著者
小林 浩
出版者
社団法人 日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.1051-1055, 2007-04-01

卵巣子宮内膜症性嚢胞から0.5〜1.0%の頻度で悪性化をきたすことが推定されている.45歳以上で6cm以上の腫瘍径を有する症例がハイリスクであると考えられ(4cmでも癌化の報告はあるが),卵巣子宮内膜症性嚢胞から癌化するまでは約5年の歳月を有する.閉経前の患者は長年(1〜15年)経過して徐々にチョコレート嚢胞が増大し悪性化をきたすのに対して,閉経後の患者は比較的短期間(1〜3年)で悪性転化をする可能性が示唆された.閉経期に増大するチョコレート嚢胞は悪性化を見逃さないように各種画像診断により評価すべきであると思われる.したがって,「閉経すればチョコレート嚢胞は治る」と患者に説明することは注意を要する.臨床的には,チョコレート嚢胞が悪性化する前には月経困難症等の症状が消失することが多い.病気が治癒したのではなく悪性化をたどっていると考える.また,エコーでは内部構造が黒くみえてくると要注意である.
著者
BERDUO Francisco HAYATA Takashi KAWASHIMA Yoshiro
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.42, no.12, pp.1697-1701, 1990-12-01

日常臨床上, 子宮内膜症を有する不妊症患者に遭遇する機会は多い. われわれの既往妊娠・分娩歴からみた子宮内膜症統計によると, ことに外性子宮内膜症においてその妊孕性は低い(59%). そこで, 子宮内膜症の根絶が不妊婦人に福音をもたらすとの観点から, 子宮内膜症の発生病理の解明を図らんとした. 著者らは以前, 内性子宮内膜症を代表する子宮腺筋症に着目し, その異所性内膜腺管上皮の電顕像を得, 所見を正所性子宮内膜 (増殖期) および高分化型子宮内膜腺癌の電顕所見と比較検討した. その際, 子宮内膜症が類腫瘍性増殖の可能性を有していることが示された. 今回, 外性子宮内膜症の代表として, 不妊症と関連の深い卵巣チョコレート嚢胞内腔面を構成する上皮細胞を電顕的に検討した. その結果, 異所性子宮内膜を有する子宮腺筋症と, 卵巣チョコレート嚢胞の主役を成す腺管ないしは嚢胞内腔上皮は, 電顕的に異なることが示された. このことは, 子宮腺筋症における正所性子宮内膜基底層の連続進展説を併せ考えても, 卵巣チョコレート嚢胞の発生病理は, 子宮腺筋症のそれとは異なることが示された. また, 後者の低い妊孕率からも, 卵巣チョコレート嚢胞を代表とする外性子宮内膜症には, 不妊症臨床上, 格別の配慮が望まれる.
著者
菊山 逸夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.572-580, 1978-06-01

糖代謝が胎児新生児の発育にどのように関連しているか知る目的で,妊婦静脈(M.V),分娩時母体股動脈(M.A),〓帯静脈(U.N),新生児静脈より採血した赤血球の解糖系酵素(G-6-PDH, PK, F-6-PK)活性を,ultraviolet法により測定し次の結果をえた. 1) 妊娠各月数における酵素活性の変化に一定の傾向はみられず,正常婦人のそれとも差はなかつた. 2) 酵素活性の母児相関 G-6-PDH活性:r=0.609, F-6-PK活性:r=0.792, PK活性:r=0.548で,これらの相関はすべて有意であつた. 3) 出生体重とG-6-PDH活性 満期産児では体重の重いものほど高い活性をしめした.しかし早産未熟児では低体重にもかかわらず,巨大児と同程度の高活性であつた. 4) 分娩時間とG-6-PDH活性について,M.Aでは15時間を越えると低値をしめすものが多く,予定帝王切開群では経腟分娩群に比べ低値をしめした(P<0.05). U・Vでは時間による変化はみられず,分娩様式においても差はなかつた. 5) Embden-Meyerhof pathwayとP.M.SのratioをF-6-PK/G-6-PDHで表わすと,M.A=11.0, U.V=5.5で,胎児のP.M.S優位が証明された. 6) 新生児の各酵素活性に男女差はなかつた.G-6-PDH活性はU.Vに比べ日令7日で30%の低下がみられた.F-6-PK, PKでは日令変化はなかつた. 7) 特発性高ビリルビン血症をおこした新生児で,光線療法をした児に活性変化はなかつたが,ACTH投与児ではG-6-PDH活性の低下をみた(P<0.05). 以上よりP.M.Sは胎児体重と密接な関係があると推察された.また母と児の酵素活性が相関していることから,母体のP.M.Sを活発にすれば胎児体重を増加せしめうるのではないかと考える.
著者
茂呂 信高 長塚 正晃 藤原 紹生 白土 なほ子 小塚 和人 奥山 大輔 千葉 博 齋藤 裕 矢内原 巧
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.333-339, 1998-06-01
被引用文献数
1

近年, 退行性骨粗鬆症を予防するには性成熟期における骨量をより高めることが重要と考えられている.今回, 超音波骨密度測定装置を用いて思春期女子の踵骨骨密度を測定し, さらに骨代謝パラメーターとして血中Intact Osteocalcin(OC)値, 尿中, Deoxypyridinoline(DPYR)値および初経発来との関係について検討した.[方法]対象は健康な6歳から15歳の女子295名である.骨密度測定は, 超音波伝播速度(S0S), 超音波減衰係数(BUA), Stiffness(ST)を測定した.血中OC値はオステオカルシンキット(ヤマサ), 尿中DPYR値はPYRILINKS-D Assay(METRA Biosystems Inc.)を用いて測定した.[成績]1)SOS値は6歳よりその変動は軽微であるが初経発来後は有意な上昇がみられた.BUA値は9歳より漸増, 初経発来後13歳までその上昇は顕著であり, 初経発来群は未発来群に比し有意に上昇した.ST値はほぼBUA値と同様の傾向を示した.また初経発来後のSOS, BUA, ST値の変化についてはその後3年後に変化が顕著であった.2)血中OC値は6歳から11歳にかけてやや上昇するもその後下降する一方, 尿中DPYR値は11歳より13歳にかけて著減しBUA値と有意な負の相関を示した.OC/DPYR比の推移をみると初経発来により明らかな高値を示した.[結論]BUA値は主に骨の緻密度を, SOS値は骨の硬度を表わすとされている.今回初経発来前後の思春期女子の骨密度の推移を超音波により検討したところ, SOS, BUA値は異なった推移を示したことから, 思春期には骨質の変化が生じており, これらは初経発来によりさらに大きく変化することが示された.またOC/DPYR比は初経発来以後明らかな高値を示しており, 思春期の骨密度の増加と初経発来が関連することが示唆された.
著者
沢住 和秀
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.987-995, 1981-07-01

ガードリング型外測陣痛変換器背面に800gの重錘を乗せ, 腹壁圧着を一定にして, 子宮収縮指数を用いて子宮収縮を定量化し, NSTとOCTを行なつた.妊娠中の子宮収縮指数は分娩前4週で増加し, 分娩前にふたたび増加した.また初摩婦の方が経産婦よりも大きた子宮収縮指数を示した.OCT時の胎児心拍数図所見は分娩時の所見と同様のものが多かつた.0CTはNSTよりも分娩時fetal distfessを予測するのに有用であるが, 分娩時にはOCT陽性, 疑陽性例はもちろん, 陰性例にも分娩監視をおこたつてはならない.OCTの最適負荷は子宮収縮指数で65〜70min・g/cm^2と思われる.高くても100min・g/cm^2以下におさえた方がよい.OCT施行中にfetal distressを示した場合はすぐに中止すべきである. OCT陽性例ではOCTによりLTV減少傾向がみられた.
著者
蔵本 博行 上坊 敏子 新井 正夫
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.191-200, 1977-02-01

当院腫瘍外来では,昭和46年7月26日の開院以来,満3年にて登録数1,000名となつたので,これを集計し統計的考察を加えた. 1) 実登録患者977名中,30〜50歳が69.5%を占めた. 2) 悪性腫瘍患者は147名,15%と高率である.子宮頚癌は128例で,悪性腫瘍の86.4%を占めたが,C.I.S.とIa期はわずか1/3であつた.一方異形成上皮は全登録者中10.8%であつた.その他転移性癌が9例発見されている. 3) 癌患者の年代別罹患率は26〜40歳で10%以下,40〜55歳で約15%,61歳以上では50%を越える.疾患別平均年令は高度異形成上皮38.6歳,C.I.S.39.8歳,Ia期44.5歳,Ib期以上57.0歳であつた. 4) 癌患者の主訴は不正出血と血性帯下が55.9%と最多で,逆に無症状で癌検診希望は19.5%と低い. 5) 細胞診結果は陰性76.9%,疑陽性10.6%,陽性12.5%である.頚癌中偽陰性はなく,偽陽性は0.2%であつた.胃癌からの転移3例を診断している. 6) コルポ診異常を呈した頻度は正常上皮の10%(偽陽性),扁平上皮化生の50%,各異形成上皮の70%強,CISの90.9%,Ia期の89.5%,Ib期以上では97.5%である.L, F, G,の関与する頻度は異形成上皮では,軽度67.6%,中等度68.0%,高度75.0%で,またCIS 78.4%,Ia期84.2%となる.AUは単独の時40%は真ビラン,L, F, G,と合併する場合は約70%は悪性であつた. 7) CIS, Ia期とも各90%はコルポ診と細胞診との併用で診断し得ており,異形成上皮ではコルポ診の重要度が高い. 8) 狙い組織診の結果,L, F, GとAUの悪性率はそれぞれ30.9%,24.2%,26.9%,43.6%である. 9) 術前診断の正診率では,高度異形成の33.3%,CISの22.2%,Ia期の20%はそれぞれ1ランク低く診断され,初期浸潤疑性は75%がIa期であつた.
著者
森山 郁子 平岡 克忠 藤田 正之 飯岡 秀晃 一條 元彦 加納 晴三郎
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.2149-2154, 1982-12-01

現在,食品添加物は335種におよび,当然妊婦の摂取も不可避であるため次世代への安全性が調査されている.今回はその一環として,過酸化水素について,一般に食品の脱色剤または殺菌保存に汎用されているために,妊娠時摂取による胎児.新生児発育に与える影響及び,混合食品中の栄養素の変性をもたらす可能性を明らかにした.実験方法はwistar系妊娠ラットを用い膣栓確認を妊娠0日とした.急性毒性試験は非妊ラットに経口的に10,1,0.1%各濃度を2ml/kg,連続5日間投与した.臨界期投与は,粉末飼料に10,2,0.1,0.02%の割合で混合し摂取させた.胎児・新生児の影響は,妊娠20日目胎児摘出後体重と各臓器重量,外表所見を検討した.骨格所見はWilson法,内臓所見はDawson法により判定した.混合飼料中の残存過酸化水素量は,0.1NのKMnO_4の消費量から測定した.1)急性毒性試験は3濃度とも死亡例はないが,10%群の体重減少が著明であった.2)胎児発育は,10%投与群が3.73g±0.39(対照群4.07g±0.25)に低体重の傾向が著明であり,生存率は85%(対照群98%)であった.内臓所見は出血が高濃度群に20%,骨格所見は高濃度群に20%の形成不全を認めた.3)新生児の影響は,生後4週間の生存率でみると10%,2%,0.1%,0.02%群はそれぞれ0%,81.2%,84.3%,87.1%(対照群93.4%)であり,影響は生後にまで及んだ.4)混合試料の残存H_2O_2は24時間後に1/10に低下し,72時間後は,分解され消失した.急性毒性試験で死亡を認めないのは体内カタラーゼによる急速な分解作用によるが,胎児・新生児発育の影響は,過酸化水素が飼料中の栄養素を破壊し蛋白質,含水炭素,脂肪の変性と被酸化性ビタミンの不括化の結果,摂取栄養素の不均衡によると考えられる.
著者
柳沼 〓 泉 陸一 長阪 恒樹 安井 洋 新居 隆 川端 正清 細川 仁 八木 義仁 藤盛 亮寿 須藤 裕悦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.207-214, 1981-02-01

正常妊娠を経過した71例の妊婦の妊娠38週から42週の間の分娩時に, 膀帯静脈血を採取し, その血清中の成長ホルモンとプロラクチンを夫々に特異的なRIAにより測定して, 次の諾結果を得た.この期間中その成長ホルモンおよびプロラクチンレベルはほぼ一定である.これらのホルモンレベルは分娩時間の長短に関係なくほぼ一定である.成長ホルモンレベルは, 分娩時刻に関係なく, 一日を通してほぼ一定である.プロラクチンレベルには, (2〜4)時に最高値を示し, (6〜8)時に最低値となり, (14〜16)時から(22〜24)時の間はほぼ一定であるという目内周期性が認められる.これらの事実は, 妊娠末期においては, 胎児血中成長ホルモンレベルは, ほぼ一定であり, 陣痛, 分娩のようなストレスに影響されないことを示唆する. 一方妊娠末期において, 胎児プロラクチンレベルはまた, ほぼ一定であるが, 目内周期性変動があり, これは陣痛・分娩というストレスにより影響されないことが示唆される.そして膀帯血中ブロラクチンレベルを比較する時には, この周期性を考慮することが重要であることを示す.
著者
本山 悌一
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.33, no.8, pp.1197-1204, 1981-08-01

ヒト卵巣癌由来の培養細胞, KuramochiとCKSの2株のin vitroにおける形態学的および生化学的待性を明らかにし, 次いでMitomycin Cに対する感受性の定量的な解析を試みた.2株は, いずれも典型的な上皮様配列を示した.未分化癌由来のKuramochi株は, 細胞表面に微絨毛を持ち, 比較的発達した接着装置を有するが, 分泌穎粒や分泌空胞は認められなかつた.染色体は50にモードを有する高2倍体であつた.集団倍加時間は約26時間であつた.漿液性撃胞康癌由来のCKS株は, 分泌空胞を有し, 徴絨毛も認められるが, 発達した接着装置は認められなかつた.染色体は37にモードを有する低2倍体であつた.集団倍加持問は約34時間であつた.2株ともAFP, HCG, CEAなどの生化学的マーカーは有しなかつた.Mitomycin C2時間処理の90%致死量値は, Kuramochi株では0.42μg/ml, CKS株では1.13μg/mlであり, Kuramchi株の方がMitomycin Cに対して感受性が高かつた.しかし, 対照として用いた胃印環細胞癌由来のKATO-III株に比べると2株ともはるかに感受性が低く, 卵巣癌がMitomycin Cに対して低抗性であることが示唆された.
著者
星 和彦 星合 昊 斉藤 晃 桃野 耕太郎 京野 広一 対木 章 鈴木 雅洲
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.35, no.12, pp.2300-2304, 1983-12-01
被引用文献数
2

体外受精・胚移植時に採取されたヒト卵子を成熱度の高いと思われる順に卵子の外観と付着している卵丘細胞の状態から5型に分類した(GradeI〜V)。この卵子のGradeと体外受精における受精蜆初期発生状態との関連性を検討して以下のような成績を得た.胚移植時2〜8細胞期と正常に発育した卵子の割合は,GradeI〜IIの卵子では76%で,III〜Vの場合の22%に比べ明らかに高率であり,われわれの作成した分類法は成熟度をよく反映していた.GradeI〜II卵子の採取率は自然LHサージ後約26時間で64%,HCG注射後約36時間では88%であり,採卵時期として上記の設定時問は適切と思われた。また得られた卵子のGradeと卵胞直径・卵胞液量との間に相関はなかった。