著者
安達 亙 塩澤 秀樹 小松 修
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.75, no.7, pp.327-332, 2022 (Released:2022-06-29)
参考文献数
20

背景・目的本邦ではFecal impaction(FI)への関心は低く臨床的検討は少ない.FIで医療機関を受診する患者の特徴を明らかにすることを目的とした.対象・方法外来を受診したFI症例60例の診療録を解析した.結果平均年齢は74.6歳,男性36例,女性24例,併存疾患として精神神経疾患を10例に認めた.便秘のある症例が半数以上を占めたが16例では便秘の既往はなかった.51例でFI発症の誘因はなかった.自覚症状は排便困難,肛門部痛が多く診断は比較的容易であったが,8例に溢流性便失禁が認められ,認知症の併存頻度が有意に高かった.浣腸,摘便で改善したが,3例では麻酔を要した.7例に再発を認めた.結論FIは高齢者に一般的にみられる疾患である.診断,治療は比較的容易であるが,溢流性便失禁の認識が必要であり,特に認知症患者では重要である.
著者
角田 明良
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.14-21, 2023 (Released:2022-12-27)
参考文献数
12

目的:温水洗浄便座(BT)による洗浄と便失禁(FI)の関係をみる.方法:FI 85例でBTの洗浄方法をLikert scaleで評価した.患者は再診まで洗浄の中止を指導した.FIはFI Severity Index(FISI)で評価し,follow-upのFISI scoreがbaselineの1/2以下で実質的改善(SI)とした.結果:再診例は81例(95%)で,洗浄中止期間は4週(2-20週)であった.FISI scoreはbaselineよりfollow-upで減少し[18(8-49)vs. 12(0-43);p<0.0001],SIは46%(37/81)であった.follow-upでは38%(31/81)でFIが消失した.FIのSIは随意収縮圧と,baselineのFISI scoreは洗浄の頻度と相関した.結論:BTによる洗浄はFIの要因であることが示唆された.
著者
相川 佳子 松田 聡 川上 和彦 中井 勝彦 木村 浩三 野中 雅彦 尾田 典隆 新井 賢一郎 松永 篤志 今村 茂樹
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.53-57, 2019 (Released:2019-01-30)
参考文献数
6
被引用文献数
1

保存的治療で改善をしない慢性裂肛患者への局所用カルシウムチャンネルブロッカー軟膏(以下ニフェジピン軟膏)の有効性と安全性に対する検証的臨床研究を行った.慢性裂肛患者40例に対してニフェジピン軟膏を使用し,疼痛(Face Scale;以下FS)と肛門内圧(以下MRP)を評価した.評価対象は32例であった.疼痛FSは,排便時・安静時共に治療前後で有意に低下した.手術に移行した症例を無効群,それ以外を有効群とすると,その有効率は87.5%であった.無効群のMRPは有効群に比べ有意に高かったが,治療前後でのMRPの有意な低下は認めなかった.副作用は1例に頭痛を認めた.ニフェジピン軟膏の機序として,肛門局所の平滑筋を弛緩させ,MRPを低下させ,創治癒を促進すると考えてきた.しかし,本研究で疼痛の有意な改善を認めたが,MRPは低下しなかったことから,MRP以外に疼痛を改善する要素がある可能性が示唆された.
著者
高野 正太
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.621-627, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
49
被引用文献数
1 1

慢性便秘を治療する際は大腸通過時間や便排出能力を念頭に置かなければならない.食事療法,運動療法は慢性便秘全般に対する共通の治療となるが主に大腸通過時間遅延型,大腸通過正常型への治療となる.一方理学療法は便排出困難型の便秘症に対して有効である.食事療法としては食物繊維を始め,乳酸菌食品や発酵食品の摂取が推奨される.運動療法として有酸素運動が便秘の改善に関係するといわれる.便排出障害に対しては排便姿勢指導やバイオフィードバック療法,体幹筋トレーニングが効果があるとされる.特にバルーン法や筋電図,内圧計を用いたバイオフィードバック療法は多くの論文が認められ施行することが推奨される.
著者
荒川 敏 守瀬 善一 伊勢谷 昌志 梅本 俊治 池田 匡宏 堀口 明彦
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.26-30, 2017 (Released:2016-12-26)
参考文献数
17
被引用文献数
2

45歳の男性で,自ら肛門から大根を挿入したが抜けなくなり下血,下腹部痛出現したため救急搬送された.下腹部に限局した圧痛と筋性防御を認め,肛門からは動脈性の下血を認めた.腹部CTではRs直腸内に約74×58mmの異物を認めた.明らかな遊離ガスは認めなかった.全身麻酔下にて手術を行った.経肛門的に痔動静脈の損傷部位と直腸粘膜を修復した.腹腔鏡下にて腹腔内を観察すると,軽度濁った腹水を認めたが,明らかな穿孔部位は認めなかった.Rs直腸に異物を認めた.経肛門的に異物除去を試みるも困難であり,術者の左手を腹腔内に挿入して用手補助腹腔鏡下手術に移行し,用手的圧迫と経肛門的に異物を破砕しながら経肛門的に異物を除去した.経肛門的に摘出困難な直腸異物に対して,用手補助腹腔鏡下手術は腹腔内全体や腸管を観察することができ,用手的圧迫による異物誘導も可能であり,有用な治療のオプションになりえると考えられた.
著者
久松 理一
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.601-610, 2017 (Released:2017-10-23)
参考文献数
59

抗TNFα抗体製剤の開発はCrohn病の治療ストラテジーを大きく変えた.長期的予後を改善するために“treat to target”ストラテジーが取り入れられ,粘膜治癒が治療目標として提唱された.疾患活動性のモニタリングが重要であり,血清CRPと便カルプロテクチンが日常臨床での非侵襲的バイオマーカーとして期待されている.既存治療の見直しとして,チオプリン製剤の併用については個々の患者において検討されるべきである.経腸栄養療法についても抗TNFα抗体製剤との併用療法の有用性が検討されている.抗TNFα抗体製剤が広く使用されるようになるにつれて,効果減弱を含む新たな問題にも直面しておりその機序を理解することが重要である.新たな治療薬として抗Il-12/23p40抗体であるウステキヌマブが日本でも承認された.抗TNFα抗体製剤に対する一次無効患者や効果減弱患者に対する有効性が期待されている.
著者
山崎 震一 山崎 健二 宮崎 高明 松岡 健司 丸山 寅巳 八木 禧徳 高桜 芳郎 伴野 昌厚
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.31-39, 1994 (Released:2009-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
6 9 10

注腸二重造影像に示された腸管に紙紐を使って盲腸,結腸の各部分,直腸の長さと内径を測定し,性,年齢,身長,体重,肥満度,横行結腸下垂,S状結腸挙上,症状に対する統計学的分析を試みた.検査対象は男性120例,女性112例,平均年齢56.6歳であった.結果は大腸の長さは性と年齢に対して有意に関与するが,身長,体重,肥満度に対しては積極的関与はなかった.内径に対しては横行,S状結腸とも身長,体重に正の相関,年齢に負の相関があり,性差ではS状結腸の内径は女性の方が小であった.つぎに横行結腸下垂は性,年齢,身長,体重,肥満度,横行結腸大腸の長さに,S状結腸挙上は年齢,S状結腸,大腸の長さに,便秘は性,年齢身長,体重,横行結腸S状結腸大腸の長さに,便通異常は横行結腸大腸の長さに,出血は性に相関があり,腹痛はすべてに有為差を認めなかった.
著者
小金井 一隆 木村 英明 篠崎 大 福島 恒男
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.409-414, 1999 (Released:2009-10-16)
参考文献数
16

ステロイドによる大腿骨頭壊死を合併した潰瘍性大腸炎 (UC) の3例を経験した.症例1は24歳, 女性, 症例2は30歳, 男性, 症例3は55歳, 女性.症例1, 2は全大腸炎型, 症例3は左側大腸炎型で, いずれも再燃緩解を繰り返し, ステロイド投与が行われた.UC発症後15, 31, 48カ月で大腿痛が出現し, 大腿骨頭壊死と診断された.症例1, 2はその後もステロイドが投与され, 総投与量は9.8g, 11gとなり, 当科初診時には歩行障害があった.大腸全摘, 回腸嚢肛門管吻合を行い, ステロイドを中止したが, 骨変化は非可逆で, 症例1は右側の人工骨頭置換術を行った.症例3は総投与量が30gであったが, 大腿骨頭壊死の診断後ステロイド投与を中止し, 現在までUC, 大腿骨頭壊死とも保存的に治療している.大腿骨頭壊死は患者のQOLを著しくそこなう疾患であり, ステロイド使用症例ではその発症に十分注意し, 発症後は速やかに治療法の変更が必要である.
著者
松田 直樹 舟山 裕士 高橋 賢一
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.427-430, 2006 (Released:2009-06-05)
被引用文献数
1 1

肛門の「狭さ」や「ゆるさ」を客観的に捉えて計量化するための肛門伸展張力計(松田式)を開発した.本装置は長い柄の二弁式肛門鏡に圧力センサーを付けたもので,これにより肛門管を徐々に開大することにより,最初の痛みを感じたときの肛門伸展張力(kg)とその時の肛門直径(mm)を測定することで肛門の伸展性が測定できる.本器を用いて裂肛などの伸展不良例(N=56),無病変例(正常肛門,N=23),過伸展例(直腸脱,N=18)の症例を測定した.とくに伸展不良例を瘢痕性狭窄と筋緊張性狭窄とに分け検討すると,瘢痕性狭窄(内訳:慢性化裂肛18例・線維化した狭窄12例)(N=30)での肛門伸展張力は平均2.37kg,肛門直径は平均24.1mmと筋緊張性狭窄(N=26)でのそれぞれ4.35kg,28.0mmよりも有意に低値であった.本器は簡単でしかも客観的に肛門の伸展状態を測定できる有用な器械であると考えられた.【END】【引用文献】1) Gabriel WB : The principle and practice of Rectal Surgery. 5th ed. H.K. Lewis, London, 1948, p4262) Cho DY : Controlled lateral sphincterotomy for chronic anal fissure. Dis Colon Rectum 48 (5):1037-1041, 20053) 畑川幸生:裂肛治療におけるSSGの適応と肛門径測定の試み(会議録),日本大腸肛門病会誌 58(9):691,2005
著者
小山 能徹 阿部 正 石崎 俊太 又井 一雄 大熊 誠尚 山崎 哲資 衛藤 謙
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.74, no.8, pp.491-494, 2021 (Released:2021-07-29)
参考文献数
13

症例は19歳男性.自宅で自身で鉛筆を経肛門的に挿入し,摘出困難となったが,症状を認めなかったため様子をみていた.しかし翌日に下腹部痛,血便を認めたため,近医受診.対応困難とのことで当院に救急搬送となった.当院での腹部レントゲンおよび腹部CTではS状結腸から直腸上部にかけて棒状の構造物を認めた.肛門からの用手的摘出が困難であったため,内視鏡的に摘出した.入院後は特に腹部症状増悪なく,術後4日目に無事退院となった.
著者
村上 三郎 中島 三恵 吉田 裕 橋本 大樹 辻 美隆 大久保 雄彦 浜田 節雄 平山 廉三
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-6, 2004 (Released:2009-06-05)
参考文献数
32
被引用文献数
6 3

血液透析治療中に繰り返し発症した宿便性大腸穿孔症例を経験したので,文献的検討を加えて報告する.症例は76歳,女性.慢性腎不全にて血液透析治療を受けている.3年前に宿便性S状結腸穿孔にてHartmann手術を施行されている.今回,突然の腹痛が出現し再入院となった.腹部X線写真および腹部CTで,freeairおよび多数の宿便を認め,宿便性大腸穿孔の再燃と判断し緊急手術を行った.S状結腸に穿孔を認め,その近傍に宿便を認めた.前回のストーマ造設部に新たなストーマを造設してHartmann手術を行った.水分摂取の制限を要した血液透析患者で宿便性大腸穿孔が発症したことを考えると,圧迫壊死という物理的因子以外に便塊表面の粘稠度の充進や腸粘液分泌減少などによって便塊が大腸粘膜へ強固に付着すること,さらに,それに続く大腸壁の局所循環血流障害などが本疾患の発症に関与している可能性がある.
著者
須田 和義 川崎 俊一 本橋 行 後藤 悦久
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.31-34, 2017
被引用文献数
2

80歳以上の高齢者にも経肛門的直腸異物症例は存在するが,本例は従来報告の中でも性的動機では最高齢になる.また,女性体型をかたどったペットボトルという特徴的な異物であり,無麻酔下用手経肛門的に摘出できた1例である.症例は85歳男性で,『香水の瓶』が取り出せないという主訴で来院した.指診上,肛門縁約10cmで異物端を触知し,直腸鏡,画像とから,中間部がくびれた形状で,内容物を有した容器様の異物が開口部を下にして骨盤内に認められた.側臥位にて腹部圧迫し,直腸内の示指で異物端を適切な方向に向けつつ,異物を肛門側に押し進め,摘出することができた.異物は,約20×7cmのペットボトルで女性のボディラインを再現した形状で,そのくびれはウエストに模した部分であった.今後も常習性の高齢者症例は増加する可能性がある.リスク教示のみならず,安全な使用を是認せざるを得ない場合もありうる.
著者
藤田 昌久 石川 文彦 釜田 茂幸 山田 千寿
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.486-489, 2015
被引用文献数
2

経肛門的直腸内異物の大部分は自慰行為や性的行為により生じるが,異物は多種多様である.今回,われわれは,経肛門的に直腸内に挿入された巨大なシリコン製玩具に対して,ミオームボーラーを用いて経肛門的に摘出した症例を経験した.症例は34歳男性.自慰行為にて肛門よりシリコン製玩具を挿入,摘出できなくなり当科を受診した.外来で無麻酔下には摘出できず,全身麻酔下に摘出を行った.各種鉗子では異物を把持,牽引できなかったがミオームボーラーを異物に刺入することで安全に摘出することができた.異物は円錐状で,大きさは30×10cmと巨大であった.異物の形状や材質により摘出の工夫が必要であるが,シリコン製玩具に対してはミオームボーラーが有用である.
著者
柴田 佳久 岡村 正造
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.8, pp.516-521, 2011 (Released:2011-08-03)
参考文献数
15
被引用文献数
1

クローン病に併発する悪性疾患の報告は増加している,しかしながら,クローン病に合併する腸管狭窄や瘻管形成のため,癌発生の早期診断は困難である.今回,クローン病の発症から15年を経て直腸癌を併発したと考える症例を経験した.内科的治療が行われていたが,発症後15年で直腸肛門周囲膿瘍を形成すると共に急速に直腸狭窄が進行した.内視鏡的に狭窄拡張術を行ったが効果を認めなかった.高度狭窄にて内視鏡観察が困難なため,colitic cancerを疑い透視下生検を行ったところ,低分化腺癌と診断された.腹会陰式直腸切断術を行い,術後抗癌剤治療を加えたものの早期に再発し予後不良であった.クローン病患者に対するサーベイランスを含む,併発癌に対し治癒可能な早期での発見方法を考えることが必要である.
著者
安部 達也 鉢呂 芳一 小原 啓 稲垣 光裕 菱山 豊平 國本 正雄 村上 雅則
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.600-608, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
18
被引用文献数
2

新規下剤には排便回数の増加のみならず,腹痛や腹部膨満感,排便困難といった便秘の諸症状に対する効果も期待される.急性便秘とは異なり,慢性便秘の場合は長期間使用しても耐性や依存性,偽メラノーシスが生じないことも求められる.2012年に処方箋医薬品としては実に30年振りとなるルビプロストンが発売され,2019年のラクツロース経口ゼリーまで合計6種の新規下剤が登場した.慢性便秘症診療ガイドライン2017において最も推奨されている下剤は,浸透圧性下剤と上皮機能変容薬の2種類であり,新規下剤6剤のうち4剤がその2種類に含まれている.前治療がない場合は一般的には浸透圧性下剤が第一選択薬となり,効果がない場合は上皮機能変容薬やエロビキシバットへの変更を検討する.新薬同士の選択は,便秘の病態や重症度,予測される副作用を考慮して行うが,個々の患者との相性は実際に投与してみないと分からないこともある.
著者
岡﨑 啓介 森永 紀
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.540-549, 2021 (Released:2021-11-29)
参考文献数
32

裂肛の治療には保存的(=非手術的)治療と手術的治療がある.保存的治療には,生活指導,外用薬物治療,排便コントロール,局所用硝酸塩,カルシウムチャネルブロッカー,ボツリヌス毒素によるものがある.本稿ではこれらについて概説する.最先端の治療としては,新機序の慢性便秘症治療薬によるもの,カルシウムチャネルブロッカーによる化学的括約筋切開について,本邦の動きも含めて記載する.保存的治療は手術的治療の前段階として考えられがちであるが,手術的治療後の状態維持,再発予防にも関係するので,裂肛治療の主軸である.
著者
辻 順行 家田 浩男
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.391-399, 2017 (Released:2017-05-25)
参考文献数
23
被引用文献数
1

家田病院で2010年10月~2011年8月に手術した肛門狭窄を伴う慢性裂肛(58例)と高野病院で2012年4月~2014年3月に手術した肛門狭窄を伴う慢性裂肛(75例)のSSGの133例,家田病院で2009年10月~2010年9月に肛門狭窄を伴う慢性裂肛にVY-plasty(VY)を行った40例を対象として以下の結果を得た.1)皮膚弁が肛門管内に移動した距離は,SSGでは平均13mm,VYでは22mmで両者間に有意差を認めた.2)術後合併症なしの頻度はSSG対VYで81.2%対55%で有意にSSGに少なかった.3)治癒日数は,SSGでは平均37日,VYでは49日で両者間に有意差を認めた.しかし治癒の頻度はそれぞれ89%,85%で有意差は認めなかった.4)術前後の肛門内圧は肛門最大随意圧では変わりないが,肛門最大静止圧ではSSG・VY共に有意な差をもって低下した.
著者
高野 正博
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.226-229,301, 1978 (Released:2009-06-05)
参考文献数
7
被引用文献数
3 1

肛門管長には括約筋の厚さで規定される外科学的肛門管長と肛門上皮(anoderm)で規定される解剖学的肛門長とがあり,これまで両者がいささか混同されて用いられてきた.新しく作られた大腸癌取扱い規約においてもこの例にもれない.このことは一面では両者のいずれもがそれぞれ意義を有していることを示しているとも云える.著者は肛門疾患を有しない成人の男性140例,女性32例,計172例においてそれぞれ外科学的および解剖学的肛門管長を測定し,下記の如き平均値を得たので報告する.また外科学的肛門管を括約筋性肛門管,解剖学的肛門管を肛門上皮性肛門管と呼称すれば銘記が容易で混同を避けられると考え,ここに提唱したい.
著者
春日井 邦夫 兼松 徹 日高 雄二
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.153-164, 2019

<p>便秘治療薬は患者の程度・症状に合わせ,適宜増減可能な用量の薬剤が望まれる.慢性便秘症治療薬として開発された結晶ラクツロースのゼリー製剤(SK-1202,以下本剤)について,用量調節投与による有効性と安全性を評価した.日本人の慢性便秘症患者54例を対象に,開始用量として26g/日(ラクツロース量)を1日2回に分け,患者の症状に応じて13~39g/日の範囲で用量調節を実施しながら4週間経口投与した.33例が投与期間中に1回以上用量調節し,54例全例が投与完了した.自発排便回数は投与第1週で5.40±2.58回/週と,ベースライン1.70±0.61回/週に対して有意に増加し投与第4週まで持続した(いずれもp<0.001).臨床的に問題となる副作用も発現しなかった.</p><p>本試験にて本剤を用量調節投与した結果,中止例もなく良好な有効性および安全性が認められ,慢性便秘症に対する本剤の用量調節の意義が示された.</p>
著者
宇都宮 高賢 柴田 興彦 菊田 信一 堀地 義広
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.169-174, 2005 (Released:2009-06-05)
参考文献数
26

難治性の慢性直腸肛門痛症例,男性19人,女性42人について肛門管内を双極刺激電極を挿入し低周波電気刺激を週1~2回,一回5分間行いその効果について検討した.これら症例のうち男性9人,女性12人について低周波電気刺激前後における左側肛門管組織血流量の測定を行った.症例の肛門内圧検査を行い随意最大収縮圧100mmHg以上の症例(機能正常群)と100mmHg以下(機能低下群)に分けて検討した.男性では,機能正常群が多く,女性では機能低下群が多かったが,慢性直腸肛門痛との関連はなかった.痛みが消失するまでの刺激回数は平均3.5±1.6回であり,98%に効果を認め,59%に痛みの完全消失が得られた.肛門管組織血流量,血流速度は低周波電気刺激により男性で64%,女性で33%の有意な増加がみられた(p<0.Ol).肛門管内低周波電気刺激は,慢性直腸肛門痛症例に対して簡便有効な治療方法であった.