著者
藤原 卓
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.367-373, 2010-06-25 (Released:2015-03-12)
参考文献数
16

ヒューマンエラーは人間の本来持っている特性と,人間を取り巻く広義の環境がうまく合致していないために引き起こされるものと定義される。現在のリスクマネージメントにおいては,ヒューマンエラーはゼロにはできないので,医療事故は必ず発生するということが基本となっている。またヒューマンエラーだけでなく,構造的な危険(リスク)もゼロにすることは不可能で,安全とは受け入れがたいリスクが無いことと定義される。したがってリスクマネージメントに加え,医療事故が発生した後の対策としてのクライシスマネージメントが重要になる。小児歯科の医療従事者は,パルスオキシメーターなどのモニター機器を活用するとともに,救急蘇生術を習得しておく必要がある。AHA のBLS ヘルスケアプロバイダーや二次救命としてのPALS コースがそれに適している。院内感染対策は標準予防策が基本となる。血液を媒介とする肝炎やヒト免疫不全ウイルス感染症について,その感染確率や予防法,治療法について知っておく必要がある。麻疹,水痘,流行性耳下腺炎,風疹などの小児期によくみられるウイルス感染症対策も重要で,医療従事者は抗体価測定とその結果に基づくワクチン接種が必要である。
著者
榊原 章一 中野 崇 加藤 一夫 中垣 晴男 福田 理
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.459-464, 2011-12-25 (Released:2015-03-14)
参考文献数
27
被引用文献数
1

齲蝕は歯垢中の細菌が産生する酸が歯質を脱灰することによって起こる。一方フッ化物は齲蝕予防効果があり,歯垢中に低濃度で常時存在することでそれを発揮する。フッ化物による齲蝕予防効果の1 つに歯垢細菌の糖代謝に対する抗酵素作用があり,菌体外への乳酸などの有機酸の生成を抑制する。本論文ではフッ化物の具体的な効果を解明するため,250 ppmF NaF 溶液を用いた際の,歯垢細菌へのフッ化物の影響を調査した。NaF 溶液で洗口した群を実験群,蒸留水で洗口した群を対照群とし,各群の洗口後,10 分後に10%グルコース溶液にて洗口を行い,更にその後5 分後に歯垢採取を行い,採取した歯垢のフッ化物,乳酸及びグルコースの濃度を測定した。本実験より以下の結果を得た。・実験群では,フッ化物濃度は有意に上昇した・実験群ではグルコース洗口後の乳酸の産生濃度が有意に減少した・実験群ではグルコースの残留量が多い傾向にあった本実験の結果より,フッ化物洗口によってフッ化物イオンが歯垢中に取り込まれ,歯垢細菌の乳酸産生を抑制したことが明らかとなった。しかしながら,NaF 溶液による歯垢中フッ化物濃度の上昇は一時的であるため,今後は歯垢中フッ化物濃度を長時間高濃度に維持する方法について検討が必要である。
著者
三上 俊成
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.1-11, 2005-03-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
43
被引用文献数
1

キシリトールを配合したガムを噛むことは,齲蝕感受性が高く,また上手に歯磨きを行えない小児に対して推奨できる齲蝕予防法であると考えられる.このガムにフッ化物を配合して歯質の脱灰を抑制しその再石灰化を促進するには,低濃度で安全なフッ化物配合量での再石灰化促進効果を調べる必要がある.本研究では10%キシリトール溶液に低濃度フッ化物を段階的に添加した場合のヒトエナメル質再石灰化促進効果についてCMR法を用いて検討し,さらに試作したフッ化物配合キシリトールガムの再石灰化促進効果を,市販の再石灰化促進物質配合キシリトールガムとin vitro試験およびin vivo試験で比較した.その結果,10%キシリトールと0.4PPm以下のフッ素を添加した再石灰化液では対照(0PPm F)に対して再石灰化率の増加に有意差がみられなかったが,0.8ppm以上では再石灰化率の増加に高い有意差が認められた.再石灰化促進効果がフッ素濃度0.4ppmと0.8ppmの問で大きく変化したことは,フッ素濃度が低い場合にはキシリトールが抑制的に働く可能性を示唆していた.フッ化物を配合した試作ガム(2μgF/枚)は,in vitro試験では2種類の市販ガムの中間の再石灰化効果を示し,ヒト口腔内では効果が低い方のガムと同程度であった.
著者
假谷 直之 松村 誠士 RODIS Omar M M 紀 瑩 杜 小沛 志野 綾子 下野 勉
出版者
一般社団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.379-384, 2006-06-25

今回,我々は新しく発売されたミュータンス菌測定キット,オーラルテスターミュータンスの<I>S. mutans</I>検出能力を臨床評価する目的で研究を行った。被検児は岡山県内にあるN保育園児(4,5歳児)52名。オーラルテスターミュータンスとカリオスタットはマニュアルに従い処理,判定した。PCR法は,QIAGENのマニュアルに従いDNAを調製してPCR後,電気泳動にてバンドを確認した。対象を<I>S. mutans</I>とした場合,オーラルテスターミュータンスの値をHigh,Low二群に分けた分析で,High-Low間ではP<0.001,カリオスタット値の同様な分析では,High-Low間においてP<0,01でBand検出の有無との問に関連性を認めた。対象を<I>S. sobrinus</I>とした場合,オーラルテスターミュータンスの値をHigh,Low二群に分けた分析で,High-Low間においてはBand検出の有無との間に関連性を認めなかった。カリオスタット値の同様な分析においても,High-Low間でBand検出の有無との問に関連性を認めなかった。今回の研究で,<I>S. mutans</I>に特異的といわれている領域を増幅したPCR法によるバンド検出率と関連することが確認された。オーラルテスターミュータンスは,齲蝕原因菌のうち特に<I>S. mutans</I>の検査として有用と考えられる。
著者
吉原 俊博 加我 正行 小口 春久
出版者
小児歯誌
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.773-777, 1997

口腔内に潜伏する単純ヘルペスウイルスの検出を目的として,本学歯学部附属病院小児歯科外来を受診した,口腔内に疱疹性歯肉口内炎および口唇ヘルペスを発症していない健常児241名(年齢0歳2か月~14歳8か月)の唾液を採取して検体とし,PCR法を用いてHSVの検出を行い,以下の結果を得た。<BR>1)検体試料採取時,口腔内に疱疹性歯肉口内炎および口唇ヘルペスを発症していない健常児を対象としたにもかかわらず,被験児唾液中から17.0%の割合でHSVが検出された。<BR>2)年齢別のHSV検出率では,0歳および1歳において0%であり,2歳以降においてほぼ一定の検出率であった。<BR>3)兄弟姉妹の間の潜伏状況を調べると,兄弟姉妹全員がHSV(+)である群と兄弟姉妹のうち少なくとも1人がHSV(+)である群との間に有意差はなかった。
著者
大塚 義顕 渡辺 聡 石田 瞭 向井 美惠 金子 芳洋
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.867-876, 1998-12-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
28
被引用文献数
4

乳児期に獲得される嚥下機能の発達過程において,舌は中心的役割を果たしている。しかしながら,吸啜時の動きから固形食嚥下時の動きへと移行する舌の動きの経時変化の客観評価についての報告はほとんど見られない。そこで,生後20週から52週までの乳児について,超音波診断装置を用いて顎下部より前額断面で舌背面を描出し,舌の動きの経時的発達変化の定性解析を試みたところ以下の結果を得た。1.生後20週には,嚥下時の舌背部にU字形の窪みが見られ,舌全体が単純に上下する動きが観察された。2.生後26週には,嚥下時の舌背正中部に陥凹を形成する動きがはじめて見られた。3.生後35週には,上顎臼歯部相当の歯槽堤口蓋側部に舌背の左右側縁部が触れたまま正中部を陥凹させる動きが確認できた。4.生後35週から52週までの舌背正中部の陥凹の動きは,ほぼ一定で安定した動きが繰り返し観察できた。5.舌背正中部にできる陥凹の動きの経時変化から安静期,準備期,陥凹形成期,陥凹消失期,口蓋押しつけ期,復位期の6期に分類することができた。以上より,前額断面での舌運動は,舌の側縁を歯槽堤口蓋側部に接触固定し,これを拠点として舌背正中部に向けて食塊形成のための陥凹を形成する発達過程が観察できたことから,食塊形成時の舌の運動動態がかなり明らかとなった。
著者
大河内 昌子 向井 美惠
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.224-231, 2003 (Released:2013-01-18)
参考文献数
18

乳児を対象にした乳児用食品の固さの基準値についての客観的な検証は行われていない現状である.そこで,乳児に適正な物性基準の資料を得る目的で,離乳期の乳児を対象に摂食時の口腔領域の動きを観察評価して,その発達状態によって4群に分類し,以下の検討を行った.被験食品は,予め調整した固さの異なる4種類の基準食品とし,それらの食品の摂食時の処理方法の適否および顎の運動回数を指標として4群間で比較検討を行い以下の結論を得た.1.被験食品の固さが増加するに伴い,適正処理可能な乳児の割合は減少した.2.乳児は,食品の固さに応じて,顎の運動回数を変化させ食品を処理していることが認められた.3.食品の固さの変化による顎の運動回数は,離乳の時期によって異なることが示唆された.離乳初期~後期の乳児が処理できる固さの目安は得られたが,今後これらの固さの食品に対して適切な顎運動回数の検討などがさらに必要と考えられた.
著者
岡崎 好秀 東 知宏 田中 浩二 石黒 延枝 大田原 香織 久米 美佳 宮城 淳 壺内 智郎 下野 勉
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.677-683, 1998-09-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
25
被引用文献数
4

655名の小児を対象として,3歳時と小学校1年生時から中学1年生時までの,齲蝕指数の推移について経年的に調査した。1)3歳時の齲蝕罹患者率は65.6%,1人平均df歯数は3.80歯であった。2)中学1年生時の齲蝕罹患者率は93.4%,1人平均DF歯数は4.78歯であった。3)3歳時のdf歯数は,小学校1年生から中学校1年生までのDF歯数と高度の相関が認められた(p<0.001)。4)3歳時のdf歯数が0歯群と9歯以上群の小学校1年生から中学校1年生までの永久歯齲蝕罹患者率には,有意の差が認められた(p<0.001)。5)3歳時のdf歯数が多い群ほど,永久歯のDF歯数も高い値を示した(p<0.05)。3歳時の齲蝕は,将来の齲蝕に影響を与えることから,乳幼児期からの齲蝕予防の重要性が示唆された。
著者
濤岡 暁子 野坂 久美子
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.821-831, 2000-09-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
29

本研究では,各歯列期における齲蝕感受性の程度が,齲蝕の新生とリコールの間隔の間に,どれ程関連しているかについて調査を行った。対象は,昭和60年から平成6年までの10年間に本学小児歯科外来に新患として来院した患児2,797名のうち,リコールを1年間以上継続して行った1,329名である。まず,患児を齲蝕と修復物の数と部位から,齲蝕感受性の高い群と低い群に分けた。さらに,それぞれの群を初診時年齢から4つに分類し,リコール間隔の一定していた群と不規則な群に再分した。その結果,初診時年齢0~3歳未満で齲蝕感受性の高い群は,1か月間隔に比べ2か月間隔のリコールでは,齲蝕発生歯数が著しく増加していた。また,初診時が0~3歳未満,3~6歳未満群の時,齲蝕感受性の高い群,低い群ともに,乳歯列から,混合歯列,永久歯列へと移行するに従い,齲蝕の発生は,減少していった。しかし,6~8歳未満,8~10歳未満群では,混合歯列から,永久歯列へ移行した時,齲蝕発生歯数は多くなっていた。また,リコール間隔が一定と不規則の場合を比較すると,各歯列期に移行した時の齲蝕の発生は,減少した場合は一定の方が齲蝕の減少歯数が大きく,増加した場合は不規則の方がより大きい齲蝕増加歯数であった。以上の結果から,リコールは,低年齢時から規則性をもって始めるほど有効性があり,また,齲蝕の程度や永久歯萌出開始時期を考慮した間隔が必要と考えられた。Key words:齲蝕感受性,齲蝕の発生,リコール間隔
著者
太田 増美 池田 孝雄 安達 詩季 難波 隆夫 朝田 芳信
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.474-481, 2011-12-25 (Released:2015-03-14)
参考文献数
26

第一大臼歯の異所萌出は第一大臼歯の近心位への萌出により近接した第二乳臼歯の歯根吸収を引き起こし,後継永久歯の萌出余地不足を招来する。そのため,早急な第一大臼歯の正常な位置への誘導が必要である。今回,著者らは上顎第一大臼歯さらに上下顎第一大臼歯の異所萌出が認められた2 例においてバンド,エラスティックチェーン,リンガルボタンを利用したHalterman の装置とその改良型装置により第一大臼歯の遠心への萌出誘導を行った。これらの治療の結果以下のことが示された。1 .Halterman とその改良型装置は萌出誘導期間が2~3 か月と比較的短く,装着中に痛みや違和感を示すことはなかった。2 .Halterman 改良型装置は上顎だけでなく下顎の症例に対しても有効な装置であった。このことより,上下顎第一大臼歯の異所萌出に対してHalterman とその改良型装置は比較的容易に第一大臼歯を遠心に誘導することが可能であり,さらに短期間で行えることから患者に負担が少ない有効な治療法であることが示唆された。
著者
楽木 正実
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.114-137, 1986-03-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
67

フッ化モリブデン酸アンモニウム(NH4)2MoO2F4の齲蝕抑制機序を,象牙質に及ぼす影響の面から検討した。その結果,(NH4)2MoO2F4は,健全象牙質粉末と反応して,フッ素のみを主体としたフッ化物よりもCaF2を速やかに生成させ,フッ素の取込み量も増加させた。無機質における脱灰と再石灰化を想定し,BrushiteおよびWhitlockite合成系に(NH4)2MoO2F4を添加した実験においては,他のフッ化物と同程度にapatiteを生成させた。pH6.0およびpH5.5に調整した(NH4)2MoO2F4で処理したコラーゲンはコラゲナーゼによる分解を受けず,(NH4)2MoO2F4は象牙質有機質の溶解を抑制する可能性が推察された。さらに臨床応用を想定し,(NH4)2MoO2F4を歯面塗布した場合には,象牙質の耐酸性の向上作用は,10%濃度でほぼ上限に達し,この効果は,塗布直後のみならば人工組織液に浸漬後も38%Ag(NH3)2Fと同程度であった。10%(NH4)2MoO2F4を象牙質に塗布した場合,直後には象牙質表面だけでなく象牙細管内にもおよぶCaF2の生成ならびにフッ素とモリブデンの内層への浸透を認め,8週間経過後には38%Ag(NH3)2Fにはおよばないもののapatiteの成長による象牙細管の封鎖傾向を認めた。以上の研究結果から,(NH4)2MoO2F4は歯質を着色させることなく,象牙質に対しても抗齲蝕作用を有することが示唆された。
著者
眞田 奈緒美 嶋田 理菜 岡田 裕莉恵 山口 茜 木村 奈緒 根本(山本) 晴子 清水 邦彦 清水 武彦
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.466-473, 2018

<p>横紋筋肉腫は,骨格筋へ分化する胎児性間葉系細胞を発生母地とする軟部悪性腫瘍であり,小児の軟部悪性腫瘍としては代表的な疾患の一つである。今回我々は,横紋筋肉腫の治療に伴い歯および骨の形成障害を生じた7歳0か月の女児の1例を経験したので報告する。患児は2歳6か月時に右眼窩原発胎児型横紋筋肉腫(StageⅠ)と診断され,急速な腫瘍増大のため腫瘍の8割を経結膜にて摘出し,2歳7か月から4歳6か月まで化学療法が施された。更に,2歳8か月から2歳9か月までの期間に右側眼窩から上顎洞にかけて総線量45Gyの放射線治療が施行された。</p><p></p><p>口腔内所見およびエックス線所見から,上顎右側部において矮小歯,歯胚の欠如,歯根形成不全,歯槽骨の形成不全が認められた。他部位においても歯胚の欠如やエナメル質石灰化不全を認めた。また,これらの症状に伴い,叢生および開咬を認めた。</p><p></p><p>本症例に認められた,多数歯にわたる著しい形成障害や顎骨の発育不全は,横紋筋肉腫の治療の為に施された放射線療法および化学療法により誘発された可能性が示唆された。</p>
著者
村井 雄司 青木 裕美 田中 睦 首藤 かい 近藤 有紀 倉重 圭史 疋田 一洋 安彦 善裕 齊藤 正人
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.509-517, 2014-11-25 (Released:2015-11-25)
参考文献数
63

生体を覆う上皮は,重層や角化および上皮間の緊密な結合により病原体が生体に侵入することを防ぐ物理的防御機構と,抗菌ペプチドを発現することにより病原体の付着を抑制する化学的防御機構を有している。活性型ビタミンD3 の生理活性は,カルシウム代謝調節による骨リモデリングのみならず,上皮細胞の分化誘導や,免疫調節に関わっていることが明らかになっている。本研究では活性型ビタミンD3 をヒト角化上皮細胞株(HaCaT 細胞)に添加することによる,抗菌ペプチドの発現変化を明らかにすることを目的とした。HaCaT 細胞は,活性型ビタミンD3 添加により抗菌ペプチドであるhBD-1, hBD-2 およびLL-37 mRNA と,それぞれのペプチドの有意な発現上昇を認めた。しかしhBD-3 は変化を認めなかった。本結果から活性型ビタミンD3 は角化上皮の化学的防御機構に寄与し,これを増強すると考えられた。また発現上昇を認めた抗菌ペプチドは,齲蝕原因菌や歯周病菌に対しても抗菌作用を有するため,良好な口腔環境維持するうえで活性型ビタミンD3 の存在が重要である可能性が示唆された。
著者
新里 法子 番匠谷 綾子 大谷 聡子 五藤 紀子 岩本 優子 山﨑 健次 香西 克之
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.237-242, 2012-06-25 (Released:2015-03-17)
参考文献数
21
被引用文献数
1

児童虐待の相談件数は近年急激な増加傾向を示しており,社会全体で早急に解決すべき重要な課題となっている。我々は,広島県内の2 か所の児童相談所および子ども家庭センターの一時保護施設に入所した要保護児童を対象に,齲蝕経験者率,未処置歯所有者率,一人平均齲蝕経験歯数および一人平均未処置歯数について調査し,一般の児童と比較検討を行った。その結果,要保護児童は齲蝕経験者率および未処置歯所有者率が高く,一人平均齲蝕経験歯数および一人平均未処置歯数が多いことが示された。また,虐待により保護された要保護児童と,その他保護者の長期療養などの理由で入所した要保護児童の齲蝕罹患状況に,大きな差は認められなかった。要保護児童全体の齲蝕罹患率が高いことから,要保護児童の生活環境自体が齲蝕を誘発しやすいことが推測された。歯科医療従事者は小児の多発齲蝕や長期にわたる齲蝕の放置などを通じて,保護者の養育放棄とそれに伴う養育環境の悪化に気付くことで,虐待を早期に発見できる可能性があることが示唆された。
著者
伊藤 雅子 野坂 久美子 守口 修 山田 聖弥 印南 洋伸 山崎 勝之 小野 玲子 甘利 英一
出版者
一般社団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.643-652, 1986
被引用文献数
11

岩手医科大学歯学部附屈病院小児歯科で行った開窓牽引症例56例,67歯について,処置の難易度を左右する因子を解明する目的で,臨床的に種々の点から再検討を行った。<BR>埋伏の原因では,位置異常が最も多かった。性別の出現頻度では,女子は男子の約2倍であった。歯種別の出現頻度では,上顎中切歯が最も多くを占めていた。上顎中切歯の彎曲歯では,その歯冠軸傾斜角度が100°前後,歯根彎曲度が60°以上でも90°以内であれば,根尖部が骨質から露出しない程度まで誘導し,その後補綴的処置をする事で誘導可能であった。<BR>処置開始年齢は,どの歯種も正常な萌出時期より約2年過ぎていたが,歯根未完成歯が85%を占めていた。処置法は,大臼歯部では全て開窓のみであり,上顎中切歯・犬歯は全て開窓後,牽引を行った。誘導期間は,平均約1年であったが,同じような条件の埋伏歯の場合,歯根未完成歯の力が誘導期間が短かったことから,正常な萌出時期と上ヒベ遅延傾向を認めたら,幽根完成前に処置を開始した方が得策と思われた。処置後の状態は,歯髄死,歯根の吸収,歯槽骨の吸収を認めた症例はなかった。歯肉部膨隆は,上顎中切歯4歯の根尖部に認めたが,根尖が歯槽粘膜上に露出するものはなかった。歯頸部歯肉の退縮は約20%に認められたが,ほとんどが0.5mmから1.0mm以内であった。なお,これらの退縮に手術法による差異はみられなかった。