著者
望月 博之
出版者
日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.745-754, 2008-12-10 (Released:2009-03-09)
参考文献数
33

気道は外界の刺激に接する機会の多い臓器であり,吸入性のアレルゲンがもたらすアレルギー性炎症だけでなく,大気中の汚染物質や細菌,ウイルス類も,粘膜に傷害をもたらすことが知られている.これらの気道傷害の多くは,気道粘膜上の酸化ストレス反応に起因すると考えられるため,喘息の発症,悪化の病態に酸化ストレスは重要な意義を持つと思われる.一方,気道粘膜は様々な抗酸化因子を有しており,酸化還元反応を介して酸化ストレスに対応し生体の恒常性を保っている.このような制御機構はレドックス(Reduction and Oxidation; Redox)制御と呼ばれるが,喘息患者の気道ではレドックス制御に何らかの破綻が生じている可能性も推測されている.酸化ストレスとレドックス制御の側面から考えれば,喘息の治療に抗酸化薬を加えることは有意義であると思われる.
著者
岸田 勝 笹本 明義 斎藤 誠一 松本 広伸 鈴木 五男 青木 継稔 穴田 環 白木 和夫
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF PEDIATRIC ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.34-38, 1993

島根県益田市の乳児園, 保育園および保育所 (計24施設) に在園中の0歳から6歳までの乳幼児を対象に, アレルギー性疾患保有状況についてのアンケート調査を行った. 0歳から6歳までの全園児のアレルギー性疾患保有率は36%であり, 3人に1人は何等かのアレルギー性疾患に罹患しており, アレルギー性疾患の内約3分の1が気管支喘息であり, 残り3分の2がアトピー性皮膚炎であった.
著者
楳村 春江 和泉 秀彦 小田 奈穂 漢人 直之 伊藤 浩明
出版者
日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.691-700, 2015
被引用文献数
1

【目的】鶏卵・牛乳アレルギーであった児の除去解除が進み,完全解除が許可された時点における食生活の実態を評価した.【方法】2013年5月~12月の外来受診時に主治医より完全解除を許可された鶏卵アレルギー16名,牛乳アレルギー1名,鶏卵+牛乳アレルギー21名を対象にアンケート調査を実施した.さらに,その中で協力の得られた21名の保護者からは,写真判定を含む3日間の食事調査を行った.【結果】家庭内,外食,買い物においては改善がみられ,保護者の負担は軽減していた.しかし,大量摂取や卵低加熱料理については,未だに症状誘発に対する恐怖感,不安感を持っていた.食事調査の結果からは,一日当たりの鶏卵,牛乳そのものの摂取は過半数の患児が鶏卵1/2個,牛乳100ml以下であり,牛乳アレルギー児は,カルシウムの摂取量が目標量を下回っていた.【結語】除去食生活の長期化による食べないことの習慣化や保護者の不安などが要因となり,多くの患児にとって「真の解除」を得ることが困難である実態が明らかとなった.
著者
黒坂 文武 西尾 久英
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF PEDIATRIC ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.777-786, 2014

学校給食に用いられているうまみ成分である<i>Candida utilis</i>(CU)を含む給食を喫食し呼吸困難を呈し,血中CU IgE抗体を証明した2症例を経験したので報告する.症例1は7歳,男.小学校入学までは3回の喘息発作があったのみであったが,小学校に入学してから頻繁に喘息発作を繰り返しているために当院に受診した.母親から学校給食のスープのある日の内12回中11回発作が起こっているとの報告があり,スープそのものでprick to prick test(PPT)を施行したところ陽性.症例2は9歳,男.2歳より喘鳴出現するも6-7歳頃には改善していたが,8歳になって学校給食後喉が痒くなり咳き込んで息苦しくなる発作を繰り返すようになり,本人がスープが怪しいと証言したので,PPTを行い陽性であった.2名ともCUに対する特異的IgEを検出し,抑制試験で98.8%以上抑制された.学校給食によると思われるアレルギーの抗原検索には給食そのものによるPPTが有用と思われた.
著者
相原 雄幸
出版者
日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.138-145, 2012 (Released:2012-05-31)
被引用文献数
1

食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FEIAn)は食物アレルギーの特殊型に分類される比較的稀な疾患である.その発症機序については明らかでない点も少なくない. PubMedを用いたFEIAnに関連する論文の調査結果からは,1979年の最初の症例報告以降その報告数は増加傾向にあり,近年はアジア地域でも認知度が向上していることが推察される.また,わが国からの報告数が多いことも特徴といえる. 発症頻度については学童生徒では約1万2千人に1人程度であるが,成人の頻度は明らかではない.原因食物としては小麦製品の頻度が最も高く,その抗原解析の結果からは成人発症例ではω-5 gliadinが関連していることが明らかにされた.さらに,抗ω-5 gliadin IgE抗体の有用性が報告されている.一方,小児期発症例では必ずしもこの抗体の有用性は明らかではない. 近年,加水分解小麦蛋白含有化粧石鹸を一定期間使用後に小麦依存性運動誘発アナフィラキシーを発症する例が多発し社会問題となった.経皮あるいは経粘膜感作が発症の誘因となっており,FEIAnの発症機序の解明に新たな示唆をあたえるものとも考えられ興味深い.また,難治性の即時型食物アレルギーに対する免疫療法が研究的に行われており,その治療中あるいは寛解到達後にFEIAnを発症する症例があるため注意が必要である. 治療については最近prostaglandin E(PGE)製剤の有用性も報告されている. 今後も,患者に対する不要な制限やQOLの改善のためにはこの疾病の啓発が重要である.
著者
岡部 公樹 吉川 知伸 宮本 学 金子 恵美 吉田 幸一 緒方 美佳 渡邉 暁洋 本村 知華子 小林 茂俊
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.424-433, 2023-12-20 (Released:2023-12-20)
参考文献数
15

【目的】大規模災害現場で薬剤師がアレルギー疾患患者に対応する際の問題点,アンメットニーズを明らかにするため調査を行った.【対象と方法】災害医療に携わる薬剤師に日本薬剤師会,日本病院薬剤師会を介し無記名のWEBアンケート調査を行った.【結果】235名から回答を得た.アレルギー疾患に関する情報を平時は電子媒体で得たい薬剤師が多く,災害時はアプリ,紙媒体で得たい薬剤師が平時より増加した.アレルギーポータルや既存の資材の利用者は少なかった.支援で調剤・携行した薬は抗ヒスタミン薬が多かったが,アレルギー疾患関連薬剤の携行量や剤型の不足が問題であった.吸入補助器具やアドレナリン自己注射薬は携行数と比べ今後の携行が推奨されていた.患者指導で重要な事として79.6%の薬剤師が「避難時の薬剤手帳の携帯」と回答した.【結論】アレルギーポータルや資材の普及,支援時期毎の携行薬リスト作成,薬剤手帳を携帯して避難することの啓発が必要である.一方,使用期限の短いアドレナリン自己注射薬の災害時の供給方法は今後の課題である.
著者
平口 雪子
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.70-74, 2023-03-20 (Released:2023-03-20)
参考文献数
20

甲殻類とは節足動物門に属する甲殻亜門(Crustacea)の一群で,エビ・カニ・シャコなどが含まれる.2022年即時型食物アレルギー全国モニタリング調査では全年齢における食物アレルギーの原因食品として8位,初発例の原因食品として7~17歳で1位,18歳以上で2位と,甲殻類アレルギーの多くは学童期以降で発症する.即時型症状が多く,食物依存性運動誘発アナフィラキシーの原因食品としても頻度が高い.予後についての報告はほぼないが,耐性獲得は少ないと考えられている.甲殻亜門の主要アレルゲンはトロポミオシンとされるが,他にアルギニンキナーゼ,ミオシン軽鎖,筋形質カルシウム結合タンパクなどが報告されている.これらのコンポーネントは節足動物門でアミノ酸配列の相同性が高く,交差抗原性は甲殻亜門内だけでなく,節足動物門の鋏角亜門・六脚亜門と甲殻亜門間でも確認されている.粗抽出抗原特異的IgE抗体検査は感度,特異度共に不十分で,コンポーネント特異的IgE抗体検査の有用性が検討されているが地域差など課題も多い.
著者
椿 俊和 小澁 達郎 松田 秀一 岩崎 郁美 杉原 雄三 赤澤 晃 小幡 俊彦 飯倉 洋治
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF PEDIATRIC ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.124-133, 1993-08-25 (Released:2010-04-30)
参考文献数
26

気管支喘息児の家庭における空気清浄機の効果について検討を行った. 対象は, 国立小児病院アレルギー科に通院中の5~13歳の中等症以上の気管支喘息児17名で, これを空気清浄機にフィルターを装着した群12名と装着していない群5名の2群に分けて検討した. 第一製薬社製ベルフロースーパーを使用し, 観察期間・使用期間・観察期間の3つの期間に分けて, 臨床症状および呼吸機能の変化を朝, 昼, 夜に分けて評価した. 結果は, フィルター装着群では呼吸困難・疾・鼻水・睡眠障害に有意な改善が認められた (p<0.05). 喘息に関しては夜間に有意な改善が認められた (p<0.05). しかし, フィルター未装着群では改善はみられなかった. また, 呼吸機能に関しては有意な上昇は認められなかった.以上より, 空気清浄機は気管支喘息児の治療に有効な一手段であり, 症状改善に有用と思われた.
著者
宮本 学 岡部 公樹 吉川 知伸 金子 恵美 緒方 美佳 吉田 幸一 本村 知華子 小林 茂俊
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.213-223, 2023-08-20 (Released:2023-08-21)
参考文献数
26

我々は,災害医療従事者を対象に,災害時のアレルギー患者対応に関するパンフレットや相談窓口など既存のツールの評価,災害医療従事者のアンメットニーズを調査するためアンケート調査を行い,266名から回答を得た.アレルギーに関する情報を得る手段は,平時では電子媒体や講演会が,災害時にはスマートフォンアプリや紙媒体の要望が多かった.アレルギー関連webサイトなど既存ツールの認知度は約10~30%と高くなかった.COVID-19が災害時のアレルギー疾患対応に悪影響があると回答したのは66%であった.73%の災害医療従事者が,災害時アレルギー対応窓口の一本化を望んでいた.また,自助の啓発,患者情報を把握するためのツールを要望する意見も多数みられた.これらの結果から,災害医療従事者に向けたアレルギー疾患マニュアルの拡充を積極的に行う必要があると考えられた.
著者
石澤 きぬ子
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF PEDIATRIC ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.144-151, 1991-09-25 (Released:2010-04-30)
参考文献数
13

妊婦本人又は夫, 上の子にアレルギー疾患の既往を有する198例中1歳半から2歳まで追跡できた母子78組につき, 妊娠中および授乳中の食物の除去の有無と患児の臨床症状, 血清IgE値, 特異的IgG値 (卵, 牛乳, 大豆, ダニ) との相関を検討した. 実際の採血は妊娠6~7ヶ月時, 臍帯血, 生後は6ヶ月毎に反復採血した. またアンケート調査により妊娠中又は出産後の卵, 牛乳除去が母親の心理面に与える影響についても検討した.その結果, (1)喘鳴発症は妊娠早期除去群では16例中0例, 妊娠後期除去群では31例中10例に認められた. (2)アトピー性皮膚炎の発症と妊娠中の食物除去時期との間には喘鳴群ほど顕著な差はなかったが, 早期除去群で発症が少ない傾向があった. (3)アレルギー症状ないし疾患の発症と生後各時期における血清IgE値との関係については, 有症状例では血清IgE値はいずれの時期についても高値を示し, かつ母体血, 臍帯血のIgE値がすでに有意の高値を示した. (4)母乳栄養でしかも母親が牛乳を除去にしていた群では牛乳特異的IgG値は他の群にくらべ有意に低く, アレルギー発症はほとんど認められなかった. (5)妊娠中より卵, 牛乳を除去することに対し, 心理的ストレスのあった妊婦は少なく, 除去していた47例中42例が除去していてよかったと答えた.
著者
濱口 冴香 山本 貴和子 佐藤 未織 大海 なつき 隈元 麻里子 小川 えりか 野村 伊知郎 山本 康仁
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.132-137, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)
参考文献数
13

急性食物蛋白誘発胃腸炎(acute FPIES)の経口食物負荷試験(OFC)における,OFC施行時期,過去の症状の重症度や負荷量と,OFCでの誘発症状の重症度の関係については明らかでない.今回,生後1か月まで混合栄養で症状がなかったが,生後3か月時の普通ミルク再導入により軽症のacute FPIESを疑う症状を呈し,確定診断のために国際コンセンサスガイドラインに準拠した通常負荷量でOFCを施行したところ,意識障害やアシドーシスを伴う重症な症状を呈したacute FPIESの乳児例を経験したため報告する.乳児期,また最終エピソードからOFCまでの期間が短い場合は,ガイドラインに準拠した負荷量でも重症の誘発症状を生じる可能性があり,負荷量設定,緊急時対応の事前準備が,安全なOFC実施に重要である.Acute FPIESに対するOFCの方法はまだ標準化されておらず,今後のエビデンスの蓄積が必要である.
著者
佐野 英子 水野 友美 長尾 みづほ 松永 真由美 浜田 佳奈 高瀬 貴文 安田 泰明 星 みゆき 野上 和剛 藤澤 隆夫
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.138-149, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1

目的:アレルギー疾患児をもつ養育者のニーズをソーシャルネットワーキングサービスに投稿された質問から探索する.方法:Yahoo!知恵袋データ(国立情報学研究所提供)から養育者が小児のアレルギーについて尋ねたと想定される質問文を抽出,テキストマイニング手法で分析した.結果:全データ約269万件からキーワード検索と3名の研究者による直接レビューで707件を選択,形態素解析で語を抽出した.単純集計では皮膚,食事に関連する語が多く,多次元尺度構成法では,これらと呼吸器症状関連語が治療関連語,何らかの答えを求める語を取り囲む形で分布した.コード定義を行い分類すると,頻度は不安・疑問,病院受診のコードに続き,皮膚症状が多かった.コード間の共起では不安・疑問,病院受診に皮膚症状,アトピー,食事,環境,睡眠,家族関係が互いに関連していた.呼吸器関連コード群は互いに強く共起し,他コード群とは弱い共起であった.結語:SNSでの養育者ニーズは生活の諸側面につながっている皮膚の問題が大きい可能性がある.
著者
女川 裕司 武石 卓 西間 三馨
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF PEDIATRIC ALLERGY AND CLINICAL IMMUNOLOGY
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.151-157, 1989-12-25 (Released:2010-04-30)
参考文献数
24

運動刺激により蕁麻疹から呼吸困難, 意識消失などの強い全身症状を呈する運動誘発性アナフィラキシーの2例を報告した. 1例は, 13歳男児で, 他の1例は, 本邦では極めて稀である食物依存性の14歳女児であった。両症例とも従来の報告と同様に思春期に発症し, 血清IgEが高値で, 発症の背景にアトピー性素因が示唆されるなどの共通点が見られた.
著者
尾辻 健太 酒井 一徳
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.175-179, 2019 (Released:2019-06-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1

子持ちシシャモ (Mallotus villosus〔カラフトシシャモ, 別名 : カペリン [以下, シシャモ] 〕) 経口摂取によるアナフィラキシーを2例経験したので報告する. 2例とも食物アレルギーの既往はなく, シシャモ摂取歴は不明であった. 1例目は6歳男児. シシャモなど摂取後アナフィラキシーをきたした. シシャモの皮膚プリックテスト (SPT) の結果, 生では身は陰性で卵は強陽性, 加熱では身・卵とも陽性であった. 焼いたシシャモの食物経口負荷試験 (OFC) では, 身と卵のOFCいずれもアナフィラキシーをきたし, 卵ではアドレナリン筋注を要した. イクラ, タラコはともに特異的IgE陰性かつOFC陰性であった. 2例目は7歳男児. シシャモなど摂取後眼瞼腫脹あり. 加熱シシャモのSPTは身で陰性, 卵で弱陽性であった. 焼きシシャモOFCの結果, 身は陰性であったが, 卵はアナフィラキシーを認めた. イクラは自宅で症状なく摂取可能で, タラコOFCは陰性であった. 以上より, シシャモ卵独自のアレルゲンが存在する可能性があると考えられた.
著者
大瀧 悠嗣 北村 勝誠 松井 照明 高里 良宏 杉浦 至郎 伊藤 浩明
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.490-498, 2022-12-20 (Released:2022-12-20)
参考文献数
15
被引用文献数
2

目的日本の小児における木の実類アレルギーの増加が報告されているが,小児の救急受診患者の背景や誘発症状を検討したものはなく,当センターにおける状況を分析した.方法2016年2月~2021年10月に木の実類の即時型症状で救急外来を受診した29例(27名)について,原因食物,患者背景,誘発症状,治療を診療録から後方視的に検討した.結果原因はクルミ12例(10名),カシューナッツ12例,マカダミアナッツ3例,アーモンド1例,ペカンナッツ1例で,年齢中央値は3歳であった.15例がアナフィラキシー,うち5例はアナフィラキシーショックであった.13例がアドレナリン筋肉注射,うち1例がアドレナリン持続静脈注射を要した.11例が入院し,うち3例は集中治療室へ入院した.初発は22例で,そのうち14例が他の食物に対する食物アレルギーを有していた.結語木の実類アレルギーの救急受診患者は,年少児がアナフィラキシーで初発した事例が多かった.予期せぬ重篤事例を未然に防ぐため,何らかの医学的及び社会的対策が望まれる.
著者
西村 龍夫 寺口 正之 尾崎 由和 原田 佳明 松下 享
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.508-515, 2022-12-20 (Released:2022-12-20)
参考文献数
21
被引用文献数
1

目的:小児科外来を受診する母親に,離乳食での食物アレルギー(以下,FA)への不安と,それを増強する因子がないかについて調査を行った.方法:2020年3月から4月までの2か月間,後期乳児健診を目的に受診した乳児の母親を対象とし,離乳食でFA症状を経験したかを聞き,リッカートスケールを用いてその不安をどのように感じているのかのアンケート調査を行った.さらに,食物アレルギーと誤嚥,食中毒への不安を比較した.結果:36施設から533件の調査票を回収した.過去にFAの症状が出たことがあると答えたのは16.4%であった.FA症状の大部分は軽症であったが,部分的なじんましん症状でも不安スケールは有意に上昇し,食物制限も多かった(P<0.01).不安スケールは誤嚥がもっとも高く,続いて食中毒で,FAがもっとも低かった.結論:多くの母親のFAへの不安は高くなかったが,FA症状の経験は軽症でも離乳食への不安の上昇と制限につながっている.
著者
清水 美恵 今井 孝成 松本 勉 野々村 和男 神谷 太郎 岡田 祐樹 本多 愛子
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.499-507, 2022-12-20 (Released:2022-12-20)
参考文献数
29

【目的】心理的葛藤のさなかにある思春期アレルギー児が療養生活を送るうえでレジリエンス,すなわちダメージからの回復力は重要である.しかしアレルギー児のレジリエンスを測定する尺度はない.本研究では,思春期アレルギー児のレジリエンス尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検証する.【方法】対象は,協力医療施設に通院中の小4から中3のアレルギー児とした.調査は質問紙を用いて2021年9~11月に実施した.尺度原案を作成し,項目分析で得られた尺度項目に対する探索的因子分析,確認的因子分析を行った.【結果】621部を配布し,有効回答179名を分析対象とした.対象アレルギー疾患は,気管支喘息136名,食物アレルギー83名,アトピー性皮膚炎80名であった.思春期アレルギー児レジリエンス尺度は4因子(問題解決志向,探究志向,自然体志向,ネガティブ感情の共有)15項目で構成され,信頼性と妥当性が確認された.【考察】アレルギー児のレジリエンス尺度を開発した.移行支援など関係する研究で活用が期待される.
著者
伊藤 浩明
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.124-130, 2012 (Released:2012-05-31)
参考文献数
21

食物経口負荷試験(Oral food challenge, OFC)は,食物アレルギー診断のgold standardであり,アレルギー専門施設のみならず,広く全国の小児科で実施されている.OFCは,食物アレルギーの初期診断だけでなく,耐性獲得の診断にも重要な役割を果たす.最近では「必要最小限の除去」を目指すために,少量であっても安全に摂取可能なアレルゲン量を決定することを目的とするOFCも,専門施設を中心として行われることが増加してきた.OFCの標準的な方法についてはガイドラインも発行され,ほぼ確立してきたといえる.しかし,その結果に基づき,特に負荷試験陽性者に対して安全域を見込んで食事指導を進める方法については,今後の十分なエビデンス作りが求められている.
著者
大嶋 勇成
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.35-40, 2019 (Released:2019-03-31)
参考文献数
21

二重抗原曝露仮説が提唱されて以降, 食物アレルギーの発症機序として経皮感作が注目されている. 保湿剤により皮膚バリア機能を改善し, 食物アレルギーの発症を予防する試みが行われているが, アトピー性皮膚炎の発症を抑制しても, 食物アレルギーの発症を予防する効果は証明されていない. 食物アレルギー患者のすべてに, アトピー性皮膚炎の既往や皮膚バリア機能の異常を認めるわけでないことから経皮以外の感作経路の存在が示唆される. 花粉・食物アレルギー症候群では食物抗原と交差反応性をもつ花粉への感作は経気道的に生じていると考えられる. したがって, 経皮感作の予防のみでは食物アレルギーの発症を完全に防ぐことは困難と考えられる. 食物アレルギーの発症予防には, 経皮感作を修飾する因子, 経口・経気道感作の機序を明らかにする必要がある.