著者
岡田 ゆみ
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.2_73-2_79, 2006-06-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究は,断酒会に通う長期断酒中のアルコール依存症者が,どのように断酒への意識を築いているのかを明らかにすることを目的とした。対象は,5年以上断酒している6人とし,参加観察と面接調査を行い質的帰納的に分析した。 分析の結果,長期断酒体験で築かれた断酒への意識には,10のサブカテゴリーを含む3つのカテゴリー『定めた決まりで酒を断つ』『断酒を絶えず誓う』『断酒によって生まれる新たな意識』が抽出された。3つのカテゴリーは,仲間や家族など周囲の存在が背景にある中で,それぞれが相互に影響し合いながら繰り返される意識であった。また,長期断酒者が『定めた決まりで酒を断つ』意識の中で,必ずしも飲酒の危機に結び付いていない不安定な感情にも,あらかめじ定めておいた行動を早くとりながら断酒生活を維持していた事については,看護職者がアルコール依存症者の断酒を理解し,必要な支援を検討する上で示唆を得たといえる。
著者
田中 聡美 布施 淳子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20211025145, (Released:2022-03-25)
参考文献数
32

目的:病院に勤務している看護師の職務に対する幸福感に影響を及ぼす要因について調査し,リテンションマネジメントに関する示唆を得ることを目的とした。方法:看護師41名に対して自記式質問紙調査を,13名に対しては半構造化面接を実施しデータを収集しテキストマイニング分析を行った。結果:職務に対して幸福と回答した看護師は,患者から感謝されることで自分のしていることに心理的報酬を得ながら自信を持ち,家族や患者との社会的な人間関係を築きながら就業継続のモチベーションを高めていた。職務に対して不幸と回答した看護師の認識は,幸福に関する記述数の少ない外部変数を主要因とせず,上司の部下に対する態度や言動が関連していることが示唆された。結論:今後は,日本の看護師に焦点をあてつつ,幸福感に影響を及ぼす要因の構成要素に対して量的研究による信頼性妥当性の検証,実証調査が一層求められる。
著者
佐藤 美紀子 百田 武司
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20210908154, (Released:2022-06-06)
参考文献数
88

目的:脳卒中後のアパシーに関する研究の動向,実態,予防・改善が期待できる介入方法を明らかにした。方法:PubMed,医学中央雑誌から抽出した75文献を分類,要約,記述した。結果:内容は「レビュー」9件,「発症メカニズム」14件,「治療」14件,「評価スケール」7件,「実態」12件,「関連要因」15件,「メタアナリシス」2件,「介入研究」2件に分類された。近年,質の高い研究が行われつつあったが,実態と介入方法に関する科学的根拠は十分に構築されていなかった。アパシー発症率は4割弱,発症には「脳卒中発症回数」「うつ」「認知機能障害」が関連した。脳病変部位,脳卒中病型,年齢,脳卒中発症後の時間,臨床的アウトカムの重症度との関連については知見が一致していなかった。予防・改善が期待できる介入方法として,脳卒中再発予防,認知行動療法,問題解決プロセスの促進,行動活性化が見出された。結論:実態解明,介入方法の確立が求められる。
著者
大西 みさ 足立 はるゑ 中村 小百合
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1_83-1_89, 2004-04-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
50

本研究の目的は,糖尿病患者の指尖のSMBG穿刺痛を軽減する為に考案した氷冷法について,血糖自己測定法(SMBG)としての有効性と妥当性を検討することである。氷冷法とは,冷蔵庫で保管した2℃氷水に指を15又は20秒間浸して穿刺する指尖採血法である。対象は,A病院の糖尿病患者50名と健常人(医療スタッフ)20名であり,従来法と氷冷法を比較し,以下の結果を得た。1)氷冷法は冷却作用から痛覚が消失し従来法よりも糖尿病患者(p<0.01),健常人(p<0.001)共に痛み閾値が上昇した。2)氷冷法は一定の血液量が確保でき,従来法と同様に血糖値の誤差がほとんどなく,SMBGの妥当性に問題はなかった。このことから,氷冷法は指尖の穿刺痛が軽減できる新しいSMBG方法であり,穿刺痛による負担を軽減できることから糖尿病患者のQOL向上に貢献できる可能性が示唆された。
著者
岩﨑 みすず 水野 恵理子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.4_101-4_109, 2009-09-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
25

統合失調症患者の地域生活において家族の支援は重要であり,今後,高齢化する親に代わってきょうだいの存在が注目される。本研究では,統合失調症患者のきょうだいの体験を明らかにすることと,支援の方向性への示唆を得ることを目的として,きょうだいへの半構成的面接を思いと対応に注目して分析した。 長い経過を経ても,病気と患者の受け入れに対する葛藤を抱えてアンビバレントな心的態度が認められ,患者のきょうだいであることを不名誉に感じることが,他者に配慮する姿勢につながっていると考えられた。しかし,患者を抱えた負担感を持ちながらも,患者のニーズとともに,自身のニーズの充足に対処しており,体験をとおして自分の存在や生き方に新たな価値観を見出していた。きょうだいが抱えるアンビバレンスの理解と,きょうだいのニーズを的確に把握して,医療や社会資源とのつながりが保てるように支援していく必要性が示唆された。
著者
茅原 路代 國方 弘子 岡本 亜紀 渡邉 久美 折山 早苗
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1_91-1_97, 2009-04-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
31

本研究は,デイケアに通所し地域で生活する統合失調症患者83名を対象に,居場所感とQOLの2変数の関連を明らかにすることを目的とした横断研究である。調査項目は,日本語版WHOQOL-26,精神障害者の居場所感尺度(3下位尺度からなる2次因子モデル),個人特性で構成した。想定した居場所感とQOLの因果関係モデルを共分散構造分析を用いて検討した結果,適合度指標は統計学的な許容水準を満たし,モデルはデータに適合した。居場所感が大きいことは,より良いQOLであることが明らかになり,その寄与率は44%であった。このことから,在宅生活をする統合失調症患者がより良いQOLを獲得するためには,彼らの居場所感を高める支援が有効であることが示唆された。
著者
菅原 阿部 裕美 森 千鶴
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:02859262)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.11-22, 2011-09-20
参考文献数
41

本研究は,統合失調症者の病識のレベルを高める看護介入をするために,統合失調症者の病識に影響を与える関連要因を明らかにすることを目的とした。<br> 統合失調症者を対象者として病識評価尺度(SAI-J),服薬態度,HLC,病気・服薬に対する知識,病気・服薬に対する体験,精神症状,治療内容,主治医からのインフォームド・コンセント,自己効力感について調査した。このほかに半構造化面接を実施し,分析の結果,病気の認識,服薬経験,感情,受け止めなどが抽出された。各尺度の合計点とカテゴリについて共分散構造分析を行い,病識のパスモデルを作成した。「病的体験の客観視」がSAI-J,服薬体験に影響を与えており,服薬に関する感情が生じて服薬態度尺度の合計点に影響を与えていた。<br> このことから,病的体験を客観視できるようにかかわり,服薬体験の表出を促すことが病識のレベルを高める看護であると考えられた。
著者
後藤 千佳 木村 紀美 米内山 千賀子 近藤 久美子 福島 松郎
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1_95-1_100, 1985-04-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
8

術後に発症する円形脱毛症,頭部の褥瘡(alopecia)については,全身麻酔後に認められる小合併症のひとつとして,1950年頃から注目され始めた。今回,術後のalopeciaの原因のひとつであろうと推察されている手術中の圧迫状態を,頭部の体圧の面から検討するため,それを測定した。その結果,次のような結論を得た。1. 5種類の枕のうち,後頭部の体圧を最も低下させたのは,弘大式麻酔枕で平均27.6mmHgとなった。2. 心・大血管手術群のうち5例に術後膨張がみられ,麻酔時間,人工心肺使用時間が長く,中枢温と末梢温の較差が大で,後頭部皮膚温も低かった。3. 理想的な枕のない現在,30分から2時間おきに,頭の位置を変えることが適当な処置と思われる。
著者
濱田 真由美
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.5_749-5_761, 2022-01-20 (Released:2022-01-20)
参考文献数
33

目的:日本国内全国紙版の看護系学術誌に発表された論文から「母乳育児」を構築している言説を探求する。方法:92文献について言説分析を行った。結果:主要な言説として規範性と不確実性が示された。規範性には,母乳育児が社会にとっても母子にとっても優れた栄養法であるとする【良いもの】,母乳育児と「良い母親」を結合する【母親の規範】,母乳育児推進を医療者の義務とする【専門家の規範】が含まれた。一方,不確実性には,母乳育児が母親を破綻させかねない【リスク】,母乳育児の成否や支援方法を裏付ける根拠の【曖昧さ】が含まれた。なかでも,【母親の規範】【専門家の規範】【リスク】は5割以上の頻度で出現した。結論:医療者は母乳育児に付随する母親への偏った見方がないか内省するとともに,母乳育児の不確実性と対峙し,「母乳か人工乳か」の単純な二項対立を乗り越えて授乳支援の知を開発していく必要があると考えられた。
著者
大江 勤子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.5_791-5_799, 2022-01-20 (Released:2022-01-20)
参考文献数
25

目的:専門学校生の終末期看護実習における感情労働および支援の実態と,専門学校生の共感性やストレス対処能力(Sence of Coherence:以下SOC)と感情労働との関連を明らかにし,終末期看護実習指導の示唆を得る。方法:終末期看護実習終了直後の看護専門学校3年生に,質問紙調査を実施した。結果:感情労働総点は96.2±12.7(n=81),感情労働と共感性の関連では,感情労働の「総点」「ケアの表現」「探索的理解」には多次元共感の「視点取得」が選定され,感情労働の「深層適応」「探索的理解」には,多次元共感の「個人的苦悩」が選定された。感情労働とSOCの関連では,感情労働の「総点」「表出抑制」は,SOCの「把握可能感」が負の要因と選定され,「表層適応」はSOCの「処理可能感」が負の要因と選定された。結論:終末期看護実習で専門学校生は多くの感情労働を行っており,感情労働と共感性は正の関連,SOCとは負の関連が認められた。
著者
加藤 まり 門間 晶子 山口 知香枝
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.2_163-2_175, 2020-06-20 (Released:2020-06-20)
参考文献数
34

本研究は,知的障害を伴わないASDがある母親が経験している子育てを,母親の視点から明らかにすることを目的とし,研究協力者6名に半構造化面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。その結果,母親の子育ては,ASDとの診断を受けておらず子どもが乳幼児の頃は【“世間並み”との隔たりにもがき,我が子より自分のことで精一杯】であった。しかし,【自らの診断を揺れながら受け入れ,折り合うことを獲得する】ことで,〈我が子と自分のありのままを尊ぶ〉子育てへと転換した。そして,我が子やASDの人々が世の中に受け入れられるよう【ASDと付き合いながら親子で自分らしく生き,社会に発信しようとする】に至っていた。ASDの母親への子育て支援は,母親のペースや子育ての具体的な見通しを大切にし,自らのユニークさや自分らしい子どもとの関係の結び方に気づけるような関わり方が求められている。
著者
辻 守栄
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20210512137, (Released:2022-01-12)
参考文献数
34

目的:三次救急医療施設における人工呼吸器を装着した意思の疎通が困難な患者へのICU看護師の関わりを明らかにすること。方法:ICU看護師6名に参与観察と半構成的面接を行い質的記述的に分析した。結果:ICU看護師の関わりとして【患者を非人間化しないよう患者が辿る経過や入院前の生活を想像し,人としての尊厳と日常を守りながら命を保証する】,【医療機器を患者の身体の一部と捉えトラブルがないよう管理し,医療処置の最中でも患者のメッセージを掴み取る】,【自らの身体感覚を通して重症患者のわずかな変化を読み取る】,【自分の身に置き換えて考え,患者にとって安心・安楽となるようケアをする】など7つのカテゴリーが抽出された。結論:ICU看護師は反応がない患者を非人間化することを危惧し,患者への関心を寄せ患者の辿る経過や入院前の生活を想像しケアすることが,人として尊重する関わりとなり看護の基盤になると考える。
著者
新田 真弓 安部 陽子 佐々木 美喜 千葉 邦子 髙田 由紀子 辻田 幸子 古谷 麻実子 鶴田 惠子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20210421133, (Released:2022-01-07)
参考文献数
36

目的:病院に勤務する女性看護職の妊娠継続を困難に感じた体験を明らかにする。方法: 平成27年〜29年度日本学術振興科学研究費補助金(基盤研究(C)15K11569)「病院看護職の個人および職場の特性と妊娠・出産に関する階層モデル」第1段階の面接調査で収集したデータの2次分析を行なった。結果:7名の語りから,【妊娠前と同じように働くことを自分に課してしまう】【業務の中で母児ともに危険にさらされる】【切迫早産の不安を抱えながら,子宮収縮抑制剤内服の副作用に耐えて働く】【妊娠による体調変化を相談しても,これまで通りの働き方が求められる】【上司の言動で,働き続けることがつらくなる】のテーマが抽出された。結論:看護職者は周囲に迷惑を考慮し妊娠前と同様に業務を遂行しようとしていた。一方で診療報酬による制限や人材不足により妊婦の負担軽減が難しい状況があることも示唆された。