著者
赤木 真弓
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.114-124, 2018 (Released:2020-09-20)
参考文献数
31
被引用文献数
4

本研究では,大学生の女子を対象とし,母娘関係と娘のアイデンティティ形成,精神的健康との関連について検討した。母親と娘の関係性を多角的に検証するための尺度を作成し,その下位尺度を用いてクラスタ分析を行った結果,「反発群」「親密群」「自立群」「葛藤従属群」に類型化された。得られた類型について,分離と結合,および精神的健康の視点で分析した結果,「自立群」が健康な分離タイプ,「反発群」が不健康な分離タイプ,「親密群」が健康な結合タイプ,「葛藤従属群」が不健康な結合タイプとなった。さらに,アイデンティティ達成が高かったのは「親密群」と「自立群」で,どちらも母親からの押し付け,母親への劣等感が低かった。逆に,アイデンティティ達成が低かったのは「反発群」と「葛藤従属群」で,どちらも母親からの押し付け,母親への劣等感が高かった。以上のことから,娘のアイデンティティ形成および精神的健康にとって重要なのは,母親との分離か結合か,ということではなく,母親からの押し付けや母親への劣等感を感じない母娘関係であることがあきらかになった。
著者
大谷 多加志 清水 里美 郷間 英世 大久保 純一郎 清水 寛之
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.142-152, 2019 (Released:2021-09-30)
参考文献数
17

じゃんけんは日常生活の中で,偶発的な結果に基づいて何らかの決定や選択を得るための一つの手段として広く用いられている。本研究は,子どもがどのような発達過程を経て,じゃんけん課題の遂行の基礎にある認知機能を獲得していくかを「三すくみ構造」の理解に関連づけて検討することを目的とした。対象者は,生後12ヵ月(1歳0ヵ月)超から84ヵ月(7歳0ヵ月)未満の幼児と児童569名であった。本研究におけるじゃんけん課題は,じゃんけんの「三すくみ構造」をもとに「手の形の理解課題」,「勝ち判断課題」,「負け判断課題」の3種類の下位課題から構成された。また,じゃんけん課題の成否と子どもの発達水準との関連を調べるために,対象者全員に『新版K式発達検査2001』が併せて実施された。本研究の結果,「手の形の理解課題」は2歳7ヵ月頃,「勝ち判断課題」は4歳9ヵ月頃,「負け判断課題」は5歳4ヵ月頃に平均的に達成されていくことが明らかとなった。また,「手の形の理解課題」,「勝ち判断課題」,「負け判断課題」の3種類のじゃんけん課題の成否および反応内容から評価したじゃんけんに関する知識や技能の獲得の段階(5段階)と『新版K式発達検査2001』の発達年齢との間で統計的に有意な相関が認められた。よって,本研究のじゃんけん課題は子どものじゃんけんの理解の段階を評価し,幼児の発達水準を査定するために有用であると考えられる。
著者
浜田 恵 伊藤 大幸 村山 恭朗 髙柳 伸哉 明翫 光宜 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.366-377, 2022 (Released:2023-07-04)
参考文献数
31

子どもの性別違和感への対応の難しさの一つは,医療的な対応を必要とする安定的な性別違和感と発達途上における一時的な性別違和感の揺らぎが混在していることにある。本研究では性別違和感の時間的安定性について,3つのコホートから得られた6年間の縦断調査によって絶対的安定性(平均値の変化)と相対的安定性(時点間の相関)および学年の上昇に伴う性別違和感の変化のパターンの検討を目的とした。小学4年生から中学3年生2,031名(男子999名,女子1032名)のデータを用いて検討を行った。絶対的安定性として学年による平均値の推移を検証した結果,男子では小4と比べて小5~中3は得点が低下したが,女子ではほとんど変化は見られなかった。性別違和感の変化のパターンを検討するため潜在プロフィール分析を行った結果,性別違和感をほとんど感じない群(74.5%),3~5年に渡り高い性別違和感を示す2群(2.8%),1~2年以内の性別違和感の高まりを示す8群(22.6%)が見出された。相対的安定性として各学年間の相関係数を算出した結果,学年が上がるごとに相関係数が高くなること,学年によらず男子よりも女子において相関係数が高いことが示された。性別違和感の安定性やその性差に影響を与えうる要因の検証の必要性について考察した。
著者
中島 卓裕 伊藤 大幸 村山 恭朗 明翫 光宜 髙柳 伸哉 浜田 恵 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.40-50, 2022 (Released:2023-03-20)
参考文献数
42

本研究の目的は,一般小中学生における運動能力を媒介とした自閉スペクトラム特性と心理社会的不適応(友人関係問題,抑うつ)の関連プロセスを検証することであった。小学4年生から中学3年生の5,084組の一般小中学生及び保護者から得られた大規模データを用いて検討を行った。パス解析の結果,ASD特性が高いほど運動能力の苦手さがみられることが明らかとなった。また,ASD特性と抑うつとの関連においては26%が,ASD特性と友人関係問題の関連については小学生で25%,中学生で16%が運動能力を媒介した間接効果であったことが示された。これらの関連においていずれの性別及び学校段階においても有意な効果の差は見られなかったことから,性別及び学校段階によらず心理社会的不適応に対して運動能力が一定の寄与を果たしていることが示唆された。本研究は代表性の高い一般小中学生のサンプルでASD特性と運動能力,心理社会的不適応の連続的な関連を定量化した本邦初の研究であり,今後のインクルーシブ教育推進のための政策・実践の基礎となる重要なデータを提供するものである。
著者
髙坂 康雅
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.221-231, 2016 (Released:2018-09-20)
参考文献数
19
被引用文献数
2

本研究の目的は,大学生活の重点によって大学生を分類し,自立欲求や全能感,後れをとることへの不安,モラトリアムの状態,学習動機づけの比較を行うことで,現代青年のモラトリアムの多様性を明らかにすることである。大学生624名を対象に質問紙調査を実施し,大学生活の重点7標準得点をもとにクラスター分析を行ったところ,4クラスターが抽出された。クラスター1は自己探求や勉強に重点をおき,自己決定性の高い学習動機づけをもっていた。クラスター2はいずれの活動にも重点をおいておらず,大学での活動に積極的に取り組めていない青年であると判断された。クラスター3はすべての活動に重点をおき,自立欲求や後れをとることへの不安をもち,内発的動機づけだけでなく,外発的動機づけももっていた。クラスター4は他者交流や部活動,サークル活動に重点をおき,全能感が強いが,学業とは異なる領域での活動を通して職業決定を模索していた。これらの結果から,クラスター1はEriksonが提唱した古典的モラトリアムに相当し,クラスター4は小此木が提唱した新しいタイプのモラトリアム心理によるモラトリアムであり,クラスター3は近年指摘されている新しいタイプのモラトリアム(リスク回避型モラトリアム)であると考えられた。
著者
上宮 愛 仲 真紀子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.393-405, 2009-12-10 (Released:2017-07-27)

子どもの証言能力の査定では,嘘と真実の理解や,意図的に嘘をつけるかどうかが重要な問題となる。従来,幼児による嘘と真実の理解は,嘘と真実を概念的に弁別させる,定義させる,同定させる,実際に嘘をつかせるなど,様々な課題を用いて研究されてきた。しかしこれらの課題間の関係は必ずしも明らかではなく,嘘と真実に関するどのような理解が実際に嘘をつく行為と関わっているのかは明確でない。本研究では,様々な課題を用いて嘘と真実の理解を調べるとともに,これらの課題と嘘の産出との関係を調べた。年少,年中,年長児(3-6歳)73名が,人形が嘘をついているか,真実を話しているかの判断する同定課題(1),嘘と真実の違いについて説明する弁別課題(2),嘘と真実の定義をする定義・善悪判断課題(3),話者の信念と嘘との関係を調べる嘘の基準を明確化する課題(4),適切な嘘をつけるかどうかを検討する行動課題(5)を行った。その結果,年少児に比べ,年中,年長児は嘘と真実の善悪判断や同定を正しく行うことができた。また,年長児では嘘か否かの判断には信念が関わっていることの理解が可能になり始めることが示された。行動課題では,年少児は意図的に相手を騙すことができるような嘘をつくことは難しいが,年中,年長ではそれが可能になる。また,嘘をつく能力は,"信念の理解"によって一部予測できる可能性が示唆された。
著者
西田 裕紀子 丹下 智香子 富田 真紀子 安藤 富士子 下方 浩史
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.276-286, 2012-09-20 (Released:2017-07-28)

本研究では,中高年者の開放性がその後 6 年間の知能の経時変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。分析対象者は,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の第2次調査及び6年後の第5次調査に参加した,地域在住の中年者及び高齢者1591名であり,開放性はNEO Five Factor Inventory,知能はウェクスラー成人知能検査改訂版の簡易実施法(知識,類似,絵画完成,符号)を用いて評価した。反復測定分散分析の結果,開放性が知能の経時変化に及ぼす影響は,知能の側面や年代によって異なることが示された。まず,「知識」得点の経時変化には,高齢者においてのみ開放性の高低が影響しており,開放性が高い高齢者はその後6年間「知識」得点を維持していたが,開放性が低い高齢者ではその得点が低下することが示された。一方,「類似」,「絵画完成」,「符号」では,開放性が高い中高年者は低い中高年者よりも得点が高いことが示されたが,開放性の高低による経時変化への影響は認められなかった。以上より,中高年者の開放性は知能やその経時変化の個人差の要因となること,特に高齢者にとって,開放性の高さは一般的な事実に関する知識量を高く維持するために役立つ可能性が示唆された。
著者
宮内 洋
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.404-414, 2012-12-20 (Released:2017-07-28)

本稿では,かつて北海道大学教育学部における学際的研究グループによって進められていた「貧困と子ども」に関する研究の一部を紹介しながら,歴史学やルポルタージュの知見も用いて,発達心理学の基礎的知見と貧困との関係についての考察をおこない,今後の課題を挙げた。具体的には,人間の発達における各ステージのうち,誕生から児童期まで(胎児期,新生児・乳児期,幼児期,児童期)に限定し,この各ステージにおいて,貧困が各々の子どもの発達にどのようにかかわっている可能性があるのかについて,生活環境を中心にして考察をおこなった。このプロセスを通して,これまで日本国内における発達心理学研究の多くが「絶対的貧困(absolute poverty)」の状態にある子どもや養育者を除外してきた可能性を指摘した。しかし,貧困世帯が広がる現代日本社会においては,研究者側が気づかぬままに実験や観察等の場で「相対的貧困(relative poverty)」状態の子どもや養育者にすでに出会っている可能性があることも指摘し,研究者側が貧困と社会的排除に対して自覚的になる必要性を述べた。最後に,本稿での考察から,社会科学的な概念である「絶対的貧困」と「相対的貧困」について,発達心理学の観点からの定義の提唱も試みた。
著者
藤村 宣久
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.70-78, 1990-07-25 (Released:2017-07-13)
被引用文献数
1

A longitudinal study was done to investigate the formation process of two concepts concerning intensive quantity, velocity and thickness, in children. For the study subjects were 38 elementary school children in the fifth grade. Two kinds of comparison tasks about intensive quantity and three kinds of logical operation tasks were administered three times semiannually. The results showed that learning of verocity in the classroom affected the formation process of these two concepts, that inverse intensive quantity came to be understood especially in velocity from fifth to sixth grade, and that some errors in thickness were caused by some imperfectness of logical operation. In general, the transiton from one stage to the next was gradual and there were various transition types in the formation process of each concept.
著者
北田 沙也加
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.212-220, 2016 (Released:2018-09-20)
参考文献数
28

年少児(4歳児)・年長児(6歳児)に物の永続性課題(あり得る現象とあり得ない現象)を見せ,不思議に思ったかの評定と驚きの表情を基に,各現象を不思議に思うかどうかを調べた。その際,あり得ない現象の前に「魔法の国」の話をする魔法群を設定し,統制群と比較した。あり得る現象に対する評定や表情変化に有意な年齢差は見られなかったが,あり得ない現象に対しては評定に有意な年齢差が見られ,年少児より年長児の方があり得ない現象を見てより不思議だと思っていた。魔法群と統制群に有意な差は見られず,物理概念に及ぼす魔法の影響は見られなかった。また,物理概念と空想/現実を区別する能力との相関を調べたところ,空想的な絵の判断とあり得ない現象の評定に関連が見られたが,年齢を統制すると関連は見られなかった。つまり,現実世界と空想の世界の認識がまだ曖昧である年少児は,魔法の概念にかかわらずあり得ない現象もあり得ると思う傾向が強いが,年長児になると魔法の概念にかかわらず,あり得ない現象を現実世界のこととして認識し,不思議に思うようになることが示唆された。
著者
小川 基 高木 秀明
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-12, 2018 (Released:2020-03-20)
参考文献数
30

母子関係におけるゆるしについては,これまで古澤平作による阿闍世コンプレックス理論などを中心に精神分析的な考察が深められてきた一方で,実証的には十分に検討されてこなかった。本研究では,母親から子どもへのゆるしのプロセスを明らかにすることを目的とし,調査,分析を行った。具体的には,母親10名に対して「母親が子どもをゆるすプロセス」について,またその子どもである青年12名に対して「子どもが母親からゆるされるプロセス」についてのインタビュー調査を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。その結果,双方において4段階のゆるす/ゆるされるプロセスモデルが生成された。これらの結果より,母親は子どもからの傷つき・困らされ体験後も,自らの親としての機能を維持しようと努めること,また,それが結果的に子ども側のゆるされた実感につながっていることが明らかとなった。同時に,ゆるす側としての母親とゆるされる側としての子どもとの間に生じうる認識のずれや,それに伴う母子関係における臨床的問題について考察を行った。
著者
横山 真貴子 秋田 喜代美 無藤 隆 安見 克夫
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.95-107, 1998-07-30 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
2

本研究では, 保育の中に埋め込まれた読み書き活動として, 幼稚園で行われる「手紙を書く」活動を取り上げ, 1幼稚園で園児らが7カ月問に書いた手紙1082通を収集し, コミュニケーション手段という観点から手紙の形式と内容を分析した。具体的には「誰にどのような内容の手紙を書き, 書かれた手紙はどのようにやりとりされているのか」について, 収集した手紙全体の分析(分析1)と手紙をよく書く幼児とあまり書かない幼児の手紙の分析(分析2)から, 全体的発達傾向と個人差を検討した。主な結果は次の通りである。第一に, 幼児は主に園の友達に宛てた手紙を書いており, 手紙の大半には, やりとりに不可欠な宛名と差出人が明記されていた。このことから, 幼児は園での手紙の形式的特徴を理解していることが示された。第二に, 全体的には絵のみの手紙が多く, コミュニケーションを図ることよりも, 幼児はまず手紙を書き送るという行為自体に動機づけられて手紙を書き, 「特定の誰かに自分が描いた作品を送るもの」として手紙を捉えていることが示唆された。特にこの傾向は年中児で頭著であった。だが第三に, 年長児になると相手とのやりとりを期待する伝達や質問等の内容が書かれ始め, 手紙を書くことの捉え方が発達的に変化することが示された。また第四に, 手紙を書くことに興味を持つ時期が子どもによって異なり, 手紙が書ける園環境が常時準備されていることの有益性が指摘された。
著者
春日 秀朗 宇都宮 博 サトウ タツヤ
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.121-132, 2014

本研究は,親から感じた期待が子どものどのような感情や行動を引き出し,それらが大学生の現在の自己抑制型行動特性と生活満足感にどのような影響を与えるのか検討することを目的とした。対象は大学生367名であった。質問紙調査により大学入学以前に親から感じた期待と期待に対して抱いた感情,行った行動を尋ね,自己抑制型行動特性及び生活満足感への影響を検討した。その結果,期待の認知形態により反応様式や生活満足感に差異が生じることが明らかになった。「人間性」・「進路」・「よい子期待」のいずれの期待も高く認知していた期待高群の大学生は,いずれの期待も感じなかった,もしくは人間性期待のみを感じていた大学生よりも負担感が高かったが,進路・よい子期待のみを感じていた大学生よりも期待に対して肯定的な反応をとっており,生活満足感も高かった。また自己抑制型行動特性から生活満足感への影響に関して,期待高群においては正の影響がみられた。これらのことから,期待が子どもに対しネガティブな影響を与えるのは,期待内容や程度とともに,子どもが期待をどのように認知しているのかが重要であることが明らかになった。期待高群において自己抑制型行動特性が生活満足感へ正の影響を与えていたことから,自らが望んで期待に応えた場合,自己抑制的な自身の性格を肯定的にとらえていることが示唆された。
著者
渡邉 照美 岡本 祐子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.247-256, 2005-12-20 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
3

死別経験による人格的発達が起こり得るのかを明らかにするために, 死別経験のあるもの424名と死別経験のないもの40名を対象に, 質問紙調査を行った。その結果, 死別経験による人格的発達得点において, 死別経験あり群が死別経験なし群よりも高い得点を示したことから, 死別経験による人格的発達が起こることが明らかとなった。そこで, 死別経験のあるもののみ424名を対象とし, 死別経験による人格的発達の具体的な構造と, 死別経験による人格的発達と関連のある要因を明らかにするための検討を行った。その際, ケア体験との関連を取り上げた。死別経験による人格的発達の構造として, 「自己感覚の拡大」, 「死への恐怖の克服」, 「死への関心・死の意味」が見出された。また, 死別経験による人格的発達に関連する要因として「性別」, 「年齢」, 「続柄」, 「死別経験時の対象者の年齢」, 「死別納得感」, 「ケアの頻度」, 「ケア満足感」が認められた。死別経験による人格的発達と実際にどのようなケアを行ったかというケア体験との関連においては, ケア体験得点の高い群は, 得点の低い群よりも, 死別経験による人格的発達得点が有意に高かったことから, その関連が認められた。以上より, 死別経験による人格的発達とケアとの関連が示唆された。
著者
伊藤 裕子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.279-287, 2015 (Released:2017-12-20)
参考文献数
70
被引用文献数
5

本稿では,夫婦の親密性をコミットメントと愛情という側面からとらえた。さらに,夫婦関係における親密性の揺らぎを,子育て,離婚,個人化・個別化,定年退職の4つの事象から論じ,そこにおける妻と夫の意識のずれを明らかにした。日本の夫婦では,家族や家庭を維持していくために夫婦の親密性を諦める場合があり,また,結婚が親密性からのみ成り立つわけではなく,機能性,さらに社会的関係から維持されており,恋愛関係と異なる親密性のあり方が論じられた。発達研究としての今後の課題から,以下の三点が指摘された。第一に,夫婦としてある期間は長期にわたるため,結婚満足度以外では同一指標による比較は困難である。そのため,どのライフステージかを明確にさせながら,時期を重ねて変化をみるという方法が可能である。第二に,ライフイベント前後での短期縦断研究がさらに望まれる。第三に,夫婦関係には,その社会の制度・価値観,性別分業のあり方など文化の違いが色濃く反映するので,それらを十分考慮して研究する必要があることが指摘された。
著者
汀 逸鶴 小塩 真司
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.91-97, 2020 (Released:2022-06-20)
参考文献数
26

知的好奇心は知的活動を動機づけ,生涯にわたって心身の健康に関わる特性であることがこれまでの研究により示されている。本研究は,日本人成人を対象とした横断的調査から,知的好奇心の年齢に伴う変化を検討した。分析に際して,情報探索の方向性によって定められた知的好奇心の下位概念である,拡散的好奇心と特殊的好奇心のそれぞれについて検討を行った。オンライン調査に参加した4376名(男性2896名,女性1480名,平均年齢51.8歳)のデータを分析の対象とした。階層的重回帰分析の結果,拡散的好奇心は年齢に伴って曲線的に上昇する傾向が,特殊的好奇心は年齢に伴って直線的に上昇する傾向が認められた。また,拡散的好奇心については男性の方が女性よりも平均値が高い傾向もみられた。これらの結果は,最終学校段階や世帯年収を統制しても同様であった。本研究で得られた結果と先行研究の知見から,日本人の成人期における知的好奇心の役割について議論された。
著者
北川 恵
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.439-448, 2013

本稿では,アタッチメント理論に基づく親子関係支援の基礎と臨床の橋渡しについて,欧米の先行研究を概観したうえで,日本での今後の課題を考察した。親の内的作業モデル,敏感性,内省機能といった特徴が子どものアタッチメントの質に影響するという基礎研究知見に基づいて,それらを改善することを目的とした介入プログラムが開発された。介入効果が実証されているものとして,敏感性のみに焦点づけた短期間の介入(VIPP),内省機能に焦点づけた長期間で密度の高い介入(MTB),敏感性と内的作業モデルに焦点づけた比較的短期間の介入(COS)について概観した。介入とその効果についての報告が蓄積されたことから,有効な介入の特徴(焦点,頻度,期間)や,介入の要素(安心の基地,心理教育,ビデオ振り返り)についての議論が起こり,また,臨床群の評価に適切な測定方法開発の必要性が高まった。日本での今後の課題として,欧米の知見を日本に応用する際に,アタッチメントの普遍性と文化についての検討が必要であること,支援の場に安心の基地を実現する臨床的工夫を行いながら,アタッチメントの変化に関わる要因について実践に基づく仮説を生成することが必要であると論じた。
著者
赤澤 淳子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.288-299, 2015 (Released:2017-12-20)
参考文献数
91
被引用文献数
4

本論文は,男女交際のダークサイドであるデートDVに焦点をあて,親密な二者関係の様々な側面と暴力との関係をいくつかの理論から考察し,さらにデートDVにまつわる神話を検証した上で,今後の研究課題を提示するものである。親密性に関するいくつかの理論は,暴力は二者の関係への過剰な集中と発達期における親との関係を端緒とし,それらの特性は葛藤方略として暴力を使用する可能性を高めることを示している。「男性が加害者で女性が被害者」,「愛と暴力は対極にあるもの」,「身体的暴力がもっとも悲惨」というデートDVの神話はいずれも誤謬であり,暴力は双方向的であり,愛は暴力を引き起こす要因になることがあり,精神的な暴力は身体的暴力より長期化し,被害を大きくする傾向があることが,これまでの研究から確認された。これらの議論から,葛藤方略の予防教育によるデートDV抑止効果の研究や,生涯発達的な視点と社会文化的な視点からのデートDV研究が必要であるといえる。
著者
長谷川 真里
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.304-315, 2003-12-05 (Released:2017-07-24)

本研究の目的は,なぜ年少者は言論の自出をあまり支持しないのかということを検討することであった。研究1において,小学4年生,6年生,中学2年生,高校2年生,大学生(合計176人)は,言論の自由に対する法による制限の正当性を判断した。加齢と共に,推論の様式は,言論内容のみに注目するものから,言論内容と自由を比較考量する様式へ,あるいは聞き手の自由に注目する様式へと変化し,そのような推論の様式の差が自由を支持する程度と関係した。研究2(小学4年生,6年生,中学2年生,高校生,合計127人)では,加齢に伴い,言論の白山を社会的価値としてとらえ,聴衆への影響を低く見積もり,スピーチの中の行為をそれほど悪くないど考える傾向が示された。そして,このような評価が,自出を支持する程度に関係することが示唆された。そして,スピーチ内容の領域によって,それらは異なって関係していた。