著者
稲沢 公一
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.129-146, 1993-06-15

The system theories, which have been established on the model of the organization or the machine, have not been worried about problems of system's boundaries, because the organization and the machine have material boundaries. On the contrary, the society does not have any visual boundary. So, if we want to grasp the society as a system, we cannot adopt the theories which assume easily the whole of the system. Based upon the social system theory of Niklas Luhmann, this paper describe the society fundamentally as follows. (1) It is a system with the boundary ofmeanings by which we can reduce the complexity of the world. (2) It's inner components are not individuals but actions as meaningful behaviors. Individuals take part in the social system as the subjects of social actions. But they also are outer environments, because they can deviate from the social system at all times. It shows the arbitrariness of the code of meanings. So the social system has to govern individuals by sanctions. The groundlessness of the code certainly make the ultimate form of the sanction a violent exclusion which causes every discrimination. Therefore, it is necessary for the philosophical study on social work to formulate a mechanism of changing the code to resist the discrimination.
著者
高良 麻子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.126-140, 2018-07-20

変容している生活問題への対応が十分とは言えないなか,社会的に排除されている人々に対して地域を基盤とした総合的かつ包括的支援が展開されている.なかでも,制度の未整備などには法律・制度・サービスの改廃・創設を含む構造的変化を促す組織的活動であるソーシャル・アクションが必要だと言えるが,研究と実践ともに蓄積が乏しい状況である.そこで,本研究ではソーシャル・アクションの実践を体系的に把握することを目的とし,成果が確認された社会福祉士による42の実践事例を分析した.その結果,近年実践されているソーシャル・アクションは当事者の参加度が低く,かつ介入対象レベルが狭いことが明らかになった.実践プロセスは,制度などに関する課題に気づき,課題を把握し,課題理解促進や関係者の組織化を並行して行いながら,構造的変化を目的とする組織的活動を行っており,日頃からのネットワークや実践の蓄積などの基盤が不可欠だと考えられた.
著者
今井 小の実
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.1-16, 2022-02-28 (Released:2022-05-21)
参考文献数
28

本研究の目的は,1917年7月に制定された軍事救護法の成立過程を明らかにすることによって,同法の誕生が“福祉”行政の創設をもたらしたことを検証することにある.同法の成立により救護課ができ,それがその後の社会事業行政の始まりとなったことから,このような認識は従来から共有されてきたが,その具体的な検証はなされてこなかった.この研究では,陸軍省作成の法案(1916年8月)と内務省案(1917年5月)を比較検討し,軍事救護法が最終的に内務省の思惑を反映してつくられたことを検証する.その際に陸軍省が懸念を示していた四種類の救護と,最後まで抵抗を示した私設団体への委嘱を,内務省が方策を講じ,後者についてはのちの施行令に入れることによって最終的にその目的を遂げたこと,そしてそれが戦後の福祉行政にもつらなる重要な要素であったことを明らかにする.
著者
石川 時子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.5-16, 2007-05-31 (Released:2018-07-20)

本稿は,従来社会福祉においてパターナリズムという語が,自律を抑圧すると否定的に集約されがちなことから,その概念と正当化基準を検討し再考したものである.先行研究からは5つの正当化基準を導き,近年は抑圧を回避すると考えられている「自律を尊重するパターナリズム」が論じられる傾向にあることを明らかにした.この基準は,被干渉者の個別性や自律を重視する社会福祉においても,親和性の高い基準といえる.しかし,通常パターナリズムとは批判的に扱われるため,その批判がどのような思想に基づいているのかを3点に要約した.パターナリズムを必要と考える場合と批判的にとらえる場合の相違点は自律の解釈にあるといえる.最後に,自律を尊重するパターナリズムの論には,自律概念の多義性と自律概念に内在しうる価値判断によって,抑圧的に作用する場合もあり,パターナリズムの正当化基準においては十分とはいえないことを明らかにした.
著者
安梅 勅江
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.125-134, 2002-08-31 (Released:2018-07-20)

長時間保育の子どもの発達への影響について,2年後の子どもの発達に対する保育時間,育児環境,属性等の関連に焦点をあてて明らかにした。全国87保育園にて保護者と園児の担当保育専門職を対象に質問紙調査および確認のための訪問面接調査を実施した。子どもと保護者の両者から追跡データの得られた648名を有効回答とした。子どもの発達は運動発達(粗大運動,微細運動),社会性発達(生活技術,対人技術),言語発達(コミュニケーション,理解)について,担当保育士が評価票を用いて評価した。分析の結果,1)2年後の子どもの発達に関連する要因につき,年齢,性別を調整してオッズ比を求めたところ,[対人技術][コミュニケーション]では「一緒に買い物に連れて行く機会」,[理解]では「配偶者の育児協力の機会」「公園に連れて行く機会」が乏しいと有意にリスクが高くなっていた,2)すべての変数を投入した多重ロジスティック回帰分析では,2年後の子どもの発達に関連する要因として,[対人技術][コミュニケーション]では「一緒に買い物に行く機会」,[理解]では「配偶者の育児協力の機会」が乏しいと有意にリスクが高くなっていた,3)2年後の子どもの発達への有意な関連要因として,「保育時間」はいずれの分析でも有意とならないことが示された。これらより,子どもの発達保障として,家庭環境を含め子どもに対するかかわりの質向上への働きかけや,保護者へのサポートの重要性が示唆された。
著者
高良 麻子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.42-54, 2013-02-28

現代日本の社会変動やそれに伴う政策・制度機能不全を背景として,変容・拡大する生活問題を体験している人々に対しては,構造的変化を見据えた支援が必要だと考えられる.そこで本研究では,社会福祉士によるソーシャル・アクションの認識および実践実態を把握することを目的に,日本社会福祉士会会員に対する質問紙調査を実施した.その結果,(1)回収率から関心の低さが推測されること,(2)構造的変化を含めたソーシャル・アクションの認識が記述者の半数であったこと,(3)そのうちの実践者は調査対象者の24%(148)であったこと等から,本来のソーシャル・アクションを実践できている社会福祉士は一部であることが明らかになった.また,重要性を認識しながらも,実際の行動に移せない状況がみられた.このような状況に対応するためには,(1)問題および法制度課題の認識,(2)実践環境の整備,(3)ソーシャル・アクション方法の体系化が必要だと考えられた.
著者
藤原 里佐
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.146-154, 2002-08-31 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
1

障害児者福祉は,障害者自身のニーズを充足し,生活,教育,就労など,あらゆる面における権利を保障することに主眼がおかれてきた。しかし,重度・重複障害児は,日常生活を営むことや福祉サービスを利用することに際しても援助を必要とする。障害を的確に把握し,自己決定の過程を援助する「特定の人」がいることで,障害児のさまざまな社会参加が可能になる。こうした役割をになっているのが障害児の母親であり,特別の内容を伴う「ケア役割」を長期的に果たしている。一方,今日の育児や介護のあり方は多様化し,女性の意識も変化している。そうした面からも,障害児の母親役割が依然として強調され,母親が「もう1人の当事者」になっていることは再考すべきで問題である。現に心身の負担やストレスなど,障害児の母親に特化する問題は深刻である。本稿では,母親の葛藤構造と障害児ケアの特殊性に注目し,ケア役割の分散化という視座から母親役割について考える。
著者
堅田 香緒里
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.16-28, 2005

「脱工業化」社会の貧困の多くも,従来の貧困同様,社会的要因に起因するものであるが,それへの社会的対応の一つとしての再分配が十全には行われていない.こうした状況が許される背景として,特定の言説の影響が考えられる.本稿ではまず,そうした言説の一つとしてアンダークラス言説を取り上げ,それが再分配に与える影響について考察している.その結果,アンダークラス言説は,アンダークラスをアブノーマルなものとして構成することによって,再分配を脱正当化しているということが明らかになった.続いて,今日,十全な再分配を要求し得るアプローチの一つとして,ナンシー・フレイザーの「再分配と承認」アプローチを検討している.その結果,彼女のアプローチは,経済的な再分配と象徴的な承認という二側面を包含している点および承認の対象を地位に求めている点において,十全な再分配の要求ないし貧困の政治にとって有用であることが確認された.
著者
岩永 公成
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.1-10, 2002-03-31 (Released:2018-07-20)

これまで,占領期児童福祉政策に深く関与したPHW(公衆衛生福祉局,GHQ)の政策構想は不分明なままであった。そこで,本稿は,厚生省児童局の設置過程を手がかりに,PHWの政策構想の解明を課題として設定した。検討の結果,次の2点が明らかになった。第1に,PHWは「児童保護活動を行ううえで,最も障害なのは日本人の児童問題に対する無関心である」とみなしていた。したがって,占領初期,PHWは「関心を喚起し,重要性を認識させること」に腐心した。通達の作成や児童局設置の推進,女性局長の提案などは,その証左である。第2に,PHWは浮浪児問題に関与し始めた頃から,「対象児童の一般化」と「関係機関の連携」という重要な政策理念を有していた。これらの政策理念は,児童局に普通児童を対象とする企画課が設置されたこと,学校保健問題にかかわる連絡調整委員会が設置されたことからわかるように,厚生省児童局の設置により一応結実した。
著者
鵜沼 憲晴 関根 薫
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.111-123, 2007-02-28 (Released:2018-07-20)

従来の高齢者虐待研究によって明らかになった実態は,いまだ表層的である.本稿は,訪問介護員を対象にM県で行った高齢者虐待に関するアンケート調査の結果を踏まえ,虐待者のうちで最も多い「息子」に焦点をあてつつ,より具体的な実態把握および今後の支援策の提示を目的とする.なお,本稿での虐待類型は,通常の5類型に社会的虐待,医療的虐待,自虐を加えた8類型としている.まず虐待を行う「息子」の待徴として,(1)世話を行っている者と虐待者の一致率が高いこと,(2)被虐待者の要介護度に関わりなく虐待が発生すること,(3)性格・人格は「粗暴な性格」および「精神的未成熟・依存」の2タイプがある等を明らかにした.これを受け,今後の高齢者虐待防止システム構築や職員の介入・支援の視点として,以下のような課題を提起した.すなわち,担当ワーカーは,(1)粗暴もしくは依存的な性格・人格がうかがえる「息子」の実態把握と経過観察を待うこと,(2)経済的虐待を防止するうえでも高齢者の収入・預貯金の把握を行うこと,(3)親子関係の修復を目的とした長期的介入を行うこと等である.
著者
笛木 俊一
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.32-44, 2018-07-20

Main issues indicated in this paper are as shown under ; (1) Infringement the rights of homeless persons. (2) Judicial remedies for the rights of homeless persons by the Public Assistance Law Cases. (3) Present Issue ; Deprivation of 'a place to live' and the way of practical actions to realize 'the housing rights' of homeless persons in the community.
著者
中尾 友紀
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.12-22, 2005-03-31 (Released:2018-07-20)

本稿では,一般労働者を対象とした日本で最初の公的年金保険である労働者年金保険について,とくにその立案意図のひとつとされる労働移動防止の妥当性を検討し,それをとおしてこの年金の立案意図を改めて考察している.労働移動防止が立案意図に挙げられたのは,起草直前に行われた労務管理調査委員会答申にそうした内容が含まれていたと解釈されたからであり,実際にこの年金に労働移動防止の規定が設けられていたからでもあった.しかし,史料によれば,同委員会答申で提案された年金の目的は,将来に対する不安を除去し,労働者に当面の忍びがたい生活を受容させることであり,とくに鉱山労働者の精神作興を図ることであった.また,労働移動防止の規定は,それが規定された経緯から,この年金の重要性をますます高めようと,立案の最終段階になって急に付け加えられたことが明らかである.すなわち,この年金にとって労働移動防止は立案の本来的な意図ではなかったといえる.
著者
橋本 卓也 岡田 進一 白澤 政和
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.105-117, 2008-02-29

障害者の生活史を通してセルフ・エンパワメントの生成要因を分析している研究は少ない.この論文では,自立生活を送る(計画している障害者1人を含む)6人の重度障害者の生活史に焦点をあてた質的研究に基づき,彼らのポジテイヴな心理的変容と内的成長の視点からセルフ・エンパワメントの生成要因について分析を行った.その結果,(1)価値の転換,(2)感情の共有,(3)自尊感情の醸成,(4)問題解決能力の獲得,(5)自己の障害と向き合う力の獲得,(6)物事の遂行能力に関する自信,(7)物事を相対的にとらえる力が析出された.また,これらの要因は,環境との相互作用を通して獲得されたセルフ・エンパワメントの個人的・心理的生成要因であり,社会的・政治的パワーを獲得していく促進要因でもあることが明らかになった.重度障害者
著者
桜井 啓太 中村 又一
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.70-82, 2011-05-31

2005年度より全国の福祉事務所で「生活保護自立支援プログラム」が策定され,生活保護受給者に対する就労支援などの自立支援プログラムが実施されている.被保護世帯の「自立支援」が注目される反面,自立した被保護世帯の具体的な所得水準や生活状況については十分に研究がなされていない.筆者は大阪府内P市で2006〜2008年度に就労によって生活保護が廃止となった世帯(就労自立世帯)を対象に,廃止時の所得水準・雇用形態について調査を行った.本稿ではその調査結果を基に「国民生活基礎調査」「就業構造基本調査」との比較分析を行った.その結果,(1)低所得と非正規雇用によってワーキングプア化する生活保護「自立」者の存在と(2)自立後も乏しい他の社会保障給付に頼らざるを得ない世帯の現状という2点が明らかになった.
著者
宗 健
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.15-29, 2016-05-31 (Released:2019-02-15)
参考文献数
21

本稿は,社会保障審議会での住宅扶助に関する議論と住宅扶助費引き下げに反対する意見があるなか,生活保護受給世帯の住宅扶助の現状について一定の客観的分析結果を提示し,議論に資することを目的としたものである.民間の不動産情報サイトおよび家賃債務保証会社のデータを用いた分析では,以下のような結果が得られた.1)住宅扶助費は基準額近辺に集中している.2)生活保護受給者は住居選択時に基準額に強い影響を受ける.3)年収300万円未満の世帯と比較して生活保護世帯の居住水準はやや劣っている.4)地域別の募集家賃の件数分布と住宅扶助基準額の関係は地域によって異なる.5)生活保護世帯の家賃はそうでない世帯に比べて統計的に有意に高い地域が存在する.住宅扶助費の見直しとは一律の引き下げを意味するものではなく,客観的事実に基づいて適正な水準を定めることである.同時に住宅セーフティネット全般の制度を再構築する必要がある.
著者
篠原 拓也
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.38-48, 2015-08-31 (Released:2018-07-20)

わが国では児童虐待問題の深刻化に伴い種々の法改正がなされてきた.親子分離の必要性が強く説かれるなか,社会福祉学においても児童福祉の現場実践の規範に関わることであるから,児童相談所の介入に関する法整備のあり方についての議論を進めるべきである.本稿ではConvention on the Rights of the Child (=政府訳「児童の権利に関する条約」)に照らしつつ,児童相談所による親子分離について,子どもの権利への配慮のうえでどのような不備を抱えているのかを指摘した.公権力による親子分離を原則禁止しているArticle 9.1,特にjudicial review(司法審査)の文言について,客観的解釈のほか,主観的解釈・目的論解釈を含めて総合的に検討・考察した.その結果,司法による事前審査の必要性,いっそう厳密な調査の必要性など,児童相談所の権限行使についての一定の抑止力を確保しでおく必要性が指摘できた.