著者
溝上 慎一 中間 玲子 畑野 快
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.148-157, 2016 (Released:2018-06-20)
参考文献数
31
被引用文献数
2

本研究は,青年期のアイデンティティ形成を,自己の主体的・個性的な形成に焦点を当てた自己形成の観点から検討したものである。個別的水準の自己形成活動が,抽象的・一般的水準にある時間的展望(目標指向性・職業キャリア自律性)を媒介して,アイデンティティ形成(EPSI統合・EPSI混乱)に影響を及ぼすという仮説モデルを検討した。予備調査を経て作成された自己形成活動尺度は,本調査における因子分析の結果,4つの因子(興味関心の拡がり・関係性の拡がり・将来の目標達成・将来への焦り)に分かれることが明らかとなった。これらの自己形成活動を用いて仮説モデルを検討したところ,個別的水準にある自己形成活動は直接アイデンティティ形成に影響を及ぼすのではなく,抽象的・一般的水準にある時間的展望を媒介して,アイデンティティ形成に影響を及ぼしていた。自己形成活動からアイデンティティ形成への直接効果は見られたが,小さな値であり,総じて仮説モデルは検証されたと考えられた。
著者
大原 天青 楡木 満生
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.353-363, 2008-12-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
3

本研究の目的は,児童自立支援施設入所児童の情緒と行動の特徴と虐待の有無や種類との関係を明らかにすることであった。全国の児童自立支援施設4ヵ所,78名の児童の担当職員(29名)と統制群として一般中高生88名のクラス担任(22名)にChild Behavior Checklist/4-18(子どもの行動チェックリスト,以下CBCLと示す)を中心とした質問紙に記入を依頼した。その結果,(1)施設群は「引きこもり」や「不安・抑うつ」・「非行的行動」・「攻撃的行動」など,「身体的訴え」を除くすべてのCBCL尺度で統制群よりも高得点を示した。施設群の各特徴としては(2)中学生全体として外向尺度に大きな問題を抱えていた。虐待の有無による分析では,(3)虐待のない男子群で被虐待群・統制群より「非行的行動」,「攻撃的行動」,外向尺度で高く,「思考の問題」も抱えていることが明らかになった。虐待種別では(4)身体的虐待の特徴に「不安・抑うつ」が見られた。しかし,自立支援施設入所児童のように問題行動の高い場合には虐待群間の特徴が鮮明にはならず,その特徴が背後に隠れてしまう可能性が指摘された。従って,その点を十分考慮した生活場面での支援と心理的援助の必要性が指摘される結果となった。
著者
河本 愛子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.453-465, 2014 (Released:2016-12-20)
参考文献数
26
被引用文献数
2

学校行事は授業と同様,すべての者が経験する教育活動であるにもかかわらず,どのような発達的意義を有するのかについては検討されてこなかった。そこで本研究では,中学・高校における学校行事体験に対する大学生の回顧的意味づけに着目して検討を行った。大学生670名を対象に質問紙調査を行い,中学・高校の学校行事体験を想起してもらった結果,6つの意味づけが見出された。それらは「集団への肯定的感情」,「他者意識の高まり」,「集団活動に対する消耗感」,「問題解決への積極性」,「他者統率の熟達」,「学校活動への更なる傾倒」であった。これらの意味づけにつながる参加の仕方を検討した結果,傾倒のみがすべての意味づけに関連していた。次に,傾倒に関連する活動の質を検討した結果,目標志向的に行動することが最も大きな関連を示していた。最後に,個人のパーソナリティ特性の調整効果を検討した結果,調和性の程度によって,活動の質と傾倒との関連の大きさが異なることが示された。以上より,中学・高校における学校行事体験がライフイベントとして個人の発達上,重要な意味を有することが示唆された。今後は,縦断研究を用いて,個人特性の違いを考慮した上で活動の発達的機能と影響過程を検討する必要があるだろう。
著者
浦上 萌 杉村 伸一郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.175-185, 2015 (Released:2017-09-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1

心的数直線の形成は,数量概念の発達において非常に重要であると考えられている。その過程は大別して2つの立場から捉えられてきた。一つは,対数型から直線型へという質的変化を重視する移行の立場で,もう一つは,数量を見積る方略や基準点に着目する比率判断の立場である。本研究では,これらの立場では捉えきれなかった,関数に適合する以前の数表象の実態を検討するとともに,心的数直線の質的変化と基準点の使用との関連や見積る際の方略を検討した。分析対象者は,0–20の数直線課題が4–6歳児58名,0–10の数直線課題が4–6歳児27名であった。分析の結果,関数に適合する以前の数表象として,大小型などの5つの型が見出された。また,移行と比率判断との関連や方略を検討することにより,直線型であっても数直線の両端と中点を基準点として使用し,比率的に見積っているとは限らないことなどが明らかになった。これらの知見を踏まえて,幼児期における心的数直線の形成過程を考察した。
著者
乾 彰夫
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.335-345, 2016

<p>本論は,若者の移行研究の立場からの,発達心理学研究への若干の問題提起と問いを意図している。欧米でも日本でも,若者の大人への移行の期間は近年,安定した就労,離家,結婚など主要な指標に照らして長期化した。こうした変化に応ずる形で,欧米においては,例えばアーネットの主張するemerging adulthoodのように,この延長された期間をとらえるための新たな理論が提起され,またそれらの是非をめぐる激しい論争が展開されている。とくに重要な争点は,emerging adulthoodが先進国における新たな普遍的発達段階といえるか否かということである。アーネットはその普遍性を主張するが,他の研究者からは,これはもっぱら大学進学が可能なミドルクラスの若者にのみあてはまるもので,低階層の若者たちの経験が無視されているとの批判を受けている。日本の発達心理学には青年期を対象とした研究は少なからずあるとはいえ,移行の長期化に注目した研究は未だそれほど多くない。さらに,青年期研究のほとんどが高等教育機関に在籍する学生やその卒業生を対象としていることも,重大な問題であるように思われる。大学等に進学しないような若者たちは日本の発達心理学には存在しないのだろうか。</p>
著者
菅沼 慎一郎
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.23-34, 2015 (Released:2017-03-20)
参考文献数
26

「諦める」ことの精神的健康に対する機能に関しては相反する知見が存在する。これまで「諦める」ことの行動的側面が注目されてきたが,「諦める」ことをプロセスとして捉えることでその精神的健康に対する機能がより明確になる可能性がある。本研究では,青年期において「諦める」ことが体験されるプロセスとその精神的健康に対する機能を質的に検討することとした。後青年期(22~30歳)の男女15名を対象に,過去の諦め体験に関して半構造化面接を行い,29エピソードを得た。M-GTAを用いた分析の結果,24概念が生成された。予備的な分析を行った結果,【実現欲求低下】という概念を得,これが「諦める」ことの精神的健康に対する機能と関連する可能性が示唆された。この【実現欲求低下】を軸に「諦める」プロセスを分析した上で,未練型,割り切り型,再選択型の3つに分類し,各々の型の詳細なプロセスに関するモデルを生成した。諦めることの機能に関しては,【実現欲求低下】と【達成エネルギーの転換】が重要な役割を果たしており,割り切り型と再選択型という2つのプロセスにおいては諦めることが建設的に働き,未練型においては非建設的に働くことが示唆された。最後に本研究の限界と課題について論じた。
著者
岡田 努
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.346-356, 2016 (Released:2018-12-20)
参考文献数
45

本研究は青年期の友人関係の現代的特徴について検討を行ったものである。研究1では,青年の友人関係に変遷が見られるかどうかについて,1989年から2010年にかけて実施された調査に基づいて検討した。各研究で共通する項目についての項目得点の平均値を比較した結果,明確な変容は確認されなかった。青年全体の特徴についで,研究2では,青年の現代的特質についての個人差について検討した。青年の対人的な敏感さを示す現象として注目される「ランチメイト症候群」傾向について,同じく現代的な対人不適応の型とされる「ふれ合い恐怖的心性」を取り上げ,これと友人関係,自己意識,および自己愛傾向との関連について比較を行った。その結果,ランチメイト症候群傾向が高い者ほど過敏性自己愛が高い傾向が見られた。またふれ合い恐怖的心性が高い者は友人関係から退却することで不安から逃れ安定する傾向が見られるのに対して,ランチメイト症候群傾向を示す者は他者の視線を気にすることで,不安定な状態にとどまることが示された。青年の全体像だけではなく,差異にも注目することが,発達心理学が青年期の時代的な姿を明らかにする上で有効であろう。それとともに,その発生のメカニズムについて明らかにすることが必要となるだろう。
著者
石川 茜恵
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.142-150, 2014

本研究は,青年における過去のとらえ方のタイプの違いによって目標意識がどのように異なるのかを明らかにすることを目的とした。青年期を対象とした従来の時間的展望研究は青年における未来の側面を重視し,検討してきた。従来の研究の問題点として,研究対象が未来に偏重しており,過去に関する研究が少ないという点があった。現在において過去をどのようにとらえるかによって未来への意識が異なる点が示唆されており,この点の検討により青年の時間的展望をより理解できると考えられた。そこで本研究では,現在において過去をどのようにとらえているのかというタイプに基づいて目標意識の差異を検討した。大学生314名を対象に過去のとらえ方と目標意識から構成される質問紙調査を実施した。まず,過去のとらえ方尺度の5下位尺度を元にクラスタ分析を行った結果,異なる過去のとらえ方の特徴を持った「過去軽視群」「葛藤群」「統合群」「とらわれ群」の4タイプが得られた。次に,得られた4タイプを独立変数,目標意識を従属変数とした一要因分散分析を行った。その結果,現在において過去を過去として受容し,過去を現在や未来とつながるものとしてとらえていた統合群は,過去にとらわれていたり軽視していたり,過去が現在や未来につながっていないと推測された他の群よりも,将来への希望が高く,将来目標を持っていた。得られた結果が示す青年像と今後の課題が示された。
著者
村山 恭朗 伊藤 大幸 浜田 恵 中島 俊思 野田 航 片桐 正敏 髙柳 伸哉 田中 善大 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.13-22, 2015 (Released:2017-03-20)
参考文献数
32
被引用文献数
6

これまでの研究において,我が国におけるいじめ加害・被害の経験率は報告されているものの,いじめに関わる生徒が示す内在化/外在化問題の重篤さはほとんど明らかにされていない。本研究は,内在化問題として抑うつ,自傷行為,欠席傾向を,外在化問題として攻撃性と非行性を取り上げ,いじめ加害および被害と内在化/外在化問題との関連性を調査することを目的とした。小学4年生から中学3年生の4,936名を対象とし,児童・生徒本人がいじめ加害・被害の経験,抑うつ,自傷行為,攻撃性,非行性を,担任教師が児童・生徒の多欠席を評定した。分析の結果,10%前後の生徒が週1回以上の頻度でいじめ加害もしくは被害を経験し,関係的いじめと言語的いじめが多い傾向にあった。さらに,いじめ加害・被害を経験していない生徒に比べて,いじめ被害を受けている児童・生徒では抑うつが強く,自傷を行うリスクが高かった。いじめ加害を行う児童・生徒では攻撃性が強く,いじめ加害および被害の両方を経験している児童・生徒は強い非行性を示した。
著者
長谷川 真里
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.345-355, 2014 (Released:2016-12-20)
参考文献数
16

本研究は,信念の多様性についての子どもの理解を探るために,相対主義の理解,異論への寛容性,心の理論の3つの関連を調べた。研究1では,幼児,小1生,小2生,小3生,合計253名が実験に参加した。実験では,まず,「道徳」,「事実」,「曖昧な事実」,「好み」の4領域の意見について本人の考えを確認した。その後,本人の考えと同じ子ども(A),逆の考えの子ども(B)の2種を提示し,「どちらの考えが正しいか,両方の考えが正しいか(相対主義の理解)」,「A,Bそれぞれが実験参加児に遊ぼうと言ったらどう思うか(寛容性)」を尋ねた。幼児については誤信念課題もあわせて実施した。その結果,幼児においても課題によっては相対主義の理解がみられた。また,どの年齢群も,領域を考慮して判断していたが,寛容性判断において年齢とともに道徳領域が分化していった。「好み」に対する相対主義の理解がみられなかったのは,課題として提示されたアイスクリームのおいしさが,子どもにとって絶対的なものなのかもしれない。そこで,研究2では,子どもにとってあまり魅力的ではない食べ物(野菜)を材料にした補足実験を行った。その結果,「野菜」課題において相対主義理解の割合が増加した。また,心の理論と相対主義の理解に関係がみられた。最後に,本研究の結果をもとに,文化差について議論した。
著者
富田 昌平
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.86-95, 2009-04-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

本研究の目的は,不思議を感じとりそれを楽しむ心の発達について明らかにすることであった。研究1では,幼稚園年少児29名,年中児34名,年長児33名に3つの手品を見せ,そのときの幼児の顔の表情,探索行動,言語回答を観察し分析を行った。その結果,年少児では手品を見せられても顔の表情にあまり変化がなく,手品の不思議の原理を探ろうとする探索行動も全く見られなかったのに対して,年中児では軽く微笑んだり声をあげずに笑うなどの小さい喜び反応が増加し,探索行動も現れるようになり,さらに年長児では声をあげて笑ったりうれしそうに驚くなどの大きい喜び反応が増加し,探索行動も増加するといった一連の発達的変化が確認された。研究2では,研究1に参加した幼児86名に対して空想/現実の区別課題を行い,研究1の手品課題における反応との関連について検討した。その結果,空想/現実の区別を正しく認識している幼児ほど,手品を見たときに喜び反応をより多く示していたことがわかった。以上の結果から,不思議な出来事に遭遇したときに生じる,出来事の不思議に気づき,それを楽しみ,探究するといった心の動きが幼児期において発達すること,そしてその発達の背景には空想/現実の区別についての認識発達が存在することが示唆された。
著者
小川 絢子 子安 増生
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.171-182, 2008-08-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
6

幼児が他者の誤った信念を理解するためには,実行機能の発達が必要不可欠であることが,最近の「心の理論」研究から明らかにされてきている(Carlson& Moses, 2001; Perner &Lang, 1999)。実行機能の中でも,ワーキングメモリと葛藤抑制の機能が「心の理論」と特に関連することが示されている。しかしながら,日本において実行機能と「心の理論」の関連を検討した研究はほとんどみられない。本研究の目的は,実行機能と「心の理論]が,日本の幼児において関連するのかどうかを検討し,関連があるのであれば,実行機能の下位機能のうち何が「心の理論」と関連するのかを,因子分析を用いて下位機能の因子間の関連性および独立性を考慮した上で検討することであった。3歳から6歳児70名を対象に,「心の理諭」2課題,実行機能6課題,および語彙理解テストを実施した。その結果、年齢と語彙理解テストの成績を統制しても,ワーキングメモリ課題の成績と「心の理論」課題の成績との間に有意な相関がみられた。加えて,ワーキングメモリと葛藤抑制の因子間相関は非常に高かった。 これらの結果から,幼児期においては,葛藤抑制の機能の多くはワーキングメモリによって説明される可能性があり,1つの課題状況に対して,自己視点を抑制し,他者視点を活性化するといった操作を可能にするワーキングメモリ容量が,誤った信念の理解に必要であることが示唆された。
著者
風間 みどり 平林 秀美 唐澤 真弓 Tardif Twila Olson Sheryl
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.126-138, 2013

本研究では,日本の母親のあいまいな養育態度と4歳の子どもの他者理解との関連について,日米比較から検討した。あいまいな養育態度とは,親が子どもに対して一時的に言語による指示を控えたり,親の意図が子どもに明確には伝わりにくいと考えられる態度である。日本の幼児とその母親105組,米国の幼児とその母親58組を対象に,幼児には心の理論,他者感情理解,実行機能抑制制御,言語課題の実験を実施,母親には養育態度についてSOMAを用い質問紙調査を実施した。日本の母親はアメリカの母親に比べて,あいまいな養育態度の頻度が高いことが示された。子どもの月齢と言語能力,母親の学歴,SOMAの他の4変数を統制して偏相関を算出すると,日本では,母親のあいまいな養育態度と,子どもの心の理論及び他者感情理解の成績との間には負の相関,励ます養育態度と,子どもの心の理論の成績との間には正の相関が見られた。一方アメリカでは,母親の養育態度と子どもの他者理解との間に関連が見られなかった。子どもの実行機能抑制制御については,日米とも,母親の5つの養育態度との間に関連が見出されなかった。これらの結果から,日本の母親が,子どもが理解できる視点や言葉による明確な働きかけが少ないあいまいな養育態度をとることは,4歳の子どもの他者理解の発達を促進し難い可能性があると示唆された。
著者
道信 良子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.202-209, 2017 (Released:2019-12-20)
参考文献数
11

本稿では,島の子どもの遊びと伝統の祭りを素材に,子どものウェルビーイングについて考えていく。「いのちの景観」という概念を使って,子どものいのちに活力を与えるものは何かということの具体を,土地と文化という2つの局面から明らかにする。本稿で取り上げる事例は,ヘルス・エスノグラフィという方法論を用いて,2011年から2016年までの6年間,北海道の離島において断続的に実施した調査の資料にもとづいている。調査の結果,島の子どもたちは豊かな自然を遊び場にしていることがわかった。島の自然や生物とのふれあいをとおして子どもたちの人間関係が育まれ,自然が緩衝材となって子どもたちを結びつけていた。島の祭りでは,舞を観て,神輿行列に参加し,集落を踊り歩く子どもの行為が,土地に伝統をつないでいた。子どもにとって祭りは,土地を知り,地域を知る,身体の経験としてある。本研究は,子どもが土地や文化とつながり,生活感覚を豊かにすることの大切さを示している。
著者
中山 まき子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.51-64, 1992-12-25 (Released:2017-07-20)

本稿では既婚女性15名の妊娠・出産に関する予定質問を含む自由会話方式の聞き取り調査 (1987-90) -特に初めての妊娠体験の語り-に基づき, 現代日本社会における, 子どもを持つことに関する意識を探る。具体的には, 子どもを<授かる>・<つくる>という語彙の用いられ方, 意識の存否, およびそれらの内容のあり方を明らかにすることを目的とした。その結果 (1) 自分の妊娠に関して語る際の日常的表現としては<つくる>という語彙が頻繁に用いられ, <授かる>は用いられることが少ない。 (2) しかし妊娠状況の意識を語る手段としては<授かる>が現在も用いられる。 (3) その際の<授かる>という語棄は様々な意味で使用されている。例えば, 子どもを<つくろう>と計画的していた女性たちの喜びの表現として/子どもを (まだ) <つくらない>と計画していた女性たちが妊娠した際の落胆を緩和する表現として/生殖技術を用いた妊娠に対して生殖技術を用いないで妊娠した自分の状況を語る表現としてなどの意味をみいだすことができる。総じて今日の子どもを<授かる>という意識表現はコンテクストに依存して変化し, 多義的意味を包含する。よってこの意識は子どもを<つくる>という意識とは「位相が異なる」ものであった。従って両者は対立することなく複合的に存在する場合があることを示した。この結果を基に, 日本人の生命誕生に関する認識とその時代的変化を考察した。
著者
佐藤 由宇 櫻井 未央
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.147-157, 2010-06-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

広汎性発達障害者の抱える心理的な問題として,他者との違和感や自分のつかめなさといった自己概念の問題の重要性が近年指摘されているが,その研究は非常に困難である。本研究では,当事者の自伝を,彼らの自己内界に接近できる数少ない優れた資料であると考え,中でも卓越した言語化の能力を有する稀有な当事者による自伝を分析することによって広汎性発達障害者の自己内界に迫り,自己の特徴と自己概念獲得の様相を探索的に明らかにすることを目的とした。1冊の自伝を取り上げ,KJ法で分析を行った。結果,311のエピソードを取り出し,28のカテゴリーを生成した。その当事者の自己の様相においては,自己感の曖昧さや対人的自己認知の困難などの特異的な困難が明らかとなった。それらの困難ゆえに,対人的自己認知の獲得の過程において,主体としての自己を喪失する危機が生じやすいが,その際,自己感の曖昧さや対人接触の拒絶,解離など一般に障害あるいは症状とみなされる現象が危機に対する対処として機能していると考えられた。さらに,対人的自己認知は困難であるとはいえ,対人的経験の中で自己感を得られる新たなコミュニケーションスタイルを獲得しうる可能性も示唆された。
著者
小野寺 敦子 青木 紀久代 小山 真弓
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.121-130, 1998-07-30 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
4

はじめて父親になる男性がどのような心理的過程を経て父親になっていくのか, そして親になる以前からいだいていた「親になる意識」は, 実際, 父親になってからのわが子に対する養育態度とどのように関連しているのかを中心に検討を行った。まず, 父親になる夫に特徴的だったのは, 一家を支えて行くのは自分であるという責任感と自分はよい父親になれるという自信の強さであった。そして父親になる意識として「制約感」「人間的成長・分身感」「生まれてくる子どもの心配・不安」「父親になる実感・心の準備」「父親になる喜び」「父親になる自信」の6因子が明らかになった。親和性と自律性が共に高い男性は, 親になる意識のこれらの側面の内, 「父親になる実感・心の準備」「父親になる自信」が高いが「制約感」が低く, 父親になることに肯定的な傾向がみられた。また, これらの「親になる意識」が実際に父親になってからの養育態度にどのように関違しているかを検討した。その結果, 「制約感」が高かった男性は, 親になってから子どもと一緒に遊ぶのが苦手である, 子どもの気持ちをうまく理解できないと感じており, 父親としての自信も低い傾向がみられた。さらにこれらの男性は, 自分の感情の変化や自己に対する関心が高い傾向が明らかになった。
著者
松田 なつみ
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.250-262, 2013 (Released:2015-09-21)
参考文献数
21

児童期発症の慢性チック障害であるトゥレット症候群(TS)は,成人に従い軽症化し,症状の変動を伴う発達障害の一つである。TSのチックは短時間ならおさえられる等,ある程度はコントロールできるが対処しきれない性質を持つ。このようなチックの性質と経過からTSを有する者が普段から自己対処を行っている可能性が高いが,自己対処の負の影響も示唆されている。本研究では,チックへの自己対処が有効に働くにはどのような要因が重要なのか探るため,自己対処の機能や自己対処の生じる文脈を明らかにすることを目的とした。TSを有する本人16名(男性13名,女性3名,平均年齢25.5歳)に半構造化面接を行い,Grounded Theory Approachによって分析した。その結果,チックへの自己対処を行う際,「対処への圧力」と「対処の限界」が常にせめぎあっており,「部分的な対処」がその間に折り合いをつける機能を担っていることが示唆された。その上で,「対処への圧力」と「対処の限界」の両方が高く折り合いがつけられない状態(「対処の悪循環」)と,その両者の間に「部分的な対処」で折り合いをつけながら,「コントロール感」を得ていく状態(「チックと上手くつき合う」)を比較し,自己対処が上手く機能する文脈や関連する認識について考察した。
著者
青木 多寿子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.432-442, 2014 (Released:2016-12-20)
参考文献数
52

本研究の目的は,米国で実施されている品格教育について,その考え方や具体例を示し,品格教育の理論と実際を心理学の用語を含めて紹介することである。そこでまず,品格教育の概要を理解するため,品格教育が目指す姿を紹介し,その中でCharacterという言葉,品格教育が重視する徳について解説した。また全米で品格教育を推進するCEPの11の原理を紹介し,品格教育が目指す教育について解説した。次に,筆者が視察した3つのセンターとその特徴を記述する中で,品格教育が実際にどのように理解され,実践されているのかを具体的に示した。最後に,ポジティブ心理学や教育心理学との関係について紹介し,日本の道徳教育との相違点を述べて,実践としての品格教育の特徴を心理学の用語を用いてまとめた。