著者
栗田 季佳 中野 慎也 荒川 哲郎 名畑 康之 勝谷 紀子 KURITA Tokika NAKANO Shinya ARAKAWA Tetsuro NABATA Yasuyuki KATSUYA Noriko
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.149-160, 2016-03-22

本研究は、難聴者への否定的な態度にどのような価値観が関わっているかを探索的に調べた。研究1では、難聴の子を取り巻く周囲の子ども達が変容した学級について、担任教師へインタビューを行った。インタビューより、周囲の子ども達は、難聴の子どもに対する態度だけでなく、自閉症スペクトラム障害の子どもへの態度や、授業での様子など、学級全体の雰囲気が変わっていったことが語られた。担任教師の教育観から、子ども達の中で失敗に対する価値観に変化が生じていたことが推測された。研究2では、直接そのことを調べるため、質問紙調査によって失敗観と他者への態度に関連があるかを調べた。その際、難聴者だけでなく、健常者、吃音者も対象とした。その結果、否定的な失敗観が強い人ほど、他者との交流に対して抵抗感を感じており、その傾向は相手が健常者である場合よりも難聴者や吃音者である場合の方が強かった。これらより、難聴者を含む障害者への偏見や他者への寛容さの問題に対して、自己の価値観と向き合うことが重要であることが示唆された。
著者
濱田 匠 菊池 紀彦 HAMADA Takumi KIKUCHI Toshihiko
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.215-222, 2014-03-31 (Released:2017-02-18)

本研究は重症心身障害児(以下、「重症児」とする)のコミュニケーションの特徴を明らかにするために、かかわり手の行動および重症児の行動について詳細な分析を行った。作業療法の場面におけるかかわり手の行動を整理したところ、かかわり手と重症児のコミュニケーションの特徴は、「かかわり手主導で働きかける」、「重症児の期待や合図、要求行動の表出に対応して働きかける」、「重症児の合図や要求行動の後に新たな合図や要求行動を促す」の3つに分類された。このことは、かかわり手の行動に着目することが、重症児のコミュニケーションの特徴を理解していく上で意義があることが示唆された。
著者
富田 昌平 TOMITA Shohei
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.265-272, 2015-03-31

本研究では、サンタクロースとクリスマス行事に対する大人の態度と支援について、2つの質問紙調査によって検討した。研究1では、大学生110名を対象に調査を行った結果、サンタクロースの実在性に対する信念は児童期中頃に肯定から否定へと大きく変化し、その発達変化は子どもに対する期待年齢でもほぼ同様であることが示された。また、サンタクロースの実在性について5歳児と12歳児に質問された場合の回答では、基本的にいずれの年齢の子どもに対しても肯定的回答をするものの、12歳児では5歳児と比較して逆質問(「あなたはどう思う?」)や信念重視(「信じる子どものもとに現れる」)の回答がわずかであるが増加した。研究2では、公立幼稚園・保育園104園を対象に調査を行った結果、クリスマス行事は一部「お楽しみ会」などに名称を変えながらもほとんどの園で実施されており、扮装サンタが子どもの目の前に登場する演出を行っていることが示された。また、扮装サンタ登場の是非については、子どもの夢を壊す可能性や恐怖誘発の可能性、宗教色の強さ、商業主義的傾向などのリスク要因が挙げられたものの、多くは肯定的意見であり、その理由として、サンタクロースやクリスマス行事が持つ象徴的意味合いや、想像世界への没入、経験の多様性、リアリティ感覚、幸福感情や驚異の念、異文化や地域社会との交流機会などを子どもに提供し得ることが指摘された。大人の多くはサンタクロースやクリスマス行事の積極的な意味を認め、肯定的な態度を示し、子どもの体験がより豊かになるように支援していることが示唆された。
著者
秋元 ひろと AKIMOTO Hiroto
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.29-38, 2015-03-31

Hume describes his Treaties as an achievement that would bring about revolutionary changes in philosophy. In this paper, I focus on his theory of causation and show that it is an attempt to accomplish a revolution not only in epistemology but also in metaphysics. In opposition to the traditional conceptual setting, which locates the concept of causation in the domain of knowledge, Hume locates it in the domain of probability. In this sense, his theory of causation is a revolution in epistemology. Rejecting every existing account of causal power, Aristotelian, Scholastic, and Cartesian, all of which take causal power to reside in some objects or other, Hume maintains that it resides in the mind that, having observed the constant conjunction between two kinds of objects, passes from the idea of one object to its usual attendant. In this sense, his theory of causation is a revolution in metaphysics.
著者
余 健 YO Ken
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.217-225, 2015-03-31

2009年度以降、三重県四日市市南部地域で継続してきた臨地方言調査の調査結果を生かした三重大生による各小学校での授業の内、2011年2月に実施した水沢小学校での授業に焦点を当て、その成果と課題の検証を行った。三重のことばに自信を持てていない若年者が多い中、公教育の場で、ビデオ教採等を有効に活用しながら、方言を題材に取り上げる意義は大きいといえる。
著者
中西 正治 Masaharu NAKANISHI
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.193-208, 2013

広島高等師範学校附属中学校が、明治後期・大正・昭和初期にかけて行ってきた関数や関数の考え方に対する教育(関数教育)はどのようなものであったのか、その様相を明らかにすることが本稿の目的である。研究の結果、明治38年度から大正5年までは、教科書作成第I期に向けて準備を進めた準備期、関数概念の養成を代数学を中心として進めた創生期(第I期:大正6年~大正12年)、幾何学で式とグラフの利用、算術でグラフ利用及び代数学の更なる充実をはかった成長期(第II期:大正11年~大正15年、第III期:大正15年~昭和5年)、数学全体という志向でより広がりを見せた成熟期(第IV期:昭和6年~昭和8年)と、大きく4つに分けられることが明らかとなった。
著者
磯部 由香 森岡 めぐみ 成田 美代
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.1-4, 2007

アントシアニン系色素のシアニジン-3-グルコシド(Cy-3-Glc)およびタンニンの二種類以上の色素を有する有色米である「赤混黒米(あかまじりくろまい)」から色素を抽出し、その安定性について検討を行った。赤混黒米から抽出した色素は、pHが低く、加熱時間が短く、加熱温度が低いほど安定であった。酸、糖、金属イオンの色調に対する影響を調べたところ、金属イオン添加時の色調の変化が最も大きかった。また、紫外線5時間照射に対しては変化が見られなかった。
著者
大隈 節子 清水 一巳 OKUMA Setsuko SHIMIZU Kazumi
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.131-140, 2014-03-31

本研究は運動部活動と高校生のアイデンティティとの関連性について検討するために、エリクソンによって定式化された自我の発達段階図式に則り、心理社会的発達課題の達成状況を測定評価するために開発された質問用紙EPSI(全8段階56項目)の中から選択した8項目について男女別に運動部所属者、文化部所属者、無所属者で比較検討を行った。男子においては8段階中の6段階について、女子においては7段階の発達課題において運動部所属者の方が有意に達成傾向にある者の割合が多いという結果であった。
著者
中西 良文 村井 一彦 梅本 貴豊 古結 亜希 Nakanishi Yoshifumi Murai Kazuhiko Umemoto Takatoyo Kogetsu Aki
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.299-303, 2010

本研究では、Pintrich, Marx, & Robert (1993) のいう、「暖かい概念変化モデル(hot model of conceptual change)」という考えをもとに、小学生6名(5年生4名・6年生2名)を対象に英語の否定疑問文への回答に対する概念変化と動機づけ変化を促す実践を行い、その効果を検討したものである。具体的には、認知的葛藤を利用して、概念変化を導くと同時に、興味を高めることをねらいとした働きかけを行った。実践の結果、否定疑問文に回答する課題において、正答者数が増えたものの、有意な変化は見られなかった。一方、興味については、得点の上昇が見られた。これらの結果をもとにして、より望ましい概念変化が導かれるために必要な条件について、議論を行った。
著者
梅本 貴豊 中西 良文
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.353-358, 2012

本研究は、方略保有感、方略の認識と、主観的ウェルビーイング(自尊感情、学校生活満足感)との関連を検討することを目的とした。216名の大学生に対して、質問紙調査が行われた。相関分析の結果、方略保有感は自尊感情、学校生活満足感との正の関連がみられたが、方略の認識については関連がみられなかった。次に、方略保有感と方略の認識のそれぞれの高低の組み合わせから4群を構成し、その4群を独立変数、自尊感情と学校生活満足感を従属変数とした一要因分散分析を行った。その結果、方略保有感と方略の認識がともに高い群は、高い自尊感情と学校生活満足感を示した。これらの結果から、方略保有感と方略の認識が、主観的ウェルビーイングに与える影響について議論された。
著者
松本 昭彦 Matsumoto Akihiko
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.85-92, 2009

『枕草子』第二十三段「すさまじきもの」の段には、験力を持った祈祷僧が、物の気を患った者の治療のため、憑り坐しに物の気を移らせようとして加持するのだが、全く効果が表れず、あくびをして横になってしまう、という「すさまじきもの」の一例がある。従来これは「加持に疲れ、何の効き目もないのに倦み飽きて眠くなってしまった験者(祈祷憎)の、やる気のなさを象徴する〈あくび〉」と解釈されてきたが、『古今著聞集』巻六・第二六六話、『栄花物語』巻二十九「たまのかざり」などによると、加持場面での病人のあくびは、物の気が治る兆候として現れており、本段における清少納言の筆致なども考慮すると、験者への皮肉を込めて、「本来あくびが期待される病人ではなく、験者がしてしまう」という文脈に読むべきである。
著者
廣岡 秀一 横矢 祥代 Hirooka Shuichi Yokoya Sachiyo
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.111-120, 2006

本研究は、子どもの規範意識の実態を把握することと、日常生活に関する意識から規範意識が影響を受けている関係を探ることを目的とした。三重県内の小学生・中学生・高校生を対象に、日常生活で経験する可能性のあることがらについての社会的ルールや規則に対する認知を調査した結果、学年が上がるにつれて規範意識が低下すること、違法・暴力行為や迷惑行動に対する規範意識は、男子は学年が上がるほど低下するが、女子は中1~中2以降は低下しないということ、遊びや快楽を追求する行動に対する規範意識は女子の方が低いことを見出した。さらに、日常生活に関する意識と規範意識の関連を検討したところ、小学生は、一般的な大人にポジティブなイメージを抱いているほど規範意識が高いこと、中・高生は、大人から自分の行動を正当に評価してほしいと思っているほど規範意識が高いことが明らかになった。次に、学校で適応できていることが高い規範意識につながること、中・高生は、友人関係が良好なことが規範意識にネガティブな影響を与える可能性があること、さらに、友人関係が良好で学校に適応できていると感じていると規範意識が高いことが明らかになった。また、将来に見通しを持ち、自分の学習や社会的な活動に意味を見出していることが規範意識にポジティブな影響を与えることが明らかになった。
著者
松岡 守 Kang Qing Wei 田 園 Matsuoka Mamoru Kang Qing Wei Tian Yuan
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.77-83, 2009

姓名に関する研究は、非常に長い歴史と伝統があり、又、研究分野も多岐に亘っている。本論文は、马庆株氏の研究方法に依拠し、分類と順序配列を主な方法として、分類と順序の両面及び命名修辞の面から、運用に関わる問題の分析を試みる。本論文は、二つの構成部分からなる。すなわち、第一の構成部分は、姓名の指示機能についてであり、第二は命名修辞についてである。そして、第三が姓名の指示機能と命名修辞の関係に関する部分である。第一の構成部分である姓名の指示機能においては、姓名の指示機能は分類を通して実現すること、従って、姓名は分類体系であることを明らかにする。「姓」は、類を表し、同一社会集団に所属することを表示して、同一社会集団内における成員間の最初の血縁関係を示すものである。「字輩」もまた類を表し、社会集団内部における最も近い血縁関係にあるものを再分類する。「字輩」を明確にすることによって、集団内部での世代が明らかとなる。「名」もまた指示機能を有する。姓名の指示機能は、また順序配列を通して体現される。もし同世代で一人だけではない場合、長幼の順序を通じて指称できるようになる。これらの検討から、「姓から字輩、さらに名に至る」過程は、「大分類から小分類、さらに成員個人に至る」ことに"焦点を合わせていく過程"であるといえる。第二の部分では、修辞機能、すなわち、指示機能は姓名の主たる機能であるが、姓名にも優劣があり、又、修辞機能もあって、名前を付ける場合には必ずこと細かに考慮しなければならないことを明らかにする。「姓」は、類の表示として、一般に修辞の関与はない。但し、姓の音と意義を利用して、部分的に修辞機能を担う場合もある。「字輩」は、心を込めて選ばれたものであり、修辞の関与程度はやや高い。こうした点を三つの面、すなわち、姓、字輩、名について検討を行い、名が担う修辞任務が最も重要であるということを明らかにする。姓名の担う修辞任務が重ければ重いほど、分類の表示と順序配列の表示を明確なものにしない。最後に、指示機能と命名修辞の関係について検討する。姓名の指示機能が第一義的なものであり、主要なもので絶対的なものであること。修辞機能は第二義的なものであり、付属的なもので相対的なものであること。 この点の解明を試みた。仮に、指示機能だけがあり修辞機能がなければ、姓名の生命力は優ったものとはならない。但し、もし修辞機能と指示機能が矛盾を生じたならば、指示機能の方が重要となる。三つの部分の検討を通して明らかとなったことは、箇条的に示せば、①姓名は、指示機能も修辞機能もある。指示機能が第一義であり、修辞機能が第二義であること。②姓名の指示機能は、分類と順序配列を通して実現すること。③姓名の修辞機能は、分類と順序配列が修辞に及ぼす作用を弱化することにより実現すること。④姓名の指示機能と修辞機能の関係をうまく処理するために、姓名のもつ分類と順序配列の作用を重視しなければならないこと。以上の諸点である。姓名の指示機能と修辞機能に関する先行研究は、文化学、人類学、心理学、社会言語学等の分野からなされたものが多いが、言語学の研究方法を活用した研究はそれほど多くはない。本論文は、語義機能文法の研究方法を参考に言語学の観点から考察したものである。人们对于姓名的研究可以说是源远流长, 研究内容渉及社会语言学、心理学、文化人类学、符号学、修辞学等诸多方面。本文打算借鉴语义功能语法的-些研究方法, 对姓名的指称功能及修辞功能问題作-些初歩探讨。马庆株倡导的语义功能语法理论重视词的小类划分, 重视顺序义, 分类和排序己成为语义功能语法研究的两种重要方法。运用这些方法, 马先生进行了大量研究, 取得了丰硕的研究成果, 比如在动词中建立了持续非持续和自主非自主两个新的分类系统, 论述了顺序义对体词语法功能的影响, 考察了词的小类在共现吋的排列规则, 不过他没有渉及到姓名研究。我们发现, 分类和排序这两种方法,同样适用于姓名研究, 下面我们就试着运用这两种方法来分析一下姓名的指称功能与修辞功能。