著者
檜垣 守男
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.518-523, 2005 (Released:2005-11-24)
参考文献数
10
被引用文献数
1

キリギリス科昆虫の一種イブキヒメギス(イブキ)は,本州中部以北,特に高地に多く生息する。本種は,胚発育中に初期胚で起こる初期休眠と成熟胚で起こる最終休眠の 2 つの休眠を経験する。それぞれの休眠期で越冬してから孵化する 2 年 1 化の生活史を基本とするが,初期休眠の長期休眠性により,孵化までに 2 - 4年を要する卵が混在する。初期休眠の生態的意義を探るため,本種と,最終休眠のみを持ち,主に低地に生息する年 1 化のヒメギス(ヒメ)の生活史を比較した。弘前では,ヒメの産卵は 7 月下旬に始まり,短期間に集中的に行われた。8月下旬以降に産下された卵は最終休眠期に到達できず,翌春の孵化が大きく遅れた。一方,イブキの産卵は 8 月上旬に始まり,秋遅くまで続いた。産卵期の早晩は 2 年後の孵化期に影響しなかった。高地のイブキの孵化, 羽化期は平地の系統より遅く,特に羽化期は年によって大きく変動した。ヒメギ類は幼虫発育に高温を必要とするため,高地のイブキは,冷夏や日照不足によって深刻な影響を受けると考えられた。以上より,イブキは初期休眠を持つことによって,発育季節が短く,不安定な地域での生活を可能にしていると考えられる。
著者
新井 隆介 大窪 久美子
出版者
JAPANESE SOCIETY OF REVEGETATION TECHNOLOGY
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.142-147, 2014
被引用文献数
1

岩手県では半自然草原群落が急速に減少しているため,本研究では残存する群落と過去の群落の種構成を比較することにより,半自然草原群落の適切な保全策について検討することを目的とした。その結果,残存する群落はススキ優占型MsI型とMsII型,シバ優占型ZjI型とZjII型の4 群落に分類された。過去に記録されたススキ群落は,本研究におけるシバ優占型の出現種と一部共通していた。過去のススキ群落の管理条件から,この群落の成立には春季の火入れと秋季の刈取り管理が重要であったと考えられた。さらに残存する群落では遷移進行が確認され,その保全には刈った草木を群落外に搬出する管理条件の改善が急務であると考えられた。
著者
重藤 大地 中島 敦司 山本 将功
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 = / the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.118-121, 2006-08-31
参考文献数
11

本研究では,ヒガンバナの開花と温度の関係について検討することを目的として,人工気象室で育成実験を行った。人工気象室の温度条件は,常に外気に追従した条件,常に外気に対してそれぞれ1.0,2.0,3.0℃ 高い条件の4 種類とした。そして,加温処理を開始した日はそれぞれ6月6日,6月28日,7月15日,8月4日,8月26日,9月5日とした。その結果,供試植物は夏期から秋口である開花期まで継続して外気より高温条件下におかれると開花期に外気より高温条件下でも開花可能となった。特に6月6日から7月15日までに1.0℃ から3.0℃ の加温条件下におかれた個体は,より高温条件下でも開花した。このことから,夏期の気温上昇によってヒガンバナの開花可能温度は上昇すると考えられた。一方,夏期における1.0℃ から3.0℃ までの平均気温の上昇は花の形態には影響を及ぼさないことも明らかになった。
著者
長谷川 祥子 下村 孝
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.552-560, 2013 (Released:2015-02-13)
参考文献数
100
被引用文献数
5 5

これまで,多くの研究が,植物が人の心身に及ぼす影響に関する知見を多く蓄積してきた。我々は,身近な自然として,室内に持ち込まれた植物に焦点をあて,その心理・生理的影響に関する研究を概観し,知見を整理した。室内植物がもたらす心理・生理的影響は,オフィス環境を端緒として,医療環境や教育環境など様々な空間を想定して,調査されてきた。その結果,室内植物がストレスや疲労を軽減し,リラックス状態に導くなど,人の心身に有益な役割を果たすことが明らかにされてきた。そして,植物の量や設置方法のみならず,人と植物との関わり方が植物の効用に及ぼす影響が検討されるまでになっている。これらの知見の整理から,室内植物に対する人の認知度合いが植物の効用に及ぼす影響などを今後の検討課題として抽出した。
著者
深山 貴文 後藤 義明
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.36-41, 2000-08-31 (Released:2011-06-07)
参考文献数
9
被引用文献数
2 1

本研究では山火事跡地におけるワラビ被覆量の季節変化を定量的に把握し, 被覆量と侵食土砂量の関係を求めることを目的とした。毎月1回の現地調査から, プロット内の現存量と枯死体量を月毎に推定した。被覆量と侵食土砂量の関係は人工降雨実験によって求めた。その結果, 本試験地のワラビ被覆量は11月から翌年4月まで, 300g/m2程度であると推定された。また, 夏期には500g/m2以上の被覆量となると見積もられた。人工降雨装置による実験の結果, 被覆量が300g/m2以上になると侵食土砂量は裸地の5%未満に減少することが分かった、また, 被覆物も斜面全体に分布していることが分かった。これらの結果から山火事跡地のワラビ群落の土壌保全機能はワラビ枯死体の堆積によって発揮され, 群落全体において年間を通じて土壌侵食を抑制すると考えられた。
著者
中村 彰宏
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.75-80, 2021-08-31 (Released:2021-12-29)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

台風による都市緑化樹木の被害特性解明のため,2018年第21号台風が樹木に与えた影響を約22 haの都市緑地で調査した。台風前には3,122個体の樹木が生育し,台風によって幹折れが145個体,根返りが58個体,傾斜が23個体で発生した。外来種と栽培品種の根と幹の被害比率は,自生種に比べて有意に高く,外来・栽培品種は台風の被害を受けやすいことが明らかとなった。幹被害割合(幹被害数/被害総数)と既報の生材の曲げ強度との間に有意なロジスティック回帰式が得られた。曲げ強度の小さな樹種では幹の被害割合が高くなり,曲げ強度が強風時の幹被害を説明する重要なパラメータと考えられた。
著者
吉田 麻美 米田 稔 片岡 利仁 尾坂 高明 小倉 研二 小島 玉雄
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.179-182, 2010 (Released:2011-03-16)
被引用文献数
1 1

京都府立植物園の桜園を対象として, 瓦破砕材を用いた土壌改良の有効性について検討した。まず試験的に各種土壌を充填した穴を通路上に設定し, 降雨への応答や踏圧による物理特性などの変化を追跡した。その結果, 瓦破砕材は適度な水の保持能力と水はけの良さを合わせ持っていること, 数ヶ月程度ではその効果は消えないことが明らかとなり, さらに実際に瓦破砕材を約40%(重量比)混合して実施した土壌改良でも改良前と水分保持量は変わらず, 水はけは良くなるという結果を得た。また土壌改良と同時に瓦破砕材のみを充填した道を造ったが, 土壌領域地表に難透水層が形成された場合には, この道が周囲の土壌中含水率に影響を及ぼすことが数値シミュレーションにより明らかとなった。
著者
田崎 冬記 宮木 雅美 戸田 秀之 三宅 悠介
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.503-511, 2013 (Released:2015-02-13)
参考文献数
26
被引用文献数
1

知床岬台地草原では,エゾシカ個体数の増加によってササ類の減少,樹皮剥ぎによる特定樹種の激減,実生・稚樹の採食による更新阻害,海岸性の植生群落とそれに含まれる希少植物の減少および土壌侵食等が問題となっている。このような背景からエゾシカの密度操作実験が行われ,同効果の把握や人為介入の開始・終了等の目安となる植生指標の開発が求められている。本調査では,防鹿柵内外のイネ科草本,アメリカオニアザミおよびハンゴンソウ,台地草原全体のイネ科草本およびクマイザサ,台地草原に隣接する森林の木本葉量の調査を行い,植生指標の適用性について検討した。その結果,イネ科草本はエゾシカ密度操作開始後から増加傾向を示し,逆にアメリカオニアザミはエゾシカの影響を排除した場合,直ちに減少した。これらは短期的な植生指標となり得ると考えられた。また,クマイザサは被度・稈高で密度操作実験開始後の変化が異なることから,被度は短期的,稈高は中長期的な植生指標となり得ると考えた。一方,台地草原に隣接する森林葉量は密度操作開始後,その増加量は高さによって異なったため,高さによって異なる時期の植生指標になり得ると考えた。
著者
下田 幸男
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.579-580, 2018-05-31 (Released:2018-08-24)
参考文献数
1
著者
藤原 敏 嶋 一徹 千葉 喬三
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.39-44, 2004 (Released:2005-11-22)
参考文献数
9

未利用有機資源であるタケの有効利用を考え,タケ炭化物の重金属吸着能を木炭,活性炭のそれと比較した。その結果,炭化温度に関係なく炭化物のpHが塩基性を示し,カリウムを多く含むタケ炭は優れた吸着能を有していることが明らかとなった。そこで,道路中央分離帯内の植栽樹木下でタケ炭をマルチング資材として利用した際の,浮遊粉塵中の重金属吸着能について実証試験を行った。その結果,植栽下にタケ炭を敷設することにより重金属汚染の抑制に効果的であることが明らかとなった。
著者
森川 政人 小林 達明 相澤 章仁
出版者
JAPANESE SOCIETY OF REVEGETATION TECHNOLOGY
雑誌
日本緑化工学会誌 = Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.103-108, 2012-08-31
被引用文献数
1 2 1

学校プール内に生息している水生昆虫相の種,個体数について,東京都及び千葉県内の 4 地域計 32 校において,2007 年 5 月~2008 年 5 月までの使用期間外に各校月 1 回程度調査を実施した。調査の結果を TWINSPAN で解析したところ,東京都と千葉県が異なるグループに分類された。ヒメゲンゴロウ,コシマゲンゴロウ,ミズカマキリ,ショウジョウトンボは東京都の学校プールで確認することができなかった。種数に差が確認された要因として,種の供給源となる学校プール周辺の水田面積や周囲の樹木の有無などが考えられた。主にトンボ目の個体数の差に影響を与える要因としては,学校プール周囲の植生から供給される落葉である可能性が示唆された。
著者
掛谷 亮太 瀧澤 英紀 小坂 泉 園原 和夏 石垣 逸朗 阿部 和時
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.299-307, 2016 (Released:2017-03-16)
参考文献数
13
被引用文献数
2 3

スギ間伐林分と未間伐林分において 11本のスギを対象に根系分布調査を行った。間伐,未間伐林分のスギともに根系材積は樹幹指数と良好な相関性を持つこと,間伐の実施如何にかかわらず立木本数密度と高い相関性があることが示された。また,根系分布調査結果から崩壊地底面と側面のすべり面に生育する根の量を算出したところ,間伐林分では林齢の増加に伴って根の量が増加しないことが示された。このことは,森林の崩壊防止機能がすべり面に生育する根によって発揮されるとの既往の考えと整合性が取れないことになる。このため,表層型崩壊が発生するような急斜面の表層土は,土質的に明瞭なすべり面が形成され難いことを考えて,崩壊発生時には表層土全体が歪み,亀裂が発生して崩壊に至ること,また表層土中で大量に生育している根系が歪や亀裂の発生を抑制することで崩壊防止機能を発揮していると仮定した。この仮定に基づいて表層土中の根系量を算出したところ,間伐林分では表層崩壊が多く発生しやすい 10~30年生にかけて根系量が未間伐林分よりも多いこと,また既往の研究成果と同じく林齢の増加に伴って崩壊防止機能が強くなることを裏付ける結果が得られた。
著者
岩崎 寛 山本 聡 権 孝〓 渡邉 幹夫
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.247-249, 2006-08-31
被引用文献数
10 14

近年、植物による癒しの効果に注目され、屋内空間においても多くの植物が配置されるようになった。しかし、それらが実際に人の生理的側面に与える効果に関する検証は少ない。そこで本研究では屋内空間における植物の有無が人のストレスホルモンに与える影響を調べた。その結果、観葉植物を配置した場合、無い場合に比べ、ストレスホルモンが減少したことから、室内における植物の存在はストレス緩和に効果があると考えられた。
著者
重藤 大地 中島 敦司 山本 将功
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.118-121, 2006 (Released:2007-04-05)
参考文献数
11
被引用文献数
1

本研究では,ヒガンバナの開花と温度の関係について検討することを目的として,人工気象室で育成実験を行った。人工気象室の温度条件は,常に外気に追従した条件,常に外気に対してそれぞれ1.0,2.0,3.0℃ 高い条件の4 種類とした。そして,加温処理を開始した日はそれぞれ6月6日,6月28日,7月15日,8月4日,8月26日,9月5日とした。その結果,供試植物は夏期から秋口である開花期まで継続して外気より高温条件下におかれると開花期に外気より高温条件下でも開花可能となった。特に6月6日から7月15日までに1.0℃ から3.0℃ の加温条件下におかれた個体は,より高温条件下でも開花した。このことから,夏期の気温上昇によってヒガンバナの開花可能温度は上昇すると考えられた。一方,夏期における1.0℃ から3.0℃ までの平均気温の上昇は花の形態には影響を及ぼさないことも明らかになった。
著者
佐々木 剛 丹羽 英之 朝波 史香 鎌田 磨人
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.51-55, 2017 (Released:2018-03-15)
参考文献数
23
被引用文献数
1

徳島県の海岸マツ林において,小型無人航空機(UAV) から取得した画像をもとに Structure from Motion(SfM)を用いて林冠高モデルを作成し,マツ林の持続的管理にとって重要な林床の光環境を表す指数の推定を試みた。現地調査で取得した全天写真から求めた開空度が,UAVデータから高い精度で推定された。特に,開空度が30 %を超えるプロットの多くではサイズの大きなギャップが抽出され,マツの生育に適した明るい場所が抽出可能であることが示唆された。