著者
加藤 司 谷口 弘一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.158-167, 2009 (Released:2012-02-22)
参考文献数
44
被引用文献数
6 4

許しとは“自身の感情を害することを知覚し, それに向けられた否定的な感情, 認知, 動機づけあるいは行動が, 中性あるいは肯定的に変化する個体内のプロセス”である。本研究では, 許しの個人差を測定する許し尺度を作成した。研究1では, 先行研究などから, 許し項目を作成し, 691名の大学生によるデータを用い因子分析を行った結果, 恨みと寛容の2因子が抽出された。192名の大学生のデータを用いた, 4週間の間隔をあけた再検査法による信頼性係数は, 許しの否定では0.72, 許しの肯定では0.82であった。研究2では, 331名の大学生を対象に, 攻撃性, 怒り, 共感性, ビックファイブとの関連性を検討し, 許し尺度の構成概念妥当性を検証した。さらに, 研究3では, 特定状況における許し単一項目と許し尺度との関連性が検証され, 結果は仮説と一致していた。これらの結果から, 許し尺度の妥当性が保証された。
著者
石山 裕菜 鈴木 直人 及川 昌典 及川 晴
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.1-10, 2020-03-30 (Released:2020-05-01)
参考文献数
37
被引用文献数
3

悲観主義者は楽観主義者よりも不安を感じやすく不適応な傾向にあるが,その一部には不安を手かがりに予防的な対処を行い,パフォーマンスを向上させる防衛的悲観主義者が含まれる(Spencer & Norem, 1996)。表現筆記には,パフォーマンスの向上を含む様々な効用が報告されているが,それに関する知見は混交している。本研究では,表現筆記の効用が個人の認知方略と一致した内容を筆記することによって調整される可能性を,客観的なパフォーマンス指標であるダーツ課題を用いて検討した。参加者97名は,課題を行う前に,失敗する可能性に注目して対処を考えるコーピング筆記,成功する可能性に注目して課題に集中するマスタリー筆記,課題とは無関係な内容を考える統制筆記のいずれかを行った。その結果,防衛的悲観主義者においては,コーピング筆記条件のパフォーマンスが他の筆記条件よりも高かった一方で,方略的楽観主義者においては,差が観察されなかった。表現筆記の効用は,適応に優れる楽観主義者よりも不安を感じやすい悲観主義者において顕著であり,また,防衛的悲観主義者の持つ慢性的な認知方略と整合した内容で表現筆記を行うことが,パフォーマンスの向上に有効である可能性が示唆された。
著者
廣瀬 英子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.343-355, 1998-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
98
被引用文献数
8 3

本論文はこれまでの進路に関する自己効力の研究を取り上げた展望論文である。自己効力理論を進路関連の領域に応用したキャリア・セルフエフィカシー研究はHackett & Betz (1981) が女性の進路発達を理解するために自己効力理論からアプローチしたことに始まった。その後研究の関心は進路選択に対する自己効力, 進路選択過程に対する自己効力, 進路適応に対する自己効力の三分野に向けられてきた。進路選択に対する自己効力とは, 自分の進路選択についてどのような分野に対してどの程度自信を持つかを指す。初期の頃は男性中心の職業・女性中心の職業に対する自己効力の性差を論じていたが, 最近ではHollandやKuderなどの職業興味理論に基づいた興味分類に対応した形での自己効力の測定と, 関連する要因とのつながりの研究に発展している。進路選択過程に対する自己効力とは, 進路を選択していく過程そのものについての自己効力を指し, Taylor & Betz (1983) に代表されるいくつかの尺度が開発され, また進路不決断など他の要因との関連が注目されている。進路適応に対する自己効力とは, 選択した職業に適応し満足や成功を得ることについての自己効力であり, まだあまり研究が蓄積されていないが, 進路決定後の適応状況を予測できるという意味で重要である。今後の課題としては, 新たにLent, Brown & Hackett (1994) の社会・認知的進路理論で提唱された, 職業興味・進路選択・進路に関わるパフォーマンスについての3モデルの実証的な検証を進めること, これまで用いられてきた様々な測定尺度を見直して信頼性・妥当性を検討すること, 性差の比較から個人差の比較へと重心を移すことなどがあげられる。さらに, 研究対象者の拡大や縦断的研究, 進路指導・進路カウンセリングでの自己効力理論の応用, 進路適応に対する自己効力の研究の充実が期待される。
著者
植木,理恵
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, 2002-09-30

本研究の目的は,学習方略との関連から高校生の学習観の構造を明らかにすることである。学習観を測定する尺度はすでに市川(1995)によって提案されているが,本研究ではその尺度の問題点を指摘し,学習観を「学習とはどのようにして起こるのか」という学習成立に関する「信念」に限定するとともに,その内容を高校生の自由記述からボトムアップ的に探索することを,学習観をとらえる上での方策とした。その結果,「方略志向」「学習量志向」という従来から想定されていた学習観の他に,学習方法を学習環境に委ねようとする「環境志向」という学習観が新たに見出された。さらに学習方略との関連を調査した結果,「環境志向」の学習者は,精緻化方略については「方略志向」の学習者と同程度に使用するが,モニタリング方略になると「学習量志向」の学習者と同程度にしか使用しないと回答する傾向が示された。また全体の傾向として,どれか1つの学習観には大いに賛同するが,それ以外の学習観には否定的であるというパターンを示す者が多いことも明らかになった。
著者
長南 浩人 井上 智義
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.413-421, 1998-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17
被引用文献数
1 2

本研究は, ろう学校高等部の生徒の文章記憶に関して実験を行い, 特にリハーサルに利用する方略の効果について検討したものである。そして, その結果の分析を通して, 聴覚障害者の日本語指導を行う上での基礎的資料を提供することを目的とした。予備調査では, 自発的なリハーサル場面を設定して, どのような方略がリハーサルに利用されるのかを観察した。その結果,(1) 手話口形方略 (2) 口形方略 (3) 暗唱方略 (4) 音声方略の4種類の方略がリハーサルに利用されていることが分かった。このことから調査対象者は, 口話法による指導を受けてきたが, 自発的に手という方略も利用することが分かった。また, 予備調査の記憶成績に基づいて対象者を上位群と下位群に分け, 利用した方略について検討したところ, 両者が主として用いている方略に違いがある可能性を否定できなかった。つまり, 上位群は手話口形方略を利用するものが多い傾向にあった。そこで, 下位群に上位群が用いていた方略を使用させた場合, 記憶成績に向上が見られるのではないか, また, 両群とも予備調査で観察された他の方略を利用させた場合, 方略問の記憶成績に違いが見られるのかどうか検討する必要があると思われた。そこで, 予備調査で観察された4つのリハーサル方略を指示した記憶課題の実験を行った。その結果, 上位群は, どの方略を用いても再生成績に差は見られなかった。また, 下位群は, 手話口形方略を利用したリハーサルを行った場合のみ, 上位群と差がなくなることが分かった。
著者
崎原 秀樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.212-220, 1998-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
5 3

The purposes of this study were three-fold: first, to examine developmental trend of letter copying by preschool children. An attempt was made to evaluate the shape of letters in terms of segmentation/ construction. Second, this study aimed to examine the effects that might be caused by a difference of sex. The third purpose of this study was to see the relationship between the ability to form letters and visualmotor skills. The subjects were ninety 3-to-6 year old preschool children. Each subject was asked to copy six “Kana” letters and, at the same time, was individually given a Draw-A-Man Test. The main results were as follows: a) The developmental changes observed among the present subjects proceeded in the following order: (1) unintelligible,(2) miscellaneous,(3) proper segmentation,(4) proper segmentation as well as construction. b) No difference was seen due to children's sex, once they were able to respond to the letter writing tasks. c) A significant positive correlation was recognized between the developmental changes in letter forming and the visual-motor abilities.
著者
湯沢 正通
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.297-306, 1988-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

In order to solve a problem in science or mathematics, it is generally thought necessary to remember the relevant rules and apply them to the problem correctly. Also, understanding the meaning of the problem situation is indispensable, and to do so a reasoning schema is used. Junior high school students solved problems of photosynthesis with different kinds of explanations. The explanations of the meaning of the problem situation were believed to improve students' problem-solving, and the result was interpreted as an evidence of the existence of the reasoning schema. Moreover it was shown that the reasoning shema was independent of the specific domains, and called up by recognizing what scene the problem was concerned with: for example, a making something from something scene. The implications of the above findings were discussed.
著者
福田 由紀
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.348-354, 1991-09-30

The purpose of this study was to investigate the developmental relationship between the image operation in three-mountain task and mental rotation task in terms of ability of a point-of -view operating. Subjects ere 17 first graders, 18 third graders, 13 fifth graders and 31 university students. Subjects were asked solve both three-mountain task and mental rotation task. The results showed a different shape of developmental performances in both tasks. In a three-mountain task, first and third graders could not perform satisfactorily, whereas in a mental rotation task, they could make good scores. Moreover, both patterns of errors and RT according to the rotated angles were also proved different between tasks.
著者
喜岡 恵子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.204-213, 1991-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

The purpose of this research was to estimate the difficulty levels of tasks in arithmetic calculations in order to investigate the optimum arrangement of the tasks for teaching. The six forms of tests were constructed so that each form should include items of the calculation tasks for each grade at the elementary school level, and they were administered to 2822 pupils. By means of the two-parameter logistic model, the item parameters were estimated for the 221 items contained in the six forms of tests. The rusults showed that the model was satisfactorily fitted to the data. Furthermore, inappropriateness of conventional order of calculation tasks in teaching was also discussed.
著者
角田 豊
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.193-200, 1994-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
13 2

It is necessary for empathy not only to share feelings with another, but also to appreciate the individuality between oneself and an other person. The purpose of this study was to construct a questionnaire, Empathic Experience Scale Revised (EESR). Insufficient sharing experience (ISE) items in addition to sharing experience (SE) items were prepared, and 157 male and 145 female students were asked to answer those items together with LSO and Self-consciousness Scale. After factor analysis, the Scale of SE (10 items) and the Scale of ISE (10 items) were selected. Then the typology of empathy (Type double-dominant, Type dominant of SE, Type double-recessive, and Type dominant of ISE) was attempted. ANOVA by typology and sex on LSO-E (subscale of LSO) measuring the belief in individuality of human beings indicated that Type double-dominant differentiated oneself better from the other than Type dominant of SE. Consequently, the typology of empathy by EESR had a criterion-related validity while other results showed the characteristics of each type.
著者
太幡 直也
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.305-314, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
12
被引用文献数
7 10

太幡(2016)は, 大学生のチームワークを向上させるトレーニングを開発し, トレーニング終了直後にはトレーニングが有効であったことを示している。本研究では, 太幡(2016)のトレーニングの有効性が時間経過後に確認されるか否かを検証した。大学生に太幡(2016)のトレーニングを実施した。そして, トレーニング実施条件, 非実施条件の学生に, トレーニング終了から約9か月後に, 自己報告式の尺度に回答するように求めた。自己報告式の尺度で, 社会的スキルや, チームワーク能力の5つの構成要素(“コミュニケーション能力”, “チーム志向能力”, “バックアップ能力”, “モニタリング能力”, “リーダーシップ能力”)を測定した。その結果, トレーニング実施条件の方が非実施条件に比べ, 上記の多くの尺度について, 約9か月後の得点の上昇が大きかった。したがって, 太幡(2016)のトレーニングの有効性はある程度は時間経過後に確認されたと考えられる。
著者
山岸 明子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.163-172, 1998-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本研究の目的はセルマン理論に基づいて対人交渉方略 (INS) の質問紙を作成し, その発達的変化, 及びINSと学校での適応感との関連を, 性差からの観点を中心に検討することである。172名の小学4年生, 273名の6年生, 117名の中学3年生, 67名の大学生に対し質問紙調査が行われ, 対人的葛藤を解決するのに9種類のINSをどの位使うか, また学校での生活についてどう感じているかについて回答を求めた。主な結果は次の通り。1) INSのレベルに関しては, 女子の方が男子より進んでいた。2) 低レベルにおいては, 男子は他者変化志向, 女子は自己変化志向の得点が高かった。3) 男子ではINSレベルと学校での適応感との間に正の相関が見られ, セルマン理論に合致していた。その傾向は特に6年生で顕著だった。4) 女子では小6から中3にかけて, 他者変化志向の減少と自己変化志向の上昇が見られた。またINSレベルと適応感との関連は, 小6では男子と同様な関連が見られたのに対し, 中3では全く異なっていた。
著者
鹿内 信善
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.207-216, 1976-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18

本研究は, 次の仮説の検証を目的とする。創造性の高いものは, 複雑性・新奇性を有する刺激によって認知的コンフリクトが喚起されている事態での知識獲得において有利であろう。また, Getzels-Jackson現象は, このような事態での知識獲得において生起するであろう。これらの仮説を検証するために, コンフリクト (C) 条件・非コンフリクト (NC) 条件の2つの条件が操作された。各条件での手続概要は以下である。C条件: (1) 事前テスト (直前実施)(2) 被検者は, ある新奇な現象を生起させることが可能か否かの予想をする。ついで, この新奇な現象が呈示される。これらの手続により, 複雑性・新奇性による認知的コンフリクトの喚起が期待される。 (3) 被検者は, この現象の生起理由をのべた, 認知的コンフリクト低減情報を呈示される。(4) 事後テスト (直後実施)(5) 把持テスト (1週間後実施)。NC条件: この条件はC条件と主に次の2点で異なる。第1に予想手続がない。第2に現象の生起理由をのべた情報のあとで当該現象が呈示される。これらの手続は, 複雑性と新奇性を減ずるためにとられる。仮説を支持する結果は, 題材として用いた現象を生起させる操作とその理由説明をもとめる記述式のテストにおいて主として得られた。これらの結果は, 創造性の高いものは照合的 (複雑・新奇) 刺激に対して接近傾向を有しているためであると考えられる。
著者
古籏 安好
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.26-31, 1968-03

集団行動の諸要因の相互関係を公式化するためのカギは集団参加性にある。そこでまずこの概念について取り扱い,その3因子である連帯性・勢力性および親和性の相互関係を分析的に考察した。ここで用いた技法を集団行動の3変数すなわち集団生産性・集団凝集性および集団参加性の相互関係の分析にも適用した。この技法は重相関と重決定係数を算出し,変数相互の相対的寄与量をみることによって,相互関係を見とおすというものである。これによって,若干の成果を得た。その主要な点は次のようである。 (1)集団凝集性と集団参加性はともに課題遂行に有意の相関をもつことが示されたが,相対的寄与量からいえば,凝集性よりも参加性により重みがあることをより明確にできた。 (2)集団参加性は,平等的集団での場合には階層的集団よりも生産性に関連が深くなる。平等的集団では,階層的集団よりもいっそう相互作用が積極的かつ効果的で,課題遂行に寄与し,課題遂行と参加性との対応がより大きい。しかし平等的集団でも知能水準の下位群の場合には,そういう傾向はそれほど明確に示されないので,課題遂行と参加性との対応にはある限界があるだろう。 (3)3つの変数のおのおのが,相互に他の2変数によって推定される割合いは,課題Iの方が課題IIよりもおよそ大きくなる傾向がある。この要因は,成員の目標達成のための手段的相互依存関係の程度にあると考えられる。一般には,課題の困難を増すにつれて協同の度合いを高めなければならないが,課題Iは課題IIよりもこのような協同事態により適切なものとなっていることを示す。 (4)こうして,協同・競争の集団を力学的な活動体系とみる考え方を実証しえたと思われるが,3変数の相互関係の基本的な様相(configuration)からは,協同と競争の集団間に差はみとめられない。 しかし,集団成員のパーソナリティ特徴は,集団過程に劣らず重要である。集団過程とパーソナリティの相互関連を検討することが,今後の課題となる。これは他の機会に発表したいと考えている。
著者
古籏,安好
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, 1968-03-31

集団行動の諸要因の相互関係を公式化するためのカギは集団参加性にある。そこでまずこの概念について取り扱い,その3因子である連帯性・勢力性および親和性の相互関係を分析的に考察した。ここで用いた技法を集団行動の3変数すなわち集団生産性・集団凝集性および集団参加性の相互関係の分析にも適用した。この技法は重相関と重決定係数を算出し,変数相互の相対的寄与量をみることによって,相互関係を見とおすというものである。これによって,若干の成果を得た。その主要な点は次のようである。 (1)集団凝集性と集団参加性はともに課題遂行に有意の相関をもつことが示されたが,相対的寄与量からいえば,凝集性よりも参加性により重みがあることをより明確にできた。 (2)集団参加性は,平等的集団での場合には階層的集団よりも生産性に関連が深くなる。平等的集団では,階層的集団よりもいっそう相互作用が積極的かつ効果的で,課題遂行に寄与し,課題遂行と参加性との対応がより大きい。しかし平等的集団でも知能水準の下位群の場合には,そういう傾向はそれほど明確に示されないので,課題遂行と参加性との対応にはある限界があるだろう。 (3)3つの変数のおのおのが,相互に他の2変数によって推定される割合いは,課題Iの方が課題IIよりもおよそ大きくなる傾向がある。この要因は,成員の目標達成のための手段的相互依存関係の程度にあると考えられる。一般には,課題の困難を増すにつれて協同の度合いを高めなければならないが,課題Iは課題IIよりもこのような協同事態により適切なものとなっていることを示す。 (4)こうして,協同・競争の集団を力学的な活動体系とみる考え方を実証しえたと思われるが,3変数の相互関係の基本的な様相(configuration)からは,協同と競争の集団間に差はみとめられない。 しかし,集団成員のパーソナリティ特徴は,集団過程に劣らず重要である。集団過程とパーソナリティの相互関連を検討することが,今後の課題となる。これは他の機会に発表したいと考えている。
著者
中村 涼
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.85-91, 1996-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
12

The present study investigated whether giving reality information and the category names of the to-be-learned materials affect incorporating of the materials into subject's preexisting knowledge. Forty university students were instructed that they were to learn real facts, while 43 university students were instructed that they were to learn rtificial facts. Actually, the subjects in both groups learned unfamilliar real facts. Half of the materials consisted of category names with two attributes, and the remaining half consisted of three attributes. Immediately following the learning phase, the subjects received a recall test, a recognition test, and a matching test. They were given the tests again after 1-week interval. The results indicated that giving real information and/or providing category names facilitated the learning of the materials. These results were discussed in terms of incorporation process of new information into preexisting knowledge.
著者
山名,裕子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, 2002-12-25

本研究での目的は,均等配分が幼児期に成立するのか,またするならば,どのような発達的な変化があるのか検討することであった。12個のチップを数枚の皿に配分させていく個別実験には,3歳から6歳までの幼児288名が参加した。主な結果は以下のようなものであった。(1)年齢の上昇に伴い正答率は上昇し,選択される配分方略が変化した。(2)どの年齢においても,チップを何回にも渡って皿に配分する数巡方略が選択されていたが,その方略を正答が導くように選択できる人数は,年齢の上昇に伴い増加した。この方略は従来指摘されていた方略であったが,(3)1個あるいは複数個のチップをそれぞれの皿に一巡で配分する一巡方略と,配分されない皿が残っている空皿方略が本研究で明らかになった。(4)また一巡方略の中でも特に配分前に皿1枚当たりのチップの数を把握する「単位」方略が明らかになった。この単位方略は数巡方略ほど,年齢の上昇との関係が明確ではなかった。
著者
伊藤 貴昭
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.237-251, 2009
被引用文献数
3 7

学習者に言語化を促すと学習効果が促進されることがある。本稿では, そのような学習方略として言語化を活用することの効果を検討するため, 関連する3つの研究アプローチ(自己説明研究, Tutoring研究, 協同学習研究)を取り上げ, その理論と問題点を概観した。その結果, (1) 自己説明研究では言語化の目的が不明確であるため, 方法論の多様性という問題を抱えており, (2) Tutoring研究では, 知識陳述の言語化に留まってしまう学習者の存在が指摘され, (3) 協同学習研究では言語化の効果ではなく認知的葛藤の源泉としての他者の存在を指摘していること, の3点が明らかとなった。これらの問題を解決するため, 本稿ではTutoring研究において指摘された知識構築の言語化を取り上げ, 認知的葛藤を設定することで, 関連する研究アプローチを統合するモデル(目標達成モデル)を提案した。このモデルによって, これまでの研究によって拡散した理論を一定の方向へと収束可能となることが示唆された。