著者
酒井 治孝
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.11, pp.701-716, 2005 (Released:2006-03-01)
参考文献数
91
被引用文献数
2 8

私達の研究により,ヒマラヤの変成岩ナップは~14 Maに出現し,11~10 Maに前進を停止し,1 Maにはヒマラヤの前縁山地が上昇したことが判明した.また11 Ma以前に,ヒマラヤは現在の高度以上になっていたことが明らかになった.またチベット高原からヒマラヤにかけて分布する東西引張り性の正断層群の形成時期,チベット高原から産出した中期中新世の植物化石や酸素同位体を使った古標高の推定結果は,いずれも山塊が14 Ma頃までに現在の高度に達していたことを示す.モンスーン開始の証拠とされた10~8 Ma頃の湧昇の活発化は,インド洋のみならず太平洋や大西洋からも報告されており,南極氷床の拡大とリンクしている可能性もある.今後はチベット高原の中部地殻が広く部分溶融しているという新しい知見を取り入れながら,ヒマラヤ・チベット山塊の進化と上昇,およびそのモンスーンシステムの発達との相互因果関係を解明して行かなければならない.
著者
斎藤 眞 中川 充
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.120, no.3, pp.105-114, 2014-03-15 (Released:2014-07-26)
参考文献数
16
被引用文献数
2 1

山本ほか(2011)は鹿児島県薩摩半島の八瀬尾地域に分布する蛇紋岩の産状を示し,四万十帯の白亜紀堆積岩の上に重なるクリッペとみなした.しかしながら,我々の調査によって,この蛇紋岩体は,過去の報告にあるように,白亜紀の堆積岩類に垂直ないしは高角で南北に延びた岩脈状に迸入したことが明らかになった.その根拠は,彼らが低角境界で堆積岩類に重なるとした尾根上の蛇紋岩体と白亜紀の堆積岩との間に高角~鉛直の境界が存在すること,彼らが指摘した谷沿いに分布する蛇紋岩の孤立岩塊,岩屑堆積物は,明らかな蛇紋岩露頭であることなどの明確な産状による.さらにそれら蛇紋岩の露頭は,谷間で小さな滝を作り,山腹では急崖を作る.この蛇紋岩体は徳之島,四国西部で認められる蛇紋岩に対比され,白亜紀末~暁新世初頭に迸入したものと考えられる.
著者
吉田 晶樹
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.121, no.12, pp.429-445, 2015-12-15 (Released:2016-03-15)
参考文献数
78
被引用文献数
1 2

プレートテクトニクス理論確立後の1970年代半ばに,プレートに働くさまざまな力が分類され,それらの大きさについて定量的な議論が行われるようになった.この研究はプレート運動を球面上の剛体的な回転運動として扱うことで可能であり,地表のテクトニックな情報のみを用いた理論解析の結果,スラブ引っ張り力がプレート運動の主要な原動力の候補とされてきた.しかし実際のプレートは有限の粘性率を持つので,完全な剛体運動をするのではなく,内部変形をしながら運動しているはずである.最近のマントル対流の数値シミュレーション結果や大規模地下構造探査による地震学的証拠から,プレート直下のマントルの流れが生み出すマントル曳力もプレート運動や大陸移動の主要な原動力となり得ることが明らかになってきた.その場合,プレート運動や大陸移動の原動力として,スラブ引っ張り力とマントル曳力のどちらが大きいのかという新たな難題が生まれる.
著者
酒井 治孝 今山 武志 吉田 孝紀 朝日 克彦
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.6, pp.403-421, 2017-06-15 (Released:2017-07-25)
参考文献数
138
被引用文献数
3

ヒマラヤの4つの地質帯を画するプレート境界断層の活動が,北から南へと移動するのに伴い山脈は上昇・隆起してきた.大陸衝突以前に深度100kmを超えるマントルまで沈み込んだテチス海の海洋プレートがslab break-offしたことにより,約50~35Maにチベット前縁山地が急激に上昇した.次にインド亜大陸の北縁の上部原生界の地層が沈み込み,地下約40kmに達し中圧型の変成作用を被ったが,デラミナーションを起こし,22~16 Maに急激に上昇した.約15Maに地表に露出した変成帯は上昇を続け,南方のレッサーヒマラヤを構造的に覆い変成岩ナップを形成したが,その運動は11~10Maに停止した.それ以降ナップと下盤の弱変成したレッサーヒマラヤ堆積物は,その先端から北方に向け約10km/Myrの速度で冷却した.また運動停止後,その前縁に生じたMBTに沿ってインドプレートの沈み込みが始まり,3~2.5Maには南方のMFTに移動し,それによってヒマラヤ前縁山地とシワリク丘陵が誕生した.
著者
小田原 啓 工藤 茂雄 井龍 康文 佐藤 時幸
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.111, no.6, pp.313-331, 2005 (Released:2005-10-01)
参考文献数
69
被引用文献数
9 6

沖縄本島中部の読谷村には,主に第四紀更新世のサンゴ礁堆積物からなる琉球層群が広く分布する.同層群は先第三系の名護層と上部新生界の座喜味層を不整合関係で覆う.本地域の琉球層群は,伊良皆層と楚辺層よりなる.伊良皆層は伊良皆付近で掘削されたコア試料のみに認められ,溶解・浸食を受け赤色化したサンゴ石灰岩・砕屑性石灰岩および礫岩からなり,層厚は11 mを超える.伊良皆層は楚辺層に不整合関係で覆われる.楚辺層は5つのユニットの累重体であり,個々のユニットは低海水準期の浅海相であるサンゴ石灰岩から高海水準期の沖合相である石灰藻球・Cycloclypeus-Operculina・砕屑性石灰岩へと上方深海化する整合一連のシーケンスよりなる.本層の分布高度は80 mに及び,層厚は70 mに達する.楚辺層の年代は,石灰質ナンノ化石より0.41-0.85 Maである.層位学的位置および年代より,楚辺層は徳之島,沖永良部島,与論島,沖縄本島南部,宮古島の琉球層群主部の一部と対比される可能性がある.

1 0 0 0 OA 立山火山

著者
中野 俊 奥野 充 菊川 茂
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.116, no.Supplement, pp.S37-S48, 2010 (Released:2012-01-26)
参考文献数
58
被引用文献数
1 4

立山火山は20数万年前に活動を始めた複合火山である.現在,北東端の地獄谷で活発に噴気活動が続く.火山噴出物の分布域から見ると地域的には弥陀ヶ原地域と五色ヶ原地域に大別され,両者の間を浸食カルデラの立山カルデラが隔てる.カルデラ内では1858年飛越地震により山体崩壊が発生し,その未固結堆積物は日常的に崩壊が著しく,土砂流出を防ぐための大規模な砂防工事が明治時代以来盛んに行われている.日本地質学会主催による立山火山あるいは立山カルデラに関する見学旅行は,近年だけでも1966年,1990年,2001年に実施されている.今回は,交通の便がよい弥陀ヶ原地域を巡って火砕流・溶岩流・テフラ層の観察を行なう.特に称名滝火砕流堆積物のさまざまな岩相,また,水蒸気爆発による完新世テフラを観察する.カルデラ縁の展望台からは,カルデラ及び五色ヶ原地域の噴出物を遠望する.
著者
香川 淳 大塚 裕之
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.106, no.11, pp.762-782, 2000-11-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
44
被引用文献数
3 7

国分層群は, 鹿児島湾奥北西沿岸部の加治木堆積盆における中期更新世前半の内湾 湖沼成堆積物からなり, 加治木層・鍋倉層・蒲生層・小浜層・朝日層・小田層・隼人層・麓層の8層準に区分される.このうち鍋倉層・小浜層・小田層には, 水中火砕流や安山岩の噴出, 砂礫の流入および津波による削剥と再堆積を特徴とする著しい不連続面が認められる.これらの削剥面は, その下位に伸張応力を示唆する共役断層が発達することから, 火山活動を伴う造構運動によって形成された堆積物と考えられる.こうした「火山-構造性イベント」は, 鹿児島地溝の拡大に伴いくり返し発生したと考えられる.
著者
鈴木 秀史
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.43-46, 2008-01-15 (Released:2009-02-18)
参考文献数
20
被引用文献数
2

A fossil palatine of alepisauroid fish was found from the lower part of the Middle Miocene (15 Ma) Iseyama Formation in Ueda City, Nagano Prefecture, central Japan. In comparison with a Recent species, this is identified as a palatine of lancetfish which belongs to the genus Alepisaurus. This is the fourth record of alepisauroid fossils in Japan and also the third one in the Northern Fossa Magna Region of Nagano Prefecture and is the largest fossil palatine of lancetfish discovered from the Japanese Miocene strata. This is probably an undescribed species of the genus Alepisaurus.
著者
櫻井 和彦 臼杵(小野) 昌子 古沢 仁 加納 学 東 豊土 澤村 寛
出版者
The Geological Society of Japan
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.113, pp.S153-S165, 2007

北海道の各地にある博物館や資料館の中には,地質や化石から地域の生い立ちを紹介する館園も数多くある.今回はその中から,北海道を横断する行程上にある五館を見学する.<br>三笠市立博物館(Stop2)・むかわ町立穂別博物館(Stop5)では,白亜紀に海だった北海道中央部を泳いでいたアンモナイトや,長頸竜・モササウルスなどの海生爬虫類化石を観察する.足寄動物化石博物館(Stop4)・札幌市博物館活動センター(Stop1)では,新生代に海だった北海道で進化を遂げたクジラやデスモスチルス,カイギュウなどの海生哺乳類化石について観察する.日高山脈館(Stop3)では,北海道の背骨とも呼ばれる日高山脈に産するさまざまな岩石を通じ,島弧的地殻の形成過程などについて考える.<br>このほか,日本の近代産業を長い間支えてきた石炭産業に関わる展示や,日高山脈など各地の自然環境に関する展示にもふれる.また移動途中には車窓より北海道の自然景観を実際に観察できるであろう.<br>各地域の生い立ちを地質・化石から紹介する博物館を,各館の学芸員による案内で見学しながら,北海道の生い立ちを思い浮かべてほしい.
著者
山下 透 檀原 徹 岩野 英樹 星 博幸 川上 裕 角井 朝昭 新正 裕尚 和田 穣隆
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.113, no.7, pp.340-352, 2007 (Released:2008-03-29)
参考文献数
50
被引用文献数
1 7

紀伊半島北部に分布する室生火砕流堆積物とその周辺の凝灰岩(石仏凝灰岩,古寺凝灰岩,玉手山凝灰岩)および外帯中新世珪長質岩類について,屈折率を用いた軽鉱物組合せモード分析を行った.その結果,紀伊半島北部の中期中新世珪長質火砕流堆積物の斜長石系列は,すべてオリゴクレース~ラブラドライトで特徴付けられることから,これら4者は対比された.加えて室生火砕流堆積物は外帯に分布する熊野酸性岩類の流紋岩質凝灰岩の一部と対比できた.これらのことから,室生火砕流堆積物と石仏凝灰岩,古寺凝灰岩,玉手山凝灰岩は15 Maの熊野地域のカルデラを給源とする同一の大規模火砕流堆積物であると推定される.また熊野酸性岩類の中のアルバイトで特徴付けられる流紋岩質凝灰岩は,同じ軽鉱物組合せをもつ中奥弧状岩脈を給源とする可能性がある.
著者
安井 敏夫
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.3, pp.222-225, 2013-03-15 (Released:2013-07-03)
参考文献数
5

Edmund Naumann, a geologist employed by the Japanese government in the early Meiji period, visited Shikoku Island for geological investigation in 1883. At that time, two medical doctors named Otsuka and Teshima asked him to judge the quality of coal in the Ryoseki area of Kochi Prefecture. Little was known about Teshima until after a recent discovery of his grave and the remains of his house, which was used as a hospital and a private school in and around Ryoseki . He is identified Yoshinaga and was 53 years old at the time.
著者
飯泉 克典 国府田 良樹 小池 渉 西本 豊弘 安藤 寿男 伊達 元成
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.116, no.5, pp.243-251, 2010 (Released:2010-10-13)
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

茨城県つくば市の花室川河床から海生哺乳類である鰭脚類の化石骨を発見し,ニホンアシカZalophus japonicusオスの左上腕骨と同定した.また,中島ほか(2002)に中手骨あるいは中足骨と報告されていた標本を再検討の結果,Z. japonicusメスの左距骨と同定した.Z. japonicusの左上腕骨の骨組織について14C年代測定を行い,27,900±120 14C BPの年代値と31,950~31,300 cal BPの暦年較正年代値が得られ,この化石の供給源は化石の産状も考慮して桜川段丘堆積物に相当する緩斜面堆積物であると推定された.この年代は,ナウマンゾウPalaeoloxodon naumanniに代表される花室川の哺乳類化石群の含有層の年代が後期更新世末期であることを裏付けるものである.また,陸生哺乳類を主体とする花室川の哺乳類化石群から鰭脚類の左上腕骨と距骨が産出した理由については,後期旧石器時代人による人為的行為の可能性を検証する必要性が指摘される.
著者
中澤 努 中島 礼 植木 岳雪 田辺 晋 大嶋 秀明 堀内 誠示
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.112, no.5, pp.349-368, 2006 (Released:2006-09-14)
参考文献数
58
被引用文献数
7 12

大宮台地の地下に分布する更新統下総層群木下層の形成過程について,コアの層相および産出する化石群集を基にシーケンス層序学的な検討を行った.大宮地域の木下層は,開析谷システムにより形成された下部とバリアー島システムによって形成された上部に分けられ,下部および上部のそれぞれに上方細粒化と上方粗粒化のセットからなる堆積相累重様式が認められる.花粉化石とテフロクロノロジーおよびMISカーブの対比に基づくと,下部はMIS6~5e前期,上部はMIS5e後期に対比され,下部の開析谷システムは低海面期堆積体および海進期堆積体,上部のバリアー島システムは高海面期堆積体と解釈される.
著者
松本 彦七郎
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.31, no.373, pp.323-340, 1924-11-20 (Released:2008-04-11)
被引用文献数
1 3