著者
大辻 秀樹
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.147-168, 2006-05-31 (Released:2011-03-18)
参考文献数
16
被引用文献数
7 2

This article describes a practice in educational settings, which the author calls “type M” instruction, from the perspective of conversation analysis. The feature of this type is that a teacher asks students a question to which the students do not know the answer, but are not completely ignorant of the answer. When the teacher asks the students these questions, he or she creates a learning experience where “students search for a correct answer by themselves.”The paper examines this practice in three main stages.(1) First, data on real occurrences of type M instruction are shown. The data comes from a database of educational scenes recorded on a video for approximately seven hours, mainly from school education. From this database, the author intuitively collected examples where elementary school teachers were using type M instruction. Five examples of this type were extracted.(2) Second, characteristics common to the five scenes are extracted using the perspective of conversation analysis. Based on this, three characteristics, i. e., “reservation of instruction, ” “partial instruction” and “adjustment of degree of difficulty” were discovered in the turns of the teachers in those scenes. In other words, they displayed the following characteristics: “teachers do not teach students the correct answer, but provide hints to students” and “teachers lower the degree of difficulty of a question slowly while watching the reaction of students to the question.”(3) Third, the operation of type M instruction was inspected through an examination of irregular cases. The following knowledge was gained fromobservation of these data. If the degree of difficulty of the questions asked by the teacher is too low or too high given the state of knowledge of the students, it was found that type M did not operate effectively.With the three characteristics shown above, teachers seem to adjust the degree of difficulty of a question to a certain “level.” It is at this level that students carry out trial and error, and where they can barely give correct answers without assistance. When a teacher coordinates question at this level, students can try to find solutions to the problem independently. An important point for allowing type M instruction to operate successfully is to set the degree of difficulty of a question rather high and then lower it gradually while being attentive to the reactions of the students. This is because if the degree of difficulty is too low, the students will be able to answer it correctly immediately and there is no way to raise it, but if it is too high, there is an opportunity to lower the difficulty.
著者
石岡 学
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.173-193, 2014-05-31 (Released:2015-06-03)
参考文献数
34

本研究の目的は,1920年代日本の中等学校入試改革論議における「抽籤」に関する言説に照準し,「抽籤」に対する賛否の対立軸の分析を通して,選抜の公正性がいかに捉えられていたのかを解明することである。 1章では,公平性と正当性の二要素から構成されるものとして選抜の公正性を概念定義した。その上で,1920年代の中等学校入試に関する先行研究を検討し,これまで等閑視されてきた「抽籤」をめぐる議論を分析する意義について論じた。 2章では,1920年代に中等学校入試が社会問題化した背景について論じた。入試改革には,準備教育の軽減・入学難の解消・的確な能力選抜という3つの問題の解決が期待されていたことを述べた。 3章では,従来の入試にかわる入学者決定法としての「抽籤」に関する議論を分析した。賛成論の多数派であった条件付き賛成論は,先天的素質の差異は固定的・恒常的だとする能力観を基盤に,大多数の中位者に対する能力判定は困難とする認識に立脚していた。一方,反対論は能力の伸長可能性を前提としており,人為的選抜の技術的な限界に対する意識は希薄であった。 4章では,1927年に行われた文部省の入試改革における「抽籤」の位置づけについて論じた。人為的選抜の困難性という認識が,実際の改革においても引き継がれていたことを明らかにした。 5章では,選抜の公正性という問題に対して「抽籤」論が持つ含意について考察した。
著者
村井 大介
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.67-87, 2014-11-28 (Released:2016-11-15)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本研究の目的は,高等学校社会科が地理歴史科と公民科に分化した事象を事例にしながら,カリキュラム史上の出来事の意味と機能を教師のライフストーリーから明らかにすることである。 先ず,高等学校社会科が分化した際の言説を分析し,国際化を背景に歴史・地理教育が重視され,地理歴史科と公民科に分化したことと,こうした動きの中で教師には社会科としての総合性よりも,学問領域に接続する専門性が求められたことを明らかにした。 その上で,四半世紀を経て教師がこの事象をどのように意味づけ,影響を如何に受け止めてきたかを教師のライフストーリーから分析した。社会科分化の際に教師だった世代は,自身の専門分野からこの事象を意味づけていたが,分化以前の社会科の免許状を持つが故に専門外と考える科目も担当せざるを得なくなっていた。一方,社会科分化後に教職に就いた世代は,免許状取得の際に地理歴史科・公民科というカテゴリーを重視するが,教職経験を積む中で社会科の枠組みを意識せざるを得ない状況に直面していた。 以上のように,教科の専門性を高めることを意図して行われた高等学校社会科の分化は,地理歴史科・公民科というカテゴリーによって専門化した教科アイデンティティを創出する一方で,教員の配置や免許状,「世界史」の必修化といった問題と絡みながら,かえって教師が専門性を発揮し難くなるという逆機能を有していた。
著者
鈴木 雅博
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.27-47, 2019-11-30 (Released:2021-07-10)
参考文献数
13

教師が無境界的な仕事に献身的に取り組むことについては,熱心さを重視する文化や際限のないリスク管理を求める言説の作用,法制度の問題等によって説明されてきた。ただし,こうした説明は教師を文化・言説・制度に係る諸規範に従う受動的な存在として位置づけ,教師の実践が持つゆたかさを取り逃がしてしまうおそれがある。そこで本稿は,教師たちが時間外の仕事に規範を結びつけてそれとして解釈していく,あるいは解釈するように求めていく実践を明らかにすることを試みる。調査対象は,勤務時間短縮にともなって下校時刻の扱いをどうするかが話し合われた公立中学校での会議場面である。 原案は「教師は部活動に懸ける子どもの思いに応えるべき」との規範を論拠に下校時刻繰上げを一部にとどめていたが,会議参与者は学習指導や生活指導,リスク管理に係る諸規範を下校時刻に結びつけることや,問題を「教育」ではなく「労働」の枠組みで捉えることで原案がもたらす時間外労働の増加を回避しようと試みていた。そこでは,諸規範の「正しさ」ではなく,どの規範や枠組みがその場にとってレリヴァント(適切)となるかが争われた。教師は単に規範に従うのではなく,しかも,労働者ではなく教師に結びつけられた,学習指導/生活指導/リスク管理という「子どものため」の指導規範を参照することで,勤務時間短縮という「果実」を不完全にではあれ取り戻していた。
著者
渋谷 知美
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.25-47, 1999-10-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
31
被引用文献数
3

This paper shows the images of youth sexualities in mid-last-Meiji period and examines the way in which sexualities of youth was discussed as problematic by society and the reactions of youth to the problematization. To do this, I examined articles aboutGakusei-Fuki ProbleminKyoiku-Jironpublished in Meiji period. The perspective of social-constructionism approach developed by Kitsuse and Spector was employed in this study. The questions I asked here were:(1) what sexual behaviors were considered problematic?;(2) what rhetoric was used to make them problematic?; and (3) what reactions were arisen. In these problem areas, I also examined the countermeasures taken by educators and administration, the counter discourse and the behaviors of students.The following are the findings of this study.(1) Male students: buying prostitute, sexual violence against younger boys (including gay sexual behaviors), women or girls and having a date with female students were considered sexually delinquent. Female students; prostituting, becoming a mistress and having a date with male students were thought to be sexually improper.(2) In most articles, these sexual behaviors were problematized without providing reasons. Simultaneously, the authors immediately concluded that sexual behavior of youth must be controlled with vigor.(3) Educators thought that bad manners ubiquitously seen in Japan were the factors of youth's problematic behaviors and suggested that students should be strictly supervised. These arguments were realized as the purity of environment around students and the supervision of youth by administrators and educators. Contrary to these movements, however, heated problematizations on sexual behaviors of youth caused some counter discourses. They also led student's movement of self government.
著者
前馬 優策
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.229-250, 2011-06-10 (Released:2014-06-03)
参考文献数
25
被引用文献数
4

本稿の目的は,バーンスティンの言語コード論の視点から,二つの課題に対して考察することである。第一に,子どもたちに言語運用上の傾向性の差異はあるのかということ。第二に,異なる言語コードを規定する環境的要因について考察することである。 本稿では,まず,本稿で用いる主要な概念である言語コード論について概略する。次に,調査の概要を示し,そのうえで子どもの用いる言語コードの違いが言語運用にどう表出するのかを明らかにする。そして,子どもたちの有する言語コードの違いを規定する環境的要因について検討を行う。 具体的には,小学校1年生に対する「物語作り」調査を行い,そこでみられる言語運用と家庭環境の関連について分析を行った。その際,文脈依存性の観点から,日本語に特徴的に表れる主語や格助詞の省略に着目した。 その結果,二つの主な知見が得られた。まず,主語を省略する傾向にある精密コードを有していない子どもは,発話開始までに時間を要する傾向があることを示した。 本稿で示したもう一つの知見は,精密コードの獲得が,親の職業,家族構成によって左右されるというものであった。この点に関して,精密コードを用いた人格的統制様式が,ホワイトカラー層においてさらに強化されている可能性を指摘した。また,家族構成の違いによる獲得コードの違いから,彼らの家庭では,精密コードの獲得機会が相対的に少ないという可能性も指摘した。
著者
古賀 正義
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.47-67, 2015-05-29 (Released:2016-07-19)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

高校中退者がワーキングプアになりやすいことは,多くの研究が実証するところである。排除型社会が進展する今日の日本社会では,中退者が社会参加していく包摂の道筋は容易でなく,将来への「液状不安」を訴える事例さえ存在する。そこで,都立高校中退者の退学後の移行に焦点化した悉皆調査を実施した。 その結果によると,①中退理由の中心には,学校ハビトゥスとしての「生活リズム」の乱れがあげられ,自己の未達成による中退という理解が強い。②ひとり親家庭が多く,かつ就学の相談・援助的行動や文化資本が欠如している者が多い。③中退後に何らかの学習・就学活動に向かう者は半数におよび,学校に復帰した者も3割に達する。他方,非正規の単純労働となりやすい就労行動を8割以上の者が経験している。移行を模索する期間が2年ほどを経て平均6か月もある。④しかしながら,高校タイプによって違いがあるが,概して学習指向が減退し就労指向が急速に強まる。⑤リスクへの一定の不安はあるものの,全体に支援機関の利用度は非常に低く,直接的な経済的援助・無償による学習や職能開発などの支援を求めている。 以上,在学した高校や家庭等の資源や経験知に依拠した中退者の進路選択が行われやすいものの,それを活動に移すための「ケイパビリティ」(将来的な移行可能性への媒介となる環境)が重要になるとみられる。相談・支援できる他者との関係づくりを介して選択のチャンスを活かせる環境作りが求められる。
著者
松岡 亮二
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.241-262, 2015
被引用文献数
1

近年,国内データを用いた教育分野における社会関係資本研究は増えつつあるが,社会関係資本の可変性を考慮した上で教育不平等との関連を検討した実証研究は未だに行われていない。そこで本稿は,厚生労働省が収集する21世紀出生児縦断調査の個票データを使用し,(1)家庭の社会経済的地位,(2)父母の学校における社会関係資本,(3)子どもの社会関係資本を含む学校適応の関連を実証的に検討した。<BR> 大規模な3時点の縦断データを用いたハイブリッド固定効果モデルによる分析の結果によると,世帯収入(経済資本)と父母学歴(文化資本)が,父母それぞれの学校行事出席・保護者活動参加で指標化された学校社会関係資本を分化していた。これらの学校社会関係資本の多寡は子ども間の学校適応差異を部分的に説明し,資本量の変化は観察されない異質性を統制しても子どもの社会関係資本を含む学校適応の変化と関連していた。世帯収入と親学歴の学校社会関係資本を介した学校適応への影響は強くはないものの,社会関係資本の差異を通した不平等の再生産という傾向は確認された。<BR> 縦断データを用いた本稿の実証結果は,階層的基盤を有する父母の学校活動関与で示される社会関係資本が子どもの学校適応を促していることを示している。一方で,本稿の知見は,父母の学校関与という「つながり」の増加を通して対人関係を含む学校適応を促すことができる可能性も示唆している。
著者
武石 典史
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.265-284, 2017-07-28 (Released:2019-03-08)
参考文献数
39

本稿は,近代日本における官僚の選抜・配分構造を,東大席次・高文席次に着目しながら検討したうえで,昭和期の官僚機構について考察するものである。 高文体制というべき官僚選抜システムが成立して以降,成績上位層を引きつけた内務省は就職先序列構造において頂点に位置したが,大正期以降になると人材が各省に分散し威信が低下していく。この動きと並行的に,各省の要職に占める内務出身者の割合が減少するという配分面での変化も生じ,人事の自律化が定着した。各省は「位負けしない」生え抜き官僚を有することになったのである。 脱内務省化は非内務官僚の「専門性」意識を醸成した。これにより,各省の「専門性」と内務省の「総合行政」志向との間に葛藤関係が生じ,専門分業化の潮流のなかで専門官僚が主流となっていく。こうして内務省の優位性は選抜,配分,行政機能という三つの面で弱化し,同省を中心に安定が保たれてきた官僚機構の秩序(「内務省による平和」)は動揺した。各省割拠の時代が到来するのである。 セクショナリズムにより官僚集団の一体性は解体へと向かい,軍部に対抗しうる勢力にはなりえなくなったと考えられる。これを敗戦にまでつながる流れとみるならば,両席次と密接に結びついた「官僚の選抜・配分構造」の変容は,それを不可逆的に加速化させる要因の一つとして作動していた,といえよう。
著者
田中 理絵
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.119-138, 2011
被引用文献数
2

本稿の目的は,日本において児童虐待が社会問題化してきた過程について明らかにしたうえで,さらにその対応方法の問題点について考察することにある。その結果,児童虐待の社会問題化が幾つかの段階を経て拡大してきたこと,「激増」,「深刻化」というイメージがマスメディアによって流布されてきたこと,また社会的対応方法としてリスクアセスメントの方向へ向かっているがそれは結局すべての家庭を国の監視・管理下におさめることを意味することを指摘した。<BR> 国家主導で,リスクアセスメントを導入することは困難を抱える家族を発見するためだが,それは児童虐待を社会問題としてではなく個別の家族問題として捉えられることに繋がる。<BR> また,児童福祉の現場では,児童虐待の背景は両親の心理的問題などではなく,むしろ社会経済的課題にあると長年見なされてきたが,マスメディアによって広まった児童虐待のイメージは,家族の養育機能の低下が原因であると信じさせてきた。そこで,すべての家庭が検査対象に拡大されているのだが,これは人的資源のロスである。<BR> 教育社会学にできる貢献としては,実証的研究の蓄積,児童虐待に対するモラルパニックの客観的分析など,経験科学の立場からの研究結果の提供が考えられる。また臨床的には,当事者である親・子どもの視点から児童虐待という経験の意味を抽出したり,解決に資するような具体的な事項の特定を行うなどの貢献が可能であろう。
著者
志水 宏吉
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.5-30, 1993

This paper focuses on the recent developments in the "new" sociology of education in the UK and Japan in order to clarify the dynamics of relationship between "theory" and "reality." The "new" sociology of education, an academic movement which originated in the UK in the early 1970s, was once said to bring about a paradigm shift in the sociology of education. Drastic changes in the British educational system have resulted in a fundamental transformation of research conditions. As a result, ironically, we can see interesting develoments in the "new" sociology of education. The "new" sociology of education was immediately imported into Japan. However, its application to the Japanese educational context has not been successful so far. "Visionary theorism" and "Parrlassian empiricism" in the Japanese sociology of education have prevented the successful development of the "new" sociology of education in Japan. Ethnography, an essential component of the "new" sociology of education with a relatively long tradition in the UK, can be the primary means of fulfilling the promises of the "new" sociology of education in Japan and revitalizing the interaction between "theory" and "reality." "Reflexive realism" should play a vital role in this research program.
著者
山口 透
出版者
東洋館
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
no.40, pp.p212-214, 1985-09
著者
朴澤 泰男
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.51-71, 2012-11-30 (Released:2014-02-11)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

本稿では男子の大学進学率の地域格差,すなわち都道府県間の差が構造的に生ずるメカニズムを説明することを目的に,人的資本理論の枠組みに基づいて,都道府県別データと,高校生及びその保護者を対象とする質問紙調査の分析を行った。 分析の結果,得られた知見は以下の通りである。第一に,大卒と高卒の男子一般労働者の平均時給を県別に推計したところ,その相対賃金(大卒/高卒)が大きい県ほど大学進学率が低い。20~24歳の男子の相対賃金は,男子大卒労働需要(出身県の20~24歳の大卒就業者数を高卒就業者数で除して定義)と負の相関関係にある。 第二に,男子大卒労働需要を用いて,県単位の大学進学率の回帰分析を行った。その結果,大卒労働需要の大きい県ほど地方在住者の県外進学率や,進学率全体が高いことがわかった。なお県外と県内の進学率は負の相関関係にあるため,収容率は大学進学率全体にはほとんど関連性がない。 第三に,高校生調査を用いた分析でも同様の結果が得られた。大学進学希望の有無に関する二項ロジスティック回帰分析を行うと,個人間で異なる家計所得や学力を統制してもなお,大卒労働需要の多い県に住む男子ほど,大学進学希望を(地方在住者の場合,県外進学希望も)持つ見込みが高いことが確かめられた
著者
金澤 貴之
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.92, pp.7-23, 2013-07-25 (Released:2014-07-28)
参考文献数
12
被引用文献数
2

特別支援教育は,通常教育との本質的同一性を目的・目標としてきたことで,障害への対応としての「支援」を外在化させる状況を生み出してきた。通常教育へのプラスαとしての概念として「特別な支援」を捉える考え方は,今後ますますインクルーシブ教育が加速化していく中,通常教育関係者にとってのわかりやすさを生み出すことになると考えられる。その一方で,重度の知的障害児および知的障害を併せ有する重複障害児においては,「支援」は教育に内在化したものとして,引き続き使用させ続けていくと考えられる。 また,障害当事者の望む「支援」のあり方が,障害のない教員のそれとは必ずしも一致するわけではないこと,そして健常者である教育者から見れば障害当事者はしばしば支援のあり方を決定する成員の外部に位置していることを鑑みるならば,特別なニーズを持った子どもたちの支援のあり方について検討する際,その支援の方法を誰が決定するのかということにも十分留意しておかなければならない。