著者
平井 源一 稲村 達也 奥村 俊勝 芦田 馨 田中 修 中條 博良 平野 高司
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.196-202, 2003-06-05
被引用文献数
1 1

本研究は水稲と陸稲の栄養生長期の生育に及ぼす大気湿度の影響を相対湿度60%と90%で比較したものである.その結果,低湿度条件は高湿度条件に比較して,水稲の乾物生産を有意に減少させたが,陸稲では乾物生産の減少は認められなかった.低湿度下の水稲では,単位葉面積当たり気孔密度が増大し,気孔装置面積も大となり葉面積に占める気孔装置面積の割合が高湿度に比較して有意に大きかった.また,水稲は低湿度で,気乱闘度の低下が少なく,単位葉面積当たり蒸散量が顕著に大きくなり,葉身の本部水ポテンシャルが大きく低下することが認められた.一方,陸稲では水稲に比し低湿度によって,気孔密度,気孔装置面積が変化せず,葉面積の中で気孔装置面積の占める割合に湿度間で有意差がなかった.また,陸稲では,低湿度によって気乱闘度が低下し,蒸散量を抑制するため,葉身の本部水ポテンシャルが低下しなかった.さらに,低湿度による葉身の本部水ポテンシャルの低下した水稲では,葉面積の相対生長率(LA-RGR)が,高湿度に比して有意に低下した.なお,純同化率(NAR)は低湿度によって低下したが,高湿度との間に有意差は認められなかった.したがって,水稲では低湿度で有意なNARの低下をまねく以前に葉面積の低下を引きおこし,乾物生産は抑制されたが,陸稲では湿度間で葉面積の生長速度に差を生じなかった.この点が水稲と,陸稲の生育,乾物生産において湿度間に差を生じさせたものと考える.要するに,水稲と陸稲との間には大気湿度,特に低湿度に対する形態的生理的反応のことなることが,湿度間で認められた乾物生産の水稲,陸稲間差異を生じた要因と考えられる.
著者
立田 久善
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.187-193, 1999-06-05
被引用文献数
6

通常の気象条件下において,窒素施肥条件の異なる圃場で栽培したイネの葯長,葯幅および充実花粉数を比較した.基肥窒素量を1m^2当たり0,4,7,10,13gとした圃場で栽培したイネの場合,基肥窒素量が多くなるほど葯長,葯幅は短くなり,充実花粉数は減少した.また,基肥窒素量を1m^2当たり4gまたは10g施用し,穂首分化期,幼穂形成期,減数分裂期に1m^2当たり3g窒素追肥したイネと無追肥のイネの場合,基肥窒素量が1m^2当たり4gのときは,無追肥に比較して幼穂形成期の追肥で葯長,葯幅が短くなり,充実花粉数も減少した.基肥窒素量が10gの場合も同様の傾向がみられたが,追肥時期の違いによる差は基肥窒素量が4gの場合よりも小さかった.これらのことから,イネの葯長,葯幅および充実花粉数には窒素施肥が大きな影響をおよぼしており,低温の影響を受けていない年でも,基肥窒素を多く施用した場合や幼穂形成期頃の追肥は,葯長や葯幅を短く,充実花粉数を減少させる.また,追肥時期の影響は基肥量の多少によって異なった.
著者
齊藤 邦行 磯部 祥子 黒田 俊郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.85-90, 1998-03-05
被引用文献数
6

ダイズ収量成立過程を解析するには, 花器の分化と発育過程を明確にする必要がある.花房の着生位置に着目した場合, 今までの分類は煩雑で, 多くの労力を要する.光学顕微鏡による観察結果に基づいて, 花器の分化・発育ステージを, 花芽分化前(I期), 花芽分化期(II期), 萼分化期(III期), 花弁分化期(IV期), 雄ずい分化期(V期), 雌ずい分化期(VI期), 胚珠・葯分化期(VII期), 花粉・胚嚢形成期(VIII期), 開花期(IX期), の9期に分類した.特定の節に着目すると, 花芽は低次位から高次位へ花房次位の序列に従って分化した.個体内では2次の花芽が最も早く分化したが, III期以降は0, 1次の花器の発育が最も速く進行した.低次位の花芽は分化後急速に発育したのに対し, 高次位の花芽では分化後の発育はゆっくりと進行した.0, 1, 2, 3次の花芽は開花始前までに分化し, 4, 5次の花芽は開花始後に分化した.また, 0, 1次の花芽の分化・発育は全ての着生位置で開花始前の短期間に集中して行われたのに対し, 2次以上の花芽では開花始前後の長期間に及んだ.従って, 低次位の花蕾数は開花始前に, 高次位の花蕾数は開花始後に決定することが推察された.出葉日と花器の分化・発育との対応関係をみると, 主茎第4, 7節は出葉後に花芽が分化したのに対し, 10節以上は花芽分化が出葉より早くおこり, 花芽の分化は栄養生長とは無関係に, 各節でほぼ一斉に開始されることがわかった.
著者
佐竹 徹夫 柴田 和博
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.454-462, 1992-09-05
被引用文献数
6

小胞子の分化から受精に至るまでの発育過程を4段階に分け, それぞれの段階で受精に関係する要素(受精構成要素)を定義し, 受精率を4要素(分化小胞子数, 発育花粉歩合, 受粉歩合および柱頭上花粉の受精効率)の積によって表した. 危険期に冷温処理された穎花の受精率およびそれを構成する要素の大きさには, 品種間に顕著な差が認められた. 耐冷性の異なる19品種を用いて, これら要素の受精率に対する寄与率を重回帰分析法によって評価した. 危険期に冷温処理された穎花の受精率における品種間分散の82%が, 分化小胞子数, 発育花粉歩合および受粉歩合の3要素によって説明された. 第4要素の柱頭上花粉の受精効率(この要素は柱頭上における花粉の発芽歩合と発芽花粉の受精効率より構成される)は本論文では評価されなかった. 染分, 赤毛, キタアケ, 道北糯18号, 中母42号, はやゆき等は小胞子分化数が大きく, 染分, ハマアサヒ, キタアケ, トドロキワセ, はやゆき, コチミノリ等は花粉発育歩合が大きく, そらち, 中母42号, はやゆき, キタアケ等は受粉歩合が大きく, それぞれの要素の供与親として注目された. 受精構成要素の概念は, 耐冷性の遺伝子を各要素ごとに探索する手段として育種事業に利用できるばかりでなく, 耐冷性の生理機構を解析するための手段としても利用できる.
著者
川竹 基弘 西村 剛 志村 清 石田 良作
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.161-162, 1960-09-01

The methods of fertilizer application tested were as follows: 1) Subsoiling, 2) Broadcasting, 3) Drilling beside planting rows, 4) Drilling between planting rows. With corn and oats, the method of drilling beside planting rows brought the best top growth. With immature soybean and common vetch, it was superior by subsoiling. The yield in each crop was similar in tendency to the top growth, except that of common vetch which decreased owing to lodging caused by excessive growth by the subsoiling method. Drilling between rows brought about the most inferior growth and yields in all the crops. Effects of the difference of the method on the root development were recognized with common vetch and oats as differences in distribution of roots around and beneath the fertilizer placed. Subsoiling application promoted the penetration of roots in common vetch only. It was observed that the roots which distributed around the fertilizer were white and fresh. Though no data about the relation between top growth and root weight were obtained in this investigation, the authors assumed detailed studies of quality or viability of root should be important to elucidate such a relation.
著者
石崎 和彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.502-506, 2006-10-05
被引用文献数
3 14

水稲粳26品種を,4種の高温処理条件,即ち温水かけ流し圃場,ビニルハウス,温水循環プール,人工気象室と一般圃場で栽培し,検定方法の特徴を把握するとともに,高温登熟性検定における基準品種を選定した.玄米品質を示す良質粒歩合は,いずれの検定方法においても低下し,品種間差が拡大したことから,登熟期間の高温処理は高温登熟性の把握に有効であると考えられた.また,品種の高温登熟性の順位には,検定方法の間に0.58〜0.73の相関係数が認められ,いずれの方法を用いても同様の検定結果が得られることが推察された.高温登熟性の基準品種として,高温登熟性ランク強にふさおとめ,やや強にてんたかく,はなひかり及び越路早生,中にひとめぼれ,はえぬき及びホウネンワセ,やや弱に味こだま,加賀ひかり及び扇早生,弱にトドロキワセ及び越の華を選定した.
著者
義平 大樹 唐澤 敏彦 中司 啓二
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.165-174, 2000-06-05
被引用文献数
2

道央多雪地帯においてコムギ, ライムギより多収を示す秋播ライコムギ品種と低収にとどまる品種の生育特性の違いを把握し, ライコムギの多収品種育成のための育種目標および多収を実現するための栽培上の注意点を明らかにするために, ライコムギ品種, 北海道の秋播コムギ品種, および秋播ライムギ品種の子実収量とその関連形質を4ヶ年にわたり比較調査した.ポーランド育成のライコムギ品種に, コムギ品種およびライムギ品種に比べて子実収量の高いものが多かった.しかし, ロシア, ウクライナ, フランス, カナダ, 韓国, イングランド育成のライコムギ品種の子実収量はコムギ品種に比べて低かった.前者の多収要因は, コムギに比べて一穂重および地上部重が大きいこと, ライムギに比べ収穫指数が高いことにあると考えられた.後者の低収要因には, 第一に雪腐病発病度が高いこと, 第二に穂数が少ないこと, 第三に収穫指数が低いことがあげられ, 長稈のライコムギ品種において倒伏も低収に関与すると考えられた.道央多雪地帯においてライコムギの多収を実現するためには, 育種目標として冬枯れに対する耐性に優れたもの, 穂数が多く収穫指数の高いものを選抜すること, 栽培技術としては冬枯れによる穂数の減少を防ぐことが重要であり, これらがある程度満たされた時, 穂重型で地上部重の大きいライコムギの特性が多収性に結びつくことが示唆された.
著者
星野 次汪 伊藤 誠治 谷口 義則 佐藤 暁子
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.21-25, 1994-03-05
被引用文献数
5

粒大と品質との関係を明らかにするため, 1989/1990年, 1990/1991年に栽培したコユキコムギを用いて, 原粒を縦目篩を用いて大きさ別に分け, 原粒及び粒大別に製粉された60%粉の粗タンパク含有率, 灰分含有率及びコムギ粉生地の物性などについて試験を行った. 粒大が大きいほど千粒重は大きく, 3.0mmの粒は1.8mmの粒の約3倍の重さであった. 粗タンパク含有率は1989/1990では粒大が大きいほで高くなったが, 1990/1991ではいずれの粒大でもほぼ一定の値であった. 灰分含有率は1989/1990では2.4mm, 1990/1991では2.6mmの粒が最も低く, それより粒大が大きくなるかあるいは小さくなるにしたがって高くなった. 製粉歩留は, 粒大が大きいほど高くなり, 粒大間に1%水準の有意差が認められた. 粉の比表面積(cm^2/g)は粒大が大きいほど小さかった. 粉の白さ(R455), 明るさ(R554)は粒大が大きいほどその値は大きかったが, 胚乳の色づき(logR 554/R 455)は逆に小さかった. ファリノグラムの特性値(Ab, DT, Stab., V. V, Wk)及びアミログラム最高粘度は粒大間で有意差が認められなかったが, エキステンソグラムの各特性値のうち, 面積は1.8mmの粒を除けば粒大が小さいほど大きく, 伸長抵抗は粒大の大きいもの及び小さいものが小さかった. これらのことから, 大粒は, 灰分含有率が低く, 製粉歩留が高く, 粉色相が優れているが, ブラベンダー特性はやや小粒の方が優れていた.
著者
田代 豊 谷山 鉄郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.77-86, 1996-03-05
被引用文献数
3

沖永良部島は日本の南西諸島における典型的な農業地域の一つである. 同島の北東半分を占める和泊町においては, 花き栽培などの集約的農業のために土地面積当たりの農薬消費量が日本全国の平均の3倍以上に達している. 同島において, 33地点の115の地下水サンプルの中の混入農薬(フェニトロチオン, ダイアジノン, プロチオホス, キャプタン)を分析した. 8地点の15サンプルからこれら4種の農薬のうちいずれかが検出された. この結果は, 日本においてもゴルフ場ばかりでなく集約的な農業のために施用される農業によって地下水が汚染される場合があることを示している. キャプタンは, 分析した農薬の中でも最も消費量が多いものであったが, 2サンプルからのみ検出された. これら2サンプルは, 集約的な花き栽培がより盛んな同町北東部からのものであった. フェニトロチオンとダイアジノンは年間を通じて様々な地点から検出された. さらに, 同町におけるこれら2種の農薬の消費量は異なる季節変動を示すにもかかわらず, 最も汚染されていた地点の一つについて, これら2種の農薬の検出濃度の比は毎回ほぼ一定であった. このことから, これらの農業は同島の地下水に比較的緩慢かつ継続的に浸透していくことが示唆される.
著者
中村 拓 松中 昭一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.517-522, 1974-12-30

アサガオを光化学オキシダントにたいする指標植物として利用するため, 自然発生した光化学オキシダントおよび人工的に製造したオゾンガス曝露により, アサガオの品種等感受性に影響する要因を検討した. (1) アサガオ品種間の感受性は, ソライロアサガオに属するヘブンリーブルーとパーリーゲイトが最も高く, ニホンアサガオのスカーレットオハラおよびローズクィーンも高い感受性を示した. 同じくニホンアサガオであるが, わい性のキャロルレッドおよびキャロルブルー, うず性の紫獅子は感受性が低かつた. (2) 各生育段階における感受性は, 全葉数10〜35葉期が高く, ごく若いか老化した時期では低下した. (3) 光化学オキジダントの被害は, 特定の葉位に発生する. すなわち, 上から数えて10〜14番目の成熟した葉は感受性が高く, 展開中の若い葉および老化した葉は感受性が低かつた. (4) 施肥量が少ないと感受性が低下した. (5) 土壌水分が不足した場合も感受性が低下した. アサガオの分類について静岡大学助教授 米田芳秋氏の指導を受けた. また本研究の遂行にあたり当研究所生理第5研究室長 太田保夫氏より終始有益な指導と助言を与えられた. ここに両博士に深謝の意を表する. 本研究は昭和47年度より開始された環境庁計上の「農林水産生態系における汚染物質の循環と指標生物に関する研究」の一環として行なわれたものの一部である. 研究設定に尽力された各位に深く感謝するものである.
著者
狩野 広美 小泉 美香 桂 直樹 稲田 勝美
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.108-109, 1989-04-01

水稲の農林8号とクロリナミュータントCMV-44の光化学反応の作用スペクトルを測定し, クロロフィルbの役割を検討した.
著者
沈 益新 伊藤 浩司 石井 康之 田中 重行 田中 典幸
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.19-26, 1995-03-05
被引用文献数
1

オーチャードグラスの品種ナツミドリにおける施肥による生産性の一時的な調節が, その後の生産性に及ぼす影響を圃場実験及びポット実験により検討した. 圃場実験では, N施用量が1.8g/m^2相当の有機質肥料の基肥を施用して10月31日に播種し, 翌年1月5日に化成肥料で窒素, 燐酸, 加里の3要素とも10g/^2 (多肥区), 5g/m^2 (中肥区), Og/m^2 (少肥区)を施用した施肥処理区を設けた. その後, 4月15日に各区とも同量で中肥区相当を追肥し, その際, 刈り取り区として各区の半数を3cmの高さで刈り取り, その他は無刈り区として生長を継続させた. 1月5日から5月25日までにわたり, 乾物生長の変化を調査した. ポット実験の処理及び調査は圃場実験に準じた. 追肥までの期間は, 少肥区ほど葉面積の拡大が強く抑制されて地上部乾物収量 (DMY) が小さかった. しかし, 追肥後では, 刈り取り区及び無刈り区ともに, 追肥前の少肥による生長抑制に対する補償的生長が現れて, DMYの増加は少肥区ほど大きかった. これは, 主として, 追肥前に少肥の区ほど, 追肥後の葉面積指数 (LAI) の増大速度が大きいとともに, LAIの増大に伴う純同化率の低下が小さいことによった. 少肥によるDMYの減少に対する追肥後の補償は完全ではなかったが, 少肥によって生産を一時的に抑制しても, 適切な追肥を行えば,その後の生産が引続き抑制されることにはならないと推察された.
著者
福嶌 陽 楠田 宰 古畑 昌巳
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.173-178, 2001-06-05
参考文献数
12
被引用文献数
6

暖地のコムギ作における収穫の早期化を実現するための基礎的知見を得るため, 早播きした秋播性コムギの分げつの発育の特徴を明らかにした. 秋播性程度の高いイワイノダイチ(秋播性程度IV)と対照品種のチクゴイズミ(同I〜II)を, 1998年の10月26日(極早播き), 11月5日(早播き), 11月24日(標準播き)に播種し, 栽培した. 単位面積当たりの最高茎数は, イワイノダイチがチクゴイズミより著しく多かった. 単位面積当たりの穂数は, イワイノダイチがチクゴイズミよりやや多く, また播種期が遅いほどやや多かった. 個体を対象として分げつの発育過程をみると, いずれの播種期や品種においても分げつは主茎の出葉にともなってT1, T2, T3およびその同伸分げつのT1P, T4およびその同伸分げつのT11とT2Pの順に規則的に出現した. イワイノダイチはチクゴイズミよりT4, T11, T2Pなどの高位・高次の分げつの出現率が高かったが, これらの分げつは無効化することが多かった. 有効分げつでは出葉速度は主茎とほぼ同じであったが, 無効分げつでは出葉速度は次第に低下し, 出葉の停止, 枯死に至った. そこで, 無効分げつは, その出葉速度が主茎の半分以下となった時点で無効化したとして, 個体当たりの分げつ数の推移をみたところ, 早播きのイワイノダイチの分げつ数が最大となる時期は早播きのチクゴイズミより遅く, 標準播きのイワイノダイチ, チクゴイズミより早かった. このような分げつ数の推移は幼穂の発育と密接に関連していることが示唆された.
著者
中條 博良
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.224-231, 1967-06-10

小麦農林27号または小麦農林4号を種々の温度周期の下で処理し, バーナリゼーション効果の差異について研究した。(1) 40日間毎日0℃または10℃で0〜24時間, 18℃で残り時間処理した。毎日の低温処理時間の長短に応じてバーナリゼーショソ効果に差がみられた。(2) 夫々数日間の低温(0℃)処理と高温(20℃)処理とを低温処理日数の合計が所定日数に達する迄くり返した。低温処理または高温処理の連続日数が増加するに従いバーナリゼーション効果は減少し, 低温処理連続日数が10日内外の時処理効果の減少が顕著であった。しかしこのような処理連続日数の増加にともなうバーナリゼーション効果の減少は低温処理温度を10℃とした時または高温処理温度を15℃とした時には少なかった。以上の結果から低温でのバーナリゼーショシ処理が数日以上連続した場合, その処理効果は高温により消去され易くなるものと考えられる。
著者
張 継権 早川 誠而 山本 晴彦 岡田 憲夫 多々納 裕一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.239-249, 2002-06-05
参考文献数
7
被引用文献数
2

1991年台風17号・19号と1999年台風18号の三つの台風は,9月中・下旬に九州北部西岸及び九州中部の熊本県に上陸し,九州及び中国地方を通り抜けるという,ほぼ同一時期に,同一経路をたどり,九州,中国・四国地方を中心に大きな農業災害を引き起こした.とくに,水稲,野菜,果樹,飼料作物等の農作物は,倒伏,落果,折損等による災害が発生し,農地や農業施設などの被害を含めて九州,中国・四国地方では,台風9117号・9119号による農業被害の総額は2811億円に達し,台風9918号による農業被害の総額は1135億円に及んだ.台風9117号・9119号では農作物,樹体,家畜,施設等が大きな被害を受けたが,台風9918号では樹体,家畜がほとんど被害を受けなかった.作物別被害状況をみると,最も大きい作物では,台風9117号・9119号の場合は果樹であり,作物被害総額の34%を占めているが,台風9918号では水稲であり,作物被害総額の43%を占め,被害状況に大きな違いが見られる.これは三つの台風の上陸後の勢力,台風による災害現象および被害機構などが異なったためである.
著者
平山 正賢 根本 博 平澤 秀雄
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.245-252, 2007-04-05
参考文献数
14
被引用文献数
2

畑圃場で栽培した中生及び晩生の日本陸稲8品種と水稲1品種を用いて,6年にわたり成熟期の根系の発達程度を調査し,深根性が耐干性に及ぼす影響を明らかにすると共に,中晩生品種群における深根性程度の基準品種を設定した.根系の発達程度の観察には発掘法,モノリス法,コアサンプリング法の3種類の方法を用いた.1994年〜1996年は発掘法により土壌層位毎に根数と根の太さを達観で観察し,根系の最深到達深度を計測した.1996年はモノリス法により根を採取し,層位毎に根長と根の乾物重を測定した.1998年,2001年,2002年はコアサンプリング法により根を採取し,層位毎に根の乾物重を測定した.調査期間を通して,耐干性程度の異なる中生・晩生熟期の日本陸稲品種では,根系の発達程度に品種間差が認められた.特に30cmより深い層の根量は大きな品種間差が認められた.ゆめのはたもちなど耐干性が強い品種は30cmより深い層の根量が安定して多いの対し,ミズハタモチなど耐干性が弱い品種は根量が少なかった,よって,耐干性の強弱と深根性との間には明らかな関連があることが圃場条件で実証された.今回の調査結果から,中生・晩生熟期の日本陸稲品種における深根性の基準品種として,深根性ゆめのはたもち,やや深根性陸稲農林編26号,やや浅根性ミズハタモチを設定した,また,根系の調査法として,コアサンプリング法による土壌深層の根量,モノリス法による土壌深層の根量及び発掘法により直接観察した根の深さとの間にはそれぞれ正の相関関係が認められ,コアサンプリング法が簡易かつ信頼性のある根系採取法として実用的であると考えられた.