引用文献数
4

国籍別上位にある3カ国の在日韓国,中国,ブラジル人の育児問題を明らかにすることを目的として調査した.外国人の多在住4市の保育園に調査用紙を配布し韓国・中国・ブラジル人の母親210人より回収された結果を国別に分析し,日本の母親625人との比較を行った.その結果,在日外国人の育児に関する受け止めの違いが明らかとなった.育児ストレスはブラジルの母親が最も低く,次いで中国,韓国,日本となっていた.育児幸福感は逆の順位となり日本の母親が最も低かった.夫に対する信頼や大切な気持ちは日本の母親が最も低く,育児を取り巻く人に対するストレスが日本の母親に高いことが裏づけられた