著者
惠本 序珠亜 平田 豊
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J101-D, no.2, pp.456-467, 2018-02-01

マイクロサッカード(MSC)はヒトの潜在的注意を反映すると考えられている微小で高速な眼球運動である.MSCの発生特性から,ヒトの潜在的注意の定量的な評価が可能となることから,MSCの実時間検出法の開発が望まれている.これまで,MSC検出法として幾つかの手法が提案されているが,これらの手法はオフライン解析での利用を想定しており,実時間で利用することは考慮されていない.そこで本研究では,実時間MSC検出に対応するため,ディープラーニングの手法を応用した畳み込みニューラルネットワークによる新しいMSC検出法を提案する.また,提案法を評価するため,MSC誘発実験を実施し,MSC波形のデータセットを作成して,従来法と検出精度を比較する.その結果,提案法は現在広く使われている従来法と比較し,最大で8.1%検出精度が高く,ノイズの変化や個人差に対しても安定してMSCを検出できることを示す.更に,提案法は現在一般的なPCを用いた場合にも,実時間MSC検出が可能であることを示す.
著者
小林 潤平 関口 隆 新堀 英二 川嶋 稔夫
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J99-D, no.1, pp.23-34, 2016-01-01

縦スクロール型の日本語電子リーダーにおいて,5〜40文字/行の行長変化がもたらす読み速度及び眼球運動への影響を検証した.読み速度は行長の伸長とともに増加し,最も短い5文字/行で最小,最も長い40文字/行で最大となったが,20文字/行付近で上限に至る傾向が認められた.読み速度の行長依存性は「停留時間」「順行サッカード長」「逆行による過剰停留数」「改行運動中の過剰停留数」のバランスで決定されることがわかった.また,行長が長いほど,停留時間は短く順行サッカード長は長くなって読み速度向上に寄与する一方で,逆行による過剰停留及び改行運動中の過剰停留は増えて読み速度の低下をもたらすというトレードオフの関係が見出された.トレードオフ関係の妥協点を最適行長とすると,本研究における文字サイズ4.4mm及び行高6.0mmの縦スクロール型日本語電子リーダーの最適行長は,20〜29文字/行と結論付けられた.
著者
後藤 英昭 新妻 共 大和 純一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J100-D, no.5, pp.584-594, 2017-05-01

国際的な学術系無線LANローミング基盤であるeduroamは,世界約80か国(地域)に普及しており,キャンパス無線LANのデファクトスタンダードになっている.日本では,欧州各国と比較して格段に多い約1,200の高等教育機関が存在することから,eduroamの早急な展開を行うために,国内のeduroam運用を行う組織の負担をできるだけ小さくすること,各機関のeduroam導入・運用コストを抑制すること,及び,スケーラブルで安定な認証連携基盤を構築することが課題としてあった.これらの課題に対処するため,我々は,各機関で行う利用者認証の処理を代行する集中型認証システムを開発し,2008年から国内の大学等に試験的にサービス提供してきた.この8年間の運用において,冗長化による可用性向上や,オンラインサインアップなどの機能拡張を行い,システムの改良を進めてきた.当システムは40以上の機関に利用されるに至り,当初の目的どおりにeduroam導入の敷居を下げるのに加えて,学会会場等におけるゲストアカウント発行など,新しいサービスの創成にも貢献した.
著者
照屋 大地 宮崎 大智 中條 拓伯
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J100-D, no.3, pp.287-297, 2017-03-01

複数の高速なデータ入力とインターネットへのデータ出力が必要となる組み込みシステムのプロトタイピングのためのフレームワークPyJerを提案した.PyJerを用いた開発では汎用の高位合成ツールとメモリアクセスチューニングのための高位合成ツールを組合せそれぞれの利点を活かすことが可能となる.これによってSoCを用いた組み込みシステムの高速なプロトタイピングが実現できる.複数ツールの使用に起因する複雑なビルド手順の自動化を行い,開発サイクルの短縮を可能とした.またPyJerによってセンサ入力の並列化を行ったアプリケーションのプロトタイピングを行い,ハードウェア使用率の低いこと,CPUを用いた実装と比較してパフォーマンスの向上が期待できることを確認した.
著者
孫 維瀚 黄瀬 浩一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.93, no.6, pp.909-919, 2010-06-01

図表や漫画などの線画は,直線または曲線で描く図形であり,画像出版物の中で重要なものの一つである.線画の著作権を保護するため,不正コピーを自動的に検出する手法が求められている.実際に,不正利用者は,線画をそのまま使うだけではなく,オリジナルの一部分,すなわち部分的複製を利用することが多い.その際には,部分的複製は他の素材の中に埋め込まれる形で使われる.加えて,部分的複製はそのままの形で埋め込まれるとは限らず,様々な処理によって改変されることも考えられる.その結果,不正利用の検出が困難となっている.更に,線画の場合,改変の手法として手書きの複製が考えられるが,これが問題をより困難なものとしている.これらの問題に対処するため,本論文では,局所特徴量の照合による画像検索技術を用いて,不正コピーを検索する手法を提案する.具体的には,局所特徴領域の抽出手法としてMSERを,特徴量の記述子としてHOGを用いる.そして,データベースの大きさと検出時間を削減するため,主成分分析で特徴ベクトルを圧縮するとともに近似最近傍探索を用いる.実験により,提案手法は,印刷線画の部分的複製ばかりでなく,複雑な背景に埋め込まれた手書き線画に対しても有効性があることを示す.
著者
中居 友弘 黄瀬 浩一 岩村 雅一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.89, no.9, pp.2045-2054, 2006-09-01
参考文献数
10
被引用文献数
14

本論文では,ディジタルカメラで撮影して得られた文書画像をもとに,データベースから対応する文書画像を見つける文書画像検索の手法を提案する.従来のスキャナを利用した文書画像検索と異なり,ディジタルカメラを利用する場合には射影ひずみなどのディジタルカメラ特有の問題に対処する必要がある.また,大規模データベースでの利用を可能にするため,検索の効率性も重要である.これらの問題に対処するため,本論文では特徴点の局所的配置を特徴量とし,ハッシュ表を用いた投票によって検索する手法を提案する.本手法では,射影ひずみを実用的な範囲に制限し,特徴点の組合せを局所領域に限定することで,計算量の削減を実現する.また,高精度な検索を実現するため,射影変換の不変量である複比で特徴点の配置を表現し,特徴量としている.実験により,10,000ページのデータベースから精度98%,平均処理時間約160ms(特徴点抽出の画像処理に要する約1sを除く)で検索できることが示された.
著者
中山 英樹 原田 達也 國吉 康夫
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.93, no.8, pp.1267-1280, 2010-08-01
被引用文献数
2

汎用的な一般物体認識の実現のためには,膨大な数の対象と画像のアピアランスを学習する必要があり,人手によって学習過程を管理することは難しい.このため,Web上の大量の画像を用い自律的に画像知識の獲得を行う方法が近年検討されている.これを実現するための学習・認識手法には,精度と同時にスケーラビリティが必要不可欠である.本研究では,大量のWeb画像への適用を念頭に置いた,高速画像アノテーション・リトリーバル手法を提案する.本手法は,複数ラベルが表す画像のコンテクストを用い,高速に学習・認識を行うことが可能である.実験では,まずベンチマークであるCorel画像セットにより比較実験を行い,本手法が多くの既存手法に比べ高速・高精度であることを示す.次に,270万枚のFlickr画像から学習を行い,Web画像マイニングにおける本手法の有効性を検証する.
著者
宇都 雅輝
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J105-D, no.7, pp.457-469, 2022-07-01

近年,論理的思考力や表現力といった被評価者の実践的な能力を測定する手法の一つとして,ルーブリックを用いたパフォーマンス評価が注目されている.ルーブリックの利用により評価者間の採点基準のばらつきを低減できると期待されるが,それでも評価結果がパフォーマンス課題や評価者,ルーブリックの評価観点の特性の影響を受けることが指摘されている.この問題を解決する方法の一つとして,課題や評価者,評価観点の特性を考慮して被評価者の能力を推定できる項目反応モデルが提案されてきた.それらの既存モデルの多くは測定対象の能力に一次元性を仮定しているが,高次な能力の測定を目的とするルーブリックを用いたパフォーマンス評価では測定対象の能力に多次元性が想定される場合がある.そのような能力の多次元性に対応できる項目反応モデルも提案されているが,既存のモデルでは課題と評価者,評価観点の特性を同時に考慮した能力推定は実現できない.そこで,本論文では,課題・評価者・評価観点の特性を同時に考慮して多次元尺度上で被評価者の能力を推定できる項目反応モデルを提案する.また,シミュレーション実験と実データ実験を通して提案モデルの有効性を示す.
著者
松本 鮎美 三上 弾 木全 英明
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J101-D, no.10, pp.1448-1461, 2018-10-01

本論文では,スポーツ映像を対象として,動作中のイベントの発生タイミングを時間的に詳細に検出することを目指し,映像を疑似的に高フレームレート化した上で,高フレームレート化された映像からイベントを検出する手法を提案する.一般的に,スポーツの動作は非常に高速である.例えば野球において投手のボールのリリースタイミングを分析することを考えると,フレームとフレームの間で撮影されていない可能性がある.一般的な映像からのイベント検出手法の時間分解能は映像のフレームレートに制約されてしまう.この問題を解決するために我々は,低次元特徴に着目し,低次元特徴空間における映像の疑似高フレームレート化による高い時間分解能でのイベントタイミング検出方法を提案する.これは,映像をダイナミックスを保持したまま低次元特徴空間へマッピングするものであり,これにより高フレームレート化が容易となり,フレームレートより詳細なレベルでのイベントのタイミング検出が可能となる.更に,クラスタリングによるアノテーションを行うデータの自動抽出と,ストリームデータに対する逐次的なアノテーションの導入により,実環境での利用への拡張を行う.
著者
松原 靖子 櫻井 保志 Christos FALOUTSOS
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J100-D, no.4, pp.457-471, 2017-04-01

本論文では,大規模オンライン活動データのための非線形解析手法であるECOWEB (Ecosystem on the Web)について述べる.本研究では,“Xbox”, “PlayStation”, “Wii”等のオンライン検索キーワードの出現件数に関する時系列データが与えられたとき,それらのキーワード間の潜在的な関連性や競合性,そして季節性等の重要なパターンを自動抽出することを目的とする.より具体的には,オンラインユーザ活動の推移パターンを,自然界の生態系における種内・種間競争として捉えることで,潜在的なユーザ資源(ユーザの興味,時間等)を各アクティビティ(Xbox等のキーワード)がどのように共有,あるいは競合しているかを非線形動的システムとして表現する.実データを用いた実験では,ECOWEB が様々なオンライン活動における長期的な非線形パターンや季節性等の重要なトレンドを発見し,更に,長期的な将来予測を高精度に行うことを確認した.
著者
グエン ミン テイ 川村 隆浩 大須賀 昭彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.96, no.12, pp.2970-2978, 2013-12-01

本論文は,実世界での人々の行動を分析し,状況に応じた適切な情報提示などへ役立てることを目的に,Twitterなどソーシャルメディアから行動ネットワークを構築する研究の一環である.ソーシャルメディアからの行動抽出にあたっては,さまざまな理由から呟かれなかった行動が数多く存在し,結果として行動ネットワークがスパースになってしまうという問題が存在する.そこで,行動の性質とユーザのゴールを考慮した行動ベース協調フィルタリング手法を提案し,欠損行動の推測を試みる.また,協調フィルタリングによる頻度の原理の副作用としての低頻度だが価値のある情報が埋もれてしまう問題に対して,人が成功している人や行動にどのように影響を受けるか,を単純にモデル化し,一定の重み付けを行う方法を提案する.そして,東日本大震災発生時のtweet 337,958件を対象に評価実験を行った結果,提案手法を用いることで行動ネットワーク内の欠損行動ノードを一定程度,補完できることを確認した.
著者
則 のぞみ 鹿島 久嗣 山下 和人 猪飼 宏 今中 雄一
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J100-D, no.2, pp.194-204, 2017-02-01

ICU入室患者の死亡リスク予測問題において,疾病によってリスク要因がどのように死亡リスクに関係するかが異なる点を考慮するために,疾病ごとに個別化した予測モデルを構築する.疾病ごとの個別化に際して課題となるデータの疎性に対処するために,疾病の分類と電子健康記録の分類に関する二つのドメイン知識を取り込むマルチタスク学習手法を提案し,医療機関における実データを用いた実験で提案手法の有効性を示す.
著者
松田 繁樹 林 輝昭 葦苅 豊 志賀 芳則 柏岡 秀紀 安田 圭志 大熊 英男 内山 将夫 隅田 英一郎 河井 恒 中村 哲
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.96, no.10, pp.2549-2561, 2013-10-01

本論文では,独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が開発した世界初のスマートフォン用多言語音声翻訳アプリケーション"VoiceTra"を用いた大規模実証実験に関して,VoiceTraシステムの概要,クライアントサーバ間の通信プロトコル,本システムで用いられた多言語音声認識,多言語翻訳,多言語音声合成の詳細を述べる.また,本実証実験中に収集された約1000万の実利用音声データの一部について,聴取による利用形態の分析,更に,実験期間中に行った音声認識用音響モデル,言語モデルの教師無し適応,言語翻訳用辞書の追加に対する音声認識,音声翻訳性能の改善について述べる.
著者
鳥海 不二夫 神谷 達幸 石井 健一郎
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.11, pp.1740-1750, 2011-11-01

近年,SNS (Social Networking Service)やBlog,Twitterなどのインターネットを利用したコミュニケーションツールの利用が拡大している.SNSのユーザは友人登録機能によってSNS上での他のユーザとの関係を表現する.このようにSNS上に現れる友人関係は,実社会において観測することの困難な人間関係を限定的ではあるが具現化する可能性がある.本研究では性質の異なる多数の小規模SNSを表現可能なネットワーク生成モデルを提案した.提案モデルは,SNSの成長モデルとして知られているCNN+Fitnessモデルに,管理者優先モデル,トライアドフォーメーションモデル,優先的近傍接続モデルを組み合わせて作られた.そして,それぞれのモデル適用率をパラメータとし,モデル化したいSNSに特化して最適化することで,現実の友人ネットワークの構造を近似する.パラメータの最適化にはSimulated Annealingを利用した.また,提案モデルの近似性能を確認するために,ネットワーク指標間の距離に基づいた評価関数を提案した.提案モデルを279の小規模SNSに適用し,提案評価関数で評価した結果,従来のモデルよりも高い精度で小規模SNSの友人ネットワークを近似できることを確認した.また,提案した3種類のモデルについて有効性を確認したところ,管理者優先モデル,優先的近傍接続モデルは友人ネットワーク生成モデル構築上重要であったが,トライアドフォーメーションモデルはネットワークの生成にほとんど寄与しないことが明らかとなった.
著者
藤原 靖宏 入江 豪 北原 友恵
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.1178-1187, 2013-05-01

Affinity PropagationはFreyらによって近年提案されたクラスタリング手法である.Affinity Propagationはk-means法などに代表される既存のクラスタリング手法よりクラスタリング精度が良いため,様々な分野において用いられている.オリジナルのAffinity Propagationでは全てのデータポイント間でメッセージと呼ばれる値を繰返し収束するまで計算する.しかしこのオリジナルの手法はデータポイントの数の2乗の計算コストを要するため,データポイントの数が多い場合は非常に計算時間がかかるという問題点がある.本論文では収束後においてオリジナルのAffinity Propagationとクラスタリング結果が同じになることを保証する高速化手法を提案する.提案手法は(1)収束値を計算するのに不必要なデータペアを枝刈りするアイデアと,(2)枝刈りされたデータペアの収束値を枝刈りされなかったデータペアの収束値から計算するアイデアから構成される.実データを用いて比較実験を行い,提案手法はオリジナルの手法より高速にクラスタリングを行えることを確認した.
著者
鈴木 雄策 山村 毅
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.5, pp.1333-1336, 2007-05-01

SVMを用いてコンピュータウイルス記事からウイルス情報(ウイルス名,感染経路,症状)を抽出する方法について述べる.SVMの素性として形態素情報のみを用いた場合,文や節にまたがる表現の抽出精度はよくなかったが,依存構造解析で得られた情報を利用することで抽出精度を大きく向上させることができた.
著者
熊本 忠彦 河合 由起子 田中 克己
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.3, pp.540-548, 2011-03-01

筆者らは,コンテンツを見たり聞いたりしたときに人々が感じる印象をコンテンツそのものから抽出する手法の研究開発を行っている.本論文では,新聞記事を例として取り上げ,記事を読んだ人々が感じる印象を記事そのものから抽出するテキスト印象マイニング手法を提案する.具体的には,新聞記事データベースを解析し,記事に現れる各単語が記事の印象に及ぼす影響を数値化した印象辞書を構築するとともに,この印象辞書を用いて記事の印象値を算出する手法(算出法)を開発する.更に,この算出法が記事から算出する印象値と人々がその記事を読んだときに感じる印象値との対応関係を回帰分析により調べ,その結果得られる回帰式を用いて算出した印象値を補正するという方法で高精度なテキスト印象マイニングを実現する.ただし,提案手法により抽出される印象は,「楽しい悲しい」,「うれしい怒り」,「のどか緊迫」の3種類であり,それぞれの印象に対し7段階の評価尺度(印象尺度)を設定している.提案手法の有効性を検証するために行った被験者実験では,それぞれの印象尺度における平均誤差が0.69,0.49,0.64となり,特に「うれしい怒り」に対しては高い精度を得ている.
著者
白川 真澄 中山 浩太郎 荒牧 英治 原 隆浩 西尾 章治郎
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J94-D, no.3, pp.525-539, 2011-03-01

固有名詞や専門用語,及びこれら概念間の関係を網羅した大規模オントロジーの構築は,意味中心のWebを実現する上で重要な基盤技術である.最近の研究では,Wikipediaにおける概念の網羅性を活用した大規模オントロジーの自動構築に注目が集まっているが,概念間の関係の網羅性が低いことが課題であった.そこで本研究では,Wikipediaマイニングによって抽出した情報にWeb全体の情報を組み合わせることで,概念及び概念間の関係の種類を網羅した大規模オントロジーの自動構築を目指す.本論文では,大規模オントロジーの自動構築の核となる関係抽出の手法として,Wikipediaから抽出した連想シソーラスを利用して関係の深い概念ペアを取り出し,Web検索によって概念間の関係を抽出する手法を提案する.また,固有名詞間の様々な関係を定義した大規模オントロジー構築への第一歩として,提案手法を用いて実際にオントロジー構築を試みる.
著者
高木 雅成 山内 悠嗣 藤吉 弘亘
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.93, no.8, pp.1429-1438, 2010-08-01
被引用文献数
3

近年,人や車両などを対象とした物体検出は,HOG特徴量などのアピアランスベースの局所特徴量が用いられる.しかし,アピアランスベースの特徴量のみを用いた物体認識は,識別が困難なサンプルが存在する.この問題に対して,コンテクストとして物体カテゴリー間の共起性を利用した物体認識法が提案され,その有効性が確認されている.しかし,学習サンプル中には同時に存在する確率が低いカテゴリー間の物体に対しても共起性を表現するため,識別精度に悪影響を及ぼす可能性がある.そこで,本論文では特徴量レベルで検出対象カテゴリーと非検出対象カテゴリーの特徴量間の共起性を利用した高精度な物体検出法を提案する.提案手法では,アピアランスベースの特微量に加え,Geometric Contextから得られる"空"や"地面"などの確信度を特徴量として利用し,Real AdaBoostの弱識別器の出力を演算子により結合することで共起性を表現する.従来の共起表現法では,和演算子と積演算子を用いた共起表現法のみであったが,本論文では新たに差演算子を導入する.これにより,アピアランス情報から得られる検出対象の確率を,ジオメトリ情報により補正するような共起を表現することが可能となる.提案手法の有効性を確認するために人と車両のデータベースを用いた評価実験を行い,提案手法は高精度な検出が可能であることを確認した.
著者
杉村 大輔 木谷 クリス真実 岡部 孝弘 佐藤 洋一 杉本 晃宏
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.93, no.8, pp.1512-1522, 2010-08-01
被引用文献数
1

本論文では,特徴点軌跡のクラスタリングに基づいた人物追跡手法を提案する.混雑環境下において頑健に個々の人物を区別するために,本手法では歩容特徴と局所的な見えの時間変動の一貫性という二つの指標を追跡の枠組みへ導入する.周波数領域における歩容特徴は,生体認証の分野において頻繁に利用されている指標であり,個人を識別するための重要な手掛りであることが知られている.また,局所領域における見えの時間的な変化は,人物の動きが周りと類似する傾向のある混雑環境下において個々の人物を区別するための効果的な指標となる.このような動きと見えの異なる種類の指標を利用することにより,混雑環境下においても安定な追跡を実現することが可能となる.実環境における実験により本手法の有効性を確認した.