著者
福本 拓
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.231-251, 2020 (Released:2021-03-16)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿の目的は,SNS等を基盤にグローバルな展開を見せる韓流ブーム下での,生野コリアタウンの観光地化に伴う変容と,地域活性化への課題を明らかにすることにある。2000年代以降,テイクアウト品や化粧品等の新たな消費嗜好に合わせた店舗が増大し,生野コリアタウンとその周辺では地価上昇や店舗の分布範囲の拡大がみられる。またアンケート調査からは,新たに増加した観光客の行動や意識が同地の歴史的特性や日韓の政治問題とは遊離しているものの,それらへの学習意欲が弱いわけではないことが看取された。既存の商店は,経済的価値の向上という部分では近年の変容を肯定的に捉えているが,多文化共生に資するような社会的価値に対しては,過去や現在の諸種の対立・軋轢により関与が難しい状況がある。しかし,後者もまた地域固有の歴史性としてエスニック・タウンの魅力を構成する一要素であり,地域活性化にとって経済的価値と併せて欠かせないものである。
著者
松井 圭介 堤 純 吉田 道代 葉 倩瑋 筒井 由起乃
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.131-142, 2015 (Released:2018-04-04)

本稿では,現代における聖地ウルルの観光動態および聖地をめぐる場所のポリティクスを,先住民文化としての聖地の管理・保全と資源化の視点 から検討した。ウルルにおけるツーリズムの動態について略述したうえで,聖地をめぐる管理とツーリストの動き,先住民の宗教的世界と土地所有をめぐる概念について検討し,最後に聖地をめぐる場所のポリティクスの視点から考察した。ウルルは先住民(アナング族)の人びとにとって,神話的な意味世界の中心として重要な意味を持つと同時に,観光資源としての高い価値を有している。したがってウルル登山は,聖地とツーリズムの間の緊張関係をもたらす。両者の相剋はステークホルダー(先住民,政府,ツーリストなど)間だけでなく,内部においても多様であり,ウルル登山の制限をめぐる場所のポリティクスは,「先住民文化の真正性」と「政府の努力」と「ツーリストの満足感」を担保する装置として機能していることが考えられる。
著者
仁平 尊明
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.18-42, 2011

本研究は,ブラジル・マットグロッソドスル州の南パンタナールを対象として,農家民宿(ファゼンダポウザーダ),ホテル,釣り宿などの宿泊施設の経営を分析することから,パンタナールにおいて観光業が発展するための課題を解明する。その際,エコツーリズム発展の地域的差異に着目した。すなわち,エコツーリズムを提供する宿泊施設が集中するエストラーダパルケ(公園道路)沿線を「核心地域」,主要都市から離れた奥地であるニェコランディアを「核心周辺地域」,州境・国境地帯を含む遠隔地のパイアグアスを「外縁地域」に区分した。考察の結果,地域的に偏った観光業の発展,環境保護と観光業発展のアンバランス,多様な観光客への対応力,人の激しい流動性,パンタナール周辺地域との連携の低さなどの点で課題が指摘された。今後,内発的で持続的な観光業の発展を提案していくためには,湿原内外の資源を活用しながら,それぞれの地域性を十分に考慮した計画が必要である。
著者
益田 理広 Michihiro MASHITA
出版者
Japan Association on Geographical Space
雑誌
地理空間 = Geographical space (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.19-46, 2018-06-20

地理学の語源たる「地理」の語は五経の一,『易経』を典拠とする。『易経』は哲学書としての性格を有し,「地理」の語義についてもその注釈を通し精緻な議論が展開されている。本稿は,初期の「地理」注釈である唐宋の所説を網羅し,東洋古来の「地理」概念がいかなる意味を以て理解され,かつどのように変遷したのかを明らかにしたものである。唐代における最初期の「地理」には,地形や植生間の規則的な構造とする孔穎達,及び知覚可能な物質現象たる「気」の下降運動とする李鼎祚による二説が存在する。続く宋代には「地理」の語義も複雑に洗練され,次のような変遷を経る。即ち,「地理」を(1)位置や現象の構造とする説,(2)認識上の区分に還元する説,(3)形而上の原理の現象への表出とする説,(4)有限の絶対空間とする説の四者が相次いで生まれたのである。これら多様な「地理」の語義は,東洋地理学および地理哲学の伝統の一端を開示する好資料といえる。Di-Li ( 地理)”, supposed to be the word origin of “geography,” is authentically based on the “Yi-Jing (Book of Changes),” one of the “Five-Classics” of Confucianism. This metaphysical book has predominated in Chinese philosophy and other sciences for more than two thousand years since published. Confucians, therefore, always have relied on commentaries on this book when they defined the concept of “Di-Li.” The oldest definition of this word was noted during the Tang dynasty (618 - 907 ). This paper surveys all the relevant commentaries about “Book of Changes,” written until the Song (960 - 1279 ) period, in order to clarify how the “Di-Li,” the concept of geography in East Asia, was understood over time and how those commentaries were formed.First, we discuss the earliest two types of definition of the “Di-Li” that was written in the Tang period: Kong Ying-da (孔穎達) considered the “Di-Li” as an orderly “structure” in landforms and vegetation; Li Ding-zuo ( 李鼎祚) regarded the “Di-Li” as a kind of atmospheric vertical circulation which is sensible in our “cognition”. Next, we analyze the commentaries on Yi-Jing written in the Song period. In this period, following four types of theories about a definition of the “Di-Li” were provided: (1 ) “structure” as abstract positional relations; (2 ) “cognition” as a basis of an idealistic classification criterion; (3 ) “phenomenon” as an incarnation of a metaphysical principle; (4 ) “space” that is absolute but finite. These diverse definitions of the “Di-Li” provided during Tang-Song period preserve certain aspects of philosophy of traditional Chinese geography.
著者
山下 清海 小木 裕文 張 貴民 杜 国慶
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-26, 2012

中国では,多くの海外出稼ぎ者や移住者を送出した地域を「僑きょう郷きょう」とよんでいる。本研究では,浙江省の主要都市である温州市に隣接し,伝統的な僑郷であった青田県が,新華僑の送出により,僑郷としての特色がいかに変容してきたかについて,現地調査に基づいて考察することを目的とした。 山間に位置し貧困であった青田県では,清朝末期には,特産品である青田石の加工品を販売するため,陸路でシベリアを経てヨーロッパに出稼ぎする者も少なくなかった。光緒年間(1875 ~ 1908 年)には,ヨーロッパよりも日本へ出稼ぎに出る者が増加した。しかし,関東大震災の発生後,日本への出稼ぎの流れは途絶え,青田人の主要な出国先はヨーロッパになっていった。 中国の改革開放政策の進展に伴い,海外渡航者が急増し,青田県では出国ブームが起こった。その主要な渡航先はスペイン,イタリアを中心とするヨーロッパであった。海外在住者からの送金・寄付・投資などにより,僑郷である青田県の経済は発展した。ヨーロッパ在住者やヨーロッパからの帰国者の影響は,僑郷の景観や住民のライフスタイルにも現れている。
著者
平岡 昭利
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.53-70, 2008 (Released:2018-04-12)

行為論で人間行動を解釈する視点から,明治期,日本人の南洋進出の行為目的は,アホウドリであったと想定し,それを追った行動が「帝国」日本の領域拡大につながったことを検討した。アホウドリは小笠原諸島では早くから認識され,1885 年頃には羽毛が外国に輸出されていた。鳥島でアホウドリ撲殺事業を始めた玉置半右衛門は,巨利を得て実業家となり榎本武揚などの南進論者と深くかかわっていた。当時,無人島開拓などの新聞小説が広く読まれるなか,開拓事業に成功した玉置は数々の書物に取り上げられ,無人島探検ブームの一因となった。このブームの中,アホウドリから莫大な利益がもたらされることを認識した人々は,当時の地図に数多く描かれていた疑存島の探検に競って乗り出し,権利獲得競争の果てというべきガンジス島問題も発生した。このようにアホウドリから一攫千金を目論む山師的な人々の行動が,「帝国」日本の領域を東へ,南へと拡大したことを明らかにした。
著者
花木 宏直
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.96-112, 2010 (Released:2018-04-11)
被引用文献数
1

柑橘に関する従来の地理学研究では,生産や流通に関する研究の蓄積がみられるが,需要の実態についての研究が少ない。本研究では,全国有数の柑橘生産額であった和歌山県と,全国有数の人口規模であった和歌山市街を事例に,近世後期から明治前期の柑橘需要を検討した。近世中期の主力の柑橘品種は小蜜柑であり,歳暮や正月飾りとして利用された。近世後期には品種数が大幅に増加し,贈答品や装飾品,子どもの菓子代わりとして需要が拡大した。また,近世後期には今日の温州に相当する品種も登場したが,無核のため縁起の観点から好まれなかった。明治前期,柑橘の商品流通の機会が増加する中で,温州が日常的な嗜好品として注目され始めた。つまり,供物や贈答品から日常的な嗜好品への柑橘需要の変化が,今日の温州の生食による大量消費の端緒と位置づけられる。和歌山の事例を通じて,近世後期から明治前期にかけての嗜好品需要の変化の一端を明らかにした。
著者
山下 清海
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.253-269, 2020 (Released:2021-03-16)
参考文献数
10
被引用文献数
4

1990年代以降,日本各地で新たな「中華街」の建設が実施され,あるいは計画段階で頓挫した例もみられた。本稿は,これら両者がモデルとした横浜中華街の成功要因の究明を通して,日本における地域活性化におけるエスニック資源の活用要件について考察した。まず,屋内型中華街として,立川中華街,台場小香港,千里中華街,および大須中華街の四つの例を取り上げ,それぞれの設立の背景や特色,閉業の経過・要因などを検討した。次に,構想段階で消滅した中華街として,仙台空中中華街,新潟中華街,札幌中華街,苫小牧中華街,福岡21世紀中華街を取り上げ,構想に至るまでの経過や問題点などを検討した。これらの検討を受けて,地域活性化におけるエスニック資源活用の成功事例として,横浜中華街の観光地としての変遷とその背景などについて考察した。以上の結果,エスニック資源を活用した地域活性化には,エスニック集団,ホスト社会,そして行政の三者の協力関係の樹立が不可欠であることが明らかになった。
著者
水島 卓磨
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.65-78, 2012 (Released:2018-04-11)

本研究では,近世からの商業資本を基に発達した大分県中津より耶馬渓に伸びていた耶馬渓鉄道と,近代以降の鉱業資本により発達した福岡県豊前市宇島より内陸部に伸びていた宇島鉄道を取り上げ,郡市町村別の株式分布と主要な株主の属性ならびに,鉄道建設後から1945(昭和20)年までの旅客・貨物輸送の実績を検討し,資金調達と輸送実績の面からみた両鉄道の性格の違いを明らかにした。その結果,資金調達では沿線外からの出資者に両鉄道の差異が見られた。耶馬渓鉄道では日田,玖珠などの延伸予定地と新潟県,関西などの遠隔地から,宇島鉄道では宇島の産業と関連が深い筑豊の鉱業家からの出資があったことが判明した。輸送実績では,通年および月ごとの輸送量の変化から両鉄道とも地域交通,耶馬渓観光そして林産資源等の輸送を担う性格が明らかになった。また,宇島鉄道では宇島の産業の趨勢と輸送に密接な関係があることも明らかになった。
著者
堀江 瑶子
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.35-52, 2015 (Released:2018-04-04)
被引用文献数
3

本稿では,エスニックビジネスがホスト社会における中心商店街に進出する過程および要因を解明することを目的とした。対象地域は,明治期以降横浜の中心商業地としての機能を有する商店街,伊勢佐木モールである。本商店街の分布する横浜市中区は,1990年代以降ニューカマーが急増し,それと同時に商店街周縁地域には多数のエスニック事業所が分布,2000 年代前半に飽和状態を迎えた。一方,伊勢佐木モールにおいては,バブル経済崩壊以降,テナント賃料の低下や集合住宅および雑居ビルの過剰供給,老舗店舗の撤退が相次ぎ,テナント入居機会が拡大した。その結果,2000年代以降より比較的商業的価値の低い伊勢佐木町3~7丁目においてエスニックビジネスの進出が開始された。2010年代以降になると,商況の著しい伊勢佐木町2丁目におけるエスニックビジネスの展開が顕著となり,その業種構成についても従来の同胞集団向け店舗のみならず,日本人顧客を主要な対象と定める店舗が多数進出していることが明らかとなった。
著者
菅野 峰明
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.79-98, 2009

本稿は1960 年代後半からの経済成長と人口増加というサンベルト現象を経験した南部がその後どのように変化したかを経済,人口,都市,生活の側面から検討したものである。1960 年代から合衆国南部と南西部はサンベルトと呼ばれ,その後の成長が約束されたかのようであった。南部の製造業は躍進し,就業者は増加し,人口流入が続き,まさに太陽の輝いている地域であった。ところが,南部農村部のもっていた低賃金という相対的有利性が崩れ,労働集約的製造業の分工場が閉鎖され,製造業の重要性は低下した。しかし,所得水準の上昇と増加した人口に対応してサービス産業が成長し,サービス産業が集中した都市圏は発展を続けた。また,高齢者人口の増加とリタイアメント・コミュニティの開発によって,医療・社会支援部門の雇用が増加し,南部の産業構成も変化した。
著者
矢ケ﨑 太洋 上原 明
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.263-276, 2019

夜は人間の開放感と恐怖の入り混じる時間帯であり,その恐怖は幽霊や妖怪を生み出し,現代でも都市伝説やオカルトという形で存続する。その一方で,これらの都市伝説やオカルトは好奇心の対象として消費されており,ゴーストツアーという形態で顕在化している。本研究は,心霊スポットおよび心霊ツアーを対象に,夜の場所に対する人間の恐怖と,その恐怖に対する好奇心を動機としたツーリズムを分析することで,人間が感じる恐怖と場所との関係性について考察した。心霊スポットは,場所の特性を反映して,恐怖の対象が異なり,その差異は怪談に現れる。日本におけるゴーストツーリズムは,実施企業にとって宣伝・広告の意味を持ち,倫理的な配慮がなされる。心霊スポットの分布と心霊ツアーのコースは一致せず,ツアーでは主に郊外の心霊スポットを消費している。
著者
久保 倫子
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.43-56, 2010 (Released:2018-04-12)

本研究は,日本においてマンションを扱った地理学的研究を供給,需要の両面から分析・検討し,1990 年代後半以降に日本の居住地構造が変容してきたことに関して,マンション研究をもとに議論することを目的とした。地理学においてマンションを扱った研究は,高層集合住宅の立地にともなう都心周辺部の土地利用変化,住民構成や人口動態の変容,マンション供給者の戦略などの視点で行われた。また,マンション居住者の特性や人口移動に関する研究,居住地選択や世帯特性による居住選好の違いや,マンション居住者の居住地選択に関する意思決定過程を扱った研究も行われた。一方,1990 年代以降のマンション供給増加によって,都市中心部が居住空間として再評価を受けるようになり,都市の居住地構造が変容してきた。マンション需要者の住宅ニーズの変化に対するマンション供給の変化,全国や都市圏レベルでのマンション供給動向,世帯構成による居住選好の差異や郊外第二世代の住宅取得行動に対する研究が今後必要であろう。マンション居住者の現住地選択過程についても,都市の規模や供給時期に応じた多様な研究が待たれる。
著者
山下 清海
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.249-265, 2016 (Released:2018-04-04)
被引用文献数
1

1970年代以降,日本では在留外国人が増加し,国籍別の構成にも大きな変化がみられるようになった。本稿では,特定の外国人集団のみに焦点を当てるのではなく,多様な在日外国人の動向を日本全体でとらえることに努めた。とりわけ,2008年のリーマンショックおよび2011年の東日本大震災を契機とする在日外国人を取り巻く状況の大きな変化を明らかにし,その要因について考察することを目的とした。第二次世界大戦後の在日外国人の動向とその背景について,第1期(1970年代以前),第2期(1980年代~2008年),そして第3期(2009年以降~現在)に分けて検討した。特にリーマンショックおよび東日本大震災の影響を受けた第3期は,在日外国人の状況が,これまでと大きく異なる新しい段階に入ったことを指摘した。すなわち日系ブラジル人の減少,および「ポスト中国」として,ベトナム人,ネパール人などの留学生・技能実習生の急激な増加がみられた。外国人ニューカマーは,ホスト社会の日本で多様な適応戦略を採っているが,それらの中でも特徴的な中国大陸出身者が経営する「台湾料理店」,およびネパール人の「インド・ネパール料理店」の経営の背景に借り傘戦略があることを明らかにした。
著者
齋藤 譲司 市川 康夫 山下 清海 Yamashita Kiyomi
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.56-69, 2011

本稿では横浜における外国人居留地と横浜中華街の変容について報告する。横浜は開港から150 年間が経過した。その歴史を鑑みると,外国人居留地の建設に始まり,関東大震災や戦災,港湾機能の強化,華人の集住による中華街の形成など地域が目まぐるしく変化してきた。本稿では横浜開港の経緯について述べた後,外国人居留地の状況と変容,外国人向けの商店施設が集積した元町,最後に居留地の中で華人が集住して形成された横浜中華街について報告する。150 年の歴史の中で横浜の景観は大きく変容し,開港当時の景観や外国人居留地の様子を窺い知ることは難しい。しかし,19 世紀に描かれた絵地図と照らし合わせることで現在の景観と比較することが可能であった。近年では,「歴史を活かしたまちづくり」や「中華街街づくり協議会」が発足し,横浜の外国人居留地は新たな段階に進んでいる。
著者
李 虎相 兼子 純 駒木 伸比古
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.199-208, 2018 (Released:2018-04-13)

本稿は,韓国の基本的な人口動態を明らかにするとともに,少子高齢化の進展する日韓の地方都市に対する活性化策について検証することを目的とする。韓国国内の地域別の人口分布とその変化についてみると,首都ソウルおよび首都圏への一極集中が進んでおり,それらの地域以外からの人口流出によって都市間格差が拡大している。首都圏に隣接する忠清南道の都市群を事例として,その人口動態を分析した結果,首都圏に近接して位置する人口規模の大きい都市ほど人口増加を示す一方で,下位都市では大幅な人口減少を示しており,道内部でも二極化する構造が明らかとなった。加えて本稿では,そうした都市間格差を是正するための日本と韓国における都市活性化策について,特に2000年代以降の地方都市への施策を比較・検討した。両国に共通する特徴として,1990年代の景気後退の影響により,政策の方向性が経済成長を前提とした国家主導型から,低成長時代を見据えた地域主導型に転じていることを指摘できる。
著者
山下 清海 小木 裕文 松村 公明 張 貴民 杜 国慶
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-23[含 英語文要旨], 2010

本研究の目的は,日本における老華僑にとっても,また新華僑にとっても代表的な僑郷である福建省の福清における現地調査に基づいて,僑郷としての福清の地域性,福清出身の新華僑の滞日生活の状況,そして新華僑の僑郷への影響について考察することである。 1980年代後半~1990年代前半における福清出身の新華僑は,比較的容易に取得できた就学ビザによる集団かつ大量の出国が主体であった。来日後は,日本語学校に通いながらも,渡日費用,学費などの借金返済と生活費確保のために,しだいにアルバイト中心の生活に移行し,ビザの有効期限切れとともに不法残留,不法就労の状況に陥る例が多かった。帰国は,自ら入国管理局に出頭し,不法残留であることを告げ,帰国するのが一般的であった。 1990 年代後半以降には,福建省出身者に対する日本側の審査が厳格化された結果,留学・就学ビザ取得が以前より難しくなり,福清からの新華僑の送出先としては,日本以外の欧米,オセアニアなどへも拡散している。 在日の新華僑が僑郷に及ぼした影響としては,住宅の新改築,都市中心部への転居,農業労働力の流出に伴う農業の衰退と福清の外部からの労働人口の流入などが指摘できる。また,新華僑が日本で得た貯金は,彼らの子女がよりよい教育を受けるための資金や,さらには日本に限らず欧米など海外への留学資金に回される場合が多く,結果として,新華僑の再生産を促す結果となった。Based on field research in Fuqing City (Fujian Province, China), this paper is aimed to investigate the living situation of Chinese newcomers in Japan, as well as the regional characteristics of this representative emigrant area for both Chinese oldcomers and newcomers, and how the newcomers affected their hometown. During the period from late 1980 s to early 1990 s, most of newcomers from Fuqing City came to Japan in groups with easily acquired "Pre-college Student Visa". Learning in Japanese schools, such newcomers kept doing part time jobs to earn their living wages, tuition and the cost to Japan, and gradually their life goals changed to part time jobs from study. Numerous newcomers chose to stay and work illegally for a few years when their visas are no longer valid, and present themselves to the Immigration Bureau, admit their illegal stay and go back to China at last.With the enforcement of strict examination on visa applications from Fujian Province in late 1990s, visa of student or pre-college student became quite difficult to acquire, and newcomers from Fuqing City changed their emigrant destination from Japan to other areas such as Europe, America and Oceania, etc.Under the influence of Chinese newcomers in Japan to their hometowns, their houses were built or reformed, their families moved from suburban to urban areas, agriculture declined and labor moved in from other areas because of local labor lost. Furthermore, newcomers diverted their saving acquired in Japan for their or their children' abroad education in Europe and America as well as Japan, and as a result, stimulated the reproduction of Chinese newcomers.
著者
仁平 尊明
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.18-42, 2011 (Released:2018-04-11)

本研究は,ブラジル・マットグロッソドスル州の南パンタナールを対象として,農家民宿(ファゼンダポウザーダ),ホテル,釣り宿などの宿泊施設の経営を分析することから,パンタナールにおいて観光業が発展するための課題を解明する。その際,エコツーリズム発展の地域的差異に着目した。すなわち,エコツーリズムを提供する宿泊施設が集中するエストラーダパルケ(公園道路)沿線を「核心地域」,主要都市から離れた奥地であるニェコランディアを「核心周辺地域」,州境・国境地帯を含む遠隔地のパイアグアスを「外縁地域」に区分した。考察の結果,地域的に偏った観光業の発展,環境保護と観光業発展のアンバランス,多様な観光客への対応力,人の激しい流動性,パンタナール周辺地域との連携の低さなどの点で課題が指摘された。今後,内発的で持続的な観光業の発展を提案していくためには,湿原内外の資源を活用しながら,それぞれの地域性を十分に考慮した計画が必要である。
著者
加藤 ゆかり
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.37-51, 2019 (Released:2019-12-31)
参考文献数
18
被引用文献数
2

本研究では,群馬県大泉町に居住または大泉町で学齢期を過ごした経歴のある日系南米人のライフヒストリーを明らかにすることを目的とした。本研究では,日本の外国人労働者の先駆け的な存在である,日系南米人の第一世代および第二世代による詳細なライフヒストリーを通して,既往研究では明らかにされていなかったホスト社会の取り組みや居住環境が,日本での居住地選択やキャリア選択を行う際に大きく影響していたという,新たな視点を提供した。また,年代や通学学校種などにより,生活実態には差異が生じていたことも明らかとなった。本研究で明らかとなった諸点は,複数世代の外国人居住者と共生するホスト社会の在り方を考える上で,有効な資料となるといえる。
著者
久保 倫子
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.279-282, 2022 (Released:2023-03-30)
参考文献数
25

大都市圏の外延的拡大と大都市圏内の機能分化に特徴づけられた20世紀の都市の構造は,21世紀に入り大きな転換期を迎えている。この中で生じてきたのが,長期的に衰退傾向が継続する縮退都市化,大都市圏内での分断化,これに加えて日本では1970~80年代に開発された外部郊外での住民および建造環境の高齢化が顕著となっている。地方都市では,空き家や空き地の増加,中心市街地の衰退などが問題視されてきた。この背景には,グローバリゼーションにともなう都市間競争に打ち勝つため,規制緩和と都心再開発を好む起業家的都市化が進んだことがある。その結果,継続的に都市への投資が続いた都心部と続かなかった郊外,特に大都市圏の外延的拡大が最大限となって生じた外部郊外とでは,居住環境上の明暗が生じている。本特集号では,東京大都市圏の外部郊外にあたる龍ケ崎市における事例研究により,郊外住宅地の将来像を検討する。