著者
若杉 純一 金 正文 簾田 康一郎 杉山 貢
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.480-484, 1992 (Released:2009-06-05)
参考文献数
24
被引用文献数
4 2

症例は53歳の男性で,陰嚢の発赤腫張を主訴に来院した.腹部単純X線検査で陰嚢および骨盤内に散在する小ガス像を,CT検査で陰嚢から仙骨前面,膵後面まで広がる異常ガス像を認めた.直腸診で肛門管後壁に痔瘻の1次口を認め,注腸造影検査で1次口から仙骨前面に造影剤が逸脱し,痔瘻より発生した壊疽性筋膜炎と診断,ドレナージ術および人工肛門造設術を施行した.細菌培養検査の結果,好気性菌のE. coli,pseudomonas aeruginosaと嫌気性菌のbacteroides fragilisによる混合感染であった.肛門疾患から発生したガス壊疽の本邦報告例は自験例も含め29例で,糖尿病を合併しているものが多かった.抗生物質の発達した近年,壊疽性筋膜炎は比較的まれ疾な患であるが,痔瘻や肛門周囲膿瘍などの肛門疾患で,糖尿病などの基礎疾患がある場合は,広範な壊疽性筋膜炎に進展することもあるので,十分な経過観察が必要であると考えられた.
著者
安藤 朗 馬場 重樹
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.456-469, 2018 (Released:2018-10-25)
参考文献数
141
被引用文献数
2 1

Clostridium difficileはグラム陽性偏性嫌気性菌で,抗菌薬治療などで腸内細菌叢が撹乱されると,異常増殖と毒素産生が起こりClostridium difficile感染症を発症する.2000年初頭以降,Clostridium difficile感染症は欧米を中心に強毒型であるNAP1/B1/027株によるアウトブレイクが問題となった.欧米ではfidaxomicinなどの新規治療薬が使用可能となっており,また,2013年には再発性Clostridium difficile感染症に対する糞便微生物叢移植の有用性が示され注目を浴びた.近年はさらにトキシンBに対するモノクローナル抗体やワクチン,トキシンに対する吸着療法などが開発されている.本稿ではClostridium difficile感染症の疫学,病態,診断,治療,潰瘍性大腸炎とのかかわりなどについて概説する.
著者
関口 正宇 斎藤 豊 高丸 博之 松田 尚久
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.475-482, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
17

近年,直腸NETを中心に大腸NETを治療する機会が増えている.その結果,大腸NET治療後対応の重要性も益々高まってきている.しかし,追加治療やサーベイランスといった大腸NET治療後対応については,コンセンサスが得られていない項目が多く,日常臨床で苦慮する場面も少なくない.追加治療に関しては,粘膜下層にとどまる1cm未満の大腸NETについて,内視鏡的切除後に,脈管侵襲,NET G2,切除断端のどれかのみが陽性となってしまった場合に,特に外科的根治術の侵襲の大きい直腸において,追加手術をすべきかどうか悩む場面も少なからず経験される.サーベイランスについては,どのような対象にどのような方法で検査を進めていくか,質の高いエビデンスに基づくプログラムが世界的に存在していない状況にある.本稿では,大腸NET治療後対応(追加治療,サーベイランス)について,現状の問題点も含めて概説した.
著者
清水 誠治
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.606-612, 2021 (Released:2021-11-29)
参考文献数
26

腸間膜静脈硬化症は右側結腸を中心に慢性静脈性虚血性変化をきたすまれな疾患である.内視鏡所見では特徴的な粘膜色調変化(青銅色~暗紫色),半月ひだの肥厚がみられ,潰瘍を認めることも多い.生検では粘膜固有層の膠原線維沈着がみられる.CT所見では腸管壁内外の静脈の線状ないし樹枝状石灰化と腸管壁肥厚が特徴的である.病因として山梔子を含む漢方薬の長期服用が関与することが明らかとなった.症状は腹痛,下痢が多いが無症状例も少なくない.病変が進行し通過障害が高度になると手術が必要になる場合があり,これまでに約20%の症例で手術が施行されている.山梔子を含む漢方薬服用が確認されれば中止により病変の改善とともに手術を回避できることが多い.炎症性発癌の可能性は低いと考えられているが,今後癌の合併も注視していく必要がある.
著者
蔵本 新太郎 安生 沙枝子
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.383-386,407, 1974 (Released:2009-06-05)
参考文献数
13

最近,全身適用を目的とした坐剤に関心が高まってきており,臨床的にも坐剤が多目的に使われる傾向が出てきている,坐剤に対する観念は,他の薬剤に比し今までややもすれば等閑視されがちであったことは否めない.このような時にあたり,坐剤について,歴史から現在に至るまでをふりかえってみた.同時に直腸からの吸収が通念的に老えられている以上に効率的であることを知るとき,将来坐剤の使用にあたって適応の選択により慎重でありたい.
著者
藤田 昌英 中野 陽典 太田 潤 熊西 康信 木本 安彦 大道 道大 薄金 眞雄 上田 進久 塚原 康生 藤原 彰 下妻 晃二郎 杉山 龍平 飯田 透志 梁 昌熙 稲葉 秀 奥山 也寸志 阪本 康夫 石井 泰介 田口 鐵男
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.187-192, 1986

わが国で大腸癌が急増しつつある現在,信頼性が高く,かつ検診効率のよい集団検診法の確立が急がれる.われわれは昭和52年以来試みてきた3種の検診結果に基づき,.昭和57年4月から2年間,地域団体,職域団体,個人の3グループの計12,520名に対し,グアヤックスライド(シオノギ)にて制限食下に3日間便潜血を調べる方法と問診とを併用した大腸癌集団検診を実施した。要精検は3,434名(27.4%)であり,その内訳は,便潜血が1枚以上陽性であった者2,602名,3親等以内の家族に大腸癌のみられたハイリスク者524名,大腸癌を疑う症状を訴えた者308名であった。要精検者の64.4%(2,214名)が直腸指診,直腸鏡検査をうけた.注腸X線検査は1,397名,大腸ファイバースコピ一は187名に実施した.728名は消化管に何らかの異常所見がみられ,大腸癌は18名(0.14%),カルチノイドは1名,大腸ポリープは303名にみられた.大腸癌18名中17名は便潜血陽性で,残る1名はハイリスクでスクリーニングされた.腫瘍の局在ではS状結腸が10名と多かった,Dukes Cの進行癌は3名にすぎず,Dukes Bは4名であり,早期癌は10名をかぞえた.この集検法は無症状のかなりの大集団に実施でき,大腸癌をより早期に発見しうる信頼度の高い方法であると考えられた.
著者
佐藤 健次 佐藤 達夫
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.515-529, 1981 (Released:2009-06-05)
参考文献数
18
被引用文献数
13 7

術後機能障害を最小限にとどめた直腸癌手術術式の開発に資する基礎的研究として,実習死体において陰部神経叢と骨盤神経叢の構成と分布形態の精査を試みた.陰部神経叢の枝は,起始位置から内側群(第1群)と外側群(第2群)とに分けられ,両群ともに所属神経の問に層的構成が認められる.骨盤内臓神経は内側群の最腹側に位置する神経である.外肛門括約筋の主要支配神経は下直腸神経と会陰神経であり,後端部にのみ第4仙骨神経会陰枝または肛門尾骨神経が進入する.肛門挙筋の主要支配枝は肛門挙筋神経であるが,筋下端部は会陰神経と下直腸神経の支配を受ける.骨盤神経叢は主として下腹神経と骨盤内臓神経から構成され,仙骨内臓神経の関与度は低い.骨盤神経叢から出る直腸枝は,直腸壁への進入個所により,上群と下群とに分離する傾向が認められる.
著者
木村 英明 小金井 一隆 篠崎 大 三邉 大介 藤井 正一 鬼頭 文彦 福島 恒男
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.50-55, 2000 (Released:2009-06-05)
参考文献数
22
被引用文献数
4 4

宿便性大腸穿孔の4例を経験した.症例は,男性1例,女性3例,平均年齢62,3歳で,3例は元来便秘であった.いずれも突然の腹痛で発症し,全例に嘔吐,1例に下血を認め,2例はショック症状を呈した.検査所見で,1例にfree airを,3例に腹水貯留を認め,4例とも消化管穿孔,汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.いずれもS状結腸から直腸の穿孔で,腹腔内,もしくは穿孔部に穿孔の原因と思われる硬便を認め,他部位大腸に多量の便塊を認めた.3例に病変部腸管切除,ドレナージ,入工肛門造設術を,1例にexteriorizationを施行した.いずれも術後経過は良好で退院し,2例で人工肛門を閉鎖した.切除例3例の穿孔部な,いずれも類円形,楕円形で,病理組織学的に穿孔部周囲の圧迫像を認めた.臨床症状,手術所見,病理所見より宿便性大腸穿孔と診断した.
著者
岩垣 博巳 淵本 定儀 松原 長秀 赤在 義浩 須崎 紀一 渡辺 哲也 野中 泰幸 木村 臣一 折田 薫三 米山 勝 万代 隆彦 阿賀 創 藤井 和子 堺 修造
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.426-430, 1991 (Released:2009-12-03)
参考文献数
13
被引用文献数
2 4

難消化性糖質であるラクトスクロース(Lactosucrose; LS-98)を健常成人および大腸疾患術後患者に投与し,光岡の方法に準じて腸内細菌叢の変化を検討した.その結果,ラクトスクロースは健常成人に対してビフィズス菌増殖因子として作用し,また大腸疾患術後患者に対しては,ビフィズス菌パランスが低下している腸内環境を早期に改善する傾向が明らかとなった.難消化性糖質であるラクトスクロース投与は,術後の腸内環境を改善し,手術侵襲からの早期回復をはかることが示唆された.
著者
三浦 誠司 西岡 道人 野澤 慶次郎 藤田 正信 青木 久恭 和田 浩明 捨田利 外茂夫 三重野 寛治 小平 進
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.18-23, 1998 (Released:2009-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

22歳,男性.主訴は入工膣からのガス・便の排出.1年10か月前に海外で膣造設術を含む性転換手術を受けている.造影および内視鏡検査では瘻孔は高位にあり,直腸膣中隔の膣側上皮は広汎に欠損していた.手術は経仙骨的アプローチで施行し,直視下に瘻孔を切除して層々に縫合閉鎖した.術後3年以上経過した現在,再発はない,本症例は腹部や大腿部に創痕が残るような術式を拒んだため,瘻孔を閉鎖できたが,膣を安全に使用できるような術式ではなかった.男性性転換手術者に発生する直腸膣瘻の治療は困難で,その理由として発生原因が人工膣の萎縮防止用ステントを長期間使用したための圧迫壊死であること,および造膣手術時に広範囲に剥離が行われていて周囲組織を瘻孔閉鎖手術時の修復に利用できないことなどがあげられている.欧米の報告では本症の発生率は低いが,観察期間が短いものが多いことから過小評価されている可能性が考えられる.
著者
飯塚 政弘 千葉 満郎 五十嵐 潔 堀江 泰夫 正宗 研 山田 暢夫
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.1244-1249, 1989 (Released:2009-10-16)
参考文献数
22

末梢型関節炎がみられた潰瘍性大腸炎2症例について, 関節炎の推移を大腸亜全摘との関連において検討した.症例1 : 21歳, 女性.全大腸炎型, 再燃緩解型, 中等症.13歳時潰瘍性大腸炎発症.再燃緩解を繰り返した.18歳時より右膝関節を主とした多関節炎発現し消長を繰り返した.21歳時, 潰瘍性大腸炎に対し内科的治療の限界と判断し, 全結腸切除兼回腸瘻造設術を施行したが, 関節炎は術後も再発した.症例2 : 29歳, 男性.全大腸炎型, 慢性持続型.16歳時潰瘍性大腸炎発症.25歳時重症となり, 全結腸切除回腸直腸吻合術施行.術後も残存直腸に再燃がみられた.28歳時左股関節痛, 左膝関節炎発現残存直腸は活動期であったが, 左膝関節炎は約6カ月後に消失した.すなわち2症例とも難治例であり, 症例1は大腸亜全摘後も関節炎は再発し, 症例2は大腸亜全摘後に関節炎が出現した。関節炎の再発, 発症に大腸粘膜の残存が強く関与していることが示唆された.
著者
高野 正博 緒方 俊二 野崎 良一 久野 三朗 佐伯 泰愼 福永 光子 高野 正太 田中 正文 眞方 紳一郎 中村 寧 坂田 玄太郎 山田 一隆
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.201-213, 2011 (Released:2011-04-01)
参考文献数
43

陰部神経に沿って圧痛ある硬結が存在し,肛門痛,括約不全,排便障害,腹部症状,腰椎症状を訴える症例がある.これらの症候の合併率は85.1%と高く,仙骨神経と骨盤内臓神経の両者の障害が関与していることがわかり,神経因性骨盤臓器症候群(Neurogenic Intrapelvic Syndrome,NIS)と名付けた. この症候群と診断した537例に,病態に応じて,肛門痛には主としてブロック療法,括約不全にはバイオフィードバック療法,腸管の運動不全には薬物療法,神経障害には理学療法と運動療法,また症候群に附随する精神障害には心理療法を組み合わせて治療した. その結果,肛門痛74.2%,括約不全83.3%,排便障害78.1%,腹部症状81.5%,腰椎症状66.0%で症状が改善し,これらの治療法は治療効果が高率に得られる適切なものであると判断した.多症候を有する症例でもそれぞれの病態に対する治療法を組み合わせ,総合的な治療を加え行うことによって高い効果が得られた.
著者
大川 清孝 青木 哲哉 上田 渉 佐野 弘治 小野 洋嗣 中内 脩介
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.470-481, 2018 (Released:2018-10-25)
参考文献数
32

サイトメガロウイルス(CMV)腸炎は免疫不全症や集中管理を要する重症患者が背景として多い.内視鏡像では打ち抜き様類円形潰瘍のみでなく,輪状傾向潰瘍,帯状潰瘍,縦走潰瘍,二段潰瘍などの存在,多彩な潰瘍の混在などがあれば,本症を疑う必要がある.診断には病理学的検査(HE染色による核封入体の検出とCMV免疫組織検査によるCMV抗原の検出)やCMV抗原検査が用いられるが,偽陰性が多いのが問題である.潰瘍性大腸炎(UC)においてステロイド抵抗性や難治性の場合にCMV腸炎合併を疑う必要がある.病理学的検査とCMV抗原検査は,特異度は高いが偽陰性が多い.粘膜CMV-DNA検査は感度,特異度とも高いが,抗ウイルス療法の適応を決めるには疑陽性が多くなるため,適正なcut off値を決める必要がある.両疾患ともCMV検査が陰性であっても,臨床的にCMV感染症を強く疑えば,診断的治療が必要なこともある.
著者
荒川 敏 守瀬 善一 伊勢谷 昌志 梅本 俊治 池田 匡宏 堀口 明彦
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.26-30, 2017
被引用文献数
2

45歳の男性で,自ら肛門から大根を挿入したが抜けなくなり下血,下腹部痛出現したため救急搬送された.下腹部に限局した圧痛と筋性防御を認め,肛門からは動脈性の下血を認めた.腹部CTではRs直腸内に約74×58mmの異物を認めた.明らかな遊離ガスは認めなかった.全身麻酔下にて手術を行った.経肛門的に痔動静脈の損傷部位と直腸粘膜を修復した.腹腔鏡下にて腹腔内を観察すると,軽度濁った腹水を認めたが,明らかな穿孔部位は認めなかった.Rs直腸に異物を認めた.経肛門的に異物除去を試みるも困難であり,術者の左手を腹腔内に挿入して用手補助腹腔鏡下手術に移行し,用手的圧迫と経肛門的に異物を破砕しながら経肛門的に異物を除去した.経肛門的に摘出困難な直腸異物に対して,用手補助腹腔鏡下手術は腹腔内全体や腸管を観察することができ,用手的圧迫による異物誘導も可能であり,有用な治療のオプションになりえると考えられた.
著者
鳴海 裕行 今 充 阿保 優 高野 〓
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.275-280,365, 1973 (Released:2009-06-05)
参考文献数
17

肛門疾患に対する保存的療法の一つとして新しく開発されたゼロイドZeroidの臨床効果について検討する.これは長さ10cm,外径1.2cmのプラスチック製円筒状の器具で,中に冷却液が入っている.これを通常の冷蔵庫内で-4℃に凍結させ肛門部の局所的冷却を行なうものである.術前のもの30例,術後のもの20例,計50例に使用し,82.0%の症例に臨床症状の改善ないしは消失をみた.特に出血・疼痛に対して極めて有効であった.以上の詳細について述べるとともに,肛門疾患の保存的治療の一つとしてゼロイドは今後主要な地位を占めるものと予測するものである.
著者
三枝 純一 三枝 直人 三枝 純郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.813-818, 2010 (Released:2010-10-15)
参考文献数
25

Hemorrhoidの記述は古代よりあり,人類の長い痔核との苦闘の歴史が偲ばれる.加持祈祷や貼付薬,無麻酔下痔核焼灼などの時代を経て,欧州で1800年代半ばに様々な化学物質による痔核への注射が試行されたが,腐蝕剤は施行後出血から死に至らしめることすらあった.ほぼ同時期に手術的治療法が興隆し今もって硬化注射と手術治療は痔核治療の両輪である.歴史的には英国のSt. Mark's病院創立と結紮切除法の開発が転換点であろう.本邦では江戸時代の鎖国政策により近代医学の導入が遅れたが,幕末になると西洋医学が徐々に輸入され外科の始祖の華岡青洲,本間棗軒などが痔核の治療を行った.明治になると腐蝕注射が席巻し,その後本国の英国ではとうに廃れたWhitehead法が本邦で全盛期を迎えた.漸く昭和50年頃以降より結紮切除法が標準手術とされ,現在では(ゴム輪)結紮に加えPPH法や明礬が主剤の硬化剤なども用いられている.
著者
中島 紳太郎 高尾 良彦 宇野 能子 藤田 明彦 諏訪 勝仁 岡本 友好 小川 雅彰 大塚 幸喜 柏木 秀幸 矢永 勝彦
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.414-422, 2011-06-01

症例は24歳女性でジェットスキーから転落し,外傷性ショックの状態で他院救急搬送となった.直腸膀胱腟壁損傷と診断され,損傷部の可及的な縫合閉鎖,ドレナージおよびS状結腸人工肛門造設術が施行された.膀胱機能は改善したものの括約筋断裂によって肛門機能は廃絶状態となり,受傷から3カ月後に当院紹介となった.排便造影で安静時に粘性造影剤の直腸内保持は不可能で完全便失禁であった.しかし恥骨直腸筋のわずかな動きと筋電図で断裂した括約筋の一部に収縮波を認めたため括約筋訓練を行った.2カ月後に最大随意圧の上昇を確認,また造影剤の直腸内保持が短時間ではあるが可能であり,恥骨直腸筋の収縮と超音波で断裂部の瘢痕組織への置換が確認された.受傷から6カ月後に瘢痕組織を用いた括約筋前方形成術,9カ月後に括約筋後方形成術と括約筋人工靭帯形成術を実施した.受傷から17カ月後に人工肛門を閉鎖し,便失禁もみられず経過は順調である. <br>
著者
村山 憲永
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.408-418, 1990 (Released:2009-10-16)
参考文献数
32

直腸癌に対する括約筋温存術式の適応を拡大する目的で1978年1月より括約筋温存直腸切除術の1つである腹仙骨式直腸切除術を採用し, 直腸癌34例に本術式を施行した.直腸癌症例の大部分は下部直腸癌であり, 手術死亡は1例も認めなかった.本術式を改良することにより, 歯状線部での一次的結腸肛門管吻合が可能となった.本術式の手術時間は直腸切断術, 前方切除術の手術時間より有意に長かったが, 出血量には有意差は認められなかった.本術式の術後肛門機能は臨床的にも, 直腸肛門内圧検査的にも, 前方切除術の術後とほぼ同様であり, 貫通術式の術後と比較して, はるかに良好であると考えられた.直腸癌に対する本術式の遠隔成績については, いまだ症例数, 経過年数ともに少なく, 結論的なことは言えないが, 術後5年以上経過した症例における局所再発率は10%であり, 他の括約筋温存術式と比較して遜色はなく, ほぼ満足すべき結果であった.肛門挙筋, 肛門管への腫瘍の直接浸潤が認められず, それらを温存しても根治性が得られると考えられた下部直腸癌症例において, 前方切除術が施行困難な場合に腹.仙骨式直腸切除術は選択されるべき術式の1つであると思われた.
著者
安部 達也 國本 正雄 鉢呂 芳一
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.247-253, 2008 (Released:2008-10-02)
参考文献数
33
被引用文献数
9 11

高齢化にともない増加が予想される便失禁患者に対応すべく便失禁専門外来を開設した.週1回の外来に2年弱で250名が受診した.女性の割合が高く,女性の方が高齢であった.便失禁症状は切迫性よりも漏出性が多かった.詳細な問診と肛門機能検査などから便失禁の原因を検討した結果,分娩損傷によるものが最多で全体の2割(48例)を占めた.その他,直腸脱(25例),肛門手術後(21例),内括約筋変性症(18例)などが多く,原因を特定できない特発性も44例あった.外科的治療は少なく,多くの症例でバイオフィードバック療法や肛門管電気刺激療法などの保存的治療を行った.高齢などを理由に無治療(31例)や,治療途中で脱落する例(20例)もあった.