著者
伊藤 敏幸 野上 敏材
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.165-174, 2018 (Released:2019-09-02)
参考文献数
66

イオン液体は不揮発性で難燃性という環境面での利点に加えて,イオン液体の特徴を活かした反応ができる。本稿では,有機合成化学に如何にイオン液体を利用するかという観点から,三つのトピックスを紹介する。最初は触媒反応へのイオン液体の利用について,歴史的な経緯から新しい利用方法について,二つ目はイオン液体を用いる反応活性化,最後は有機合成のためのリパーゼ触媒反応について最近の例を述べる。
著者
渡邉 研志 秋 庸裕
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.119-124, 2020 (Released:2020-03-04)
参考文献数
14

地球環境の保全と資源・エネルギーの再生利用を両立する持続的技術として,海洋大型藻類や火力発電排出ガスを原料としたバイオリファイナリーにより,高度不飽和脂肪酸やカロテノイド,炭化水素などの有用脂質を生産する新規システムの構築を進めている。油糧微生物ラビリンチュラ類オーランチオキトリウム属の有機酸資化性を活用した二段階発酵系とゲノム育種による高機能化を統合して生産性の最大化をめざしているので,その進捗を紹介する。
著者
上田 守厚
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.19, no.12, pp.507-512, 2019 (Released:2019-12-06)
参考文献数
7
被引用文献数
2

近赤外分光法は,電磁波である近赤外光を未粉砕の固体・粉体や液体試料に照射し,その吸収を測定・解析することにより,定性または定量分析を行う方法である。近赤外分光法は試薬等の化学物質を必要とせず,前処理なく非破壊・非侵襲で迅速・簡単に同時多項目分析ができる利点がある。したがって原料や製品の品質管理,工程管理に重要な分析ツールとなりうる。さらに近赤外分光法は,装置をライン上(例:ベルトコンベア上)に設置するか,ラインに設置したセンサから光ファイバーケーブルを使用して反射・透過光を得ることにより,インライン・オンライン分析にも利用されている。本稿では品質管理で利用されているフーリエ変換型近赤外分析計(FT-NIR)による油脂の迅速分析について,海外の公定法の内容を交えて紹介する。
著者
堀 久男
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.111-118, 2016 (Released:2019-02-01)
参考文献数
55
被引用文献数
1

有機フッ素化合物は熱的,化学的に安定で,高い界面活性作用や低粘性,低屈折率等の優れた性質を持つ。このため様々な産業あるいは消費者向けの用途があり,新材料の研究も盛んである。一方で環境中に残留しやすく,廃棄物の分解処理も困難,さらにPFOSやPFOAと呼ばれる一部の化合物やその関連物質には生体蓄積性があるという側面もある。本稿ではこのような有機フッ素化合物の製造や使用に係る世界の規制動向と,最近我々が取り組んでいる先端フッ素材料に関する分解・再資源化反応の研究成果について報告する。
著者
馬場 星吾 寺尾 純二
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.4, no.7, pp.271-277,270, 2004-07-01 (Released:2013-06-01)
参考文献数
46
被引用文献数
1

野菜や果物などの植物性食品に含まれるポリフェノールは生活習慣病の予防に関わるフードファクターとして注目されている。ここではポリフェノールのバイオアベイラビリティーについて, とくにフラボノイド化合物であるカテキン類の生体への吸収代謝と生理活性との関連について最近の研究成果を報告する。ラットやヒトにおいて (+) -カテキンや (-) -エピカテキンは没食子酸が結合したカテキン類に比べて吸収されやすく, 血漿中では主にグルクロン酸抱合体, 硫酸抱合体, メチル化体およびそれらの複合体として存在する。ただし, ラットとヒトではその代謝物分布に相違があり, ヒトでは硫酸抱合体が相当量存在する。カテキン類の生理機能として抗酸化活性が考えられるが, 代謝物においてもカテコール構造が保持されたものは抗酸化力をもつ。また, カテキン代謝物は抗酸化活性以外にもカスパーゼ活性阻害やMAPキナーゼ不活性化による神経細胞のアポトーシス抑制作用を有することが報告された。したがって, カテキン類の機能を正しく評価するためには生体吸収率と代謝変換を考慮しなければならない。
著者
後藤 直宏
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.14, no.6, pp.243-251, 2014 (Released:2017-02-01)
参考文献数
66

食事に占めるトランス脂肪酸の量が増えると冠動脈疾患リスクが増加することより,多くの国でその摂取量が問題視されている。その一方で,トランス脂肪酸とはトランス型炭素–炭素二重結合を分子内に有する様々な脂肪酸異性体の総称であり,各トランス脂肪酸異性体の代謝特性は異なることが知られている。本報告では,各トランス脂肪酸異性体の代謝特性に関して解説し,トランス脂肪酸問題の解決方法を探った。
著者
藪 浩
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.16, no.11, pp.525-533, 2016 (Released:2019-02-01)
参考文献数
22

ムール貝の接着タンパク中に含まれるカテコール基は多様な材料表面と相互作用することで高い接着性を示す。また,カテコール基はフェノール性水酸基を持つため,無機イオンを還元する還元剤としても働く。近年このユニークな特徴を利用して,多様な材料に接着する高分子材料が開発されている。本稿では,筆者らが合成しているカテコール基含有両親媒性ランダムおよびブロック共重合体の合成と,その接着,表面改質,無機ナノ粒子合成のための還元剤としての応用について紹介する。
著者
酒井 正士 片岡 豪人 工藤 聰
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.85-90,66, 2002

ホスファチジルセリン (PS) は脳に存在する主要な酸性りん脂質であり, 古くから脳機能との関連で研究が進められてきた。<BR>1986年にはDelwaideらが, 牛脳由来ホスファチジルセリン (牛脳PS) を老人性痴呆症患者に経口投与することにより症状が回復することを初めて報告した。これ以後, 欧米で10件を超える二重盲検試験が行われ, いずれの場合にも老人性痴呆症に対する有効性が確認されている。特に494人の老人患者を対象としたイタリアにおける臨床試験では, 抗痴呆剤として牛脳PSを摂取することにより, 副作用は認められず行動と知的能力のパラメータが改善されることが示されている。<BR>しかしながら, 牛脳には感染性スポンジ脳症を媒介する恐れもあることから, 安全性の観点から見て食品素材としては適していない。また, 牛脳から得られるPS量はそれほど多くなく, 安全で充分な量を確保できる天然素材は他に見当たらない。この問題を解決するため, ホスホリパーゼDを用いて大豆レシチンとL-セリンとを原料にPS (大豆転移PS) を製造する技術が開発された。<BR>大豆転移PSの脂肪酸組成は牛脳PSとはかなり異なるが, 牛脳PSと同様にスコポラミンで誘発した齧歯類の記憶障害を回復させた。さらに, 老齢ラットに大豆転移PSを連日投与した結果, 牛脳PSと同様に水迷路試験の成績が回復したことから, 大豆転移PSも牛脳PSと同様の効果を持つことが期待される。
著者
高橋 典子 今井 正彦 李 川
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.14, no.12, pp.523-530, 2014

<p>ビタミンAは約200年前に発見されてから,様々な役割を果たす重要な栄養素として認められてきた。現在,活性型ビタミンAであるレチノイン酸は前骨髄性白血病患者に対し分化誘導療法薬(抗がん剤)として使用されているが,他のがんや疾病に対する応用も期待される。近年,レチノイン酸以外のレチノールを含むレチノイドに抗がん作用があることが示され注目が集まっている。そこで本稿では,ビタミンAの供給,及び,生体内でのビタミンAの動態,代謝,作用についての新しい知見を,1)β-カロテンの作用と供給源としてのレッドパーム油,2)レチノイン酸の腸内免疫賦活作用,3)ビタミンAに関連する新技術[レチノイン酸の可視化,レチノイン酸結合タンパク質の分解促進法,レチノイン酸のLC/MS/MSによる新規定量法],4)ビタミンAに関連する新素材[新規レチノイン酸誘導体由来化合物の抗酸化作用と抗がん作用(Non-genomic action)],の内容で紹介する。ビタミンAの補助食品としての活用法の構築や予防薬・治療薬の開発を行い,健常人や患者のQOLの向上に寄与できる研究を目指す。</p>
著者
常川 勝彦 村上 正巳
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.10, no.10, pp.351-357, 2010 (Released:2013-06-01)
参考文献数
21

近年, 食生活の欧米化や運動不足などの生活習慣の変化にともない, わが国においても肥満者が増えている。肥満の予防は, 脂質異常, 耐糖能異常および高血圧などの代謝異常をもたらすメタボリックシンドロームの予防に加えて, 動脈硬化性疾患への進展の防止につながるため重要である。肥満は多くの成因から引き起こされるが, 遺伝素因と環境因子の相互作用が重要である。肥満関連遺伝子の検索として, 一塩基多型 (SNP) を用いた候補遺伝子解析および全ゲノム解析が行われており, これまでに複数の遺伝子が候補として報告されている。将来の肥満に対する予防医学としての個別化医療の実現には, 多くの対象者に対し関連する複数のSNPを診断する必要があり, 簡便, 迅速かつ正確なSNP解析が可能であるSmartAmp法の個別化医療に向けた臨床応用が期待される。
著者
和田 侑子 石井 文由
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.8, no.9, pp.371-378, 2008
被引用文献数
1

本総説では, 緑茶カテキンの皮膚適用時の有益効果に焦点を当て, その秘めたるパワーについて紹介する。緑茶カテキンは, 皮膚癌の発ガン過程抑制効果, 抗炎症効果, 紫外線ダメージから皮膚を保護する効果, しみやそばかす生成予防, 美白効果, 光老化に対するアンチエイジング効果, ホルモンバランス異常に対する改善の効果を有することが報告されている。また, 緑茶カテキンの欠点である不安定性を改善するためにさまざまな技術が開発されており, その1例として, 緑茶カテキンを油中に溶解させることにより, 安定化させるとともに, 皮膚への浸透性を高めるわれわれの技術も紹介する。全世界で増加している皮膚癌患者を救う, あるいは自己治癒力, 自己免疫力を高めることによって若く健康な肌を保つ等, 緑茶カテキンの秘めたる可能性は, 近い将来の医薬品や化粧品の発展に必ずや大きな貢献をするものと期待される。
著者
青山 敏明
出版者
Japan Oil Chemists' Society
雑誌
オレオサイエンス = / Japan oil chemists' society (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.3, no.8, pp.23-30, 2003-08-01
参考文献数
65
被引用文献数
2

中鎖脂肪酸は, 通常油脂中の長鎖脂肪酸と消化吸収性が大きく異なり, 肝臓に直接運ばれ, 素早く酸化されてエネルギー源となる。この結果, 食後の熱産生が高く, 食後の血中トリグリセリド濃度が上昇しない。また, 中鎖脂肪酸は通常の条件で安全と確認されている。最近, 中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール (MCT) および中・長鎖トリアシルグリセロール (MLCT) の体脂肪蓄積抑制効果がヒトの長期摂取試験で示された。このMLCTは, 中鎖脂肪酸が比較的少量であるが体脂肪蓄積抑制に有効であり, 汎用食用油として有用である。
著者
宮田 昌明
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.14, no.9, pp.381-385, 2014 (Released:2017-02-01)
参考文献数
25

腸内細菌は消化管でビタミン,短鎖脂肪酸の生成を担うだけでなく胆汁酸の代謝変換をおこなう。腸内細菌による胆汁酸の代謝変換は消化管の胆汁酸組成変化を誘導し,核内受容体farnesoid X receptor(FXR)シグナルやタンパク分解シグナルを介して宿主の胆汁酸代謝動態の調節に関与する。また近年腸内細菌による胆汁酸代謝変換を介するシグナルが肥満の予防の標的になることが報告された。本稿では,腸内細菌依存的な胆汁酸シグナルの脂質恒常性への寄与について紹介する。
著者
蓑島 良一
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.1, no.8, pp.857-862,824, 2001-08-01 (Released:2013-04-25)
参考文献数
57
被引用文献数
1

リパーゼは油脂工業において最も重要な酵素であり, 微生物リパーゼは商業化され, 一部油脂製造用として工業的に用いられている。近年, 基質特異性の高いリパーゼを用いた構造油脂の生産の検討などが多く行われ, たとえば, 生理活性が高いとされるEPA, DHAや中鎖脂肪酸, 新規油糧原料など多くの油脂原料が基質として利用されている。しかし, リパーゼは高価であり, また長期間使用による活性の低下が起こりやすく, 製造コストが比較的高い。コスト低減法としては, リパーゼを安価に製造したり, リパーゼの安定性を高めたり, リパーゼを活性化するなどの方法がある。リパーゼの安定性を高める方法としては, 安定化剤添加, 化学修飾, 固定化, 遺伝子操作などがあげられる。また, リパーゼの安定性に大きな影響を与える因子としては, 反応系の水分量, 反応温度や基質油の精製度, 過酸化物価などがあげられ, これらを調節することで安定性が向上する。リパーゼ反応の工業化例としては, 脂肪酸製造, カカオ代用脂, 中鎖・長鎖脂肪酸のトリアシルグリセロールなどがあげられる。実際の反応では, 化学反応と比較して基質特異性が高いことやマイルドな条件による反応で風味が良いなどの利点があるが, 精製度が低いリパーゼを用いると, 酵素中の不純物が反応油へ影響を及ぼすこともある。
著者
菊川 清見
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.75-82, 2001-01-01 (Released:2013-04-25)
参考文献数
4
著者
橋本 道男
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.67-76, 2006-02-01 (Released:2013-06-01)
参考文献数
92
被引用文献数
2 3

ドコサヘキサエン酸 (DHA, 22 : 6n-3) は神経細胞膜リン脂質の構築成分であるn-3系必須不飽和脂肪酸であり, 正常な脳の発達や視力を維持するのに極めて重要である。脳内のDHAが欠乏すると, 神経伝達系, 膜結合型酵素やイオンチャネル等の活性, 遺伝子発現, およびシナプスの可塑性, 等に著明に影響を及ぼし, そのためにDHA欠乏は, 加齢に伴う脳機能異常, アルツハイマー病, うつ病, ならびにペルオキシソーム病などを誘発する。また, DHAの摂取不足は認知・学習機能を低下させるが, DHA摂取によりこの機能は回復するようである。疫学的研究によると, 魚の消費が少ないとアルッハイマー病の罹患率が高いことから, 魚油, とくにその主成分であるDHAによる神経保護作用が推察される。脳機能障害に作用するDHAの分子メカニズムは不明であるが, DHAを摂取すると, 動物の学習機能障害が改善し, またアルツハイマー病モデルラットやマウスでの学習機能障害が予防, さらには改善される。本論文では, 食餌性DHAによる記憶・学習機能向上効果, さらには臨床応用として脳機能障害の代表的疾患であるアルツハイマー病やうつ病との関連性について紹介する。
著者
髙谷 正敏
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.13, no.9, pp.423-428, 2013

エリスリトールは,ショ糖の約75%の甘味をもつ四炭糖の糖アルコールである。ブドウ糖を原料として酵母の発酵により生産される "ブドウ糖発酵甘味料" であり,糖質では唯一のカロリーゼロの甘味料である。消費者の健康志向を背景として,エリスリトールは,あらゆる分野での低カロリー製品の検討やシュガーレス菓子の検討などに利用されている。本稿では,エリスリトールの生理的特性や物理化学的特性を中心に紹介し,その特性を利用した使用例についても紹介する。