著者
平山 洋介
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.11-23, 2014-09-10 (Released:2018-02-01)

住まいの私的所有は,戦前では,一部の階層の特権であったのに対し,戦後を特徴づけたのは,その大衆化であった。しかし,持ち家セクターの安定は,前世紀末からの社会・経済条件の変化のなかで,しだいに失われた。住宅ローンの返済負担が増え,持ち家取得はより困難になった。単身者の増大は,家を買おうとする家族の減少を意味した。住宅所有を拡大する力は衰え,それは,社会の階層化が進む傾向に関係した。本稿では,「持ち家社会は持続するのか」という問いを検討する。住宅所有に関連する社会変化を説明する因子として,本稿が注目するのは,住宅政策の役割である。過去四半世紀にわたって,住宅所有の合理性は減少し,それでもなお,政府は持ち家重視の方針を変えず,住宅購入を促し続けた。ここから生起するのは,社会・経済変化だけではなく,持ち家促進の政策それ自体が持ち家社会を侵食するというメカニズムである。
著者
萩原 久美子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.62-78, 2017-03-10 (Released:2019-04-15)
参考文献数
39
被引用文献数
1

福祉国家の展開過程において公共セクターは女性をよりよい雇用へと結びつけ,ジェンダー平等を促進する役割を果たしてきた。しかし,緊縮財政政策と世界的な景気後退によって女性の多い社会サービス分野の再編が進んでおり,公共セクターとジェンダー平等との関係は変化しようとしている。本稿では供給主体の多元化と市場化政策によって再編された日本の保育分野に着目し,公共セクターが政策実行者としても雇用者としてもケアワークの労働力編成に対するジェンダー変革的機能を弱化させ,ジェンダー不平等を拡大させていると主張する。第一に,保育士の社会的経済的評価の低下は2000年代以降に顕在化したものであり,公共セクターの保育サービス供給を縮小させる過程で公務員保育士の集団的交渉力を弱化させつつ保育士をコストとして削減対象としていったことを論じる。第二に,大阪市の保育士給料表を事例として公共セクターが積極的にジェンダー格差を拡大していったことを明らかにする。
著者
岩田 正美 岩永 理恵
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.61-70, 2012-06-10 (Released:2018-02-01)
被引用文献数
1

1990年代以降,諸外国で再び,最低生活費算定が注目されはじめた。日本でも最近,新たな最低生活費研究の動きがみられる。この状況下でわれわれは,一般市民の参加と合意を重視した方法=MIS法により最低生活費を試算した。小論では,MIS法による最低生活費と,近年日本で実施された他の手法による最低生活費試算結果,および生活保護基準とを比較した。他の試算結果より,MISは,やや高めである。もちろん金額の違いは,最低生活費算定の手法の差異を反映している。MIS法最大の特徴は,市民のグループ・ディスカッションを通じて,一種の「コモンセンス」を引き出し,最低限度の裁定を市民に任せることにある。われわれのMISの可能性を追求し,「コモンセンス」を探る試みは道半ばである。さらに最低生活の内容やあり方を探る研究の蓄積が求められる。
著者
白瀬 由美香
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.102-112, 2011-06-01 (Released:2018-02-01)

本稿は,英国における看護師の職務領域の拡大について,特に医薬品の処方への従事にまつわる問題を中心に検討した。看護師の役割に関しては,現在日本でも活発に議論されていることから,アメリカ型のナース・プラクティショナーの英国への導入経緯,処方などの拡大された業務を担う看護師の現況とその制度的背景に関して考察を行った。職務拡大の要因は様々あるが,養成システムの改革および上級資格の創設,NHS改革による地域包括ケア推進の2つが相互に関連し合い,処方看護師の導入等の多職種機能の再編がもたらされた。処方看護師はいまだ少数であるものの,患者の医薬品へのアクセスの改善が評価されている。一連の改革において重要だったのは,看護助産審議会という国から独立した自主規制機関が教育・資格登録・安全管理に責任をもつ点,業務範囲の設定が法律ではなく雇主との職務記述書に任されている点であり,それらが看護師制度の基盤となっていた。
著者
山村 りつ
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.99-111, 2015-07-25 (Released:2018-02-01)

本稿は2014年6月に行われた社会政策学会保健医療福祉部会のテーマ別分科会のなかで行った発表を元に作成されたものである。当初の発表では,合理的配慮の規定についての基本的部分を確認しつつ,実際に障害者と雇用主の間でどのように合理的配慮を形成していくのかという点について,実務的な観点から整理し,その課題を明らかにしていった。本稿では,その内容を踏まえた上で,分科会において示されたいくつかの質問,特に労働能力と賃金と配慮の関係性について焦点を移している。そして,合理的配慮の規定において重要な鍵となる,しかしこれまで日本においてあまり議論されてこなかった基幹的能力の概念を軸に,この問いに対する一つの答えを示すことを試みている。
著者
金 成垣
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.21-33, 2013-12-30

本論文の目的は,「東アジア福祉国家を世界史のなかに位置づける」ことである。壮大な目的であるが,そのためにここで解明すべき具体的な問いを2点設定すると,1つは,「なぜ」東アジア福祉国家を世界史のなかに位置づけるのかということであり,もう1つは,「いかに」東アジア福祉国家を世界史のなかに位置づけるのかということである。前者が,既存研究の限界を認識し,東アジア福祉国家を世界史のなかに位置づけることの理論的意味を明らかにする問いであれば,後者は,既存研究の限界を乗り越え,東アジア福祉国家を世界史のなかに位置づけるための方法論的視点を明らかにする問いである。本論文においては,それぞれについて考察を行うことによって,「東アジア福祉国家を世界史のなかに位置づける」ことの理論的意味(第1節)と方法論的視点(第2節)を明らかにし,それをふまえ,今後の本格的な東アジア福祉国家研究のための課題(第3節)を示すことを具体的な目的とする。
著者
安藤 加菜子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.133-144, 2019-11-30 (Released:2021-12-02)
参考文献数
32

在宅育児手当は,保育所を利用せず乳幼児を在宅で育児することに対し現金を給付する政策であり,近年いくつかの自治体で導入が進む。 そもそも親自らが子どもを育てることを支援する政策としては,育児休業や育児休業給付があるが,この支援は対象外となる親も多い。在宅育児手当にはこの限定性を補うことが期待されうるが,課題もある。その課題とは,あらゆる親の在宅育児を支援することに対する正当性の確保が難しいことと,こうした支援が母親の就労を阻害することへのリスクである。 本論文では,在宅育児手当政策を先進的に導入した鳥取県内の6つの町の事例に注目し,同地域の在宅育児手当の意義を検討した。検討の結果,同地域の在宅育児手当は,上に挙げた2点の課題をクリアし,従来型の育児支援政策の利用限定性を補完しながら,地域で働き次世代を育てる人々を支援する政策であることが示された。
著者
大沢 真理
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.74-85, 2014-03-31
被引用文献数
1

リーマン・ショックと東日本大震災は,日本の社会・経済の脆弱性を露わにした。とはいえ日本ではリーマン・ショックの10年前から,年間3万人以上が自殺する事態が続いていた。出生率も世界最低レベルに低迷し,相対的貧困率もOECD諸国でワーストクラスにあった。本稿は生活保障システム論にガバナンスという概念を導入し,また脆弱性のなかでも所得貧困に注目したい。所得貧困という指標の意義を考察したうえで,福祉国家の機能的等価策の効果とともに,所得移転が貧困を削減する度合いについて,国際比較する。また地域間所得格差にかんする研究成果に目を配る。結論的に,日本の税・社会保障制度はたんに機能不全というより逆機能していると主張する。しかもそこには,「男性稼ぎ主」世帯にたいしてその他の世帯が冷遇されるというジェンダー・バイアスがある。それは,多就業世帯が多数を占める農山漁村のような地域を冷遇するバイアスでもある。
著者
志賀 信夫
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.165-176, 2013-10-30

社会的排除という言葉が使われ始めて久しいが,この社会的排除への取り組みに関する言説をLevitas[2005]は三つに類型化した。現実の社会的包摂戦略はこのなかでも「仕事」を契機として排除された者を統合しようとする言説をその基礎としている。ヨーロッパにおけるワークフェア戦略がまさにそれである。宮本[2006 ; 2009]はワークフェアとアクティベーションを区別し,後者を肯定的に評価している。確かにそれは,実存する社会的包摂戦略のなかではモデルとされるべきものである。しかし,本稿ではこのアクテイベーションの限界を批判的に検討しその連続性において,Lister[2004=2011]が紹介している「社会的包摂ではなく社会参加を」という要求に沿った新たな戦略への結節点を模索する。その際に新たな道の一つとしてAtkinson[1995=2011 ; 1998]の提案する「参加所得」を挙げ,これが必ずしもベーシック・インカムの妥協ではなく,包摂戦略の積極的代替案であることに触れていく。
著者
田名部 康範
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.67-78, 2011-03-20 (Released:2018-02-01)

本稿の課題は,1950年代の保守勢力における福祉国家論の諸潮流を析出することによって,日本の福祉国家形成に影響を与えた理念やアプローチを明らかにすることである。1955年に結成された自由民主党は綱領に「福祉国家」を掲げたが,この理念の担い手は改進党や自由党岸信介派の議員たちである。彼らは欧米の福祉国家をモデルとして社会保障を重視しており,その制度的帰結が国民皆保険・皆年金である。これに対し,石橋湛山や池田勇人は,イギリスを反面教師として,社会保障を消極的政策生産の拡大を積極的政策と位置づけた。これが高度経済成長政策の背景にあるアプローチである。本稿では,後者をエスピン-アンデルセンの三つのアプローチ(自由主義,保守主義,社会民主主義)のいずれとも異なる生産主義アプローチとする。
著者
近藤 克則
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.41-52, 2012-10-01 (Released:2018-02-01)
被引用文献数
1

小論の目的は,(1)健康格差と,(2)健康格差が生まれる経路に関する文献をレビューし,(3)社会政策の必要性と海外における事例を検討することである。社会疫学研究によって,(1)日本においても健康における社会経済的な格差があること,(2)社会経済格差拡大や介在要因としての社会的サポートやソーシャル・キャピタルのような「健康の社会的決定要因」から健康に至る複雑な影響経路が明らかにされてきた。(3)健康格差の縮小策として期待されるものにも,個人レベルと社会レベルのものとがあり,後者として社会政策は重要である。社会経済格差の是正やコミュニティのソーシャル・キャピタルを豊かにすることなどが必要である。海外での取り組み事例に学ぶと,教育,労働,所得保障政策など広い範囲の社会政策が健康政策になることがわかる。(a)上流にある根本的な原因へのアプローチ,(b)すべての政策において健康を考える,(c)環境への介入,という3つの考え方が根底にある。
著者
金子 良事
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.48-58, 2010-12-20

本稿では社会政策を「社会秩序の維持,ないし醸成を目的とした政策」と定義した。近年,日本ではヨーロッパのsocial policyの訳語に社会政策が使用されているが,研究史を踏まえるならば,これは社会福祉政策と訳すべきである。日本では歴史的に社会政策の英訳はsocial reformであった。本稿ではこの点をさらに掘り下げ,実際に明治以降に行われてきた政策の背後には社会改良主義だけではなく,社会秩序の維持ないし醸成という動機があったこと,そして,そのような施策はドイツの古いポリツァイ思想と通底していることを指摘した。また,日本における戦後の社会福祉政策においては社会権が基盤にされており,究極的には個人が中心になる。社会秩序という考え方によれば,社会政策は個人の社会権だけでなく,社会そのものに注目し,社会福祉政策を包含する概念として捉えるべきであることが示唆されている。
著者
桜井 啓太
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.91-101, 2020-03-20 (Released:2022-04-04)
参考文献数
27

2005年度より全国の福祉事務所で生活保護自立支援プログラムが実施されており,背景には,社会保障審議会(生活保護の在り方に関する専門委員会)で提案された「三つの自立論」と,それに基づく自立支援(就労自立支援/日常生活自立支援/社会生活自立支援)の誕生がある。「三つの自立論」は,従来の「自立=保護廃止」が支配的であった生活保護行政,生活保護ケースワークに大きなインパクトをもたらしたと言われている。 本稿では,生活保護の「三つの自立論」を,障害学の知見から批判的に再検討し,その自立論の問題点を明らかにする。次に,専門委員会以前から独自の自立論を展開してきた三人の論者を紹介し,社会福祉における「自立の拡大傾向」を確認し,その問題点と他の可能性について検討する。
著者
百瀬 優 大津 唯
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.74-87, 2020-11-30 (Released:2022-11-30)
参考文献数
4

本稿では,第一に,厚生労働省「障害年金受給者実態調査」の個票データを利用して,障害年金受給者の生活実態や就労状況を確認した。第二に,障害年金受給者の就労状況について多変量回帰分析を行った。主な結論は以下の通りである。①精神障害による受給者は,年金収入も就労収入も低い者が多く,他の収入を加えても,世帯収入が低くなる傾向が強い。生活保護を併給する受給者も多い。②知的障害による受給者では,親や兄弟姉妹との同居率の高さが目立つが,その他は精神障害による受給者と同様の傾向が見られた。③身体障害による受給者では,年金額が高い者ほど就労収入も高くなる傾向があり,この傾向が受給者間の生活状況の格差を大きくしている。④精神障害では,厚生年金3級の受給者が最も生活困窮に陥りやすい。⑤女性の受給者は男性に比べて,年金収入も就労収入も低いが,世帯収入や生活保護の併給状況において,明確な男女差は確認できなかった。
著者
小西 洋平
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.110-121, 2015-03-30 (Released:2018-02-01)

本稿の目的は第二帝政期における共済組合の特徴を明らかにすることである。共済組合はル・シャプリエ法の成立以降,政府から認められた唯一の扶助組織であった。第二帝政期になるとこの共済組合に中央集権化,名望会員制の導入,キリスト教の採用という3つの要素が付与され,帝政共済として大きく発展していく。共済組合の管理運営に携わった社会カトリック主義者たちは宗教的規範と同時に合理的な生活態度を求めるプレヴォワヤンスという規範を労働者たちに根付かせていった。国家とキリスト教による管理を甘受しながら発展した共済組合であったが,女性に対しては改革者として現れた。第二帝政期までの共済組合が男性に独占されていたのに対して,帝政共済は女性がより参加しやすいという特徴を持っていた。本稿はこのような共済の多義性に注目しながら,その特徴を明らかにすることを試みる。
著者
志賀 信夫
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.165-176, 2013-10-30 (Released:2018-02-01)

社会的排除という言葉が使われ始めて久しいが,この社会的排除への取り組みに関する言説をLevitas[2005]は三つに類型化した。現実の社会的包摂戦略はこのなかでも「仕事」を契機として排除された者を統合しようとする言説をその基礎としている。ヨーロッパにおけるワークフェア戦略がまさにそれである。宮本[2006 ; 2009]はワークフェアとアクティベーションを区別し,後者を肯定的に評価している。確かにそれは,実存する社会的包摂戦略のなかではモデルとされるべきものである。しかし,本稿ではこのアクテイベーションの限界を批判的に検討しその連続性において,Lister[2004=2011]が紹介している「社会的包摂ではなく社会参加を」という要求に沿った新たな戦略への結節点を模索する。その際に新たな道の一つとしてAtkinson[1995=2011 ; 1998]の提案する「参加所得」を挙げ,これが必ずしもベーシック・インカムの妥協ではなく,包摂戦略の積極的代替案であることに触れていく。
著者
藤原 千沙 湯澤 直美 石田 浩
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.87-99, 2010-02-25

生活保護の受給期間に関する議論では,毎年7月1日現在の被保護世帯を対象に,保護の開始から調査時点までを受給期間とする「被保護者全国一斉調査」(厚生労働省)が用いられるのが一般的である。これに対し,本研究は,A自治体における保護廃止世帯を対象に,保護の開始から廃止までを受給期間として分析し,保護継続世帯と合わせて生存分析を行った。その結果,以下の諸点が明らかとなった。第一に,一時点の受給継続世帯を対象とした調査では調査対象にあがらない1年未満廃止世帯が相当数存在する。第二に,世帯主の学歴・性別・世帯類型により受給期間に違いがみられた。第三に,自立助長という生活保護制度の目的に沿った保護廃止であるか否かにより受給期間の傾向は異なる。第四に,廃止世帯と保護継続世帯の双方を考慮した分析では,世帯主の性別と世帯類型により保護の継続確率(生存率)に違いのあることが推察された。
著者
瀧川 貴利
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.117-122, 2009-09-25

第二次世界大戦中から戦後にかけて,多くの被追放民がドイツ連邦共和国に流入した。これらの被追放民の総数は約780万人にものぼり,1961年のドイツ連邦共和国の住民全体の約16%にも相当した。バイエルン州は1950年の時点でドイツ連邦共和国の州の中で最も多くの被追放民を受け入れていた。本論文はバイエルン州の難民政策と難民の統合について述べた。バイエルン州はドイツ連邦政府と協力して,様々な難民政策を行った。この結果バイエルン州は,約160万人もの被追放民をバイエルン社会に定住させることができた。また1950年には約4万社にものぼる被追放民の企業が設立された。被追放民と地元住民は1950年ではまだ経済的な格差があったが,1960年には経済的な格差はほとんど見られなくなっていた。このためバイエルン州の難民政策は成功したと評価できる。