著者
岩田 克彦
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.63-76, 2015

デンマークでは,2013年1月から障害年金(障害者に18歳から老齢年金支給開始年齢[現在65歳]まで支給)とフレックスジョブ(65歳未満の永続的に重度な障害者に対し,使用者,障害者本人,自治体の三者合意に基づき,公的負担による所得補填を提供しながら,その個人状況に合わせた柔軟な就労条件での仕事を提供する制度)の大改正が行われた。障害年金,フレックスジョブの賃金補填とも,フレクシキュリティ政策の一環として他国に比べかなり手厚い内容であったが,改正後,(1)40歳未満の者には,原則障害年金は支給せず,1回あたり最長5年間の個人別の多様な支援措置により就業の道を最大限に探る,(2)フレックスジョブは,労働時間が週10時間以内の者も対象にし,公的助成を雇用主でなく直接個人に支給し,労働収入が低い者ほど多額の助成をすることになった。本稿では,今回の改正のインプリケーションを論ずる。
著者
井口 泰
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.8-28, 2016

<p> 地球規模の気候変動などグローバルリスクの高まり,地域の経済統合の進展や各国における所得・富の格差の拡大などを背景に,国際的な人の移動は増加傾向をたどる可能性がある。本稿は,これらの情勢を踏まえて,わが国の外国人労働者問題の現状を,社会政策との関連において整理し,将来を展望することを目的とする。 わが国の外国人労働者問題の経緯と制度・政策の改革の現段階を詳細に考察すると,1990年に発足した現在の国の制度的枠組みは,依然として出入国管理政策に偏り,外国人を受入国・社会に統合する政策の多くは,自治体の取り組みに依存する。こうしたなかで,1)アジアでは,急速な少子高齢化と若年人口の移動により,高度人材のみならず,ミドル・スキル職種を中心に低技能職種に至る多様な労働需給ミスマッチが発生している。日本でも,就労する外国人労働者のうち,就労目的で入国した者は3割に達せず,在留する外国人の言語習得や資格取得の支援の必要性が大きい。2)アジアの新興国経済が台頭するなか,次第に先進国から新興国への人材移動が高まってきた。日本でも,今世紀になって外国人人材の流出傾向が強まったが,アジアからの留学生増加が人材流出を補ってきた。3)アジアでは,若年者の地方から大都市への移動が進んでいる。日本では,若年人口の減少する地方都市で,外国人人口比率が高まり,永住権を有する外国人が在留外国人全体のが半数に達し,外国人二世・三世を受入国社会に統合する施策の重要性が高まっている。4)アジアでも,ASEAN共同体の発足に伴い,外国人の人権確保が重要課題として取り上げられた。ところが,日本では外国人差別の禁止などに関する法制度整備の進展は遅い。 難民の増加などで国際移動が高まるなか,わが国の現行政策の枠組みをこのまま維持していては,外国人が安定した就業・生活を享受できず,労働需給ミスマッチを緩和することも難しい。在留する外国人と子どもたちが社会の底辺層を形成するリスクを高めないよう,入管政策と統合政策を二本柱とする包括的な外国人政策への転換が急務である。</p>
著者
遠藤 公嗣
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.11-24, 2014-03-31

「日本的雇用慣行」と「男性稼ぎ主型家族」は1960年代の日本で強固に結びついた。この結びつきを「1960年代型日本システム」と呼ぼう。この社会システムは,日本経済を発展させる望ましいシステムとして是認され,存続してきた。しかし,このシステムは,ジェンダー間と正規非正規間の経済格差を特徴とし,その結果,女性と非正規労働者を差別していた。しかし最近では,「1960年代型日本システム」が存在する条件はなくなってきている。けれども,上記した経済格差と差別はなお存在している。このことは,日本社会の大きな社会問題になってきている。強固な1960年代型日本システムへの復帰は現在の社会問題への正しい解決策でなく,新しい社会システム,すなわち職務基準雇用慣行と多様化した家族構成を前提とする社会システム,を形成する努力が真の解決策であることを,私は主張する。そして,真の解決策の重要な一部は,同一価値労働同一賃金をめざす職務評価システムである。その研究開発の現地点を述べる。
著者
稗田 健志
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.28-40, 2015-01-25

20世紀末辺りに社会政策の一つの転換点があったことは,多くの研究者に共有された認識であろう。しかしながら,そうした変化の内実をどのように特徴付ければよいかという問いに対しては,いまだ定まった解はない。上述の社会政策の変化を「新自由主義」の発露とみる論者は,社会給付における就労要件の強化や給付条件の厳格化といったワークフェア的側面を取り上げ,そこに資本側の労働者に対する市場を通じた規律の強化をみる。しかし,近年の社会政策の変化はそうした労働規律の強化にとどまらない。ドイツのハルツ改革やフランスのRSAにみられるように,賃労働によらない社会的包摂が進められているという側面も存在する。これをとらえて高田[2012]は「非能力主義的平等主義」と呼ぶ。本報告はこの二つの見方-「新自由主義」と「非能力主義的平等主義」-のどちらが妥当であるか,ルクセンブルグ家計調査(LIS)のマイクロデータの分析から答えることを試みる。具体的には,1980年代から2000年代半ばまでのスウェーデン,オランダ,ドイツ,フランス,イギリス,イタリアという欧州6ヶ国における家計データを分析し,「労働人口にしめる非就業者の割合」や「非就業者が受給する社会保障プログラムの所得代替率」といった指標の時系列での変化をみていく。
著者
山崎 憲
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.129-140, 2016-03-31

アメリカの労使関係システムは,Dunlop [1958], Kochan, Katz and Mckersie [1986]により,階層的構造をもつ企業,労働者,政府をアクターとした団体交渉を基軸に整理されてきた。1990年代以降,労働組合組織率の著しい低下などにより,こうした仕組みが機能不全となるなか,団体交渉を経ずに関係者間の利害を調整する仕組みが広がりつつある。そこで扱われることは,職業訓練・斡旋や雇用創出,教育,生活に関連したことを含む。企業,労働者,政府以外の新たなアクターが加わるともに,円卓会議という利害調整のプラットフォームが現れ,中間支援組織が交渉力の再編成を行っている。団体交渉を規定する全国労働関係法も同じ流れのなかで解釈変更の動きがある。こうした状況をアメリカの労使関係システムの構造的な変化とみて,枠組みの再定義を試みるともに,日本からアメリカの労使関係システムをどうみるか,そして日本の研究の視座をどこにおけば良いかという若干の示唆を提示することが本稿の目的である。
著者
福田 直人
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.123-134, 2012-06-10

本稿では失業者に対する生活保障制度に関して,所得保障の観点から日独比較を行う。ドイツを対象とするのは,失業保障制度の構造において日本との共通点が多いためである。失業保障の国際比較研究は既に多く存在するが,その大部分が失業手当の給付金額と期間の比較に限定されていた。だが,失業時所得保障において重要な点は,失業保険の給付金額や期間だけではなく,就業時に支払ってきた税金や,社会保険料の免除,減免措置の有無である。本稿ではOECDの離職前賃金代替率の問題点を検討し,失業保険適用内,適用外それぞれの失業者に対する所得保障を分析した。その結果,日本の場合,失業保険が適用されたとしても40歳の失業者は税,社会保険料の負担によって受給額がマイナス,つまり貯蓄の取り崩しを迫られる可能性があることを示した。国際的には低水準と評価されるドイツの失業保障と比較しても,日本は更に低い水準であることが明らかになった。
著者
八木橋 慶一
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.115-121, 2009-04-25

現在,イギリス労働党政府がイングランド地域において実施している地域再生政策の特徴は,公共セクターや民間セクター,ボランタリーセクターが参画する「パートナーシップ」組織が中心となり,地域の公共サービスの供給や実施に関する意思決定を行っている点である。本論は,このパートナーシップ組織による制度的ガバナンスに焦点を当てて論じたものである。とくに,「地域戦略パートナーシップ(LSP)」を中心に取り上げている。また,社会的排除対策の点からもこの形態のガバナンスの重要性を論じている。しかし,このガバナンスの形態では,代表制民主主義と抵触しかねないとの批判がある。とりわけ,議会を迂回して利害関係者によって政策を決定するプロセスから,コーポラティズムとの類似が指摘されている。本論は,こういった課題に政府がいかに対応しているのか,また従来のコーポラティズムとは何が異なっているのかを明らかにしたものである。
著者
小澤 薫
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.132-140, 2013-03-20

本稿は,高齢者の所得保障と年金に関して,高齢者の生活実態と公的年金制度の動向,今後の方向性,課題について明らかにするものである。まず,多くの論者が活用する政府統計による高齢者の生活実態に関する著作,論文を取り上げ,さらに近年進められている最低生計費調査にも触れた。生活問題を検討するためには,収入と支出の両面で考える必要がある。次に制度上現れる低年金者,無年金者の問題,進む年金制度の「改定」によって現れる定年年齢と年金支給開始年齢の間にある「空白期間」について,雇用の現状を踏まえて検討した。その上で,公的年金のあり方とその財源について,社会保障の理念に立ち返り,進む社会保障制度改革の議論について,批判的にみた。そして,高齢者の所得保障として,年金だけでなく社会制度を体系的に捉えることの重要性と,単なる所得保障ではなく,国民の生活を保障する「生活保障」の視点が不可欠であることを指摘している。
著者
山田 健司
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.19-26, 2012-06-10

2011年3月11日の東日本大震災によって甚大な被害をうけた被災3県(岩手・宮城・福島)の被災死亡者は約1万5000人である。このうちの約9割の死因が津波による水死であった。3県合計の被災死亡者年齢構成比は,50歳以上77%,60歳以上65%等となっていて,通常の中高年齢構成比の2〜3倍に及んでいる。また県別の年齢構成比も3県とも同様の比率を示しており,さらに各県の市郡域においてもほぼ全部で類似した比率となっている。被災地域の地形は異なり,これにより死亡率や津波の波高には大きな差が生じているが,死亡者の年齢構成比は一様に類似している。一方,人口減少高齢化地域の平日昼間の人口年齢構成比が,被災死亡者年齢構成比と酷似していることから,被災死亡者は平日昼間に家屋内にいた中高年者であると類推する。この推理は線形回帰分析結果による高い関連性によって裏づけられる。死亡者の群像は高齢化地域の特徴を転写したものといえる。
著者
岩永 理恵 四方 理人
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.101-113, 2013-12-30

本稿は,無料低額宿泊所(無低)等をめぐる問題の背景を読み解きながら,無低に入所する生活保護受給者の実態と必要な支援を,埼玉県の「生活保護受給者チャレンジ支援事業」(アスポート)利用者データを通して明らかにすることが目的である。住宅支援事業の背景には,路上生活者の増加や生活保護運用上の変化,無低等の社会問題化がある。このことを踏まえ,無低利用者を含む住居喪失者や住居不安定者に対する支援体制構築を試みた点にアスポートの特徴がある。分析により,無低入所のまま保護を受けている期間が長くなると,アパート等に転居するまでの日数がかかり,転居支援が困難になると推察された。無低問題や生活保護法の原理に鑑みて,そもそも無低に入らなければならなかったのかを問う必要があり,住宅支援事業により生活保護受給者が無低を経由せず居宅移行可能になることの意義は大きいと考える。
著者
小西 洋平
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.110-121, 2015-03-30

本稿の目的は第二帝政期における共済組合の特徴を明らかにすることである。共済組合はル・シャプリエ法の成立以降,政府から認められた唯一の扶助組織であった。第二帝政期になるとこの共済組合に中央集権化,名望会員制の導入,キリスト教の採用という3つの要素が付与され,帝政共済として大きく発展していく。共済組合の管理運営に携わった社会カトリック主義者たちは宗教的規範と同時に合理的な生活態度を求めるプレヴォワヤンスという規範を労働者たちに根付かせていった。国家とキリスト教による管理を甘受しながら発展した共済組合であったが,女性に対しては改革者として現れた。第二帝政期までの共済組合が男性に独占されていたのに対して,帝政共済は女性がより参加しやすいという特徴を持っていた。本稿はこのような共済の多義性に注目しながら,その特徴を明らかにすることを試みる。
著者
嶋崎 量
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.75-82, 2015-03-30

若者を使い潰すブラック企業の被害救済と根絶のため,若手弁護士を中心に約200名の弁護士によりブラック企業被害対策弁護団が設立され,活動している。具体的な活動内容は,ブラック企業被害者に対する相談活動や,個別事件の訴訟活動だけでなく,ブラック企業対策プロジェクトを通じて他分野の専門家と連携しながら,ブラック企業被害に関する各種セミナーや相談会の開催,書籍の執筆,学校現場などでのワークルール教育の実施など多様な社会的活動を行っている。ブラック企業被害者を救済し,ブラック企業を根絶するためには,本稿に掲載するような具体的な被害実例を社会に周知させ,多くの労働者が声をあげやすくする状況を作り出すだけでなく,様々な専門家と連携して,社会的な取り組みを進めていくことが重要である。
著者
森 周子
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.17-27, 2015-01-25

本稿では,ドイツで2005年に創設された「求職者基礎保障制度」の対象者(稼得能力を有する困窮者)への就労支援の一種である「1ユーロジョブ」について考察した。就労困難な長期失業者を対象とした,追加的かつ公共的な低時給の労働である1ユーロジョブは,通常の労働への就労促進を目的とするが,実際には通常の労働への橋渡し効果が弱く,1ユーロジョブに従事さえすれば求職者基礎保障制度において所得保障が行われるという,ベーシック・インカムの一種である「参加所得」的な要素が見られる。そして,批判が高まるなかで1ユーロジョブは後置的な存在とされ,従事期間にも制限が設けられ,他方でワークフェア的な「市民労働」という新たな取組が緒についている。さらに,1ユーロジョブが,日本で2015年に導入予定の「中間的就労」に与える示唆についても検討し,労働者保護上の措置や所得保障の併用の必要性などを指摘した。
著者
首藤 若菜
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.152-164, 2013-10-30

本稿では,男女がともに仕事と生活を両立させながら職業生涯を通じて働き続けられる社会をどう構築できるかについて,3つの文献を取り上げて議論する。日本で男女の経済格差がなかなか縮小しない要因は,企業,家庭,社会経済制度が女性の就労継続を妨げる方向で,相互依存的に存在しているためである。本稿では,この問題意識のもと,まず家庭内性別分業と女性の働き方の変化を国際比較した研究と日本の社会制度を男性稼ぎ主モデルの視角から分析した研究を紹介する。両文献から,女性の就労を妨げることが,いかなる社会問題を生み出すのかを把握する。そのうえで,性に中立的な雇用のあり方として,同一価値労働同一賃金制度を提起した文献を取り上げる。いわゆる職務給型の雇用システムへの変更が,男女の賃金格差縮小や女性の就労継続を促進しうるかどうかを論じ,その可能性を探る。
著者
大塩 まゆみ
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.91-102, 2012-01-20

本稿は,子どものウェルビーイングに関する先行研究のレビューとして,保育政策の動向に関する著作を取り上げ,最近の保育制度改革の問題点と課題を明らかにするものである。まず保育制度改革を批判する2点の著作を紹介する。これらは,昨今の保育政策の規制緩和・民営化等の問題点を指摘し,ナショナルミニマムの重要性を説いている。次に,児童福祉専門の二人の研究者の著作を検討する。これらに共通する特徴は,地域分権や地域福祉を強調していること,公的保育所に内発的改善を求めていることである。しかし,後者の研究には,いくつかの疑問が生じる。これらの文献の考察から,最近の保育制度改革には不安材料が多いと,結論づける。今後の課題は,人生のスタート時点の保育を社会発農の投資と考え公費を捻出・投入すること,経済優先からHuman Life(生命・生活・人生)重視の政策へと重点を変えることである。
著者
高須 裕彦
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.51-63, 2010-06-25

本稿の課題は,日本の労働組合運動の新たな動きをアメリカの社会運動ユニオニズムと比較し,日本における社会運動ユニオニズムの可能性について論ずることである。まず,アメリカの社会運動ユニオニズムのモデルを示す。それを現在の日本の労働運動と比較し,日本の労働運動のどこに社会運動ユニオニズムの可能性があるのかを議論する。「年越し派遣村」や「反貧困ネットワーク」は,労働運動と社会運動の結節点としての「場」になっていること,草の根のユニオンは労働相談を出発点にネットワークを形成し,派遣切りにあった労働者の深刻な現実に向き合うなかで,派遣村に合流していること,連合は地域労働運動の強化と非正規労働問題への取り組みを進めながら,地域の社会運動やNPOなどとの連携を模索し,「全国ユニオン」の要請を受けて派遣村に参加したこと,これらの運動に今後,社会運動ユニオニズムとして発展していく可能性があることを論じる。
著者
飯田 直樹
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.135-146, 2012-06-10

近年の社会事業史研究の特徴の一つは,社会事業をめぐる言説があたかも社会事業を創出する直接の要因であるかのような前提のもとに,言説分析に力点が置かれてしまっているところにある。この論文は,言説分析よりも社会事業そのものの実態分析を重視するという立場から,大阪府方面委員制度創設の歴史的意義を検討したものである。この論文では,同制度創設以前に実施された大阪府警察による社会事業に注目し,警察社会事業と方面委員制度との比較分析を行った。警察社会事業は,事業対象者に対して一律に貯金強制を行うなど,貧困事情の個別性に対応できないという限界を有していた。大阪府方面委員制度は,この限界を克服するという面を持っていた。官僚的・画一的・強制的な取締を本質とする警察社会事業と対比して表現するならば,この制度は,「不定形・情緒的・個別的な働きかけ」と特徴づけられる,新しい社会事業なのであった。
著者
佐口 和郎
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.44-59, 2008-10-25

It is often said that Japanese traditional institutionalism in labor studies (JTILS) isn't necessarily useful for analyzing current problems, like inequality and poverty among workers. This kind of obsolescence in JTILS is caused by two blind spots: inattention to the renewal of theories about institutions and the breaking of relations with welfare studies. In order to conquer this weakness, theories about institutions of employment and their evolution in the 20th century are reconsidered, and the nexus of employment and welfare is shown in this paper. On the basis of this reconsideration, I discuss three problems currently confronting Japanese workers and propose four hypothetical propositions: (1) The institution of employment itself is still robust in the 21st century. (2) The employment system of the last century is changing, and can be transformed flexibly. (3) The new employment system will not be legitimated without overcoming the negative side of the old employment system. (4) For JTILS, cooperation with welfare studies is indispensable to analyzing current labor problems. Lastly, I briefly address some research agendas.