著者
中川 愛 松村 京子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.192-199, 2010-06-20 (Released:2017-10-28)
被引用文献数
1

本研究では,女子大学生の乳児への関わり方が乳児との接触経験により違いがみられるかどうかについて,あやし行動,あやし言葉,音声の視点から検討を行った。実験参加者(18〜23歳)は,乳児との接触経験がある女子大学生16名(経験有群),乳児との接触経験がない女子大学生14名(経験無群)である。対象乳児は,生後3〜4ヶ月児(男児3名)である。実験の結果,あやし行動は,乳児との接触経験有群の方が,経験無群よりも,乳児への行動レパートリーが多く,乳児のぐずりが少なかった。あやし言葉は,経験有群が経験無群よりも発話レパートリーが多く,乳児の気持ちや考えを代弁するような言葉かけをした。音声については,両群ともに乳児へ話しかける声の高さは高くなり,Infant-directed speechの特徴が出現した。さらに,発話速度については,経験有群の方が,ゆっくりと話しかけていた。以上のことから,乳児と接触経験をもっている女子大学生は,多様なあやし行動を身につけていることが示唆された。
著者
山村 麻予 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.219-229, 2023 (Released:2023-10-13)
参考文献数
45

本研究は,これまで向社会的行動の研究で取り上げられづらかった「様子を見守る」「待つ」といった能動的ではない行動を「非表出的向社会的行動」として取り上げ,その認知について,児童を対象に検討したものである。具体的には,同一場面において生起する向社会的行動のうち,表出的行動と非表出的行動に対する評価が,発達的にどのように異なるかを質問紙調査にて検討した。予備調査から抽出された4場面を用い,小学校4年生と6年生を対象に,提示された行動が向社会的であるかの判断を調査した。その結果,向社会的行動であるかの評価には学年差は検出されず,表出的な行動が非表出的な行動に比べて向社会的だと評価された。児童期を通し,直接的な援助行動が生起している場合がより向社会的であると判断されることが明らかになった。さらに,学年と行動種別の交互作用が有意となり,非表出的行動に対する向社会的評価は,小学校6年生が4年生よりも高かった。これにより,行動が顕在的でない場合に,その向社会的意図を認知する能力に発達差がみられることが明らかとなった。
著者
中井 大介 庄司 一子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.57-68, 2008-05-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
18

本研究の目的は,学校教育における教師と生徒の信頼関係の重要性と,思春期における特定の他者との信頼関係の重要性を踏まえ,中学生の教師に対する信頼感と学校適応感との関連を実証的に検討することであった。中学生457名を対象に調査を実施し,「生徒の教師に対する信頼感尺度」と「学校生活適応感尺度」との関連を検討した。その結果,(1)生徒の教師に対する信頼感は,生徒の「教師関係」における適応だけではなく,「学習意欲」「進路意識」「規則への態度」「特別活動への態度」といった,その他の学校適応感の側面にも影響を及ぼすこと,(2)各学年によって,生徒の教師に対する信頼感が各学校適応感に与える影響が異なり,1年生では教師に対する「安心感」が一貫して生徒の学校適応感に影響を与えていること,(3)一方,2年生,3年生では「安心感」に加えて,「不信」や「役割遂行評価」が生徒の学校適応感に影響を与えるようになること,(4)各学年とも,生徒の教師に対する信頼感の中でも,教師に対する「安心感」が最も多くの学校適応感に影響を及ぼしていること,(5)「信頼型」「役割優位型」「不信優位型」「アンビバレント型」といった生徒の教師に対する信頼感の類型によって生徒の学校適応懸か異なること,といった点が示唆された。
著者
渡辺 恒夫
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.408-417, 2011-12-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
1

内面から見られた人格(パーソナリティ)である自己の発達に焦点を当て,人格発達の著しい質的転換点とみなされてきた第二の誕生の謎に肉薄する。Rousseau以来,第二の誕生は思春期の到来の時期に想定されてきたが,青年期静穏説の台頭によって最近は影が薄い。2節では,自己の発達について考察すべく,代表的な自己発達理論として,Neisserの5つの自己説を検討し,私秘的自己のみが未解明にとどまっていることを見出した。次にDamonとHartの自己理解発達モデルを検討し,自己の各側面間の発達的ズレ(デカラージュ)という知見を得た。3節では,古典的青年心理学で第二の誕生として論じられた自我体験と,その日本における研究の進展を紹介し,4節で,第二の誕生の秘められた核は自我体験であり,その奥には私秘的自己と,概念的自己など他の自己との間の矛盾の気づきがあるという仮説を提示した。5節では,私秘的自己の起源をメンタルタイムトラヴェルによる自己の二重化に求めるアイデアと,自己理解と他者理解の間のデカラージュを克服しようとする運動そのものが新たに矛盾を生じるという,生涯発達の構想が提示された。6節では,第二の誕生のテーマを再び見出すため,一人称的方法による人格発達研究の復権が唱えられた。
著者
上村 有平
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.132-138, 2007-08-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
3

本研究の目的は,(1)青年期後期において,自己受容が高く他者受容が低い者と,自己受容が低く他者受容が高い者の特徴を記述すること,(2)自己受容と他者受容がバランスよく共存していることが,より適応的かつ成熟した状態にあることを明らかにすること,(3)自己受容と他者受容の関連を,発達心理学的観点から検討することであった。124名の大学生(平均年齢20.46歳)を対象に,自己・他者受容尺度と個人志向性・社会志向性PN尺度を実施した。自己受容および他者受容得点の高低によって調査対象者を4群に分類し,各群の特徴を検討した。その結果,自己受容が高く他者受容が低い者は,自己実現的特性が高い反面,社会適応的特性が弱いという特徴が見出された。自己受容が低く他者受容が高い者には,自己実現的特性が弱く,過剰適応的傾向が強いという特徴が見られた。また,自己受容と他者受容がともに高い者には,4群の中で最も適応的かつ成熟した特徴が見られ,青年期後期において,自己受容と他者受容がバランスよく共存していることが,より適応的かつ成熟した状態にあることが明らかにされた。
著者
蒲谷 槙介
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.507-517, 2013 (Released:2015-12-20)
参考文献数
33
被引用文献数
2

近年,アタッチメントの世代間伝達の枠組みの中で,母親がいかに乳児のネガティブ情動を共感的に映し出すかという調律的応答を重視する立場が台頭しつつある。本稿では,前言語期の乳児とその母親を対象とした相互作用場面の観察を実施し,母親が実際にどのような調律的応答を行うのかを検証した。回帰分析の結果,内的作業モデルが安定傾向の母親は乳児のネガティブ情動表出に対し「笑顔を伴った心境言及」を行いやすい一方,不安定傾向の母親は心境言及を行わない,もしくは心境言及を含まない応答をしやすいことが明らかとなった。また,気質的にむずかりやすい乳児と,内的作業モデルのうち回避の側面が強い母親の組合せでは,「笑顔を伴った心境言及」が特に生起しにくいことが明らかとなった。この応答はこれまでの理論的枠組みでは見逃されてきた調律的応答の一種と考えられ,子どもの社会情緒的発達を促進する一つの要因として今後着目すべきものである。
著者
内田 伸子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.30-40, 1990-07-25 (Released:2017-07-13)
被引用文献数
2

The purpose of this study was to examine what role "deficit-complement" schema played in a thematic integration of narrative sequences and how the schema developed. Eighty-four4-year-old (4:10-5:5) and 5-year-old 5:10-6:5) children were divided into three homogeneous groups (14 subjects each), and assigned to one of three conditions : the deficit condition where the children were informed that the character was in the deficit state, the non-deficit condition where they were informed that the character was in the complement state, and the control condition where no information about the character was given. The children were shown a drawing story, asked to describe each picture and, after interpreting all the pictures, to recall the story without the pictures, to answer 10 questions about the character's feeling. The results showed that the children in the deficit condition could grasped the pictures as a story, and construct the thematic and coherent interpretation of them, while the children in the other two conditions often failed to integrate the pictures into a story. Especially, in the non-deficit condition, the degree of erabolation of description were lower than in the other two conditions. In the recall and comprehension tasks, these trends were confirmed. From these results, it was suggested that the information about the the deficitsituation of the character enhanced the integration of narrative sequences as a cognitive framework through the activation of 'deficit-complement' schema.
著者
天谷 祐子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.221-231, 2002-12-20 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
3

「私はなぜ私なのか」「私はなぜ存在するのか」「私はどこから来たのか」「私はなぜ他の時代ではなくこの時代に生まれたのか」といった問い等,純粋に「この私」,世界も身体も剥ぎ取った純粋な「私」といった意味での「私」についての「なぜ」という問いが発せられる現象-自我体験-を解明することが本研究の目的である。自我体験が一般の「子ども」に見られるという仮定のもと,先行研究や哲学の存在論的問いを参考に,自我体験の下位側面を「存在への問い」「起源・場所への問い」「存在への感覚的違和感」と仮定した。そして中学生60名を対象として,半構造化面接法により自我体験の収集を行った結果,38名から51体験の自我体験が得られた。そして自我体験の3つの下位側面がそれぞれ報告され,小学校後半から中学にかけてを中心としたいわゆる「子ども」時代に初発することが示された。自我体験は子どもにとっては身近なものであることが示された。
著者
大隅 順子 松村 京子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.318-325, 2013 (Released:2015-09-21)
参考文献数
33
被引用文献数
1

本研究は,知的障害特別支援学校で学ぶ中学生を対象に,教材中の文字部分を注視させる際の支援方法として,特別支援学校の現場で一般的に使用されている,文字を指し示す指示棒,アンダーライン,音声を用いたときの効果の違いについて明らかにした。自閉症児23名,知的障害児12名に対して,文字部分への視線停留時間,視線停留回数,最初の視線停留継続時間をアイトラッカーを用いて測定した。文字部分への注視の支援に指示棒やアンダーラインを用いたときに,視線停留時間,視線停留回数,最初の視線停留継続時間での主効果が有意であり,効果が認められた。音声を用いたときには,そのまま文字部分に視線を停留させる効果は認められなかった。今回の支援教材に関してはいずれも教材中の挿絵の影響はなかった。本研究の結果は指示棒やアンダーラインを使って見るべき箇所に視線を誘導する支援教材が有効であることを示唆している。いずれの方法も障害による効果の差はみられなかった。
著者
高坂 康雅
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.33-41, 2013-03-20 (Released:2017-07-28)

本研究の目的は,恋人のいる大学生を対象とした3波のパネル調査によって,アイデンティティと恋愛関係との間の因果関係を推定することであった。恋人のいる大学生126名を対象に,多次元自我同一性尺度(谷,2001)と恋愛関係の影響項目(高坂,2010)への回答を求めた。得られた回答について,交差遅れ効果モデルに基づいた共分散構造分析を行った。その結果,恋愛関係からアイデンティティに対しては, Timel及びTime2の「関係不安」得点がTime2及びTime3のアイデンティティ得点にそれぞれ影響を及ぼしていることが明らかとなった。一方,アイデンティティから恋愛関係に対しては有意な影響は見られなかった。これらの結果から,アイデンティティ確立の程度は恋愛関係のあり方にあまり影響を及ぼさないとする高坂(2010)の結果を支持するとともに,Erikson(1950/1977)の理論や大野(1995)の「アイデンティティのための恋愛」に関する言及を支持するものであり,青年が恋愛関係をもつ人格発達的な意義を示すことができたと考えられる。
著者
長滝 祥司
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.171-182, 2020 (Released:2022-12-20)
参考文献数
39

本論の最初のテーゼは,「世界やそのなかの出来事,事物などに関するわれわれの認識はすべて媒介されている」というものである。哲学の歴史を振り返ると,世界や事物を認識するさいにそれを媒介するメディアは,志向的形質や心的表象,言語や数学など,多くのものがあった。とくに,ガリレオが世界を捉えるメディアを数学としたことで,近代の科学的世界像が登場することとなった。また,科学技術が重要な認識のメディアとなったのは,ガリレオが望遠鏡を手にしたときである。現代のディジタル・デバイスも,人間の認識や行動を形成するメディアであるという意味でガリレオの望遠鏡の末裔である。本論の目的は,人間の認識と行動をメディアという観点から捉え,その文脈のなかにディジタル革命を位置づけること,ディジタル革命が社会にもたらしつつある事態について哲学的観点をふまえて分析したうえで,「傷つきやすさ」という概念に依拠して道徳の起源に解明の光をあてること,である。以上の作業をつうじて,ディジタル・メディアの今後のあり方について,ささやかな提言を行う。
著者
松本 拓真
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.186-196, 2015 (Released:2017-09-20)
参考文献数
27
被引用文献数
2

自閉症スペクトラム障害を持つ子どもの受身性は,Wing & Gould(1979)から指摘され,思春期以降のうつやカタトニアの要因として注目され始めているが,それ以前の時期では適応の良さとして軽視されがちだった。本研究では思春期以前に受身性が固定化する要因を明確にすることを目的に,自閉症スペクトラム障害の子どもを持ち,受身性を意識している親11名に半構造化面接を行った。データを修正版グラウンデッドセオリーアプローチにより分析したところ,15概念が生成され,6カテゴリーが抽出された。【支援への受身的な状態】から「意志表出主体として認められる」ようになる間に【意志か社会性かの揺れ動き】という独特の状態が介在し,受身性の固定化への影響が示唆された。このカテゴリー内には,【やるけどやらされてる感】という特殊な状態があり,親の求めに応じられるがゆえに受身的になる特徴が見られ,自己感の問題が推測された。その状態は親に強要か適切な指導かという葛藤や子どもの人生全てを背負うかのような責任感という苦悩をもたらしていた。また,受身性から脱却する変化の前に親が深刻な悲嘆や強い後悔を体験することも見い出され,子どもの受身性により生じた親の苦悩が受身性の固定化の一因となる相互作用が示唆された。本研究で得られたモデルはサンプルの偏りなどの点で限定されたものではあるが,更なる検討により精緻化が可能だと考えられる。
著者
中島 俊思 岡田 涼 松岡 弥玲 谷 伊織 大西 将史 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.264-275, 2012-09-20 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1

本研究では,発達障害児の保護者における養育スタイルの特徴を明らかにすることを目的とし,定型発達児の保護者との比較および子どもの問題行動,保護者の精神的健康との関連について検討した。対象者は発達障害児の保護者139名であり,質問紙調査によって,養育スタイル,子どもの問題行動(SDQ),子どものADHD傾向(ADHD-RS),保護者の抑うつ(BDI-II),睡眠障害(PSQI-J)を測定した。その結果,養育スタイルについては,発達障害児の保護者と定型発達児の保護者とで差がみられ,発達障害児の保護者においては,肯定的関わりや相談・つきそいの得点が低く,叱責,育てにくさ,対応の難しさが高い傾向がみられた。また,子どもの問題行動やADHD傾向が高いほど,肯定的関わりや相談・つきそいが低く,叱責,育てにくさ,対応の難しさが高い傾向がみられた。精神的健康については,肯定的関わりや相談・つきそいは抑うつ,睡眠障害と負の関連を示し,叱責,育てにくさ,対応の難しさは正の関連を示した。以上の結果から,発達障害児の保護者における養育スタイルの特徴が明らかにされた。最後に,養育スタイルに対する発達臨床的な介入の必要性について論じた。
著者
向井 隆久 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.158-168, 2010-06-20 (Released:2017-07-27)

本研究の目的は,心的特性の起源(氏か育てか)に関する概念の発達を説明する上で,「概念は,状況・文脈から独立にあらかじめ成立している(伝統的概念観)のではなく,概念と状況・文脈が互いに整合する形で構成されて初めて成立する」という概念観の妥当性・有効性を検討することであった。そのため,小学2〜6年生300名を対象に,特性の起源を問う課題構造は同一であるが,子どもに認知される課題状況・文脈に違いがあると想定される2つの課題(乳児取り替え課題,里子選択課題)を用意し,状況・文脈の違いによって,特性の起源に関する認識に違いが生じるのか否かを実験的に検証した。特に本研究は,あらかじめ場合分けされた知識・概念では対応できないような,場に特有の内容で子どもに認知される状況・文脈(目標解釈や思い入れ,意味づけ)に着目した。結果は,乳児取り替え課題では,特性の規定因を'生み育て両方'とはみなしにくい低学年児の多くが,里子選択の状況では高学年児と同等に'生み育て両方'を規定因とみなし,特性の起源に関する認識が状況・文脈に整合する形で即興的に構成されることを示した。こうした結果を受けて考察では,子どもの示す理解の仕方は状況・文脈と一体となって絶えず変動するとみなし,「状況・文脈と概念との相互依存的で整合的な構成のされ方の変化」として概念変化を捉えることが適切ではないかという新たな概念観の有効性を議論した。
著者
野村 信威 橋本 宰
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.75-86, 2001-07-15 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
4

本研究における目的は,老年期における回想という行為と適応との関連について検討することである。また回想において適応と関連を示す要因は,回想行為そのものよりも回想の質であるという仮説のもとに,「回想の情緒的性質」および「過去のネガティブな出来事を再評価する傾向」を測定する尺度を作成し,これらの要囚と人生満足度や抑うつ度などとの関連について,老人大学受講者208名および大学生197名を対象に質問紙調査による検証を試みた。その結果,世代や性別によりその関連の仕方は異なるものの,回想の情緒的性質が適応度と関連することが認められ,ネガティブな出来事の再評価傾向は主に青年期で,回想量は老年期の男性で特徴的に適応度を説明した。そのため老年期の男性で頻繁に過去を振り返ることは適応度の低さと関連すると考えられた。さらに老年期の男性のみに,ポジティブな回想の想起しやすさと回想量との交互作用が認められ,ポジティブな回想と適応度の関連する程度は回想量によって異なると考えられた。
著者
藤崎 亜由子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.109-121, 2002-08-10 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
2

飼い主がペット動物の「心」をどのように理解しているのかを調べるために,実際のやりとり場面の観察を行った。イヌの飼い主22人,ネコの飼い主19人に自分のペット動物をビデオカメラで撮影してもらい,その中に含まれる飼い主の発話及び行動について分析を行った。併せて質問紙調査も行った。その結果,飼い主は動物の注意を引く為に発話を行うことが最も多く,次いで動物に対して内的状態を尋ねたり,状況を問う等の質問形式の発話が多く見られた。また,動物の内的状態への言及は,イヌ・ネコの飼い主とも「感情状態」が最も多かった。特に,飼い主が動物に内的状態を付与することが多かった場面は,飼い主の働きかけに動物が無反応であったり,回避行動をとる場面であった。イヌ・ネコの飼い主で比較した結果,人はイヌよりもネコに対してより微妙な顔の表情を読みとるなど,動物に対する飼い主の発話及び行動にはいくつかの違いが認められた。しかし,質問紙の回答からは,イヌ・ネコという全く異なる二種の動物に対する飼い主の「心」の理解には違いが無いことが示された。以上の結果は,人のペット動物に対する「心」の読みとり,関わり方には,幼い子どもに対する育児的な関わり方といくつかの共通点があるという視点から議論された。
著者
佐々木 真吾 仲 真紀子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.118-129, 2020 (Released:2022-09-20)
参考文献数
38

本研究では,小学1年生62名と4年生58名,大学生60名を対象に,出来事の想起における,「だいたいでよいので教えて下さい」と「できるだけ正確に教えて下さい」という異なる質の報告を求める教示の効果を検討した。実験では,小学校生活で体験する出来事を口頭で提示し,「だいたい(概ね教示)」「正確(正確教示)」の教示で想起を求めた。研究1では両教示をそれぞれ個別に(参加者間要因),研究2では両教示を対比した状況で実施し(参加者内要因),想起の文脈の効果を検討した。その結果,教示が個別に行われる場合,正確教示では,重要度の高い情報が多く報告され,一方で概ね教示では重要度の低い情報の報告が控えられた。さらに,教示が対比されて行われる場合,正確教示では,重要度の高い情報が逐語的に報告されるようになり,概ね教示では重要度が中程度の情報も控えられるようになった。ただし,概ね教示の効果には年齢差があり,児童は大学生に比べて情報を控えることが困難であった。以上の結果から,出来事の想起における正確教示,概ね教示は,想起の文脈によりその解釈が変化し,情報量のコントロールを導いたり,情報の詳細さのコントロールを導いたりすることが示唆された。これらをふまえ,子どもから正確で詳細な情報を得るための司法面接への応用的示唆を考察した。
著者
清水 弘司
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-10, 1999-05-20 (Released:2017-07-20)

本研究は, 幼児期の母子分離のタイプと青年期の自己像との関連を検討して, 母子分離型にあらわれた母子関係の影響について追跡資料を提供することを目的としている。幼児期に母了分離場面を週l回1年間観察した年間推移パターンから, 当初より安定して母子分離できる分離群 (40人), 当初は母子分離できないが最終的には安定して母子分離できるようになる安定化群 (38人), 最後まで母子分離が不安定である不安定群 (30人) の3群に母子分離型を分類した。高校生・大学生になった時点で, 自己像と転機について追跡調査を実施して母子分離型3群間で比較した。分散分析の結果, 自己信頼感は分離群が不安定群より高かったが, 受動的自己コントロール・社会性・能動的自己コントロール・不安感は3群間に差がなかった。杜会性には転機の影響が認められ, 発達過程での体験によって変化が生じることを示していた。青年期の自己像との関違を検討してみると, 転機の影響もあるので, 幼児期の母子分離型が後の社会的発達を規定するという結果はえられなかった。