著者
會澤 綾子
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0201009a, (Released:2020-11-17)
参考文献数
14

Ashforth and Gibbs (1990) は、組織が正統性を獲得しようと過度に主張することが、かえって構成員からの正統性を失ってしまうという悪循環を述べており、これを「諸刃の剣 (double-edge)」と定義した。そして、組織が正統性を求めるプロセスを「実質的管理法」「象徴的管理法」に分けたうえで、当該プロセスが実行される局面および当該プロセスを実行するアクターの態度から、諸刃の剣になりやすい条件を提示している。Ashforth and Gibbs (1990) によれば、正統性を「拡充」「防御」する局面では、象徴的管理法になりやすく、アクターが「不器用」「神経質」「大げさ」な過度な主張を行うことで、かえって正統性の低下を生みやすくなる。つまり、手法の選択だけが問題なのではなく、正統性が求められる局面や、アクターの態度によって構成員による正統性の認知は変わりうるということである。構成員による正統性の認知低下は、必ずしも正統性の欠如ではなく、悪循環の結果なのである。
著者
齋藤 遥希
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0190325a, (Released:2019-12-21)
参考文献数
4

本稿は、既存研究では明らかになっていなかった正当性確立後の課題に対して試論的考察を加えた研究である。この課題を明らかにするために、正当性の課題が顕著に表れる中小企業の補助金事業を対象に、めっき企業2社のケースを比較分析した。比較ケース分析の結果、正当性確立後の課題としては、計画の柔軟な転換がしづらくなる弊害が存在すること、その弊害を克服するための方法としては、①幅のある目標設定、②顧客ニーズの継続的な収集が考えられることを提示した。
著者
柳 淳也 川村 尚也 山田 仁一郎
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0200930a, (Released:2020-12-22)
参考文献数
107
被引用文献数
1

1990年代以降、イギリスを中心にクリティカル・マネジメント研究 (Critical Management Studies:CMS) が興隆しているが、難解な理論的研究が多く対象も広範囲にわたり、日本の経営学分野では広く知られているとは言い難い。そのため本研究ではCMS とは何か、何が「クリティカル」なのか、どういった経緯で誕生したのか、さらに、どういった対象領域で研究が盛んであるかを明らかにするために系統的レビューを行った。その結果、1) 批判理論から発展したCMS は、現在では多様な理論的背景をもち、人種、環境、セクシュアリティ、ジェンダーといった様々な視座に依拠した研究がなされていること、および、2) CMS を特徴づけるものとして、非自然化・再帰性・(非) パフォーマンス志向が挙げられ、近年、パフォーマンス志向についての議論から発展した批判的行為遂行性に関する研究が多くみられること、などが明らかとなった。
著者
高橋 伸夫
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.15, no.11, pp.539-546, 2016-11-25 (Released:2017-02-25)
参考文献数
2

経営学の論文では「統計的に有意」によく出くわす。標本調査は全数調査と比べて安く実施できるが、どうしても標本抽出に伴う標本誤差が生じてしまう。しかし標本抽出を「くじ引き」にすれば、その標本誤差も確率を使って評価できる。それが有意確率で、実は仮説からの乖離が標本誤差の範囲を超えていますよ (=標本誤差では片づけられないですよ) という意味で「統計的に有意」だったのである。
著者
阿部 真美 齋藤 遥希
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0191202a, (Released:2019-12-10)
参考文献数
47

本稿は、知識吸収研究の代表的論文であるZahra and George (2002) を取り上げ、同論文の論点とその有効性について議論する。同論文は、知識吸収能力を構成する四つの要素を提案し、さらにそれらを潜在的吸収能力、実現化吸収能力に分けて関係性を論じた。その論点の一部は後続研究で取り上げられており知識吸収研究の発展に寄与している一方で、主張の有効性に疑問が生じる部分もあるため、後続の実証研究を紹介しながら以下で解説する。
著者
三富 悠紀 秋池 篤
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0170508a, (Released:2018-01-18)
参考文献数
32

消費者は時間圧力を感じた時に、時間圧力を感じていない時とは異なる行動をとることがこれまで指摘されてきた。しかしながら、先行研究では外在的に与えられる時間制約と消費者自身が内在的に感じる時間圧力について区別する必要性が指摘されているものの両者を同時にとらえようとした定量的な分析は不足している。本稿ではこの点に着目し、時間制約の有無と時間制約の強さを操作した上で、消費者に電気ケトルの品質を評価してもらい、時間圧力を測定した。測定結果を分析した結果、時間制約は消費者の品質評価に直接影響は与えておらず、時間圧力を介して間接的に影響を与えていることが明らかとなった。本結果より、消費者自身が内在的に感じる時間圧力を重視した分析をする必要性が示される。
著者
川端 望
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.14, no.9, pp.451-494, 2015-09-25 (Released:2016-09-25)
参考文献数
78

本稿の目的は、市場経済移行下におけるベトナム鉄鋼業の達成と課題を明らかにすることである。ベトナムでは、工業化水準の低さに制約されながらも、鋼材集約度が高い経済構造に助けられ、建設用鋼材を中心に鉄鋼需要が拡大している。そして、鉄鋼業は、総じて言えば、民間企業や外資企業を中心的担い手として、拡大する国内市場を獲得して生産を拡大させている。競争による優勝劣敗の選択が正常に機能しつつある。すなわち、市場経済移行の効果は着実に上がっている。能力過剰が設備稼働率を低迷させていることなど課題は多いが、それは主として市場経済化の副産物であり、政府の介入によるものではない。ただし、国有企業の経営状態や政府に依存した投資行動に改善が見られないことも事実であり、その改革を加速することが急務である。
著者
柴田 友厚 馬場 靖憲 鈴木 潤
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
pp.0170512a, (Released:2017-09-04)
参考文献数
28

企業が持続的に成長するには、現在の事業領域と技術領域を超えた新たな領域での探索が有効な方策のひとつである。先行研究は、近傍領域の探索に傾斜しがちな企業の特性を指摘すると同時に、探索活動を類型化した上でそれぞれの効果を明らかにしてきた。本稿は、先行研究が注意を払ってこなかった探索をすすめるプロセスに着目し、その解明に貢献することを目的とする。まず、探索の階層性という新たな概念を提示したうえで、富士フイルムとコダックの探索戦略の違いを明らかにする。そして両社の盛衰が分かれた理由を、探索の階層性に立脚して探索プロセスの違いから考察する。
著者
矢野 正晴 富田 純一
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.153-166, 2005-04-25 (Released:2018-03-12)
参考文献数
18
被引用文献数
1

大学の研究者は、企業の従業員に比べると比較的多くの者が大学間を移動しているように思われる。そこで、大学の研究者がどのような原理でこのような移動行動をとるのか、および移動と研究業績との間にどんな関係があるのかを、我が国の経済学分野の研究者を例に分析した。その結果、よりよい明日を目指して、よりレベルが高いか、より研究環境の優れた大学への移動を意識して、発表率を上げようと努力している大学研究者の姿がうかがえた。
著者
土屋 秀太 馬 瑞潔
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.59-70, 2023-06-25 (Released:2023-06-25)
参考文献数
19

Meyer, Ding, Li, and Zhang (2014)は、多国籍企業が進出国から受ける制度的圧力 (institutional pressures) に対応するために海外進出戦略を変化させることを述べた。その上で多国籍企業が受ける制度的圧力の度合いが一様ではないことを想定し、より制度的圧力を受けやすい国有企業は私有企業と比較してどのような設立形態及び支配比率を選択するかを調査した。中国の上場企業の海外子会社のデータを用いて検証した結果、国有企業は私有企業よりも制度的圧力を受けにくい設立形態と支配比率を用いて進出国の状況に適応することと、その違いが国有企業に対する正統性の圧力が強くなる環境で大きくなることを明らかにした。そしてMeyer et al. (2014) は制度理論の拡張に貢献し、組織分野への異なる参入者に対する差異をうまく説明するとともに、特異な出自を持つ外国投資者が進出国の社会でいかに正統性を構築することができるかに対する示唆を与えている点での貢献があると主張している。本稿では、Meyer et al. の内容を詳細に解説すると共に、この研究の問題点についての指摘を行う。
著者
舟津 昌平
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.117-146, 2019-08-25 (Released:2019-08-25)
参考文献数
91
被引用文献数
2

本稿は、制度ロジック (institutional logic) 概念および制度ロジック多元性 (logic multiplicity) 概念についてレビューし、今後の研究課題を明らかにした研究である。本稿は、制度ロジック概念の意義を追求するための制度ロジック多元性を前提する必要性について検討し、制度ロジック研究における研究課題を改めて理論的に検証した。また、本稿は制度ロジック多元性を検討する対象として組織のイノベーションマネジメントに注目し、さらに研究課題を導出した。
著者
佐藤 秀典 徐 寧教 三富 悠紀
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.89-104, 2022-06-25 (Released:2022-06-25)
参考文献数
31

本稿では、戦略転換 (strategic change) における企業の持つ既存事業での歴史とそれに対する意思決定者の認識がどのように影響するのかを検討した。日本のウイスキービジネスを対象に、異なるバックグラウンドを持つ企業3 社の運営する蒸留所を調査した。それにより、それぞれの事例において既存事業での活動の歴史が戦略転換に影響を与えることは共通していながら、既存事業との関係の認識の違いにより、何をアイデンティティの源泉とし、差別化しようとするのかについては違いが生じることを明らかにした。
著者
高橋 伸夫
出版者
特定非営利活動法人 グローバルビジネスリサーチセンター
雑誌
赤門マネジメント・レビュー (ISSN:13485504)
巻号頁・発行日
vol.14, no.7, pp.357-386, 2015-07-25 (Released:2016-07-25)
参考文献数
26
被引用文献数
1

組織やシステムを設計するには、まずはそれがどのように形成されてきたのかを理解する必要がある。日本企業の行動や組織を理解する鍵は「仕事の報酬は次の仕事」である。そうした思想で構築されたシステムはどのように運用されているのか。そこから理解が始まる。