著者
橋本 修治 相原 直彦 伊達 裕 勝木 桂子 武村 珠子 鎌倉 史郎 下村 克朗
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Supplement6, pp.41-46, 1997-12-30 (Released:2013-05-24)
参考文献数
14

【目的】心房細動(Af)例では心房電位が偽陽性の原因になるとされ,体表面加算平均心電図(SAECG)による心室遅延電位(LP)による評価の対象から除外されてきた.しかし,出現時相が不規則であることから加算平均処理により心房電位が相殺され,洞調律(SN)時と同様にLPを評価できる可能性がある.そこで,Af時においてもSAECGがSN時と同様に評価可能か否かについて検討した.【対象と方法】Af時およびSN時に対してSAECGを記録し得た症例17例.各記録をtime domain(TD)法とfrequency domain (FD)法を用いて解析し,比較検討した.【結果】Af時およびSN時記録での各指標の相関はTD法では全指標ともr=0.90以上(p< 0.001)と良好であったが,FD法はarea ratio法でr=0.83(p<0.001),spectro-temporal mapping法でr=0.60(p<0.05)とTD法に比べ劣っていた.【総括】Af時におけるSAECGの有用性をSN時と比較検討した結果,TD法はAf時にもLPを評価することが可能であるが,FD法の各解析法ではLPの評価は困難と考えられた.
著者
吉竹 功央一 並木 淳郎 小崎 遼太 猪口 孝一郎 越智 明徳 関本 輝雄 山口 薫 大沼 善正 近藤 武志 柴田 正行
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.626-630, 2019-06-15 (Released:2020-08-17)
参考文献数
7

症例は60歳代,男性.意識消失を伴う高度房室ブロックの診断で恒久ペースメーカ植込みを行った.手術中,良好な閾値がみつからず,心房リードの留置に難渋したため,心房リードを右房側壁に留置した.手術翌日に呼吸困難,酸素飽和度の低下を生じ,胸部CT検査で右肺の気胸,心膜気腫,縦隔気腫を認めたため,胸腔穿刺で脱気を行った.解剖学的に心房リードが右房壁を穿孔した可能性が高いと判断し,外科的治療を考慮したが,心房・心室リードともに感度・閾値・抵抗値に変化を認めず,バイタルは安定していたため,経過観察とした.その後は経過良好であり,脱気後1週間で胸腔ドレーンを抜去し,胸部CT検査で気胸,心膜気腫,縦隔気腫が消失していることを確認して退院となった.解剖学的に右房側壁は胸膜と近接しており,リードのスクリューが心膜,胸膜を貫通し,気胸,心膜気腫,縦隔気腫を生じたと考えられる.心膜気腫,縦隔気腫は恒久ペースメーカ植込みの合併症において比較的稀である.治療法の選択に苦慮したが,保存的加療で治療し得た症例を経験したので報告する.
著者
井口 貴文 井口 守丈 手塚 祐司 青野 佑哉 池田 周平 土井 康佑 安 珍守 石井 充 益永 信豊 小川 尚 阿部 充 赤尾 昌治
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.1102-1107, 2018-10-15 (Released:2019-12-06)
参考文献数
10

先天性アンチトロンビンⅢ(AT-Ⅲ)欠損症は比較的稀な常染色体優性の遺伝性疾患である.AT-Ⅲ欠損症においては静脈血栓塞栓症(VTE)が多発することが知られている.VTEの治療には従来からヘパリンが使用されていたが,ヘパリンの抗凝固作用は血中のAT-Ⅲレベルに依存するため,AT-Ⅲ血栓症に伴うVTEに対しては,ヘパリンの単独治療では十分な抗凝固作用が期待できず,AT-Ⅲ製剤の補充が必要とされる.近年,VTEの治療に対しては,ヘパリンに代わって直接型経口抗凝固薬(DOAC)が有効であるとの報告が相次いでなされている.DOACはAT-Ⅲを介さずに抗凝固作用を発揮するため,AT-Ⅲ欠損症に伴うVTEに対しても効果があると考えられるが,AT-Ⅲ欠損症に伴うVTEに対してDOACが有効であったとの報告は極めて限られている.今回われわれは,AT-Ⅲ欠損症に伴うVTEの症例に初期からDOACの1つであるリバーロキサバン単剤で加療し,比較的速やかに症状の改善,D-dimerの低下,および画像上の血栓の消退が認められた症例を2例経験した.2例ともその後リバーロキサバンを継続することでVTEの再発なく経過している.AT-Ⅲ欠損症に伴うVTEに対してリバーロキサバンの有効性を示唆する貴重な症例であると考え,ここに報告する.
著者
藤川 日出行 井岡 達也 高安 徹雄 関口 弘道 中山 敏夫 島田 和幸 夏目 隆史 金井 信行 斎藤 建
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.163-167, 1995-02-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
10

慢性期に外傷を契機として心房リードの穿孔を起こした永久ペースメーカー植え込み例を経験したので報告する.症例は70歳女性で,63歳蒔に完全房室ブロックを指摘され,68歳時にtorsades de pointes(TdP)によるAdams-Stokes発作を起こすようになり当科入院した.完全房室ブロック,徐脈によるQT延長のためDDDペースメーカーを植え込んだ.70歳時にパーキンソン症候群による歩行障害にて転倒し,左肩を強打した後より全身浮腫と呼吸困難が出現し近医入院した.心不全にTdPと肺炎を合併し当科転院となったが,心房のペーシング不全,センシング不全が認められた.呼吸不全加療中にTdP,VF出現し死亡した.剖検にて心房リードの右心房壁穿孔を認めた.経過より外傷を契機としたリードの心房壁穿孔と考えられ,病理所見等報告する.
著者
上村 宗弘 中川 尭 脇屋 桃子 池田 長生 田守 唯一 山本 正也 伊藤 信吾 田中 由利子 岡崎 修 廣江 道昭 原 久男 諸井 雅男
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.683-688, 2012 (Released:2013-11-28)
参考文献数
9

目的: 冠動脈の石灰化スコアが冠動脈CTによる有意狭窄病変の診断精度に与える影響について検討した.方法: 64列冠動脈CT(64SCT)と侵襲的冠動脈造影を行った連続25名について, 64SCTの感度と特異度を冠動脈石灰化スコア(Agatston score)別に検討した. 評価対象とした冠動脈は主要3枝で内径が2mm以上とした. また, 最も高度な狭窄部位をその枝の評価対象とした.結果: 64SCTによる狭窄評価が侵襲的冠動脈造影と一致したものが, 49血管(65.0%), 過大評価は20血管(26.0%), 過小評価は6血管(8.0%)であった. 石灰化スコア1,000以上の患者では, それぞれ10血管(41.7%), 10血管(41.7%), 4血管(16.7%)であり, 400以上1,000未満の患者では8血管(53.3%), 5血管(33.3%), 2血管(13.3%), 400未満の患者では31血管(86.1%), 5血管(13.9%), 0血管(0%)であった. 侵襲的冠動脈造影で75%以上の狭窄に対する64SCTの感度および特異度は, 全患者では91.3%および78.8%であり, 石灰化スコア1,000以上では87.5%および56.3%, 400以上1,000未満では85.7%および75.0%, 400未満では100%および92.9%であった.考察: 石灰化スコア400未満では感度と特異度は十分であり, 400以上1,000未満でも特異度は比較的高い. このことは, 64SCTの結果の評価の一助となり得る.
著者
林 鐘声 早野 尚志 岡本 力 石原 義紀
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.22, no.11, pp.1290-1296, 1990-11-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
22

心室中隔欠損が自然閉鎖した小学1年生の女児にRubenstein II群の洞不全症候群を認めた.下大静脈欠損・奇静脈結合を合併していたが,気管の分岐,心耳の形態,肺動脈の走行は正位でleft isomerismはなかった.日中の心電図は洞性不整脈,房室解離のみであったが,夜間睡眠中に洞停止が頻回に出現し,最長洞停止は4.48秒であった.電気生理学的検査では,最大自動能回復時間は5,100msecと著明に延長していた.しかし,運動に伴い心拍数は良好に上昇し自覚症状はなかった.下大静脈欠損に洞不全症候群や洞機能低下の報告は文献的に7例あった.left isomerismがあったのは1例,不明6例で,ないことが明らかとなったのは本例が最初であった.発生学的に考えると,下大静脈欠損が生ずる際に,同時期に形成される洞結節にも異常が及ぶ可能性があり,本例はそのために洞不全症候群となったものと推察した.
著者
熊谷 浩一郎
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.623-626, 2009 (Released:2013-06-06)
参考文献数
3
著者
浜本 肇 木之下 正彦 天本 健司 坂口 知子 石本 直子 蔦本 尚慶 山下 敬司
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.491-497, 2002

症例,71歳,男性.平成10年1月26日,胸部圧迫感を訴えて当院を受診.120/分の頻脈と心尖部から第2肋間胸骨左縁にかけて,第3肋間に最強点を有するLevineIV度の収縮期駆出性雑音を聴取.これは,吸気時に減弱,呼気時に増強した.心エコー図では左室径は小さく,大動脈弁の開放時の離開距離は正常で,弁の肥厚を示唆する所見も見られなかった.また,血漿中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),心房性ナトリウムペプチド(ANP)が上昇していた.平成10年5月22日,ダブルマスター負荷後,V4~6,II,III,aVFで中等度のST低下を認めたため虚血性心疾患を疑い,滋賀医科大学第1内科へ精査の目的で入院した.<BR>入院後の検査では,カラードプラ法にて,肺動脈内にモザイク状のパターンを認め,右心系の疾患が疑われ,MRIにて右室流出路の狭窄を認めた.心臓カテーテル検査では,右室心尖部と流出路の間に31mmHgの圧較差を検出した.また,血漿ANP濃度が大心静脈と冠状静脈洞との間に大きなstep upを示し,当院外来で見られた血漿ANP濃度の上昇は右心負荷によるものと考えられた.<BR>この狭窄の原因として,心雑音の呼吸性変動の態度等から,胸郭形成術による心臓の偏位,および右室前壁の胸壁への癒着の影響が考えられた.
著者
土田 夏佳 宮崎 徹 田中 泰章 吉川 俊治 稲垣 裕 蜂谷 仁 平尾 見三 宮城 直人 荒井 裕国 磯部 光章
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.477-481, 2011 (Released:2012-10-03)
参考文献数
12
被引用文献数
1

症例は37歳, 女性. 38℃台の発熱, 頸部痛, 両肩痛, 背部痛が出現し, 精査にて炎症反応高値(CRP 8.5mg/dL), 胸腹部CTにて径38mmの上行大動脈瘤を認めた. PET-CTにて動脈瘤への集積を認め, 高安動脈炎と診断された. プレドニゾロン(prednisolone; PSL) 30mg/日より治療開始し, 免疫抑制薬を併用するも約1年間で上行大動脈瘤は径48mmに拡大した. 早期手術のため, インフリキシマブ(infliximab; IFX)を導入したところ, 速やかな炎症反応の陰性化が得られた. IFX投与後14日目に大動脈瘤切除術を施行, 術後経過良好であった. 引き続き外来にてIFX投与継続し, 病勢の再燃を認めずコントロール良好であった. 生物学的製剤投与下に外科的治療が奏功した高安動脈炎の1例を経験したので報告する.
著者
村田 理沙子 大野 正和 秋元 耕 矢部 顕人 戸舎 稚詞 福島 琢 榊原 温志 土屋 勇輔 鈴木 雅仁 近江 哲生 佐々木 毅 清水 茂雄
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.1036-1041, 2020-09-15 (Released:2021-10-05)
参考文献数
18

症例は74歳女性.今回入院の2年前にたこつぼ症候群の診断で入院となり,心内血栓・高血圧に対する加療が行われた後,壁運動の改善を確認し退院となった.退院後は近医で高血圧,高血糖の加療が行われていた.X年10月,受診2,3日前より食思不振が出現し,1日前から嘔気・嘔吐・動悸・冷汗が出現し改善しないため,救急要請し来院した.来院時著明な高血圧を認めており,血液検査で心筋逸脱酵素の上昇・心電図検査でST低下・経胸壁心臓超音波検査で心尖部の過収縮,心基部の無収縮を認め,たこつぼ症候群の診断で入院となった.たこつぼ症候群の再発は稀であり診断基準に褐色細胞腫の除外が必要とあることから,スクリーニング検査として内分泌検査を行ったところ血中カテコラミンの上昇を認めた.腹部CT検査で右副腎に直径3 cm大の腫瘤があり,131I-MIBGシンチグラフィで同部位に集積を認めたことから褐色細胞腫によるカテコラミン心筋症と診断した.ドキサゾシンの投与を2 mgから開始し,自覚症状,心電図変化,左室壁運動異常は改善したため第8病日に退院となった.外来でドキサゾシンを最大量の12 mgまで増量したのち腹腔鏡下右副腎摘除術を行った.その後経過は良好で,以降カテコラミン心筋症の再発はなく,高血圧,糖尿病の増悪なく経過している.今回,初回は一次性たこつぼ症候群と診断したが,再発時に褐色細胞腫による二次性たこつぼ症候群と診断した1例を経験したので報告する.
著者
堺 勝之 中村 彰 田村 雄助
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.91-94, 2008

症例は50歳,男性.ファンコニー症候群のため透析中であった.右肩鍵盤断裂のため当院の整形外科で関節鏡手術を受けた.術後16日目の透析中に心室細動(VF)を発症し自動体外式除細動器で徐細動した後ICUに収容した.ICU入室時は不穏状態であったため鎮静し,透析後でKが2.9mEq/Lと低値であったためKとMgを補充したが,エレクトリカルストームとなった.人工呼吸管理として約96分間心臓マッサージを行いながら,除細動を頻回に繰り返したがVFが持続した.ニフェカラント持続静注を行いさらに,右内頸静脈よりHR=150/分で高頻度ペーシングを行うことによりVFは抑制された.後に植込み型除細動器(ICD)の植え込み目的で転院となった.<br>透析患者に発生したエレクトリカルストームに対してニフェカラント静注と高頻度ペーシングの併用が有効であった症例を報告する.
著者
吉田 悠鳥 香川 正幸 後藤 眞二 鈴木 哲 栗田 明 小谷 英太郎 新 博次 高瀬 凡平 松井 岳巳
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.43, no.SUPPL.1, pp.S1_4-S1_10, 2011 (Released:2012-12-05)
参考文献数
11

人体にやさしい小電力のマイクロ波レーダーを使用して, 高齢者を対象とした非接触かつ非拘束な呼吸·心拍数モニタリングシステムを開発した. このシステムを実際に特別養護老人ホームで評価し, 高精度の呼吸·心拍数モニタリングシステムの実現とその有用性を確認した. 本論分では, 特に心拍信号の実時間上での迅速抽出について述べる. 寝具用マットレスの下部に周波数の異なる2つのレーダー装置を設置し, 呼吸·心拍に伴う体表面の微振動をドプラレーダーにより計測する. 得られる生体信号には, 呼吸動, 心拍動, 雑音が混在している. この中で安静時に, 最も振幅の大きな信号として現れる呼吸信号に着目し, 実時間上における信号平滑化の移動平均法を用いて呼吸信号を推定し, 原信号からその呼吸信号を減算することにより心拍信号, 心拍数を高精度に抽出した. 一方で, 高齢者の介護では, 在宅の場合も施設介護の場合も高齢者の状態変化の早期検出と介護者の身体的精神的負荷の軽減が求められている. 高齢者にとって拘束感, 違和感がない本システムは, 新しい高齢者見守り支援システムとして期待される.
著者
大谷 龍治 當別當 洋平 米田 浩平 泉 智子 安岡 辰雄 宮島 等 小倉 理代 弓場 健一郎 高橋 健文 細川 忍 岸 宏一 日浅 芳一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.657-663, 2016 (Released:2017-06-15)
参考文献数
20

症例は60歳, 男性. 2015年4月, 夜間嘔吐後に心肺停止状態となり, 救急要請された. 救急隊到着時は心室細動 (ventricular fibrillation ; VF) で, 自動体外式除細動器 (automated external defibrillator ; AED) にて除細動後, 自己心拍が再開し当院に搬送された. 来院時, 心電図にJ波はみられず, 下・側壁誘導にST低下を認めたものの心臓超音波検査で壁運動異常はみられなかった. 意識レベルの低下が遷延しており, 呼吸状態も不安定なため, 鎮静・気管内挿管下に低体温療法を開始した. 治療開始30分後からVFを生じ, 体温が35°C以下に低下後は電気的ストームとなった. 抗不整脈薬による抑制効果はなく電気的除細動を繰り返した. 12誘導心電図を再検したところ, 初診時には認めなかったJ波が広範な誘導に出現しており, 低体温によって顕性化したものと判断した. 低体温療法を中止し, イソプロテレノールの持続静注を開始したところ, 速やかにJ波は消失し, VFの抑制が得られた. 体温が正常化後は, イソプロテレノールを中止してもJ波は出現せず, 以後VFを生じることはなかった. 心肺蘇生後症例の低体温療法時には, J波が顕性化してVFを生じる症例があることに注意すべきと思われた.
著者
因田 恭也 坪井 直哉 伊藤 昭男 辻 幸臣 山田 功 七里 守 吉田 幸彦 山田 健二 三輪 田悟 平山 治雄 前田 聰 栗山 康介
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.27, no.Supplement6, pp.54-60, 1995-10-25 (Released:2013-05-24)
参考文献数
6

症例は69歳男性.約2週間の便秘があり,その後1~2分の意識消失発作を頻回に繰り返すため当院に入院した.入院後,咳嗽や嘔吐の後に,意識消失発作を繰り返した.ホルター心電図で発作の時間に一致して洞停止を認めた.洞停止は,時に補充調律を伴わず,最高40秒の心休止を呈した.VVIペースメーカーを植え込んだ.この洞停止の発作は一過性であり,1週間の間に頻回に発作がみられたが,その後は全くみられなくなり,ペースメーカーが作動することもなかった.冠動脈造影では有意狭窄を認めず,スパズムも誘発されなかった.心臓電気生理学的検査では洞機能に異常を認めなかった.頸動脈洞マッサージ,チルトテストにても心拍,血圧に異常な変化を示さなかった.洞停止が頻回にみられた時期の心拍変動は日内リズムが消失しており,高周波成分,低周波成分ともパワーの不規則な乱れを示した.長い洞停止の発作直前の心拍変動は高周波成分,低周波成分ともに徐々にパワーの増大を示した.洞停止の原因として自律神経の異常が関与していたことが推察された.本症例では数週間の経過で一過性に自律神経の異常をきたし,それが補充収縮を伴わない長い洞停止を引き起こしたと考えられた.いわゆる洞機能不全症候群とは異なり,補充調律の抑制されるこのような症例では突然死に至る危険性が高いと考えられた.
著者
星野 健司 小川 潔 衛藤 義勝
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.287-297, 2005-04-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
23

【背景・目的】純型肺動脈閉鎖に対する経皮的肺動脈弁形成術(PTPV)は,一定の基準を満たす症例では有用な方法である.しかし重篤な合併症や手技上の問題点も少なくない.われわれはPTPVの手技で問題となる,(1)右室へのガイディングカテーテルの挿入・右室流出路への留置,(2)肺動脈弁の穿孔,(3)バルーンカテーテル挿入時のガイドワイヤーの保持,の3点について検討した.【対象】1998年1月以後にPTPVの適応となった純型肺動脈閉鎖の患児13例中,PTPVに成功した11例を対象とした.【結果】(1)右室流出路へは4FrenchのJudkins右冠動脈カテーテルを留置するのが最適であった.右室への挿入・右室流出路への留置には適度な曲がりをつけたガイドワイヤーを利用すると操作が容易であった.(2)肺動脈弁穿孔には0.018inchガイドワイヤーのstiff sideが適しており,操作性などを考慮すると,あまり固すぎないスプリングタイプが最適であった.(3)最近の7例は,ガイドワイヤーで肺動脈弁を穿孔後に,ワイヤーを入れ替える方法をとっている.穿孔したワイヤーのstiff sideを留置したままで,Judkinsカテーテル内に0.014inchガイドワイヤーのflexible sideを挿入する.両方のワイヤーを穿孔部で密着させた状態で入れ替え,flexible sideを肺動脈遠位端へ進めてガイドワイヤーを保持している.【結語】純型肺動脈閉鎖に対するPTPVは手技上の問題点が多いが,これらの手技の工夫で安全かつ短時間でのPTPVが可能となった.特に穿孔後のガイドワイヤーの入れ換えは容易にできる可能性が高く,安全性の面でも有用な方法と考えられた.