著者
山田 亮一 吉田 武義
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.Supplement, pp.S168-S179, 2013-08-15 (Released:2014-03-21)
参考文献数
28
被引用文献数
4

北鹿(ほくろく)地域は,本邦有数の大規模黒鉱鉱床が密集することで知られる.黒鉱鉱床は,金銀をはじめ多様な有価金属を含有し,その経済的価値も高いことから,これまで膨大な量の探鉱活動が行われた.その結果,黒鉱に関る地質・鉱床学的知見のみならず,それらと密接に関連する東北本州弧の島弧発達過程についても,時間分解能の高い詳細なデータが蓄積された.本巡検では,背弧拡大の直前に行われた陸弧安山岩の活動から,背弧海盆バイモーダル火山活動を経て島弧成立に至るまでの一連の火山活動の変遷を観察し,それらの必然的産物として形成された黒鉱鉱床について,現世海底熱水鉱床と対比しつつ,最近の知見を踏まえて新たな視点から紹介する.

1 0 0 0 OA 岩脈法発展史

著者
山路 敦
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.6, pp.335-350, 2012-06-15 (Released:2012-11-07)
参考文献数
160
被引用文献数
4 9

岩脈は最小主応力軸と直交する面に形成されるという考えを,初めて論文に記したのはStevens(1911)である.そして,その考えに依拠して,Anderson(1942)以来,特に1970年代以降,岩脈の方向から貫入時の最小主応力軸が推定されてきた.いわゆる岩脈法である.四半世紀前には,岩脈形成と応力との関係について新たな定式化がなされ,以来,それにもとづく新しい岩脈法が構築されつつある.それは,既存断裂あるいは新たな断裂であれ,その面に作用する法線応力よりマグマ圧が高ければ貫入できるという原理に立脚し,3本の主応力軸と応力比を決定する.最近は,複数の応力時階で形成された岩脈群が混じったデータから,複数の応力状態が検出できるようになり,また,個々の岩脈がどの応力状態でできたか分かるようにもなった.新旧の岩脈法の方法論について,発展史を解説する.
著者
高橋 裕平 宮崎 一博 西岡 芳晴
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.117, no.Supplement, pp.S21-S31, 2011-09-01 (Released:2013-02-20)
参考文献数
20
被引用文献数
4

筑波山及びその周辺地域の山塊には深成岩類と変成岩類が分布している.深成岩類からは古第三紀初期の放射年代が得られ,また,その岩石学的性質や関連鉱床との関係から西南日本内帯の領家帯及び山陽帯の深成岩類の延長と考えられている.変成岩類は,その原岩がジュラ紀末-前期白亜紀堆積物と考えられ,白亜紀末から古第三紀初期に高温低圧型の変成作用を受けたものである.筑波山塊北の花崗岩類は良質な石材として国会議事堂をはじめ日本の多くの建物で利用されている.
著者
B. Koto
出版者
The Geological Society of Japan
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.23, no.279, pp.95-127, 1916-12-20 (Released:2008-04-11)
被引用文献数
10 13
著者
及川 輝樹
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.108, no.10, pp.615-632, 2002-10-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
79
被引用文献数
5 6

飛騨山脈南部に位置する焼岳火山群の地質,火山発達史,噴火様式の特徴を,火山層序学,K-Arおよび14C年代測定値などを基に明らかにした.焼岳火山群は,大棚,岩坪山,割谷山,白谷山,アカンダナ,焼岳の6つの火山に大別され,26ka以降に活動した新期(焼岳,アカンダナ,白谷山)と120-70kaに活動した旧期(割谷山,岩坪山,大棚)に分けられる.最も若いマグマ噴火は,2.3ka(calBP)の中尾火砕流堆積物と焼岳円頂丘溶岩である.この火山群は,複雑な斑晶組み合わせをもつ安山岩からデイサイト質の溶岩ドームおよび溶岩流とそれに伴うblock and ash flow堆積物で構成される.この火山群は,その一生を通して降下軽石やスコリアを噴出せず,爆発的な噴火は行わなかった.新期焼岳火山群の長期的マグマ噴出率は0.1-0.35km3/kyであり,この値は日本の第四紀火山の平均的な値である.しかし,焼岳火山群の体積は日本の平均的な火山より小さい.つまり,焼岳火山群は活動時期が短いがゆえに体積が小さい.最近の噴出率が落ちていないことを考慮に入れると焼岳火山群の活動はまだ続き,今後も溶岩ドームおよび溶岩流の形成とそれに伴うblock and ash flowの形成という非爆発的な噴火を繰り返すと考えられる.
著者
木村 学 木下 正高 金川 久一 金松 敏也 芦 寿一郎 斎藤 実篤 廣瀬 丈洋 山田 泰広 荒木 英一郎 江口 暢久 Sean Toczko
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.47-65, 2018-01-15 (Released:2018-05-30)
参考文献数
98
被引用文献数
1

2007年開始の南海トラフ地震発生帯掘削計画は,プレート境界で起こる地震発生,断層メカニズムの理解を目的に実施,掘削の結果,これまで以下の主要な成果が得られた.1)南海前弧域は,~6Ma以降の沈み込み,特に2Ma以降の付加体の急成長によって形成され,プレート境界の上盤を形成することとなった.2)プレート境界と分岐断層に沿うすべりは,海底面まで高速ですべり抜けたことがある.3)粘土鉱物に富む断層ガウジは静的にも動的にも,絶対的に弱い.4)掘削によって応力測定に成功した.多くの地点で最大水平圧縮方向はプレートの収束方向とほぼ平行であり,次の南海地震に向けての応力蓄積の進行が示唆される.5)掘削孔設置の観測計が,2016年4月1日に南海プレート境界で72年ぶりに発生した地震による圧力変動を観測した.海底観測網による微小津波観測と同期しており,上盤内の地震時体積収縮を世界で初めて観測した.
著者
髙清水 康博 永井 潤 岡村 聡 西村 裕一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.1, pp.1-16, 2013-01-15 (Released:2013-05-08)
参考文献数
61
被引用文献数
5

北海道太平洋沿岸の胆振海岸東部に分布する古津波の復元を,堆積学的解析によって試みた.この津波堆積物は,現海岸線からの距離に対して,層厚と代表粒径が減少し,淘汰は良くなる強い相関関係を持つことが認められた.この津波堆積物の不攪乱定方位試料の粒度組成と粒子配列の解析からは,少なくとも3回の強い津波の浸入が認められる.特に,今回解析した地点1の津波堆積物の粒子配列のデータは,地点1では東北東への流れを示す遡上流のみからなる可能性を示した.これらの証拠から,砂丘の背後に広がる湿原に浸入した津波堆積物の堆積モデルを呈示した.最初に砂丘を乗り越えた津波は,地表面を侵食し,泥炭偽礫を取り込む.津波によって流入した海水のほとんどは,海側にある標高の高い砂丘のために海へ戻らずに,沿岸低地に静水域を形成する.引き続く津波は,この静水域の水底の堆積物を侵食する強い力は持たない.最終的に,海水は地下浸透と蒸発によって消滅する.
著者
東野 外志男
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.96, no.9, pp.703-718, 1990-09-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
38
被引用文献数
23 44
著者
新正 裕尚 齊藤 哲
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.8, pp.571-584, 2017-08-15 (Released:2017-09-05)
参考文献数
55
被引用文献数
3

瀬戸内火山岩類は九州東部の大野地域から愛知県東部の設楽地域にかけて,中央構造線沿いにおよそ600 kmにわたり分布する.瀬戸内火山岩類を特徴付ける岩石種のひとつである高Mg安山岩は大野地域から紀伊半島中部の範囲で見られ,松山周辺では高縄半島から防予諸島にかけて広く分布する.本巡検対象の松山周辺では,安山岩類の多くは小規模な岩頸あるいは岩脈として産するため,貫入様式の観察には好適である.さらに瀬戸内火山岩類にはピッチストーンなどを含む珪長質火山岩類も広くみられる.この珪長質火山岩類は,松山周辺では砕屑岩および火砕岩からなる高浜層群,興居島層群中に含まれる.分布は極めて狭いが多様な岩相をもつこれらの地層群についても興居島南東海岸の露頭で観察を行う.
著者
米澤 正弘
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.8, pp.445-458, 2016
被引用文献数
1

<p>千葉市は東京湾の湾奥部北東側に位置し,昭和30年代半ばまで,海岸には広大な干潟が延々と広がっていた.遠浅で広い干潟では,古くからあさりなどの貝掘りや海苔の養殖が盛んで,観光としての潮干狩りや海水浴でも賑わっていた.</p><p>高度経済成長の影響で海岸の埋め立てが始まったのは,昭和30年代半ばである.その後何度かの停滞を挟むが埋め立ては順次進み,昭和50年代には終了する.埋め立ての進行に伴い工場や住宅が進出し,京葉線が通り,現在はビジネス街・大型商業施設地域・高層マンションなどが立ち並ぶ新都心として発展を遂げている.</p><p>埋め立て終了から約40年が経ち,埋め立ての記憶は,そこに住む人々からほとんど消えてしまっている.本巡検では,埋め立て地に建つJR稲毛海岸駅から旧汀線に向かって歩き,埋め立ての歴史を遡る.さらに旧海岸線沿いを歩きながら昔の海岸の名残を探し,地形・地質の変遷を考える.最後に,地形の人工的な改変についても見学する.</p>
著者
宮坂 省吾 山崎 茜 岡村 聡 英 弘 石井 正之 小板橋 重一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.113, no.Supplement, pp.S19-S28, 2007 (Released:2009-01-27)
参考文献数
30

札幌市の西に広がる後志火山性台地は,中新世後半から更新世にかけて形成された溶岩台地で,平坦面溶岩が広く分布しその火山原面が残されている.また,活発な火山活動は変質作用を伴い,多くの金属資源が開発されてきた.これらの地質要因を背景とする大規模地すべりを含む地すべり地形が広く分布し,時には自然災害としてあるいは開発行為を契機に地すべり活動が発生している.この見学コースでは,地質時代に発生した山体崩壊と岩屑なだれ堆積物,周氷河斜面堆積物を母材とした地すべりを観察する.
著者
田近 淳 小板橋 重一 大津 直 廣瀬 亘 川井 武志
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌
巻号頁・発行日
vol.113, pp.S51-S63, 2007
被引用文献数
1

石狩平野・夕張山地・富良野盆地を横断し,山麓に分布する変動地形を観察するとともに,夕張山地の大規模地すべり地形とその移動体を貫通したトンネルの見学を行なう.石狩低地東縁断層帯では,ブラインドスラストが形成した段丘面の緩やかな傾動や撓曲変形を観察する.断層帯周辺は縄文時代以降の遺跡の密集地帯であり,発掘により多くの地震性地すべりの痕跡が発見されている.それらも観察できるかもしれない.富良野断層帯では盆地の両側に分布する断層崖や地形面の傾動を観察するとともに,傾斜した十勝火砕流堆積物とこれを覆う砂礫層や断層の剥ぎ取り標本を観察する.一方,両断層帯に挟まれた夕張山地の蛇紋岩や白亜系蝦夷累層群・新第三系の分布域には大規模な地すべり地形が分布する.道道夕張新得線赤岩トンネルは蛇紋岩と付加体構成岩類からなる大規模地すべり移動体を貫くトンネルである.本コースは,活断層・地すべり・トンネルなど,変化に富む巡検となっている.現地での様々な議論を期待する.
著者
川上 源太郎 大平 寛人 在田 一則 板谷 徹丸 川村 信人
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.112, no.11, pp.684-698, 2006 (Released:2007-03-07)
参考文献数
69
被引用文献数
6 8

既存の年代資料と,新たに得た日高帯の花こう岩体およびそれに由来する砕屑物の熱年代値から,日高山脈の上昇-削剥過程を考察した.地殻浅部構成岩である日高帯の花こう岩と日高変成帯東縁の低度変成岩は始新世の冷却年代を示し,暁新世の変成作用ピーク後の広域的な温度降下を記録する.一方,高度変成岩が示す中新世の冷却年代は,衝突テクトニクスによるものである.前者に由来する花こう岩礫は中部中新統に含まれ,後者から供給されたトーナル岩や変成岩礫は上部中新統に出現する.このことは日高地殻の削剥が中新世を通じて深部へ進んだことを示す.一方,日高山脈南東域には前期漸新世頃の冷却年代が知られ,漸新世の地殻規模の水平すべり運動との関連を示唆する.一部の花こう岩礫が示す中新世のFT年代と堆積年代から,中期中新世初頭において最大100℃/Myrの冷却速度が概算される.これは日高変成岩類から見積もられる値20-30℃/Myrと比べかなり大きい.
著者
兵頭 政幸 北場 育子
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.2, pp.74-86, 2012
被引用文献数
3

中国黄土高原の紅粘土層の帯磁率と石英粒径が示す,鮮新世末の冷涼乾燥化イベントは海洋酸素同位体ステージ(MIS)G6-G4(2.73-2.68 Ma)に対比される.このイベントの発生と同時に約3.6 Maから続く温暖湿潤気候は終了したが,気候はまだ温暖であった.紅粘土層を覆う最初のレスL33層がMIS 104氷河期に対比される.この氷河期の氷床拡大は小規模であったが,L33層が示す冬季モンスーンは鮮新世に入って最強級の強さであった.L33層の最下部から中部にかけて小反転を多数伴うガウス-マツヤマ地磁気極性トランジションが記録され,その直上の古土壌S32層の下限が第四紀の始まりとなる.日本列島においても黄土高原と同様の長期温暖湿潤気候が続き,それはMIS G6-G4頃の冷涼乾燥化で終結した.ただし,その時の気候は黄土高原と同じくまだ間氷期並みに温暖であった.
著者
廣瀬 孝太郎 山崎 秀夫 長橋 良隆
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.11, pp.565-571, 2016-11-15 (Released:2017-02-20)
参考文献数
11
被引用文献数
4

猪苗代湖で掘削されたボーリングコア(INW212)の深度200~0cmを対象に,210Pb,134Cs,137Cs分析を行った.210Pb(ex)の分析結果から,深度39cm以深が約90年前以前に相当する可能性が示された.次に,134Csと137Csの分析結果から,深度29cmが1950年代初頭に相当すると推定された.さらに,これらの年代値と岩相層序について検討を行った結果,深度13.5~0cmの塊状の砂質シルトが2011年の東北地方太平洋沖地震に起因する堆積物であり,深度42~37.5cmの灰褐色粘土が1888年の磐梯山の崩壊に関連する堆積物であることが推定された.これらのイベントの深度と年代からINW2012コアの定常的な堆積速度を算出した結果,深度200.0~42.0cmにおいて1.0mm/yr,深度42.0~0cmにおいて約2.0mm/yrとなった.