著者
穴井 めぐみ 松岡 緑 西田 真寿美
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.67-74, 2001-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
15

本研究の目的は高齢者における嚥下体操の効果を唾液分泌量,開口度,反復唾液嚥下テストを指標として明らかにすることである.対象はS老人保健施設に入所中の摂食・嚥下障害のない高齢者15人で,平均年齢は78.2±6.04歳,男性1人女性14人であった.嚥下体操は従来の嚥下体操に唾液腺マッサージを加えた.1日3回食前10分に8週間継続して実施した.分析方法は上述の3つの指標において,嚥下体操を実施する前と8週間実施した後の測定値を比較した.唾液分泌の即時的効果について,嚥下体操を1回実施する前と実施した後の唾液分泌量を比較した・比較はウィルコクソン符号付順位検定を用いて行った(p<0・05).加えて,主観的評価を得るために嚥下体操を8週間実施した後に面接調査をした.結果は, 3つの指標において,嚥下体操を実施する前より8週間実施した後に有意に増加した.唾液分泌量において,嚥下体操を1回実施する前より1回実施した後に有意に増加し,唾液分泌の即時的効果が認められた.嚥下体操を8週間の実施した後の面接調査で食事への意識化,頸部のリラクセーション効果が抽出された.よって,嚥下体操は食事への意識化は摂食・嚥下のプロセスの認知期へ,唾液分泌量,開口度の増加は準備期・口腔期へ,反復唾液回数の増加は咽頭期へ影響を及ぼし,摂食・嚥下機能に効果を与えると考える.
著者
宮坂 啓子 藤田 君支 田渕 康子
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.58-66, 2014-03-20 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

〔目的〕認知症高齢者を介護する家族の介護肯定感とそれに影響する要因を明らかにすることを目的とする.ストレス対処能力(SOC),主観的健康感,ソーシャルサポートなどの影響要因について検討した.〔方法〕認知症高齢者を在宅で介護している主介護者に無記名の自記式質問紙調査を実施した.分析対象者は有効回答のあった188人とした.調査には介護肯定感尺度, SOC短縮版尺度, SF-8を用い,ソーシャルサポートと介護者・被介護者属性等についてたずねた.〔結果〕介護肯定感は平均値が36.5±7.9点であった.介護肯定感を従属変数とした重回帰分析の結果,介護肯定感に影響を及ぼす要因は介護者が女性(β=0.162, p=0.006), SF-8のMCSが高い(β=0.218, p=0.001), SOCが高い(β=0.133, p=0.043),「適切な介護の仕方が分かる」(β=0.410, p=0.000)ことが影響していた.これらの4変数により全体の35.7%を説明した.〔結論〕在宅で認知症高齢者を介護する家族の介護肯定感を高めるには, SOCや精神的QOLを高める支援とソーシャルサポートが重要なことが示唆された.
著者
形上 五月 陶山 啓子 小岡 亜希子 藤井 晶子
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.13-20, 2011
参考文献数
15

本研究の目的は,尿意の訴えがなく失禁している介護老人保健施設入所者の中で膀胱機能が維持されている高齢者を対象として,尿意を定期的に確認し対象者の尿意の訴えに基づいたトイレ誘導を実施し,その効果を明らかにすることである.対象者は9名であった.実施期間は4週間とし,午前8時の排泄後から午後4時までの8時間に排尿援助を行った.事前に把握した対象者それぞれの排尿間隔を参考に排尿誘導時間を設定し,誘導時間には必ず対象者に尿意を問いかけた.実施前7日間,実施後7日間の失禁率と尿意を訴えた回数の変化で効果を評価した.尿失禁率は実施前後において有意に低下,確実に尿意を訴えた回数は有意に増加した.対象者のうち2名は,自発的に尿意を訴えることができるようになり,失禁は消失した.また,5名の対象者は,援助者の尿意の確認に対して尿意の有無が伝えられるようになり,失禁は減少した.以上のことより,尿意を訴えない施設高齢者であっても援助者が尿意を確認することで,自発的な尿意の表出が促進され,尿意に基づいた排尿援助を実施できる可能性が示唆された.
著者
長谷川 真澄 粟生田 友子 鳥谷 めぐみ 木島 輝美 菅原 峰子 綿貫 成明
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.32-41, 2017

<p> 本研究の目的は,急性期病院のせん妄対策における多職種チームの構築プロセスを明らかにすることである.関東および関西地区の一般病院のせん妄ケアチーム8チームを対象に,チームメンバーへの半構造化インタビューを行い,質的帰納的に分析した.</p><p> 分析の結果,55サブカテゴリー,17カテゴリーが抽出され,4つの局面に分類された.せん妄ケアチームの構築プロセスは,せん妄対策の【チームの立ち上げ】を契機に【チームの組織化】と【チーム活動の推進】が進み,波紋が広がるように組織内にチーム活動が浸透し,【チーム活動のアウトカム】が生じていた.このプロセスには,臨床のせん妄対策のニーズと,そのニーズを認識し行動する複数の人材が存在し,トップと交渉し支援を取りつけ,チームの内部と外部の組織化を進め,チーム活動のコスト回収方法を検討することが含まれた.また,せん妄ケアに関するスタッフ教育とケアプロセスのシステム化が組織全体のせん妄ケアスキルの向上に寄与し,チーム回診がスタッフレベルでの連携・協働の促進につながることが示唆された.</p>
著者
出貝 裕子 勝野 とわ子
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.5-12, 2007-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
24

本研究の目的は,介護老人保健施設入居中の認知症高齢者のagitationと周囲の騒音レベルの実態およびagitationに関連する要因を明らかにすることであった.ストレス刺激閾値漸減モデルに基づき,18名の認知症高齢者を対象にその周囲で騒音レベルを測定し,CMAI(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)日本語版を用い,agitationの有無を2日間観察した.ロジスティック回帰分析の結果,騒音レベルが高いこと,時間帯では午前と比較して午後(特に15:00〜17:59)であること,HDS-Rが7点以下であること,重度難聴に比較し軽度難聴であることと, agitationが観察されたことに有意な関連があった.したがって,agitationに対し時間帯や騒音レベルを考慮した環境調整からのアプローチが有効である可能性が示唆された.
著者
石川 みち子 小倉 美沙子 吉田 千鶴子 木内 千晶 畠山 怜子
出版者
一般社団法人 日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.69-74, 2005
参考文献数
10
被引用文献数
1

わが国は,類をみない速さで男女とも世界の長寿国となった.寿命の延長に伴い,100歳以上の高齢者(百寿者)も増え続けている.増加し続ける百寿者であるが,I県における百寿者の生活実態は把握されていない現状にある.そこで,百寿者の生活実態を明らかにすることを目的に,百寿者名簿で氏名と在住する市町村名が公表されている百寿者303名を対象として,質問紙調査を行った.データ分析は,質問紙に回答した時点で満100歳を超える180名を対象とした.基本属性,職業の有無,健康状態,日常生活動作および認知機能,食事摂取内容,介護認定状況,利用しているサービス,性格傾向,長生きの秘訣について質問紙調査を行った.今回は,日常生活動作および認知機能と,健康状態,居住形態,退職後の趣味・社会活動の関連性について検討した.居住形態については,自宅で生活している人のほうが有意に日常生活自立群が多く,自宅で生活している人のほうが有意に認知機能保持群が多かった.本研究の調査では, I県における百寿者の生活実態が明らかとなり,健やかな長寿を達成する要因を検討するための基礎資料となった.
著者
阿川 慶子 原 祥子 小野 光美 沖中 由美
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.46-54, 2012-11-30

本研究は,高齢慢性心不全患者が日常生活において心不全に伴う身体変化をどのように自覚しているのかを明らかにすることを目的とした.対象は,慢性心不全と診断され入院または外来通院している高齢者11人として半構成的面接を行いデータ収集し,質的記述的に分析した.高齢患者は,【変化速度の緩急】【体の制御感の喪失】【自己調整できる苦しさ】【自分のありたい姿との調和】【忘れられない極限の体験からの予見】【独特な身体感覚】【客観視された情報による気づき】によって自己の身体変化を自覚していた.患者は,自分の身体を知ろうと模索し感じとった身体変化を特有な表現で他者に伝えることや,自己調整できる苦しさであるという自覚によって対処が遅れる可能性を抱えていた.患者の感じている身体変化を看護師が理解するためには,患者が感じたままに表現できる場を設け,患者の身体に対する期待や理想,日常生活のなかで感じる不都合さ,忘れられない極限の体験を手がかりとして思いを聞くことが有効である.
著者
古田 加代子 伊藤 康児 流石 ゆり子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.5-16, 2005-11-01
被引用文献数
3

本研究では,移動能力があり,身体の障害も軽いにもかかわらず閉じこもっている高齢者には,心理的要因が大きく作用しているとの観点から,その心理的要因の構造を明らかにすることを目的とした.なお日常的な外出頻度が過1回以下の者を「閉じこもり」と定義した.A県O村に居住する65歳以上の高齢者を対象に,質問紙調査を行い,252名(男性109名,女性143名,有効回答率は80.5%)の回答から以下の結果を得た.1.閉じこもりの有無と関連のある心理的要因は「生活創造志向」「人生達成充足感」「穏やかな高揚感」「外出志向」の4項目であった.閉じこもり群は非閉じこもり群に比べ,この4因子が有意に低かった.2.「生活創造志向」の低さを予測する要因は,年齢が高い,1km歩行ができない,日常の時間が決まっていない,手段的サポートがない,の4つであった.3.「人生達成充足感」の低さを予測する要因は,年齢が低い,現在の体調が悪い,外出の不安がある,手段的サポートがない,の4つであった.4.「穏やかな高揚感」の低さを予測する要因は,現在の体調が悪いことであった.5.「外出志向」の低さを予測する要因は,性別が男性であることと,何らかの身体的不自由感があることであった.閉じこもり予防を目指した活動では,こうした心理的特徴をふまえた関わりが必要となる.
著者
細川 淳子 佐藤 弘美 高道 香織 天津 栄子 金川 克子 橋本 智江 元尾 サチ
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.81-88, 2004-03-15
被引用文献数
2

平成14年度春のグループ回想法プログラムにおけるビデオ撮影によって得られた表情の画像と,その表情時の回想内容を重ね合わせながら,一事例(A氏,88歳男性)にみられる特徴的な表情を捉える試みを行った.さらに,その表情が日常生活でもみられるかを観察した.結果,5回の回想法でみられたA氏の特徴的な表情として【難しい表情】【見定める表情】【笑いの表情(社交的な微笑み・照れ笑い・口を大きく開けた笑い)】【困った表情】【おどけた表情】の5つが抽出された.また,3日間の日常生活における対人交流場面との比較では,困った表情やおどけた表情は観察されず,難しい表情と見定める表情は各々1場面観察された.笑いの表情では,社交的な微笑みは1場面,照れ笑いは数回,口を大きく開けた笑いは,アクティビティケア時に観察された.日常生活では全般的に表情が変わらない時間が長かった.表現された表情から回想法での刺激が対象にとってどんな意味をもったのかを吟味することで回想法プログラムの評価を行い,そこで引き出された力を日常生活の中で活かしていくケアが重要だと考える.
著者
秋月 仁美 坂本 奈穂 西 あずさ 榊 友希 出戸 亜沙子 永田 真由美 吉田 有希 笹川 寿之 平松 知子 正源寺 美穂
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.79-85, 2006-11-01
被引用文献数
1

本研究では健康度自己評価に関連する因子を明らかにするため,A県に居住する健康な高齢者897名を対象に質問紙調査を行った(男性214名,女性683名,有効回答率83.7%).多重ロジスティック回帰分析の結果,健康度自己評価と病気・障害の有無のそれぞれに関連する因子として以下の結果を得た.1.健康度自己評価が高いことに関連する因子として,病気や障害がない,日常動作に困難を感じない,痛みによる生活への影響がない,自分は若いと感じている,生活に満足している,付き合いがある,趣味がある,熟眠感がある,毎日運動を行っていることがあげられた.2.病気や障害がないことに関連する因子として,70〜74歳あるいは85歳以上,女性,服薬をしていない,日常動作に困難を感じない,心配や不安がない,食欲があることがあげられた.これらの結果から地域の健康な高齢者の健康を維持するためには,身体的健康だけではなく,心理的,社会的,そして日常生活に伴って感じられる自分自身に対する満足感や,自分自身の意志によって行われる保健行動も重要である可能性が示唆された.
著者
粟生田 友子 長谷川 真澄 太田 喜久子 南川 雅子 橋爪 淳子 山田 恵子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.21-31, 2007-11-01
被引用文献数
5

本研究の目的は,(1)せん妄発生因子を患者へのケア実践過程にしたがって構造化し,(2)その発生因子とせん妄発症との関連を明らかにすることである.せん妄発生因子は,【背景・準備因子】【身体・治療因子】【患者因子】【周辺因子】の4領域102項目と,薬剤104種類について,せん妄発症との関連を検証した.研究の場は一般病院1施設の,産科,小児科,脳神経外科病棟を除く7病棟であり,2005年1〜3月の3か月間に,基点となる週から2週間ごとに等間隔時系列データ収集法を用いて,6クールのデータ収集を行い,75歳以上の入院患者の全数を調査した.その結果,対象はのベ461名得られ,DRS-Nによってせん妄発症の有無を判定したところ,せん妄発生群96名(DRS-N平均得点16.16点),非せん妄発生群365名(2.44点)となった(発症率20.8%,t=37.687,p=.000).【背景・準備因子】では,「年齢」「入院ルート」「認知症または認知障害」「脳血管障害」「せん妄の既往」の5項目で両群に有意差が認められ,【身体因子・治療因子】で,身体因子の「せん妄を起こしやすい薬物の投与数」「高血圧の既往」「脳血管疾患の既往」「消化器疾患の既往」「感染症徴候(CRP,発熱)」「低血糖/高血糖」「肝機能障害(LDH)」の7項目,治療因子の「緊急手術」「緊急入院」の2項目に有意な差があった.【患者因子】では,日常生活変化の「陸眠障害(夜間不眠,昼夜逆転)」「排尿トラブル(尿失禁,おむつ使用)」「排便トラブル(下痢)」「脱水徴候」「低酸素血症(O_2 sat)」「ライン本数」「可動制限(生活自由度)」「視覚障害(眼鏡使用)」の8項目,【周辺因子】では,物理的環境の「部屋移動」,物理的環境への認識/反応の「日にちの確認(カレンダーで確認)」「時間の確認(時計で確認)」「点滴瓶やルートが気になる」の4項目に有意差を認めた.今回抽出できた因子は,せん妄の発症リスクの判断指標となりうるもの,あるいは看護介入によって発症を予防できる可能性をもつものであり,看護職が日々のケアの中で介入可能なものに対して介入方法とその効果を明確にしていくことが今後必要であると考えられた.
著者
相場 健一 小泉 美佐子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.75-84, 2011-11-30

本研究の目的は,重度認知症高齢者に経皮内視鏡的胃瘻造設術(胃瘻)による経管栄養法を選択した家族の代理意思決定に伴う心理的プロセスを明らかにし,その課題と看護支援への示唆を得ることである.研究方法は,胃瘻を選択した認知症高齢者の家族13人に対して半構成的面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.そのプロセスは《摂食困難への悩み》《命をつなぐための選択と葛藤による絞り込み》《最後までみる覚悟をしての決断》《胃瘻のある生活への不安と期待》《介護生活に対する自信と不安》《満足するものの自問自答を繰り返す》の6つのカテゴリーで構成された.家族は医師への信頼と患者の命をつなぎたい思いから胃瘻を決断していた.しかし,そこには迷い,葛藤,不安,答えの出ない代理意思決定への悩みが存在した.看護師は家族に対して高齢者にとっての胃瘻の意味を考えるように促し,家族が自らの決定に意味を見いだせるようにかかわる必要性が示唆された.
著者
原 祥子 沼本 教子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.35-43, 2004-03-15
参考文献数
27
被引用文献数
6

本研究の目的は,老いを生きる人が自己のライフストーリーをどのように語るのかを記述し,過去の体験と残された人生にどのように意味づけをしていくのかを明らかにすることである.対象は介護老人保健施設を利用している79歳の女性で,3回の非構造化面接を通じてデータ収集し,得られたデータは量的・質的な内容分析を行った.語られたライフストーリーについては,そのアウトラインを提示し,要約を記述した.そのライフストーリーは,他者との関係性のストーリーを語るという女性の発達の様相を呈し,残された人生に対しても,人とのつながりを通して自己の存在に意味づけをしていくことが示されていた.ライフストーリーの語られ方に関する分析結果では,過去の各人生時期の語りにかけられた時間には密度の濃淡があることや,ライフストーリーにおける空自の時間の存在が確認され,聞き手が空白の時間をも共有しながら聞くことの重要性が示唆された.
著者
六角 僚子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.114-122, 2001-11-01
被引用文献数
3

「アクティビティケア」(以下,AC)という視点から痴呆性高齢者のケア実践を1年間試み,その有効性を見てきた結果,以下のことが確認された.1)高齢者のアセスメントを重視したACの提供の結果,AC時のみならず日常生活全般での社会的交流能力やIADLを引き出し,日常生活自立度が改善された.2)そのことが,グループACにおいても対象者を取り囲む他の高齢者にもプラスの影響を与え,それぞれの社会的交流能力が引き出された.3)継続的なACの提供とそれに対する評価により,対象者にとって意味のある/ないACサービス項目をふるい分けることが可能であることが示唆された.4)対象者の変化が,ケアスタッフのケアに取り組む姿勢を積極的にするなど,ケア提供者と対象者との相互作用が両者の態度変容を生み出していることが確認された.以上から,ACに焦点を当てたケアプランの策定とそれに基づいたケア実践は,痴呆性高齢者の日常生活機能の改善,社会的交流能力や生活意欲の向上に対して有効であるばかりでなく,看護・介護職者らのケアの質の改善意欲の昂進にもつながっていく可能性も示唆された.
著者
大島 あゆみ 宮中 めぐみ 泉 キヨ子 平松 知子 加藤 真由美
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.53-61, 2005-11-01
被引用文献数
2

本研究の目的は,老人性難聴をもちながら地域で生活している高齢者の体験の意味を明らかにすることとした.対象は耳鼻科医に老人性難聴の診断を受け,地域で生活している高齢者17名である.方法は半構成的面接を行い,質的帰納的に分析した.その結果,難聴高齢者は何とかして聞きたいと積極的に工夫して聞いていた.一方では,すべてを聞こうとは思わないと聞かなくてもよいと思えることを自ら選択していた.また,聞こえづらさにより趣味や仕事,人との関わりに影響を受けるだけでなく,身の危険も感じていた.補聴器は思いどおりにならないとしながらも,自分が補聴器に合わせて慣れなければならないと,開きたい場面で補聴器を利用していた.さらに,難聴高齢者は聞こえそのものや他人と比較し自分を捉え,今後も何とか死ぬまで聞こえを保持したいと思いながら,地域で生活していることが明らかになった.以上より,難聴高齢者がさまざまな思いをあわせもち地域で生活していることを理解し,「聞きたい」という強みを支える援助の必要性が示唆された.
著者
原 祥子 小野 光美 沼本 教子 井下 訓見 河本 久美子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.21-29, 2006-11-01
被引用文献数
2

本研究の目的は,介護老人保健施設における高齢者のライフストーリーをケアスタッフが聴き取ることを通して,ケアスタッフの高齢者およびケアに対する認識がどのように変化するのかを明らかにすることである.対象は,受け持ち高齢者とライフストーリー面談を実施したケアスタッフ8名で,非指示的インタビューによってデータ収集し,ケアスタッフの変化をあらわしている特徴的な発言内容をカテゴリー化し,カテゴリー間の関係性を検討した.ケアスタッフの変化は6つのカテゴリーに分類され, 《その人がよくわかる》ことによって,《その人への関心が高まる》という変化が生じていた.ライフストーリーを聴くという関係性が成立した体験はケアスタッフの《自信が深まる》という変化をもたらし,ケアが《丁寧な関わりになる》と認識され,《他の高齢者に対する認識が変わる》ことにもつながっていた.ライフストーリー面談を通して《関わることの楽しさ・喜びを実感する》ことは,これらの変化を生み出す基盤になっていると考えられた.
著者
中田 康夫 沼本 教子 片山 恵 片山 京子 吉永 喜久恵 中島 美繪子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.120-128, 1999-11-01
参考文献数
10
被引用文献数
1

本研究は,仮設住宅入居2年後の住民の健康および生活実態を,青壮年期(20〜54歳),向老期(55〜64歳)および老年期(65歳以上)の3つの年齢層別に比較・検討し,特に老年看護の視点から,向老期の住民にどのような看護上の問題があるのかを明らかにすることを目的とした.神戸市中央区の仮設住宅住民のうち調査の同意を得られた301名を対象に実態調査を実施した.その結果,向老期の人々は老年期および青壮年期の人々より,病気がある人(p<0.001),飲酒をする人(p<0.001),喫煙をする人(p<0.001),食事のバランスが悪い人(p<0.05),経済状態が悪い人(p<0.01),暮らし向きの悪い人(p<0.05)の割合が有意に多かった.このことから,向老期の人々は老年期の人々より身体的な健康問題と生活上の問題を多く抱えていることが明らかとなった.以上のことより,大規模災害後の長期的な支援においては,老年期の人々はもちろん,向老期の人々の健康状態にも注意を払っていくことが必要であることが示唆された.
著者
谷村 千華 松尾 ミヨ子
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.35-43, 2008-03-15
被引用文献数
1

本研究は,農業従事高齢者の体力に影響を及ぼす関連要因を検討することを目的とした.対象は中間農業地域に在住する65歳以上の高齢者79名である.体力の実態とともに,関連要因として,基本的属性,配偶者の有無,疾患の有無,農作業状況,日常生活状況,体組成,骨密度を調査した.その結果,女性の脚筋力においては,農作業姿勢が関連要因として示唆された.生活体力における歩行動作では,男女とも,年齢が高く,昼寝・うたた寝をよくする者ほど動作が遅かった.女性において,年齢が低く,体脂肪率が低い者ほど起居動作が速く,握力が強く,体脂肪率が低い者ほど身辺作業動作が速かった.以上のことから,運動参加への動機づけとして,加齢に伴う生理的機能の変化を遅延させる運動の重要性が示唆された.また,女性では,身辺作業および起居動作能力の維持・向上には肥満予防や上肢の筋力を鍛えることの重要性が示唆された.
著者
永井 真由美
出版者
日本老年看護学会
雑誌
老年看護学 : 日本老年看護学会誌 : journal of Japan Academy of Gerontological Nursing (ISSN:13469665)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.34-40, 2005-11-01

本研究では,認知症高齢者の家族介護力評価指標の作成とそれに関連する要因を明らかにすることを目的とした.家族の介護力について構成概念を規定し,42項目の質問肢を作成した.認知症高齢者の介護者123名に自記式質問紙調査を行い(4件法,0〜3得点化),回答に偏りの大きい項目,類似項目,項目-全体相関係数の低い項目,因子負荷量の少ない項目を削除し最終的に20項目を選定した.介護力合計得点と各項目の相関係数は0.483から0.813,Cronbachのα係数は0.921であった.因子分析では固有値1以上である認知症ケア能力,介護生活を安定させる能力,関係調整能九自己管理能九QOL向上能力の5因子を抽出し,累積因子寄与率は56.8%であった.これらの因子はあらかじめ規定した構成概念とほぼ一致していた.介護力得点の関連要因を分析した結果,介護者の健康状況,認知症高齢者の自立度,デイケア/デイサービスの利用,認知症の相談希望,認知障害の対処に関する相談,認知症介護に関する学習の機会の有無が認知症高齢者の家族介護力に関連することが推察された.