著者
高木 伸哉 池田 裕美 川瀬 貴博 長澤 麻央 チョウドリ V.S. 安尾 しのぶ 古瀬 充宏
出版者
Japanese Society of Pet Animal Nutrition
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.67-72, 2013

カテコールアミンの前駆体であるL-チロシンの長期投与は慢性ストレスがもたらす行動を緩和することが知られているが、急性ストレス時にL-ならびにD-チロシンの効果を比較した報告はない。本研究では、急性ストレスに対するL-チロシンとD-チロシンの経口投与がマウスの行動に及ぼす影響と脳内の両チロシン濃度に及ぼす影響を調査した。オープンフィールドにおける行動量にL-ならびにD-チロシンの効果は認められなかった。経口投与35分後にL-チロシン投与により血漿L-チロシン濃度は急激に上昇したが、D-チロシンの投与では血漿D-チロシンの緩やかな上昇が観察された。興味深いことに、対照区の各脳部位(大脳皮質、海馬、線条体、視床、視床下部、脳幹ならびに小脳)において、D-チロシンの濃度はL-チロシンの1.8-2.5倍高かった。すべての脳部位において、L-チロシンの投与によりL-チロシン含量は増加したが、D-チロシンの投与でD-チロシン濃度の上昇は認められなかった。上記より、急性投与したL-チロシンとD-チロシンは行動量に影響しないが、L-チロシンとD-チロシンの脳内移行の様相は異なると結論づけられた。
著者
小田 民美 小野沢 栄里 生野 佐織 森 昭博 左向 敏紀
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.114-121, 2017-10-10 (Released:2017-12-25)
参考文献数
26

GLP-1およびGIPは共に血糖依存的にインスリンを分泌させる他、様々な臓器で多様な作用を持ち糖代謝に深く関与している消化管ホルモンである。本研究では栄養組成の違いがネコのインクレチン分泌におよぼす影響について検討することを目的とした。日本獣医生命科学大学で飼育管理されている健常猫5頭に、コントロール食、高炭水化物食、高脂肪食、高繊維食の4種を給与し、血糖値、インスリン濃度およびインクレチン濃度を測定した。GLP-1濃度変動は4種の食事で差はなかった。この結果は、ヒトでは炭水化物と脂質がGLP-1分泌に大きく影響をおよぼしているという報告とは異なるものであった。これはネコの食性や消化管構造の違いによる影響と考えられた。一方、GIP濃度変動はコントロール食と比較し高脂肪食で有意に高値を示した。また、食事中の脂肪含量が多いほどGIP濃度も高値を示した。本研究により、ネコにおいて栄養組成の違いがGIP分泌におよぼす影響について明らかとなったが、GLP-1分泌については今後さらなる検討が必要である。
著者
小田 民美 佐伯 香織 森 昭博 左向 敏紀
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.128-134, 2017-10-10 (Released:2017-12-25)
参考文献数
10

糖尿病猫はしばしば感染症に罹患しやすいといわれており、またストレス性の高血糖を生じやすく、血糖値を降下させるのも不得手な動物種である。このような特性をもつ猫の糖尿病管理においては、血糖コントロールを悪化させる原因が数々存在するため、糖尿病猫の入院管理は時に困難をともなう。そこで本学に来院した、慢性感染症を併発した猫、入院によるストレスで血糖コントロールが困難となった猫、食事変更が必要となった猫について、その問題と対策について検討した。症例によってストレスを感じる事象は様々あり、その対処も大きく異なるものであった。同時に、院内で起こる特有の問題からの学びもあり、退院後の自宅でのケアに生かすことができた。病院という制限ある集団管理においても、可能な限りその個別性を大切に、それぞれに合った生活環境を整える工夫ができるかが動物看護師の重要な仕事であると考える。
著者
大石 亮 金子 政弘 入来 常徳 朝見 恭裕 舟場 正幸
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.9, no.Supplement, pp.15-16, 2006-07-13 (Released:2012-09-24)
参考文献数
5

成ネコと成イヌの尿成分を比較した。尿p H はイヌの方が高かった一方,尿浸透圧はネコの方が2 倍程度高かった。尿沈渣をSDS-PAGEにより電気泳動したところ,ネコではTHP様蛋白質の存在が明確に確認されたのに対して,イヌでは検出されなかった。尿中窒素化合物の排泄に関してネコとイヌの間に大差はなかった。
著者
岡﨑 登志夫 橋詰 利治 鈴木 光行 小川 善資
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.13-18, 2014-06-25 (Released:2015-04-15)
参考文献数
14

6週間の飼育期間中、高脂肪飼料(HFD)給餌ラットにスイカエキス(WM)を与えると(HFD+WM)、飼料摂取量は、与えなかったときと比較して減少した。飼育期間中の標準飼料(ND)、HFD、HFD+WM給餌群の飼料摂取量を総カロリー摂取量に換算し比較すると、HFD給餌群が最も高くなり、WMを与えるとそれより10~20 kcal/day低下した。カロリー摂取量の減少と相まって、体重増加量もHFD給餌群と比較して、HFD+WM給餌群で低下した。生化学検査及びアディポサイトカイン測定を実施したところ、HFD給餌ラットにWMを与えると、与えなかったときと比較して、血清中のTGとレプチン濃度が低下し、肝臓重量も減少した。レプチンは白色脂肪細胞から分泌されることから、WMは、TGを低下させ、肝臓の白色脂肪組織を減少させる肥満抑制効果があるのではないかと考えられた。
著者
大辻 一也 小泉 亜希子 小林 なつみ 鈴木 真理 古川 奈々 久須美 明子 小林 豊和
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.15-20, 2016-04-09 (Released:2016-06-01)
参考文献数
6

ボディコンディションスコア(BCS)は犬や猫の栄養診断法として、臨床ではよく使われる方法である。アメリカ動物病院協会は2010年にBCSを栄養診断のスクリーニングの一つとして取り入れた。日本動物病院協会もこれを受け入れた。さらに世界小動物獣医協会はBCSを栄養診断の世界標準にすることを決めた。このようにBCSはイヌやネコの栄養診断法としてオーソライズされたにもかかわらず、診断者によるばらつきは避けられない。そこで、われわれはBCS診断の精度を上げることを目的に、BCSモデル(モデル)を作成した。モデルは人工的に成型した模擬肋骨の上に、各種ゴム素材を積層しBCS1~5になるように調整し作成した。被毛の代替えとして起毛した布を使用した。実験にはBCSの異なる24頭のイヌを使用した。動物看護学を学ぶ学生にイヌを触診させ、モデルの有無によって、BCS 値のばらつきに違いが出るか否かを検討した。その結果、BCS3およびBCS4と診断されたイヌ群において、モデルを使用して診断した方が、モデル無しで診断した方に比較して、ばらつきは統計的に有意に減少した。BCS2は対象個体数が少なく統計処理が不可能であった。BCS1とBCS5の個体は被験犬の中に含まれなかった。今後、個体数を増やし検討する予定である。また、BCSはモデル有の方が無しに比較して、スコアが高く診断される傾向があった。この点に関しては、モデルの改良が必要と思われた。さらに、一般のイヌの飼い主に、モデルを用いて飼い犬のBCS測定をさせ、モデルの印象について調査した。その結果、モデルが飼い犬の栄養診断に役立ったかとの質問に対しては、約80%の飼い主が役立ったと回答した。さらに、モデルを使うことで、うまく診断できたかと言う質問に対して、約65%の飼い主がうまく診断できたと回答した。以上の結果、このモデルは改良が必要であるが、獣医療従事者のみならず、イヌやネコの飼い主の栄養診断にも有用であることが示唆された。
著者
小田 民美 森 昭博 佐伯 香織 左向 敏紀
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.93-98, 2015-10-10 (Released:2016-04-11)
参考文献数
10

ヒトの研究において、血糖値、インスリンやインクレチン濃度には日周リズムが存在することが知られているが、犬においては明らかではない。したがって、本研究の目的は、朝夜での健常犬の血糖値、インスリン、インクレチン濃度を比較検討することとした。朝7時から夜7時の朝試験と、夜7時から朝7時までの夜試験を比較した。本研究では、4頭の健常犬を用い、朝夜7時の12時間ごとに同じフードを同じ量給与した。そして、食後の血糖値、インスリン、インクレチン濃度(glucose-dependent insulinotropic polypeptide〔GIP〕and glucagon-like peptide-1〔GLP-1〕)を測定した。血糖値は朝夜で有意な変化は認められなかった。一方、インスリン濃度は食後1時間目に夜試験で有意に上昇していた。GIP、GLP-1濃度は食後数時間で増加し、徐々に低下していく日内変動をとったが、朝夜で最高濃度が異なっていた。これらの結果より、健常犬においてもこれらのパラメーターに日周リズムが存在することが明らかとなった。
著者
池田 周平 財津 政延 祐森 誠司 栗原 良雄 伊藤 澄麿
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.4, no.Supplement, pp.33-34, 2001-05-24 (Released:2012-09-24)
参考文献数
2

成兎を用いて,食糞行動の阻止が体重維持ならびに飼料の消化率に及ぼす影響を検討した。試験区は自由行動・自由摂取の対照区と飼料給与量を80%,60%に制限した区および食糞行動阻止区を設け比較検討した。給与飼料はNRC飼養標準に併せて配合したものを用いた。40日間の飼育試験の結果,食糞行動の阻止により体重は減少したが,死亡することはなかった。また,食糞行動阻止区における飼料摂取量は80%制限区とほぼ同程度であったが,体重の減少は60%の制限給餌と同程度であり,粗タン白質およびエネルギーの消化率がかなり低くなる傾向を示した。消化率の低下は食糞行動阻止に関係すると考えられる。
著者
佐伯 香織 小田 民美 生野 佐織 上田 香織 丸山 夏輝 秋山 蘭 小野沢 栄里 森 昭博 左向 敏紀
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.19-25, 2014-04-10 (Released:2015-04-15)
参考文献数
26

運動療法は、インスリン感受性を改善し、骨格筋へのブドウ糖取り込みを増加させることから、糖尿病患者において有用な治療法である。本研究では、糖尿病犬に対する運動療法が血液生化学パラメーターおよび骨格筋遺伝子発現にどのような影響を及ぼすかを検討した。空腹時血糖値は運動前後で有意な変動は認められなかった。しかし、糖化アルブミン(GA)および遊離脂肪酸は運動後有意に低下した。インスリンシグナリングおよび糖代謝に関連する遺伝子(インスリンレセプター基質1および2、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ、aktキナーゼ2、グルコーストランスポーター4、AMP活性化プロテインキナーゼ、脱共益蛋白3およびアセチルCoAカルボキシラーゼ)の発現には運動前後で有意な変化は認められなかった。本実験結果より、運動療法を行うことでGAの低下をもたらし、糖尿病犬において血糖コントロールが改善された。
著者
山田 賢 山根 春香 及川 大地 友永 省三 古瀬 充宏
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.11, no.Supplement, pp.19-20, 2008-07-11 (Released:2012-09-24)
参考文献数
1

飼料由来のチアミンを欠乏させたマウスに,過剰なグルコースを腹腔内投与することで,マウスの学習行動にどのような影響が出るかを検証した。オープンフィールド試験において,立ち上がり回数をパラメーターとすると,チアミン欠乏により学習成績は低下した。しかし,移動距離についてはチアミン欠乏マウスにグルコースを投与することで24時問後に移動距離は減少し学習成績が改善されるという結果になった。また屠殺後,大脳皮質と海馬を摘出し,神経伝達物質であるモノアミン類およびそれらの代謝産物を測定した。今回の学習成績と神経伝達物質の間に相関はなかった。また,立ち上がり回数と移動距離は異なる反応を示したことから,栄養の影響は行動の種類によって違い,二つの行動は別々のメカニズムで制御されている可能性が示唆された。
著者
神田 鉄平 前田 憲孝 井口 亜弥乃 柴田 和紀 野村 千晴 山本 達也 村尾 信義 加計 悟 古本 佳代 古川 敏紀
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-6, 2013-04-10 (Released:2013-05-17)
参考文献数
9

肥満はイヌやネコにおいて一般的な健康問題のひとつである。肥満を予防、あるいはコントロールするには、体脂肪の評価を正しく行うことが必須となる。しかしながら、これまで広く用いられているBCS評価法は、観察と触感のみに基づき主観的になりがちである。そこで、BCSによる体脂肪の評価が客観性を担保した適切な方法であるかを確認すべく、我々はイヌにおけるCT撮影によって得られた体脂肪評価とBCSによる評価に相関が認められるかを検討した。実験には体重が2.6から29.3 kgまでの8犬種15頭のイヌを用いた。「アメリカ動物病院協会 栄養評価 犬・猫に関するガイドライン」に従い、9および5段階によるBCS評価(9段階BCS、5段階BCS)を行い、CT撮影により得られたL3およびL5レベルの断層画像から-135/-105HUの範囲を脂肪組織とみなした。体脂肪面積/体幹面積比はL5レベルにおいて、9段階BCSと中等度の相関を示した。また、9段階BCSはL5レベルでは、腹腔脂肪面積/体幹面積比とも中等度の相関を示した。つまり、イヌにおいて9段階BCSはCT撮影により得られた体脂肪評価との相関を示す結果となった。本研究結果は、BCS9がイヌの体脂肪評価法方法として比較的客観的であり、かつ適切であることを支持するものである。
著者
寺地 智弘 西浦 誠 舟場 正幸 松井 徹
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.13-17, 2013-04-10 (Released:2013-05-17)
参考文献数
7

ICP-MSの半定量測定モードを用いて、20種類の市販キャットフード(ドライフード:10、ウェットフード:10)の有害金属類の同時分析を試みた。健康被害リスクがあるとされる元素の内、Li·B·Al·Ti·V·Cr·Mn·Fe·Co·Ni·Cu·Zn·Ge·As·Se·Rb·Sr·Mo·Ag·Cd·Sn·Sb·Ba·W·Hg·Pb·Biの27元素を対象に、添加回収率、変動係数 (CV)、また、定量測定値との回帰を検討したところ、Li·Al·V·Mn·Co·Cu·As·Se·Rb·Sr·Mo·Cd·Sn·Hg·Pbの15元素で、ドライフード、ウェットフードともに、添加回収率が70%~120%、CVが10%以下であり、定量分析値に対する強い回帰 (r2>0.9) が認められた。また、B·Ti·Fe·Zn·Sb·Baの6元素は、添加回収率が70%以下あるいは120%以上であったものの、定量分析値に対する強い回帰が認められた。Cr·Ni·Geの3元素は、定量性は低い、あるいはキャットフードからはほとんど検出されなかったものの、National Research Council (NRC) の定める、げっ歯類における最大耐容量を添加したところ、添加回収率は82~120%であり、検出可能であった。ICP-MSを用いた半定量分析は、多様な有害金属類によるペットフード汚染を防止する上で有効なスクリーニング手法となりうる可能性が示された。
著者
阿部 又信
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.22-29, 2001-04-10 (Released:2012-09-24)
参考文献数
5
著者
渡邊 学 チェン アイリス 森 美香子 上野 絵美 中村 好孝 薮本 恵美子 阿部 佳澄 椿 真理 今村 清美 関森 悦子 西澤 理絵 若栗 浩幸 中川 貴之 望月 学 西村 亮平 佐々木 伸雄 鈴木 穣 菅野 純夫
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-6, 2012-04-10 (Released:2013-01-25)
参考文献数
15

イヌ舌組織における遺伝子発現、味覚受容体の構造の検討を行うため、遺伝子発現頻度解析および味覚受容体の構造解析を行った。正常イヌ舌組織よりRNAを抽出し、次世代シークエンサーを用いてシークエンスを行った。シークエンスタグをイヌゲノムへのマッピングを行い各遺伝子の発現頻度を解析した。味覚受容体にマップされたシークエンスタグをもとに味覚受容体TAS2R40遺伝子およびアミノ酸配列を解析した。RNA-seq解析の結果、984,903シークエンスタグを得た。これらを用いてイヌゲノム上へのマッピングを行った。同定された遺伝子の中で、S100 calcium binding protein A8がもっとも高い発現を示した。また、骨格筋系遺伝子、心筋系遺伝子や解毒系遺伝子群の発現が認められた。味覚受容体をコードする遺伝子構造解析を行ったところ、TAS2R40、TRPV1、PKD1は既存の遺伝子構造よりも5' 端側にマップされるタグが認められ、これまでの遺伝子配列情報よりも完全長に近い遺伝子構造が推測された。また、TAS2R40遺伝子がコードするアミノ酸配列の相同性はヒトと76%マウスと62%であった。
著者
大辻 一也 後藤 亜紗美 櫻井 富士朗 伴 武 大川 雅之 梅田 智重 山田 陽介
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.12-16, 2012-04-10 (Released:2013-01-25)
参考文献数
14

近年、イヌの飼育方法が大きく変化している。室内飼育率が増加し、市販のペットフードの給餌率も増加している。このような変化に伴って、イヌの1日当たりのエネルギー要求量 (Daily energy requirement: DER) も変化していると考えられる。そこで、二重標識水 (Doubly labeled water: DLW) 法を用いて、一般家庭で飼育されているイヌの、普段の生活におけるDERを測定した。DLW法はD2Oと H218O 混合物を体内に導入し、Dと18O除去率の違いから、CO2生産を割り出し、エネルギー消費量を求める方法である。この方法の特徴はほとんど拘束することなしに、エネルギー消費量が測定できることである。検討の結果、従来の計算式によって算出されたDERとDLW法で得られたDERは、5個体の内2個体で一致したが、他の3個体ではDLW法で得られたDERの方がやや低かった。しかし、両方法で得られたDERを回帰分析したところ、両者間に有意な相関関係が認められた (R=0.935)。このことは、DLW法がイヌの普段の生活におけるDERを求める有効な手段であることを示唆するものである。両方法でDERに差異を生じた3個体について、差異の原因を検討したが、決め手となる情報は得られなかった。今後被験犬数を増やして検討していく予定である。
著者
中嶋 眞弓 大野 耕一 竹内 由則 竹内 文乃 中島 亘 Fujino Y. 辻本 元
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.65-71, 2012-10-10 (Released:2013-01-25)
参考文献数
22

重症動物の蛋白質やエネルギー摂取不足による低栄養状態を短期的かつ客観的に評価するため、医学領域において動的栄養指標蛋白として利用されている急速代謝回転蛋白 (RTP) のうち血漿トランスフェリン (Tf)、レチノール結合蛋白 (RBP) のイヌにおける有用性について検討した。健常イヌにおける短期的な給餌量調整試験では、給餌制限に伴いTf値は有意に低下し、給餌再増量に伴い上昇傾向を認めたが、RBP、ALB値に関しては一定の傾向は認められなかった。臨床例における検討では1週間以上50%以上安静時エネルギー必要量 (RER) を維持している慢性消化器疾患症例と比較して、摂取量が50%未満RERである食欲不振症例のTf値は有意に低値を示した。積極的な栄養療法を行った2症例におけるTf値の経時的測定では、上昇を認めた症例では経過良好であったが、徐々に下降した症例では斃死した。今回の結果からイヌの血漿Tf値測定は動的栄養指標蛋白として有用である事が示唆された。
著者
橋爪 千恵 大友 理宣 高倉 はるか 高嶋 亜希子 畠 恵司
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.72-79, 2012-10-10 (Released:2013-01-25)
参考文献数
14

米糠発酵粉末は、米糠を植物性乳酸菌により乳酸発酵させて作出したものである。これまでにラットに継続的に経口投与した結果、米糠発酵粉末には内臓脂肪重量および血中中性脂肪値の減少作用が認められることが明らかになっている。本研究では、年齢、性別、体重の異なる様々な犬種の家庭犬を対象として、イヌそれぞれの体重に従った量の米糠発酵粉末をサプリメントとして8週間継続的に摂取させ、その変化を飼い主へのアンケート形式により調査した。投与開始直前、投与2、4、6および8週間後における腹囲と体重の計測、行動学的変化、生理学的変化、およびサプリメントの印象に関するアンケート設問の回答を集積し、解析に用いた。サプリメントを8週間継続投与できた個体はモニター全体の81.5%であった。個体の腹囲および体重の変動率を比較したところ、開始前に比べ4週間後、6週間後、および8週間後において、腹囲が有意に減少した。また、8週間後のサプリメントの嗜好性についてのアンケート設問では、「ほかのおやつやフードより好んで口にした」あるいは「ほかのおやつやフードと同等の嗜好性が見られた」とした回答が、モニター全体の70.4%となっていた。これらのことから、本サプリメントには継続投与によって腹囲の減少効果が認められ、補助栄養食でありながら、その嗜好性はイヌのおやつやフードとして許容される高さを持つと思われた。
著者
寺地 智弘 舟場 正幸 土井 花織 湯浅 一之 松井 徹
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.80-84, 2012-10-10 (Released:2013-01-25)
参考文献数
15

ネコ被毛中水銀濃度測定法を検討した。ネコの頭部、頚部、背部、腹部および尾部の被毛をアセトンおよび界面活性剤で洗浄後、マイクロウェーブ分解装置を用いて密閉状態で高圧湿式灰化した。分解産物を純水で希釈し、誘導結合プラズマ質量分析装置 (ICP-MS) を用いて水銀濃度を定量測定した。認証標準物質であるヒト頭髪を用いた結果、日内変動係数 (CV) は1.9%、日間CVは3.0%、回収率は103%であり、測定下限は0.088 mg/kgであった。ウェットフード (乾物当たり水銀含量1.73 mg/kg)を給与されているネコ5頭の頭部、頚部、背部、腹部および尾部の被毛中水銀濃度を測定した結果、水銀濃度は背部が標準的な値であった。ついで、20頭のネコにウェットフード (乾物当たり水銀含量1.73 mg/kg) あるいは、ドライフード (乾物当たり水銀含量0.04 mg/kg) を28週間給与し、背部の被毛中水銀濃度を測定した。測定したサンプルは全て測定下限を上回っていた。ウェットフード群のネコの被毛中水銀濃度はドライフード群より有意に高い値を示した (p〈0.01)。本試験の結果、簡便かつ高感度でネコ被毛中水銀濃度の分析が可能であること、ならびに、ネコの被毛中水銀濃度は水銀摂取量をある程度反映することが示された。
著者
小田 民美 森 昭博 佐伯 香織 栗島 みゆき 三村 可菜 野澤 聡司 石岡 克己 左向 敏紀
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.76-83, 2011-10-11 (Released:2011-12-16)
参考文献数
28

糖尿病犬はしばしば尿路感染症や歯周病などの感染症に羅患しやすいことが知られている。またヒトの糖尿病患者において、歯周病は血糖コントロールを悪化させるという報告が数々ある。本研究では糖尿病犬に歯科処置を行い、血糖コントロールにどのような影響を及ぼすかを検討した。本学で飼育している糖尿病犬4頭を用いた。血液サンプリングは歯科処置前と歯科処置1、2、3、4週間後に行った。測定項目は、空腹時血糖値 (FBG) と長期血糖コントロールマーカーとして用いられる糖化アルブミン (GA) を測定した。また、炎症マーカーとして腫瘍壊死因子-α (TNF-α) 、CRP、生体内酸化ストレスマーカーとして酸化ストレス度を示すd-ROM、抗酸化力を示すBAPを測定した。GAとCRPは歯科処置前に比べ4週間後で有意に低下した。しかし、FBG、TNF-αには処置前後で有意な変化は認められなかった。d-ROMは処置前後で有意な変化は認められなかったが、BAPは処置前に比べ処置後4週間で有意に上昇していた。以上より、歯科処置が口腔内炎症を抑制し、血糖コントロールを良化させたと考えられる。さらに、炎症の抑制や血糖コントロールの改善が、生体内における抗酸化力を増加させたことが示唆された。