著者
尾﨑 隼人 城代 康貴 鎌野 俊彰 舩坂 好平 長坂 光夫 中川 義仁 柴田 知行 大宮 直木
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.609-614, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
31

便秘症は日常診療でありふれた症状であり,本邦における有病率も高い疾患である.慢性便秘症は以前より腸機能の観点からその機序や治療法が研究されてきた.近年の次世代シーケンサーの登場とその精度向上により,腸内細菌叢の網羅的な解析が可能となり,様々な病気と腸内細菌のかかわりが明らかとなった.慢性便秘症も腸内細菌とその代謝産物が原因の1つとして明らかになりつつあり,その臨床応用が試みられている.慢性便秘症患者の腸内細菌叢の乱れを是正する方法として,プロバイオティクスやプレバイオティクスの有用性が指摘されている.最近ではより豊富な腸内細菌を投与できる糞便移植の臨床応用が試みられている.
著者
高野 正博 緒方 俊二 野崎 良一 久野 三朗 佐伯 泰愼 福永 光子 高野 正太 田中 正文 眞方 紳一郎 中村 寧 坂田 玄太郎 山田 一隆
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.134-146, 2010 (Released:2010-03-05)
参考文献数
34
被引用文献数
1 1

会陰部に慢性の鈍痛を訴える症例があり,括約不全・排便障害・腹部症状・腰椎症状を加え5症候が症候群を形成する.我々は2001~2005年に537例を経験し,女性に多く,平均58.5歳である. 症候別に他症候を合併する率は,肛門痛では括約不全27%と低い他は,排便障害67%,腹部症状56%,腰椎症状56%である.括約不全で排便障害78%,肛門痛72%,腹部症状56%と高い.排便障害で括約不全31%,肛門痛71%,腹部症状63%,腰椎症状54%.腹部症状でも括約不全が29%と低い他は肛門痛75%,排便障害80%,腰椎症状60%.腰椎症状では括約不全が31%と低い他は,肛門痛77%,排便障害77%,腹部症状71%と高い.括約不全が低いのは肛門機能障害のあと一つの排便障害が第3症候の排便障害と混同されたことによる.その他の症候の合併率は60~80%と高く,この症候群の存在意義は大きい. この症候の病態はS2,3,4より出る仙骨神経と同じ部位の骨盤内臓神経との障害で,前者支配の会陰・肛門部と,後者支配の直腸の機能障害との合併発生によると考える.
著者
飯室 正樹 中村 志郎 樋田 信幸 福永 健 松本 譽之
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.1021-1025, 2008 (Released:2008-11-05)
参考文献数
15
被引用文献数
5 1

大腸憩室症は食生活の欧米化,人口の高齢化にともない近年本邦でも増加傾向にある.また,重篤な合併症もしばしば経験されるようになってきている.以前は,急性虫垂炎との鑑別が困難な場合があったが,近年では,解像度の高いCT検査や超音波検査が普及し,多くの不要な緊急手術が回避可能となった.急性憩室炎に対する内科的治療は外来,入院とも抗生剤を中心としたものとなる.炎症所見はないが腹部症状を有する症例に対しても定期的な経口難吸収性抗生剤投与や食物繊維が有効である事が示されている.さらに,これまで炎症性腸疾患に用いられてきたメサラジンの他,LactobacillusやE. coliといったプロバイオティクス製剤に急性憩室炎の再発予防効果があることが報告され,注目されている.
著者
岩垂 純一
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.939-947, 2014
被引用文献数
1

肛門科として単独での診療科名での広告が不可能となっている現在,新しい専門医制度において肛門科専門医が認定されるのは極めて厳しい状況にある.公的に近い総合病院の中の肛門病に特化したセンター(社会保険中央総合病院大腸肛門病センター)で研修を受け,スタッフとして勤務した経験から,肛門病は決して外科の中の一小分野ではなく独自性のある分野を形成しているといえる.診察に際しては羞恥,恐怖などの患者心理の理解が必要とされ,治療に際しては単に治せばよいのではなく,後障害を生じないように機能的に問題なく,如何に,きれいに,痛くなく早く治すかが問われる.そのためには多数の症例経験が必要となり,また消化器の1部という観点から大腸疾患の症例経験も必要となる.肛門科の専門性がなくなる結果,診療レベルが低下し合併症や後障害により患者を苦しめるようなことがあってはならない.
著者
杉浦 弘和
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.279-285, 1991 (Released:2009-06-05)
参考文献数
17
被引用文献数
2

目的:潰瘍性大腸炎(以下UCと略す.)におけるロイコトリエンB4(以下LTB4と略す.)の関与を検討するために,大腸内視鏡検査時に採取した組織を利用してLTB4量を測定した.方法:採取した組織をカルシウムイオノフォアで刺激したのち,Bond Elutによる精製方法と高感度のRIAによる定量方法を組み合わせることにより,LTB4量をUC患者および正常者で測定した.成績:UCの検討項目は本症の病態を示す臨床症状・X線的・内視鏡的・臨床データ・病理組織的な分類にわけ比較検討したが,LTB4はいずれの病態分類の程度とも相関して変動していた.結果:著者のLTB4測定法は微量な組織を用いても測定可能であり,UCの臨床症状および内視鏡検査などの画像診断との対比が可能となり,従来報告されている測定方法よりも有用であると思われた.さらに本法で検討すると,UCの病態にLTB4が関与している可能性が示唆された.
著者
増澤 成幸
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.1154-1161, 1990 (Released:2009-10-16)
参考文献数
31

炎症性腸疾患に合併する胆石症の成因の一端を解明する目的で, 炎症性腸疾患自験例 (潰瘍性大腸炎42例, Crohn病27例) の胆汁中脂質分析およびコレステロール結晶析出時間の測定を行い, 総胆汁酸濃度は, 潰瘍性大腸炎保存治療例31例・手術例10例ともに有意に低下しCrohn病では回盲部病変を有する保存治療例6例と回盲部切除例11例のみ有意に低下していた.胆汁中コレステロールの組成比は各症例とも変化がなかった.胆汁のlithogenic index 1.0以上の症例は各対象のうち半数近くに認められたが, 胆石生成との関係は明らかに出来なかった.コレステロール結晶析出時間は潰瘍性大腸炎保存治療例を除くと短縮し, こうした症例では胆石を合併しやすいと思われた.析出時間の短縮は, 炎症性腸疾患による機能欠落が主な要因と考えられたが, 析出時間の促進および抑制因子であるアポ蛋白, ムチン, カルシウムイオン等についてさらに検討が必要と思われた.
著者
堀 義城 新垣 淳也 佐村 博範 古波倉 史子
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.207-210, 2018 (Released:2018-04-25)
参考文献数
9

症例1:62歳男性.上行結腸癌stage IIIa術後補助化学療法として,Cape-OX療法を開始した.2コース目に入る際の血液検査にて乳糜反応3+であったためトリグリセリド(TG)値を確認したところ1,037mg/dlであった.Capecitabineによる高TG血症を疑い,本剤を中止したところ,改善を認めた.症例2:62歳男性.直腸S状部癌High risk stage II術後補助化学療法として,Capecitabine単独療法を開始した.2コース目終了時の血液検査にて乳糜反応2+であったためTG値を確認したところ1,058mg/dlであった.本剤による高TG血症を疑い,本剤を中止したところ,改善を認めた.Capecitabineの有害事象として,高TG血症は比較的まれではあるが,急性膵炎のハイリスク因子であり,注意すべきである.本剤内服中はTG値の厳重なfollowを要する.
著者
指山 浩志 辻仲 康伸 浜畑 幸弘 松尾 恵五 堤 修 中島 康雄 高瀬 康雄 赤木 一成 新井 健広 田澤 章宏 星野 敏彦 南 有紀子 角田 祥之 北山 大祐
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.466-470, 2009 (Released:2009-07-01)
参考文献数
16
被引用文献数
3 2

肛門部尖圭コンジローマ症例をHPVタイプにより分類し,疫学的,臨床的違いの有無について検討した.液相ハイブリダイゼーション法によりHPVのハイリスク型,ローリスク型の有無を調べえた166症例をHPVタイプ(ハイリスク:H ローリスク:L 陽性+ 陰性-)で分類すると,H+L+型39例,H+L-型2例,H-L+型97例,H-L-型28例であった.H+L+型は男性が多く,H-L-型は女性が多く年齢層が高いという傾向があった.居住地では,千葉北西部でH-症例,東京都内でH+症例が多く,疫学的違いがある可能性が考えられた.肉眼型では,H-L-型で散在型が多く臨床的な違いのある可能性も示唆された.HIV陽性例はH+L+型7例,H+L-型1例,H-L+型2例にみられH+症例で高率であった.術後の再発率は全体として33%であるが,HIV陽性例では67%と高く,免疫抑制状態が再発に関連すると考えられた.
著者
衣笠 昭
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.339-347, 2000 (Released:2009-06-05)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

わが国における古来よりの肛門疾患の治療の変遷を文献を中心に検索し,その方法を現在の治療と比較し解釈した.とくに江戸時代に名声を挙げた本間棗軒の手術術式を詳述し,以後平成11年までの治療の発展につき述べた.
著者
辻 順行 高野 正博 久保田 至 徳嶺 章夫 嘉村 好峰 豊原 敏光
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.1026-1032, 1995 (Released:2009-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
12 7

1994年1月から12月までに当院外来を受診した症例の中で,直腸肛門病変を有しない20歳代から70歳代までの男性50例,女性49例を対象として,直腸肛門機能検査を行い以下の結果を得た.(1)肛門管最大静止圧,肛門管最大随意圧,排出圧は,男女ともに20歳代から60歳代までは,有意な差を認めなかった.しかし,70歳代では他の年齢と比較して男女ともに有意な低下を認めた.また性差で比較すると肛門管最大静止圧においては70歳以上では,有意な差を認めなかったが,69歳以下においては有意に女性の方が男性より低かった.肛門管最大随意圧と排出圧においては,69歳以下や70歳以上の群でも有意に女性が男性より低かった.(2)機能的肛門管長では,男女ともに20歳代が他の年齢群と比較して有意に短く,30歳代から70歳代では男女ともに有意な差を認あなかった.また性差で比較すると29歳以下や30歳以上の群においてもそれぞれ女性が男性より有意に短かった.(3)直腸感覚閾値,最大耐用量,直腸コンプライアンス等は,20歳代から70歳代までの,どの年齢群においても,男女ともに有意な差を認めなかった.以上より,肛門機能は直腸機能に比べて性差や加齢による影響が及びやすく,直腸肛門の手術の際には性や年齢を加味して手術術式の選択をすべきであると思われた.
著者
矢沢 知海 中村 光司 長廻 紘 饒 熾奇 小坂 知一郎 生沢 啓芳 渡辺 修身 金山 成保 竹本 忠良
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.373-377,406, 1974

大腸ポリープは癌と同様に,S状結腸以下に64.6%の発生をみた.他方,大腸早期癌(粘膜内,粘膜下層まで)32例では,潰瘍型は3例(すべて粘膜下層癌)で,他はポリープ型であった.<BR>そこで,良性,悪性ポリープの内視鏡的術前診断を試みたが,50%程度の癌特有の所見のみしかみられず,また,pedunculatedのものでは,生検でも陰性のことすらある.<BR>故に,polypoid lesionに対する正しき診断はExcision Biopsyによらねばならぬと考え,現在まで48個のpolypを内視鏡下に切除したが,その中に4例の早期癌が含まれている.そこで,subpedunculated,pedunculatedのpolypで,茎1.6mm以下であればすべて内視鏡下にpolypectomyを行ない,組織検査の結果で粘膜内癌は診断と治療がpolypectomyで完了し,粘膜下層癌では腸切除を追加すべきであり,また広基性(Sessile)ポリープでは,癌が生検で証明されたものは,深達度の判断が不可能であること,polypectomyが完全に,安全に施行できないことを考え,粘膜下層癌と同様に腸切除を施行すべきものと考える.
著者
佐々木 みのり 佐々木 巌 増田 芳夫
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.38-42, 2007 (Released:2008-10-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

bowenoid papulosis (以下BPと略す) は尖圭コンジローマと臨床所見が酷似するハイリスクHPV関連のSTDである. 本疾患は, 病理所見はBowen病に類似するが, 臨床経過は良性で自然消退の報告も多い. しかし同時に悪性化や子宮頸癌合併の報告もあり注意深い経過観察が必要な疾患でもある. 今回我々はBPの一例を経験したので報告する.症例は34歳女性. 2002年8月に肛門性交の機会があり, 同年秋頃より肛門周囲に丘疹が出現. 皮疹の増加と拡大を認め2003年1月当院受診した. 肛門周囲に尖圭コンジローマと, その中に混在する黒褐色の扁平な丘疹を認めた. BPを疑い混在する尖圭コンジローマと同時に切除焼灼した. 皮疹の組織像ではボーエン病類似の像を呈しBPと診断した. その後BPと思われる皮疹の再発を二度繰り返したが, その都度切除焼灼を行い2003年6月を最後に再発を認めていない.
著者
新垣 淳也 荒木 靖三 野明 俊裕 的野 敬子 鍋山 健太郎 岩谷 泰江 岩本 一亜 小篠 洋之 佐藤 郷子 高野 正博 佐村 博範 西巻 正
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.310-316, 2014 (Released:2014-04-30)
参考文献数
40
被引用文献数
1 1

目的:毛巣洞に対する当院で行ったV-Y plastyの手技と成績について報告する.対象と方法:2006年から2012年までの毛巣洞手術症例14例を対象とし,V-Y plastyの手術治療経験についてretrospectiveに検討した.結果:平均年齢31.5歳(16~48歳),全例男性.平均体重75.5kg(63.4~92kg),BMI 26.0kg/m2で,25kg/m2以上の症例は8例(57.1%)であった.病悩期間は平均15.5ヵ月(3日~5年),平均手術時間45.3分,術後合併症は6例(42.9%)のうち,創感染5例,創部不良肉芽形成1例であった.皮弁壊死など重篤な合併症はなかった.術後再発症例は認めていない.考察:病巣切除,一期的創閉鎖,V-Y plastyは,手術手技が容易で再発が少なく安全性が高いことより容認できる手術術式である.今後症例を蓄積しながら慎重な経過観察が必要である.
著者
小澤 広太郎 金井 忠男 栗原 浩幸 山腰 英紀 石川 徹
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.293-296, 2002 (Released:2009-06-05)
参考文献数
8
被引用文献数
1

酸化マグネシウムは副作用が比較的少なく安全な下剤であり,治療科目にとらわれず汎用される薬剤である.今回肛門狭窄を伴う便秘患者が酸化マグネシウムを大量服用することによって生じた直腸内巨大腸石症例を経験したので報告する.症例は69歳,女性.排便困難を主訴に来院した.肛門診察にて肛門狭窄を認めたため,10月8日入院し,肛門拡張術を施行した.退院後肛門指診にて,ざらざらした砂状の凝集塊と表面不整で非常に硬い腸石を認め,腹部X線を撮影したところ骨盤内に直径6cm大の腸石像を認めた.11月15日再入院し,直腸内腸石摘出術を行った.摘出標本は茶褐色で非常に硬く表面不整であった,腸石の成分は炭酸マグネシウムとして59.9%であり,酸化マグネシウムの大量常用による直腸内巨大腸石症と診断された.酸化マグネシウムは汎用される薬剤であるが安易に増量すべきでなく,他の薬剤を併用するなどの注意が必要と考えられた.
著者
宇都宮 高賢 柴田 興彦 菊田 信一 堀地 義広
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.169-174, 2005-03-01
参考文献数
26
被引用文献数
1

難治性の慢性直腸肛門痛症例,男性19人,女性42人について肛門管内を双極刺激電極を挿入し低周波電気刺激を週1~2回,一回5分間行いその効果について検討した.これら症例のうち男性9人,女性12人について低周波電気刺激前後における左側肛門管組織血流量の測定を行った.症例の肛門内圧検査を行い随意最大収縮圧100mmHg以上の症例(機能正常群)と100mmHg以下(機能低下群)に分けて検討した.男性では,機能正常群が多く,女性では機能低下群が多かったが,慢性直腸肛門痛との関連はなかった.痛みが消失するまでの刺激回数は平均3.5±1.6回であり,98%に効果を認め,59%に痛みの完全消失が得られた.肛門管組織血流量,血流速度は低周波電気刺激により男性で64%,女性で33%の有意な増加がみられた(p<0.Ol).肛門管内低周波電気刺激は,慢性直腸肛門痛症例に対して簡便有効な治療方法であった.
著者
野明 俊裕 荒木 靖三 的野 敬子 牛島 正貴 小篠 洋之 入江 朋子 家守 雅大 高野 正博
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.954-960, 2015 (Released:2015-10-31)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

便失禁は,4歳以上の個人が便の排出を制御できない状態が3ヵ月以上にわたり繰り返すことと定義され,成人の便失禁の有病率は2.2%と報告されている.肛門括約筋は,不随意筋である内肛門括約筋と,随意筋である外肛門括約筋,骨盤底筋群で構成され,内肛門括約筋の機能不全では,安静時の肛門管の緊張低下や静止圧の低下をきたす.外肛門括約筋や骨盤底筋群の機能不全では随意収縮圧が低下するが,バイオフィードバック療法により改善するといわれている.便失禁に対するバイオフィードバック療法は有用であるとする報告は多いが,単独での効果は疑問視されている.しかし,骨盤底筋体操にバイオフィードバック療法を加えることで治療効果が高まると報告されており便失禁治療においては重要なアイテムの1つである.今回の論文ではバイオフィードバック療法の文献的考察を行い,当院で行っているバイオフィードバック療法の実際を概説する.
著者
原口 増穂 牧山 和也 千住 雅博 船津 史郎 長部 雅之 田中 俊郎 橘川 桂三 井手 孝 小森 宗治 福田 博英 森 理比古 村田 育夫 田中 義人 原 耕平 関根 一郎
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.45-49, 1987 (Released:2009-06-05)
参考文献数
11

高アミラーゼ血症を伴ったクローン病の1例を経験した.症例は27歳の男性で上腹部痛を主訴に受診高アミラーゼ血症がみられたため膵炎として治療したが約3カ月にわたって高アミラーゼ値は持続した.アミラーゼ値の正常化後も腹痛が続くためにさらに精査を進め,小腸造影での縦走潰瘍などの典型的な所見と生検によるサルコイド様肉芽腫の証明によりクローン病の確診を得た.高アミラーゼ血症については,ERP,CT,USにて膵炎を疑わせる膵管あるいは膵実質の器質的変化がみられないこと,高アミラーゼ値の持続期間が長いこと,腹痛とアミラーゼ値の相関が乏しいことなどより膵由来のものではないと考えられた.したがって本症例はクローン病に膵炎が合併したものではなく,高アミラーゼ血症を伴ったことについては他の機序,たとえば腸管アミラーゼの関与などが示唆され,興味ある症例と思われ,文献的考察を加え報告した.
著者
武田 元信
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.147-151, 2010 (Released:2010-03-05)
参考文献数
5

肛門部慢性疼痛患者の新しい治療法とその効果の精神的な側面を検討した. 抗うつ薬SSRIと抗不安薬の併用する治療により著しい改善をみる症例を多数経験し,その治療法の精神的評価として患者にSDSテストを行いその治療効果を評価したのでそれぞれ報告する.抗うつ薬SSRIと抗不安薬による治療経験治療としてロラゼパム0.5~1.5mg/日,スルピリド50~150mg/日,パロセキチン10~20mg/日を投与した.疼痛評価はVASスケールによる10段階評価とした.67%の患者で有効が確かめられた,次に抗うつ薬SSRIと抗不安薬によって治療した患者の精神的側面の検討をした.疼痛評価はVASスケール,精神的側面の評価はSDSで評価した.SDSが50点以上の患者はSSRIの投与が特に有効だった.慢性疼痛の治療には疼痛そのものに対する治療と疼痛によるうつに対する治療が必要である.