著者
河原 仁守 尾藤 祐子 會田 洋輔 橘木 由美子 中井 優美子
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.935-941, 2018-06-20 (Released:2018-06-20)
参考文献数
31

症例は11歳,女児.8歳頃より嘔吐を認め,10歳過ぎても食後の嘔吐が持続するため精査された.食道造影検査で造影剤の排泄遅延を認め,高解像度食道内圧検査で下部食道括約筋の積算弛緩圧が63.8 mmHgと高値を示し食道アカラシアと診断された.術前のEckardt scoreは6点であった.食道アカラシアに対する新しい治療方法で,成人領域では良好な治療成績を認めている経口内視鏡的筋層切開術(POEM)を施行した.食道体部後壁5時方向に粘膜下トンネルを作製し,次いで外縦筋は温存して,全長16 cmにわたり選択的に内輪筋の切開を行った.術後は速やかに自覚症状が消失し,Eckardt score 0点,積算弛緩圧17.7 mmHgと改善した.術後1か月間はPPIを投与した.術後3か月経過し,上部消化管内視鏡検査ではLos Angeles分類Aの軽度の食道炎を認めるが,逆流症状はなく2㎏の体重増加が得られ良好に経過している.
著者
小林 めぐみ 水野 大
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.270-274, 2016-04-20 (Released:2016-04-20)
参考文献数
19

幼児肝未分化胎児性肉腫に対し腫瘍全摘後,補助化学療法を施行し経過良好な症例について報告する.症例は3 歳の男児.発熱,嘔吐を主訴に来院し,右上腹部に小児頭大の腫瘤を触知した.α-fetoprotein(AFP)は正常範囲内であった.入院後も腫瘤は増大傾向を認め,腫瘍全摘出術の方針で肝部分切除術を行った.病理組織学診断は肝未分化胎児性肉腫で,術後補助化学療法を施行した.術後の画像検査ではCT・MRI・PET-CT のいずれも異常所見は認めなかった.近年,肝未分化胎児性肉腫の報告は散見されるようになり,その治療ならびに予後は飛躍的に向上しているが,特異的腫瘍マーカーや画像所見がなく,術後の評価法や治療法は確立されているとは言えない.本症例においても特異的所見はなく再発や転移の評価に苦慮しながら現在フォローを続けている.
著者
天江 新太郎 林 富
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.23-27, 2006-02-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1

【はじめに】本邦における小児期を過ぎた先天性食道閉鎖症(以下, 本症)症例の追跡調査に関する報告は少ない.本研究では術後16年以上経過した症例について追跡調査を行い, 消化器症状, 呼吸器症状, 社会的状況について検討した.【対象と方法】対象は1967年〜1989年に当科で根治術を行い, 生存し得た42例(男児26例, 女児16例)とした.本研究では郵送による調査と外来診療録から得られた16例(男性9例, 女性7例)についての情報を検討した.【結果】調査時年齢は平均22.9歳(16歳から31歳)であった.体格は男性症例の平均BMIは21.7であり1例以外は標準であった.女性症例の平均BMIは19.4であり痩せが3例で認められた.この3例では食事に伴う症状が認められた.消化器症状は「つかえ」など食事に関しての症状が6例(男性1例, 女性5例)で認められた.GERDは確診が3例, 疑診が2例であった.呼吸器症状は4例で認められた.うち2例は気管気管支軟化症例であり治療を継続中である.就学・就職状況については16例中7例が就学しており, 8例が就職していた.結婚については3例が既婚者であった.子供の有無については3例とも子供をもうけており, 子供たちは全て健常であった.【結語】本研究の結果からは小児期を過ぎた先天性食道閉鎖症症例の社会的な予後は, 就業・就職・結婚といった観点からは良好であると考えられた.しかし, 症例によっては本症に起因する消化器症状や呼吸器症状が小児期を過ぎても継続しており, 適切な経過観察と治療が必要であると考えられた.
著者
金田 聡 広田 雅行 内藤 万砂文
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.42-47, 2009-02-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
19

【目的】小児の腹部鈍的外傷の患者では,重症でも初期症状は軽度のことがあり,診断が困難な場合がある.小児腹部鈍的外傷症例の診察時に臓器損傷を見逃さないための注意点を明らかにすることを目的とした.【対象と方法】対象は,1999年から2007年までに経験した臓器損傷を伴う小児腹部鈍的外傷の6例である.これら症例において初診から確定診断に至るまでの臨床症状,血液検査,画像検査等の経過を検討した.【結果】6例の平均年齢は8.7歳,性別は男児5例,女児1例,損傷臓器は,膵損傷2例,脾・左腎損傷1例,空腸穿孔2例,十二指腸穿孔1例であった.初診時に確定診断が得られたのは2例で,脾・左腎損傷例と空腸穿孔の1例において,初診時CT所見より診断された.他の4例では,初診時に確定診断が得られず,膵損傷の2例は,初診時の症状は軽度腹痛のみであったが,高アミラーゼ血症を認めたため膵損傷が疑われて治療は開始したものの,確定診断が得られたのは翌日のCT所見によってであった.十二指腸損傷例でも,初診時の症状は軽度腹痛のみで,検査でも異常は認めず,診断がつかないまま保存療法にて経過観察をしていたが,5日後の2回目のCTにより確定診断が得られた.更に空腸損傷の1例でも,初診時の腹部症状は軽度で,検査でも異常を認めなかったが,その後に症状が急激に増悪し,約12時間後の再診時に診断が得られた.【結論】小児の腹部鈍的外傷の診察時には,常に臓器損傷を念頭に置くこと,血液検査,検尿,超音波検査あるいはCTをルーチン検査とすること,また経時的な観察が必要であり,その重要性を保護者に十分に説明すること等が極めて重要である.
著者
李 光鐘 猪股 裕紀洋 阿曽沼 克弘 岡島 英明 山本 栄和 白水 泰昌 塚本 千佳 吉井 大貴
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.946-950, 2010-10-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
13

症例は精神発達遅滞のない4歳男児.腹痛,上腹部膨満を主訴として来院した.腹部単純X線写真で胃内に高度のガス貯留と小腸のびまん性のガス貯留が認められた.精査では閉塞性病変は認められなかった.起床後腹部ガス貯留が著明に増加する一方で,夜間就寝すると軽快することから呑気症(空気嚥下症)と診断された.ファモチジン,大建中湯内服では症状不変で,持続的に胃内容を排出する目的で経鼻胃管を留置した.胃内容の排出促進を目的として塩酸イトプリド,クエン酸モサプリドの内服を開始したが1か月経過しても症状は軽快しなかった.また小児科的に精神的ストレスの関与が完全には否定されなかったため,抗不安薬のロフラゼプ酸エチル投与を行ったが症状の改善は認められなかった.治療開始2か月後に胃運動機能改善を目指し六君子湯投与を開始したところ2週間で上腹部膨満は著明に改善され,X線写真上でも上腹部消化管ガスは著減し2か月後に経鼻胃管を抜去しえた.本症例において六君子湯の有する胃排出促進作用のみならず胃適応性弛緩作用,胃電気活動における抗不整脈作が有効であったと考えられた.
著者
浮山 越史 伊藤 泰雄 韮澤 融司 渡辺 佳子 吉田 史子
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.783-788, 2005-10-20 (Released:2017-01-01)

急性腹症で発症した, 機能性子宮を有する膣欠損症の2症例(15歳, 14歳)を経験した.2症例とも, まれな下部膣欠損症であり, 子宮膣留血腫を認めた.膣前庭部からのドレナージは2症例とも不成功であったため, 再手術にて腹腔側から子宮膣留血腫のドレナージ術を要した.その後, 膣前庭粘膜圧伸法(Frank法)にて膣前庭部の粘膜を4.5cm, 3.7cmの長さに伸展, 延長して, それぞれ9カ月, 5カ月後に膣形成術を行った.術後はプロテーゼ留置による吻合部狭窄の予防が行われた.Frank法は根治術までに時間と本人, 家族の労力を要するが, 自然に近い状態の膣が形成される優れた治療法であり, 本症に対する第一選択と考える.
著者
梅田 聡 窪田 昭男 合田 太郎 田附 裕子 米田 光宏 川原 央好
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.259-262, 2015

外鼠径ヘルニア修復術後の子宮円靭帯血腫のために行った再手術の際に内性器を腹腔鏡下に観察し,内鼠径輪近傍で卵管の屈曲を認めた1 例を経験したので報告する.症例は1 歳女児.右外鼠径ヘルニアに対しMitchell-Banks 法を施行した.術後2 日目より創部の膨隆が出現し,術後8 日目の超音波検査で右鼠径部に腫瘤像を認め,血腫が疑われ再手術を行った.開創すると,遠位側ヘルニア囊内に子宮円靭帯の血腫を認めた.腹腔鏡で観察すると,卵管は内鼠径輪の近傍に鋭角に屈曲し癒着していた.腹腔鏡下に卵管の屈曲を解除後,ラパヘルクロージャー<sup>TM </sup>を用いて腹膜鞘状突起を再修復した.鼠径管を開放せず外鼠径輪の外で高位結紮を行うMitchell-Banks 法術後においても年少女児では卵管を巻き込む危険性があり,女児の外鼠径ヘルニア修復術の際には,年齢に応じたヘルニア囊内腔の十分な確認による高位結紮が肝要であると考えられた.
著者
大谷 俊樹 角田 晋 有井 滋樹 岩井 武尚
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.735-739, 2001-06-20 (Released:2017-01-01)
参考文献数
22

【目的】乳児痔瘻の原因は未だ明らかにされておらず, 保存的治療と外科的治療の優劣についても議論のあることろである.本研究は漢方薬のひとつである十全大補湯の乳児痔瘻に対する有用性について検討した.【方法】乳児痔瘻10例に対し, 十全大補湯1回量0.1&acd;0.15 g/kgを1日2回投与し, 痔瘻の治癒経過や再燃の有無などを観察した.【結果】ほとんどの症例において, 2週間以内に排膿の停止を確認した.また投薬中止後3例の再燃を認めたが, 薬の増量のみで対処可能であった.【結論】十全大補湯は乳児痔瘻の新しい治療戦略として, 今後乳児痔瘻の治療における第1選択となりえるものと思われた.
著者
藤代 準 堀 哲夫 金子 道夫 小室 広昭 楯川 幸弘 瓜田 泰久 工藤 寿美 星野 論子 神保 教広 坂元 直哉
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.226-230, 2011
参考文献数
13

直腸刺杭創は転落・転倒等により生じる稀な鈍的外傷であり,一般に深部の臓器損傷と体表創の程度が必ずしも一致しないため,受傷程度の評価が難しく,診断・治療に難渋することもある.われわれは腹膜翻転部の上下に2箇所の穿孔を生じた稀な直腸刺杭創の1例を経験したので報告する.症例は6歳女児で,ビニールプールで遊んでいた際水鉄砲の内筒が肛門に刺入した.出血が止まったので自宅で様子を見ていた.同日夜より腹痛・発熱を認めたため翌日前医受診,CT検査にて消化管穿孔と診断され,当科搬送となった.直腸刺杭創が原因と考え,同日緊急手術を施行した.腹膜翻転部直上の直腸前壁に2.5cmの穿孔を認め,穿孔部閉鎖,洗浄,人工肛門造設術を施行した.術後の直腸造影にて腹膜翻転部より肛門側に別の穿孔部を認めた.受傷後5か月で人工肛門閉鎖術を施行した.直腸刺杭創の治療の際には,術中に腹腔側から観察できない腹膜翻転部以下の下部直腸の精査が重要である.