著者
森田 幸 根ヶ山 清 三好 そよ美 堀尾 美友紀 荒井 健 村尾 孝児
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.767-771, 2015-11-25 (Released:2016-01-10)
参考文献数
6

MRSA選択分離培地(MRSA-CI寒天培地,CHROMagar MRSA II寒天培地,MDRS-K寒天培地)について発育支持能および鑑別性能の比較検討を行った。発育支持能をMiles & Misra法により評価した結果,3種類の培地に差は認められず,ほぼ同等の発育支持能を有していた。鑑別性能については,鼻腔分泌物等の臨床材料120検体を用いて,24時間および48時間培養後に発育状況を判定した。24時間判定におけるそれぞれの培地の感度/特異度は,MRSA-CIが88.4% / 100%,CHROMagar MRSA IIが90.7% / 100%,MDRS-Kが88.4% / 100%であった。48時間判定においては,MRSA-CIが95.3% / 100%,CHROMagar MRSA IIが95.3% / 100%,MDRS-Kが95.3% / 97.4%であり,3培地ともほぼ同程度であった。また,いずれの培地においても24時間判定に比べて48時間判定で検出感度が向上した。MRSA選択分離培地は,簡便性に優れたMRSA検出法であるが,菌量が少量の場合や呈色が弱い菌株では,検出・判定が困難となることもあり,各培地の特性を十分把握したうえで適切に使用する必要があると考えられた。
著者
柳田 絵美衣 松岡 亮介 林 秀幸 西原 広史
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.131-141, 2018-01-25 (Released:2018-01-27)
参考文献数
15

北海道大学病院では2016年4月に「がん遺伝子診断部」を設置し,業務を開始した。がん遺伝子外来,診療,患者採血,核酸抽出,ライブラリー構築,シークエンス,遺伝子解析,チームカンファレンス(cancer board),遺伝カウンセリング,結果報告をすべてインハウスで行っている,院内完結型網羅的がん遺伝子解析(Clinical Sequence System in Hokkaido University Hospital for Cancer Individualized Medicine:CLHURC検査)を目的とするクリニカルシーケンスを実施する専門部署としては,国内初となった。次世代シーケンサー(next generation sequencer; NGS)を用いて独自でパネル化したがんドライバー遺伝子変異のうち最大160種類を網羅的に解析している。CLHURC検査では,患者の血液と病理組織検体から核酸を抽出し,NGSで遺伝子解析を行っている。検体は検者血液からの正常DNAと腫瘍細胞を含むホルマリン固定パラフィン包埋切片から腫瘍細胞DNAを対象としているため,検体の取扱いが重要ポイントの一つである。従来,ホルマリン固定検体からの核酸抽出は,ホルマリンの影響によりDNAの断片化が進むため,良質なDNA抽出は困難であるとされてきた。また,遺伝子解析の解釈や,遺伝子情報の取り扱いなど,様々な管理や体制が必要となる。今後,クリニカルシーケンスが導入されていく中で起こり得る課題を見据えながら,現在,運用しているクリニカルシーケンス「CLHURC検査」の取り組みを報告する。
著者
小澤 優貴 大塚 喜人
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.817-823, 2021-10-25 (Released:2021-10-25)
参考文献数
7

アナフィラキシーショックに伴うST上昇型の心電図変化を認め,Kounis症候群が疑われた2症例を経験した。症例1:70歳の女性,造影剤使用直後のアナフィラキシーショックにより,救命救急センターへ搬送された。接触時,意識レベルJCS I-3,血圧測定不可であり,心電図検査にて第II,第III誘導,aVF誘導のST上昇,V1からV5誘導でのST低下を認めた。ACSの合併が疑われたが,冠動脈の有意狭窄は認められず,ACSは否定的であったことより,造影剤によるアナフィラキシーショックによって,心電図検査のST上昇ならびに低下が顕性化されたと考えられた。症例2:59歳の男性,近医受診後に非ピリン系感冒剤顆粒とセフカペン ピボキシル塩酸塩水和物錠を内服したところ,アナフィラキシー反応が出現し,心電図検査において第II,第III誘導,aVfのST上昇を認めた。アナフィラキシーショックならびに 急性冠症候群が疑われたため,当院に紹介搬送となった。冠動脈造影では有意狭窄は認められず,アセチルコリン負荷試験は陰性であった。リンパ球幼若化反応において,それぞれ非ピリン系感冒剤顆粒とセフカペン ピボキシル塩酸塩水和物錠で陽性反応を示したことから,アナフィラキシーショックによる心電図変化と結論付けられた。Kounis症候群は,アレルギー反応に惹起されて急性冠症候群を発症する稀な疾患であることから,重篤な病態を呈する場合にはKounis症候群の可能性も念頭におき,検査・治療・観察を行う必要があると考えられる。
著者
河月 稔
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.J-STAGE-2, pp.84-89, 2017-08-31 (Released:2017-09-06)
参考文献数
25

嗅覚障害は直接的には生死に関係が少ないことや,外傷性などでない場合は症状の発現や進行が一般的に緩徐であり自覚されにくいことが原因で放置される傾向にある。嗅覚機能は,食品の腐敗への気づきや調理に関与し,ガス漏れや煙など身の危険を察知するためにも重要である。特定の認知症では嗅覚関連領域に病理学的変化が生じるため嗅覚機能の低下をきたすと考えられている。特にアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症でその報告は多く,病期の初期に障害されることがわかっている。認知機能の低下も異常な食行動を招く要因であり,認知症患者における嗅覚機能の低下を早期に発見し,アプローチすることはその後の生活の質を維持するために極めて重要である。しかし,加齢に伴っても嗅覚機能が低下することが知られており,その鑑別を正確に行うことは,現行の嗅覚検査法では困難である。一般的には,認知症の嗅覚障害のほうが重度であると報告されているが,今後,認知症の嗅覚機能の低下をより早期に発見できる検査法や,認知症患者の嗅覚障害への治療法あるいは予防法の開発が期待される。
著者
(一社)日本臨床衛生検査技師会 尿沈渣特集号編集部会
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.J-STAGE-1, pp.147-154, 2017-03-31 (Released:2017-07-11)

尿沈渣検査は,尿中に出現する成分を尿の遠心操作にて得られた沈殿物を観察する検査である。尿沈渣の標本作成における操作が単純であるにもかかわらず,尿沈渣に出現する成分は多種多様であるため,鑑別が非常に複雑である。その要因としては,尿沈渣に出現する尿中有形成分が,ひとつの成分においても様々な形態で存在することがある。たとえばシュウ酸カルシウム結晶では正八面体型とビスケット型,コマ型などが存在し,尿細管上皮細胞に至っては基本型,特殊型と細胞形態のバリエーションが多岐にわたる。このように尿沈渣検査では成分を正しく鑑別するための知識と技術が必要である。この部では,尿沈渣に出現する基本的な尿中有形成分を鑑別する知識を習得するために,最も基本となる成分の写真について「尿沈渣検査法2010」の尿沈渣アトラスを引用(一部改編)し掲載する。また「*」でマークした写真は,尿沈渣成分の新たな情報として追加したものである.この尿沈渣アトラスを利用し,各成分の特徴を捉えることをしっかりと身につけ,今後遭遇するであろう鑑別困難な成分に対しても対処できるよう,基礎知識を学習することを目的とする。
著者
滝澤 旭 佐々木 文雄 大沢 伸孝 奥田 舜治
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.204-209, 2018-03-25 (Released:2018-03-27)
参考文献数
18

我々は簡易紫外線ランプ(ブラックライト)を用いた方法で12種類の尿中蛍光物質を検出,確認した。今回,ろ紙を使った蛍光スポットテスト及び薄層クロマトグラフィー(TLC)分離により,さらに12種類の蛍光物質を検出,確認した。今回使用したブラックライトの主励起波長は350 nm,370 nmであるが,300 nm以下の紫外線も放出しており,300 nm以下に励起波長を持つ蛍光物質の検出が可能であった。ろ紙を使った蛍光スポットテスト及びTLC分離により,アミノ酸(トリプトファン,ヒスチジン),フラビン化合物(FMN, FAD),芳香族アミノ酸代謝物(ゲンチジン酸,トリプタミン,セロトニン,5-ヒドロキシインドール酢酸,スカトール,インドール),ヘモグロビン代謝物(コプロポルフィリン,ウロビリン)など12種類の蛍光物質を尿中に検出,確認した。
著者
河口 勝憲 市原 清志
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.143-154, 2015-03-25 (Released:2015-05-10)
参考文献数
17

臨床検査データは臨床の現場で病気の診断,治療経過のモニター,予後判定に利用される。しかし,病気以前に患者の身体的特性や採血条件で測定値が変化したり,測定技術上の問題で測定値が動いた可能性を常に念頭に置く必要がある。測定値が変化する原因を分類すると,病態変動,生理的変動,測定技術変動に分けて考えることができる。生理的変動は,さらに個人の年齢,性,環境,生活習慣,遺伝的因子などに左右される個体間変動と,同じ個体内でも検体採取前の体位や活動度,採血時間などで変化する個体内変動に分けてとらえることができる。本稿では個体間変動として年齢,性差,過食・肥満,喫煙習慣,飲酒習慣を,個体内変動として体位,運動の影響,日内リズム,喫煙の短期的影響,飲酒の短期的影響について変動機序とその影響を受けやすい検査項目を系統的に整理して記載する。検査データを正しく判定するには,これらさまざまな生理的変動を熟知しておくことが重要である。
著者
板橋 匠美 深澤 恵治 柿島 博志 丸田 秀夫 横地 常広
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.325-331, 2017-07-25 (Released:2017-07-29)
参考文献数
5

臨床検査技術の進歩はめざましいものがある。特にIT技術の進歩により現在でも数多くの新しい臨床検査項目の拡大がなされている。さらに,医師や看護師等の病棟スタッフは安心安全を求める現在の医療体制から多忙な状況であり,日々進化する臨床検査に対応できず,臨床検査領域については臨床検査の専門家に任せたいとする要望が多い現状がある。この状況を背景に厚生労働省では平成19年から,各医療機関の実情に応じた適切な役割分担を推進するよう周知すると共に,日本の実情に即した医療スタッフの協働・連携の在り方等をとりまとめた平成22年4月30日付けの厚生労働省医政局長通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」を提言した。これを受けて日本臨床衛生検査技師会(以下日臨技)では,病院の臨床検査室で検体を待ち,結果だけを返すという受動的臨床検査技師から,患者の居る場所に出向き,患者に寄り添い医療の一端を担うことのできる能動的な臨床検査技師への新生を目指し,現在まで様々な取り組みを行ってきた。本稿ではこれまでの日臨技としての取り組みを紹介するとともに,臨床検査技師の方向性について論じてみたい。
著者
宮原 悠太 敷地 恭子 古谷 裕美 阿座上 匠 原田 美紀 水野 秀一 中村 準二
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.331-336, 2014-05-25 (Released:2014-07-10)
参考文献数
13
被引用文献数
1

MRSAのバンコマイシン(VCM)MIC測定結果が2 μg/mlの場合,臨床においてVCM治療の失敗する可能性があることが知られている.VCM MIC測定結果は測定方法によって異なることが知られており,マイクロスキャンPos Combo 3.1Jパネル(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス社)を用いた場合,プロンプト法と基準濁度法の菌液調整方法によって測定結果が異なると報告されている.本研究ではプロンプト法と基準濁度法のVCM感受性測定結果の感度の違いを検討することを目的とした.当院で検出されたS. aureus 91株を対象として,CLSI推奨微量液体希釈法に準拠するドライプレート‘栄研’(栄研化学)の測定結果を基準とし,両法のVCM MIC測定結果を比較した.結果,ドライプレート法を基準とした一致率はプロンプト法が40.7%に対し,基準濁度法は81.3%であった.プロンプト法は基準濁度法よりも高値になる傾向が見られ,VCM MICは基準濁度法を用いて測定したほうが良かった.
著者
山中 遥 中川 浩美 佐々木 芳恵 原田 裕美 梶原 享子 大盛 美紀 津川 和子 横崎 典哉
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.580-584, 2018-07-25 (Released:2018-07-28)
参考文献数
10

乳児期の発症は稀なEvans症候群の1例を経験した。症例は生後5か月の男児。主訴は発熱と嘔吐であった。近医での血液検査で高度の貧血と血小板減少を指摘された。入院時の生化学検査では溶血性貧血を示し,直接・間接クームス試験はいずれも陽性であった。血小板関連免疫グロブリンG(PAIgG)は高値であった。骨髄所見では過形成であったが,骨髄細胞に異形成は認めずmyeloid erythroid ratio(M/E比)は低下しており,巨核球の増加を認めた。本症例では年齢が低く,膠原病や感染症などの自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia; AIHA)および特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura; ITP)をおこす主な基礎疾患があることは否定的であったため,自己免疫性リンパ増殖症候群(autoimmune lymphoproliferative syndrome; ALPS)の検索も行った。しかし,フローサイトメトリー検査や遺伝子検査からALPSは否定された。以上からEvans症候群と診断し,γグロブリン製剤や各種免疫抑制剤併用による治療が継続されている。
著者
(一社)日本臨床衛生検査技師会 尿沈渣特集号編集部会
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.J-STAGE-1, pp.154-164, 2017-03-31 (Released:2017-07-11)

尿沈渣検査は,尿中に出現する成分を尿の遠心操作にて得られた沈殿物を観察する検査である。尿沈渣の標本作成における操作が単純であるにもかかわらず,尿沈渣に出現する成分は多種多様であるため,鑑別が非常に複雑である。その要因としては,尿沈渣に出現する尿中有形成分が,ひとつの成分においても様々な形態で存在することがある。たとえばシュウ酸カルシウム結晶では正八面体型とビスケット型,コマ型などが存在し,尿細管上皮細胞に至っては基本型,特殊型と細胞形態のバリエーションが多岐にわたる。このように尿沈渣検査では成分を正しく鑑別するための知識と技術が必要である。この部では,尿沈渣に出現する基本的な尿中有形成分を鑑別する知識を習得するために,最も基本となる成分の写真について「尿沈渣検査法2010」の尿沈渣アトラスを引用(一部改編)し掲載する。また「*」でマークした写真は,尿沈渣成分の新たな情報として追加したものである.この尿沈渣アトラスを利用し,各成分の特徴を捉えることをしっかりと身につけ,今後遭遇するであろう鑑別困難な成分に対しても対処できるよう,基礎知識を学習することを目的とする。
著者
日野出 勇次 石井 宏二 大隅 理惠 渡口 貴美子 永田 雅博 藤田 香織 諏訪園 秀吾
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.44-53, 2020-01-25 (Released:2020-01-22)
参考文献数
3

【目的】看護師と検査技師双方の業務の効率化と医療安全面からFileMaker Proを用いた採血業務支援システムを構築した。システム活用による,日常業務中に起こる採血に関する問い合わせと採血管の間違いや医療安全上重要である採り直しの減少への取り組みの効果について検討した。【方法】検体採取容器をバーコード・リスト・検査項目のいずれからも検索できる新たな検索システムを設計した。その他の情報は,検索された表示画面にラベル関連・注意喚起・輸血関連と分類して表示し,さらに知りたい情報のボタンを押すと詳細な情報が閲覧できるように構築した。医師が採血オーダーを入れる前後とラベル発行のタイミングに応じて,看護師がシステムにて採血管に関する情報を検索することに対応できる。さらに看護師が検索したこれらの情報は,内容・日付・時間帯・部署についてログの収集を可能としたことでシステムの改善のフィードバックへ繋がる構造とした。【成績】このように得られた現場での情報を解析し,現場の意見に沿った改善を行った。システム運用後は,問い合わせ数,採血間違いや採り直しが大幅に減少した。【結論】新たなシステム構築により,看護師と検査技師双方の精神的負担の軽減による業務効率化が実現でき,再採血といった患者負担も減少した。他部門の問題点を共通の問題点として理解し取り組んだことは,お互いの信頼関係を強化できた取り組み内容と思われる。
著者
大国 千尋 清水 祥子 木村 紘美 藤澤 義久 堀江 稔 宮平 良満 九嶋 亮治
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.679-684, 2016-05-25 (Released:2017-01-10)
参考文献数
12

アンダーセン・タウィル症候群(Andersen-Tawil syndrome; ATS)は,(1)U波を伴う心室性不整脈,(2)周期性四肢麻痺,(3)外表小奇形を3徴とするまれな遺伝性疾患である。内向き整流性カリウムチャネルであるKir2.1蛋白をコードしているKCNJ2遺伝子の変異が原因で発症する。心電図所見としてQU延長を伴う著明なU波と頻発する心室期外収縮(PVC),2方向性心室頻拍を認め,治療にはIc群抗不整脈薬であるフレカイニドの有用性が報告されている。症例は50代女性,ATSの3徴全てを満たし,QU延長(723 msec)を伴う著明なU波,PVC頻発を認め,遺伝子検索にてKCNJ2遺伝子変異陽性であった。ホルター心電図では総心拍の24%のPVC,2方向性心室頻拍を認め,フレカイニドの導入により9%までPVCが減少,動悸症状も改善した。ATSでは,増高したU波や2方向性心室頻拍が重要な所見となるため,心電図検査,ホルター心電図の解析では,QU時間,U波高,U波幅,PVCの極性などの情報にも着目する必要がある。
著者
下地 法明 村山 未来 古野 貴未 上地 あゆみ 玉城 格 手登根 稔 赤津 義文 大塚 喜人
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.295-301, 2015-05-25 (Released:2015-07-10)
参考文献数
11
被引用文献数
1

Aeromonas属菌の腸管外感染症171症例の基礎的解析を行ったので報告する。死亡例21例,劇症型の症例5例,壊死性疾患4例(うち壊死性軟部組織感染症1例)が認められた。患者の平均年齢は73.3歳で,60歳以上が86.0%を占めていた。基礎疾患では肝胆膵系の疾患の他に糖尿病,悪性腫瘍など免疫状態の低下を招くようなものが高率に認められた。死亡例に限ってみるとその傾向はさらに強まった。臨床診断名は肝胆膵系の疾患,敗血症,誤嚥性肺炎,膿瘍・創傷感染,壊死性軟部組織感染など多岐にわたる。抗菌薬感受性検査では,TAZ/PIPC,CTX,CAZ,IPM/CS,GM,LVFX,STに良好な感受性率を示し,一方でSBT/ABPC,CEZにはほとんど耐性であった。またIPM/CSに非感受性の株も4.3%とわずかながら存在していた。これらは多剤耐性の傾向はみられなかったが,何らかの耐性機序を発現している可能性が考えられるとともに,今後もAeromonas属菌の抗菌薬耐性状況に注視していく必要があると思われた。
著者
青木 愛子 石井 里子 大倉 一晃 髙橋 真帆 酒泉 裕
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.446-451, 2023-07-25 (Released:2023-07-25)
参考文献数
15

症例は100歳女性。心窩部痛を主訴に当院を受診した。受診時,意識清明だったが,顔面蒼白で血圧低下を認めたため輸液が開始された。血液検査のために提出された採血検体は強い溶血を呈しており,再採血を含め3回の採血を行ったが,いずれも著明な溶血が認められた。また,尿定性で潜血3+,尿沈渣でRBC 1個未満/HPFと溶血の存在が示唆された。その後,症状の改善がみられず,意識レベルの低下,頻呼吸を認め,敗血症性ショックの疑いで緊急入院となった。入院時に血液培養2セットを採取し,meropenem(MEPM)にて治療が開始されたが,急速に全身状態は悪化し,入院12時間後に永眠された。採取された血液培養の2セット全てからClostridium perfringensが検出され,死亡時画像診断で肝臓に不整なガス像が認められた。
著者
野田 明子 宮田 聖子
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.66, no.J-STAGE-2, pp.95-105, 2017-08-31 (Released:2017-09-06)
参考文献数
22

睡眠障害・睡眠不足は認知症のリスクファクターであり,認知症の発症・重症化の予防において睡眠検査は有用である。睡眠の客観評価法として,終夜における睡眠深度・睡眠中の呼吸循環の生理現象を総合的に評価する睡眠ポリグラフ検査,睡眠覚醒リズムを評価するアクチグラフィ,過眠症の診断や治療効果の判定として実施される反復睡眠潜時検査および在宅で行うことができる簡易睡眠呼吸障害検査がある。主観的睡眠検査として,ピッツバーグ睡眠質問票およびエプワース眠気尺度は睡眠障害のスクリーニングとして日常臨床で汎用されている。また,睡眠日誌はアクチグラフィとともに概日リズム睡眠障害の診断に必須の検査である。これらの睡眠検査の臨床的意義,検査方法および評価を十分理解し,実施することが重要である。
著者
福田 雅子 中森 正博 今村 栄次 小川 加菜美 西野 真佐美 平田 明子 若林 伸一
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.527-533, 2020-10-25 (Released:2020-10-29)
参考文献数
19

認知症診療において臨床検査技師も積極的に神経心理学的検査を行うようになっている。その中に,軽度認知障害(mild cognitive impairment; MCI)の評価スケールとして開発された日本語版Montoreal Cognitive Assessment(MoCA-J)がある。今回,MoCA-Jの特性を検証するため,当院外来でMoCA-Jを施行した患者75名を対象とし,リスク因子との関連を頭部MRI所見を含めて後方視的に解析した。また認知症疾患ごとにMoCA-Jサブスコアでの検討を行った。平均年齢74.6 ± 9.1歳,MoCA-J中央値21(最小値8,最大値30)であった。認知機能正常者においてMoCA-Jと関連する因子の多変量解析を行ったところ,脳室周囲高信号域(periventricular hyperintensity; PVH)は有意に独立した相関因子であった。疾患毎のMoCA-Jサブスコアの比較を行ったところ,血管性認知症では注意・遂行において正答率の低値が認められた。また,記憶の正答率は認知機能正常者も含めてすべての群で低かったが,認知機能正常者,MCI,認知症の順で 顕著に低下していた。MoCA-Jは特に前頭葉機能を反映する注意・遂行の配点が高いことが特徴である。その点を踏まえて脳画像所見との比較や認知機能低下の鑑別に活用する意義は大きいと考えられた。
著者
大出 恭代 並木 美奈 川名 孝幸 喜納 勝成 中澤 武司 川島 徹 三宅 一徳 佐々木 信一
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.25-31, 2022-01-25 (Released:2022-01-25)
参考文献数
13

病院診療において,有症状者COVID-19疑い患者の診断検査と無症状病原体保有者のスクリーニング検査は区別して考えなくてはならない。今回我々は有症状でCOVID-19疑い患者の診断検査と無症状病原体保有者のスクリーニング検査を実施した2群について,抗原定量検査の有効性と問題点について検討した。対象は2020年11月から2021年5月の期間で,RT-PCR検査とSARS-CoV-2抗原定量検査を同日提出された有症状COVID-19疑い患者群277検体,無症状者スクリーニング検査群1,781検体の合計2,058検体について後ろ向き解析を行った。その結果,有症状COVID-19疑い患者群では抗原定量値 ≥ 0.36 pg/mLを陽性とした場合は感度95.9%,特異度80.4%,無症状者スクリーニング検査群では抗原定量値 ≥ 0.83 pg/mLを陽性とした場合は感度100%,特異度99.5%であった。今回の解析で,抗原定量検査は無症状者のスクリーニング検査としては非常に高い有効性が認められたが,一方で同検査を有症状患者の診断目的で用いる場合は,感度・特異度が若干低下するため,その特性をしっかりと理解し,臨床症状,画像診断,PCR検査や抗体検査を組み合わせた総合的な判断が必要である。
著者
藤 洋美 德重 智絵美 惠良 文義 樋口 尚子 結城 万紀子 梶原 希望 大場 ちなみ 嶋田 裕史
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.685-690, 2021-10-25 (Released:2021-10-25)
参考文献数
9

選択培地のみでMethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)の判定を行う目的で,ブドウ球菌選択培地5種類についてStaphylococcus aureusの検出性能を検討し,MRSAスクリーニング培地7種類については,各培地のMRSA検出性能を薬剤感受性試験と比較した。検証にはMRSA 28株,Methicillin-susceptible Staphylococcus aureus(MSSA)17株,S. aureus以外のブドウ球菌(non-S. aureus)15株の計60株を使用した。その結果,ブドウ球菌選択培地のS. aureusの検出感度は91%~100%,特異度は87%~100%であり,MRSAスクリーニング培地のMRSA陽性的中率は90%~100%,陰性的中率は94%~100%であった。培地によるS. aureusおよびMRSAの判定を行う場合は,その培地の特性を理解して検査を進めることが重要であると考えられた。
著者
河野 浩善 三好 夏季 竹野 由美子 山本 真代 沖川 佳子 野田 昌昭 兼丸 恵子 飯伏 義弘
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.612-619, 2016-05-25 (Released:2017-01-10)
参考文献数
23

近年,真性赤血球増加症(PV)の約98%でJAK2-V617FまたはJAK2 exon 12変異を認め,本態性血小板血症(ET)の約80%でJAK2-V617F,MPL,CALR変異のいずれかを認めることが報告されている。今や骨髄増殖性腫瘍において遺伝子変異の解析は診断上必須であるにもかかわらず,限られた施設でしか検査できないのが現状である。我々は,PV,ETおよび各反応性血球増加症における末梢血液検査データについて後方視的解析を行い,スクリーニングへの応用やJAK2-V617F変異の予測について検討した。その結果,IPF countはPVおよびET症例群で有意に高値を示し,NAP scoreはPVおよびETの中でもJAK2陽性症例群において有意に高値を示すことが分かった。さらに,JAK2-V617F変異予測におけるROC解析の結果,IPF countおよびNAP scoreはAUCが0.9以上と予測能が高かった。我々はIPF countのカットオフ値を10,000/μL(真陽性率100%,偽陽性率16.7%),NAP scoreを250(真陽性率85.7%,偽陽性率25.0%)に設定し,症例をIPF count 10,000/μL未満&NAP score 250未満のA群,IPF count 10,000/μL未満&NAP score 250以上のB群,IPF count 10,000/μL以上&NAP score 250未満のC群,IPF count 10,000/μL以上&NAP score 250以上のD群に分類した。A,B群には各反応性血球増加症が91.7%と高率に含まれ,D群はJAK2変異陽性率が94.7%と高かった。このように,PV,ETにおいてIPF countおよびNAP scoreは,反応性血球増加症例との鑑別に有用であり,迅速かつ簡便にJAK2-V617F変異を予測できる可能性が示唆された。