著者
沢口 敦史 佐藤 導謙
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.505-509, 2001-12-05
被引用文献数
6

春播コムギの初冬播において,根雪前20-25日に播種すれば越冬が良好であることを既報で示した.本報では初冬播栽培において春播栽培よりも安定的に多収を確保する技術として,発芽抑制剤と播種量について検討した.発芽抑制剤試験では,薬剤により越冬後の出芽個体数を増加させ,早期播種においても多収のコムギを生産することが可能な剤が認められた.また試験結果から,最大収量の95%以上を得るためには,178個体m^<-2>以上の生存個体が必要であると判断された.播種量試験では,播種量を春播栽培の標準量(340粒m^<-2>),1.5倍あるいは2倍量を検討した.播種量を増やしても穂数は増えるが穂長と千粒重がやや低下し,収量は標準量播種量とほぼ同じであった.越冬率は越冬可能な播種時期においても40%〜89%であった.これらより,最大収量の95%を得るためには,必要生存個体数178粒を最低の越冬率である40%で除して得られたm^2当たり445粒が播種量として適正であり,これ以上は収量増加に効果的でないと判断された.
著者
内村 要介 佐藤 大和 松江 勇次
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.393-399, 2001-09-05
参考文献数
20
被引用文献数
2

さらなる省力, 低コストの水稲直播栽培に適する品種育成のため, 酸素供給剤を粉衣しない種籾の出芽苗立ち安定化についての基礎的知見を得る目的で, 72品種を供試して湛水土壌表面直播栽培を行い, 出芽苗立ち特性の優れる品種の評価および圃場中の水温と溶存酸素濃度の測定を行った.播種後14日間の圃場中の水中の溶存酸素濃度は約4.7〜11.6mgL^<-1>(飽和量の約50%〜過飽和), 水温は日平均21.8〜29.0℃で推移し, 水稲種子の発芽, 根の伸長に問題はほとんどなかった.供試した72品種はすべて発芽率が80%以上あったにもかかわらず, 播種14日後の出芽率は0〜89%の変異幅が認められた.出芽率が80%以上と出芽能力が優れた11品種が認められ, そのうち8品種の譜系図に旭または朝日が認められた.転び苗および浮き苗の発生率については4%〜61%の変異幅が認められた.出芽能力が優れた11品種において, 出芽率と転び苗および浮き苗の発生率との間には相関関係は認められず, 出芽率が80%以上で転び苗および浮き苗の発生率が10%以下の苗立ちが優れた品種, 神力, はえぬき, どまんなかが認められた.出芽率の高い品種は, 千粒重が重く, 比重1.1以上の割合が高く, 初期生育が優れた.転び苗および浮き苗の発生が少ない品種は, 種子の比重が1.1以上の割合が高く, 種子根の平均伸長速度が遅かった.これらの知見は, 酸素供給剤を用いない省力, 低コスト直播栽培で出芽苗立ちを安定化させる水稲品種育成のための交配母本選定に当たり有効な情報になるものであった.
著者
ゴツシュ ナビンアナンダ 後藤 寛治 中世古 公男 森 義雄
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.624-629, 1976-12-30

ダイズ矮化病ウイルスの生育・収量に及ぼす影響を明らかにするため, 品種アダムス, ゆうづるおよびそのF_3系統13系統を供試し, 接種区および防除区における生育・収量の差異について比較, 検討した。1) 接種区における全乾物重および葉面積は, ウイルス接種約1ケ月後の7月17日において, すでに防除区に比し劣り, その差は生育とともに拡大した。2) 生育期間中の個体当乾物増加速度および葉面積は接種区が劣ったが, 純同化率は8月6日を中心に前期では防除区が, 後期では接種区がまさった。また, 接種区では比葉面積および葉身の窒素含有率が低く, 乾物率は逆に高い傾向を示し, ウイルス感染による葉の肥厚, 転流の阻害が認められた。3) 接種区における個体当平均子実重は防除区に比べ約70%減少した。また, 接種区では子実重と各生育時期における葉面積との間に有意な正の相関関係が認められ, 子実収量の系統間差異は葉面積の差によることが明らかとなった。4) 相対葉面積生長率が純同化率および比葉面積と有意な正の相関を示すことから, 接種区における葉面積の減少は, ウイルス感染による光合成率の低下と葉の肥厚に起因するものと考えられる。
著者
松崎 守夫 高橋 智紀 細川 寿
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.13-22, 2006-01-31
参考文献数
26
被引用文献数
2

北陸地方のダイズは主に重粘土転換畑で栽培されているが, それらの圃場は排水性が悪いため, 湿害が懸念される.北陸地方の梅雨は6月下旬〜7月中旬となるが, その時期は, ダイズが湿害を受けやすい生育初期や花芽分化期に相当する.ここでは, 北陸地方の重粘土転換畑で栽培したダイズにおいて, 梅雨時の過湿条件の影響と被覆尿素の湿害軽減効果を検討した.6m幅の圃場外周に明きょを施工し, 梅雨時に地表面まで湛水する圃場と, 湛水しない圃場を設けた.また, 営農試験地において, 転換初年目の暗渠敷設圃場, 未敷設圃場を供試した.各圃場に対し, 被覆尿素を施用しない対照区, 40日, 70日, 100日, 100日シグモイド, 140日タイプの被覆尿素10gN/m^2を, 基肥として全面施肥する区を設けた.過湿条件によって, 窒素集積量, 収量は減少し, 窒素集積量の減少は主にウレイド態窒素集積量に, 収量の減少は主に莢数の減少に由来した.被覆尿素の効果は, 湿害が発生した圃場で見られ, 梅雨明けまでに溶出量が多い40日, 70日, 100日タイプで効果が見られる場合が多かった.40日, 100日タイプは収量, 70日タイプはウレイド態窒素集積量を増加させる傾向があった.以上のように, 北陸地方の重粘土転換畑では, 梅雨時の過湿条件によってダイズの窒素集積量, 収量が減少したが, 過湿時に溶出量が多い被覆尿素によって, それらの減少は軽減される傾向があった.
著者
角 明夫 片山 忠夫
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.418-424, 2001-09-05
参考文献数
21
被引用文献数
2

稈(茎)長において異なる同質遺伝子系統, ソルガム2系統;Plainsman tall typeとPlainsman short type, ダイズ2系統;ヒュウガとヒュウガ矮性系統, 水稲2系統;銀坊主と短銀をポット栽培し, 正常系統と矮性系統の消費水量(CU)と乾物増加量(ΔW)および収量との関係を比較検討した.CUとΔWの間にはそれぞれ作物について直線関係が認められた.ΔW=0におけるCUは, ダイズ2系統を除いて, 蒸発量(E_s)にほぼ等しかった.蒸散効率(ΔW/(CU-E_s))は矮性遺伝子の有無によってほとんど影響されなかった.ΔWが大きくかつ蒸散効率(TE)の低かったヒュウガは, 供試作物中最も多量の水を消費した.またこれにはソルガム系統や水稲系統と異なり, 開花期以降ΔW=0におけるCUが蒸発量を上回る傾向を示したことも関係した.ソルガム2系統はダイズおよび水稲の2系統よりTEにおいて勝ったもののΔWが大きく, 結果的に水稲2系統と匹敵するCUを示した.これに対して矮性系統は, 供試した作物の全てで, 正常系統より常にCUが小さかった.加えて, 矮性系統は絶対収量において正常系統に劣るものの, 同一の蒸散量をより効率的に収量生産へと結びつけることが示された.このような矮性系統の特性は干害回避性と水利用の効率化という両面からも有用であろう.
著者
志水 勝好 小村 繭子 曹 衛東 石川 尚人
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.314-320, 2003-09-05
参考文献数
27
被引用文献数
2 1

ケナフ2品種(粤豊1号および農研センター維持系統)を1999年と2001年に圃場で栽培し,1999年は1回(10月18日〜11月5日),2001年は生育時期別に4回(粤豊1号:茎葉生長初期(7月3日,播種後57日目),茎葉生長中期(8月9日,播種後94日目),茎葉生長後期(9月7日,播種後123日目),開花初期(10月11日,播種後157日目),農研センター維持系統:茎葉生長初期(7月3日,播種後57日目),茎葉生長中期(7月25日,播種後79日目),開花期(9月7日,播種後123日目),種子登熟期(10月11日,播種後157日目),部位別の生体重と乾物重を調査した.また,2001年には主茎上位葉の光合成速度および全葉の粗蛋白質含有率と無機成分含有率を測定した.さらに,両年とも栽培期間中の地上部形態の推移を測定した.農研センター維持系統では両年とも播種後120日頃から主茎の節数と草高の増加が緩慢となり,主茎残存葉数は減少した.しかし粤豊1号では,4回目の調査期まで節数,主茎残存葉数とも増加した.光強度1600μmolm^<-2>s^<-1>下で測定した光合成速度は両品種とも第3回の調査期まではC_3植物としては高い値を示し,農研センター維持系統の最高値(第2回目の調査時期)は平均39.4μmol CO_2 m^<-2> s^<-1>であった.粗蛋白質含有率は両品種とも生育が進むにつれて減少する傾向を示したが,農研センター維持系統では播種後約80日目の開花後に急減した.Ca含有率は,Na,KおよびMg含有率に比較し,生育が進むにつれて著しく高くなった.これは葉を飼料に利用する場合に有利な特性と考えられる.
著者
冨森 聡子 長屋 祐一 谷山 鉄郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.442-451, 1994-09-05
被引用文献数
3

ゴルフ場で使用される農薬および肥料について1991年6月から1992年5月までの1年間, 降雨直後, 3ゴルフ場6箇所の排水を採水し, 15種類の農薬と窒素, リン, カリウムの分析をした. 結果は次の通りであった. 除草剤のプロピザミド, シマジン, ナプロパミド, 殺菌剤のフルトラニル, イソプロチオラン, キャプタン, トルクロホスメチル, 殺虫剤のダイアジノン, フェニトロチオンの9種農薬が検出された. 検出頻度は各ゴルフ場で差があり, 同一ゴルフ場でも採水地点間で異なった. フルトラニル, イソプロチオラン, キャプタンが高頻度に検出された. 検出された農薬は, 調査期間中では9月が他の月に比べ全般的に高く, また, 高濃度に検出された農薬は, プロピザミド, シマジンであった. 検出された農薬の濃度は約半数が0.1〜1.0μgL^<-1>の範囲であった. ゴルフ場排水の肥料成分は, 周辺の河川水に比べ, 窒素, リン, カリウム共に高濃度であった. その濃度変化は, ゴルフ場の芝草管理のための施肥時期と密接に関係していた.
著者
片野 學 真鍋 孝 難波 正孝
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.218-223, 2005-06-05
参考文献数
8

昭和61年度, 収量停滞打破を目指す一方策として, 熊本県菊池郡市に第6葉抽出成苗(不完全葉を1とする)ポット苗移植機が導入された.本機導入に伴う栽培管理方法は, 導入先進地である山形県からもたらされたものであり, その特殊個別技術として6ないし8条を1つの単位(複条)とし, それらの間に2条間分に相当する60cmを空ける栽植方法(以下, 複条並木植, 複条と複条との条間を複条間と呼ぶ, また, 複条内の条間は30ないし33cmである)があった.調査を行った水田は品種コシヒカリおよびミナミニシキが複条並木植されていた9水田であり, 両品種とも成熟期に, 複条並木植の各条から連続した15株を収穫し, 15株の占有面積を測定後, 常法に従って収穫物調査を行った.まず, 6月5日に移植し, 9月20日に収穫した複条間が約60cmであったコシヒカリ2水田における最外列(各複条の最外列2条をいう, 以下同様)単位面積当たり収量は中央列(最外列2条以外の条, 以下同様)の82%と87%であった.次に, 6月下旬に移植し10月末から11月上旬に収穫したミナミニシキ7水田における複条数は6, 8および12, 複条間も45と60cmなど様々であった.中央列に対する最外列単位面積当たり収量は, 複条間が約45cmであった2水田ではほぼ同じであったが, 60cmの場合, 毎年2〜5t/10a相当の完熟豚糞が施用された1水田を除く4水田の場合には78%〜91%にとどまっていた.両品種ともに複条の最外列では, 占有面積拡大分に見合う穂数と1穂収量の補償効果が認められなかったためであった.以上のように, 複条間を60cmとする移植法については減収する場合が多いことが明らかになり, 昭和62年度にはこの複条間距離で栽培する農家はいなくなった.
著者
高橋 清 大竹 博行
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.27-32, 1993-03-05

分げつが鉛直方向へ姿勢の抑制を行う仕組みを解析するために, 水稲品種ササニシキを用いて分げつ茎の各節の重力屈性反応の大きさについて検討を行った. 第1実験. 1/5000aワグネルポットにイネを1個体ずつ育て, 11葉期と出穂後10日目に地上部を採取し, 全分げつの各節位別の屈曲角度を調査した. 一本の茎の中で最大の屈曲角度を示したのは, 伸長茎部と非伸長茎部の境に位置する節 (0位節) の葉枕であった. 次いで, その1節下 (-1), 1節上 (+1), 2節下 (-2) の順であった. 1次分げつ茎では, 下位節に発生する分げつで屈曲角度が大きく, 上位分げつで小さかった. また, 屈曲する節数も下位分げつで多かった. 下位節からでる1次分げつは, 新しい分げつの出現と生長によって, より外側に押されたものと推定される. 第2実験. 3.5-4.0葉期の苗を水田に移植した. 栽植密度は, 30×30cmと30×15cmの2段階, 1株植え付け本数は1本と5本の2段階とした. 出穂後40日目に地上部を採取し, 全分げつの各節の屈曲角度を調査した. 1本の茎の中で屈曲角度が最大であったのは0位節であった. 次いで-1, +1, -2位節の順となり, 第1実験の孤立個体の結果と全く同一の傾向が得られた. これらの結果は, 水稲ササニシキでは特定の部位 (0位節とその付近の葉枕) が, 分げつ茎の鉛直方向への姿勢の制御において重要な働きをしていることを示唆している.
著者
後藤 雄佐 星川 清親
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.496-504, 1988-09-05
被引用文献数
8

水稲の孤立個体における主茎と分げつとの生長の相互関係を葉齢に着目して調べた. 個体の齢を表す「葉齢」を分げつの齢を表すのにも用い, 各分げつの葉位を, 主茎の同伸葉の葉位で表したものを各分げつの相対葉位と規定し, さらに, 相対葉位で表した各分げつの葉齢を相対葉齢と規定した. これにより, 主茎と各分げつ間の生長の比較が可能となった. また, 同伸分げつを位置づける相対分げつ位(RTP)を規定し, これにより相対葉位を算出した. ポットに1個体植えした水稲品種ササニシキ, トヨニシキ, アキヒカリに肥料を充分に与え, 湛水状態で育て, すべての葉に印をつけて観察した. 初期に出現した分げつには, 主茎同様に出葉転換期が認められ, 生理的な変化が個体全体でほぼ同時期に起きたことが示唆された. 栄養生長期後半の観察では, 同一日には分げつ次位が高いほど, 相対葉位の高い葉が出現し, それに伴いRTPの高い嬢分げつが出現した. 各分げつの相対葉齢から主茎の葉齢を差し引いた差を相対葉齢差(D)と規定すると, Dは生長とともに直線的に増加し, 播種後94日目, 止葉の抽出直前に最大となった. また, Dは分げつ次位が高いほど大きく, 各時期におけるDは, ほぼ分げつ次位に比例して増大した. Dの値の大きさには, 品種間で差が認められた.
著者
高橋 肇 中世古 公男
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.22-27, 1992-03-05
被引用文献数
7

北海道育成の新旧品種(ハルユタカ, ハルヒカリ)およびドイツ育成の品種(Selek)を供試し, 標準播種期(4月25日, 中播区)を中心に前後2週間間隔で播種し(早播区-4月11日, 晩播区-5月10日), 播種期による生育相の変動, 穂の形態形成ならびに登熟期間の乾物生産の差異から, 品種による収量性の違いについて検討した. 各品種とも播種期の遅れに伴い出芽から幼穂分化期に至る生育相Iに日数が短縮し, 全生育日数も短縮した. これに伴い, 小穂分化期間が短縮し, 小穂数が減少したことからシンク容量の減少がみられた. さらに, 登熟期後半のCGRおよびNARが著しく低下したことで, 全乾物重ならびに子実収量が減少した. ドイツ品種Selpekは, 北海道の2品種に比べ穂重型で播種期の遅れに伴う穂数の減少がみられなかった. また, 小穂分化期間が長く, 晩播に伴う小穂数の減少が小さく, さらに, 登熟期後半の老化の進行が遅く, 他の2品種よりもNAR, CGRを高く維持したことにより, 早播区に対する晩播区の子実収量の減少程度も小さく(ハルヒカリ-34%, ハルユタカ-36%, Selpek-14%), 晩播区ではSelpekが最も多収を示した(ハルヒカリ-418g・m^<-2>, ハルユタカ-523g・m^<-2>, Selpek-551g・m^<-2>). 以上のことから, 北海道の晩播用品種としては穂重型品種が適することが示唆された.
著者
高橋 肇 千田 圭一 中世古 公男
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.327-333, 1990-06-05

春播コムギ3品種 (長稈ハルヒカリ, 半矮性ハルユタカおよび長稈・晩生Selpek) の主稈3部位 (穂首節間, 第2節間および下位節間) における構成物質 (細胞壁構成物質, 純細胞内容物質および可溶性糖) の推移を開花期から成熟期まで調査した。開花後, 細胞壁構成物質と純細胞内容物質は穂首節間と第2節間で伸長生長に伴い増加したものの, 開花時に伸長の停止している下位節間ではほとんど増加しなかった (第2図) 。これに対し, 貯蔵物質と考えられている糖は, 各節間とも乳熟期まで増加した後穂への転流とともに減少し, 成熟期にはほぼ0の値を示した。糖は, 下位節間では開花前にかなりの量が蓄積していたのに対し, 穂首節間と第2節間では開花期に蓄積し始め, 下位節間では乳熟期の1週間ほど前に, 第2節間では乳熟期に, 穂首節間では乳熟期の数日後に最大値に達した。乳熟期の糖の含有率は全品種とも第2節間で高く, さらに含有量は下位節間で高いため, 第2節間と下位節間が主要な貯蔵器官であると考えられた。一方, 糖の含有率, 含有量ともに半矮性のハルユタカで長稈のハルヒカリ, Selpekよりも高かった。
著者
ウィーガンド クレイグ 芝山 道郎 山形 与志樹 秋山 侃
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.673-683, 1989-12-05
被引用文献数
6

作物の生育と収量に関する新しい推定手法として野外での分光反射測定がある。この測定により得られた作物の波長別反射係数間の相互演算結果 (VI) が, 葉面積指数, 光合成有効放射 (PAR) および同吸収率 (Fp), PAR日吸収量 (Sp), 地上部乾物量 (DM) および収量とどのように関係づけられるかを数式で提示し, これらを茨城県つくば市での実測データに適用してその有効性を検証した。植物材料としては, 15aの水田を13区に分割し, 2移植期 (5月21日, 6月11日), 6窒素施肥水準 (0, 2, 4, 6, 8, 12 g/m^2) を設けて3品種のイネ (日本晴, コシヒカリ, シナノモチ) を栽培したものを供し, 10日ないし2週間隔で分光反射測定を行った。移植期から登熟期において, 収量ならびに積算Sp (ΣSp) はともに積算PVI (ΣPVI) の1次式で推定されることがわかった。PVIは赤および近赤外反射係数から算出されるVIである。またΣSpからDMへの転換効率 (e_c) は移植期から出穂期20日までの期間で2.9 g DM/MJ, 移植期から収獲期までは2.5 g DM/MJだった。一方収量と出穂期のDM (DM_h) とはr_2=0.92の高い相関関係を示した。DM_hと1100, 1650 nm反射係数間の差との相関関係は, PVIとのそれよりも密接であった。(r^2=0.82および0.6 g) 。
著者
礒田 昭弘 Aboagye Lawrence Misa 野島 博 高崎 康夫
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.700-706, 1996-12-01
被引用文献数
2

ラッカセイの葉の調位運動の品種間差異について, 葉面受光量, 葉温及び蒸散速度の点から検討した. 5品種(千葉半立, タチマサリ, 関東56号, バレンシア, 金時)を圃場条件下で栽培し, 地上部最盛期に防雀網で群落最上層葉を抑え, 自由に調位運動を行っている無処理区の小葉面受光量と葉温の日変化を比較した. また, 熱赤外線画像測定機で各区の群落熱画像を撮影するとともに, 無処理区の個体を対象に蒸散速度, 気孔抵抗を測定した. タチマサリ, バレンシア, 金時の3品種では, 無処理区の葉温は気温とほぼ同様に推移したが, 処理区の葉温は気温より高く推移した. 千葉半立, 関東56号においては, 葉温は無処理区で気温と同様かやや高く推移したが, 処理区では午後から気温より低くなった. 受光量は曇天日には関東56号, バレンシア, 金時で, 晴天日ではタチマサリ, 関東56号で無処理区が有意に大きくなり, 両日とも関東56号が最大の受光量を示した. 蒸散速度は千葉半立が最大で, 次いでバレンシア, 関東56号, タチマサリ, 金時の順で, 気孔抵抗とは負の相関関係があった. 熱赤外線画像測定による群落の葉温はタチマサリ, 金時で高くなり, 千葉半立, 関東56号で低い値を示した. 以上のことから, 蒸散能力の高い品種は太陽光線を避ける運動の程度が小さいことから受光量が大きくなり, 蒸散能力の低い品種は太陽光線を避ける運動により葉温を下げ, 水分ストレスを回避している傾向がうかがえた.
著者
王 培武 礒田 昭弘 魏 国治
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.401-407, 1993-09-05

乾燥条件下でのダイズの葉の調位運動の実態と葉温との関係を調査するため, 乾燥地域である中国新疆ウイグル自治区石河子のコンクリート枠圃場で実験を行なった. 適宜かん水処理した区 (かん水区) と一定期間かん水を行なわなかった区 (無かん水区) を設け, 調位運動の活発な珍珠塔2号と不活発な黒農33号の2品種を栽培し, 登熟中期に, 葉群構造, 頂小葉の葉温を調査した. 黒農33号の無かん水区は茎長が小さくなり, 葉面積指数もかん水区の約半分になった. 珍珠塔2号の無かん水区は茎長は余り変わらないものの, 各層の葉面積指数が小さくなり, 全体の葉面積指数がかん水区の半分になった. 珍珠塔2号の無かん水区は早朝から葉身が立ち上がり, 日中は太陽光線と平行に近い状態となった. かん水区も調位運動を行なったが無かん水区ほど顕著ではなかった. 最上層の葉温はかん水区で午前中気温より少し高くなったが, 正午前から低く推移した. 無かん水区ではほとんどの時間気温より低く推移した. 黒農33号の無かん水区では葉身に萎れがみられた. かん水区では珍珠塔2号ほど活発ではなかったが, 昼間太陽光線と平行になろうとする調位運動を行なっていた. かん水区の最上層の葉温は正午前から気温より低く推移したが, 無かん水区では朝から気温よりかなり高く推移し日射量の変化に影響されていた. 珍珠塔2号の無かん水区に一時的にかん水を行なったところ, かん水5日後においても水分ストレス条件下と同様な太陽光線を避ける調位運動が認められた.