著者
新保 哲
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.13-28, 2008-01

修験道は,一般には日本古来の山岳信仰がベースとなって,それに神仙道,シャーマニズム,原始神道,道教,呪禁道,雑密,陰陽道,仏教の影響が加わって,平安朝末期頃にひとつの宗教体系をつくりあげていった。そこで,霊山と古代から民衆に敬い尊崇されてきた信仰の山々を舞台にして山林修行者たちが,いつしか修験道の行場として峯入拝登するようになる。修験道の開祖とされるのは役小角であり,平安時代頃から末期にかけて山岳信仰としての修験道は飛躍的に発展期を迎え,山伏・聖が多く出る。彼らの特色は特定寺院に属さず専ら山林での抖?にあった。山伏修験者においては神仏を実際に体験することに出発点があり,その功徳力を下化衆生救済によって民衆の諸病をいやし,健康幸福を導く具体的即効的な宗教,それが山伏修験の呼称に他ならない。そうした民衆と密着した「実修実験」(実修実証)の意義や価値観をも併せて,修験道の特色を考察する。
著者
中沢 志保
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.51-63, 2007-01-31

原爆投下をめぐる問題は,戦後60年余りが経過した現在においてもなお,歴史家や国際政治学者などの重要な研究対象となっている。また,アメリカ国内の状況に注目すると,この問題の理解において,アメリカ政府および一般世論と研究者との間に大きな隔たりが存在することが分かる。アメリカの政府や国民の多くは「原爆投下は戦争を早期に終結させるために導入された正当な手段だった」と主張する。これがいわゆる公式解釈と称される立場である。これに対して,それぞれの研究視点からこの公式解釈を批判し再検討するのが研究者の立場である。本稿は,公式解釈の形成に多大な貢献を果たしたと言われるヘンリー・スティムソン(原爆投下時の陸軍長官)の論文と回顧録の内容を考察するものである。公式解釈に対する批判から出発したはずの原爆投下決定に関するこれまでの研究を吟味すると,これらの先行研究がスティムソンの論文ないし回顧録を十分に考察しきれていないことに気づくからである。この論文と回顧録を再検討することにより,公式解釈の前提,およびその後の諸研究の基盤を検証しなおすことができると考える。
著者
水原 寿里
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.71-85, 2000-01-31

人間はその長い歴史の流れの中で, 文化や文明を発展させたが, 言葉の表現においても時代とともに変遷が見られる。社会全体が豊かになると, 言葉の表現も豊かになり, 同時に単語の窓味も多様性を帯びてくる。表の意味と裏の意味, また喩えなどにその豊かさが現れてくる。本稿の図的は, 長い歴史の潮流の中で, 文化的・政治的・社会的・宗教的な言語要因により「色」に対する中国語の用語用例がどう変遷したかを考察することにある。中国は国土が広いため, 各地域の風土・風俗習慣, また民族性などの特色が, 色彩の特色ともなって現れる。色の解釈によって, 中国語に含まれるニュアンスを正しく理解し, それを正確に使用したり, また各地域を一層よく理解したりするために, 色の言語用例に基づいて, その表層の意味(陽としての, 賛美し褒め称えるニュアンス) と,深層の慈味(陰としての, 皮肉・非難咎めのニュアンス) の二面から考察する。
著者
荒井 健二郎
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.153-161, 2006-01

第59回トニー賞(正式にはアントワネット・ペリー賞といい,アントワネット・ペリーAntoinette Perryの愛称がトニーTonyだったため,いつの間にかその名前が定着したもの。6月1日から翌年5月31日までの1シーズンにOn-Broadwayで上演されたミュージカルおよびプレイを対象に決定され,アメリカ演劇界最高の栄誉とされている賞)で宮本亜門が日本人としてブロードウェイで初演出をした「太平洋序曲」(PACIFIC OVERTURES)がリバイバル作品賞を含む4部門でノミネートされるという快挙を達成した。結果は無冠に終ったが,日本のミュージカル界に輝かしい1ページを飾ったことは特筆すべきことである。また,現在のブロードウェイは生き残りをかけたさまざまな試みが行われているが,その端的な例はシステムに関するものである。1990年代の時代的特色をトニー賞にノミネートされた作品や人間から考察してみると,最大の特色はディズニーのブロードウェイ進出であり,第1弾の「美女と野獣」(BEAUTY AND THE BEAST)はいろいろな批判にさらされたものの結果は大成功。「ライオンキング」(THE LION KING)や「アイーダ」(AIDA)が続いた。2番目としては女性の躍進である。演出部門で初の受賞があり,その後もその傾向は続いている。そして最後に,90年代の終わりにダンスミュージカルが人気を集め,それが「コンタクト」(CONTACT)で頂点に達したことがあげられる。
著者
三島 万里
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.31-43, 2010-01

効果測定の不明確性,企業業績の悪化の改善を理由に,企業コミュニケーション中の自社媒体の見直しが相次いでいる。なかでも広報誌の休廃刊を行う企業は多く,09年4月には30年の歴史を持つ『サントリー・クオータリー』が休刊した。理由は「事業の多角化とグローバル化を進めるなか,その役割を見直す」ためという(同社HPより)。同社は2010年12月を持って大阪・サントリーミュージアム「天保山」も閉館するという。量的には決して多くはないものの根強い愛好者をはぐくんできた自社媒体を相次いで廃止することで,当該企業の企業コミュニケーションはどのように変わっていくのだろうか。本稿では「多角化とグローバル化」を旗印に躍進を続けている味の素株式会社(以下味の素(株))の二つの企業広報誌と,その休刊後の企業コミュニケーションの変化を分析,企業コミュニケーション上の広報誌の位置を検証する。
著者
本多 吉彦 鈴木 邦成
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.57-66, 2006-01

本稿ではハワイにおけるピジン英語を分析,考察することによって外国語としての英語を学習する最善の方策を探っていくことを視野に入れ,まず標準英語の変種であるピジン英語全般の特徴を中心に分析し,ついでハワイの入植者,現地人が習得したピジン英語のスピーチ形態やその音韻規則,イントネーションにおける標準米語との相違について考察していく。さらに,日本人の話す英語とハワイのピジン英語の共通点について考察し,外国語としての英語学習者の課題を整理していくこととする。なお本稿の続きとなる『ハワイにおけるピジン英語の発達に診る日本語教育の可能性(III)』では,ハワイにおける英語学習の歴史と文法を踏まえて,日本人の英語学習者にとっての最適な英語学習法を詳細に考察していくこととする。
著者
三島 万里
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-18, 2009-01

本稿は企業広報誌の企業広報上の機能を考察することを目的とし,日本の代表的企業広報誌の事例分析を行う研究1)の一環として,東京電力株式会社(1951年設立,以下東京電力)の需要家向け広報誌『東電グラフ』と継続誌『グラフTEPCO』の事例分析研究から,その企業広報上の役割機能を考察しようとするものである。

2 0 0 0 OA ふためく考

著者
近藤 尚子
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究
巻号頁・発行日
vol.13, pp.15-24, 2005-01-31

節用集饅頭屋本には「フタメク」という項目があり,初刊本では「フタメク(音偏に羽)」、通行本では「劇」という漢字が掲出されている。初刊本から通行本へ意図的に見出し字の改変が行われたとみることができる。「フタメク」は「ふたふた」という擬音語に由来する語と考えられ、いろいろな資料に見出すことができる。その用例をたどっていくと、本来の音を表す意味から、「あわてふためく」意味に変化していく様子をとらえることができる。表記面では『今昔物語集』のような漢字で書くことを志向する資料においてさえも仮名で書かれている。また、「フタメク」は辞書体資料には見出しにくいが、見出し語として示される漢字には固定的なものがなく、さまざまな漢字表記がみられる。饅頭屋本初刊本の「フタメク(音偏に羽)」は、本来の音に由来する表記、通行本の「劇」は変化した後の「あわてふためく」を意味する表記であり、この改変は「フタメク」の語の性格と意味の変化とを反映したものであるとみることができる。
著者
ロバート ヒックリング
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
no.6, pp.43-52, 1998-01-01

二言語を併用する子供の親は, 生後まもなく, 彼らの子供が二言語体験することに消極的である。なぜならば二言語を併用する子供は, 単一言語を使う子供と比べて自然に言語習得できないかもしれないと懸念するからである。 更に二言語を併用する子供は, どちらの言語においてもネイティブスピーカーのレベルに熟達できないかもしれないと心配することである。この考えは, 一般にセミリンガリズムと呼ばれている。このセミリンガリズムについて1927年にブルームフィールドは北米のインディアンの言語における分析において以下のように記述している。およそ40歳の北米インデアン, ホワイト サンダーは英語より彼のインデアンの言語であるメノミニをより多く話すが, そのメノミニですら語彙が乏しく, 文法的規則性がなく, なおかつ, 彼は単純な文章でしか会話ができないというお粗末なものである。つまり彼はまともに言葉を話せないというのである。この例におけるセミリンガリズムへの影響という点で, 言語学者逮は少なくとも一つの言語においてネイティブレベルの言語能力を確実なものにするには, 第二言語を経験させる以前に, しっかりした第一言語の能力を習得しなければならないと忠告する。これに対して, この論文は二言語を同時に体験することが, 子供の言語習得にマイナスな影響を及ぼすことはなく, 二言語を同時に使う子供の養育は, それ自体がセミリンガリズムの原因にならないということを説いている。むしろセミリンガリズムの原因は経済的, 政治的, 社会的条件によるものであると論じ, 二言語体験が遅ければ, 遅いほど子供の第二言語における言語熟達の可能性は低くなるかもしれないと説明している。
著者
中沢 志保
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
no.19, pp.29-45, 2011-01-31

本稿は, 20世紀前半期のアメリカにおいて主要な対外政策の立案と決定に関与したヘンリー・スティムソン(Henry L. Stimson)を引き続き考察するものである。本稿では特に, 柳条湖事件に始まる日本の中国への侵略に対してアメリカがどう対応しようとしたかを検討する。具体的には, 第一次世界大戦後の国際秩序が崩壊していく1930年代初頭において, 日本の軍事行動に対し, 「スティムソン・ドクトリン」という形で「倫理的制裁」を課そうとしたスティムソンの外交を分析する。
著者
河原 清志
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
no.19, pp.13-28, 2011-01-31

本稿は英語“as”の多義性について接続詞に限定して統一的な説明を試みるものである。「“as”は潜在的意味として, <現実に生起している(した)出来事>(後景情報)を主節とゆるい等価で結ぶ函数関係を示す」という意味を有し, スーパー・スキーマ(コア)が潜勢態としてあり, 2つのパラメーターの状況的関係の力学(as節と主節がそれぞれ指標する出来事の内容と指標野における位相関係)の中で語義が確定するという理論構成が可能である。具体的には「接続詞」の用法として,(1)〔時〕は「同時性」を基本とし,(a)瞬間的時間の場合は「偶発性」, (b)多少の時間の幅がある場合は「同時進行性」, (c)かなりの時間の幅がある場合は「連動性(比例性)」が前景化し, 動的な出来事どうしが「等価」で結ばれる。(2)〔理由〕は「状態性」が特徴で, 後景的状況・事情を表すas節は静的な出来事として主節と「等価」で結ばれる。その他, (3)〔様態〕, (4)〔逆接〕, (5)〔比較〕, (6)〔局面〕といった語義も「等価」から導かれることが観察され, 多義現象に対して語義の連続性のある説明が可能であることが確認された。
著者
近藤 尚子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.33-46, 2003-01

明治期は社会や文化が大きく動き,新しい言葉が次々に生み出された。本稿では明治18年に出版された『伊呂波字引 和英節用』という小さな和英辞典をとりあげる。一方, 明治を代表する和英(英和)砕典として『和英語林集成』がある。この辞書は明治5年に再版が, 明治19年に三版が出版されている。この『和英語林集成』と比較することによって『伊呂波字引 和英節用』の性格の一端を明らかにし, この時代の日本語の状況の中に位置づけることをめざす。比較の結果,本書には『和英語林集成』にあまり収載されていない外国の国名・地名が多く載せられ,数を含む項目も網羅的で,「~学」については新旧の名称が混在するという状況が明らかになった。本書は全体としては『和英語林集成』の三版側に位置づけることができる。
著者
久保田 文
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究
巻号頁・発行日
no.4, pp.51-60, 1996-01

メルヴィルが語ったホーソーンの闇の力とは,原罪を根底とする人間の罪を強く凝視するその集中力から生まれたものであり,内なる罪に懊悩するナイーヴなキャラクター達は,我々の心を引き付け続けている。しかしその一方で,幾つかの作品は,罪悪感の重荷から全く解き放たれた特異なキャラクターの姿を呈示し,その対照性は読者をとまどわせる。現世的な悩みや喜びを顧みない美の探求者や科学者達のエゴイスティックなまでの現実超越は,ホーソーン自身に潜んでいたデカダントな部分における強い憧れであったに違いない。文学者ホーソーンの位置は,地に足をつけたまま深く悩むモラリストと,身勝手なまでの魂の飛翔を遂げる知識の信奉者達の中間に在り,彼の自己投影は作中,心理の追求者の形をとっているように思われる。ホーソーンにとっての文学者や心理学者は(彼にとっての科学者達と同じく,冷酷と呼べるほどの偏執性を持ちながら)現実の人間の心の問題から目を離せないでいる人々である。孤高の作家ホーソーンは,人間心理の深淵をのぞこうとする情熱とやましさを,イーサン・ブランドやロジャー・チリングワースと分かち合っていたと推考できる。その観点で,D.H.ロレンスのロジャー・チリングワース分析は若干皮相的すぎるのである。
著者
荒井 健二郎
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.73-83, 1997-01

アメリカ社会の中でマイノリティの1つであるゲイ (同性愛者の総称) たちは,長い間宗教と医学の両方から不健全であるというレッテルを貼られ,1950年代までは見えない存在,見えてはならない対象として葬られてきた。そしてゲイ・プレイも,それに追従することを強要されてきた。しかし,時代は確実に前進する。60年代という激動の時代に突入し,激変を始めた社会に突き動かされるようにしてゲイ解放運動が起こり,69年6月28日の「ストーンウォール暴動」へと発展,大きな弾みがつくことになる。時代を味方につけ,初めてゲイを肯定的に描いた革新的なゲイ・プレイが登場し,ゲイ・プレイの夜明けを予感させるまでになる。この論文では,アメリカ演劇の中で,傍流とみなされていたゲイ・プレイが時代の変化とともに主流に近づき,ついに合流するまでの経緯を照射する。
著者
久保田 文
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.7-15, 2006-01

今日,かつてのノーベル賞作家スタインベックは大半の人々にとって,The Grapes of Wrathによってその名を残す存在である。たしかに,1930年代の大不況下にあったアメリカにおいて,スタインベックは極貧と持たざる者の見果てぬ夢を描くことで社会を揺り動かした。その後の大作East of Edenを経て,1960年代をむかえた彼は,病後の体調を押してアメリカ再発見の旅に出ることを決意する。愛犬チャーリーを伴いキャンピング・カーを駆る旅に出た彼は,季節労働者の家族と一期一会の時を楽しみ彼らの明るい笑顔を喜びながら,自分のような作家たちが理不尽なまでの不平等に苦しむ季節労働者の生活を変えたことを,自負をもって回顧している。しかし,同時にスタインベックは,豊かに見える時代がやって来て,世界が新たなる罠につまずいて重大な問題に直面しつつあることを鋭く予知していた。何不自由なく暮らしながら,敵意と破壊への衝動にかられている若者。物質の氾濫する社会にあって,欲求不満の苛立ちと挫折感に苦しむ人々。他人が殺され取り除かれていくことを,ほとんど黙認する社会… これらに対しスタインベックは,「人の生命が貴重であった頃に作られたモラルは,もはや通用しない。新しい倫理観の確立が必要である」と主張し,人の生き生きとした生命力を奪うものへの嫌悪感を顕わにしている。アメリカ一周旅行の経験と感慨は,Travels with Charleyに収められ,アメリカという国が抱える問題点を更に踏み込んで捉えたエッセイは,最後の作品America and Americansの形をとった。後者の出版の二年後,スタインベックは没した。そのため,彼は我々の取るべき方向性を具体的には述べてくれていないのだが,彼の数々の作品の中から,答えを拾うことは可能である。その前にまず,この二作を中心に分析することから,スタインベックが後に続く我々に聞かせたいと願ってくれた最後の警鐘に,じっくりと耳を傾けたい。
著者
城 由紀子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.37-49, 2007-01

1993年のカナダ下院総選挙において大敗を喫した進歩保守党と保守第1 党の地位に着いた改革党,後のカナダ同盟が,保守勢力の分裂,混迷を乗り越え「右派連合」の新しい保守党として再生後,2006年総選挙において13年ぶりの保守政権誕生を果した。この新保守政権誕生の要因は,自由党長期政権がケベック州での連邦政府広報費不正流用問題で信頼を失ったなかで,1987年の改革党結成以降分裂状態であった保守2 政党が前回2004年の総選挙前に一体化を成し遂げ新生保守党として地歩を固めたことにある。加えて,前回選挙では保守色故に敬遠された保守党党首ハーパー(Stephen Harper)が,イメージ変革に成功し国民から首相として一応の信任を得たためである。本稿はハーパーの保守党党首への道程を辿り,2006年総選挙を2004年総選挙と比較し,前回総選挙での失敗を乗り越えたハーパー保守党政権誕生を分析する。
著者
安永 明智 谷口 幸一 野口 京子
出版者
文化学園大学
雑誌
文化女子大学紀要. 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.63-72, 2011-01

本研究は,全国の70歳以上の高齢者を対象に,郵送法による質問紙調査法を用いて,服装や流行への関心と外出着の着装基準,外出の頻度,ボランティアや町内会活動への参加,QOLとの関係を横断的に検討することを目的とした。2010年1月に全国の70歳以上の高齢者850名に調査票を郵送し,568名(男性274名;平均年齢76.0±44歳,女性294名;平均年齢75.8±4.7歳)から回答が得られた(有効回答率66.8%)。調査は,自分や他人の服装への関心,流行への関心,外出着の着装基準,外出の頻度ボランティアや町内会活動への参加,生きがい,抑うつ,活動能力について質問した。分析の結果から,(1)高齢女性は,高齢男性と比較して,自分及び他人の服装への関心や流行への関心が高く,外出着の着装基準においても,個人的服装嗜好,流行,機能性,社会的服装規範を重視すること,(2)服装や流行への関心が高い高齢者は,低い高齢者と比較して,外出着の着装基準において,個人的服装嗜好や流行,機能性,社会的規範を重視すること,(3)服装や流行への関心が高い高齢者は,低い高齢者と比較して,町内活動やボランティア活動に積極的に参加していること,そして活動能力や生きがい感も高く,メンタルヘルスも良いこと,などが明らかにされた。本研究の結果は,高齢期において,装いに関心を持つことが,生活の質(Quality of Life;QOL)の維持・増進に貢献しうる可能性があることを示唆する。