著者
石川 信一 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.159-176, 2005-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、児童期不安症状の認知行動モデルを構築することであった。研究1の対象者は小学生546名であった。偏相関分析の結果、ストレッサーを統制した場合、認知変数は不安症状と関連がみられたのに対して、認知変数を統制した場合、ストレッサーと不安症状には関連がみられなかった。研究IIでは小学生550名であった。共分散構造分析の結果、「友だちとの関係」「学業」→「認知の誤り」→「ネガティブ自己陳述」→「不安障害傾向」→「分離不安」「パニック傾向」「心配」「特定の恐怖」「強迫傾向」というモデルの妥当性が確認された。本研究の結果、認知変数が不安症状に影響を与えることが示唆された。本研究の結果から、児童の認知の誤りやネガティブ自己陳述に働きかけることが、不安症状の改善をもたらすことが示唆された。
著者
岡村 寿代 杉山 雅彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.75-87, 2007-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究では、働きかけの促進と逸脱行動の低減を目的とした引っ込み思案幼児への社会的スキル訓練(social skills training;以下、 SST)を行った。ターゲットスキルは、対象児と仲間や保育士との相互作用を行動分析することによって選定し、ターゲットスキルが対象児の仲間への働きかけを促すかどうかを検討した。2つのターゲットスキル(話を聞くスキル、質問スキル)が選定され、7セッションからなる個別SSTが行われた。その結果、対象児はSST場面において質問スキルを増加させ、 SST期の自由遊び場面においても仲間への働きかけを増加させた。また、対象児は集団活動場面からの逸脱行動を減少させ、集団活動に参加する際は、仲間をモデルとして活動に参加するようになっていた。SSTによる効果は、教師評定によっても示され、SST後は、教師評定得点がポジティブに変化していた。
著者
竹田 伸也 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.59-69, 2001-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、アルツハイマー型痴呆老人へ臨床動作法を実施し、認知機能、姿勢に対する効果を検討した。対象は、特別養護老人ホーム入所中のアルツハイマー型痴呆老人3名であり、2名が重度、1名が中等度であった。週に2回、所定の場所で約30分間の介入を4か月間行い、MMSEとN式精神機能検査を用いて、認知機能と背面・側面の立位姿勢を評価した。その結果、対象者3名中2名においてMMSEとN式精神機能検査の得点が上昇し、残る1名は得点に大きな変動を認めなかった。この効果は、介入終了後3か月を経過した時点においてもおおむね維持されていた。また、姿勢についても、肩の緊張と円背の改善が認められた。以上より、アルツハイマー型痴呆老人の認知機能の維持あるいは改善、および姿勢の改善に対して臨床動作法が有効である可能性が示唆された。
著者
宮崎 哲治
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.191-202, 2017-09-30 (Released:2017-10-31)
参考文献数
15

曝露反応妨害法(ERP)や認知療法と薬剤調整の連携により回復し、復職に至ったHIV感染恐怖を伴う遷延したうつ病患者を経験したので報告する。HIV感染恐怖もうつ病の維持要因であったため、薬剤調整を行い、体が楽になったタイミングでHIV感染恐怖に対しERPを導入した。このため、ERPをすればHIV感染恐怖がよくなるというルールは、患者にとって確率の高い結果を記述したルールとなり、従いやすくなったと推察される。効果を教示されたのちにERPをすることはルール支配行動だが、できたときに、生活が楽になるまたはうれしいと直ちに感じられるホームワークを設定することにより、ERPをすることが行動内在的強化随伴性を有することが期待できるようにもした。このような工夫により、本来苦痛を伴う治療法であるERPを容易に導入することができたためHIV感染恐怖が回復し、同疾患の影響を受けていたうつ病も回復したと推測する。
著者
松永 美希 鈴木 伸一 岡本 泰昌 吉村 晋平 国里 愛彦 神人 蘭 吉野 敦雄 西山 佳子 山脇 成人
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.181-191, 2012
参考文献数
29

本稿では、広島大学病院において心理士が中心になって実施しているうつ病の集団認知行動療法(cognitive behavioral group therapy:CBGT)について、薬物療法との併用効果を検討した。当院のCBGTプログラムは、心理教育、セルフモニタリング、行動活性化、認知再構成といった技法を用いた12セッションから構成されている。本プログラムの効果を検討するため、うつ病患者74名について、CBGT前・後・12ヵ月後で、ベック抑うつ質問票(BDI)、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)、DSM-IVの全体的機能評価(GAF)、36-item Short-Form Health Survey(SF-36) 、自動思考尺度改訂版(ATQ-R)、非機能的態度尺度(DAS)を実施した。その結果、CBGT後において抑うつ症状(BDI,HAM-D)、非機能的認知(DAS,ATQ-R)の得点が有意に減少しており、また社会的機能(GAF,SF-36)の得点は有意に上昇していた。したがって、すべての指標において改善が認められた。またこれらの改善は1年以上維持されている可能性が示唆された。
著者
田村 典久 田中 秀樹
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.83-93, 2014-05-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究では、小・中学校の養護教員22名に対して、睡眠教育および日誌記録を併せた自己調整法が生活習慣、睡眠、朝の気分や意欲に与える効果について検討することを目的とした。睡眠教育を実施後、教育のみ群と自己調整群(教育+セルフモニタリング)に分けた。両群に対して標的行動を設定するよう教示した後、自己調整群に対してのみ2週間、睡眠日誌に達成度を記録するよう求めた。その結果、自己調整群では就床時刻の前進や睡眠時間の有意な増加がみられ、起床時刻の不規則性も軽減した。さらに自己調整群では「毎朝(平日、休日ともに)、ほぼ決まった時刻に起きる」などの習慣が改善し、睡眠や朝の気分、意欲が改善した。一方、教育のみ群では「目標を立てるときは、できそうなことから始める」という習慣が改善した。以上、本研究より、自己調整法は生活の夜型化・不規則化の防止、睡眠確保に有効であり、睡眠や朝の気分、意欲を改善することが示唆された。
著者
細羽 竜也 岩永 誠 生和 秀敏
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-12, 2001-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、条件刺激に対する不快感情の操作が恐怖学習過程に及ぼす効果を検討することであった。被験者には、大学生・大学院生28名を用い、実験群と統制群に14名ずつ分けた。イメージ訓練において、実験群では恐怖関連刺激の不快感情を、統制群では恐怖非関連刺激の不快感情をそれぞれ低下させる操作を行った。イメージ訓練の後に、両群に恐怖条件づけ・消去手続きを行った。条件づけに用いた条件刺激は恐怖関連刺激であり、無条件刺激として白色雑音を用いた。おもな結果は以下のとおりである。(1)条件づけ中に、実験群のほうが統制群とくらべ、条件刺激に対する皮膚コンダクタンス反応、嫌悪度、覚醒度、不安度が低かった。(2)消去後、実験群では覚醒度・不安度が消去されていたが、統制群では消去されていなかった。これらの結果は、恐怖学習前に恐怖関連刺激の不快感情を低下させることで、その後の恐怖学習が抑制される可能性があることを示している。
著者
谷 晋二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.97-109, 2002-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、発達障害をもつ19名の子どもの家族に早期家庭療育として、行動理論に基づく指導を実施した結果を検討した。指導は、谷(1998,2001)の方法によって行い、発達指数の変化、言語理解、言語表出領域の発達年齢の変化、言語獲得に関するチェックリスト、小児自閉症評定尺度(CARS)、および家庭療育に関するアンケートの結果をデータとして収集した。その結果、11名の子どもで基礎的な言語理解、命名、マンドが獲得され、8名の子どもでDQの上昇がみられ、そのうちの5名ではDQ 75以上を示した。言語領域では、言語理解で10か月以上の発達がみられたものが17名、言語表出では12名みられた。CARS得点が30得点を超える自閉症児群ではDQの変化とCARSとは負の相関があり、CARSの得点が高いほどDQの変化は少なくなる傾向がみられた。また、家庭での療育時間はほとんどの家庭で20時間以内であった。本研究で用いられた方法は、言語発達に関しては自閉症かどうかにかかわらず有効であるが、自閉症児の全体的な発達を促進するには不十分であると考えられた。本研究で報告した実践をもとに、早期家庭療育の重要性と家族支援のあり方について論じた。
著者
柳原 茉美佳 嶋 大樹 齋藤 順一 川井 智理 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.225-238, 2015-09-30 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本研究の目的は、ACTが注目する三つの自己の体験を測定する尺度を作成し、探索的因子分析と共分散構造分析を行うことで、その尺度の信頼性と妥当性を検討すること、そして、三つの自己に含まれるさまざまな行動の機能の重なりや相違点に基づいてより妥当性の高い行動クラスを見いだすことであった。33項目からなる尺度の原案を作成し、首都圏の大学生を対象に調査を行った。探索的因子分析の結果、本尺度は【アクティブ】・【概念化】・【視点取り】・【今この瞬間】の4因子20項目から構成されることが示され、さらに共分散構造分析の結果も踏まえて、三つの自己の体験は二つの行動クラスを含むことが明らかになった。また、それぞれを下位尺度とした場合、十分な内的整合性と収束的妥当性が確認された。今後は、本尺度を用いてACTが介入対象とするほかの行動的プロセスや臨床症状との関連性を検討し、精神的苦痛を促進・緩和する自己の体験についての理解をより深めていく必要がある。
著者
岡島 義 井上 雄一
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.195-203, 2010-09-30

睡眠薬を長期服用中の1曼性不眠症患者12名に対して、認知行動療法(CBT-1)と、これに並行して睡眠薬の漸減を実施し、その不眠症状改善効果について検討した。1回50分のセッションを6〜8回実施し、治療前後および治療終了1カ月後のフォローアップ時に主観的な睡眠指標と自記式尺度に記載させた。その結果、睡眠指標では、入眠潜時、中途覚醒時間、総覚醒時間、睡眠効率の項目で改善が認められ、自記式尺度では、不眠症状測定尺度だけでなく、抑うつ症状尺度にも大きな治療効果が認められた。また、その効果は1カ月後も維持されていた。対象者全員が治療期間中に漸減を開始したが、服薬中止に至った者は4名(33%)であった。9名(75%)に臨床的な改善が認められ、その効果は終了1カ月後も維持していた。このことから、CBT-1は、睡眠薬を長期服用中の慢性不眠症患者に対しても有効と考えられた。
著者
志和 資朗 松田 俊 佐々木 実
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.75-86, 2004-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、EMDRによって不快な記憶が脱感作されるかを、精神生理学的な指標であるP3を用いて検討した。本研究の被験者は41名(女性26名、男性15名)である。まず、重度に不快な記憶をもつ31名の大学生の被験者を3つの群に割り当てた;EMDR群(n=10)では不快な記憶を想起しながら眼球運動を行い、Image群(n=10)では視覚刺激を凝視しながら不快な記憶の想起を行い、 EM群(n=11)では眼球運動のみ行った。軽度に不快な記憶をもつ10名の大学生の被験者を低SUDS(主観的障害尺度)群に割り当て、軽度に不快な記憶を想起しながら眼球運動を行わせた。本実験では、不快な記憶に関連する人物の姓(関連刺激)を刺激に用いて脳波の測定を行った。脳波の測定回数は2回で、眼球運動あるいは視覚刺激を凝視した前後に行った。関連刺激に対して生起したP3の振幅を、眼球運動あるいは視覚刺激を凝視した前後で比較した。実験の結果、EMDR群のP3振幅が有意に低下していた。また、SUDSの値は、 EMDR群と低SUDS群で低下した。この結果は、 EMDRの有効性を示すものといえる。
著者
小野 昌彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.61-71, 2003-03-31 (Released:2019-04-06)

水泳授業参加困難を契機とした小学6年生女子不登校Y(11歳)へ、再登校行動の形成および維持を目的として、専門機関の立場からおもに家庭、学校へ行動論的支援を実施した。その有効性と問題点を検討した。本事例は、不登校発現前の要因として、水泳のスキル不足が考えられた。そして、Yが水泳不参加の訴えをした時点で、親が学校を休ませる対応をしたことにより、不登校が誘発されたと考えられた。Yが家庭に滞留する行動は、祖母による世話やきといった強化刺激で維持されていると分析された。再登校行動形成のための行動論的支援は、Yへの水泳スキルの形成を目的として行われた。専門家からは、家族による話し合いの実施、家族によるYへの水泳指導、Yの訴えに対する親の対応の指導、担任のYの水泳授業参加援助への助言を実施した。援助期間は2か月間であった。面接4回、学校訪問1回、家族による水泳指導2回、担任による家庭訪問2回が実施された。結果、Yは再登校を開始し1年間登校行動が維持した。特定学校場面の回避による不登校事例の場合、その特定学校場面に関する綿密な行動アセスメントの必要性が示唆された。
著者
石原 辰男 佐田久 真貴 佐久間 徹
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.25-32, 2000-03-31 (Released:2019-04-06)

われわれは、自閉的行動をもつ幼児に対してフリーオペラント事態における指導を実施し、それに続いて机上の課題学習指導を導入した。絵カードの命名課題において呈示された絵カードの名前を言うことができないときに、その指導から逸脱する行動が認められた。そこで、Koege1(1995)に示唆を得て、わからないときに「これなに?」と質問するように指導した。今回われわれのとった手続きは、Kogel(1995)とは異なるものであったが、本児は質問行動を獲得し、指導から逸脱する行動は低減し、自発的な命名反応も増加した。さらに、フリーオペラント事態や日常の場面へも般化した。Koegelの手続きとわれわれのそれとを比較検討したところ、いずれの場合においても「これなに?」の質問が獲得されるためには、社会性強化子や他の自然強化子が有効に機能し、同時に物の名前を教えてもらって聞くことも強化機能を有する必要のあることが示唆された。
著者
竹林 由武 高垣 耕企 広瀬 慎一 大野 哲哉 小幡 昌志 川崎 友也 シールズ 久美 杉浦 義典 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.145-154, 2013-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究の目的は、不安障害・大うつ病性障害の脆弱性と指摘されている「嫌悪的な事象に対するコントロールの知覚」を測定するAnxiety Control Questionnaire(ACQ)の日本語版を作成し、その妥当性を検討することであった。385名の大学生がACQ日本語版とそのほかの指標に回答した。探索的因子分析の結果、ACQ日本語版は「嫌悪的な刺激や状況に対するコントロールの知覚」と「不快な感情/身体感覚に対するコントロールの知覚」からなる2因子パタンであることが示された。ACQ日本語版は、高い内的整合性と再検査信頼性を示し、抑うつ・不安症状と負の相関、内的統制と正の相関があった。また、過剰な心配を統制した場合に、ACQ日本語版は不安症状との有意な負の相関を維持したが、抑うつ症状との相関は弱くなった。以上から、ACQ日本語版は、十分な信頼性と妥当性の一部をもつ尺度であることが明らかになった。
著者
竹田 伸也 井上 雅彦 金子 周平 南前 恵子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.63-72, 2016-01-31 (Released:2019-04-27)

本研究の目的は、子どもに応じたアセスメントから対応まで実施できる認知行動療法プログラムを作成し、養護教諭のストレス反応や自己効力感に与える影響について検討することであった。19名の介入群と27名の統制群からなる46名の養護教諭を対象とした。介入群の養護教諭に対して、認知行動療法を応用した子どもの抱える問題のアセスメントと対応についての2時間からなるワークショップと90分からなるフォローアップ研修を実施した。その結果、本プログラムは子どもへの対応についての自己効力感を改善させることが示唆された。一方、無気力と一般性自己効力感は介入群と統制群双方で向上し、無気力以外のストレス反応は介入群と統制群双方で変化を認めなかった。
著者
佐藤 寛 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.31-44, 2006-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
1

本稿では、児童の抑うつに対する認知行動療法(CBT)に関する研究の動向を整理し、考察することを目的とした。本稿において、一定の割合の児童が抑うつの問題を示しており対応策の整備が急務であることと、抑うつを示す児童に対してはCBTの効果が実証されており、有効な治療法として期待できることが述べられた。また、解決されるべき課題として、(1)わが国の児童の抑うつに関する疫学的データが十分ではないこと、(2)臨床対象者に対するCBTの有効性を検討した研究は2編しか公刊されておらず、臨床対象者への効果についてはまだ明確ではないこと、(3)良好なデザインを用いた事例報告例がきわめて少ないこと、(4)プログラムの内容は成人向けのものをそのまま援用しており、理論的背景や介入としての効果を発達的観点から検証していく必要があること、(5)治療効果に作用する要因を特定し、その機能を明らかにする必要があること、といった点が議論された。