著者
金 顕静 野口 薫
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.55-62, 1999-07-31 (Released:2017-07-21)
参考文献数
17

本研究は, 形態的特徴が運動パターンの速度知覚にどのように影響するのかを調べたものである。刺激パターンとして垂直・水平・斜め・V字形という四つの異なる図形構成要素をもつパターンを用いた。各パターンにおいてはストライプ状の構成要素の間隔や幅を組織的に変化させた。被験者は, 上から下に運動する動画パターンを観察し, マグニチュード推定法によって知覚速度を評価した。その結果, 垂直ストライプからなる形態はもっとも遅く知覚され, 水平ストライプの形態はもっとも速く知覚された。そして, 斜め・V字形のストライプをもつ形態は, その中間の速度に知覚された。すべてのパターンにおいて, ストライプの間隔・幅の変化は速度知覚に有意な効果を与えた。すなわち, 間隔や幅が狭いほど速く知覚されることが示された。これらの結果は, パターンの構成要素の方向が運動方向(ここでは垂直運動)との関係で速度知覚に影響すること, またパターン出現の頻度が速度知覚の決定因であることを意味する。
著者
時長 逸子 荒生 薫
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.177-184, 2001-11-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
25
被引用文献数
1

戦後の学校教育制度の発足に伴って展開された美術教育の一部に、色彩教育は属している。筆者らは、初等教育における色彩教育の展開に関して、学習指導要領を中心に、内容と背景を把握した。この結果、色彩教育の立場では色彩学に即した系統学習的手法が推奨されてきた歴史的背景がある反面、美術教育としてはこの手法を排除する方向に進んできたことがわかった。しかしながら、現在の美術教育が求める感覚的側面重視の教育は、色彩において色名教育を発端とする系統学習的方法を通じて培われるとする正反対の考え方が存在することがわかった。
著者
朱 心茹 高田 裕美 影浦 峡
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_51-3_60, 2020

本研究では、発達性ディスレクシア等の学習障害に由来する読み書き困難にも配慮した書体として開発されたUD デジタル教科書体の新しい付属欧文書体が読みに与える影響を明らかにすることを目的に、読みやすさの客観的指標に関する実証実験と主観的指標に関する調査を行った。発達性ディスレクシアを持つ読者16名と発達性ディスレクシアを持たない読者19 名が研究に参加した。<br>実証実験と調査の結果、発達性ディスレクシアを持つ読者にとってUD デジタル教科書体の新しい付属欧文書体が他の教科書体付属欧文書体及び一般的に使用されている欧文書体と比較してより読みやすいことが明らかになった。また、書体は読みやすさの客観的指標と主観的指標の双方に一定の影響を与えることが明らかになった。これらの結果から、発達性ディスレクシアに特化した書体の有用性が示された。
著者
井磧 伸介 宮崎 紀郎 玉垣 庸一 李 震鎬
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.71-78, 1996-05-31 (Released:2017-07-25)
参考文献数
11

近年の雑誌広告ではカラー表現が一般的であるが,モノクロ写真を取り入れた広告も少なくない。本研究は,カラー全盛とも言える現在の広告表現において,モノクロ写真を使用した雑誌広告がどのようなイメージで受け取られるのか調査を行ない,モノクロ写真を使用する効果を検討するものである。まず,収集した雑誌広告を配色や構図などで分類し,代表的な広告サンプルを選び出した。次に,これらのサンプルについてのイメージ調査を20代前半の男女70名に対してSD法によって実施した。その結果,整然性,鮮明感,重厚感の3つの因子が抽出された。このうち,「まとまった」,「静かな」等の形容詞のみならず,「好きな」,「美しい」といった形容詞とも相関の高い整然性因子では,モノクロ写真を使用した広告がカラー写真を使用した広告より高く評価され,文字や製品写真にカラーを重点的に使用すれば,さらに評価を高めることが判明した。これは,モノクロ写真とから部分との対比が,それぞれをより際立たせた結果であると推測される。
著者
柴田 吉隆 赤司 卓也 伴 真秀
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1_39-1_44, 2019-07-31 (Released:2019-11-15)
参考文献数
15

柴田らは,他者の考えを触発し議論を起こすための思索的将来像の構成要素と構造についてまとめたが,それを用いた議論の方法を明らかにすることが課題となっていた。本論では,多様なステークホルダーから多くの意見を収集することに加え,将来像に示された内容の解釈を深め,その内容を発展させるための議論のフレームワークが必要であると考えた。そこで,問いの設定とストーリー構築に優れたジャーナリストとの将来像に関する議論を実施し,それを分析的に振り返ることで目的のフレームワークを考案した。フレームワークは,社会システムが生みだす市民の「新しい考え方・行動」に関する意味の発見と,その考え方や行動を「促進する施策」の提案について,施策の実施のしやすさと影響力の異なる「流行」「習慣」「文化」のレイヤーで分けて検討するものである。このフレームワークを既存の将来像に関する議論に適用し,上下左右の枠の整合を考えながら将来像に示された内容の意味を解釈し,新たな提案を加えることで,将来像の内容を発展させる議論を実施した。
著者
坪郷 英彦
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.63-72, 2002-05-31 (Released:2017-07-19)
参考文献数
30

秩父市域(山地)、八王子市域(丘陵地)、所沢市域(台地)を対象とし、竹籠の意匠と地形、生業とのかかわりについて調査分析を行った。結果として次のことが明らかとなった。1.円筒形で底を斜め網代編みとする笊目編みと、円筒形で六つ目編みの2つの技術系統が基本である。2.山地ではこの2つの系統以外に直方体形で底を網代編み、胴を笊目編み、縁を組み縁にする技術系統がある。3.畑作用籠の意匠を基本とし、副業にあわせた多様な意匠の展開がみられる。4.傾斜地と平地での運搬手段の違いが、籠の形態、大きさに関係している。
著者
楊 寧 須長 正治 藤 紀里子 伊原 久裕
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1_51-1_60, 2018-07-31 (Released:2018-08-30)
参考文献数
13

本研究は,「ユニバーサルデザインフォント(以下「UD フォント」と表記)」として開発されたフォントの評価を中心に総合的に検証し,合わせてフォントの形態的属性についても調査を行い,これらの相関性を分析考察することで,望ましいUDフォントのデザインに関する指針を得ることを目的とした。 UDフォントの評価は,従来の視認性,判別性,可読性の3つの評価項目に、積極的な評価項目とされていなかった美感性を加え、計4つの項目で行った。若年者,デザイン関連業務経験者,高齢者の合計90名を被験者とした。また,角ゴシック体,丸ゴシック体,明朝体から,合計60フォントを実験用フォントとして選定した。 本稿では,実験のうち,美感性を取り上げて分析を行い,合わせて計測したフォントの形態属性との間の相関性を探った。その結果,濃度,字面面積,英数字の形態が,いずれのカテゴリーにおいても,見出しと本文フォントともに,美感性評価に強く影響していることがわかった。
著者
樋口 孝之 宮崎 清
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.101-110, 2003
参考文献数
84
被引用文献数
1

今日の日本で,デザインということばは日常語として用いられている。西洋概念の受容以前に,「たくむ」「たくみ」は,デザイン行為の概念と重なる意味を含んだ日本語として存在した。本文では,その語義の形成と変遷について検討を行った。「たくむ」「たくみ」はヤマトコトバであり,もとは手わざを意味するものではなく,「考え出す」「工夫する」「計画する」という思考を意味する概念を有していた。語源は確定されないが,「手組」として理解されていたことがわかった。「たくみ」は,漢字の移入によって,「匠」「工」「巧」などの単字,「工匠」「工人」「匠者」などの熟字と対応関係を築いた。また,律令制度のなかで官職や雇役民の名称となり,職能や人の身分を示すことばとして定着した。近代以後,「たくむ」「たくみ」とも仕様される度合が減じた。日常的な話ことばにおいても,意味を代替する漢語(および漢語サ変動詞)が用いられることが顕著になったことによる。これらのことばが元来有する語義を,あらためて認識することの重要性が示唆された。
著者
中川 麻子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.6_51-6_60, 2012 (Released:2012-05-30)
参考文献数
33

「美術染織」とは、明治から大正時代にかけて制作された絵画的な染織作品であり、近代染織を語る上で重要な存在である。本稿では明治時代初期から1893 年(明治26 年)頃を対象にし、国内外の博覧会に出品された染織作品について検討を行った。1876 年(明治9年)フィラデルフィア万博出品の成功を受けて、内国博には多くの絵画的な染織作品が出品された。また業者によって積極的に新しい技術の開発が行われ、1882 年(明治15年) 前後にはますますこの傾向が強まった。1886 年(明治19 年)京都色染織物繍纈共進会の出品分類に現れた「美術色染」「美術織物」の語は、染織分野に初めて「美術」の語が持ち込まれた例であり、はじめて《美術染織》概念が誕生した。1889 年(明治22 年) パリ万博では染織作品が「美術」とは認められなかった。しかし1893 年(明治26 年) シカゴ万博において、平面的かつ大型で、観賞用の性質が強い作品が美術部出品を果たし「美術的織物」と呼ばれ絶賛された。このシカゴ万博を機会に《美術染織》の概念と「平面」、「大型」、「鑑賞用」という作品形式が確立した。
著者
戴 薪辰 植田 憲
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.4_19-4_28, 2017

今日,中国においては飛躍的な経済発展が実現したが,その一方で,伝統的生活文化が急速に消失しつつある。それは,単に物理的な側面のみならず,社会・生活の構造そのものの崩壊と言っても過言ではない。本研究は,中国上海市近郊の崇明島において形成されてきた伝統的住居「宅溝」の住まい方に着目し,それらを地域資源として再発見・再認識することを目指した調査・研究の第2報である。本稿では,非日常生活における空間特質を明確にすることを目的とした。調査・考察の結果,以下の各点が明らかとなった。(1)宅溝は人・神・霊が共住する空間と認識され,新年・羹飯の年中行事を利用してその存在を維持・更新が図られてきた。(2)公堂の空間は宅溝のなかで最も重要な空間であった。(3)結婚式では住居の複数の内と外の境が利用されるとともに強調された。(4)葬式では公堂に死者の身と霊に休息を与え,来世への準備を整える空間となった。(5)非日常生活において宅溝は儀式空間へと転換され,日常生活における空間特質とともに多義的な特質が構築された。
著者
孔 鎭烈 田中 隆充
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_1-3_10, 2020-01-31 (Released:2020-02-25)
参考文献数
10

本稿は,菓子等のパッケージに多く用いられる「帯紙」のプロポーションの好みについて,実験を行いその結果を検証し評価した.上述の帯紙は掛け紙とも呼ばれ,商品(箱)全体を包むことができる大きいサイズから紐のような小さいサイズまで様々であり,視覚的概念表現の規定はない.多くは,作り手,売り手が買い手の好みを体験的,感覚的に決めており,上述の帯紙に関して買い手の好みを学術的な側面からアプローチしている研究はない.本研究では,10 種類のアスペクト比のサイズの箱に帯紙を貼付しそのアスペクト比を用いて実験し,検証の結果,被験者の感覚的反応による視覚的対象の数的規則性を求めることができた.多くの被験者はパッケージの箱と見立てた平面状の長方形(以後設定条件と言う)に対して帯紙の割合が60%〜70%を占めるプロポーションが最も好むプロポーションであることが分かった.その反面,設定条件に対して帯紙の幅が細いプロポーションには好みが低くい結果になった.菓子等のパッケージで用いられる帯紙は買い手に対し視覚的効果が大きいため,そのサイズの効果を応用することで,今後のパッケージングデザインの考え方の一助になると考える.
著者
川野 江里子 野原 佳代子 ノートン マイケル 那須 聖
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.3_31-3_40, 2020

<p>本研究は理工系大生と美大生の異分野間で協働するイノベーション・ワークショップを対象とし,ワークショップの空間を,参加者が実際にどのように捉え使いこなしているのか,その実態を明らかにすることを目的としたものである。会場のしつらえとアンケートから得られた参加者の印象・評価との関係を考察することでワークショップの物理的環境と議論の進んだ場所についての仮説を構築し,その上で,行動・会話観察をもとに会場における参加者の動きとコミュニケーション出現及び議論の内容との関係を考察した。議論時に思考の外在化を促す仕掛けとして準備したホワイトボード等の活用は,議論の活性化につながるコミュニケーション出現の起点となっており,議論中に思考が拡がるにつれ,使用する空間が面的に広がり,壁や窓,柱などの広い空間を利用しているケースが見られた。また,議論中の場所移動の様子からは,全てのケースに共通していることは見られなかったものの,一部のケースで,ワークショップ空間や空間移動を思考のためのツールやコミュニケーションのきっかけとしている事が確認された。</p>
著者
吉村 典子
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.6_11-6_20, 2014-03-31 (Released:2014-06-10)
参考文献数
31

家は私的なもの、というのは今や自明のことといえるが、イギリスのかつての王侯貴族の住まいは公的要素がむしろ強い。それをモデルとした19世紀後半の中産階級の住まいには、その公的機能から設計された間取りを踏襲している点がみられる。こうした住まいのあり方に、異を唱えた建築家の一人がベイリー・スコットである。家族中心の暮らしの風景を想定する中で、「シンプル」で「ホームリー・コンフォート」のある空間を彼は追求していく。家の中でありながら、伝統的に客のもてなしのために使われた「ホール」、「ダイニング・ルーム」、「ドローイング・ルーム」を、ホールの広い空間的特質を活かして、それを基点にダイニングやドローイング・ルームを融合していく手法等を見せる。そしてそこに「リヴィング・ルーム」という名称が表れるようになる。その過程をスコットの著作や図面を通して明確にし、それにより成立してきた近代の「私的」住まいの形象を考察する。
著者
趙 麗華 山本 早里 五十嵐 浩也
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1_41-1_50, 2018-07-31 (Released:2018-08-30)
参考文献数
47

本研究は,延辺朝鮮族自治州の3つの民俗村における現地調査を通して,それらの変遷過程と現状の考察を行い,文化的観光デザインの特質を明らかにすることを目的としたものである。民俗村の形成に至るまでの背景とそこで行われている観光活動について整理した結果,以下の知見を得た。(1)自発的移住に基づいて形成された伝統村は共同意識が比較的高く,管理型・政治型移住に基づいて形成された伝統村は共同意識が比較的低いことが確認できた。(2)民俗村の形成に影響する要素として,村の共同意識と周辺の有名観光地の開発があげられる。(3)民俗村における文化的観光デザインの特質を4つの要素にまとめた。それぞれ,伝統文化,民俗芸能,商業型観光活動,村民の参画である。(4)民俗村の形成初期は伝統文化と民俗芸能を中心としていたが,近年,商業型観光活動が増加している。特に,企業による商業型観光活動の増加は村民の参画の減少につながることが明らかになった。
著者
矢久保 空遥 田内 隆利 久保 光徳 寺内 文雄
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.2_1-2_6, 2015-07-31 (Released:2015-10-25)
参考文献数
9

本論文では,口琴とよばれる楽器をサンプルとして用い,その音による印象と口琴のもつ形態的な特徴の関係を考察した.実験では,まず25 種の口琴が持つ形態的な特徴を抽出し,その特徴の有無を元として,これを数量化Ⅲ類によって構造化した. その後,各口琴の音に対する印象傾向を因子分析によって分析した. その結果,口琴の音による印象は「活発性因子」「評価性因子」「存在感因子」の3因子で説明できることが明らかとなった. その後,各口琴の数量化Ⅲ類によるサンプルスコアの値と因子分析によって得られた因子得点の相関係数を求めた.数量化Ⅲ類によって示されたⅠ軸は,「加工技術軸」であると読み取ることができ,数量化Ⅲ類で得られた「加工技術軸」と,因子分析で得られた「評価性因子」との間に正の相関があることを確認した. 結論として口琴の加工技術が高く,口琴を構成する細部の形状が緻密であるほど,その音は味わい深く,情緒性の高いものであると示唆された.
著者
李 岡茂
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.55-64, 2001-01-31 (Released:2017-07-21)
参考文献数
18

フラクタル幾何学の「自己相似性」の概念は、自然の形態を見る新しい視座を与えた。本論では「自己相似性」が自然物だけではなく、造形作品の分析にも活用される可能性に着目し、その事例研究として「アルヒテクトン」の構造分析を行った。分析の方法は、フラクタル・シミュレーションによって生成されたモデルと元の作品を比較することであった。その結果、垂直形アルヒテクトンは、基本的にはフラクタル的な構造を持っているが、各構成要素の比率関係や数においては自由な選択が行われたことが分かった。造形作業でフラクタル幾何学を応用する方法が試みられている今日、「自己相似的構造」と「作家の審美的判新」が調和されている垂直形のアルヒテクトンは、その先駆的な実例として再評価されるべきであると考える。
著者
丸山 萌 田内 隆利 久保 光徳
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.5_75-5_80, 2017-01-31 (Released:2017-03-10)
参考文献数
16

本研究は,日本の伝統的衣服であるキモノの形の意味を,ものから得られる情報を通して明らかにしようという試みである。キモノはほどけば布に戻るものとされ,「繰り回し」と呼ばれる作り替えが行われていたことが知られており,制作時から予め再利用を見込んだ形に作られていたと考えられる。キモノがどのように作られ,また作り替えられてきたのか,日常着として着用されていた2点のキモノの観察・解体によって調査し,制作および作り替えの過程と形との関係を考察した。 資料の解体から,キモノの形に共通する構成の特徴は,狭い幅の布を用い,できるだけ裁断を少なくし,手縫いで作ることであるとわかった。作り替えられたキモノからは,共通の布幅を生かした各部の入れ替えの様子や,布の重なる部分や目立たない部分に痛んだ布や小さな端切れが巧みに生かされている様子が確認できた。調査より,キモノの形は,決まった量の材料を余らせずにできるだけ大きく使うことで作り替えの可能性を広げた,材料を最大限に生かすための形であると結論付けた。また,衣服としての形が一定であることにより,制作技術の習得と応用を容易にし,作りやすさを追求した形であると考えた。
著者
平光 睦子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.69-76, 2013-05-31
参考文献数
27

本稿は、明治期の京都の美術工芸学校の図案教育について、岡倉天心(1863 . 1913年)が美術教育施設二付意見」において示した美術教育制度との比較において考察するものであり、その目的は美術工芸学校の特性や傾向を明らかにすることにある。<br>1894(明治27)年に発表された「美術教育施設ニ付意見」には、近代日本に相応しい美術教育制度の構想が示されている。このなかで、京都の美術工芸学校は、高等美術学校としても技芸学校としても否定されている。<br>岡倉の構想した高等美術学校は、日本美術の保護継承を目的とする専門家養成機関であった。また、技芸学校の目的は直接的に殖産興業に資することであり、ここでの産業は主に大量生産の機械工業をさしていた。<br>一方京都の美術工芸学校は、創立以来の地元の工芸諸産業との関係性を明治中期には一層強めており、1891(明治24)年の工芸図案科設置もその表れといえる。高等美術学校として否定された要因はこの産業との直接的な関係性にあり、技芸学校として否定された要因は、その産業が主に工芸であって機械工業ではないことにあった。