著者
富田 昌平 田中 伸明 松本 昭彦 杉澤 久美子 河内 純子 辻 彰士 湯田 綾乃 松尾 美保奈 松浦 忍 松岡 ちなみ Tomita Shohei Tanaka Nobuaki Matsumoto Akihiko Sugisawa Kumiko kawachi Junko Tsuji Akihito Yuta Ayano Matsuo Mihona Matsuura Shinobu Matsuoka Chinami
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 = Bulletin of the Faculty of Education, Mie University. Natural Science, Humanities, Social Science, Education, Educational Practice (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.493-502, 2020-02-28

本研究では,幼稚園のカリキュラムの中にさりげなく埋め込まれている数学的活動に焦点を当て,幼児教育と数学教育という2つの異なる専門的視点から,幼児による経験や学び,実践の意味について分析し考察した。具体的には,幼稚園のクリスマス行事におけるサンタクロースからの贈り物に見られる幼児の分配行動を観察し,その記録を分析の対象とした。3歳児では1対1対応の分離量の分配,4歳児では集合した分離量の分配,5歳児では連続量の分配が課題として与えられた。新しい幼稚園教育要領(2017年3月改訂,2018年4月施行)のもと,「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」の設定に見られるように,幼児教育と小学校教育との円滑な接続はより一層求められている。本稿で取り上げた数学的活動は,10の姿のうちの「数量や図形,標識や文字などへの関心・感覚」に関わるものであり,そこで見られた幼児の姿は小学校以降の算数教育へとつながっていく姿である。本稿では,小学校教育とは異なる幼児教育の独自性について改めて確認するとともに,今後,こうした具体的な姿を小学校側にいかに伝え,つなげていくかがが議論された。
著者
園部 友里恵 Sonobe Yurie
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 = Bulletin of the Faculty of Education, Mie University. Natural Science, Humanities, Social Science, Education, Educational Practice (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.517-529, 2021-02-26

本稿では、インプロを用いたワークショップ型の初任者教員研修をオンライン開催としたとき、研修計画および事前試行ワークショップの過程、及び研修当日に何が起こり、いかなる課題が浮上したのかを記述することを目的とした。その結果、インプロワークショップをオンライン型初任者研修として実施することの課題は、「いま、ここにいないこと」、すなわち、ファシリテーター(講師)及び受講者が同じ空間に集い、身体をつきあわせて空間を共有できないことによって生じていることが見出された。今後もオンライン型研修が継続されるのであれば、「いま、ここにいない」からこそ生まれるおもしろさを探究し、それを研修のなかに組み込んでいく必要性があると指摘した。
著者
牧原 義一 西村 拓真 MAKIHARA Yoshikazu NISHIMURA Takuma
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 = BULLETIN OF THE FACULTY OF EDUCATION MIE UNIVERSITY. Natural Science,Humanities,Social Science,Education,Educational Practice (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
no.68, pp.9-12, 2017-03-31

上部に方位磁針を取り付けたスタンプを用いて、紙面上に磁界の向きを矢印として押印する「スタンプ式磁界可視化教材」を開発した。また、この教材を用いて、磁石や電流のまわりの磁界を矢印のパターンとして可視化する実験を行った。本稿では、教材の構造、使用方法、実験結果、および教材の有効性と課題について報告する。
著者
磯和 壮太朗 南 学 ISOWA Soutarou MINAMI Manabu
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
no.66, pp.179-189, 2015-03-31

本研究は、クリティカルシンキング(以下:クリシン)を教育する立場に立つ場合、まずはクリシンの社会的側面に注目した「社会的クリティカルシンキング」に対する志向性を刺激することが有効なのではないかという立場のもと、より使いやすい社会的クリシン尺度の作成を目指したものである。2つのクラスに対して、27項目で収集したデータを探索的因子分析にかけた結果、5因子解が得られた。この5因子解に基づいて15項目の短縮版を作成後、先の2クラスに対して改めて実施し、信頼性と妥当性の検証を行った。各クラス各時点での下位尺度のα係数は低かったものの、尺度全体でのα係数は0.8を超えており、それなりの内的一貫性を確保していた。また、Times1とTimes2の因子構造を比較するための縦断因子分析、2つのクラス間での因子構造を比較するための多母集団同時分析を行った結果、高い適合度と妥当なパス係数が得られた。予測的妥当性の検証として、実際にTimes1の社会的クリシン志向性がTimes2の社会的クリシン行動を導いているかについて検討した結果、確かにTimes1の社会的クリシン志向性は、社会的クリシン行動を導いており、それは下位因子単位よりも因子全体で影響力を発揮する可能性が示唆された。また、志向性から能力に対する自己認知を統制した結果、それができると思っているかどうかにかかわらず、社会的クリシン志向性は社会的クリシン行動を促している可能性が示唆された。
著者
山根 栄次 YAMANE Eiji
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.175-192, 2014-03-31

2013年8月10日の各紙朝刊は、国の借金が本年6月末時点で、初めて1,000兆円を超えたことを報じた。1,000兆円という金額は、日本の現在のGDP(約500兆円)の2倍であり、現在の国の税収(約40兆円)の25倍にもなる。この膨大な額の国の借金を日本の現役世代や生徒を含む将来世代は返還していかなければならない。このような現状を踏まえたとき、これからの学校における税教育(財政教育を含む)は、どのように行うべきであるのかを検討し、新たな税教育理論とそのカリキュラムを開発することが本研究の目的である。これまでの中学校社会科公民的分野における税教育は、基本的・理論的には均衡財政を前提としてなされてきた。しかし、1,000兆円もの国の累積債務が存在しているこれからの学校における税教育は、その返還が余儀なくされるため、歳入(税収)を増加させるとともに歳出を抑制する黒字財政を作り出すことを基本的・理論的に前提とせざるを得なくなる。これからの財政についての教育を受ける生徒は、自分たちの前の世代の日本人・日本政府が、なぜこれほどまでの累積債務を残すことになったのかという理由を是非とも知りたいであろう。また、この膨大な累積債務の返還を前にどのような財政と税制を作り上げたら良いか考えざるを得なくなるであろう。このような生徒の欲求を満たす財政の教育の理論とカリキュラムを開発する必要がある。本研究では、その試案を提案する。なお、本研究に対しては、日本学術振興会から科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究)が支給されている(課題番号23653291)。
著者
上垣 渉 根津 知佳子 Wataru UEGAKI Chikako NEZU
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.41-60, 2013

本論文の目的は,音楽療法における数学的パラダイムの構造を明らかにすることである.そのために,古代ギリシアにおける音楽理論の形成過程と,その特徴及び人間への影響の仕方を考察した.古代ギリシアの音楽理論はオリュンポスによって創始され,テルパンドロスによってオクターブ的7 音音階が成立した.ピュタゴラスはそれを改革して8 音音階を完成させ,数比(ラチオ)にもとづく音楽理論を展開した.一方,アリストクセノスは音楽理論における数比主義を排除して,調和(ハルモニア)を求める聴覚に依拠した知覚主義的音楽理論を唱えた.これら2 つの音楽理論の統一を図ろうとしたのがプトレマイオスであった.音楽の世界と数学の世界を結びつけるのは比例(アナロギア)であり,比例によって音律論は強固な数学的基礎を獲得したのである.音楽は人間の精神に対して倫理的・教育的な作用力を発揮するが,本論文では,そのような音楽の特性を「音楽のエートス」と名づけた.プトレマイオスは,エートスの発生はトノスの転位の結果であると考え,7 種のオクターブ形式を定式化した.この7 種の形式が人間の精神に対して勇気,悲哀など種々の影響をもたらすのである.以上の考察から,数学的パラダイムはラチオとハルモニアを核とし,アナロギアを介して,音楽的エートス論を形成するという構造を持っていることを明らかにした.
著者
櫻井 誠 磯部 由香 吉本 敏子 Makoto SAKURAI Yuka ISOBE Toshiko YOSHIMOTO
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.135-141, 2013

「食育」には多様な概念が含まれており、その対象や目的も様々である。一方で、多くの食品関連企業が食育基本法で食育の推進に協力することが責務とされている通りに、様々な食育活動を行っている。しかし、企業が「食育」をどのように考え、食育活動の対象や目的をどのように設定しているかなどはあまり検証されていない。そこで本研究では、企業のホームページやCSR報告書などから、これら企業が行っている食育活動や食育の理念などを分析することにより、企業の考える「食育」の概念を明らかにすることを目的とした。また、企業の出前授業や、提供している教材を分析することで、そのねらいについても明らかにすることも目的とした。58社の実施している食育活動170件を対象に調査した。対象者は「小学生」が最も多く、次いで「親子」、「一般(成人など)」であった。活動内容は「料理教室」が最も多く、次いで「メニュー・レシピの提供」、「出前授業」であった。食育の理念などでは「大切」、「楽しい」、「子ども」、「健康」、「安全」、「おいしさ」などの文言が多く見られた。さらに14社の企業から得た21資料の食教育教材を分析した。「企業名」はほとんどの教材で明記されていた。「商品名」は21資料中4資料、「対象学年」は7資料、「対象教科」は11資料で明記があった。「ドリルなど」を含む教材は12資料であった。家庭科に関する内容では「栄養」、「食品」、「調理」が多く取り扱われていたが、家庭科以外や発展的・専門的内容を含む教材が多く見られた。
著者
南 学 Manabu MINAMI
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.337-348, 2013-03-31

従来のクリティカルシンキング教育は、受講生に多大な認知的負荷を求めるため、受講生の一部はクリティカルシンキングを学ぶ動機づけを失いやすいという問題点と、クリティカルシンキングを実践・練習する機会を持ちにくいため自発的にクリティカルシンキングを行いにくいという問題点があった。これらの問題を解決するために、筆者はクリティカルシンキングを実践することをうながすゲーミング教材を開発した。本研究では、この教材がクリティカルシンキング志向性を高めるかどうかを検証した。実験は教材の有効性を示した。考察では、この教材を従来型のクリティカルシンキング教育に取り入れることでいっそうの有効性を発揮するであろうと論じられた。
著者
松本 昭彦 Matsumoto Akihiko
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.74-63, 2010

鴨長明『方丈記』の「五大災厄」の部分は、当時起きた災害の事実を基に記しているとされるが、中には「虚構」とされる部分もある。確かに、「養和の飢鯉」について見るに、養和二年の二ヶ月間に供養された遺棄遺体数・四万二千三百や、行き倒れた母の乳にすがる幼子、仏像・寺院を損壊して薪に売る行為等の記事は、古記録等で直接確認できず、事実でない可能性が高い。しかしそれらの記事も、いくつかの状況証拠から、事実でないからといって「虚構」に直結させる必要はなく、長明においては〈事実〉として記憶されていたからこそ、「人と栖の無常」を証拠立てるものでありえたし、それが「閑居の気味」を意義づける条件であったのだと思われる。
著者
磯和 壮太朗 南 学 ISOWA Soutarou MINAMI Manabu
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.285-295, 2014-03-31

本研究では、①抑うつと考え込み型反応及び認知的統制に関する先行研究の追試を行うこと、②クリティカルシンキング志向性(以下:クリシン志向性)が考え込み型反応及び認知的統制とどのような関係を持っており、どのように抑うつと関わっているのかを検討した。これらを検討することによって、クリティカルシンキング教育(以下:クリシン教育)の新たな意義と、教育を行う際に留意すべき点を見出すことが本研究のねらいである。結果として、先行研究で見出された考え込み型反応及び認知的統制が抑うつに与える影響については、先行研究の結果がほぼ支持された。また、総じてクリシン志向性を高めるよう働きかけることは抑うつを重症化させるというリスクを持っているものではないことが示された。クリシン教育を行う場合は、クリシン志向性の中でもまずは証拠を重視する志向性、偏ることなく思考しようとする志向性、そして、世の中には様々な価値観や捉え方、視点があり、そのことを意識して考える志向性を高めることが効果的であること、自分についてのクリシンは、ひとりきりでは行わずに、友人に相談したり学生相談を利用するなど、信頼できる他者と共に行うことが大切であると伝える必要があると考えられた。
著者
関 俊一 SEKI Shunich
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.65-70, 2012-03-31

“紙切り”という日本の伝統的な技法で、筆者自らが幼少期に体験した“紙切り”の思い出や作品を基に、小学校で実践しているワークショップと図画工作としてのあり方について考察する。鋏で図形を切るという行為は、絵を描くのとはまた違った技術や感覚が必要である。何かを模して紙を切り、具体的に表現する為には、鋏の使い方や紙の特徴を理解し、切る図形のイメージをしっかり記憶することが重要である。紙と鋏で図形を切り取るという一連の流れから、どの様な事を児童が学んだかを具体的に記した。
著者
服部 明子 HATTORI Akiko
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
no.67, pp.77-86, 2016-03-22

近年、ビジネスの場で実践的なコミュニケーションを行うための日本語教育が求められている。本稿では、ビジネス場面におけるクレームの電話会話の終結部を分析した一連の研究結果をまとめ、円滑に会話を終わらせるために必要な要素と会話構造について資料を示す。また、これを用いた日本語教育への応用について考察する。
著者
山守 一徳 YAMAMORI Kazunori
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 = BULLETIN OF THE FACULTY OF EDUCATION MIE UNIVERSITY. Natural Science,Humanities,Social Science,Education,Educational Practice (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.23-30, 2018-01-04

日本では、小学校からプログラミング的思考を取り入れた授業を2020年までに展開するように要請されているが、中学校ではプログラミング教育をどのように実施したら良いか悩ましい問題がある。小学校向けにはScratchを利用したプログラミング教育が多く行われ始めており、筆者は、その題材を提供してきているが、中学生向きにはScratch によるプログラミングでなく、もう少し進んだプログラミングを教えた方が良いと考える。そこで、本論文では、中学生向けのJavaScriptプログラミングを提案する。
著者
和田 崇 WADA Takashi
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.99-108, 2016-03-22

本稿は、現行の筑摩書房の国語教科書(高校一年生用)に収録された南木佳士の短編小説「急須」を分析した作品論である。同社の作成した『指導書』によると、この小説の主題は、青少年期の苦悩を背景として主人公が「自分の生き方を発見するという成長の物語」であり、それを読み取るためには、作中に登場する「お茶屋の主人」と、彼が愛好する芥川龍之介の小説が象徴する意味を考察する必要がある。しかし、テクストを精緻に分析すると、お茶屋の主人は主人公の「成長」に対しそれほど重要な役割を果たしていないと考えられる。本稿では、テクストに描かれていない主人公の空白の時間を復元し、彼の苦悩の所在を具体化した上で、人称を用いず過去の自己について語る特殊な語り手の機能に着目し、現在と過去との間で二重に交錯する主人公の内面の変化を解析することで、「急須」におけるお茶屋の主人の役割を明らかにした。
著者
伊藤 暢浩 岡野 昇 山本 俊彦 加納 岳拓 Ito Nobuhiro Okano Noboru Yamamoto Toshihiko Kano Takahiro
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.155-166, 2010

本稿では、まず小学校体育における「体力を高める運動」にかかわり、最近の実践報告や研究動向から、「体力を高める運動」の問題を浮き彫りにした。そこでは、「体力を高める運動」の実践報告はきわめて少なく、教材の開発もあまり進められていないことが明らかになった。また、その背景には小学生には受けいれられにくいとされる必要充足機能が強調されており、その内容はトレーニング的で量的な体力を問題にする数値主義に基づき、自己の体力の高まりに着目した個人主義的な立場から「体力を高める運動」が位置づけられていることが明らかになった。加えて、最近の研究では、「体力を高める運動」の運動の特性、学習観、身体観といった枠組みから展開されていることが明らかになったが、実際にどのように運動の内容構成を行っていけばよいのかという教材開発の提示までには至っていないことが浮き彫りとなった。そこで、「体力を高める運動」における、①運動特性の捉え方、②学習観の捉え方、③身体観の捉え方の三点について検討した結果、運動の特性は欲求充足機能を前面に取り上げながら、結果として必要充足機能に結びつけるという表裏一体のものとして捉えることが肝要であると述べた。また、学習観は個人主義的な学習観から関係主義的な学習観へシフトすることが重要であると述べ、身体観は一人称的・三人称的身体から二人称的身体へと転換することで、新たな体育教育をひらく可能性があると考察した。こうした視点を持ちながら、「体力を高める運動」の新たな内容構成に基づく教材開発を行った結果、欲求充足と必要充足の機能の両方を重視しながら教材を作成するために、カード(A6版)形式を採用し、カードの表面には欲求充足の観点が分かるように、「運動の中心的なおもしろさ」をイラストと文章で表記し、カードの裏面には体力の四つの要素(体の柔らかさ・巧みな動き・動きを持続する能力・力強い動きを高めるための運動)のどれと結びついているかという観点で示した。また、仲間と共に楽しみながら行える運動を行うことができるという観点から30の運動を選定し、仲間に働きかけたり、仲間から働きかけられたりすることにより生まれる世界を大切にする二人称的な身体から運動を取り上げた。
著者
上垣 渉 田中 伸明 Uegaki Wataru Tanaka Nobuaki
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.185-196, 2009

In the time after World War II, Japanese Education was under the control of Civil Information & Education Section (CI & E) of General Headquarters / Supreme Commander for the Allied Powers (GHQ / SCAP). The CI & E decided that Japanese new upper secondary education should have a broader focus and comprehensive curriculum. On September 27th 1946, a final tentative curriculum of elementary and secondary education in Japan was agreed upon between the Ministry of Education of Japan (Mombusho) and CI & E. In this plan, mathematics courses of upper secondary level were deemed elective. Wada Yoshinobu (Chief of mathematics course of study committee) was concerned that mathematics was "elective" and claimed that it should be "compulsory". This thesis clarifies the argument for additional years of compulsory mathematics by using GHQ / SCAP's estricted documents.
著者
南 学 MINAMI Manabu
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.171-178, 2015-03-31

本研究では、現代の若者がもつ幸福観と価値観との関連から現代の「幸せな若者」(古市,2011)について明らかにすることを目的として検討を行った。結果は、「主観的幸福感」と「くつろぎ追求」とは有意な相関が見られず、「将来無関心」とも相関はなかった。また、幸福観によって若者を3群に分けたところ、「幸せな若者」像に近い「現状満足群」よりもすべてのことを追求する若者像である「全追求群」のほうが、「主観的幸福感」が高いことが見出された。これらの結果から、「幸せな若者」像はすべての若者にあてはまるものではないこと、「幸せな若者」の幸福感がとくに高いわけではないことが見出され、古市(2011)が提唱した若者の価値観の傾向と幸福感を結びつけた「幸せな若者」論は実証性に欠けることが示唆された。
著者
荻原 彰 人見 久城 OGIHARA Akira HITOMI Hisaki
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.245-255, 2016-03-22

The University of Delaware (UD) is recognized as a center of Problem-Based Learning (PBL) in the U.S.A. Typically, PBL involves three-stage problem solving. Initially, a problem is presented to students, who then discuss along with learning issues, and report the results. The students then discuss the first problem again, and a second problem is presented. The process then proceeds in the same way to a third problem. Good PBL problems are the key to success of PBL. Problems should motivate students to gain a deep understanding, arrive at judgements based on facts and logic, and promote cooperation among students. The First problem should be open-ended and the content objectives should be incorporated into problems. At the UD, ingenious attempts have been made to promote PBL in groups. For example, setting ground rules to prevent "free riders", specifying the roles of group members, systems for mutual evaluation, peer facilitation, and combinations of group discussion and mini-lectures. The success of PBL at the UD is attributable to a bottom-up approach, sound administrative support and faculty development. The tasks remaining for PBL at the UD include how to cope with the extra load on the faculty, and students feel alienated from PBL.
著者
磯部 由香 田中 里奈 平島 円 ISOBE Yuka TANAKA Rina HIRASHIMA Madoka
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要. 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学・教育実践 = BULLETIN OF THE FACULTY OF EDUCATION MIE UNIVERSITY. Natural Science,Humanities,Social Science,Education,Educational Practice (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.143-148, 2017-03-31

学校現場で行われている食育に関する様々な取り組みの中で、毎日繰り返し行われる「給食の時間」での指導は、極めて重要な役割を担っている。そこで、学校現場での給食指導の実態の把握を目的に調査を行った。その結果、給食指導における一番の課題は偏食に関する指導であることが明らかになった。偏食の課題は多様なため、指導方法の一般化が困難であり、給食指導マニュアルへの記載もほとんどなかった。アンケート調査および文献から偏食指導の事例を収集したところ、その手法は様々であった。今後は、教員個人の経験や能力に左右されず、すべての教員が効果的な偏食指導を行うため、様々な事例の蓄積とデータの共有が重要になると考えられる。