著者
大澤 啓志 石丸 智浩 有田 匡輝
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.604-608, 2023-05-31 (Released:2023-07-15)
参考文献数
14

いすゞ自動車(株)藤沢工場の保全樹林地における,従業員による林床管理の効果及び従業員の参加意識について報告した。従業員の管理作業は2016年度から開始され,2022年度時点で作業回数は計11回,参加者数は累計約340人であった。下刈りや落ち葉掻きの管理継続により,2014年時点では優占していたアズマネザサの生育量が低く抑えられ,草本層の種数の増加が認められた。林床でのトキワツユクサやボタンクサギ等の外来植物の繁茂が確認されたことを受けて,2020年度からはその防除も作業項目に追加していた。作業参加者へのアンケート調査の結果,必ずしも環境活動への関心だけではなく,様々な参加動機を有する従業員が一緒に活動していた。作業参加に対し自身の満足度で肯定的回答(79%)が多く得られ,また3回以上繰り返して参加する従業員も約1/3で認められ,一定の充実感・達成感を得ていると推察された。一方,参加することで自社への帰属意識,広く環境保全活動への関心といった幅広い効用も得られることも示された。参加した従業員に,自身の管理作業による生物多様性への貢献内容のフィードバックを工夫している点も重要と考えられた。
著者
鎌田 美希子 中尾 総一 阿部 建太 岩崎 寛
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.63-68, 2021-08-31 (Released:2021-12-29)
参考文献数
10
被引用文献数
1

近年,オフィス勤務者のコミュニケーション円滑化やストレス対策として,休憩室を設置する会社が見られる。一方,オフィス緑化が勤務者のストレスを緩和するという報告があり,休憩室の緑化はストレス対策として有効であると考えられる。しかし休憩室の緑化については継続的な利用での効果検証が求められるが,そうした研究はほとんど見られない。そこで本研究では緑化休憩室内で休憩した際の効果の把握を目的とし,長期間にわたり生理・心理的指標の測定を試みた。その結果,緑化休憩室での休憩が負の感情状態を改善し,仕事・職場に対する評価を改善することなどが明らかとなり,緑化休憩室での休憩が勤務者の心理に有用であることが示された。
著者
平林 聡
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.460-464, 2019-02-28 (Released:2019-07-27)
参考文献数
35
被引用文献数
2

i-Treeは都市森林の構造および生態系サービス解析のためのコンピュータプログラム群であり,2006年の最初のリリース以来,欧米諸国を中心に世界中で利用されている。本稿では,i-Treeの利用が先行する欧米諸国での実例に基づいて,緑の定量的および客観的評価の事例を紹介する。また,これらの評価がどのように都市森林の維持・管理,計画立案,政策決定,費用対効果分析,市民の啓蒙・参加,環境教育へと波及したかについても論じる。
著者
村上 健太郎 森本 幸裕 堀川 真弘
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.38-43, 2011 (Released:2012-03-14)
参考文献数
24
被引用文献数
4 1

近畿地方の市街地 164 箇所の人為的ハビタット(石垣,壁,建物間の隙間,路傍)におけるシダ類の種組成と気候条件との関係を,CCA (正準対応分析), TWINSPAN (二元指標種分析),指標種分析を用いて調査した。CCA の第1軸スコアは暖かさの指数や寒さの指数とよく対応し,気温変化の軸と考えられた。第2軸スコアは乾湿計数や冬季降水量とよく対応し,空中湿度などの乾湿に関する変化の軸と考えられた。TWINSPAN によってシダ類群集は4区分され,それぞれイヌワラビ型,イノモトソウ型,イヌケホシダ型,イシカグマ型と判断された。また,イヌワラビ型,イノモトソウ型,イヌケホシダ型,イシカグマ型の順に温かさの指数や平均気温は大きくなり,イシカグマ型,イヌワラビ型,イノモトソウ型,イヌケホシダ型の順に乾湿係数や降水量はより小さく,乾燥が厳しくなった。今後,このような群集タイプの変化に着目することで,気候変動の目安となる可能性があると考えられた。
著者
赤尾 智宏 倉本 宣
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.218-221, 2022-08-31 (Released:2022-11-22)
参考文献数
25

雑木林の林床の花に着目し,伐採や下草刈りが,開花期間,開花量,訪花昆虫の組成に与える影響を検討した。調査は管理が継続されている狭山丘陵の皆伐更新地で実施した。全期間を通じて70種以上の草本が開花し,各季節を特徴づける種には草原性植物に加えて外来植物や先駆植物も含まれた。後者が優占して調査区画全体の開花量が減少した可能性のある時期もみられた。昆虫としてはハナバチ類やハナアブ類に加えて,それ以外の分類群も多くの植物種に訪花した。開花期間と訪花適性の関係が昆虫の分類群により大きく異なるため,開花植物の時間軸での種多様性も訪花昆虫にとって重要であろう。定期的な植生管理も視野に入れる必要がある。
著者
増田 悠希 岩崎 寛
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.249-252, 2011 (Released:2012-03-14)
参考文献数
2
被引用文献数
6 4

緑地でのウォーキングが人の心理に与える効果を明らかにすることを目的とし,アンケート調査及び緑地におけるウォーキング時の心理的効果測定を試みた。心理的効果の評価項目として,POMS(感情プロフィールテスト)と,SD 法による印象評価を実施した。その結果,大学生の多くがウォーキングを植物の接し方としても運動の種類としても実践していることがわかった。しかし,時間の欠如を理由に運動をしていない人も多く,緑地でのウォーキングに対し心理的効果を期待しているが,実際には緑地を運動する場としては利用できていないことがわかった。また,緑地でのウォーキングは緑地以外でのウォーキングに比べ,疲労感が少ないなどの心理的効果があることがわかった。
著者
大城 温
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.521-523, 2019-02-28 (Released:2019-07-27)
参考文献数
7
被引用文献数
1

平成21~24年度の4年間に実施されていた,全国の国直轄道路事業における植物移植および移植後のモニタリング結果を分析したところ,多年草の移植が最も多かった。移植後における多年草の種ごとの活着率を比較すると,ラン科,特にキンラン属については,移植の実績が多いにもかかわらず,活着率が低く,混合栄養植物の移植の困難さが浮き彫りになった。そのため,筆者らは,キンラン属移植の確実性向上のため,自生地播種試験により移植適地を把握したうえで,移植する手法を検討している。今後,国内外の知見や筆者らの研究成果をとりまとめ,キンラン属の保全ガイドとして公表する予定である。
著者
加藤 顕 沖津 優麻 常松 展充 本條 毅 小林 達明 市橋 新
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.169-174, 2015 (Released:2016-04-19)
参考文献数
21
被引用文献数
5 1

ヒートアイランド現象の緩和対策として,都市緑地による熱環境緩和効果が期待されている。これまでの緑化対策では樹高しか着目されておらず,樹冠構造については考慮されなかった。樹冠構造の異なる緑地を対象に,樹冠構造の発達が地表面温度に影響するか検討した。その結果,樹冠の厚みが増すと日中の表面温度を下げ,夜間の表面温度を下げないことがわかり,昼夜間の温度変化を緩和する効果があった。そのため,樹冠構造を発達することが,都市林におけるヒートアイランド現象緩和機能を強化することがわかった。
著者
柴田 昌三
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.406-411, 2003 (Released:2004-08-27)
参考文献数
5
被引用文献数
22 22
著者
山寺 喜成
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.343-346, 2021-02-28 (Released:2021-07-13)
参考文献数
1

荒廃した自然を回復させるには,自然の回復力(復元力)を積極的に活用することが重要である。特に,自然の大規模な開発地の緑化,津波による海岸林荒廃地の復旧,地震や線状降水帯等に起因する群発型山崩れの復旧,深層崩壊地の復旧,砕石跡地の緑化,トンネル掘削ズリ堆積地の生態系回復,地砂漠等乾燥荒漠地の植生回復などにおいては,自然の持つ復元力を積極的に活用した方法が望まれる。自然の復元力の存在については,次にあげる4つの現象からその有効性を理解することができる。①先駆植物の旺盛な生育による生育環境の改善,②寄せ植えによる成長促進,③ストーンマルチによる生育環境の改善,④草本植物による土壌生成などである。
著者
東 哲典 蘭光 健人 庄司 顕則 伊藤 彩乃 赤﨑 洋哉 松前 満宏 山﨑 旬 遊川 知久 辻田 有紀
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.430-435, 2020-05-31 (Released:2020-07-28)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

クゲヌマランは絶滅危惧種であるが,近年,埋立地や公園など人工的に造成された緑地に多くの自生が確認されている。しかし,本種がなぜ造成地に定着することが可能になったのか,その原因は未だ明らかでない。本種は共生する菌類への栄養依存度が非常に強い部分的菌従属栄養植物で,特に種子の発芽は共生菌からの栄養供給が不可欠である。そこで本研究では,造成地に生育するどのような菌類が本種の種子発芽に関与し,定着を可能にしたかを明らかにするため,埋立地の植栽林にある自生地で野外播種試験を行い,得られた実生の共生菌を特定した。その結果,担子菌のイボタケ科に属する3種類の菌が本種の種子発芽に関与していることが明らかになった。これらの菌は,実生の成長段階,埋設した土壌深度や播種地点に関わらず検出され,種子発芽とその後の生育に重要な役割を果たしていると考えられた。イボタケ科は,ブナ科やマツ科樹木と共生する外生菌根菌である。植栽されたこれらの樹木とイボタケ科の菌類との間に安定した共生系が成立し,これらの菌を利用してクゲヌマランは造成地へ定着できたと推測される。
著者
小田 龍聖 深町 加津枝 柴田 昌三
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.38-43, 2016 (Released:2017-01-30)
参考文献数
6
被引用文献数
2

本研究は,多様な河川環境を評価する指標種として魚類の採捕調査をするとともに,地域住民に対するアンケート調査によって,住民の魚類の認知度や,藻刈りや清掃などの河川環境活動への意識の把握を試み,それらから河川環境の実態と住民の意識・意向を踏まえた住民主体の河川環境管理の在り方を検討することを目的とした。調査の結果,住民の魚類に対する認識と実態とには乖離があるものの,より詳しく魚類を認識している住民は,河川美化活動への意識に明確な傾向が見られた。
著者
大澤 啓志 勝野 武彦 片野 準也
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.188-197, 2001-02-28
被引用文献数
14 11

本研究では, 神奈川県東部の都市河川(柏尾川)で旺盛に繁茂しているレッドリスト掲載種ミズキンバイ(アカバナ科)について, その生態的特徴を明らかにした。月別の現存量の変化より, 本種の生活環として5〜8月の直立型の成長期, 9〜10月の匍匐茎による横方向への増殖期, 11〜1月の衰退期が明らかになった。開花は5〜12月に見られたが, 特に初夏に最も多くの着花数が認められた。分布は中流部の約6kmの範囲であり, 1998年の総生育量(植被面積)は約1,500m^2であった。確認された44地点の群落のうち25地点では, 中洲のほとんどを占有していた。水面上に広く葉を拡げる群落景観は, 水面から緩やかにつながる淡緑色の中洲・寄洲を形成し, 柏尾川の河川景観を特徴付けている。群落内の種構成を比較した結果, 群落遷移から考えてメリケンガヤツリ・ミゾソバの出現頻度の多少により遷移の初期型・後期型に区分された。さらに, 草丈の高い植物の侵入により本種の群落は減少すると思われる。
著者
今西 純一 奥川 裕子 金 鉉〓 飯田 義彦 森本 幸裕 山中 勝次 小島 玉雄
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.9-14, 2011-08-31
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

サクラ類は全国に広く植栽され,地域の重要な景観資源となっている。サクラ類を適切に管理するために,活力度の評価が必要となるが,開花期の着花状況に基づく活力度評価の方法は定まっていない。そこで,本研究は,奈良県吉野山のヤマザクラを対象として,着花状況に関する 4 つの評価項目の検討を行った。その結果,樹頂部の頂枝における芽の数や,葉芽と花芽の比率は,栄養成長と関連を持ち,活力度の評価項目として適切であることが明らかとなった。一方,1 つの花芽から出る花数は,様々な生育段階を含む集団の活力度評価には適さなかった。個体全体の満開時の着花量は,活力度評価には適さないと考えられた。
著者
小島 仁志 福留 晴子 小谷 幸司 島田 正文
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.187-190, 2016 (Released:2017-01-30)
参考文献数
7

神奈川県立境川遊水地公園を対象に,河川水の流入するビオトープエリアの樹木生育分布とその維持管理に関する基礎的調査を行った。その結果,合計で728本のヤナギ類を中心とした種組成を把握し,また河川水の流入口(越流堤)などの管理を要する箇所の整理,また外来種(イタチハギ)や先駆樹種(ヌルデ)の生育分布特性について把握した。以上の樹木生育分布状況に対応した植物管理手法の実施計画案についても報告する。