著者
西村 勇人
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.45-54, 2013-01-31 (Released:2019-04-06)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究では、母親と分離することや担任・クラスメイトに会うことに対して不安や恐怖感を抱き、5年間母親同伴で登校をしていた小6男児に対して認知行動療法的な介入を行った。本児の行動は母親からの分離行動の形成が不十分であること、母親からの注目獲得、担任やクラスメイトへの不安の回避という要因によって影響を受けていると考えられた。そのため、母親からの分離行動のシェイピングや学校関連刺激への段階的エクスポージャーを行った。その結果、小学校在学中に単独で授業に出席できるようになり、中学進学後は学校への全面復帰が可能となった。その後も病欠以外で連続欠席することなく2年生に進級することができた。この事例を通して、不登校の治療におけるエクスポージャーの有用性やさまざまな技法を組み合わせて介入することの必要性について論じた。
著者
磯部 美良 佐藤 正二 佐藤 容子 岡安 孝弘
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.105-115, 2006-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
4

本研究の目的は、児童の社会的スキルと問題行動を測定するための教師評定尺度を作成することであった。公立小学校65学級の担任教師に対して、担任する学級の全児童(小学校1〜6年生、計1,991名)の行動評定を依頼した。その結果、社会的スキル領域では5因子25項目(働きかけ・学業・自己コントロール・仲間強化・規律性)、問題行動領域では2因子12項目(外面化行動問題・内面化行動問題)が見いだされた。また、良好な内的整合性と構成概念妥当性が確認された。最後に、社会的スキルの性差や学年差、社会的スキル訓練の効果査定の測度としての有用性が論じられた。
著者
矢澤 美香子 金築 優 根建 金男
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.243-253, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究は、女子学生のダイエット行動における完全主義認知、感情、自己評価の特徴を実験的に検討することを目的とした。ダイエット行動尺度(松本ら,1997)に回答した女子学生326名のうち、非構造的ダイエット得点が高い群(H)に21名、低い群(L)に20名を配置し、さらにダイエットの成功想定状況群(S)と失敗想定状況群(U)に割り当てた。参加者は、3週間のダイエットに取り組むことを想定してダイエットプランを作成した。そして、成功想定状況群(H-S,L-S)と失敗想定状況群(H-U,L-U)は、それぞれそのダイエットが成功、あるいは失敗する状況について8分間考えた。その結果、H-S、L-Sで高目標設定の認知が増加した。一方、H-Uではミスにとらわれる認知と不安感が増加した。さらに、H-S、H-Uはダイエット状況によって自己評価に影響を受けていた。これらの結果から、過度なダイエットにおいて、完全主義認知はネガティブな感情や自己評価と関連することが示唆された。
著者
伊藤 大輔 中澤 佳奈子 加茂 登志子 氏家 由里 鈴木 伸一 金 吉晴
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.19-29, 2015-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、PTSD症状と生活支障度の関連を検討し、認知行動的要因がそれぞれに及ぼす影響を明らかにすることであった。主にDVをきっかけに医療機関を受診した女性のPTSD患者41名を対象に、出来事チェックリスト(ECL)、PTSD症状(IES-R)、生活支障度(SDISS)、認知的評価(CARS)、PTSD症状に対する否定的解釈(NAP)、対処方略(TAC)を実施した。IES-RとSDISSに弱い相関が見られたため、階層的重回帰分析を行った結果、PTSD症状には、トラウマの脅威性の認知、症状に対する否定的予測と意味づけ、回避的思考の有意な正の影響性が見られた。一方、生活支障度には、トラウマの脅威性の認知、放棄・諦めの有意な正の影響がみられ、肯定的解釈、責任転嫁の有意な負の影響が見られた。これらのことから、DVに起因したPTSD患者には、生活支障度の改善に焦点を当てた介入を積極的に行う必要性が示唆された。
著者
嶋 大樹 川井 智理 柳原 茉美佳 大内 佑子 齋藤 順一 岩田 彩香 本田 暉 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.1-13, 2017-01-31 (Released:2017-10-11)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本研究では、第三世代の認知・行動療法で重視される行動的プロセスである“アクセプタンス”を測定するAcceptance Process Questionnaire(APQ)を作成し、その信頼性と妥当性を検討することを目的とした。学生を対象に調査を実施し、因子分析を実行した結果、APQはアクセプタンスの中長期的結果を測定する【行動レパートリーの拡大】と【現実の感受】、行動内容を測定する【私的出来事から回避しない選択】と【リアクションの停止】の4因子パタンをもつ、13項目で構成された。APQは、十分な構造的妥当性、内的整合性を有し、全体でアクセプタンスを測定すると判断されたが、収束的妥当性、再検査信頼性に課題を残した。今後、再検査信頼性についてはサンプルサイズを増やして検討を進めるともに、日常生活下での行動傾向とAPQの尺度得点の関係性を検討し、その有効性を確認する必要がある。
著者
安部 利一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.79-90, 1987-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究は,学校において全く話さないだけでなく,筋緊張が極めて強くて他人の助けなくしては動くこともできない場面絨黙児についての治療報告である。患児は,10歳の女児でWISC-RIQ99であった。患児は,社会的技能が未成熟であって,それを高めるための生活指導や治療者との信頼関係の確立を図るために,児童相談所での小集団において5ヵ月間の27回の取組みを行った。さらに,それを継続しながら実際の学校場面において現実的脱感作療法と継時的接近法を併用し,それに4ヵ月半の25回を要した。実際の学校場面における治療経過は,次のとおりであった。初期には治療者の手を握って行動していたが,次第にひとりで行動できる範囲が拡がった。教師との手紙の交換をしだしてから,教師との会話ができるようになった。それにつれて,児童たちと手紙によるコミュニケーショソが急増していき,緊張なく自由に行動したり,会話することが可能となった。治療効果の主な要因としては,不安刺激の強い学校場面での治療において,(1)信頼関係の確立した治療者が同伴したこと,(2)患児に不安と拮抗する動作・行動をさせたこと,及び(3)教師や児童たちと手紙の交換をさせたことが,会話に結びついたと考えられる。
著者
藤原 直子 大野 裕史 日上 耕司 久保 義郎 佐田 久真貴 松永 美希
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.159-173, 2010-06-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
6

本研究では、「気になる子」を担任する幼稚園教諭(コンサルティ)に対する集団コンサルテーションプログラムを作成・実施し、その効果を検討した。6名のコンサルティに対して全6回(フォーローアップ1回を含む)のプログラムを実施し、行動の見方や対応方法を応用行動分析学に基づき教授した。また、グループワークにおいては、コンサルティが行った「気になる子」の観察記録をもとに対応方法を検討した。その対応をコンサルティが実践した結果、対象児の行動に改善がみられた。さらに、コンサルティが子どもに対応する際に感じるストレスが軽減し、保育者としての効力感が向上した。満足度アンケートによる評価も高く、このコンサルテーションの内容は、幼稚園において実施可能であり、その対応方法は「気になる子」の支援に有効であることが示唆された。
著者
藤森 麻衣子 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.93-103, 2006-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、不安喚起場面、身体覚醒場面、安静場面を設定し、身体反応知覚と情動の関連性について検討することであった。対象者は、47名(男性12名、女性35名)の大学生であり、3つの課題(スピーチ課題、運動課題、安静課題)から成る実験に参加した。測定指標は、心拍数、皮膚伝導水準、スピーチ不安尺度、特性不安尺度、身体反応知覚尺度、主観的不安感、印象評定であり、予期不安期、スピーチ課題期、運動期、安静期に測定が行われた。スピーチ不安尺度の得点の高低によって、参加者はスピーチ不安高群とスピーチ不安低群に振り分けられ、群を実験参加者間要因、測定時期を実験参加者内要因とする分散分析が行われた。その結果、予期不安期、スピーチ期では実際の心拍と心拍の知覚、実際の皮膚伝導水準と皮膚伝導水準の知覚、および第三者による行動評定と自己評価とのずれが小さい一方で、運動期、安静期では実際の反応とその知覚のずれが大きいことが示唆された。本研究の結果から、これまで指摘されてきた不安と心拍の知覚の関連に加え、不安と皮膚伝導水準、行動評定との関連が示唆された。
著者
村山 恭朗 岡安 孝弘
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.215-224, 2012-09-30 (Released:2019-04-06)
参考文献数
31

抑うつ的反すうとはネガティブな認知を繰り返し体験することを指す。反すう傾向が高い場合うつ病リスクは高まるが、反すう傾向が低い場合にはネガティブな認知が抑うつを悪化させるプロセスが緩和される。しかしながら、この抑うつ的反すうが加齢に伴って量的および質的にどのように変化するかに関して、あまり研究されていない。そこで本研究は、大学生群と30・40代の成人群が示す抑うつ的反すう傾向と低反すうの緩衝効果を比較することで、加齢に伴う反すう傾向の変化を検討した。その結果、成人群では反すう傾向が低く、さらに低反すうの緩衝効果が認められた。このことから、加齢に伴って抑うつ的反すうは軽減し、個人はより効果的にネガティブな認知に対応できるようになると示唆された。また本研究結果から年齢に適した予防的介入が議論された。
著者
今井 正司 今井 千鶴子 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-15, 2008-09-30 (Released:2019-04-06)

行動分析的な観点に基づくアセスメントと支援は、児童の行動を環境に適応させる効果的な方法であることが確認されている。しかしながら、従来型の行動アセスメントにおいては、多面的な問題行動を体系化する方法が確立されていないという問題点がある。そこで本研究では、システム構造分析を用いたアセスメント(システム行動分析)を適用し、多面的な問題行動を"反応階層"や"連鎖構造"からとらえることを試みた。その結果、問題行動の多面性を数量的に把握することが可能となり、効率的な支援を行うためのポイントが示された。最後に、従来型の行動アセスメントの知見を参照しながら、本研究で得られた知見の重要性について考察された。
著者
石川 信一 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.45-57, 2005-03-31 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、Children's Self-Statement Scale(CSSS)を作成し、その信頼性と妥当性を検討するとともに、児童における自己陳述と不安症状との関連を検討することであった。研究1では、小学生217名を対象に予備調査を行い、項目を抽出した。そして、小学生693名を対象とした因子分析の結果、CSSSは「ポジティブ自己陳述」「ネガティブ自己陳述」という2つの因子があることが示され、信頼性と妥当性が確認された。研究IIでは、小学生546名を対象に、 CSSSとスペンス児童用不安尺度(SCAS)による調査を実施した。その結果、SCASのすべての下位尺度において、「ネガティブ自己陳述」が強く影響していることがわかった。また、SOM得点によりポジティブに偏った認知の群は、 SCASの得点が低いことが示された。
著者
岩永 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.29-43, 1987-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

不安反応は,生理・行動・認知の3つの表出次元で測定することが可能である。各々の表出次元で見られる不安反応は互いに共変したり,(synchrony),独立または逆の変化傾向を示す(desyn-chrony)と考えられている。不安反応間で見られるsynchronyの高さは,治療効果予測の一助となることから,その有用性は極めて高い。本報告では不安反応間の対応関係について,Rachman(1976)の4つの仮説を中心に,最近特に注目されるようになったreturnoffear,consonanttreatmentについて概括した。さらに,synchrony研究を進める上で問題となる不安の測度の種類とその妥当性,およびsynchrony指標化の方法についても検討を加えた。
著者
高橋 史
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.105-114, 2017-05-31 (Released:2017-10-30)
参考文献数
19

本報告では、価値の明確化と行動活性化を中心とした治療によって症状緩和と生活改善が見られた、出産をきっかけにうつ病となったクライエントの治療経過を報告した。30代女性のクライエントに対して、1回60分、計22回のセッションが実施された。2回目面接において価値のワークが導入され、作成された価値リストに基づいて行動活性化が進められた。治療の結果、抑うつ症状の指標であるBDI-IIは29点から13点、特性不安の指標であるSTAI-Tは58点から38点、心理的柔軟性の指標であるAAQ-IIは19点から30点へと改善した。また、クライエントにとって価値に沿った行動である手料理を作る行動の回数は、1日あたり0.7回から2.1回へと増加した。以上の経過から、産後うつ症状を示すクライエントに対する価値の明確化と行動活性化手続きの併用効果が示された。