著者
田中 達
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.231-234, 1965-03-01

新生児の生理的な尿の組成については, 現在迄いくつかの報告がみられるが, 未だに定説はなく, また我が国ではまだその報告もすくない. そこで私は主に生後10日目迄の, 新生児548例(未熟児104例を含む)の自然尿について, Ames社製の試験紙或は試験錠剤を使用して尿中の蛋白・糖・pH. アセト酢酸とアセトン・ビリルビン・フェニールケトン・赤血球を夫々検査し次の如き結果を得た. 蛋白尿は33.0%, 糖尿は99%, アセト酢酸或はアセトン尿は1.8%, ビリルビン尿は22.5%, フェニールケトン尿は10.5%, 赤血球尿は6.4%を夫々示し, また平均pHは5.9であった. これらは何れも生後1〜3日目に最も多く現れて, その後次第に減少し成熟児では生後11日目以降ではいづれの反応も陰性であった. しかし未熟児では生後11日目以降でも各反応について陽性をみたものがかなりあり, 特に生下時体重2,000g未満のものでは生後10日目以内でも成熟児に比して陽性を示す例が多く, また生後かなりの日数をすぎても未だに陽性を示したものがあった.
著者
井谷 嘉男 野田 恒夫 伊藤 公彦 安達 進 東條 俊二 新谷 雅史 大西 泰彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.1099-1106, 1997-12-01

乳癌術後 tamoxifen (TAM) 内服による内性器および血中性ホルモンへの影響を検討した. (1) TAM 内服73例(TAM 群)の婦人科受診理由を調査したところ, 月経異常, 性器出血, 帯下増量感など TAM との関連を疑わせた症例は33%(24/73)であった. (2) TAM 群73例と基礎疾患がなく TAM 群と年齢分布に差を認めない非内服例68例(対照群)で, 子宮膣部上皮細胞の成熟度を成熟指数(MI)および核濃縮指数(KPI)にて比較した. 閉経前では差は認めなかったが, 閉経後では TAM 群で有意に中層細胞は減少(p=0.002), 表層細胞は増加しており(p < 0.0001), KPI も上昇していた(p < 0.0001) (unpaired t test). (3) TAM 群閉経前12例と閉経後25例で血中 LH 値, FSH 値, エストラジオール(E_2)値, プロゲステロン(P)値を測定した. 閉経前では一定の傾向はみられなかった. 閉経後ではE_2値は閉経後正常範囲内に分布し, LH 値は48%(12/25)で, FSH 値では52%(13/25)で閉経期正常値の範囲に達せず低値であった. (4) TAM 群において上記各ホルモン値と MI, KPI間に相関は認めなかった(スピアマンの検定). (5) 閉経後 TAM 内服例において子宮内膜の増殖性病変を57%(12/21)に認めた. うち3例に子宮内膜癌が存在した. 以上より, TAM はエストロゲン(E)様効果を発現することがあり, その機序は TAM の内性器への直接作用と考えられた. 特に閉経後では TAM の E 様効果が顕在化, 持続しやすく, 子宮内膜増殖病変の危険因子となり得る. TAM 内服者の管理は, 子宮膣部上皮細胞の成熟度を算定し, TAM の内性器への影響を評価することが重要である. 子宮膣部上皮細胞の成熟度が上昇した閉経後の TAM 内服例では, 内膜細胞診と共に経膣超音波断層法などによる子宮内膜の肥厚の評価や, 内膜組織診による内膜病変のより正確な把握が必要である.
著者
棚田 省三
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.960-966, 1983-07-01

下垂体からのluteinizing hormone(LH)の分泌に関する視床下部の働きについては,主にratにおいて研究されているが,よりヒトに近いと思われる霊長類においては,あきらかではない.そこで,ニホンザルmacacas fuscatusにおいて視床下部諸核に電極を刺入,電気刺激を加え,血中LHの変化を調べた.その結果,(1)弓状核,腹内側核においては,250μA,500μAの電気刺激と共に血中LH値は上昇した.(2)室旁核,視索上核においては,250μA,500μAのいずれの刺激によっても血中LH量の変化は認められなかった.(3)視索前野において,血中LH量は内側核の250μAの刺激によっては変化しなかったが,500μAの刺激によっては上昇した.また外側核の250μA,500μAの刺激には,いずれも変化を認めなかった.(4)放出されたLHの血中からの半減期は35.4分,33.4分,48.4分,43.1分とヒトLHの血中よりの半減期に比べて,短かいものであった.以上の実験結果から,下垂体よりのLH分泌には,視床下部の弓状核,腹内側核が主に関与し,また視索前野内側核も関与しているが,弓状核,腹内側核とは異なることが朗らかとなった.
著者
藤田 喜久
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.21, no.12, pp.1377-1386, 1969-12-01

妊婦尿中に著増するestrogenは胎児副腎から分泌されるdehydroepiandrosterone(以下DHEAと略す)を材料として胎盤で主として産生される.このDHEAの胎児副腎からの分泌調節機序解明の為,生後数日間の新生児にACTH,HCG,dexamethasoneなどを負荷し,その前後の尿中DHEAの排泄量及びPorter-Silber chromogen(以下PSCと略す)排泄量をも測定し,比較検討した.DHEAの測定法についてはColasの方法にアルカリ洗浄による尿色素の除去及びisotope dilution法を導入改良検討してその精度を高めることが出来た.即ち本法による最低測定限界は5μg,回収率は80%であつた.薄層クロマト上のRf値及び硫酸発色による吸収spectrumの検定によりDHEAであると同定した.本実験結果から1)新生児の尿中DHEA及びPSC排泄量は出生後数日間は余り変化がなく,この時期では副腎胎児層の退縮はいまだ軽微であることが示唆された.2)ACTH投与群ではDHEA測定値は222μg/dayより939μg/day(P>0.06)に,PSCは224μg/dayより1451μg/day(P>0.02)といずれも著増な示し,dexamethasone投与群ではDHEAは279μg/dayより63μg/day(p>0.02)と著減し,PSCも270μg/dayに比し162μg/day(P>0.06)と減少した.これらのことから,胎児副腎の内分泌機能はACTHの調節下にあるものと思われ,HCGに関しては投与前後において両ステロイド共変化がみられなかつたことから,その調節因子としての意義を持たないことが示唆された.
著者
菊池 義公 大森 景文 木澤 功 喜多 恒和 宮内 宗徳 岩野 一郎 加藤 宏一
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.81-86, 1988-01-01

この研究は, ヒト卵巣癌移植ヌードマウスを用いてカルモデュリン拮抗剤(W-7およびW-5)との併用によつてシスプラチンの抗腫瘍効果を増強するべく行なわれた. シスプラチンとW-7またはW-5との組合せで治療されたヌードマウスの腫瘍発育はW-7単独, W-5単独またはシスプラチン単独で治療されたヌードマウスのそれに比べて有意に抑制された. シスプラチン単独投与は腫瘍移植ヌードマウスの脾細胞の本腫瘍標的細胞に対する障害活性を著しく阻害した. しかしながらシスプラチンによるこの阻害効果はW-7またはW-5との併用によつて除かれ得た. シスプラチン単独, W-7単独およびW-5単独投与群の間でその生存期間において有意差は見出されなかつた. シスプラチン投与に引き続いてW-7またW-5が投与された時, W-7またはW-5によるシスプラチンの抗腫瘍効果の有意な増強が, 腫瘍発育の抑制という点ばかりでなく生存期間の延長という点でも観察された.
著者
高橋 久寿 乾 泰延 三村 経夫 加藤 秀之 山野 修二 大野 義雄 竹内 悟 江崎 洋二郎 森 崇英
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.2163-2171, 1982-12-01

hMG-hCG療法時のovarian hyperstimulation syndrome(OHS)における血清estradiol(Ed),androstenedione(A)とtestosterone(T)の変動を検討し、特にandrogen測定の意義について以下の知見をえた.1)47例の無排卵症患者(無排卵周期症2例,第1度無月経23例,第2度無月経22例)に143周期の治療を行つたところ,軽度OHSは4例,中等度OHSは4例で排卵誘発成功例の25%を占めた.2)Edは卵胞成熟徴候に平行して増加し,排卵前のピーク値は排卵成功OHS非発症群(n=9)では514.7±194.3pg/ml(増加率14.7倍),軽度OHS群では1003.5±409.9pg/ml(増加率11.8倍),そして中等度OHSでは2374.3±1345.1pg/ml(増加率42.1倍)と著明に増加し,Edのピーク値とOHSの発症とその重症度とは相関し,8例のOHSのうち,6例のEdが1000pg/mlを越えたので,このEdレベルがOHS発症予知の一応の目安と考えられた.3)Aの変動は正常周期にはみられないようなピークがEdのピークとほぼ一致してみられた.すなわち,OHS非発症群では7.3±3.2ng/ml(増加率1.4倍),軽度OHS群では8.3±3.2ng/ml(増加率2.4倍),中等度OHS群では8.4±3.3ng/m1(増加率2.7倍)であり,OHSの重症度によって増加が著しく,Edの場合と同様の傾向を認めた.4)排卵成功例の治療前T値は正常排卵周期例に比べ有意(P<0.01)に高く,治療中のTの変化はhMG投与には殆ど反応せず,hCGに切換えてから急増した.すなわち,OHS非発症例(n=6)では治療前値の2.2倍,軽度OHS群(n=4)では2.2倍,中等度OHS群(n=4)では4.7倍とOHSの重症度によって増加率があがった。5)dexamethasone抑制hCG刺激試験において,hCG刺激によるTの増加率は正常排卵周期で30.3%,第1度無月経(n=7)で63.1%であるが,多嚢胞性卵巣疾患(n=8)では166.3%と異常に高いことが示された.以上の知見から、hMGとhCGの順次投与法において,hMG投与中にはAの,hCGに切換えたあとはTの一過性の上昇がみられ,その増加率はいずれもOHSの発症と相関していることが判明した.したがって,OHS発症予知の一手段として従来から用いられているEd測定のほかにA,Tの測定も意義あるものと考えられる.
著者
上野 雅清
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.18, no.10, pp.1207-1216,i-iii, 1966-10-01

抗生物質の普及は感染症の治療を容易にした反面, 耐性菌の出現, 菌交代症, 弱毒性菌の病原性化等のわずらわしい現象を招来する結果となり, 弱毒性菌としてあまりかえりみられなかつたD群レンサ球菌の分野においても, 本菌を起因菌とする胆嚢炎, 心内膜炎, 虫垂炎等の発生が注目され始め, その報告もみられる. 私はたまたま本菌による重症産褥敗血症を経験して以来, 産婦人科領域において単に腟内常在菌としか考えられていなかつたD群レンサ球菌においてもこのような現像が想定され得ると考え, 従来本菌研究の障害とされた亜型が多く出現する生物学的同定法をさけ, 血清学的同定法を導入することにより本研究を行つた. その結果, 本菌を単独起因菌とする尿路感染症の存在を確認し, 菌数10^4/mlをもつて本菌の成立とみなした. また, 尿路感染症の他, 産褥熱, 流産後子宮内感染症において検出される本菌の菌型を対照群と比較検討した結果, 感染群の尿, 血中, 子宮, 腟より分離されたVI, VII, VIII型に起炎性との関連を認めるとともに, 本菌による上記感染症の感染経路を追及して直腸, 大腿内側上部, 外陰部, 腟, 子宮, 尿路における感染経路を知り得た. さらに本菌の毒力を観察する目的からマウスを用いて実験を行い, 病巣由来株は非病巣由来株よりも毒力が強く, 副腎皮質ホルモン投与により死亡率の上昇, 死亡までの日数の短縮がみられ, 組織学的にも心, 肺, 肝, 腎に小膿瘍の形成を認め, グラム染色により本菌の存在を確認した. 本菌の抗生物質に対する感受性は他群のレンサ球菌と異なり, 耐性株が多く, 多重耐性株も多数認められ, 抗生物質を使用した感染症の直腸, 腟における細菌叢の変動を観察した例においてもProteus等と同様に, 菌交代症の菌種として出現する傾向がうかがわれた. 以上の実験成績から, 単に常在菌と考えられていたD群レンサ球菌といえども, 抗生物質, 副腎皮質ホルモン投与等の外的, 内的因子の負荷に伴う共存細菌の急激な変動, 本菌の増殖, 菌型の変動, 耐性株の増加, 耐性度の上昇, 網状内皮系統の貧菌力の低下等, 菌側, 宿主側の諸条件が加わるならば, 異所に侵入して病原性を発揮することも可能であると考えられ, 日常臨床においてこれ等諸条件を観察し, その予防に留意しなければならない.
著者
占部 武
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.707-716, 1979-06-01

Mepivacaine(Carbocain R)の高感度,高精度な血中濃度測定法を新たに開発し,持続腰部硬膜外麻酔による無痛分娩例と手術例において,初回注入,追加注入後の経時的血中濃度推移,局麻中毒発症時の血中濃厚,分娩時の母体静脈血および膀帯動静脈血濃度を測定し以下の成績を得た.1)mepivacaine 100mg注入後の母体静脈血中濃度の推移は,5分後には母体血中へ出現しO.97±0.07μg/ml(M±SE)となり,15分後に1.38±0・13μ9/mlのピーク値を示し,以後,漸減して60分後では,0・96土0.09μg/mlであった.2) 追加注入 (60分後,同量) 後の血中濃度の推移は,初回注入と同様にピークは15分後に認められ2.23±0.18μg/mlの値を示し,60分後は1.78±0.27μg/mlとなり,累積的濃度変動が認められた.3) mepivacaine 200mgを注入した手術例においては,2分後には血中濃度は0.63±0.02μg/mlとなり,15分後に3.02土0.30μg/mlの最高値を示し,以後,緩除に減少し60分後の値は2.10±0.15μg/mlであった.4) 無痛分娩例においては局麻中毒の症状は認められなかった.手術例においてminor intoxicationを認めた6例の平均血中濃度は5.17μg/mlであった.5) 注入量別にみた分娩時の母体静脈血,臍帯静脈血,臍帯動脈血中濃度は,いずれも400mg注入までは注入量に応じて直線的に上昇し,それぞれ一次回帰式で示された.6) 胎盤通過性については,注入量に関係なく,臍帯静脈血中濃度と母体静脈血中濃度の比は0.53土0.02と一定の値をとり,母児間に平衡関係が認められた.なお,臍帯動脈血中濃度と母体静脈血中濃度の比も同様に注入量に無関係に0.41土0.02と一定の値を示していた.
著者
立津 元正
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.16, no.5, pp.337-344, 1964-05-01

人胎盤が絨毛間腔を通じて母児間の栄養物質代謝に重要な役割を果していることは知られた事実であるが, 胎児蛋白・核酸代謝の亢進に伴なう絨毛組織の機能についての酵素学的な研究は極めて少ない. 私は人胎盤絨毛組織における蛋白及び核酸代謝に与かるアンモニアの生成とその処理機構を究明せんとして, 酵素学的に次の実験を行なった. 1. 人胎盤絨毛組織におけるアデニール酸及びアデノシン脱アミノ酵素 : 人胎盤絨毛組織にはアデニール酸, アデノシンをそれぞれ脱アミノ化する酵素が存在することを認め, その至適pHはそれぞれ5.9〜6.3と7.0であることを知った. 2. 人胎盤絨毛組織におけるグルタミナーゼ : 人胎盤絨毛組織にはグルタミンの脱アミド反応の存在を認めることができなかった. 3. 人胎盤絨毛組織におけるグルタミン合成酵素 : 人胎盤絨毛組織にはグルタミン合成酵素が存在すること, 及びその至適PHが7.0であり, 本反応にはATPの添加が必要とされ, Mg&nhpar;の添加が必要とされ, F-の添加によって本反応の阻害されることを知った. 4. 人胎盤絨毛組織におけるグルタミン酸脱水素酵素二人胎盤絨毛組織にはグルタミン酸脱水素反応の逆反応が存在し, その至適pHは7.0〜7.5であることを知った. 5. 人胎盤絨毛組織における尿素生成反応 : 人胎盤絨毛組織にはアルギナーゼが存在し, その至適pHは9.5であること, 及びMn&nhpar;の添加によって著しく賦活されることを知った. 又, 人胎盤絨毛組織においてはオルニチン及びチトルリンとアンモニアからの尿素生成は微量ではあるが認めた. 従って人胎盤におけるアンモニアの生成にはVilleeらの証明したグルタミン酸のほかにアデニール酸及びアデノシンが関与し, アンモニアの処理に向ってグルタミン合成反応やグルタミン酸脱水素反応の逆反応などが行なわれていることを知った.
著者
天野 完 西島 正博 新井 正夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.37, no.11, pp.2291-2299, 1985-11-01
被引用文献数
2

局麻剤が胎児心拍数・新生児neurobehaviorに及ぼす影響を妊娠正期正常分娩例を対象として検討し以下の結果を得た. 1.bupivacaine 35mg硬膜外投与後60分までに12.1%(12/99block)にominous patternが出現し2block後が母体低血圧に,5block後がuterine hyperactivityに起因する変化と思われた. 2.lidocaine200mg旁頚管内投与後30分までに27.7%(13/47block)にominous patternが出現したが母体低血圧に起因する変化はなく4block後30.8%の変化はuterine hyperactivityが誘因と思われた. 3.局麻剤投与後の胎児心拍数変化はいずれも一過性で変化のみられた群とみられない群で臍帯動脈血ガス分析で有意差はみられなかつた. 4.Amiel-Tison et al.のNACS(Neurologic Adaptive Capacity Scoring)による新生児neurobehaviorの評価では生後3〜6hで低スコアの傾向がみられるものの生後4日目には局麻剤投与群と無麻酔群での差はみられなかつた. bupivacaineの臍帯静脈血レベルは154.4±24.5ng/ml(UV/MV0.26)で生後4日自には71%の例で10ng/ml以下であつた. 妊娠正期正常例では局麻剤投与によりhypoxic stressが負荷され得るが一過性であり臨床的には何ら問題はない.しかしながらIUGRなどfetal reserve低下例では慎重な産科麻酔法の選択,より厳重な胎児管理が必要になるものと思われる.
著者
友田 明
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.12, pp.2123-2131, 1979-12-01

Gonadotropin(PMSとHCG)による幼若ラットの排卵誘発におよぼすreserpineの影響およびreserPineによる排卵誘発の抑制効果に対するcatecholamineの影響を検討し,以下の成績をえた.1)PMS投与42〜27時間前に投与されたreserpineは排卵率および排卵卵子数に影響を与えなかった.2)PMS投与24〜1時間前に投与されたreseopineは排卵率および排卵卵子数をともに抑制Lた.3)HCG投与47〜39時間前に投与されたreserpineは1)と同じく抑制効果を示さなかった.4)HCG投与37〜1時間前に投与されたresepineは排卵率および排卵卵子数をともに著明に抑制した.5)HCG 投与1〜3時間後および6〜8時間後に投与されたreserpine は排卵率および排卵卵子数を完全に抑制した. しかし,HCG 投与4〜5時間後に投与されたreserpineの抑制効果は軽度であった.6) 以上のごとくreserpine による排卵誘発率および卵子数において,ともに抑制効果の回復現象が認められた.以上の実験結果から,reserpine には卵巣レベルで排卵を直接抑制する作用があり,その作用にはcatecholamine が関与している可能性が示唆された.
著者
平井 康夫 郭 宗正 清水 敬生 中山 一武 手島 英雄 陳 瑞東 浜田 哲郎 藤本 郁野 山内 一弘 荷見 勝彦 増淵 一正 佐野 裕作 平田 守男
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.40, no.11, pp.1707-1710, 1988-11-01

1971年より1985年の間に, 癌研婦人科で初回治療として開腹手術を施行した子宮体癌連続235症例について, 術中腹水細胞診を施行し, 進行期別に再発や生存率との関連を検討し以下の成績を得た. 1. 腹水細胞診の陽性率は, 全体で18.7% (235例中44例), I期 14.5% (173例中25例), II期 21.2% (33例中7例), III期 32.0% (25例中8例)であつた. 2. I期体癌の腹水細胞診陽性例のうち, 術中に腹膜転移を認めないのに腹水細胞診が陽性であつた20例の5年および10年累積生存率は, それぞれ94.7%, 94.7%であり, 陰性例の92.7%, 90.9%とくらべ, 有意差を認めなかつた. また, この期の再発率は, 細胞診陽性例で12.0%, 陰性例で9.5%であり, 両者に有意差を認めなかつた. 3. II期およびIII期体癌のうち, 術中に腹膜転移を認めないのに腹水細胞診が陽性であつた9例の生存率と, 同期の腹水細胞陰性例47例の生存率との間にも有意差を認めなかつた. 4. 子宮体癌においては, 術中に肉眼的腹膜転移を認めない場合は, 術中腹水への悪性細胞の出現の有無は, 予後と関連しなかつた.
著者
金山 尚裕 シャイナロン リンバラパス 成瀬 寛夫 山本 信博 藤城 卓 前原 佳代子 森田 泰嗣 寺尾 俊彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.477-482, 1992-04-01
被引用文献数
4

切迫早産において頚管に浸潤した顆粒球から放出される顆粒球エラスターゼ (エラスターゼ) が頚管の熟化, 開大に密接に関係することが知られている。エラスターゼのインヒビターであるウリナスタチン (UTI) の腟剤が切迫早産の治療に有効であるかを検討した。43例の切迫早産を4群に分類し次の治療法を行った。A群 (N=12): Ritodorine点滴, B群 (N=9): UTI (1,000U) 頚管内投与, C群 (N=14): Ritodorine点滴+UTI頚管内投与, D群 (N=8): Ritodorine点滴+UTI頚管内投与+全身抗生物質療法。これら4群のエラスターゼ値は治療前A群0.76±0.40μg/ml (Mean±SD), B群0.93±0.43μg/ml, C群0.85±0.40μg/ml, D群0.90±0.41μg/mlで各群間で有意差を認めなかった。治療開始後 (3日目から7日目) のエラスターゼ値はA群0.75±0.47μg/ml, B 群0.27±0.35μg/ml, C群0.27±0.33μg/ml, D群0.30±0.19μg/mlとなりB, C, D群は著明に下降した。子宮収縮の改善度を検討すると, 子宮収縮が30分に1回以下になるまでの時間は, A群65±66分, B群375±336分, C群70±64分, D群58±53分で, B群が有意 (p<0.05) に時間を要した。4日以上子宮収縮抑制が得られた時点で上記治療を中止した。その後の子宮収縮の再発率はA群58%, B群11%, C群14%, D群13%でA群の再発率が高かった。以上よりUTI腟剤の頚管内投与は頚管内エラスターゼ量を低下させ子宮収縮抑制の補助療法として極めて有用であることが判明した。
著者
矢吹 朗彦 杉浦 幸一 加藤 俊明 桑原 惣隆 木村 晋亮
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.29, no.8, pp.913-921, 1977-08-01

1974年から1975年にかけ,石川県七尾市を中心とした無脳症の集中的多発的発生を見,能登地方をはじめ北陸三県に於ける本症の疫学的調査と病因的ウイルス感染の存在について検討し,次の結果を得た. (1) 1975年迄の過去5年間で,石川県を中心とした北陸三県に於いて78例の無脳症が確認された. (2) 本症の男女比 : 41対35(75例調査,双胎1例),初産経産婦比 : 26対31(57例調査)であつた. (3) 妊娠初期経過(24例調査) : 無症状3,悪阻9,感冒及び発熱9,性器出血8及び糖尿病2例あり,16例が投薬を受けた. (4) 無脳症娩出後,次の妊娠分娩を追跡し得た12例は正常児分娩9,反復無脳児分娩3であつた. (5) その他の事項として,羊水過多症11(27例中),双胎無脳症1,母体疾患として糖尿病2,心疾患1,精神分裂症1例があつた. (6) 1975年迄の過去5年間の北陸三県に於ける無脳症罹患率は,平均0.08〜0.4%であり,最高は七尾市能登病院の0.4%で,その発生には地域的集中傾向がうかがわれた. (7) 年次的には1974-1975年に多発傾向を見,しかも1974年に妊娠初期を経過したものが多数を占めた.年次的最高罹患率は,能登病院の1974年に於ける0.6%であつた, (8) 10症例の無脳症及びその両親の血清22検体について,ウイルスHI抗体価11項目とCF抗体価20項目について検査し,抗サイトメガロウイルス抗体を19検体に,抗コクサッキーBウィルス4及び5型抗体を,夫々21及び20検体に証明した. (9) 結論として,無脳症の発生病因は,まず遺伝的因子の存在(又は欠除)が考えられ,さらにそれを誘発する要因として,サイトメガロウイルス及びコクサッキーBウイルスの重複感染があり得ると推論された.
著者
岡田 雄一 一戸 喜兵衛 馬渕 義也 横田 栄夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.600-606, 1979-05-01
被引用文献数
2

排卵やホルモン産生にあずかる卵巣の機能廃絶は,閉経の到来によって象徴されるが,この卵巣機能の寿命を支配する因子を求めるにあたり,明治11年より大正11年までに和歌山県で出生した2,943名の閉経婦人について統計的観察を行った.(1)巷間,初潮発来が早ければ閉経が遅れるとか,逆に早くなる,などといった俗説が横行しているが,この点を明確とすべく初潮および閉経の両輪が明らかな婦人について検討した.しかし初潮の遅速と閉経齢のそれとの問には相関性がみとめられなかった.(2)妊娠期から授乳期間を通じほぼ2年近く生理的に排卵を休止するものはまれではないが,この妊娠から授乳までの期間の多寡が閉経齢に影響しないか検討した.しかし分娩0回の未産婦から9〜10回の多産婦まで,閉経齢の遅速には有意の差はみられなかった.(3)片側卵巣を摘除された婦人では,遺残卵巣は以後2個分の過剰排卵の場となる.20歳から30歳前半で片側卵巣を摘除された婦人の閉経齢を調査したが,これらの婦人は同時代の一般婦人のそれとなんら変わらぬ閉経齢分布を持つことが立証された.以上より,卵巣機能の寿命の決定因子は,排卵の回数の多寡による卵子消耗という単純な観点からは,捉え難いことが示唆された.