著者
小西 克尚 玉田 浩也 北村 哲也 本康 宗信 沖中 務 伊藤 正明 井坂 直樹 中野 赳
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.197-201, 2004

症例は49歳男性.42歳時に僧帽弁狭窄症を指摘され,45歳時に人工弁置換術および左心耳縫縮術を施行された.以後外来にてアスピリン,ワーファリンを投与されていた(INR 1.32,TT38%であった).冠危険因子なし.平成13年1月1日午前1時,冷汗を伴う前胸部痛が出現し,2時間持続した後軽快.以降症状なく経過した.1月9日外来受診時に心電図上V3-5のST上昇,R波の減高を認め,心筋梗塞の診断にて同日入院となった.1月10日冠動脈造影を施行したところ左前下行枝#8に血栓を疑わせる透亮像を認めた.平成9年の冠動脈造影では同部位に動脈硬化性病変を認めず,冠動脈塞栓による心筋梗塞と判断.TIMI3の血流が保たれており,保存的に経過観察,抗凝固療法継続の方針となった.無症状にて外来経過観察を行い,6カ月後の確認造影で前回と同様の透亮像を認めた.血栓であれば透亮像は消失していると考えられ,IVUSにて観察した結果,冠動脈解離であることが判明した.末梢病変であり,運動負荷心筋シンチで虚血性変化を認めなかったことから,保存的治療を選択し,外来経過観察となった.このように,冠動脈造影のみでは限局性の冠動脈解離と血栓は鑑別が困難であり,その鑑別にIVUSが有用であると考えられた.
著者
秋坂 真史 安達 正則 鈴木 信 向井 敏二 永盛 肇
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.24, no.11, pp.1242-1246, 1992-11-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
14

若年者における突然死の死因および危険因子を明らかにする目的で,沖縄県で死亡した15歳以上30歳未満の内因性急死8例(男7名,女1名)の死亡状況,病歴,死因,危険因子および剖検所見等について検討した.病歴や既往歴等には特記すべきことがなかった.死亡状況は睡眠中が4例,運動中が3例,入浴中が1例であり,すべて数分以内の急死と考えられた.組織学的検査の結果,1例が肥大型心筋症,2例が虚血性心不全と診断され,さらに他の3例も致死的な病理所見は欠くものの死亡状況等から心臓性突然死の可能性が強く示唆された.一方これら8例中4例に心肥大が認められ,その中には運動負荷に伴う冠循環障害の関与が示唆される症例も認められた.今後は予防医学的見地と病理検索の両面からの対策がきわめて重要な課題であると考えられた.
著者
住友 直方
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.702-705, 2020-07-15 (Released:2021-07-16)
参考文献数
20
著者
山科 章
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.1397-1401, 2011 (Released:2013-02-05)
参考文献数
20
著者
中村 正彦 鈴木 豊 小林 真 友田 春夫 高橋 隆
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.104-111, 1988-01-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
13

いくつかの成分曲線が線形に重畳した曲線群から,成分曲線の形を仮定せずにもとの成分曲線を復元する新しい方法,すなわち最大エントロピー原理を基礎とした方法を心RIアンジオグラフィから得られる時間放射能曲線に適用した結果について報告している.まず最初に最大エントロピー原理について概説し,ついで核医学動態画像解析の理論的基礎として本論文で取り扱う問題の定式化を行っている.3番目に,未知混合曲線からもとの成分曲線を復元する方法すなわち最大エントロピー原理を基礎とした新しい方法について概説している.最後に,心RIアンジオグラフィへの適用結果について示している.関心領域としては,心臓全体をカバーするようにしたもの,右心室領域をカバーするようにしたもの,左心室領域をカバーするようにしたものの3種を設定し,これら3種の関心領域から得られる時間放射能曲線群に方法を適用して,成分数を変えた場合の復元結果の違い等について検討している.これらの検討結果より,ここに示した方法は注意深く関心領域を設定することなしに対象臓器の時間放射能曲線を復元することが可能であり,従来核医学動態機能検査の基本的問題点の1つであった対象臓器の時間放射能曲線に重畳する他臓器由来の時間放射能曲線の除去に対する1つの解決法になることが示唆されている.
著者
松村 憲太郎 澳本 定一 井下 謙司
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.1256-1265, 2016-11-15 (Released:2017-11-15)
参考文献数
32

目的:高尿酸血症における血管内皮機能障害と高ホモシステイン血症との関連性について検討した. 対象と方法:血清尿酸と血漿総ホモシステイン(tHcy)を同時測定した1396例(尿酸降下薬非服用1209例,服用187例)中,非服用例(男性493例,女性716例,平均72±14歳)を対象にした.血清尿酸値7.0 mg/dL<を高尿酸血症とした.血清尿酸値8.0 mg/dL以上で尿酸降下薬を投与した174例で治療前後6カ月の諸指標の変化を検討した.検査項目は血液生化学検査,血清脂質,血漿tHcy(nmol/mL),上腕動脈FMD(flow-mediated dilation:%). 結果:高尿酸血症は9.2%(男性14.0%,女性5.9%,p=0.000)にみられた.尿酸降下薬服用例を含めた高尿酸血症発生頻度は21.4%(男性31.6%,女性13.1%,p=0.000)であった.血清尿酸を従属変数とする重回帰分析でBMI,eGFR,中性脂肪,血漿tHcyが有意独立変数であった.血漿tHcyは高尿酸血症群16.4±8.8,非高尿酸血症群12.6±7.9(p=0.000),高感度CRPは高尿酸血症群で有意に高かった.FMDは高尿酸血症群4.2±2.9%,非高尿酸血症群5.7±2.9%(p=0.000).治療前後で血漿tHcyは13.5±7.1→11.7±6.3(p=0.005),高感度CRPは0.296±0.345→0.172±0.177 mg/dL(p=0.000),FMDは4.3±2.4→6.0±2.5(p=0.000)へ変化した. 結論:高尿酸血症では血漿tHcyとCRPが増加しており,慢性炎症による血管内皮機能障害がみられた.尿酸降下薬で血漿tHcyが低下し,血管内皮機能が改善した.
著者
荒木 勉 藤野 陽 田口 富雄 瀧本 弘明 東福 要平 清水 賢巳
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.135-141, 1996-02-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
8

好酸球増多を伴う急性心膜心筋炎を発症し,ステロイド投与が有効であった若年女性例を経験したので報告する.症例は20歳女性,主訴は胸部圧迫感.入院時軽度の好酸球増多(567/mm3)と心電図で右軸偏位・低電位差・陰性T波を,胸部X線で心拡大と両側の胸水貯留を,心エコー図で心のう水貯留と心筋のび漫性の肥厚と壁運動の低下を,右心カテーテル検査で肺毛細管楔入圧(25mmHg)・右室拡張末期圧(24mmHg)・右房圧(22mmHg)の著明な上昇と心係数(1.9l/分/m2)の著明な低下,およびdip and plateau様の右室心内圧波形を認め,急性心膜心筋炎と診断した.ドブタミンとフロセミドの投与により血行動態は改善したが,心エコー図所見は不変で,好酸球増多がさらに進行(1,215/mm3)したことより,心膜心筋炎の原因に何らかのアレルギー機序が関係しているものと推定し,ステロイド投与を開始した.投与開始後,末梢血の好酸球は速やかに消失し,約3週間の経過で心電図・胸部X線・心エコー図所見ともにほぼ正常化した.好酸球増多および心筋心膜炎の原因を特定することはできなかったが,臨床上心のう水貯留(心膜炎)を主体として心タンポナーデに近い血行動態を示し,治療上ステロイド投与が有効であった点で,好酸球増多と心疾患の関連を考察する上での貴重な症例と考え報告した.
著者
山村 至 越野 健 山村 真由美 宮保 進 布田 伸一 多賀 邦章 元田 憲
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.14, no.12, pp.1513-1519, 1982-12-25 (Released:2013-05-24)
参考文献数
19

近年ウイルス学的診断技術の進歩により,多数のウイルスが心筋炎を起こしうると考えられている.そのうちでもコクサッキーB群がウイルス性心筋炎をきたす最も頻度の高い原因と考えられている.われわれは頻度としては少ないが,臨床症状,胸部X線写真,心電図,ペアウイルス抗体価の4倍の上昇より,パラインフルエンザウイルス心筋炎が最も疑われた1症例を経験したので臨床所見と経過を記載した.この際心筋生検,201Tl心筋スキャンを施行し,臨床的には経過は良好であったが心筋生検の組織所見でかなりの心筋の変性を認め,急性期を過ぎた時点での201Tl心筋スキャンで,なお異常所見を得た.その後201Tl心筋スキャンは正常化している.心筋炎からうっ血型心筋症への移行も唱えられている点を考えると,心筋炎の予後,follow upの点でこれらの2つの検査が有用であると思われたので文献的考察を併せて行い報告する.
著者
鈴木 篤 山分 規義 大坂 友希 島田 博史 浅野 充寿 村井 典史 鈴木 秀俊 清水 雅人 藤井 洋之 西崎 光弘 鈴木 誠 櫻田 春水 平岡 昌和
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.SUPPL.4, pp.S4_176-S4_183, 2010 (Released:2012-08-21)
参考文献数
12

症例は34歳, 男性. 生来健康であり, 突然死の家族歴なし. 4~5年前より心電図異常を指摘され, 2008年2月, 健診にて心室性期外収縮(PVC)およびST-T異常を指摘された. 同年3月下旬職員旅行の2日目, 朝食中にCPA(心室細動: VF)が発症し, AEDにより除細動され, 後遺症は認められなかった. 近医入院中の心電図にてcoved型ST上昇(type 1)を指摘され, Brugada症候群と診断されICD植え込み術を施行された. 2008年5月, 当科紹介受診. OGTT負荷により, IRI, および血糖値の上昇に伴い, coved型ST上昇が顕性化した. 12誘導Holter心電図記録では, 各食後においてV2誘導にてcoved型ST上昇が認められ, その程度は, 朝食後に特に強く認められた. 一方, PVCは1日中記録され, QRS波形は左脚ブロック型を呈していた. そこで後日, 朝, および昼禁食で同様に12誘導Holter心電図記録を行ったところ, 日中のPVCは著明に減少し, 朝食後, および昼食後に一致する時間帯の記録ではcoved型ST上昇は消失していた. PVCがVFのトリガーとなっている可能性を考え, カテーテルアブレーション治療を施行しPVCは軽減した.本例においてはST上昇, および心室性不整脈発生の増悪に食事が強く関与していた. 以上, Brugada症候群における致死的不整脈の自然発生機序を考慮するうえで, 夜間就寝中の発症ばかりでなく, 食事の影響も注目すべきと考えられた.
著者
高橋 利之
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.688, 2010 (Released:2012-02-17)
参考文献数
3
著者
戸嶋 裕徳 小柳 仁 藤田 毅 橋本 隆一 矢崎 義雄 河合 忠一 安田 寿一 高尾 篤良 杉本 恒明 河村 慧四郎 関口 守衛 川島 康生
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.27, no.12, pp.1033-1043, 1995

1994年9月までに提出された日本循環器学会心臓移植適応検討会の適応判定申請例は50症例に達した.うち2例は取り下げとなったが,判定を行った48症例につき調査し以下の結果を得た.<BR>1)5例は公式の検討会開催を待たずに死亡した.<BR>2)資料の不備や現時点での適応なしなどの理由により6例は保留と判定された.また1例は肺血管抵抗増大のため適応なしと判定された.<BR>3)適応ありと判定された36例中14例が2年以内に心不全または突然死により死亡した.7例は米国において移植手術を受けた.<BR>4)内科的治療によって3例は改善して当面は移植の必要性がなくなった.1994年末現在の待機中患者は13例である.<BR>5)心臓移植適応ありと判定後最長余命1年を予測しうる指標を求めるために,判定後1年以内に死亡した12例に対し2年以上生存した7例および臨床像の改善を認めた3例の計10例を対照群として,多変量解析数量化理論第II類を応用して生死の判別を試み,両群をよく判別しうる予後指数を求めることができた.<BR>6)今回の解析結果から得られた1年以内の予後不良因子は,心機能NYHA IV度,3回以上のIV度心不全の既往の他,従来用いられてきた血行動態的指標よりは低電位差(肢誘導<5mm),異常Q波>2誘導,QRS間隔の延長といった心電図に関する情報が心筋自体の高度の病変を反映する所見として予後不良を示唆し,心臓移植の適応を考える上で重要な意義をもつと思われた.ただし統計処理に用いた症例数が少ないので,今後も引き続き症例を増すと共に今回は検討できなかった血中ノルアドレナリン,ANPおよびBNPなどの神経体液性因子その他の予後予測因子をも含め再検討することが望まれる.
著者
深見 智子
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1097-1098, 2017

<p> <b>【目的】</b>Auto SV(以下ASV)を導入する慢性心不全患者に,QOLが低下することなく患者らしい生活を継続するために有効であった支援を明らかにする.</p><p> <b>【症例】</b>A氏50歳代後半男性.心エコー結果:EF 21.7% 199X年に特発性拡張型心筋症と診断され入院加療,内服にて心不全治療されていた.201X年かかりつけ医より『余命1年です』と宣告されたため当院での治療を希望された.A氏は2回の心不全入院を繰り返し,入院時から『眠れない,熟睡感がない』と訴えた.家族は『夜寝る時にすごいイビキと息が止まっている感じがしする』と言われたため,心不全チームにて陽圧治療の適応について検討した.</p><p> <b>【経過】</b>201X年1月簡易睡眠検査結果はAHI 30.0回/h,中枢性無呼吸主体の重症SASでありチェーンストーク様呼吸を認めた.しかし,A氏に陽圧治療を導入すると医療費の負担(指導料)が大きくなることが予測されたため,医療費の負担を軽減できるように医師,社会福祉士と検討し調整をした.3月に実施した終夜睡眠ポリグラフィー検査結果はAHI 43.6回/hであった.A氏にCPAP導入の必要性を説明し患者指導と試験実施を開始した.A氏はCPAP導入後も『熟睡感がない,眠れない』と睡眠に対する自覚症状の変化を認めなかった.CPAP解析結果はAHI 33.3回/hでありCheyne-Stokes respiration(以下CSR)が残存している状態であった.そのため,医師,臨床工学技士,看護師と協議を行いCPAPからASVへ変更した.ASV解析結果はAHI 33.3回/hからAHI 12.3回/hまで低下した.A氏はASV使用後,仰臥位での睡眠が可能となり睡眠導入剤を離脱することができた.A氏は『こんなに眠れたのは久しぶり.朝方の息苦しさもないし,夜に起きることもなかった.こんなに楽に付けられるとは思っていなかった』と話した.外来の定期受診時には日常生活やセルフモニタリングについて慢性心不全看護認定看護師が面談を行い,ASVについては慢性呼吸器疾患認定看護師がマスク装着の不具合や使用時の不安や疑問をA氏から確認し,適切に使用できているか解析結果を参考にフィードバックした.</p><p> <b>【結果】</b>A氏に入院中から外来において適切な支援と医療費の負担額を軽減できたことがASVを継続的に使用することに繋がった.CPAPからASVへの変更を余儀なくされたが,AHIの改善と睡眠に対する自覚症状が消失し,睡眠導入剤を使用することなく熟睡感を得ることができた.</p><p> <b>【考察】</b>慢性心不全ガイドラインでは,収縮不全を伴う慢性心不全患者においては,CSR-CSAは右室収縮機能障害,拡張期血圧低下とともに主要な予後悪化因子であり,CSR-CSAがあると死亡のリスクが2.14倍になることが報告されている.A氏も病期の進行から睡眠呼吸障害があることが明らかとなった.今回A氏にCPAP・ASVの解析結果から適切な陽圧治療を選択し,入院中から外来まで多職種と協働し包括的な支援を継続できたことが,ASVを継続的に使用することに繋がり睡眠の質が改善し,QOLを低下することなくA氏の望む生活を送ることができたと考える.</p>
著者
中尾 浩一 近島 博道 山本 恵史
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.425-438, 2015 (Released:2016-04-15)
参考文献数
10

バソプレシンV2受容体拮抗薬 (トルバプタン) は心不全入院患者の新たな治療戦略として期待されるものの, 臨床現場での最適な使用法について不明な点が少なくない. 本研究では, 2011年7月~2013年9月に連続データを所有する全国121施設の診療データベースを用いて, 心不全入院に対するトルバプタンの処方実態を分析した.  心不全入院患者全体を対象とした集団 (A群 : 14,310例) を分析した結果, 入院期間中にトルバプタンが処方された群は988例 (6.9%) であり, その臨床背景はトルバプタンが処方されなかった群と比べて有意に重症で複雑な病態を有していた.  次に, トルバプタン早期処方の意義を検討するために, 慢性心不全の急性増悪による入院患者を対象とした集団 (B群 : 3,513例) を分析した. その結果, 早期トルバプタン処方群は, 早期未処方群と比較して, 同一施設への再入院患者である割合が高かった. 早期トルバプタン処方群は, 入院時BNP値およびクレアチニン値が有意に高値だったにもかかわらず, 院内死亡率および在院日数には差がなかった. 傾向スコアを用いて患者背景の不均衡を調整し, 早期にトルバプタンが処方される傾向にある層で比較すると, 実際に処方された群は, 未処方群と比較して, 院内死亡率に大きな違いはなかった (6.8%対7.4%) が, 在院日数が短縮される可能性 (中央値 : 15日対18日) が示唆された. 繰り返し入院する患者に入院早期からトルバプタンを使用する治療戦略は容認しうるものであり, 医療経済上の有用性が示唆された.
著者
高 永煥 四方 卓磨 中嶋 敏宏 三宅 宗隆 林 鐘声
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.21, no.8, pp.987-993, 1989-08-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
11

近年,ウイルス性心筋炎後に拡張型心筋症病態を呈する症例が散見される.今回,うっ血性心不全として発症し,拡張型心筋症様病態を呈するも,2年後には改善し,その約5年後に再びうっ血性心不全の型で発症した再発性ウイルス性心筋炎と思われる症例を経験し,ウイルス性心筋炎と拡張型心筋症の関連について考える上で,興味ある症例と思われ報告する.症例は18歳,男性10歳時,感冒症状を前駆症状としてうっ血性心不全の型で発症.心エコー上著明な左室腔の拡大と左室駆出率の低下を認めた.心不全症状改善後の左心機能の低下は続き,発症後3カ月目に行った右室心内膜心筋生検では著明な間質の線維化を認めた.また,ペア血清にて,コクサッキーB4ウイルスの有意の上昇を認めた.2年後,左心機能は回復,順調に経過していたが,約5年後(昭和62年4月)再び感冒症状を前駆症状として,うっ血性心不全の型で発症.前回同様著明な左室腔の拡大,左室駆出率の低下を認めた.右室心内膜心筋生検ではリンパ球の浸潤が主体で,問質の線維化は軽度であった.左心機能の回復は緩徐であったが,徐々に回復し,1年2カ月後の現在,左室駆出率の軽度の低下を残すのみとなった.免疫学的には,OKT 8の低下,OKT 4/OKT 8の上昇を認めた.
著者
貝原 俊樹 深水 誠二 吉田 精孝 河村 岩成 中田 晃裕 荒井 研 森山 優一 宮澤 聡 麻喜 幹博 北村 健 北條 林太郎 青山 祐也 小宮山 浩大 手島 保 西﨑 光弘 櫻田 春水 平岡 昌和
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.SUPPL.1, pp.S1_50-S1_54, 2015 (Released:2016-12-14)
参考文献数
7

高血圧症, 骨粗鬆症の既往がある83歳女性. 入院10日程前から食思不振があった. 入院4日前から食思不振が増悪し, ふらつきや1分程続く胸部圧迫感が出現した. 入院当日から動悸が出現したため, 当院を受診した. 心電図は洞調律で多形性心室性期外収縮が頻発し, 580msと著明なQT延長を認めた. 胸部レントゲンでは軽度心拡大を認めた. 採血では低カリウム血症 (2.3mEq/L), 低マグネシウム血症 (1.6mg/dL) を認めた. 検査終了後に突然強直性痙攣が出現し, 心肺停止となった. 無脈性多形性心室頻拍が確認され, 除細動150J 1回で洞調律に復帰した. 入院後は電解質を補正し, QT延長はやや遷延したものの, 心室性不整脈は著減した. また, 経過中たこつぼ様の壁運動を伴ったが, 第4病日で意識はほぼ清明にまで改善した. しかし第13病日に頭蓋内出血を発症し, 急変, 死亡退院となった. QT延長, 多形性心室頻拍に低カリウム血症, 低マグネシウム血症を伴った症例の報告は少ない. 本症例に関して, 低マグネシウム血症と心室性不整脈の観点から文献的考察を混じえ, 考察する.
著者
江波 戸美緒 中山 雅裕 真島 三郎
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.27, no.7, pp.37-41, 1995

加算平均心電図(SAE)の重症心室性不整脈,突然死予知に対する有用性は欧米の数々のprospectivestudyにより証明されてきた.しかし,本邦におけるprospective studyは少ない.本研究の目的は本邦において心筋梗塞後の致死性心室性不整脈予知に対するSAEの有用性は欧米と差違があるか,また長期予後予測に対しどの程度有用かを検討することである.<BR>対象は1986年2月より90年1月に急性心筋梗塞にて本院に入院した連続186例のうち,急性期の死亡,CABG例およびブロック,心房細動を除く145例である.全例において発症3-4週にSimsonらによるTime-domain法1)を用いてSAEを記録,解析した.Noise leve≦0.7μVにて記録が得られた130例を定期的に外来および電話問診にて追跡調査した.平均4.7±2.4年の観察期間中に不整脈事故(持続性心室頻拍,心室細動または突然死)は正常SAE群(104例)に2例(2%),異常SAE群(26例)に6例(23%),計8例に観察された.初回事故の63%は発症後2カ月以内に,87%が2年以内,全例が3年以内に起こっていた.また初回事故の75%が持続性心室頻拍(sustainedVT)であった.Kaplan-Maier法によるevent free rateは異常SAE群が正常SAE群に比し有意に低値であった.また異常SAEは左室駆出分画とともに不整脈事故の独立して有意な予知因子であった.突然死は3例(異常SAE群2例,正常SAE群1例)と少なく,その予知に対するSAEの価値を決定するのは困難であった.<BR>SAEは心筋梗塞後の致死性不整脈予知に有用であることは欧米のデータと一致した.しかしながら不整脈事故の頻度そのものが6.2%と同時期の欧米の報告に比し非常に低く,突然死も少数であった.また事故の発生状況からみてSAEの初回不整脈事故予知因子としての価値は長期的にも発症後の時間経過に影響を受けるものと思われた.
著者
市川 啓之 櫻木 悟 藤原 敬士 西原 大裕 辻 真弘 横濱 ふみ 谷本 匡史 大塚 寛昭 山本 和彦 川本 健治 田中屋 真智子 片山 祐介
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.60-65, 2018-01-15 (Released:2019-03-28)
参考文献数
11

背景:急性冠症候群(ACS)の急性期には,糖代謝異常を認めることが多い.本研究ではACSの急性期に糖負荷試験を行い,糖代謝異常の経時的変化とその機序について検討した. 方法:対象は,ACSで当院に入院した患者のうち,糖尿病既往がなく,心不全などの合併症のない26名.急性期と亜急性期に75 gOGTTを施行し,インスリン分泌能および抵抗性の経時的変化を調査した. 結果:急性期には糖尿病型の割合が46%と多く存在したが,亜急性期には15%に低下した.急性期から亜急性期にかけて,Insulinogenic indexは有意に上昇した(0.50±0.46 vs 0.91±0.78,p=0.003).一方,HOMA-IRには変化がみられなかった. 結論:ACS患者では糖代謝異常が多く存在し,その原因として,インスリン抵抗性よりもインスリン分泌能の低下が大きく関与していると考えられた.