著者
垣花 真一郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.237-247, 2015 (Released:2017-09-20)
参考文献数
28
被引用文献数
3

幼児の仮名文字の読みの正答率に影響する文字側の諸要因を検討した。清音文字,濁音文字,半濁音文字の正答率のデータは3–5歳の183名のデータを用い,拗音表記の正答率のデータは3–6歳の277名のデータを用いた。検討した要因は,(1)文字別の出現頻度,(2)字形の複雑さ,(3)五十音図の掲載順,(4)母音,(5)類似文字の有無,(6)濁音規則の例外,であった。文字種ごとに,文字別の正答率を目的変数,各要因を説明変数とした重回帰分析を行った。清音文字については,(6)を除く要因を検討した結果,五十音図の掲載順要因が有意であり,出現頻度,類似文字の有無が有意傾向であった。濁音文字については,(1)~(6)を検討し,出現頻度が有意であり,五十音図の掲載順,類似文字の有無が有意傾向であった。拗音表記については,(1),(2)のみを検討したが,出現頻度のみが有意であった。本研究の結果は,仮名文字の習得過程には,文字の形態を識別する視知覚の発達といった言語普遍的な側面だけでなく,文字別の頻度や五十音図といった言語・文化固有の側面が関与していることを示唆している。
著者
小椋 たみ子 増田 珠巳 浜辺 直子 平井 純子 宮田 Susanne
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.153-165, 2019 (Released:2021-09-30)
参考文献数
39
被引用文献数
1

本研究は9,12,14,18,21,24ヶ月児の158名の母親の5分間の発話を分析し,対乳児発話の語彙面にあらわれた特徴を明らかにした。また,このうち127名の子どもの言語発達の追跡調査を33ヶ月時点で行い,対乳児発話がその後の子どもの言語発達へいかなる効果を及ぼすかを明らかにした。対乳児発話の種類を育児語(名詞系,動作名詞系,形容詞系,コミュニケーター系),オノマトペ,接尾辞の付加,音韻転化の4種類に分類し,タイプとトークンの発話単位頻度を算出した。観察時点ではオノマトペだけが年齢間で有意な差があった。各対乳児発話の語彙の内容を詳しくみると,オノマトペは反復,および特殊拍がついたオノマトペ標識の頻度が高かった。育児語は動作名詞系が有意に高かった。音韻転化は語の一部が拗音で発音されていた。対乳児発話のその後の子どもの言語発達への効果は,14ヶ月時点の母親の育児語が追跡33ヶ月の子どもの成人語表出語数を予測していた。育児語は,子どもが語と対象の間の恣意的な結びつきのルールを学習する足場づくりの役割をもっていることを育児語の類像性の観点から考察した。
著者
金丸 智美 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.183-194, 2004-08-20 (Released:2017-07-24)

本研究の第1の目的は,母子葛藤場面における2歳児の情動調整プロセスを,子どもの不快情動変化として捉え,その個人差を検証することである。第2,第3の目的は,この個人差と,情動調整行動及び母子関係性,すなわち「情動の利用可能性」(emotional availability:以下EA)の葛藤場面前後の変化との関連性を検討することである。さらに第4の目的として,情動調整プロセスのタイプごとの母子相互作用の特徴を記述し,2歳児の情動調整の特徴を明らかにする。2歳前半の子どもとその母親41組を対象に,実験的観察を行った。その結果,不快情動変化タイプは,「継続型」・「沈静型」・「非表出型」に分類された。「継続型」の子どもは,不快情動の原因を除去する積極的な働きかけを行った。「非表出型」の子どもは,自ら気紛らわしや他の活動を行い,母親は子どもの自発性や能動性に寄り添っていた。「沈静型」の母親は子どもの不快情動を沈静するための積極的な働きかけを行い,sensitivityとstructuringが葛藤場面で高くなった。以上より,自律的な調整や,原因を除去しようとする能動性が可能になり始めるが,不快情動が沈静するには,母親の助けを必要とするという,自律性と他律性が混在する2歳児の情動調整の特徴が明らかになった。
著者
小田切 紀子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.245-256, 2003

本研究の目的は,大学生男女646人を対象にして,離婚と離婚家庭に対する否定的意識の形成過程について検討することである。そのために,離婚観,結婚観,性役割観,育児観,家族の信頼感を尋ねる質問紙調査を実施した。その結果,離婚と離婚家庭に対する否定的意識の形成には,結婚と育児に対する意識が関与しており,「伝統的結婚観」,「結婚への期待」,「育児に対する拘束感」が強いほど,離婚と離婚家庭に対して否定的な判断をする傾向が明らかになった。また,離婚に対する否定的意識の形成過程には性差が認められ,性役割を受容していることが,男子の場合は「育児に対する拘束感」を介して,女子の場合は結婚,育児への肯定的意識を介して,離婚に対する否定的意識を強める傾向が明らかになった。以上から,結婚経験のない大学生は,将来の結婚や育児に対する期待や考えをもとにして,離婚に対する否定的意識を形成していることが明らかになった。このことは,離婚が思いこみや固定化されたイメージで判断されていると推測でき,離婚や離婚家庭の実情についてより深く理解することで,それらへの否定的意識が低減する可能性が示唆された。
著者
大泉 郷子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.133-142, 1997-07-30 (Released:2017-07-20)

空間探索においては, 水平面上でのずれと同時に眺めの高さのずれ, すなわち垂直方向のずれを補償することが必要とされる。本実験は上から見た眺めを真横から見た眺めに重ね合わせる心的操作がいつ頃から可能になるのかを吟味し, それにより幼児の空間認知の発達過程を明らかにすることを目的とした。実験1では2, 3歳児を対象に4つの筒を台上においた実験的な環境を上から眺めさせ, その後装置の周りを0度または180度移動して装置の上から, あるいは真横から4カ所の隠し場所を探索させた。その結果, 2歳児は眺めに変化のない, 空間記憶の条件でのみ有意に正答したのに対し, 3歳児は水平面上および垂直方向のずれを補償して探索することができた。実験2では実験1で空間記憶に基づく探索が完全にできた子どもを対象に, 眺めの高さがある時, ない時の90度と180度移動の効果の差を吟味した。水平面上のずれ, 眺めの高さのずれともそれぞれ補償は困難であったが, 垂直方向, 水平面上のずれがともに存在する場合は, ずれが一方だけの時よりもさらに補償が困難であることが明らかになった。また90度移動の方が180度移動の補償よりも困難であったことから, 視覚的イメージを操作する方略よりも空間を次元的に捉える方略が用いられたと考えられる。
著者
浜田 寿美男
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.20-28, 2009-04-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

発達心理学の研究はこの数十年で大きく躍進し,日本発達心理学会の会員数も設立時に比べて約10倍に達している。その背後で発達心理学に対する一般の期待が大きくなり,これを職業とする人が増え,それだけ発達心理学はこの社会のなかで制度化してきた。それは一面において歓迎すべきことであるが,他方において研究そのものがその制度化の枠に閉じることにもつながる。結果として,発達心理学がとらえるべき人間の世界が,その既成の理論と方法によって切りそろえられる危険性を抱えている。たとえば子どもたちの生きる生活世界がその個体としての能力・特性の還元されることで,その能力・特性の発達は見ても,その能力・特性でもってその子どもがどのような生活世界を生きているかというところに目がいかない。臨床発達心理士の資格化なども,この種の個体能力論を超える道を探ることなく,この枠組のなかで自足してしまえば,人間の個体化の波に飲み込まれて,人と人との本来的な共同性をそこなうものになりかねない。発達心理学における人間の個体化を乗り越えて,あらたな発達心理学のパラダイムを模索していくことが,いまこそ求められているのではないか。
著者
木下 芳子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.311-323, 2009

児童および生徒が,多数決を適用してもかまわない状況と多数決の適用は問題である状況について理解しているかどうかを日本とイギリスの児童・生徒および大学生を対象に調べた。両国とも小学校3年,6年および中学校2年の児童・生徒と大学生の年齢群で合計240人が調査に参加した。参加者はあるクラスで種々の問題について討議し,決定をしようとしているという設定で,13の仮説的場面について,多数決で決めてもかまわないかどうか判断し,その理由を述べるように求められた。結果として,両国とも3年生でも概ね多数決を適用してよい場面と適用が問題である場面の区別がついていること,年齢が上になるほど区別は明確になることがあきらかになった。また,多数決の適用の判断に当たっては,国による違いもみられた。イギリスのほうがより課題解決的で,多数決を是認することが多かった。また,日本ではイギリスより感情的反応が多いことなどが示された。判断には,それぞれの国の価値観や社会的決定に対する態度が反映されていることが示唆された。これらの結果は,これまでの比較文化的研究の結果に照らして討論された。
著者
川本 哲也 遠藤 利彦
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.144-157, 2015 (Released:2017-06-20)
参考文献数
48
被引用文献数
1

本研究の目的は,東京大学教育学部附属中等教育学校で収集されたアーカイブデータを縦断的研究の観点から二次分析し,青年期の非言語性知能の発達とそれに対するコホートの効果を検討することであった。分析対象者は3,841名(男性1,921名,女性1,920名)であり,一時点目の調査時点での平均年齢は12.21歳(SDage=0.49;range 12–17)であった。分析の対象とされた尺度は,新制田中B式知能検査(田中,1953)であった。青年の知能の構造の変化とスコアの相対的な安定性,平均値の変化について別個に検討を行った。その結果,知能の構造に関しては青年期を通じて強く一貫していること,相対的な安定性は先行研究と同様の中程度以上の安定性を保つことが示された。また平均値の変化については,知能は青年期を通じて線形的に上昇していくが,コホートもまた知能の平均値に対して有意な効果を示し,かつその変化の傾きに対してもコホートが効果を持つことが示唆された。ただしその効果の向きについては一貫しておらず,生まれ年が新しいほど,新制田中B式知能検査のうちの知覚に関連する領域では得点が上昇し,その上昇の割合も大きなものであった。その一方で事物の関連性などを把握する能力では,生まれ年が新しいほど得点が低下してきており,加齢に伴う得点の上昇の割合も緩やかになってきていることが示唆された。
著者
廣澤 愛子 武澤 友広 織田 安沙美 鈴木 静香 小越 咲子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.61-73, 2019 (Released:2021-06-20)
参考文献数
16

本研究では,9歳から11歳の知的障害のない自閉スペクトラム症の児童6名,支援者6名,参与観察者3名による療育活動の参与観察分析を通して,児童の社会性の発達と,それに伴う支援者の係わりを明らかにした。児童と支援者の相互作用を量的・質的に分析した結果,どの児童に対しても支援者は,活動前半には,共感的に児童の言動に耳を傾けたり,逆に自分の意見を伝えたりしながら関係作りを行い,さらに,児童同士が係われるよう仲介していた。そして活動後半には,誤りを指摘したり,児童の思いを明確化するなどして各児童の発達課題にアプローチし,さらに,児童ら自身で協働活動が行えるよう支援していた。一方,児童の社会性については,全児童において,活動終盤には自他境界を意識した言動もしくは他児との協働活動の増加が見られ,社会性に係わる言動の増加が見られた。但し,そのプロセスについては,「自己中心から他者理解へ」「集団の辺縁から集団の中心へ」「孤立から他者との関係性の芽生えへ」の3つに類型化され,個別性が見られた。今後は,このような社会性の発達と密接に係わる自他理解の発達過程が,自閉スペクトラム症の子どもと定型発達の子どもとの間でどのように異なるのかを明らかにすることが課題である。
著者
西川 由紀子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.25-38, 2003

子どもが使用する自称詞について,場面に応じた使い分けに着目して,京都市内の保育園においてアンケート調査(216家庭)と観察調査(5歳児クラス男児9名)を行った。その結果,第1に,2歳でほとんどの子どもが対称詞と同じ自称詞(愛称・名前)を用いることが示された。第2に,男児はその後「愛称・名前」と「オレ」「ぼく」を並行して使い,幼児期は両親に「愛称・名前」,友達に「オレ」を用いる傾向,学童期中頃に両親に「ぼく」,友達に「オレ」を用いる傾向が示された。また「オレ」の使用は友達関係をとおして伝播することが示された。女児は学童期になって「わたし」の使用が増加しはじめるものの「愛称・名前」の使用が学童期にも続き,両親と友達の間での使い分けはほとんど見られなかった。第3に,年下のきょうだいには年齢にかかわらず親族名称が使用される傾向が示された。第4に,男児が保育者に対して「オレ」を使用するのは,主張したり自慢する場面のみであり,日常的には「ぼく」を使用していること,友達にはどの場面でも「オレ」も「ぼく」も使うことが示された。第5に,家庭で「オレ」を使っている自閉的傾向の男児が保育園で「オレ」を使用しなかったことから,自閉症児にとって「オレ」を用いての自己主張が難しいことが示唆された。こうした自称詞の使い分け方から,男児は,相手や状況や内容に応じて,ふさわしい自称詞を選択していることが示された。
著者
西中 華子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.466-476, 2014 (Released:2016-12-20)
参考文献数
61
被引用文献数
2

本研究では小学生の居場所感の構造を心理学的観点および学校教育的観点から検討し,居場所づくりの実践研究への示唆を得ること,および性差・学年差の検討を目的とした。まず心理学における先行研究を概観し,居場所感の要素として「被受容感」,「安心感」および「本来感」を仮定した。加えて教育分野における居場所の提言や論考を参考に,「充実感」および「自己存在感」を仮定した。これらに関する計35項目を準備し,小学4~6年生の児童,男女合計931名を対象として調査を実施した。因子分析の結果,「被受容感」「充実感」「自己存在感」「安心感」の4因子が確認され,教育分野の実践においていわれている「充実感」や「自己存在感」が小学生の居場所感の一要素を表すことが明らかにされた。一方で青年期の居場所感において重要視されている「本来感」が小学生の段階では重視されない可能性が示唆された。これらのことより,小学生を対象とした居場所づくりでは,「被受容感」「充実感」「自己存在感」「安心感」を促進するような介入方法の必要性が示唆され,青年期とは異なる介入の検討が必要であると考えられた。また小学生の居場所感において,「被受容感」および「充実感」は5年生および6年生よりも4年生のほうが,「自己存在感」は5年生よりも4年生のほうが高いことが明らかにされた。さらに男子よりも女子のほうが「被受容感」および「安心感」が高いことが明らかになった。
著者
松嶋 秀明
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.449-459, 2013 (Released:2015-12-20)
参考文献数
40
被引用文献数
2

わが国の発達心理学研究と,発達にかかわる臨床実践の双方がよりよい結びつき方になることを模索するために,著者自身が非行少年の更生をテーマとしておこなってきた2つの研究(松嶋,2005, 2012)を素材として紹介しつつ,それらが臨床実践に対してどのように寄与すると考えられるのかについて論じた。非行へのリスク因子として発達障害や被虐待体験に注目したこれまでの諸研究の流れをふまえながら紹介された2研究は,それぞれに共通する特徴として,(1)特別な治療的セッティングではなく,生活をともにすることで営まれている臨床実践であること,(2) 少年の「問題」を自明なものとせず,周囲との関係のなかでいかにそれが見いだされているのかを検討したものであることが挙げられた。これらの研究は,(1)質的研究の方法論をいかして実践を詳述することにより,実践者を疲弊させがちな「問題」状況の相対化をはかれること,(2) 協働性の基盤として機能しえる記述がえられることを寄与として挙げて考察した。
著者
中島 伸子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.202-213, 2012-06-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

本研究の目的は,老年期における身体・心的属性の機能低下について,幼児や小学生がどのように理解しているのか,そしてそれはどのように発達するかを検討することであった。24名の5歳児,28名の6歳児,24名の7歳児,28名の8歳児,31名の大学生の5群を対象に,5種の身体属性(走る速さ,風邪に対する耐性,腕力,心臓の働き,骨の強度)と心的属性として記憶力の計6属性について,5歳(幼児)から21歳(若年成人)および21歳から80歳(高齢者)へと加齢後どのように変化するかを「以前より衰退する」「以前より向上する」の2選択肢のもとで予測させた。その結果,(1)老年期における身体属性の機能低下については,5歳から気づきはじめ,6歳では大学生と同程度の理解に達すること,(2)老年期における記憶力の低下についての理解は,幼児から7歳くらいまでは希薄なのに対して,8歳以降,大学生にいたるまでに明確になること,(3)記憶力の低下についての理解の発達的変化には,記憶力と身体ないしは脳(頭)との関連性についての認識が関与していることが見出された。老化現象の理解の発達に関わる認知的要因について,素朴生物学の発達と心身相関的な枠組みの獲得という観点から考察した。
著者
小泉 智恵 菅原 ますみ 前川 暁子 北村 俊則
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.272-283, 2003-12-05 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
5

働く母親における仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが母親自身の抑うつ傾向にどのような過程を経て影響を及ぼすのか,そのメカニズムを検討することを目的とした。仮説として仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーの抑うつ傾向に対する直接的影響と,仕事ストレツサー,労働時間,子どもの教育・育児役割負担によって生起した仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが子育てストレス,夫婦関係を介して抑うつ傾向に及ぼすという間接的影響が提出された。方法は,小学校高学年の子どもをもつ有職の母親で配偶者のある者(246名)と同学年の子どもをもつ無職の母親で配偶者のある者(131名)を対象として質問紙調査をおこなった。有職母親群の分析結果で,分散分析により仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが多くなると抑うつ傾向が高くなるという直接的影響がみとめられた。パス解析により仕事ストレツサー,労働時間の増加によって生起した仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが多くなると,夫婦間の意見の一致を減少させ,子育てストレスを高めることを介して抑うつ傾向を上昇させるという間接的影響がみとめられた。考察では仕事から家庭へのネガティブ・スピルオーバーが抑うつ傾向に影響しないようにするには,夫婦関係と子育てに関して介入,支援をおこなうこと,仕事ストレツサーの低減と労働時間の短縮が有効である可能性が論じられた。
著者
無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.407-416, 2013 (Released:2015-12-20)
参考文献数
38
被引用文献数
3

本論文は,発達心理学が実践現場に役立つ可能性を,保育を例として検討する。特に,その問題を,研究が実践にどう役立つのかというより大きな問題の一部としてとらえる。発達心理学を含めた研究の進展が,実践と研究の関連を変えてきている。その中で,エビデンスベーストのアプローチがその新たな関連を作り出した。また,実践研究の積み上げを工夫する必要がある。実践を対象とする研究として,実践者自身によるものと,実践者と研究者の協働によるアクションリサーチ,そして研究者が実践を観察し分析するものが分けられた。さらに,関連する研究として,子ども研究全般,カリキュラムや指導法に示唆を与える研究,社会的問題に取り組む研究,エビデンスを提供する研究,理論枠組みを変える基礎研究,政策へ示唆を与える研究などに分けて,各々の特質を検討した。実践現場から研究を立ち上げることが重要だと指摘した。最後に,研究的実践者と実践的研究者の育成を目指すことが提言された。
著者
上長 然
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.206-215, 2007-12-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
4

本研究は,思春期の身体発育の発現が摂食障害傾向に及ぼす影響について,どのような構造で関連するのか検討することを目的として実施した。中学生503名(男子252名,女子251名)を対象に,思春期の身体発育状況,思春期の身体発育に対する心理的受容度,身体満足度,体重減少行動,露出回避行動,摂食障害傾向および現在の身長・体重について測定した。その結果,男子では,思春期の身体発育は摂食障害傾向と関連せず,実際の体格が肥満傾向にある者ほど体重減少行動を行い,摂食障害傾向が高まっていた。一方,女子では,思春期の身体発育によって体重減少行動が増加することが示された。また,思春期の身体発育の経験者による検討から,実際の体格が身体満足度と関連するとともに,思春期の身体発育に対する心理的受容度が身体満足度と関連し,身体満足度の低さが体重減少行動・露出回避行動を高め,摂食障害傾向を助長するという構造が示され,思春期の身体発育の際,それをどのように受け止めるかという心理的受容度の重要性が示唆された。
著者
柴山 真琴 ビアルケ(當山) 千咲 高橋 登 池上 摩希子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.357-367, 2016 (Released:2018-12-20)
参考文献数
30

本稿では,国際結婚家族の子どもが二言語で同時に読み書き力を習得するという事態を,個人の国境を越えた移動に伴う国際結婚の増加というグローバル化時代の一側面として捉え,こうした時代性と子どもの言語習得とのインターフェースでどのような家族内実践が行われているのかを,ドイツ居住の独日国際家族の事例に基づいて紹介した。特に子どもの日本語の読み書き力形成にかかわる家族内実践にみられる特徴として,(1)現地の学校制度的・言語環境的要因に規定されつつも,利用可能な資源を活用しながら,親による環境構成と学習支援が継続的に行われていること,(2)家族が直面する危機的状態は,子どもの加齢とともに家庭の内側から生じているだけでなく,家庭と現地校・補習校との関係の軋みからも生じているが,家族間協働により危機が乗り越えられていること,が挙げられた。ここから,今後の言語発達研究に対する示唆として,(1)日本語学習児の広がりと多様性を視野に入れること,(2)子どもの日本語習得過程を読み書きスキルの獲得に限局せずに長期的・包括的に捉えること,(3)子どもが日本語の読み書きに習熟していく過程を日常実践に埋め込まれた協働的過程として捉え直すこと,の3点が引き出された。
著者
風間 みどり 平林 秀美 唐澤 真弓 Twila Tardif Sheryl Olson
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.126-138, 2013-06-20 (Released:2017-07-28)

本研究では,日本の母親のあいまいな養育態度と4歳の子どもの他者理解との関連について,日米比較から検討した。あいまいな養育態度とは,親が子どもに対して一時的に言語による指示を控えたり,親の意図が子どもに明確には伝わりにくいと考えられる態度である。日本の幼児とその母親105組,米国の幼児とその母親58組を対象に,幼児には心の理論,他者感情理解,実行機能抑制制御,言語課題の実験を実施,母親には養育態度についてSOMAを用い質問紙調査を実施した。日本の母親はアメリカの母親に比べて,あいまいな養育態度の頻度が高いことが示された。子どもの月齢と言語能力,母親の学歴,SOMAの他の4変数を統制して偏相関を算出すると,日本では,母親のあいまいな養育態度と,子どもの心の理論及び他者感情理解の成績との間には負の相関,励ます養育態度と,子どもの心の理論の成績との間には正の相関が見られた。一方アメリカでは,母親の養育態度と子どもの他者理解との間に関連が見られなかった。子どもの実行機能抑制制御については,日米とも,母親の5つの養育態度との間に関連が見出されなかった。これらの結果から,日本の母親が,子どもが理解できる視点や言葉による明確な働きかけが少ないあいまいな養育態度をとることは,4歳の子どもの他者理解の発達を促進し難い可能性があると示唆された。
著者
藤崎 亜由子 倉田 直美 麻生 武
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.67-77, 2007-04-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
1

近年登場したロボットという新たな存在と我々はどのようにつきあっていくのだろうか。本研究では,子どもたちがロボットをどう理解しているかを調べるために,5〜6歳児(106名)を対象に,2人1組で5分間ロボット犬と遊ぶ課題を行った。あわせて,ロボット犬に対する生命認識と心的機能の付与を調べるためにインタビュー調査を行った。ロボット犬は2種類用意した(AIBOとDOG.COM)。DOG.COMは人間語を話し,AIBOは電子音となめらかな動きを特徴とするロボットである。その結果,幼児は言葉をかけたりなでたりと極めてコミュニカティブにロボット犬に働きかけることが明らかになった。年齢群で比較した結果,6歳児のほうが頻繁にロボット犬に話しかけた。また,AIBOの心的状態に言及した人数も6歳児で多かった。ロボット犬の種類で比較した結果,子どもたちはDOG.COMに対しては言葉で,AIBOに対しては動きのレベルで働きかけるというように,ロボット犬の特性に合わせてコミュニケーションを行っていた。その一方で,ロボット犬の種類によってインタビュー調査の結果に違いは見られなかった。インタビュー調査では5割の子どもたちがロボット犬を「生きている」と答え,質問によっては9割を超える子どもたちがロボット犬に心的機能を付与していた。以上の結果から,動物とも無生物とも異なる新たな存在としてのロボットの可能性を議論した。
著者
佐々木 正人
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.357-368, 2011-12-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
3

乳幼児が屋内で出会う複数の段差が行為に与えることについて縦断的に観察した。観察した段差は,ベビー布団と床との縁,床上の建具突起,浴室や洗面所への境界にある段差,ベッド,ソファー,父親の膝,子ども用イス,階段であった。各段差はユニークな性質をもつことを,乳児の行為の柔軟性が示した。素材,高さ,形状,周囲のレイアウトの中での位置などから,各段差の意味について考察した。42の事例からこの時期の段差にまつわる行為を記号化し,それを一枚の図に表示した(Figure 23)。段差と行為からもたらされる系は,「落下」「繋留」,「飛越」に大別できることが明らかになった(Figure 24)。3種の系を発達の図にマッピングして(Figure 25)考察した。これらの段差に包囲されることが,移動を開始するまでの0歳児の行為の発達に多様性と制約をもたらすことが示された。