著者
酒井 秀樹 土屋 好司 山口 俊介 遠藤 健司
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.11-19, 2018 (Released:2019-09-02)
参考文献数
37
被引用文献数
2 1

両親媒性分子が形成する二分子膜閉鎖体であるベシクルは,細胞膜の構造との類似性から人工の細胞膜モデルや,ドラッグデリバリーシステム(DDS)における薬物担体としての応用の試みが活発に行われている。また,ベシクルはその内部に水溶性物質を保持可能であり,また二分子膜内部には油溶性物質をも保持(可溶化)可能であることから,最近では香粧品・食品・化成品など幅広い分野への応用も試みられるようになってきている。本稿では,ベシクルの形成条件やその安定性を支配する因子について概説する。さらに,両親媒性分子混合系における分散安定性に優れるベシクル・ニオソームの調製,さらにはベシクルを構造指向剤として利用したナノサイズのシリカ中空粒子の調製法について紹介する。
著者
嶋田 格 松井 宏 澤田 真希 高石 雅之 藤田 郁尚
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.15, no.9, pp.415-421, 2015 (Released:2018-02-01)
参考文献数
11

清涼化粧料には,清涼成分としてℓ-メントールが汎用されている。しかしながら,ℓ-メントールは,適度であれば快適な清涼感を付与する一方で,多すぎると灼熱感,ヒリヒリ感といった不快刺激を感じることが知られている。そこで,我々は,快適な清涼感を与える濃度範囲を確認するために,頚部を用いた清涼感評価方法を確立し,ℓ-メントールに対する感度が高いクールスティンガーを選定した。これにより,男女によるℓ-メントールの感受性の違いや,発汗時の清涼感の感じ方の違いを明らかにした。また,TRPチャネルに着目した評価方法を用いることで,ℓ-メントールによる不快刺激を1,8- シネオールが抑制することを発見した。
著者
城戸 浩胤
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.4, no.10, pp.409-415,400, 2004 (Released:2013-06-01)
参考文献数
9
被引用文献数
3 3

ローズマリー (Rosemarinus officinalis) はよく知られているハーブの一種であり, その抽出物は酸化防止剤として広く利用されている。ロスマリン酸, カルノソール, カルノジック酸およびロスマノールのようなローズマリー抽出物成分は, ビタミンEおよびBHT (2および6-di-tert-ブチル-4-クレゾール) より強い抗酸化機能を有している。本稿では, ローズマリー抽出物の抗酸化成分とその効果について, さらには, 食品への用途展開について紹介する。ローズマリー抽出物は, 抽出法により, 含まれる抗酸化成分濃度や比率が異なることが分かり, 得られた抽出物の抗酸化性能は大きく異なった。さらに, 得られた抽出物の抗酸化性能は, その成分中のカルノソール等のアピエタン骨格ジテルペンポリフェノールの総量に依存した。一方, 食品の劣化原因は大きく分けて, 油脂や酵素の種類等の食品中に含まれる成分による影響 (内部要因) と, 保存や加工プロセスにおける光や熱等の影響 (外部要因) に分けられる。ローズマリー抽出物の機能として, 内部要因である油脂や酵素による劣化防止性能が高いことが判明し, 実際にローズマリー抽出物を食品に用いた系において, その食品が油脂劣化や酵素による劣化が防止されることが確認された。また, 外部要因である光および熱による影響においても, ローズマリー抽出物を添加された食品の劣化が抑制された。
著者
日比野 英彦
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.13, no.11, pp.539-547, 2013 (Released:2016-02-01)
参考文献数
55

リン脂質(PL)は細胞やオルガネラの膜形成やシグナル伝達分子の機能を果たす重要な成分である。細胞間と細胞内のPL由来シグナル伝達分子は,PL分子種自身,ホスホリパーゼA(PLA1,2),ホスホリパーゼC(PLC),ホスホリパーゼD(PLD)による分解産物とそれらの代謝産物である。PL,特に特定のホスファチジルコリン(PC)分子種は核受容体に認識される。このPC分子種は転写因子を活性化し標的遺伝子を発現させ,脂質代謝を促進する。PLのPLA1,2による加水分解はリゾPL(LPL)と当モルの脂肪酸またはアラキドン酸(AA),エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)などを含む高度不飽和脂肪酸(PUFA)を産生する。LPLにはリゾPC(LPC)や免疫関連作用を示すリゾホスファチジルセリンなどが含まれ,PUFAからは,AAのカスケード領域が華々しく創生され,EPAはエイコサノイドとDHAはドコサノイドへの進展が観られる。PLのPLCによる加水分解はホスファチジルイノシトールが主な対象であり,プロテインキナーゼCを活性化するジアシルグリセロールと滑面小胞体からカルシウムイオンを放出させるイノシトール1,4,5-三リン酸を産生する。PLDによりPLの作用に関し,ホスホジエステラーゼ(PDE)機能による加水分解はたん白質を活性化するホスファチジン酸(PA)とコリン(Cho),セリン,エタノールアミンなどの塩基を産生する一方,塩基交換機能では中枢領域においてPCやホスファチジルエタノールアミンがホスファチジルセリン(PS)に転換され,そのPSが神経細胞膜のシグナル伝達に関与している。LPCをリゾPAとChoに加水分解する分泌型リゾPLDが細胞運動性刺激因子オータキシンであると同定された。新たに発見されたCho含有PL特異的PDEはLPCとグリセロホスホコリン(GPC)をホスホChoに分解してCho代謝を制御することが見出された。GPCはCho補給源として母乳に豊富に存在し,精液,睾丸,腎臓に存在が認められ,成長ホルモン分泌促進,肝機能障害改善などが知られ,腎臓や精巣での浸透圧調整作用との関係が深い。

2 0 0 0 OA 油脂製造技術

著者
加藤 保春
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.1, no.7, pp.779-784, 2001-07-01 (Released:2013-04-25)
参考文献数
3
被引用文献数
1
著者
秋久 俊博
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.7, no.10, pp.445-453, 2007 (Released:2013-06-01)
参考文献数
62
被引用文献数
11 12

天然のトリテルペンやトリテルペン配糖体には抗炎症, 抗腫瘍, 発がん予防, 血糖降下, 抗高脂血, 肝保護, 抗ウイルスや抗菌作用など多彩な生理機能が報告されている。ここではこれら多彩な生理機能のうち, 2002~2006年にかけて報告された天然トリテルペン類やそれらの構造修飾物についての抗炎症, 抗腫瘍および発がん予防機能について概説する。トリテルペンポリオール類および酸性トリテルペン類の幾つかはin vivoモデル動物実験で優れた活性を示しており, これらのトリテルペンおよびそれらの誘導体は今後の抗炎症剤, 抗腫瘍剤および発がん予防剤開発において有用な化合物とみなされる。
著者
佐藤 清隆
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.16, no.9, pp.425-432, 2016 (Released:2019-02-01)
参考文献数
24
被引用文献数
1

ゲル,クリーム,エマルションなどのコロイド分散系の脂質含有食品において,脂質結晶は融解挙動,レオロジー,テクスチャー形成に重要な役割を果たしている。近年,脂質結晶に関する研究が極めて活発になっているが,その駆動力の1つが欧米で喫緊の課題となっている「トランス酸代替」と「飽和酸低減」のための技術開発であろう。本稿では,分子レベルから結晶ネットワークのレベルまで,脂質結晶の構造と物性に関する基礎的知見を,応用と結びつけながら解説する。とくに,脂質の結晶多形構造,混合挙動および結晶化の制御についての最近の研究をレビューする。
著者
桶田 洋明
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.19, no.9, pp.379-385, 2019 (Released:2019-09-25)
参考文献数
7

油彩画における表現技法は,油絵具の性質との関わりが深く,特に媒材である乾性油,揮発性油等の特徴を生かしたものが多い。それらはテンペラ絵具やアクリル絵具には見られない,透明度の高さと可塑性の高さによる技法であり,それぞれ「透層技法」と「アラプリマ」が該当する。今後も油彩画は,油絵具と他の描画材との混合などにより,独創的な表現が可能となることで,さらなる発展が期待できる。
著者
菅原 知宏 山本 周平 曽我部 敦
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.195-202, 2020 (Released:2020-05-09)
参考文献数
16
被引用文献数
1

酵母Pseudozyma tsukubaensisが生産するマンノシルエリスリトールリピッド-B(MEL-B)は,糖脂質型バイオサーファクタントとして研究が進められてきた。一方,優れたラメラ形成能と皮膚保湿作用といった機能性に加え,特徴的な使用感を付与する点が高く評価され,化粧品への採用が広がってきている。それに伴って,製剤化に関する研究も進展しており,MEL-Bの特性を活かした処方例の報告が増えてきている。本稿では,MEL-Bの皮膚に対する効果とメカニズムに関する基礎研究から,化粧品処方や使用感評価といった応用研究まで,化粧品用途を目指した研究事例を紹介する。
著者
齋藤 洋昭
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.85-87, 2011-03-01 (Released:2013-07-18)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1
著者
酒井 正士 片岡 豪人 工藤 聰
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.85-90,66, 2002-02-01 (Released:2013-04-25)
参考文献数
38

ホスファチジルセリン (PS) は脳に存在する主要な酸性りん脂質であり, 古くから脳機能との関連で研究が進められてきた。1986年にはDelwaideらが, 牛脳由来ホスファチジルセリン (牛脳PS) を老人性痴呆症患者に経口投与することにより症状が回復することを初めて報告した。これ以後, 欧米で10件を超える二重盲検試験が行われ, いずれの場合にも老人性痴呆症に対する有効性が確認されている。特に494人の老人患者を対象としたイタリアにおける臨床試験では, 抗痴呆剤として牛脳PSを摂取することにより, 副作用は認められず行動と知的能力のパラメータが改善されることが示されている。しかしながら, 牛脳には感染性スポンジ脳症を媒介する恐れもあることから, 安全性の観点から見て食品素材としては適していない。また, 牛脳から得られるPS量はそれほど多くなく, 安全で充分な量を確保できる天然素材は他に見当たらない。この問題を解決するため, ホスホリパーゼDを用いて大豆レシチンとL-セリンとを原料にPS (大豆転移PS) を製造する技術が開発された。大豆転移PSの脂肪酸組成は牛脳PSとはかなり異なるが, 牛脳PSと同様にスコポラミンで誘発した齧歯類の記憶障害を回復させた。さらに, 老齢ラットに大豆転移PSを連日投与した結果, 牛脳PSと同様に水迷路試験の成績が回復したことから, 大豆転移PSも牛脳PSと同様の効果を持つことが期待される。
著者
野坂 直久
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.163-170, 2020 (Released:2020-04-08)
参考文献数
29

中鎖脂肪酸摂取が運動中のエネルギー基質代謝や体組成へ与える影響について解説する。脂肪は体内に大量に保有するエネルギー基質であり,パフォーマンス向上や競技特性に望ましい体組成の獲得のため,脂肪利用促進はトレーニングや食事の面から検討されている。中鎖脂肪酸は容易にエネルギーを産生し脂肪利用を促進することを期待され注目されてきた。運動前や運動中の多量摂取によるエネルギー補給が検討されてきたが,パフォーマンスへの効果は一貫しておらず,消化管の不快感も認め,その後,研究は中鎖脂肪酸の中間代謝物であるケトン体を主成分とした補給食品へ進展した。一方,中鎖脂肪酸の少量継続摂取は最大下運動中の脂肪利用を高め,オフシーズン時の筋厚の減少を抑え,運動との併用では体脂肪蓄積を相加的に抑制するなど,持久的運動能力の向上や階級制競技に望ましい体組成の維持増進に役立つ可能性が近年示されつつあり,他の競技や運動様式への応用が期待されている。
著者
大久保 剛
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.157-162, 2020 (Released:2020-04-08)
参考文献数
22
被引用文献数
2

コリン化合物は,生体の細胞膜を構成し,神経伝達物質のアセチルコリンの前駆物質としての役割を担っている。このように生体にとっては重要な物質である。運動の視点で見ると,トップアスリートでも激しい運動をすると体内のコリン化合物は消費されていく。そして,神経伝達が上手く行かずにパーフォーマンスが落ちてくる。これらのメカニズムを検証しながらコリン化合物と運動機能との関係を概説する。
著者
藤原 英記
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.103-108, 2019 (Released:2019-09-25)
参考文献数
30

ヒトは「味覚」によって体にとって摂取すべきものと忌避すべきものとを弁別している。甘味はエネルギー摂取の役割として主に糖の摂取を促し,うま味は体の構成成分としてのアミノ酸の摂取の役割としてタンパク質の摂取を促す。その点から考えると,糖を中心とした炭水化物,タンパク質と並び三大栄養素の一つである油脂にも摂取を促す「味」があると考えることは自然である。しかしながら,油脂はそのまま摂取しても味や香りはなく,さらに摂取したいと思うことはない。この点からも油脂の味覚に関する研究は,五味の研究と比べると大きく遅れているのが実態であるものの,徐々に研究が進み油脂の「味」に関しても明らかにされつつあるため,その一部を紹介する。また我々は脂肪酸の一つであるアラキドン酸が食品のおいしさを向上させる効果を有することを示し,特にうま味を向上させることを明らかにした。また同様にアラキドン酸の分解物が味覚感受性に影響を与えることが示された。
著者
伊野 大記
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.19, no.10, pp.417-422, 2019 (Released:2019-10-04)
参考文献数
6

スプレードライ方式による粉末油脂は,油滴サイズを1 µm程度の大きさに調整したO/W乳化物を作製し,噴霧乾燥させたものである。粉末油脂は,バルクの油脂と違い水に容易に分散し,乳化状態を保っている。また,食品に使用することにより,食感改良など様々な効果をもたらすことができる。本論文では,粉末油脂の概要を説明した後,食品への応用について具体例を挙げ紹介する。
著者
高村 仁知
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.7, no.6, pp.231-235, 2007-06-01 (Released:2013-06-01)
参考文献数
9

脂質に含まれる多価不飽和脂肪酸は構造的に酸化されやすく, 食品においては調理加工や保存の過程などで酸化をうける。その結果, 生じた脂質酸化生成物には食品の風味を損なう, 毒性を有するなど, 食品の品質に悪影響をもたらすものがある。大豆においては, リノール酸がリポキシゲナーゼによって酸化されて生成するリノール酸13S-ヒドロペルオキシドから豆臭の主成分であるヘキサナールが生ずる。大豆種子に存在する3種のリポキシゲナーゼアイソザイムのうち, L-2アイソザイムがヘキサナール生成に最も寄与し, L-3アイソザイムは逆にヘキサナール生成に寄与せず, 逆にヘキサナール生成を抑制する。一方, 魚においては, 従来, トリメチルアミンが魚臭の主成分であるとされてきたが, イコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸などの酸化劣化に由来する多くのカルボニル化合物が存在すること, これらの化合物はさまざまなにおいを有しており, これらのにおいが相まって魚臭となっていることが明らかとなった。
著者
八田 一
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.11, no.5, pp.147-153, 2011-05-01 (Released:2013-07-18)
参考文献数
22

産卵鶏の血液IgG抗体は卵黄中へ蓄積される。これは親鳥が獲得した免疫を子孫に伝えるためである。卵黄中の抗体はIgYと呼ばれている。従来, 特異的抗体はウサギやヤギを特定抗原で免疫し, その血液からIgG抗体として得られているが, 現在では鶏を免疫して, その卵から特異的IgY抗体を得ることが可能である。IgYは対応する抗原に対して, ほ乳類の血清IgG抗体と同様の特異性を有し, 臨床検査試薬として有効に利用可能である。また, IgYのその他の重要な利用法として, 病原体や毒素抗原に対して調製したIgYで病原性や毒性を中和する受動免疫療法があげられる。本稿ではIgYの用途として, 臨床検査薬分野への応用および感染症予防分野への応用について紹介する。
著者
前多 隼人
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.12, no.10, pp.503-508, 2012 (Released:2015-02-14)
参考文献数
30

フコキサンチンはワカメやコンブなどの褐藻類に特徴的に含まれる,カロテノイドの一種である。近年,抗肥満,抗糖尿病,抗酸化,抗がん,血管新生抑制作用など,フコキサンチンの様々な生理機能が報告されている。これらの機能の中でも脂肪組織を介した抗肥満,抗糖尿病作用は特に注目されている。 フコキサンチンは,肥満による様々な疾患の原因となる白色脂肪組織の肥大化を抑える。その作用機構としてuncoupling protein 1(UCP1)タンパク質の,白色脂肪組織での異所性の発現誘導が考えられている。また,脂肪組織から分泌され体内の組織のインスリン抵抗性の惹起に関わるアディポサイトカインの分泌調節や,筋肉組織での糖取り込みの正常化により抗糖尿病効果を示す。近年ではフコキサンチンの体内動態とそれら代謝物による作用も明らかになりつつある。本項では特にこのようなフコキサンチンによる脂肪組織や筋肉組織を介した抗肥満作用,抗糖尿病作用の作用機構について解説する。
著者
後藤 剛 Kim Minji 川原崎 聡子 高橋 春弥 河田 照雄
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.145-152, 2019 (Released:2019-09-25)
参考文献数
33

腸内細菌叢は宿主のエネルギー代謝調節において重要な役割を果たすことが明らかになりつつあるが,その詳細な分子機構は未解明な部分が多い。短鎖脂肪酸をはじめとする腸内細菌由来代謝産物による宿主代謝調節機構がその一翼を担っていると考えられる。褐色脂肪組織は低温下での体温維持に寄与する高い熱産生能を有する脂肪組織であり,その活性強度が成人の肥満度と逆相関することが明らかにされ,肥満や肥満に伴う代謝異常症の予防・改善の標的組織として注目されている。近年,腸内細菌叢と褐色脂肪組織機能の関連性が報告されつつあり,食餌由来の腸内細菌代謝産物を介した褐色脂肪組織機能調節機構の存在が示唆されている。本作用は腸内細菌叢による宿主エネルギー代謝調節機構の一端として寄与していることが推定される。本稿では,褐色脂肪組織機能および食餌由来腸内細菌代謝産物による褐色脂肪組織機能調節作用について概説したい。特に,近年同定された食餌由来不飽和脂肪酸由来の腸内細菌産生修飾脂肪酸の機能について,私達が行っている研究結果について中心に紹介する。