著者
那須 文実 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.9-18, 2015 (Released:2015-02-16)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

目的:潰瘍性大腸炎は寛解と再燃をくり返すことから,患者の職場における支援方法を検討する際は,再燃期を念頭に置いて考える必要がある.本研究では,患者が就業にあたり直面している困難さと前向きな気持ちを現在と症状の悪化時で把握することと,前向きな気持ちを維持する要因を明らかにすることを目的とした.対象と方法:就業中あるいは就業経験のある患者を対象に,無記名の自記式質問紙調査を実施した.ここ1週間および仕事をしていて症状の一番強かった時の就業上の困難(17項目)と前向きな気持ち(4項目)は,自作の質問項目を用いて尋ねた.本研究では,ここ1週間を現在,仕事をしていて症状の一番強かった時を悪化時とした. 結果:質問紙は70名から回収された(有効回答率32.0%).患者の平均年齢は43.8歳であった.疾患を発症した時の平均年齢は33.8歳であった.術後の2名を除いて,全員が服薬していた.現在の状況は,53名(75.7%)が寛解期にあり,ほとんどの者(91.4%)は体調管理がうまくいっていた.現在における就業上の困難は,「職場の人たちから病気が理解されない」(41.4%),「昇進や出世が遅れると感じる」(38.6%)など,職場環境に関するものが多かった.悪化時では,体調管理がうまくいかなくなり,通院頻度が多くなるが,上司・同僚に相談する者は少なかった.悪化時における就業上の困難は,「体力的にしんどい」(80.0%),「食事やお酒を断る」(72.9%)など,症状に関するものが多かった.悪化時でも前向きな気持ちが維持できていた者は,業務上の配慮を受けておらず,職場に病気相談相手がいた. 結論:潰瘍性大腸炎患者に対する職場での支援としては,患者が上司・同僚に自分の病気のことを話したり普段から受診したりしやすい,あるいは上司・同僚が病気や仕事について話せる相談者になるといった職場づくりなどが重要であることが示唆された.
著者
森本 英樹 柴田 喜幸 森田 康太郎 茅嶋 康太郎 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2019-007-E, (Released:2019-08-20)

目的:社会保険労務士(以下,社労士)は事業場のメンタルヘルス課題に関わるものの,社労士が事業場のメンタルヘルス課題に関わる際に期待されるコンピテンシーが明確ではない.よって本研究では,メンタルヘルスにおける社労士に期待されるコンピテンシーを同定することを目的とした.対象と方法:デルファイ法を用いた調査を行った.第1ステップとして対象となる社労士に半構造化面接を行い,面接結果と過去の予備調査をもとにコンピテンシー(案)を作成した.第2ステップとして,メンタルヘルスが関連すると考えられる事例の相談件数が10件以上の社労士にアンケート調査への協力呼びかけを行い,重要度(メンタルヘルス関連業務を行う際にどの程度重要と思うか)と達成度(自らがどの程度達成しているか)を問うた.また提示したコンピテンシー以外に必要と考えられるものを問い,コンピテンシー(案)の追加項目として加えた.第3ステップとして,第2ステップで有効回答をした者に対しステップ2の結果を提示した上で同意率(コンピテンシーに含めることを同意するか)を3件法で問い,同意率80%以上の項目をコンピテンシーとして設定した.また第2ステップで作成した追加項目について重要度と達成度を問い,この中で重要度が中央値以上にもかかわらず達成度が中央値を下回る項目を抽出した.結果:ステップ1では8名の社労士から協力を得,20領域68項目のコンピテンシー(案)を作成した.ステップ2では,57名の社労士が参加し45名の協力を得た(回答率78.9%).新たに追加すべきコンピテンシー(案)として7項目を追加した.ステップ3では,34名から協力を得た(応答率75.6%).同意率80%未満の2項目を除外し,その結果20領域73項目がコンピテンシーとして同定された.同意率が100%の項目として「立案は労使双方のメリットとデメリット(リスク)を踏まえた内容になっている」などがあげられた.結論:本研究により事業場のメンタルヘルスに社労士が関わる際に期待されるコンピテンシーを提示できた.本結果は,今後社労士を対象とした体系的な研修カリキュラムの開発の参考になることが示唆された.
著者
向 友代 森岡 郁晴
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2019-018-B, (Released:2020-02-08)
被引用文献数
1

目的:近年がん患者の治療と仕事の両立の問題が注目されている.がん患者の離職は特に診断初期に多いことが問題視されている.本研究は,がん患者の診断初期における就労継続の要因を,事業場・疾病・医療の側面から検討を行うことを目的とした.対象と方法:20~64歳のがん患者で,確定診断後2年以内の被雇用者68名のうち研究の趣旨を説明し同意を得た61名を対象に,面接者の研究目的に沿って決められたデータを収集する構成的面接を行った.調査内容は,属性,業種,会社規模,雇用形態,休暇制度,診断初期の相談相手とその内容,がんの部位と病期,今まで受けた治療方法,身体症状,全身状態の評価指標であるEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)Performance Status(以下,PS),就労継続に必要な診断初期の情報,医療者への就労に関した相談の経験と相談内容,就労に影響した支援の状況であった.休業中を含む就労していなかったものを非継続群,就労を継続していたものを継続群とし,2群間における各要因の出現状況の比較にはχ2検定およびFisherの直接確率法を用いた.統計的有意水準は5%とした.結果:61名中60名(98.4%)が就労継続を希望していた.60名のうち非継続群は15名(25.0%)であり,継続群は45名(85.0%)であった.属性,業種,会社規模,雇用形態は,2群間に有意な差はなかった.診断初期の相談内容についてみると,「病気・治療・症状のこと」は継続群に多く,2群間に有意な差があった.また,「医療費や生活費など経済面のこと」は継続群に少なく,有意な差があった.同僚に病名を伝えている人は継続群に多く,有意な差があった.「試し(慣らし)勤務制度」の希望,がん患者が働くことへの偏見や誤解は継続群に少なく,有意な差があった.継続群に,がんの病期Ⅰ以下が多く,今まで受けた治療として手術が多く,全身状態が良好であるPS0・1が多く,有意な差があった.就労に影響した支援においては,「上司・同僚の理解,配慮や励まし」「診断直後は仕事のことを考えられない」という回答を得た.考察と結論:がんの診断初期の就労には,がんの病期や全身状態,手術の有無が関連していた.事業場では,「上司・同僚の理解,配慮や励まし」が職務継続の後押しとなっていた.診断初期は「仕事のことを考えられない」ことがあり,医療者はこの危機的状況を支え,患者自身が就労に関して納得した選択ができるような支援が必要である.
著者
畑中 陽子 玉腰 暁子 津下 一代
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.141-149, 2012-07-20 (Released:2012-09-21)
参考文献数
32
被引用文献数
6 12

目的:20歳代のBMIやその後の体重変化が,40歳代での高血圧・糖尿病の服薬率・有病率や医療費に及ぼす影響を検討する.対象と方法:1989年時点で20歳代の男性10,125人を対象とし,BMI区分別,およびBMI区分と20年間の体重増減の組み合わせ別に40歳代の高血圧・糖尿病の服薬率・有病率と医療費について分析した.BMI区分別の服薬率,有病率,受療率をロジスティック回帰分析により,平均医療費を共分散分析により,1989年時点の年齢,ならびに20年間の体重変化の程度を調整して検討した.結果:20歳代から40歳代にかけて20年間で平均7 kgの体重増加を認めた.40歳代の高血圧服薬率・有病率,糖尿病服薬率・有病率のいずれも20歳代のBMI区分が高くなるほど有意に上昇し,BMI 18.5–19.9の群に比べ25.0以上の群では高血圧有病率は6.81倍,糖尿病有病率は16.62倍であった.40歳代の外来医療費,総医療費も同様に20歳代のBMI区分が高くなるほど高額となり,1人当たり平均総医療費はBMI 18.5未満の群の818.7円から25.0以上群の5,311.5円に増加した.さらに,20歳代のBMIが20.0–21.9,22.0–24.9であっても20年間に体重が10㎏以上増加した場合には40歳代の高血圧・糖尿病のリスクが増加した.考察:20歳代のBMIが高い区分ほど40歳時の高血圧や糖尿病の有病率は上昇し,同様に医療費も増加した.20歳代でBMI 25.0未満の場合でも,20歳代のBMI区分とその後の体重増加に依存して有病率が高くなった. 終身雇用を基本とした日本企業における保健活動では,若年期からの肥満対策はもちろん,肥満でない人も含めて体重コントロールができるよう支援することが重要である.
著者
井上 まり子 錦谷 まりこ 鶴ヶ野 しのぶ 矢野 栄二
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.117-139, 2011 (Released:2011-08-04)
参考文献数
110
被引用文献数
14 18

非正規雇用者の健康に関する文献調査:井上まり子ほか.帝京大学大学院公衆衛生学研究科―目的:非正規雇用者の健康に関する原著論文を収集して整理し,その内容を概観することを目的とした. 方法:非正規雇用に関連するキーワードをもとに,米国国立医学図書館のMEDLINEと医学中央雑誌刊行会の医中誌webで検索して文献を入手した.各文献を研究方法,調査データの種類,標本規模,調査国,結果となる健康指標,非正規雇用の定義,主な研究結果について整理して分析した. 結果:条件に該当したのは英語論文68編であった.これらの論文を結果指標である労働災害,身体的健康,精神的健康,代替的健康指標の4種類に分け,研究デザイン(コホート研究,症例対照研究,横断研究)別に概観した.非正規雇用者の健康状態が正規雇用者と比べて悪かったのは,一部の労働災害による傷病と身体的健康における死亡率であった.精神的健康ではGeneral Health Questionnaire等の指標を用いた研究で,概して非正規雇用で健康状態が不良であると結論づけた研究が多くみられた.そのほかの代替的健康指標として,医療へのアクセスについても非正規雇用で限りがあるという傾向や,非正規雇用者では正規雇用者と比べて病気による休職や欠勤が少ないという傾向が認められた. 考察:非正規雇用者で正規雇用者より健康状態が悪い場合が,複数の研究から示された.不安定な雇用契約や,しばしば変化する職場環境下で働かざるをえない非正規雇用者の負の側面が,健康に影響を及ぼす可能性がある.一方,正規雇用者の健康度が悪いと結論づける研究もあり,雇用形態が多様化する社会においては雇用形態を問わず健康度が悪化する可能性がある. (産衛誌2011; 53: 117-139)
著者
吉田 えり 山田 和子 森岡 郁晴
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.B14002, (Released:2014-07-07)
被引用文献数
2 5

目的:男性看護師においては,首尾一貫感覚(Sense of Coherence,SOC),ストレス反応,SOCとストレス反応との関連を明らかにした研究は見当たらない.本研究では,病院に勤務する男性看護師のSOC,ストレス反応,SOCとストレス反応との関連性を明らかにすることを目的とした.対象と方法:男性看護師51名と女性看護師51名を解析対象者とした.女性看護師は,年齢を±1歳で,有する資格を看護師あるいは看護師と保健師で,勤務部署を「内科系病棟」「外科系病棟」「その他の病棟」の3区分で,男性看護師にマッチさせた.調査項目は,属性,SOC,職業性ストレス簡易調査票,勤労者のためのコーピング特性簡易尺度(Brief Scales for Coping Profile,BSCP)であった.SOCとストレス反応との関連は,心理的あるいは身体的ストレス反応を従属変数として,重回帰分析で検討した.結果:男性看護師の年齢の中央値は27歳で,四分領域は24–30歳であった.臨床経験年数の中央値は4年で,四分領域は2–7年であった.SOCの総得点には,男女間の差が認められなかった.男性の心理的な仕事の負担(質)は女性に比べ少なく,職場環境によるストレスは高かった.ストレス症状では,男性の抑うつ感が強かった.ストレス反応に影響を与える因子では,男性の上司・同僚からの支援度は女性に比べ低かった.BSCPの下位尺度では,男性の「他者への情動発散」と「回避と抑制」は女性に比べ高く,「問題解決のための相談」は低かった.SOCの総得点は男女とも,ストレス要因9因子,影響因子4因子,BSCP6下位尺度,年齢で補正しても,ストレス反応の心理的ストレス反応と身体的ストレス反応に有意な関連を認めた.SOCの下位尺度である処理可能感は,男性においてのみ心理的ストレス反応と身体的ストレス反応に関連性が認められた.結論:SOCは,性差を認めなかった.抑うつ感は男性の方が強かった.SOCの総得点と心理的ストレス反応・身体的ストレス反応との関連性は男女とも同様の傾向を示したが,SOCの下位尺度の関連性には性差を認めた.
著者
三橋 祐子 錦戸 典子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.95-106, 2017-07-20 (Released:2017-08-18)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

目的:地域保健との連携に関する産業看護職のコンピテンシーを明らかにする.対象と方法:事前に質問紙調査および,電話インタビューによって地域保健担当者との連携実施の有無やその内容について確認した上で,より充実した連携活動を実施している産業看護職10名を選択して対象とした.インタビューガイドを用い,半構造化面接法によるインタビューを実施した.分析方法はMayringの提唱する要約的内容分析を用いた.データをコード化した後,「日頃の取り組み」,「連携の実践」,「組織の理解を得るための取り組み」,「連携の基盤となる意識・姿勢・考え方」という4つの側面毎に分け,類似するものをまとめてサブカテゴリー,カテゴリーを生成した.結果:19のサブカテゴリー,9つのカテゴリーが生成された.≪地域保健情報の収集≫,≪地域保健担当者との関係性の構築≫,≪従業員の家族の問題抽出≫,≪従業員・家族と地域保健担当者との結び付け≫,≪地域保健が持つ社会資源の活用≫,≪地域保健との連携の重要性の提示≫といった地域保健との連携における産業看護職の具体的なコンピテンシーが明らかになった.また,≪従業員の人生全体や従業員の家族の要因を捉える姿勢と視点の保持≫,≪産業看護職自ら地域保健との連携を推進する姿勢の保持≫,≪産業看護職の存在意義の認識≫のように連携の基盤となる産業看護職の姿勢や考え方等も明らかになった.考察:これからは従業員やその家族も含めた生活全体,人生全体をみる姿勢や考え方を基盤として地域保健との連携に取り組むことが求められ,産業看護職がこれらのコンピテンシーを習得するための機会が必要であると考えられた.また,研究参加者らは,産業看護職1名体制のような専門職の人的資源が乏しい環境であっても≪地域保健担当者との関係性の構築≫や≪地域保健が持つ社会資源の活用≫等のコンピテンシーを用いながら地域保健と連携し支援の充実を図っていることが伺えた.
著者
中野 治美 井上 栄
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.133, 2010 (Released:2010-06-02)
参考文献数
24
被引用文献数
6 4

東京圏在住サラリーマンの通勤時身体運動量:中野治美ほか.大妻女子大学家政学部公衆衛生研究室―目的:東京圏在住サラリーマンの中強度以上身体活動の量を測定し,電車通勤者とクルマ通勤者とで比較する. 対象と方法:歩数および身体活動の測定には,身体活動強度METs(=安静時の何倍かを表す単位)を1分ごとに記録する身体活動量計(オムロンHJA-350 IT)を使った.データをパソコンに移して,通勤時間帯および全日の運動量「エクササイズEx」(=METs(≥3)×時間)を計算した. 結果:電車通勤男性群(74人)は,朝夕の通勤にそれぞれ70±30,103±43分を使い,朝+夕通勤時のExは3.4±1.7で,これは全日のEx 5.3±2.4の64%を占めた.この全日Exは,クルマ通勤男性群(78人)の全日Ex 1.8±0.8の2.9倍であった.1日の歩数は,電車通勤男性群9,305±2,651歩で,クルマ通勤男性群3,490±1,406歩の2.7倍であった. 考察:厚生労働省「健康づくりのための運動指針2006」は,週23 Ex以上の身体運動を推奨している.東京圏在住の電車通勤サラリーマンの運動量は大きく,週日5日間では男性で平均26.5 Exとなり,電車通勤は生活習慣病予防に貢献しているように見える. (産衛誌2010; 52: 133-139)
著者
左達 秀敏 村上 義徳 外村 学 矢田 幸博 下山 一郎
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 = Journal of occupational health (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.67-73, 2010-03-20
参考文献数
42
被引用文献数
3 3

<b>歯磨き行為の積極的休息への応用について:左達秀敏ほか.花王株式会社東京研究所―目的:</b>本研究の目的は,歯磨き行為における積極的休息としての有用性を明らかにすることである. <b>対象と方法:</b>生理指標としてフリッカー値を,心理指標として主観的アンケートを用いて検証した.まず,17名の健康な若年男女(男性12名,女性5名,平均年齢±標準偏差;22.5±1.5歳,右利き)を歯磨き群と非歯磨き群に無作為に割り当てた後,両群にパソコン上で20分の連続計算課題を実施させた.その後,歯磨き行為を行わせ,その前後でフリッカー値と気分を計測した. <b>結果:</b>歯磨き群のフリッカー値は,歯磨きをしない群と比べて有意に増加した( <i>p</i><0.05).一方,気分については,"爽快感"が歯磨きをしない群と比べて有意に増加し( <i>p</i><0.05),"集中力","頭のすっきり感"が増加傾向を示した(<i>p</i><0.1).また,"倦怠","眠気"は,有意に減少した( <i>p</i><0.01).<b>考察と結論:</b>歯磨き行為による体性感覚刺激や口腔内触覚刺激が総合的に大脳活動を賦活させたと考えられ,また,気分を爽快にする効果が認められたことから,歯磨き行為は,積極的休息として応用できる可能性が示唆された.<br> (産衛誌2010; 52: 67-73)<br>
著者
能川 和浩 小島原 典子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.61-68, 2018-05-20 (Released:2018-05-31)
参考文献数
14

目的:休職中の労働者が復職するときに,就業上の配慮として軽減業務が産業医から指示されることは多い.例えば,時短勤務で復職すると休職期間が短縮する,業務負荷を軽減すると復職後の再休職が低下するなど,就業上の配慮は復職後の就業アウトカムを向上させる効果はあるのだろうか.我々は,産業保健現場からの疑問に対してGrading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation(GRADE)アプローチを採用して定性的システマティックレビューを行い,日本の産業保健現場において活用できる推奨を作成した.方法:「科学的根拠に基づく産業保健における復職ガイダンス(復職ガイダンス2017)」のレビュークエスチョンのひとつとして「P:私傷病で休職中の労働者に対して,I:復職時の就業上の配慮は,C:ない場合と比べて,O:休職期間の短縮など就業上のアウトカムを向上させるか」が公募より選定された.復職時の就業上の配慮として,時短勤務などの軽減業務に関する介入研究について,Cochrane Library,PubMed,医中誌Webを用いて文献検索を行った.632件の無作為化比較試験(Randomized controlled trial;RCT),またはコホート研究が抽出されたが,既存のシステマティックレビューは検索されなかった.復職ガイダンス策定委員会がスコープで決定した選択基準,除外基準に従い,2名が独立して文献スクリーニングを行った.介入研究は,RevMan5.3を用いてバイアスリスクの評価を行い,観察研究のバイアスリスクは,Newcastle-Ottawa scaleで評価した.GRADEPro GDTを用いて,バイアスリスク,非一貫性,非直接性,不精確,出版バイアスなどからエビデンス総体の確実性の評価を行った.GRADEのEvidence to Decisionを採用して,推奨作成グループの無記名投票により推奨作成を行った.結果:筋骨格系障害による休職者に対する時短勤務または,軽減作業に関する3研究(RCT1件,コホート研究2件)が抽出されたが,統合できるアウトカムはなかった.メタアナリシスは行わなかったが,定性的システマティックレビューの結果より,時短勤務が休職期間を短くし,軽減作業が再休職率を下げる可能性があることが示唆された.推奨作成グループで検討し,休職中の労働者に対して,復職時に就業上の配慮を行うことが筋骨格系障害において推奨された.(低いエビデンスに基づく弱い推奨)考察と結論:今回の結果は,産業保健体制の異なる海外の筋骨格系障害からの休職者に対する研究の定性的システマティックレビューによるものである.今後,我が国における,メンタルヘルス不調などほかの疾患に関する比較研究,費用対効果などのエビデンスを蓄積させていくことが求められる.
著者
岩切 一幸 高橋 正也 外山 みどり 劉 欣欣 甲田 茂樹
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.130-142, 2016-07-20 (Released:2016-07-29)
参考文献数
24
被引用文献数
3 8

目的:本研究は,腰痛予防に有用な福祉用具を導入しても残る介護者の腰痛発生要因をアンケート調査により明らかにすることを目的とした.対象と方法:対象施設は,福祉用具を積極的に導入し,様々な安全衛生活動に取り組んでいる8つの高齢者介護施設とした.対象介護者は,それらの施設に勤務する介護者全員とした.調査票は,本調査用に作成した施設管理者記載の施設用アンケートと介護者記載の介護者用アンケートを用いた.施設用アンケートでは,施設の基本情報と安全衛生活動について調査した.介護者用アンケートでは,介護者の基本情報,取り組んでいる安全衛生活動,移乗介助方法,入浴介助方法,腰痛の症状,職業性ストレスの程度を調査した.結果:施設用アンケートの配布数は8部,回答数は8部,回収率は100%であった.介護者用アンケートの配布数は404部,回答数は373部,回収率は92.3%,そのうち性別・年齢の記載のない者を除いた367名を解析対象者とした.介護施設では,種々の安全衛生活動に取り組んでおり,多くの介護者がそれらの活動に参加していた.また,施設ではリフトをはじめとした種々の福祉用具を導入し,多くの介護者が移乗介助や入浴介助において福祉用具を使用していた.過去の調査に比べると重度の腰痛者割合は少ないことが伺われたが,それでもなお,10.1%の介護者が仕事に支障をきたすほどの腰痛(重度の腰痛)をかかえていた.その原因を探るために,得られたデータをロジスティック回帰分析にて解析したところ,入居者ごとの介助方法を実施していない,同僚間にて介助方法に関する話し合いをしていない,福祉用具の使用を指導されていない,作業ローテーションを工夫していないことが,重度の腰痛との間で関連性が認められた.また,移乗介助および入浴介助において無理な作業姿勢をとっている,人力での入居者の持ち上げを行っている,移乗介助において作業時間に余裕がない,入浴介助において作業人数が不足していることも,重度の腰痛との間で関連性が認められた.考察:今回,腰痛要因として抽出された安全衛生活動は,ほとんどの施設において介護者に指導されている内容であった.しかしながら,介護者によっては入居者ごとの介助方法を実施しなくなり,それにともなって同僚間での話し合いや福祉用具の使用,作業ローテーションの工夫がおろそかになり,適切な作業姿勢や動作が行われなくなることで,仕事に支障をきたすほどの重度な腰痛になっていたと示唆された.これらのことから,福祉用具を導入しても残る介護者の腰痛発生要因は,適切な介助方法が十分に徹底されなくなることと考えられた.それを防ぐためには,介護者の意識改善,介助方法を定期的に再確認する体制の構築,入居者一人一人の作業標準を介護者間で議論・検討した上で徹底させていくといったリスクアセスメントと労働安全衛生マネジメントシステムの実施が必要と思われた.
著者
木村 宣哉 小原 健太朗 秋林 奈緒子 宮本 貴子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
pp.2018-039-B, (Released:2019-05-31)
被引用文献数
10

目的:近年、健康に関する情報を扱う能力であるヘルスリテラシー(以下、HL)が国内外ともに注目されてきているが、日本の企業において包括的なHLを調査した研究は見当たらない。本研究の目的は、鉄道会社A社の包括的HLを調査し、産業分野における包括的HLの実態及び健康診断や健康相談などとの関連を明らかにすることである。対象と方法:対象として、A社の社員をA社全体の分布と同程度の割合になるよう年代、性別、夜勤の有無、役職の有無で20群に層化し、541名を系統的無作為抽出した。調査は2017年に郵送による自記式質問紙調査を実施した。HLの測定は、HLS-EU-Q47日本語版を使用した。この質問紙はヘルスケア、疾病予防、ヘルスプロモーションの3領域で構成され、各領域を合わせたものを総合HLとする。質問は47項目で、回答は「とても簡単」「やや簡単」「やや難しい」「とても難しい」「わからない/あてはまらない」の5択とした。HLのスコアは、0から50点満点に標準化した。HLの困難度は、「やや難しい」と「とても難しい」を合わせた割合とした。HLの比較として、中山らのWEBによる調査とGotoらによる調査を用いた。また、HLと個人属性、健康診断や健康相談等に関する行動との関連をみるため統計解析を行った。本研究はA社内部の倫理委員会の承認を受け実施した。結果:調査票は417名から返却された。A社の総合HLは25.1と低い結果であった。この結果は、中山らの調査と比べると同程度の総合HLで、Gotoらの調査と比べると5点程度低かった。A社の領域別HLは、ヘルスケア24.6、疾病予防27.9、ヘルスプロモーション22.8と全体的に低く、傾向としては疾病予防領域が高く、ヘルスプロモーション領域が低かった。この傾向はGotoらの調査と同様であったが、中山らの調査では逆に疾病予防の領域でHLが低くなっていた。また、A社では個人属性と総合HLに有意差はみられなかった。HLの困難度では「食品パッケージ情報の理解」の項目で最も先行研究と差があり、A社は約20%困難度が高かった。健康診断・健康相談等に関する行動とHLでは、疾病予防とヘルスプロモーションの領域で、健診結果の活用と健診で要精査だった場合の受診行動に有意差がみられた。また、総合HL及び疾病予防のHLと職場巡視で健康相談等を受けた回数とで有意差がみられたが、自分で希望して受けた人を除いた解析では有意差はみられなかった。考察と結論:A社の包括的HLは低かったが、本調査を含め、日本におけるHLS-EU-Q47を用いた3つの調査は一貫した結果を示さなかった。これらの要因として、調査方法の違いやA社の特徴などが考えられる。また、総合HL及び疾病予防のHLが高い人は、自主的に健康相談等を受ける傾向などが明らかとなった。