著者
伊藤 佳之 加藤 俊夫 毛利 智美 入山 拓平 深谷 良 重盛 恒彦 伊藤 智恵子
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.60-64, 2009 (Released:2009-01-05)
参考文献数
8

糞線虫流行地域での生活歴を有し,成人T細胞白血病ウイルスキャリアでもある56歳男性に見られた糞線虫大腸炎の1例を報告する.この症例は,左側結腸に優位であるが,全大腸にわたって直径5∼10mmの頂部に陥凹を有する丘状発赤がみられるという特異的な内視鏡像を示した.同様の内視鏡所見を示したのは文献上1例が報告されているのみで,本例は大腸病変の内視鏡診断上有意義な所見と考えられる.
著者
森 正樹 川田 裕一 湖山 信篤 今村 洋 昆野 博臣 熊沢 健一 芳賀 陽子 矢川 裕一 芳賀 駿介 梶原 哲郎 榊原 宣 市岡 四象
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.265-270, 1985 (Released:2009-06-05)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

潰瘍性大腸炎に慢性関節リウマチ様の末梢型関節炎がみられることはよく知られているが,真の慢性関節リウマチと潰瘍性大腸炎の合併はまれである.われわれは慢性関節リウマチの治療中に発症した潰瘍性大腸炎の1例を経験した.症例は37歳の女性で,昭和51年7月頃より関節症状出現,53年7月典型的慢性関節リウマチと診断された.非ステロイド性抗炎症剤の内服,ステロイド剤の関節内注入により治療されていたが,58年2月頃より消化器症状が出現した.同年8月当科入院,潰瘍性大腸炎(左側大腸炎型,活動期,重症,初回発作型)と診断された.潰瘍性大腸炎は絶食とサラゾスルファピリジン,プレドニゾロンなどの全身投与により寛解した.慢性関節リウマチにみられる潰瘍性大腸炎以外の病変についても文献的に考察した.
著者
土屋 剛史 八木 貴博 塚本 充雄 福島 慶久 島田 竜 岡本 耕一 藤井 正一 野澤 慶次郎 松田 圭二 石田 剛 斉藤 光次 橋口 陽二郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.374-378, 2016 (Released:2016-06-24)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

症例は50歳,女性.検診で上部消化管造影検査施行後7日目に,急激な腹痛が出現した.前医に緊急入院となったが,排便なく,貧血の進行も認めたため,当院へ転院となった.腹部CT検査で,S状結腸周囲に腹腔内遊離ガス像と,腸管外へのバリウムの漏出を認めた.また,骨盤底には強いアーチファクトを引く巨大なバリウム陰影を認めた.下部消化管穿孔疑いにて,同日緊急手術を施行した.術中所見では,S状結腸の腸間膜側へ穿孔を起こしており,同部では壊死性の変化を伴っていた.また,直腸内には鶏卵大の硬い異物を触知した.ハルトマン手術,腹腔ドレナージを施行した.直腸内異物を用手的に肛門から排出させると,バリウム塊であった.標本上は,34mm大の穿孔部を認めた以外,憩室や腫瘍性病変は指摘できなかった.バリウムによる上部消化管造影検査後の大腸穿孔はまれであるが,重篤な転帰をとる場合もあるため,若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
日山 亨 國弘 真己 朝山 直樹 卜部 祐司 岡信 秀治 小野川 靖二 國弘 佳代子 桑井 寿雄 児玉 美千世 佐野村 洋次 永井 健太 濱田 博重 古土井 明 実綿 倫宏 毛利 律生 吉岡 京子 田中 信治 岡 志郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.467-479, 2023 (Released:2023-06-29)
参考文献数
101

プロバイオティクスは日常診療において頻用されているが,現在,その使用ガイドラインは作成されていない.そのため,「広島大学消化器内科関連病院プロバイオティクス使用ガイドライン」を作成した.実地診療における疑問や問題を取り上げ,7(実質10)項目のクリニカルクエスチョンを決定した.作成に当たっては「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0」に従い,推奨の強さとエビデンスの質を示した.なお,この領域における本邦からのメタアナリシスなど質の高い報告は少なく,委員のコンセンサスを重視せざるを得ない部分も多かった.ガイドラインは現時点でのエビデンスの質に基づいたものであり,医療の現場で患者と医師による意思決定を支援するものである.個々の患者に応じて,柔軟に対応する必要がある.
著者
谷 友之 太田 智之 武藤 桃太郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.315-319, 2008 (Released:2008-10-02)
参考文献数
13
被引用文献数
1

症例は21歳,男性.右下腹部痛を主訴に来院した.血液検査では炎症マーカーの軽度上昇がみられ,腹部CT検査で右下腹部にtarget signを認めたため回盲部腸重積症と診断した.その後の大腸内視鏡検査では虫垂開口部を中心とした発赤の強い粘膜下腫瘍様隆起を認めたため,虫垂炎による虫垂重積症と診断した.1週間の保存的治療により重積所見の改善を認めた.その後外科的に虫垂切除術を施行したところ,病理組織学的結果は特に重積の核となるような器質的疾患をともなわない急性蜂窩織炎性虫垂炎であった.虫垂重積症は成人腸重積の中で頻度はまれだが,原因として本例のような急性虫垂炎の可能性も考慮する必要があると考えられた.
著者
高橋 慶一 山口 達郎 夏目 壮一郎 中守 咲子 小野 智之 高雄 美里 中野 大輔
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.467-474, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
17

大腸NET(neuroendocrine tumor)の外科治療で局所切除を行うか,リンパ節郭清を伴う腸管切除を行うかしばしば術式選択に悩む.リンパ節転移の危険性が高ければ,後者の手術が必要になる.術前CTでの転移リンパ節は直腸癌に比べて小さい傾向があり,術前に転移リンパ節を的確に指摘することは困難である.そこで,リンパ節転移予測危険因子を国内のアンケート調査387例で検討し,腫瘍径10mm以上,表面陥凹あり,NETG2,pT2以深,脈管侵襲陽性の5つの因子が抽出された.これらの因子数別のリンパ節転移率は,予測危険因子なし:0.7%,1因子:19.1%,2因子:20.7%,3因子:61.9%,4因子:75.0%,5因子:75.0%で,3因子以上では高いリンパ節転移率を示した.大腸NETの外科治療ではこれら5つのリンパ節転移予測危険因子を念頭に置き,手術方法を決定することが推奨される.
著者
斉藤 裕輔 藤谷 幹浩
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.458-466, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
24

大腸,特に直腸の黄色調の粘膜下腫瘍をみた際にはneuroendocrine tumor(NET)は一番の鑑別にあがり,色素散布を行い超音波内視鏡検査を併用して診断することが望ましい.大きさ10mm未満で表面に陥凹や潰瘍を認めず,T1(SM)に留まっている病変は内視鏡切除の適応である.大腸NETに対する内視鏡切除法として通常のスネアポリペクトミーやEMRは垂断端陽性率が高率となるため適さない.2-チャンネル法,キャップ法(EMRC),結紮法(ESMR-L),さらにはESDによる切除が推奨される.施設や施行医の技量を十分考慮した上で,それぞれの内視鏡切除法の利点を生かした治療法を選択する必要がある.内視鏡切除後はリンパ節転移の危険因子について評価し,患者の年齢,全身状態・合併症を考慮した上で追加治療の是非を決定する.NETに対する内視鏡切除は適応病変において良好な成績と予後が報告されている.
著者
河内 洋
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.452-457, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

本邦の大腸NETは後腸系に属する直腸原発が90%以上を占め,Chromogranin Aの陽性率が低いなど,中腸系NETとは異なる免疫組織化学的特徴がある.2019年に発刊された消化器WHO分類にてNET亜分類の変更が行われ,旧版の増殖指数によるものから,細胞異型度や組織分化度などの組織学的所見と増殖指数を組み合わせたものへ変更された.これにより,増殖指数の高いNETと,ゲノム異常や薬物治療反応性の異なる高悪性度の神経内分泌癌とが明確に区別された.本邦の大腸癌取扱い規約では,以前から両者を明確に区別する立場をとっており,新WHO分類は本邦の立場に近くなった.近年では,増殖指数以外のバイオマーカーの報告も散見され,多因子の解析による,適切な治療戦略の確率が期待される.虫垂杯細胞カルチノイドは,新WHO分類では虫垂杯細胞腺癌に名称変更され,NETとは別の腫瘍であることが明確になった.
著者
小林 清典
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.442-451, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
24

本邦では大腸Neuroendocrine tumor(NET)の病変部位は直腸に多く直腸下部に好発する.50歳台に多く,性別は男性優位である.大腸NETに特徴的な自覚症状はない.直腸NETは10mm以下の小病変で,粘膜下腫瘍様を呈し無茎性隆起の場合が多い.内視鏡所見では,腫瘍は黄色調で,表面血管の拡張を伴う場合が多い.超音波内視鏡では,内部が低~等エコーで境界明瞭な腫瘤像として描出され,深達度診断に有用である.直腸NETは,肉眼型や腫瘍径が深達度やリンパ節などへの転移の危険性と密接に関係しており,亜有茎性の肉眼型や中心陥凹,腫瘍径が10mm以上の場合は,固有筋層以深への浸潤や転移の危険性が高まる.直腸NETは単発が多いが,多発する場合もあり注意が必要である.予後については,直腸NETより結腸NETのほうが不良との報告があるが,今後多数例での検証が必要であると考える.
著者
瀧上 隆夫 嶋村 廣視 根津 真司 鈴木 健夫 谷浦 允厚 中村 峻輔 藤本 卓也 竹馬 彰 竹馬 浩 森谷 行利
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.199-217, 2022 (Released:2022-04-27)
参考文献数
30

痔瘻の成因は,今ではcrypt-glandular infection theoryが定説であり,治療の原則は原発口(anal crypt),原発巣(anal gland, primary lesion)の完全除去である.痔瘻の原発巣に対する考え方も,坐骨直腸窩痔瘻では従来のanal crypt─内外括約筋間─Courtney's space(原発巣)の考えから新しい概念,後方深部隙(PDS)の存在の提唱により大きく変わった.痔瘻の初発症状の直腸肛門周囲膿瘍は,診断すれば抗血栓薬の服用の有無,基礎疾患の有無にかかわらず,即,切開排膿が原則である.排膿後の痔瘻への移行状態をみて手術を決める.痔瘻手術の基本は開放術式であるが,前方,側方のものは肛門括約筋の損傷を考慮して術式を決める必要があり,根治性,肛門機能温存のバランスを重視した術式を選択することが大切である.
著者
赤木 盛久 田中 信治 吉原 正治 山中 秀彦 田利 晶 春間 賢 隅井 浩治 岸本 眞也 梶山 梧朗 竹末 芳生 横山 隆
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.787-792, 1993 (Released:2009-06-05)
参考文献数
25
被引用文献数
2 2

比較的高齢で発症した親子の潰瘍性大腸炎を経験したので文献的考察を加え報告する.息子は39歳で発症,全大腸炎型の重症で薬物療法が無効のため全結腸切除を施行した.父は69歳で発症,左側結腸炎型の中等症で薬物療法により軽快した.HLA抗原の検索では本邦の潰瘍性大腸炎患者と相関の認められるhaplotype A24,B52,DR2,DQ6(1)をともに有しており,本症の発症に免疫遺伝的因子が関与していることが示唆された.またこれまでの家族内発症の平均年齢は30歳前後とされていることより,本例は稀な症例と考えられた.
著者
桑原 明史 須田 武保 飯合 恒夫 畠山 勝義
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.21-26, 2009 (Released:2009-01-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

新潟県における大腸内視鏡検査関連の偶発症の実態を明らかにするため,アンケート調査を用いた検討を行った.対象は2000∼2004年に新潟大腸肛門病研究会の13幹事施設で行われた大腸内視鏡検査症例である.検査総数は,85,507件(観察のみ40,149件: 処置あり45,358件)であった.偶発症の発生頻度は,全体で198件,0.23%に認められ,処置あり群で8倍高くなっていた(観察のみ0.05%,処置あり群0.39%).偶発症の内訳は出血80.3%と穿孔13.6%が多く,発生頻度は出血0.19%,穿孔0.03%であった.出血の原因手技はEMRが76.7%で,治療はクリッピングが66%に行われていた.穿孔例の部位は96.3%が左側結腸であり,59.3%が観察行為のみで起きていた.穿孔に対する処置は85.2%で緊急手術が施行されていた.偶発症での死亡例は0.002%であり,いずれも穿孔例であった.
著者
渡部 顕 大田 貢由 諏訪 雄亮 鈴木 紳祐 石部 敦士 渡邉 純 渡辺 一輝 市川 靖史 平澤 欣吾 田辺 美樹子 遠藤 格
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.61-67, 2015 (Released:2015-01-30)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

【はじめに】神経内分泌腫瘍は2010年のWHO分類からKi67と核分裂像によりNET G1,NET G2,NECに分類された.カルチノイドはNET G1,内分泌細胞癌はNECと考えられているが,今回より加わったNET G2を含めて,未だ不明な点が多い.【方法】2000年1月~2013年6月に当教室で治療した大腸腫瘍3,090例のうち,神経内分泌腫瘍と診断された症例を対象とし,臨床病理学的因子および施行治療,予後を評価した.NET G1のリンパ節転移の有無と腫瘍径,リンパ管侵襲,静脈侵襲との関連を検討した.【結果】対象は102例(NET G1,NET G2,NEC,MANEC=88,4,6,4)腫瘍径の中央値(mm)はNET G1,NET G2,NEC,MANEC=7,19,47,22.リンパ節転移率はNET G1,NET G2,NEC,MANEC=11%,75%,83%,50%.遠隔転移率はNET G1,NET G2,NEC,MANEC=0%,50%,83%,0%.5年生存率はNET G1,NET G2,NEC,MANEC=94.5%,37.5%,16.7%,100%.NET G1は腫瘍径1-6mm,7-9mm,10mmでリンパ節転移率が0%,13%,33%.リンパ管侵襲陽性症例の半数にリンパ節転移を認めた.【結語】大腸神経内分泌腫瘍に関するWHO 2010分類は悪性度を反映し,予後をよく層別化し,NET G2,NECは予後不良であった.NET G1は腫瘍径10mm以上もしくはリンパ管侵襲陽性が追加外科切除の適応と考えられた.
著者
山名 哲郎 高尾 良彦 吉岡 和彦 味村 俊樹 角田 明良 勝野 秀稔 前田 耕太郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.371-379, 2014 (Released:2014-05-31)
参考文献数
40
被引用文献数
6 2

【はじめに】便失禁はQOLに大きな影響を及ぼす排便障害の一つであるが,これまで有効な治療法が確立されていないのが現状である.仙骨神経刺激療法は便失禁に対する有効性が認められ,欧州では1994年から,米国でも2011年に承認され使用されている.本邦でも本治療法の導入が望まれ,このたび承認申請にむけた前向き多施設共同研究を行ったのでその結果を報告する.【方法】便失禁の頻度が週2回を超える患者を仙骨神経刺激療法の適応とし,各施設の治験審査委員会の承認を得た上で,インフォームドコンセントのもとに治験を行った.最初に仙骨神経刺激用のリード埋め込みを行い,体外式刺激装置による2週間の試験刺激で50%以上の症状改善を認めた症例に,体内埋め込み型刺激装置(InterStim II,米国Medtronic社)を留置した.便失禁の症状は患者自身による排便日誌をもとに評価した.肛門内圧検査は術前および術後1ヵ月,3ヵ月,6ヵ月の時点で施行した.術前と比較して便失禁回数/週が50%以上減少した場合に治療有効と判定した.【結果】2011年1月から11月の間に治験に参加した22人の患者にリード埋め込み術を施行した.便失禁の原因は不明(特発性)10例,直腸術後8例,分娩外傷2例,その他2例であった.試験刺激による症状改善が50%未満であった直腸癌術後の1例はリードを抜去,症状改善が50%以上であった21例(男性9例,女性12例,平均年齢66.6歳)に刺激装置の埋め込みを行った.術後6ヵ月のフォローアップの時点で85.7%の症例が治療有効と判定された.平均便失禁回数/週は術前が14.9回,術後6ヵ月が3.1回と有意に減少した(p=0.0135).肛門内圧検査では術前の肛門管最大静止圧の平均値が28.4mmHg,術後6ヵ月の平均値が39.1mmHgと有意に上昇した(p=0.0026).リード埋め込みおよび刺激装置埋め込みによる重篤な合併症は認められなかった.【結語】便失禁に対する仙骨神経刺激療法は安全で有効な治療法である.
著者
樋口 晃生 齊藤 修治 池 秀之 三箇山 洋 原田 浩 三辺 大介 今田 敏夫 山本 直人 湯川 寛夫 利野 靖 益田 宗孝
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.68-73, 2014 (Released:2014-01-31)
参考文献数
12
被引用文献数
8 8

【目的】大腸癌術前症例に3D-CT angiography(3D-CTA)を施行し動脈の走行分類を行う.【方法】2012年3月から8月の新規大腸癌患者56例に対し3D-CTAを行い(1)右結腸動脈(2)中結腸動脈(3)左結腸動脈およびS状結腸動脈の分岐走行を分類した.【結果】(1)右結腸動脈:上腸間膜動脈からの独立分岐(Type A)が25.0%,中結腸動脈からの分岐(Type B)が37.5%,回結腸動脈からの分岐(Type C)が26.8%,欠損例(Type D)が10.7%であった.(2)中結腸動脈:右枝と左枝が共通幹を形成しているものが80.4%,右枝と左枝が独立して分岐しているものが12.5%であった.副中結腸動脈は33.9%に認められた.(3)左結腸動脈およびS状結腸動脈:左結腸動脈とS状結腸動脈が独立して分岐(独立分岐型)が51.8%,同じ部位から分岐(同時分岐型)が16.1%,共通幹形成(共通幹型)が32.1%であった.【結語】3D-CTAによる動脈走行分類は腹腔鏡下手術をはじめとしたすべての大腸癌手術に有用と思われる.
著者
前畠 裕司 江崎 幹宏
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.447-455, 2018 (Released:2018-10-25)
参考文献数
35

腸結核は,結核菌が消化管や近傍のリンパ節へ感染することで発症する腸管の炎症性疾患である.近年は減少傾向にあるものの,今なお年間約250例が診断されている.確定診断には,培養や組織学的検査による結核菌ないし乾酪性肉芽腫の証明が必要であるが,いずれの検査も陽性率は高くない.一方,インターフェロンγ遊離試験は高い感度と特異度を示すことから本症の補助診断としての有用性が示唆されている.典型例のX線・内視鏡所見では,輪状・帯状潰瘍や不整形潰瘍などの活動性病変に加え,萎縮瘢痕帯,腸管変形,輪状狭窄などの慢性経過を示唆する所見を伴うのが特徴である.しかし,大腸癌検診などを契機に発見される無症状で軽微な粘膜病変のみを呈する腸結核例も増加している.
著者
永坂 岳司
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.75, no.10, pp.453-460, 2022 (Released:2022-10-28)
参考文献数
15

大腸癌は,遺伝性大腸癌症候群と非遺伝性の大腸癌に大別され,また,分子生物学的特徴からhypermutant phenotypeとnon-hypermutant phenotypeに大別される.特に,hypermutant phenotypeの大多数を占めるミスマッチ修復蛋白欠損大腸癌に対しては,外科的切除を要さずにImmune checkpoint inhibitorの投与のみで根治可能な時代が到来している.この驚くべき進歩は,包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)検査を治療前検査へ誘導し,検査対象者を大腸癌患者全例へと拡大させる.本稿では,このCGP検査に伴う二次的所見に今後関与するであろう,遺伝性大腸癌症候群の原因と考えられる生殖細胞変異に焦点を当て,現在までにわかってきていることを概説する.
著者
三森 功士
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.75, no.10, pp.449-452, 2022 (Released:2022-10-28)
参考文献数
11

がんゲノム医療により分子標的薬に合致した患者群は生存期間が延長した.しかしその恩恵を享受できる症例は未だに少ない.ごく最近,ミスマッチ修復酵素異常を有する直腸がん12例に対してPD1阻害剤を投与したところComplete Responseが100%という衝撃的な報告がなされたことをまず紹介する.一般に大腸がんはAPC/βcateninなどWNTシグナル経路,KRASを擁するEGFR/PI3Kシグナル経路,Notchシグナル経路そしてTGFβシグナル経路におけるゲノム変異が重要であり,これらを標的とした創薬において世界中で鎬が削られている.また核内転写因子に対する阻害剤の開発は難しいとされておりWnt/βcatenin TCF複合体に対しては未だに有効な化合物はない.本稿では免疫療法を含め大腸がん治療標的となる遺伝子変異を改めて確認すると同時に治療薬に関する最新情報の一部を紹介する.
著者
高野 正太 山田 一隆
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.233-238, 2016 (Released:2016-04-25)
参考文献数
31

便失禁に対する脛骨神経刺激療法(PTNS)は簡便で侵襲も少ないが,効果は仙骨神経刺激療法より劣り効果を疑問視する論文もある.両側PTNSの便失禁に対する効果を検討した.対象は2014年3月~2015年3月に6ヵ月以上の便失禁を訴えた患者22名.両側の脛骨神経部体表に電極パッドを貼付する両側PTNS 30分を週2回,6週間(計12回)施行.治療前後に1週間の便失禁回数,Wexnerスコア,FIQL,肛門内圧検査を行った.Wexnerスコアは10.2→6.9に低下(p=0.048).1週間の便失禁回数は4.7→1.5に減少(p=0.039),76.2%で回数が半分以下に減少した.FIQLは羞恥心の項目のみ2.2→2.8と改善したが(p=0.02),総合では2.7→3.1と有意な改善は認めなかった.PTNSは簡便で低予算だが効果はSNMに比べて低く,説明を十分に行った上で治療の選択肢の1つとすべきである.
著者
津村 朋子 矢野 匡亮 市原 周治 大谷 弘樹
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.112-116, 2019 (Released:2019-02-28)
参考文献数
18

肛門周囲に発生した巨大尖圭コンジローマの1例を経験したので報告する.患者は25歳,男性.肛門周囲の掻痒感を認め,その後,肛門周囲皮膚の隆起に気付いた.徐々に隆起が増大し,1年を経て,肛門部腫瘤を主訴に当科を受診した.腫瘤は肛門周囲の左右両側の皮膚から発生し,14×6cm大,カリフラワー状で弾性軟,悪臭を伴い,灰白色からピンク色を呈していた.肛門管内や直腸に腫瘍の増殖や進展は認めなかった.巨大尖圭コンジローマの診断で外科的切除を施行した.腫瘤より約1cmのmarginを確保し,主に皮下脂肪織浅層の深さで腫瘍を切除した.病理組織所見では,角化上皮の乳頭状増殖を認め,表皮上層にkoilocyteを認めた.基底細胞層の乱れや異型性はなく,悪性像は認めなかった.術後経過は良好で,術後3日目に退院した.術後4年が経った時点で,再発は認めてない.