著者
中川 裕美 Nakagawa Yumi ナカガワ ユミ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.61-69, 2018-03

原著社会心理学の分野において、内集団協力を説明する代表的な理論には社会的アイデンティティ理論(SIT)と閉ざされた一般互酬仮説(BGR)がある。SITは自己と集団の同一化から、BGRは互恵性の期待から内集団協力が生じるという。中川・横田・中西(2015)により野球ファンにおける内集団協力には、二つの理論が記述する心理過程が同時に働くことが示された。さらに、中川・横田・中西(投稿中)で協力行動にかかるコストを明示すると、SITよりもBGRの心理過程が強く働き内集団協力が生じた。このことから、SITとBGRの心理過程の働きを規定する状況要因の一つは、協力行動のコストであることが示唆された。しかし、中川他の実験では集団間の関係性が曖昧であり、他集団の比較を前提とするSITの心理過程を引き出すには不利な状況だったと考えられる。そこで、本研究ではコストは明示したままで集団間の関係性を明確にするため、集団間の地位を提示した。地位を提示した状況では、SIT が支持されるか否か検討を行った。実験では、カープファン81名(男性47名, 女性33名, 不明1)に地位の刺激(高地位/低地位/統制)をプライミングした後、内集団協力を測定した。その結果、地位の効果が見られず、地位の効果を除いた内集団協力ではSITとBGRともに支持されなかった。In this study, we compared the ability of both the Social Identity Theory (SIT) and Bounded Generalized Reciprocity Hypothesis (BGR) to explain ingroup cooperation in real groups. We conducted the vignette experiments that were designed as controlling various confounded factors to possibility influence ingroup cooperation among Japanese baseball fans. In the experiment, we manipulated expectation of reciprocity, which was assumed as a precursor of ingroup cooperation by BGR, by controlling knowledge of group membership. Ingroup cooperation was measured by participants' intent of helping a stranger in four scenarios. According to Nakagawa et al. (2015, submitted), cost of ingroup cooperation can enhanced the psychological process of BGR, while ingroup cooperation without cost proceeds both processes of theories. However, these experiments were unclear intergroup differences and the effect of social identity was weak. Thus, we expressed the stimulus of intergroup status by the perceptual priming to clear intergroup differences. But the result of the experiment was not support the effect of intergroup status. The analysis that the effect of status was removed revealed both theories was not supported.
著者
潮村 公弘 シオムラ キミヒロ Shiomura Kimihiro
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.15, pp.31-38, 2015-03

潜在連合テスト(IAT)は、潜在認知研究の領域において近年で広く活用される測定法であるが、紙筆版 IAT につ いてはその実施方法に関する標準的で体系立った資料存在していない。本論文は、この点に注目し、紙筆版 IAT の実施方法についてのスタンダードとなりうる資料を提供し、紙筆版 IAT の進展に資することを目的として執筆された。そのさい、、単なる実施マニュアルにとどまらず、潜在指標測定の意義、潜在連合テストの背景、基礎的な分析方法、結果を解釈していく上で の考察ポイントや留意点についても包括的論じること目指した。個人あるいはグループで実習形式で学ぶことがきるように、「心理基礎実験」等の授業マニュアルとして直接に利用できる形式を採用した。そのさい、課題遂行用の各種資料をインターネットからダウンロードできるようにした。さらに参考となる情報源の紹介や今後の発展性についても論じた。There are no standard manuals utilizing the paper IAT (Implicit Association Test), though the Implicit Association Test (IAT) is a widely used technique for implicit cognition. The aim of this manuscript is to provide standard pricedures and guidelines for the paper pencil IAT. For this purpose, this practical manual includes descriptions concerning the meanings for measuring implicit indexes, the background for the IAT, the funddamental methods of data analysis, critical points for dicussion, and other things to keep in consideration. Additionally, this manuscript is provided in the form of materials for a university class, such as on basic research methods in psychology. The related materials for this practice (in class or in other style) are available on the website for downloading. This manuscript also includes information for reference and further contributions.
著者
津田 恭充 ツダ ヒサミツ Tsuda Hisamitsu
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.71-76, 2015

これまでの研究で,曖昧さに対する非耐性がパラノイアの素因であることが示唆されている。曖昧さに対する態度には、従来から議論されているネガティブな態度以外にポジティブな態度も存在するが、後者についてはパラノイアとの関連がまだ明らかでない。そこで本研究では,大学生197名を対象に、曖昧さに対するいかなる態度がパラノイアの素因となりうるのかについて検討を行った。パラノイアの指標として、青年期によくみられるパラノイア的な自己関係づけを測定し、曖昧さへの態度を「曖昧さの享受」、「曖昧さの受容」、「曖昧さへの不安」、「曖昧さの統制」、「曖昧さの排除」の5つの側面から測定した。構造方程式モデリングの結果,曖昧な事態に対して不安を覚える「曖昧さへの不安」や、情報収集などによって曖昧さを統制しようとする「曖昧さの統制」がパラノイアと関連していることがわかった。これは、曖昧さに対するネガティブな態度がパラノイアの素因であるという先行研究と一致する結果であった。
著者
釘原 直樹 クギハラ ナオキ Kugihara Naoki
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-15, 2014

スケープゴーティングとは、何らかのネカティブな事象が生起、あるいは生起が予見されている際に、事態発生や拡大・悪化に関する因果関係・責任主体が不明確な段階で、原因や責任をある対象に帰属したり、その対象を非難することが、一定の集合的広がりをもって行われることである。また因果関係の枠外にある対象に対する責任帰属や非難、そしてそのような認知や行為が共有化されていくプロセスもスケープゴーティングに含める。このスケープゴーティングにおいて、対象となるものをスケープゴートと呼ぶ。ここでは、スケープゴーテイングの発生プロセスに関するモデルを構成し、さらにスケープゴーティングを促進するマスメディアの報道特性やスケーフゴートの時間経過による変遷プロセス(波紋モデル)について述べる。
著者
武藤 麻美 釘原 直樹 Muto Mami Kugihara Naoki ムトウ マミ クギハラ ナオキ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.12, pp.173-181, 2012

本研究は、(1)異なる価値観を有する内・外集団ターゲットへの心理的距離の延伸と、印象評価の切り下げとが連関するか否かについての検証、(2)その連関は、認知者が保有するターゲットに対する期待値と、現実値との乖離が大きい場合に、顕著に出現することの検証、を目的とした。実験デザインは、2(戦争反対意見, 戦争賛成意見) × 2(内集団: 日本人, 外集団: 米国人)の参加者間計画とした。結果は次のとおりである。(1)戦争反対条件で、ターゲットに対する距離の短縮化と印象評価の上昇がみられた、(2)戦争賛成反対の両条件とも、外集団ターゲットよりも内集団ターゲットで、距離の延伸と印象評価の低下がみられた、(3)心理的距離と印象評価の変動は類似の傾向を示した。これらの結果について考察を行う。
著者
曹 陽 高木 修 Cao Yang TAKAGI Osamu
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.3, pp.103-109, 2003

中国の出版制度においては、性的描写やポルノの書物・映像などが「精神汚染」と呼ばれ、それらを出版や販売することが一切禁止されている。ところが、そういう本や雑誌は、往々にして発禁しきれず、密かに闇のルートで販売している。日本や欧米と異なり、中国の特有な社会状況において、北京市の中学生と高校生らは、性の情報を獲得する公式ルートと非公式ルートの違いという観点から、マス・メディアの影響を検証する。そして、本研究は新しい分析方法を加えながら、学年、性別、地域の、それぞれの主効果と交互作用に着目して、新たな知見を期待する。まず、中学1年生から高校3年生までの合計6学年の1要因分散分析を行った。その結果、中学1年生は他の学年に比べて、公式ルートを通じて獲得した性の情報が最も少なく、中学生よりも高校2、3年生の方が、非公式ルートを通じて獲得した性の情報が最も多いことが明らかとなった。次に、中学校と高校を代表する中学2年生と高校2年生のデータを用いて、学校×性別×地域の3要因分散分析を行った。その結果、公式ルートを通じて獲得した性の情報は女子生徒の方が多いが、非公式ルートを通じて獲得した性の情報は男子生徒の方が多く、特に高校の男子生徒が、より一番多いことが明らかとなった。学校×地域の交互作用においては、市中心や近郊の中学生よりも遠郊の中学生の方が、非公式ルートを通じて獲得した性の情報が一層多いことが明らかとなった。上記した結果は、性的関心、性(的)行動、性に対する態度の学年、性別、地域による差の検討結果と一致するところが多く見られた。
著者
釘原 直樹 Kugihara Naoki クギハラ ナオキ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-6, 2015

災害や緊急事態の人間行動に関する研究結果は人々の一般的イメージ(パニックや反社会的行動の発生)とは異なる。実証的研究データの多くが、人は緊急事態では人間関係や社会規範に基づいた順社会的行動をすることを示している。ここでは、実証的研究の結果に基づき危機事態の行動や意思決定について述べることにする
著者
後藤 学 大坊 郁夫 Goto Manabu Daibo Ikuo ゴトウ マナブ ダイボウ イクオ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.5, pp.93-99, 2005-03

本研究では、参加者69名に対する短期間での社会的スキル訓練の試みと、そのトレーニング効果について検討した。社会的スキル・トレーニングの応用可能性を視野に入れ、参加者が自分自身のコミュニケーション・スタイルを見直し、円滑なコミュニケーションに必要な基本的なスキルを刺激するための簡便なトレーニング・プログラムを構成した。2 日間にわたる短期集中的なトレーニングの結果、参加者の非言語表出性と対人感受性が上昇し、自己抑制傾向が強まっていることが確認された。また、今回のプログラムが多くの参加者の非言語的表出性を高めていた一方、それと比較すると日本的対人スキルにはさほどの影響を及ぼせなかったことが明らかになった。今後、社会的スキル・トレーニングをより幅広い場面で応用していくためには、より多様な条件での実践とその効果に関する詳細な分析が求められる。
著者
荻原 祐二 Ogihara Yuji オギハラ ユウジ
出版者
大阪大学大学院 人間科学研究科 対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 = Japanese journal of interpersonal and social psychology (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.18, pp.133-143, 2018-03

資料本研究では、中学生から60代の高齢者という幅広い年齢層を対象に、日本における自尊心の年齢差について検討した。先行研究から、日本における自尊心は児童期に高く、青年期に低下し、成人期に上昇することが示されていた。しかし、この知見は自己好意を測定する1項目の分析に基づいており、その測定の信頼性は複数項目を用いた尺度による分析と比べて相対的に低くなっている可能性があった。したがって本研究では、先行研究の知見の妥当性を高めるために、日本における幅広い年齢層を対象に自己好意を測定しており、各性別・年齢層のサンプルサイズも十分に大きい先行研究とは異なるデータを分析した。その結果、先行研究と一致して、自尊心は青年期で低く、その後成人期に上昇し続けることが示された。本研究は、自尊心が発達過程でどのように変化するかを明らかにし、相対的に介入の必要性が高い時期を示している。
著者
坪田 雄二 Tsubota Yuji ツボタ ユウジ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室
雑誌
対人社会心理学研究 (ISSN:13462857)
巻号頁・発行日
no.11, pp.101-108, 2011

本研究は妬みに関する実証的研究を展望したものである。妬みの定義や類似概念である嫉妬との関連性、妬み感情の構造、妬みの生起にかかわる要因、妬みの影響に関して概観した。そして妬みの生起に及ぼす予期の役割について指摘した。