著者
星川 清親 中村 聡 後藤 雄佐 田中 正夫 壁谷 雄一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.610-615, 1994-12-05
被引用文献数
2

1991年にスイートソルガム14品種を用いて, 出穂期までの播種後日数(DAS-H)と収量及び収量に関与する諸形質との関係を調べた. さらにその中の8品種を1991年から3年間栽培し, 出穂期の年次変動, DAS-Hと収量との関係を解析した. 1991年の実験では, DAS-Hが多いほど, 茎乾物収量が多く, 品種間で直線的な関係が認められた. また, 収量に関与すると考えられる形質, つまり総葉数, 伸長節間数, 茎長, 茎直径についても同様な関係が認められた. 3年間の実験の結果, DAS-Hは, 品種によっては年ごとに大きく変動した. 例えばWrayの出穂期は, 1991年ではDAS-H88(8月31日, 1993年ではDAS-H125(10月5日)で, 播種後日数にして37日の差があった. これを出穂期までの積算温度(CAT-H)でみても同様で, 1991年と1993年とで585度日の差があった. また, 各品種をDAS-H順に並べると, その順位も年により変動し, 一部の品種では早生か晩生かを決定できないものもあった. すなわち, 1992年では中生品種と位置付けられるRio, Keller, Wrayは1991年では早生品種, 1993年では晩生品種に位置づけられる結果となった. 品種によって出穂期の年次変動が大きく, しかも収量及び収量関連形質の年次変動と異なるために, 3年間を通してみると, DAS-H (CAT-H)収量, または収量関連形質との相関は低かった. しかし, 年ごとのDAS-Hと収量または収量に関与する形質との間には, 高い正の相関が認められた.
著者
山本 晴彦 岩谷 潔
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.535-541, 2006-10-05
参考文献数
29
被引用文献数
3 2

九州・山口地方へは水稲の穂ばらみ期から収穫期にかけて5個の台風(15・16・18・21・23号)が接近・上陸した.これらの台風に伴う強風により,葉ずれによる葉身光合成能力の低下,倒伏等による草姿悪化,籾ずれによる登熟不良,脱粒,倒伏による穂発芽の発生などの複合的な要因により,減収や品質劣化の被害が発生した.作況指数は,福岡県南筑後(70),熊本県県北(74),山口県西部・佐賀県佐賀(76)となり,山口県,福岡県,熊本県では水稲玄米の品質が低下して1等米がわずか13〜15%となった.とくに,山口県では台風18号の通過時に周防灘からの強風,通過直後からの少雨の継続により海岸地域を中心に潮風害が発生し,著しい減収・低品質となった.
著者
丹野 久
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.16-25, 2010-01

1991〜2006年の16年間に北海道の15地域で、年次平均で42〜645地点の水稲品種「きらら397」の精米の蛋白質含有率とアミロース含有率を調査し、各地域の2〜3市町村での生育調査結果をまじえ、年次間と地域間の差異およびその発生要因を検討した。年次間と地域間には、それぞれ出穂期で7月29日〜8月16日、7月29日〜8月9日、不稔歩合で5.0〜61.0、8.9〜21.5%、千粒重で21.1〜23.5、22.0〜23.3g、玄米収量で205〜576、398〜593kg/10a、蛋白質含有率で7.2〜8.6、7.2〜8.2%、アミロース含有率で18.3〜22.2、19.8〜21.2%の差異が認められた。全形質とも年次間差異は地域間差異より大きく、変動係数の比で1.4〜3.2倍であった。年次間では、出穂期が早く、障害型冷害危険期の平均気温が高く、不稔歩合が低いこと、千粒重が大きく多収であることなどにより、蛋白質含有率が低下した。また、出穂後40日間の日平均積算気温が、年次間、年次と地域込みで843〜849℃において蛋白質含有率が最も低かった。しかし、地域間ではそれら生育特性と一定の関係は認められず、泥炭土の比率が低いこと、また分げつ期に当たる6月の平均風速が小さいことなどにより蛋白質含有率が低下した。一方、アミロース含有率は、年次間、地域間とも出穂後40日間の日平均積算気温が高いこと、とくに年次間では出穂期前の平均気温が高く出穂期が早いことにより低下した。本研究の結果、北海道における良食味米生産のための栽培指針の策定に有効な知見が得られた。
著者
山本 晴彦 本條 均 早川 誠而 鈴木 義則 河田 尚之
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.207-213, 1996-06-05
参考文献数
13
被引用文献数
1

暖地において水田裏作の基幹作物である二条オオムギ(品種: ニシノチカラ)を対象に, 個体群の太陽エネルギー利用効率(Eu, %), 太陽エネルギー転換効率(Ec, %)ならびに日射吸収量から乾物への変換効率(Cs, g MJ^<-1>)を算出し, 二条オオムギの乾物生産を太陽エネルギーの利用の面から評価した. 節間伸長期から出穂期までの個体群日射吸収量は全天日射量の約56%, 登熟期間中の個体群日射吸収量は約70%であった. 全生育期間の個体群日射吸収量は865.02 MJm^<-2>で, これは生育期間中の個体群に投下された日射量の積算値の約40%に相当した. 節間伸長期から出穂期までの生育中期のEcは3.94%で, 高い値を示した. また, 登熟期間中のEuは1.47%, Ecは2.13%で, 全生育期間におけるEuは1.09%, Ecは2.71%であった. これは, 表作における暖地水稲のEu, Ecに匹敵する値であり, 寒冷地のリクゼンムギに比べてかなり高率であることがわかった. 播種期直後から出穂期までの栄養生長期における乾物生産と積算日射吸収量の関係は直線関係が成り立ち, Csは2.32gMJ^<-1>であった. さらに, 登熟初期および中期は, 1.79gMJ^<-1>, 1.179MJ^<-1>になることが示された.
著者
鄭 紹輝 川越 洋二
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.473-477, 1998-12-05
参考文献数
12
被引用文献数
2

北部九州における夏アズキの春播き栽培では, 登熟は夏の高温・多湿条件下で進行するため, 子実は小粒で, 種皮が厚くて吸水性が悪いなど, 北海道産に比較して品質が劣ることが知られている.本研究は北部九州におけるアズキ子実の品質改善を目的に, 北海道で育成された夏アズキ8品種を用いて従来の春播きと夏に播種期を変えて2ヵ年栽培し, 子実の品質関連諸形質および生育諸特性について調査した.その結果, 1993年では春播きに比較して夏播きの場合に, 百粒重の増大, 種皮率および確実率の減少がみられ, その程度は8月播きで顕著であった.そこで, 1995年では7月13日から約10日おきに5回の播種を行った結果, 百粒重および種皮率は7月21日以降の播種, 種皮色は7月31日以降の播種で優れ, いずれの形質も北海道産とほぼ同程度であった.確実率は概して晩播ほど低くなったが, 品種間差異や年度間の変動が大きかった.なお, 7月31日以降の播種では莢が一斉に成熟し, 葉がほとんど黄化して落ちるため収穫作業が行いやすく, 収量は7月31日と8月12日播種で高かった.以上のことから, 北部九州においては, 夏アズキを7月下旬から8月中旬にかけて播種した方がよいと考えられた.
著者
山本 晴彦 早川 誠而 岩谷 潔
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.226-232, 1998-06-05
参考文献数
14
被引用文献数
8 1

1997年台風9号に伴い山口県北部および島根県西部では7月26日から28日にかけて豪雨に見舞われた.むつみ村では, 7月26日〜28日に582〜782mmの降水を記録し, 7月27日の日降水量は429〜547mmを観測した.本豪雨は, むつみ村の周辺に位置する気象庁の4カ所の観測地点を大きく上回る局地的豪雨であった.この影響により, むつみ村にある4カ所の農業用溜池が決壊して土砂災害が発生した.とくに, 麻生溜池では下流域に氾濫水や土砂が大量に流出して水田内に堆積したため, 水稲が埋没する被害が発生した.現地調査の結果, 土砂堆積深と地上部乾物重および玄米重との関係は2次曲線で近似でき, 地上部乾物重は土砂堆積深が50cm, 玄米重は35cmで重量がほぼ皆無になることが明らかになった.
著者
丹野 久 木下 雅文 木内 均 平山 裕治 菊地 治己
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.493-499, 2000-12-05
参考文献数
13
被引用文献数
3

1998, 1999年の2ヵ年に北海道の水稲新旧52品種について開花期耐冷性の評価を行った.縦15×横5×高さ10cmの方形ポットに主稈8本栽培したものを材料に, 1品種3〜4ポットを50%遮光幕付人工気象室で出穂日より17.5℃で15日間処理を行い, 最少で10穂の稔実歩合により判定する簡易な方法で検定した.その結果, 「はやゆき」, 「はやこがね」が最も強く強〜極強, 「赤毛」, 「ふくゆき」, 「うりゅう」, 「ほしのゆめ」, 「初雫」の5品種が強, 「富国」, 「早生錦」, 「しまひかり」が最も弱く弱〜極弱であった.開花期耐冷性(冷温処理区の不稔歩合)と穂ばらみ期耐冷性(従来の評価.以下, 耐冷性評価には極強:2〜極弱:8を当てはめ相関係数を算出した)との間にはr=0.541(n=52, 以下同じ)の有意な正の相関関係が認められた.また, 育成年次が新しい品種ほど穂ばらみ期耐冷性が強い傾向が認められたが(育成年次と従来の穂ばらみ期耐冷性評価の間にr=-0.366), 開花期耐冷性とは一定の関係がみられず(育成年次と開花期耐冷性評価との間にr=-0.055^ns), 育成品種の開花期耐冷性を向上させるためには育種の場で直接選抜することが必要であると考えられた.さらに, 穂ばらみ期耐冷性が極強か極強に近いと評価されている北海道の耐冷中間母本7系統と耐冷育成系統の30系統, 計37系統の開花期耐冷性を検定したところ「永系88223」と「北育糯87号」の2系統が2ヵ年とも極強と判定された.これらの2系統は系譜の上から穂ばらみ期だけでなく開花期においても「はやゆき」に由来する耐冷性を持つことが推察された.
著者
松江 勇次 水田 一枝 古野 久美 吉田 智彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.490-496, 1991-12-05
被引用文献数
7

北部九州において栽培環境条件と米の食味と理化学的特性の関係を明らかにするために, 移植時期, 人為倒伏が食味と精米中のタンパク質含有率, アミロース含有率およびアミログラム特性に及ぼす影響について, 近年育成の良食味品種を供試して検討した. 移植時期の早晩の食味への影響が認められ, 移植時期が遅れるにしたがい食味は低下した. 特に晩植(7月5日植)では著しく食味が劣った. また, 品種別にみると, 移植時期の早晩による食味変動の大きい品種と小さい品種があった. 移植時期が遅れるにしたがってタンパク質含有率, アミロース含有率は増加し, 最高粘度, ブレークダウンは低下し, それらの増減程度は特に晩植で著しく大きかった. 移植時期が遅れることにより食味は低下したが, この場合タンパク質含有率, アミロース含有率の増加および最高粘度, ブレークダウンの低下がみられた. 倒伏による食味の低下程度は, 倒伏時期が早いほど大きかった. また, 倒伏によってタンパク質含有率およびアミロース含有率は増加するが, その増加程度は倒伏時期が早いほど大きく, 逆に最高粘度, ブレークダウンは倒伏によって低下し, 倒伏時期が早いほど低下程度は大きかった. 倒伏による食味低下の場合には, タンパク質含有率, アミロース含有率の増加および最高粘度, ブレークダウンの低下がみられた.
著者
中野 尚夫 河本 恭一 石田 喜久男
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.40-46, 2001-03-05
参考文献数
16
被引用文献数
3

1990年にタマホマレとトヨシロメ,1991年と1992年にこれらに銀大豆を加えた3品種を水田転換畑において,35cm×36cm(正方形播)と70cm×18cm(長方形播)の1株2個体(1990,1991,1992年)あるいは同1個体(1990年)で栽培し,栽植様式と収量および収量構成要素の関係を節位別の分校発生と分校の生育から検討した.播種日は1990年が6月20日,1991年と1992年が6月22日であった.いずれの品種,1株個体数においても正方形播は長方形播に比べ,分校数が多くて総節数,花数が多く,さらに結莢率が高く,莢数,収量が多い傾向であった.主茎節位別にみると,3品種とも正方形播では長方形播に比べ,第5,6節の分校発生個体数率が高く,さらにタマホマレの第3〜6節,トヨシロメの第4〜6節,銀大豆の第5,6節では分枝の節数も多かった.開花前の7月26日の地際相対照度についてみると,正方形播長方形播に比べ,条間では低かったが,株際ではかえって高かった.開花後の8月12日においても,正方形播と長方形播の差は小さかったが,同様の傾向がみられた.また,正方形播では長方形播に比べ,主茎長が短く,茎径が太く,比葉面積が小さかった.これらのことから,正方形播では長方形播より群落が早く密閉状態になるが,相互遮蔽は小さいと推察され,この相互遮蔽の小さいことによって下位の分枝数が多く,それら分技の節数が多くなったと考えられた.さらに正方形播では,この有利な光条件がその後も継続し,下位節の結莢率も高くなり,莢数,収量が多くなったと考えられた.
著者
宮野 法近 国分 牧衛
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.351-356, 2010-07-05
参考文献数
10

宮城県では南部の玄米品質等級が他地域に比べ低いことが指摘されている。前報では出穂後20日間の日最低気温、日照時間および出穂期までの気温が等級に影響を及ぼしている可能性を指摘したが、移植から出穂期における気象条件の詳細な解析には至らなかった。そこで本研究では過去28年間を、ササニシキが中心に作付けされた1977から1993年まで(以後1993年まで)と、ひとめぼれが中心に作付けされた1994から2005年(以後1994年以降)に分け、1等米比率とm2当たり籾数の関係および移植盛期から出穂期までの気象条件がm2当たり穂数へ及ぼす影響について、県内の仙南、仙台、大崎地域間で比較検討した。1993年までは、全ての地域で一定のm2当たり籾数以上で1等米比率との間に負の相関があった。1等米比率と相関が見られた年次の各地域のm2当たり籾数は、m2当たり穂数と正の相関があった。m2当たり穂数は仙南地域が7月の積算日照時間、仙台地域が幼穂形成期から減数分裂期の日最低気温、大崎地域が7月の日最低気温とそれぞれ負の相関が見られ、影響を受ける出穂期前の気象条件は地域によって異なった。1994年以降においても、仙南、仙台地域ではm2当たり籾数と1等米比率の間には負の相関、m2当たり籾数とm2当たり穂数の間には正の相関があった。m2当たり穂数と相関を示す気象要因は、仙南地域が6月の積算日照時間、仙台地域が移植盛期から夏至までの日最高気温と正の相関が見られた。また、ササニシキ、ひとめぼれでは出穂期前後の気象条件が1等米比率へ及ぼす影響が異なっていた。
著者
武岡 洋治 松村 修 KAUFMAN Peter B.
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.544-550, 1983-12-05
被引用文献数
1

作物の恒常的な発育を保つ上で外気に接する表皮系組織の果たす役割は大きい. 表面構造の変化と珪質化の面からこの組織の構造と機能を明らかにする目的で研究を行い, 機動細胞に形成される珪酸体を迅速, 簡便かつ広範囲に測定する方法を検討した. その結果, 非晶質ゲル(amorphous gel, SiO_2・nH_2O)の形をとる珪酸体が軟X線をよく吸収する性質を利用して, 葉内に分布する珪酸体の鮮明画像を得ることが可能になった. 本法は次の二つの過程から成る. すなわち, 1) 試料の調整から葉内の珪酸体画像を得る過程, 2) 得られた画像写真から珪酸体の葉内分布パターン, 面積などを計測する過程. 実験には土耕栽培による水稲品種短銀坊主の第5葉と, 同じく赤坊, 岩賀. 栄光の各止葉を供試した. 過程1: 採取した葉身をホルマリン・アルコール・酢酸混合液で5日間固定したのち水洗し, アイロンで乾燥する. この標本を黒色ビニール袋に密封したFG型フィルム上にのせ, 8KeV, 5mAに調整した軟X線照射装置(ソフテックス, M-1005 NA型)のミクロ照射部で1分間照射する. レンドールにより現像したネガフィルムを焼付けして珪酸体画像を得る. 過程2: 珪酸体の画像写真を対話式画像解析システム(Photem IBAS, Zeiss)にかけ, 調査項目を指定して必要とする図表を描かせる. この方法による利点は, 1) 植物組織の珪酸(体)同定のために開発された従来の灰像法, 組織化学などの方法に比べてはるかに簡便迅速に試料調整ができる. そのため多数の試料を比較的短時間に処理することができる. 2) 広範囲にわたる面積を撮影できるため葉身1枚の珪酸体分布を測定することができる. 3) あらかじめプログラミングをしておけば画像解析システムにより分布密度, 面積などの測定と統計処理を迅速に行うことができる. 4) 組織切片の軟X線画像から珪酸体及び類似性物質の組織内分布を調べることができる.
著者
福田 晟 山谷 聡 小葉田 亨 今木 正
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.193-198, 1993-06-05

前報において, 地表にわずかな積雪があり, 気温0〜-4.4℃, 風速4〜7ms^<-1>のもとで葉身に葉枯れ, 落葉が生じ, この時夜間の葉身水ポテンシャル (Ψ_L) が-1.2MPaに, 翌日の昼間ではさらに最低-2.3MPaまで低下したことを報告した. そこで本報告は, 人工的に1年生苗の茶樹に低気・地温, 強風条件を与え, Ψ_Lの低下と寒風による被害発生との関係, 及びΨ_Lの低下の原因を明らかにしようとした. その結果, 低気・地温, 強風の組み合わせに暗黒後照明条件のもとでΨ_Lは-0.7〜-1.8MPaに低下し, 照明条件下で圃場と類似した枯死被害が生じた. また, 低温照明条件下では蒸散速度の増大に伴うΨ_Lの低下が大きいことから, このΨ_Lの著しい低下は低温による植物体内の水の通導抵抗 (R) の増大にもとずくものと考えられた. そこでさらに葉身, 茎, 根各部分への加圧と出液速度との関係を求めて各器官のRを推定したところ, 葉身と根のRは0℃では10℃に比較し約1.6倍, 20℃に比較して約3.2倍大きくなった. 以上から, 山陰地域における茶樹の寒風による被害は低気・地温によって特に葉身と根のRが著しく増大している時に, 強風, 及び翌日の日射により蒸散が促進されて, その結果, 葉身Ψ_Lの著しい低下, 葉身組織の脱水が生じて引き起こされるものと推定された.
著者
佐々木 良治 星川 清親
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.259-267, 1997-06-05
被引用文献数
2

水稲乳苗の活着における鞘葉節冠根の役割を評価するために, 乳苗の根系を構成する種子根および鞘葉節冠根に種々の断根処理を施したのち移植し, 7日間生育させ活着への影響を調査した. 根の基部から1.5cmあるいは3.0cmですべての根を切断して移植しても, 移植7日後の生育は, 断根処埋をしない無処理苗の生育と同様であった. しかし, 切断位置を根の基部から0.5cmにして移植すると, その生育は, 無処理苗の生育に比べて有意な低下を示した. また, 種子根と4本の鞘葉節冠根の根端を除去して移植しても, 第3葉の抽出速度および移植7日後の生育はほとんど影響を受けなかった. 一方, 種子根と最長の鞘葉節冠根とをその基部で切断して移植すると, 移植後の生育は明らかに抑制された. 移植7日後の総乾物重 (茎葉と根) および移植した苗に残存した根の総根長を, 無処理苗に対する処理苗の割合として表し両者の関係をみると, 総乾物重は残存した根の総根長と密接に関連し, 総根長の減少にともなって低下した. これらの結果は, 移植された乳苗の生育は, 苗に残存した根の総根長によって影響されることを示唆している. 移植された乳苗にとって, 鞘葉節冠根は養水分の吸収という点で大きな役割を担い, 第1節冠根を速やかに発根させることで活着すると推察される.
著者
石崎 和彦 金田 智 松井 崇晃
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.301-305, 2007-04-05

糯米の多くは加工された後に流通することから,加工適性が重要視される.切り餅やあられの製造では,餅つきから切断または包装までの時間短縮のため,硬化性の優れた糯米,即ち餅つき直後の生地を冷却したときに速やかに硬化する精米が求められる.そこで,水稲嬬品種の栽培条件と加工適性の関係を明らかにする目的で,穂肥窒素の施用と移植期及び品種の違いが餅生地の冷却後の硬さ(硬化度)に与える影響を調査した.その結果,穂肥窒素の施用は硬化度に与える影響が小さなことが明らかであった.しかし,穂肥窒素の施用と品種との間に交互作用が認められ,"わたぼうし"は窒素施用量の増加にともない硬化度が低下し,"こがねもち"は増大した.一方,移植期の早晩及び品種の違いによって硬化度に有意な差が認められ,それぞれの寄与率は6.4%及び81.0%であった.これに符合して,移植期の15日の遅れにより硬化度が0.90kg cm^<-2>低下し,品種間では"わたぼうし"が"こがねもち"よりも3.10kg cm^<-2>低い値を示し,硬化度は品種の違いに大きく依存することが明らかであった.以上のことから,加工適性の優れた糯米を生産するためには,品種の選択を最も重視し,さらに,登熟気温が高まるように移植期を早めることが望ましい.また,穂肥窒素の施用は品種によつて反応が異なるものの,移植期及び品種の違いに比べて硬化度に対して大きな影響を与えないことから,食味を低下させない範囲内で多収を目指した栽培が可能と思われた.
著者
猪谷 富雄 小川 正巳
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.137-147, 2004-06-05
参考文献数
110
被引用文献数
6

赤米とは、糠層にタンニン系赤色色素を持つイネの種類であり、わが国においては日本型とインド型の2種の赤米が栽培されてきた。日本型の赤米は古くから日本に渡来し、7-8世紀には全国各地で栽培されたことが平城京跡などから出土する木簡から推測されている。14-15世紀には中国からインド型の赤米もわが国へ渡来し、「大唐米」などと呼ばれ、近世に至るまでかなりの規模で栽培されていた。早熟で不良環境や病害虫に強い大唐米は、最盛期の江戸時代には関東から北陸地方以西において広く栽培され、特に低湿地や新たに開発された新田などに適していた。明治時代に入るとこれらの赤米は徐々に駆除され、わが国の水田から姿を消す道を辿った。例外として、日本型の赤米の一部が神聖視され、神社の神田などで連綿と栽培されてきたもの、雑草化して栽培品種に混生してきたものなどがある。約20年前から、赤米は小規模ながら栽培が復活し、日本各地で歴史や環境を考える教育や地域起こしの素材として利用されている。また、赤米は抗酸化活性を持つポリフェノールを含むこ機能性食品としても注目されている。わが国における赤まい栽培の歴史と赤米を取り巻く最近の研究状況などについて、以下の順に概要を述べる。(1)赤米を含む有色米の定義と分類、(2)赤米の赤色系色素、(3)赤米の栽培の歴史、(4)残存した赤米、(5)赤米など有色米が有する新機能、(6)赤米の育種などに関する最近の情勢。
著者
箱山 晋 田中 日吉 縣 和一 武田 友四郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.219-227, 1977-06-30
被引用文献数
19

To make clear the weed vegetation of paddy fields left off cultivation on account of government paddy acreage-control policy, the investigation were carried out in autumn of 1975. The 25 surveyed plots were located at the north-western parts of Fukuoka prefecture. Coverage and height of plants in their paddy fields were measured and Summed Dominance Ratio (SDR2), which was proposed by NUMATA, was calculated from those two factors. All the species appeared were classified into the following four plant groups from their habitat type: that is, A; perennials in lowlands, B; annuals in lowlands, C; perennials in uplands and D; annuals in uplands. And then, the relations between the SDR_2 of these plant groups and the difference of soil moisture, and years of fallow were compared with each vegetation. Results are as follow. 1. At the beginning one or two years after left off cultivation, species number and SDR_2 of annuals were dominative. With increase of years of fallow, species no. and SDR_2 of perennials became dominative. 2. In the former case, the dominant species were annuals such as Aster subulatus, Aeschynomene indica, Panicum bisulcatum, Echinochloa spp., Leptochloa chinensis, Digitaria adscendens and so on. In the latter case, they were perennials such as Aliscanthus sinensis and Solidago altissima under upland condition, or Isachne globosa, Phragmites communis, Leersia japonica and Paspalum distichum under lowland condition. 3. The vegetation consisting of four groups were largely affected by the difference of soil moisture and years of fallow. The vegetation of paddy fields left off cultivation for many years were mostly composed by the specics of C group under upland condition and by the species of A group under lowland one. On the other hand, that of paddy fields left off cultivation for few years were composed by the species of D group under upland condition and by the species of B group under lowland one, although the relationships were not so clear as in the former. 4. The increase of number of species and SDR_2 of perennials were controlled by means of managing methods such as plowing, cutting of weeds and herbicide application. The repressive effects of management against weeds varied depending on the kind of managements and the characteristics of weed species.
著者
平井 文男
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.333-334, 1952-07-20

In this treatise, the author has described the relations between the flowering order and the node-positions, the flowering time and the not-positions, and the flowering period and the number of flowers. These were all observed in individual varieties of soy-beans in Chichibu. (1) The flowers blooming first are found on the following node-positions: on the stem-on the first three nodes from below that have not grown the branches. on the branch-on the first node or the first two nodes immediately below the half way point of the branch. (2) As to the flowering order on the stem and the branches, two flowering waves-the first flowering wave and the later flowering wave-are recognized. These two waves progress centrifugally from the node-positions of the first, with an interval of about seven days. But this phenomenon does not appear in the daily flowering distribution curves of individuals. (3) In regard to the daily distribution of flowering, the maximum number is common on the 5 th or the 6 th day of the flowering period. (5) In regard to the hourly distribution of flowering, the most flowers bloom between 7.00 AM. and 9.00 AM. And the daily flowering order also progresses centrifugally on the stems and the branches.
著者
陳 日斗 井之上 準
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.373-378, 1985-12-05

Using 58 bulu and 54 tjereh rice cultivars of Indonesia, relationship among degree of grain shedding, histological peculiality of abscission region and esterase zymogram were investigated. The results obtained were summarised as follows. 1. The breaking tensile strength of a variety varied from 86 to 249 g in bulu type rice and from 51 to 220 g in tjereh type rice, the average being 180±36 g in the former and 107±41 g in the latter. The strength of 39 out of 57 cultivars in the bulu type rice (68.4%) was larger than 171 g, while the strength of 44 out of 50 cultivars in the tjereh type rice (88.0%) was smaller than 170 g. Especially, the strength of about two-thirds in the latter was smaller than 110 g (Table 1). 2. Both of bulu and tjereh type rices, excepting one cultivar in the former and two cultivars in the latter, had abscission layer. In most tjereh type rice cultivars (90.0%), parenchymatous cells in the abscission layer cracked completely at harvest time, whereas no cracking occurred at the harvest time in most bulu type rice cultivars (93.0%) (Table 2). 3. As to the esterase isozymes, four genotypes of 1 (Est_1 Est_2^S Est_3^F), 3 (Est_1 Est_2^F Est_3^F), 6 (Est_1 Est_2^O Est_3^S) and 8 (Est_1^O Est_2^S Est_3^S) were found commonly in both bulu and tjereh type rices. Additionally, genotype 12 (Est_1^O Est_2^O Est_3^F) was found in the bulu type rice, while genotype 9 (Est_1^O Est_2^F Est_3^F) was found in the tjereh type rice. According to Nakagahra, the esterase genotype 1 corresponded well to the majority of Indian varieties (Indica), genotype 3 to that of southern China (Sinica), genotype 6 to that of the nothernmost areas (Japonica). Genotypes 8 and 12 are representatives of hill and mountain rice in Southeast Asia (Javanica). In the bulu type rice, the proportion of cultivars belonging to the genotypes of 6, 8, 12, 1 and 3 was 79.3%, 10.3%, 6.9%, 1.7% and 1.7%, respectively. In the tjereh type rice, on the other hand, the number of cultivars to genotypes of 3, 1, 6, 8 and 9 was 43.8%, 39.6%, 8.3%, 6.3% and 2.1%, respectively (Table 3). 4. In the bulu type rice, number of cultivars having "hardly shedding-uncracking abscission layer- Est_1 Est_2^O Est_3^S" was largest (78.9%), and next was those having "hardly shedding-uncracking abscission layer-Est_1^O Est_2^S Est_3^S" (7.0%). In the tjereh type rice, the proportion of cultivars having" easily shedding - cracking abscission layer - Est_1 Est_2^F Est_3^F" and those having "easily shedding - cracking abscission layer - Est_1 Est_2^S Est_3^F" was 41.9% and 39.5%, respectively (Table 4). Judging on these three characteristics, bulu type rice was similar to Japonica type rice.