著者
林原 泰子 石村 真一
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.31-40, 2007

初期国産機「Solar」に関し, 文献史料を中心に調査研究を行った結果, 以下について明らかとした。1)「Solar」は, 1932(昭和7)年に成立した国産初の縦型撹拌式洗濯機である。製造元は芝浦製作所であり, 東京電気により全国販売が行われた。2)「Solar」は, アメリカからの技術導入により成立した。原型機は, 1928(昭和3)年頃, 東京電気により輸入・販売されたThor Appliance Company製の撹拌式「Thor」である。3)「Solar」は戦前だけで, A型, B型, C型, D型, E型のラインナップを持つ。国内で開発された新規の技術を取り入れながら, 改良が重ねられていた。4)1937(昭和12)年頃には, 「Solar」に対する認知は一部で広がっており, この時期に, 現在にも続く洗濯機=(イコール)縦型のイメージが創出されたといえる。
著者
稲次 敏郎 田村 俊明 水野 雅生
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.58, pp.53-60, 1987-02-25 (Released:2017-07-25)

本稿は昭和61年に行なった中国福建省龍岩地区山間部に散在する客家民居の形態及び空間構成に関する調査報告である。本調査の目的は,多様に展開する漢民族の住居特質を把握することにより,現代日本都市住居の考察に資することにある。客家は古い時代に中原より南下した漢民族であるが,先住民より迫害を受けたが為に防御的な巨大土楼住居を構成し,大家族制を維持した。集落は耕地の少ない内陸山間部に川に沿って位置し,直径又は一辺約20〜60m,3〜5層,円形又は方形,外周生土・内部木造軸組,200〜400人の大集合住居が群をなしている。土楼の中央は祖堂を中心とした一族の集の場であり,住居部1階は厨房・食堂で家族の集の場である。2階倉庫,3・4階臥室と家族構成は上下縦系列に構成されるが,家族単位構成は極めて希薄となる。徽州民居が大集合住居においても家族単位構成が明確であり,一族構成への段階的構成を明確に示すのに対し,客家民居は一族構成が極めて強く,家族単位構成は希薄であり,防塞的色彩が強い。
著者
須田 高史 白 柳爛 沈 得正 佐藤 浩一郎 寺内 文雄
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1_29-1_38, 2020-07-31 (Released:2020-08-10)
参考文献数
15

印象変化は製品を長期使用するための重要な一方策である.本研究では,プラスチックの充填材であるフィラーに着目し,熱可塑性樹脂とフィラーとの組み合わせにより長期使用を可能とする材料の創製を検討した.まずポリプロピレンを母材とし,無機材料粉,金属粉および和紙といったフィラーと混練した.次にサンプルを射出成形により加工し,フィラーを表面に露出させるためにサンドブラストを行った.その後サンプルの印象を評価した.その結果,評価軸として新品感,硬さ,そして派手さが導出された.またフィラーの特性が印象評価に影響を及ぼすことが示唆された.続いて長期使用を模擬するためにサンプルを表面処理した.その結果,磨耗がサンプルの印象に変化を及ぼすことが示唆された.これらより,長期使用のためのプラスチックを母材とする複合材料の可能性が示唆された.
著者
東 恒人 島田 恭宏 島田 英之 佐々木 武
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.45-54, 2008
参考文献数
10

本論文では,デザイン分野での研究を志す初心者を対象とし,断面線と側面線を用いて,三次元メッシュを生成する方法を提案している.この方法の特徴は,次の通りである.(1)ウォルシュ変換とフーリエ変換を利用することにより,メッシュの形状的な特徴をスペクトルの観点から定量的に分析することが可能である.(2)ウォルシュ変換を用いて得られる構成要素から,高交番数成分を削除した後,残った成分に対してウォルシュ逆変換を適用することにより,滑らかな形状のメッシュを角張った形状のメッシュに変形することが可能である.(3)断面線と側面線に対して,互いに異なる変換手法を適用することにより,滑らかな形状を角張った形状に変形させるとともに,角張った形状を滑らかな形状に変形させることが可能である.
著者
小松 亜紀子
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.55-64, 2004
参考文献数
22
被引用文献数
4

本研究では,携帯電話を題材とし,形態的要素の類型化によって得た異なる6つの製品スタイルについて,大学生を被験者とする選択と評価のアンケート調査を行った。分析の結果,因子分析により独立的要因である「訴求力(時代感覚,美的価値や高級感などの心理的に訴える力と関連)」「自分らしさ(自分の個性,性別や年齢と製品スタイルの適合)」,相互依存的要因である「相互依存性(周囲における製品スタイルの普及状況)」「普遍性(製品スタイルの定着や懐古と関連)」の4つの社会心理的な評価要因を抽出した。さらに,この評価要因を説明変数,製品スタイルの満足度を目的変数とする回帰分析により,「自分らしさ」と「訴求力」で有意な寄与が認められた。この結果から,製品スタイルに関する嗜好変化には,「自分らしさ」という社会的な理由だけでなく,「訴求力」という知覚的な理由が関与していると考えられ,従来の社会的な理由を中心とする流行や消費者の選択行動の説明に一考を迫るデータを得た。
著者
林 匡宏 中原 宏
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.1_59-1_68, 2017-07-31 (Released:2017-09-20)
参考文献数
11

魅力的なシークエンス景観には二種の時間軸が存在する。歴史性や文化性など長期的な時間軸と、徒歩圏域の景観体験などの短期的な時間軸である。この二種が織り成す景観特性や高揚感への影響について、江別市で最も古い市街地である「条丁目地区」を対象に調査・分析を行った。結果、景観構成要素のうち「歴史文化施設」や「樹木」など、背景に長期的な時間軸を有する要素が、シークエンス景観の中の「アクセント」として評価され、また 10m~50mの比較的に短い区間での景観体験にみられる「自然資源」の構成比の変化が、徒歩圏域の「リズム」となり、次の場面の高揚感向上に寄与していることが把握された。このような、大都市近郊地域の市街地景観に多様性と奥行きを付与する「アクセント」と「リズム」をコントロールすることで、これまで閑散としていた徒歩圏域の魅力化と、隣接する都市と併せた広域圏の価値向上に貢献すると考える。
著者
徐 希姃
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.41-50, 2005

20世紀美術は、科学技術の進歩を背景として技術を造形表現に積極的に導入しなから繰り広げられた。モホイ=ナジもモーター、金属部品、写真、光学機器などを自ら造形表現に導入して先駆的な活動を展開し、テクノロジー・アートの先駆者として認められている。本研究では、モホイ=ナジの造形理念の中心を占める「光の造形」概念を彼の作品と理論書から探り、モホイ=ナジによってなされた「光の造形」の視覚的意味を探ることを目的とする。そこで、彼の「光の造形」概念の形成過程を踏まえて、「光の造形」概念の中心を占める"Optical"という意味をVisualという言葉との比較によって検討し、"Optical"概念から検討した「光の造形」の視覚的意味を探った。モホイ=ナジの「光の造形」は、1922年にベルリンに亡命し、ドイツの工業化された環境の影響を受けて形成されたもので、物に光が当たることによって物の表面が明るく見える現象を造形に取り入れることから始まった。彼は眼が光を媒介として物を見るという視覚に関る生理的な仕組みを意味する"Optical"という概念に基づき、光そのものやそれによる視覚の生理的な反応を用いた表現を「光の造形」概念としている。彼の「光の造形」概念は、工業的な環境を背景にして用いられ始めた光という新しい材料とその表現について考える上で良い手がかりになると思われる。
著者
張 英裕 宮崎 清
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.1-10, 2002-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
15

本論文は、台湾における寺廟建築の装飾技術「剪粘」を支えた職人集団の出自と組織構成の解析を中心として、その実像を明らかにしたものである。歴史的資料の解析、ならびに、「剪粘」職人へのインタビューを通し、次の諸点を明らかとしてた。(1)台湾における「剪粘」職人の起源は、17世紀後半に中国大陸東南海岸一帯から渡台した漢人たちが、寺廟建設のために招請した中国大陸の建築職人である。(2)建築職人は、大別して「大木」「小木」「土水」「石作」「漆絵」「陶塑」から構成されていたが、「剪粘」は、「泥塑」「交趾陶」とともに、「陶塑」に帰属していた。(3)「剪粘」の職人集団は「師匠」「出師」「未出師」からなり、技術伝承は「異姓拝師」「家族伝授」による「師徒制」に依拠していた。(4)個々の「剪粘」職人集団には請負仕事における空間的テリトリーがあり、たいていの場合、テリトリーの遵守が規範とされていた。(5)1970年代からの台湾の工業化の伸展とともに、「専用陶片」や既製の装飾部材が出現し、伝統的な寺廟の装飾技術としての「剪粘」は衰退の一途を辿っている。
著者
川端 彬子 金 尚泰
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.2_43-2_48, 2016-07-31 (Released:2016-11-15)
参考文献数
13

従来の料理レシピ検索では、検索結果がリスト形式で表示されることが多い。しかし、「冷蔵庫の中にある食材を使った料理」という、漠然とした検索欲求下においては、ユーザーは適切なクエリ作成を行うことが難しいため、検索結果の絞り込みが困難である、と言われている。また、料理レシピ検索におけるユーザーのコンテクストは多様で、絞り込みきれていない膨大な結果の上位数件で満足する可能性は低い。そこで、料理レシピデータの持つ複数レシピ属性値をユーザーが比較できる数値とし、検索結果を「ざっと」見て、「一目で」複数レシピ属性を比較できる料理レシピ検索UIの開発を行った。各料理レシピをオブジェクトとして表現して、3次元空間に配置し、マウスで操作できるようにすることで、料理レシピ検索結果の俯瞰視を可能にし、新たな料理レシピの検索体験を生み出した。
著者
高梨 武彦
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.1-8, 2007-07-31 (Released:2017-07-11)
参考文献数
28
被引用文献数
2

森林施業にあたって汎用されてきた指針は単位面積当たり本数である。木材生産とちがい森林風致施業の場合、本数の指示だけでは森林の風致の向上程度がわかりやすく表現できていない。林内の風致には見通しと明るさの確保が重要であり、これを反映する森林風致施業のための数値指標を考察した。林内の見通しと明るさにかかわる主因子を単位面積当たりの本数・胸高直径・枝下高・林床植生高・樹冠疎密度と判断し、これら因子より「枝下空間量」と「胸高直径指数」という関数を導き出した。それは施業による林内の風致の向上にむけた見通し距離・相対照度の想定を可能とし、森林風致施業の指針となることを示した。
著者
時長 逸子 宇都宮 千明
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.85-90, 2009
参考文献数
18
被引用文献数
4

広告戦略においてカラーバリエーションという手法は、生産的とはいえない位置づけであるにもかかわらず、広く見られるものである。その理由を知るための調査を行い、以下のような結果が導かれた。(1)製品バリエーションとしてのカラー戦略である。(2)ある製品に対する消費者の固定観念を打ち破る色彩の利用である。(3)イメージ戦略としての色彩の利用である。明らかに色彩の心理効果を活用し、展開する。これらの結果はPhilip Kotlerによる「5つの製品レベル」に即したものである。しかしながら、このレベルに当てはまらない広告が存在した。その広告に対する印象調査を行い、(4)カラーバリエーションを展開していながらも、その製品の売れ行きをあまり重視せず、どちらかというと企業イメージや製品イメージを広く認知ざせるための手段として利用されるもの、という新たな広告戦略があることが判った。
著者
増成 和敏
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.91-100, 2012-05-31
参考文献数
16
被引用文献数
1

本論は,松下電器における真野善一による初期のデザイン開発と製品デザインについて,主として意匠公報と文献史料より,以下の内容を明らかにした。<br>1)真野の意匠登録は,冷蔵庫,扇風機,蓄電池,ラジオ受信機,テレビ受像機から宣伝用バスまで多岐に亘っている。<br>2)真野は,松下電器に入社した1951(昭和26)年 7月から企業内デザイナーとして自ら多くのデザイン開発を行い,1955(昭和30)年末までに,確認できただけでも183件の意匠登録を取得している。<br>3)真野の意匠登録は,松下電器の多くの分野で製品化され,デザイン成果を上げた。<br>4)真野が松下電器入社後,最初にデザインしたとされる扇風機の意匠登録上の考案者は真野ではないが,デザインは真野によるものであると推定する。
著者
宮原 佑貴子 櫛 勝彦 鳥宮 尚道
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.4_69-4_78, 2021-03-31 (Released:2021-03-30)
参考文献数
18

全国には、自治体や団体などの地域コミュニティのために生成されたキャラクターが多数存在する。これらは「ご当地キャラクター」と呼ばれ、地域を象徴するコンテンツとなっている。ご当地キャラクターの人気が高まった2010 年前後には各地で活発に生成されたが、その状況が落ち着いた現在では、地域における継続的な活用が課題となっている。 本研究は、地域コミュニティにおいて有効に活用される象徴的造形の生成過程を明らかにするべく、ご当地キャラクターの事例から考察をおこなうものである。ご当地キャラクターの運営団体を対象としたアンケート調査の結果からご当地キャラクターの生成過程を類型化し、「生成目的に対する効果」と「生成過程」の関連について分析をおこなった。
著者
肖 穎麗 宮崎 清 植田 憲 張 福昌
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.57-66, 2008
参考文献数
22

中国における意匠権に関する認識の実態を明らかにする一環として、伝統工芸「惠山泥人」の特質と発展史を概観したうえで、江蘇省無錫市泥人研究所、無錫惠山泥人工場においてその制作に従事している職人へのアンケートならびに聴き取り調査を実施した。その結果は、次の3点に要約される。(1)職人たちは、知的財産権としての意匠権という概念を特段に意識化したかたちとして持ち合わせていない。(2)他の親方職人が行った仕事を盗んで真似ることは、職人の世界では禁忌とされていた。すなわち、意匠の盗用などは、元来、職人たちの世界ではありえなかった。それが、職人文化である。(3)個々の職人たちの意匠権に関する認識は必ずしも高くないものの、真摯にものづくりに取り組む気質のなかで、社会的規範として、意匠権保護が自ずとなされていた。しかし、伝統的な工芸文化のなかに経済的利益を目的とした意匠の模倣・盗用が生起しつつあることを考えると、「惠山泥人」を自らの風土に対応して展開される生活文化の造形表現として位置づけ、その文化的価値の再認識が求められる。