著者
石原 浩
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.819-825, 1989

自動解析によって, 胎児の心拍数パターンを, 活動, 安静, 中間パターンに分類し, 同時に超音波断層法で観察, 記録した胎児呼吸様運動(以下FBMと略)を, この心拍数パターン別に分析し, 妊娠週数との関係を検討した. 対象は妊娠30~41週の単胎妊娠102例で, そのうちハイリスク妊娠は13例であった. その結果, 1) 各心拍数パターンの占める割合は, 5分間区間全595個中, 活動パターン226個(38.0%), 中間パターン158個(26.4%), 安静パターン212個(35.6%)であった. 活動パターンは妊娠32~33週で最も多く(52.7%), 以降は妊娠経過に伴い漸減傾向を示し, 安静パターンは32~33週で最も少なく(25.5%), 以降漸増傾向を示した. 2) 心拍数パターン別FBM陽性率は活動パターン60.6%, 中間パターン42.7%, 安静パターン23.1%であり, 活動パターンでは安静パターンに比して有意に大であった. 妊娠週数別に検討しても同様に活動パターンでは安静パターンに比して有意に大であった. 3) FBM持続時間は3~202秒の範囲にあり, 10~20秒の持続時間が最も多く, 持続時間の長いFBM は, 活動パターンよりも安静パターンで見られる傾向があった. 4) FBM陽性時間率は1.0~92.7%の範囲にあり, 妊娠週数および心拍数パターンとの一定の関連は認められなかった. 5) 心拍数パターン別瞬時FBM数では各週数間に有意差を認めないが, 瞬時FBM数変動は妊娠36週以降活動パターンと安静パターンとの間に有意差を認め, 安静パターンのFBMが活動パターンに比し, より規則的であった. 6) ハイリスク妊娠では安静パターンが52.3%を占め, FBM陽性率は活動パターン60・9%より安静パターン8.7%が有意に小であった.また, FBMの持続時間, 陽性時間率, 規則性と, 心拍数パターンとの間には一定の関連を認めなかった. 以上より, 妊娠36週以降には胎児心拍数パターンとFBMの規則性との関連が大となることが認められた.
著者
松山 敏剛 松隈 敬太 塚本 直樹 柏村 正道 柏村 賀子 木寺 義郎 岩坂 剛 井上 功 杉森 甫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.196-202, 1982-02-01

1973年より1980年までの8年間に,広汎性子宮全摘術を施行した396症例中,術後摘出標本の子宮頚部亜連続切片の病理組織検索で,初期浸潤癌,あるいは,それより軽度の病巣しか認めなかった症例62例を発見した.これらの症例は術前,浸潤癌と診断して(Ib期54例,IIb期8例)手術を行なったにもかかわらず,実際は初期浸潤より軽度の病巣しか無かったわけで,術前の生検診断の誤りと考えざるを得ない.そこで術前の生検標本を再検討した結果,生検標本を誤まって真の浸潤癌と診断した原因として,1.腺管内侵襲を深い浸潤と間違った.2.標本がtangentialに切れているために浸潤と間違った.の二大原因が考えられた.さらに,生検の小切片のみでは,浸潤癌であることは診断できても,それが初期浸潤であるか,真の浸潤であるかの鑑別は困難であることが多いことも判った.そこで,同時に行なった細胞診,コルポ診の診断を調べてみると,いずれか一方が真の浸潤癌を否定した症例は44.2%,両者共真の浸潤癌を否定した症例は37.2%であった.少なくとも,コルポ診,細胞診共に真の浸潤癌を否定し,生検のみ真の浸潤癌と診断した場合は,円錐切除診を行在い,over diagnosisを防ぐべきであったと考えられた.癌の診断における生検診断のover diagnosisの可能性については過去にあまり注目されていないが,前述した様な可能性を考慮に入れて,臨床医は生検診断を鵜呑みにせずに,細胞診,コルポ診,臨床所見を総合して,疑問があったら積極的に円錐切除診を行なう態度が必要であろう.
著者
朝比奈 俊彦 小林 隆夫 寺尾 俊彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.1168-1174, 1990-09-01
被引用文献数
1

目的:受精卵の着床や妊娠初期の接着現象に関しては, その機序は依然として不明な点が多くいまだ十分解明されているとはいえない. そこでわれわれは, 着床直後のマウス初期胚およびヒト初期妊娠着床部, さらに正常子宮内膜培養細胞における接着関与物質の局在を酵素抗体法を用いて検索し, 初期胚と子宮内膜との接着機構の解明を試みた. 方法:(1)ICR系雌マウスをPMS-hCGを用い過排卵処理し交配させ, 妊娠5日目に子宮を摘出しfibronectin (FN), laminin (LM), type IV collagen (C_<IV>), XIII因子subunit S (XIII_S)の染色を行った. (2)ヒト患者において手術的に摘出した卵管妊娠(7〜8w)および子宮筋腫合併妊娠(5w)の着床部で, FN, LM, C_<IV>, XIII因子subunit A (XIII_A, XIII_Sの染色を行った. (3)ヒト患者において, 手術的に摘出した筋腫子宮の正常内膜部分を無血清培地にて単層培養し, FN, XIII_A, XIII_Sの染色を行った. 染色はすべて酵素抗体間接法を用いた. 結果:(1)マウス初期胚着床部では, FNとXIII_Sがtrophoblast giant cellsに, C_<IV>は子宮内膜上皮細胞に陽性染色された. LMはdistal endodermとその基底膜に陽性染色された. (2)ヒト初期妊娠着床部ではC_<IV>がsyncytiotrophoblastの表面と絨毛間質部, および子宮又は卵管内膜間質部に, FNとXIII_Aが絨毛間質部, および子宮又は卵管内膜間質部に陽性染色された. (3)子宮内膜培養細胞においてはFNとXIII_Aが間質細胞に陽性染色された. 結語:(1)マウス初期胚着床時の接着現象において, FN, C_<IV>およびそれらの接着に架橋的に働くXIII 因子の関与が強く示唆された. (2)ヒト初期妊娠の接着機構においてもFN, C_<IV>, XIII因子の関与が強く示唆された. (3)さらにそのFNとXIII因子は, 子宮内膜間質細胞で産生されていることが判明した.
著者
青木 耕治 Yagami Yoshiaki
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.10, pp.1773-1780, 1982-10-01
被引用文献数
8

原因不明習慣性流産(習流)に対する疾患感受性遺伝子の関与の有無と,習流夫婦間の主要組織適合性の差異を検討する目的で,習流夫婦26組と,対照として2人以上の子供を有し流産既往のない健常夫婦45組と健康成人206名のHLA-A・B・DR座抗原(A座8種,B座21種,DR座10種)を検索し,更に習流婦人26名についてはHLA-A・B・C抗体とDR抗体をも検索した.その結果:(1)習流夫婦と健康成人のA・B・DR座抗原遺伝子頻度を比較すると,習流夫婦の妻は,A11に関して26.6%を示し,健康成人の8.6%に対し有意に高い傾向を示した.(2)習流夫婦と健常夫婦のHLA適合性を比較すると,DR座について,1つ以上共通抗原を持つ組が前者で84.6%,後者で24.4%であり,明らかな有意差をみた.又,DR座について,夫が陽性で妻が陰性というMajor不適合の全くない組は,前者で26.9%,後者で2.2%あり,有意差をみた.逆のMinor不適合については,有意差はなかつた.(3)抗体の検索では習流婦人1名にA・B・C抗体を認め,DR抗体は全例の習流婦人に陰性であつた.以上の結果から,免疫遺伝学的見地より,A11を持つ妻は流産になりやすい可能性があり,移植免疫学的見地より,夫婦間のDR座抗原適合性が免疫学的妊娠維持機構に破綻をもたらす可能性があるという事が示唆された.
著者
横田 明重
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.15-22, 1993-01-01
被引用文献数
1

ω3系多価不飽和脂肪酸(以下ω3系PUFAと略す)は必須脂肪酸として脳, 網膜, 精巣に多く存在し, その欠乏により種々の障害を引き起こすといわれている. ω3系PUFAが極端に少ないサフラワー油食によりω3系PUFA欠乏ラット(SA群)を作成し, 胎仔, 新生仔および離乳ラットの脳の脂肪酸組成と学習能力の関係について検討し, 以下の結果を得た. 1. SA群は, 脳のDHAがControl群(SO群)に比し減少した. 2. SA群ではSO群に比してARが低値であり学習能力の低下がみられた. 3. SA群に離乳時(生後21日)からControl食を摂取させたSAO-1群ではARは速やかにSO群と同等となつた. 4. 条件回避学習開始時(生後60日)にControl食に変更したSAO-2群では, SAO-1群に比して遅れて条件回避率が上昇した. 5. 条件回避学習終了後の脂肪酸分析では, SAO-1群, SAO-2群のDHA, C22: 5ω6はSO群のレベルまでほぼ回復した. すなわち, 母獣の摂取する食餌により胎仔の脳, 分娩後の母乳, 新生仔の脳の脂肪酸組成は影響を受け, さらに離乳ラットの脳の脂肪酸組成は直接摂取する食餌の影響を受けることがわかつた. また, 脳のDHAの比率に並行して学習能力が変化することがわかつた. 以上のことより, DHAの脳構成成分としての重要性, 妊娠中, 分娩後の母獣の摂取する食餌の中のω3系PUFAの重要性が示された. さらに, 新生児を管理する際に母乳栄養の合目的性, 母乳摂取不可能な場合のω3系PUFAの補充の必要性が示された.