著者
小川 佳宏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.138, no.5, pp.178-181, 2011 (Released:2011-11-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

微生物感染に代表される急性炎症と同様に,肥満やがんなどの慢性疾患の病態に炎症性サイトカインや免疫細胞が関与することは良く知られているが,これらの疾患における持続的な炎症反応(慢性炎症)の実体には不明の点が多い.慢性炎症の分子機構は,急性炎症とは質的に全く異なっており,単なる急性炎症の繰り返しや持続化では説明できない.慢性炎症では,長期にわたるストレス応答により各臓器を特徴付ける実質細胞とその隙間に存在する間質細胞の相互作用が遷延化し,本来可逆的であるはずの適応反応の破綻により不可逆な「組織リモデリング」を生じて臓器の機能不全や種々の疾患をもたらす.最近では,ストレスを受けた実質細胞より放出される内因性リガンドとマクロファージなどの間質細胞に発現する病原体センサーの相互作用により誘導される慢性炎症として「自然炎症(homeostatic inflammation)」の概念も提唱されている.たとえば,肥満の脂肪組織では,実質細胞である脂肪細胞より脂肪分解により放出される飽和脂肪酸が間質細胞であるマクロファージに発現する病原体センサーTLR4(Toll-like receptor 4)を活性化して炎症反応が持続化するが(脂肪組織リモデリング),これは自然炎症のプロトタイプと考えることができる.自然炎症の分子機構の解明は肥満の発症・進展の理解と新しい診断・治療戦略の開発の手掛かりになると考えられる.
著者
江頭 伸昭 川尻 雄大 大石 了三
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.5, pp.275-279, 2010 (Released:2010-11-10)
参考文献数
53
被引用文献数
1

近年,がん化学療法の有用性が高まってきたが,タキサン系抗がん剤であるパクリタキセルや白金系抗がん剤であるオキサリプラチンは,末梢神経障害を高頻度で発現し,身体的苦痛から患者の生活の質(Quality of Life: QOL)を著しく低下させるだけでなく,がん治療の変更や中止を余儀なくさせることから,臨床上大きな問題となっている.無作為化二重盲検臨床試験において,オキサリプラチンの末梢神経障害に対しては,カルシウム/マグネシウム静脈内投与,グルタチオンおよびキサリプロデンの有用性が報告されているが,いろいろな理由により臨床現場ではほとんど用いられておらず,パクリタキセルの末梢神経障害に対しては明らかに有用な効果を示す薬物はない.抗がん剤による末梢神経障害動物モデルでは,パクリタキセルは坐骨神経の変性に伴い機械的アロディニアならびに低温知覚異常を発現する.オキサリプラチンは急性期より低温知覚異常を,その後遅発的に機械的アロディニアを発現するが,前者はオキサレート基で後者は白金を含む部分の化合物で発現される.今後は,末梢神経障害の発現機序を明らかにして,予防策や治療法の確立には発現機序に基づいた取り組みが重要である.
著者
小友 進
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.119, no.3, pp.167-174, 2002-03-01
参考文献数
59
被引用文献数
4 24

毛髪の長さと太さは主に毛包サイクルの成長期毛包の期間の長さで決まる.成長期はVEGF,FGF-5S,IGF-1,KGF等の細胞成長因子で維持されている.しかし体内時計によって設定された時が満ちれば,FGF-5,thrombospondin,あるいは何らかの未同定の因子により成長期は終了し,毛母細胞にアポトーシスが誘導され退行期へと移行する.男性型脱毛症は遺伝的背景の下に男性ホルモンによって,より早期に成長期が終了する事によっておこる毛包の矮小化である.ミノキシジルの発毛効果はsulfonylurea receptor(SUR)を作動させ,(2)血管平滑筋ATP感受性Kチャネル開放による毛組織血流改善,(3)毛乳頭細胞からのVEGFなど細胞成長因子の産生促進,(4)ミトコンドリアATP感受性Kチャネル開放による毛母細胞アポトーシス抑制,のいずれかを誘起し,成長期期間を延長して,矮小化毛包を改善することによると推察される.<br>
著者
田熊 一敞 片岡 駿介 吾郷 由希夫 松田 敏夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.4, pp.180-183, 2009 (Released:2009-10-14)
参考文献数
35
被引用文献数
1 2

「細胞の自殺プログラム」として見いだされたアポトーシスは,胎生期における器官形成や各器官での新陳代謝に伴う細胞死のみならず,虚血性病変や悪性腫瘍などでの細胞死においても関与することが示され,生理的あるいは病態的いずれの細胞死においても重要な役割を果たすことが明らかとなってきた.中枢神経系においても,アルツハイマー病およびパーキンソン病などの神経脱落疾患においてアポトーシスの関与が見いだされた.このような背景のもと,種々の疾患において,アポトーシスの発現制御機構の解明を通した新たな治療法開発へのアプローチが,国内外ともに最近の研究の潮流となりつつある.本稿では,アルツハイマー病におけるアポトーシスについて,アミロイドβペプチドによるミトコンドリア障害を中心に最近の研究の進展を紹介する.
著者
服部 尚樹 北川 香織 中山 靖久 稲垣 千代子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.5, pp.326-332, 2008 (Released:2008-05-14)
参考文献数
60
被引用文献数
1

アミロイドβタンパク(Aβ)はアミロイド前駆タンパク(APP)からβ-およびγ-セクレターゼによってペプチド分解されて生成され,Aβオリゴマーとなって神経細胞毒性を生じる.細胞外のAβ沈着に先立って細胞内に主にAβ1-42が蓄積し,神経細胞傷害をきたす.細胞内Aβの起源として,細胞内産生よりも細胞外に分泌されたAβが細胞内に取り込まれる経路が優位であると考えられている.細胞外Aβによる神経細胞毒性機構としてNMDA受容体の細胞内取り込み増加によるシナプス機能障害やグリア細胞の活性化が報告されている.一方,細胞内Aβによる神経細胞毒性機構としてこれまでに,1)ユビキチン依存性タンパク分解の抑制,2)シナプス機能障害,3)過リン酸化タウタンパクの増加,4)カルシウム仮説,5)ミトコンドリア傷害とフリーラジカルの増加等が示されてきた.我々は,Aβによる神経細胞傷害の新たな原因としてホスファチジルイノシトール-4-一キナーゼ(PI4K)阻害作用を見出した.アルツハイマー病脳ではPI4K活性が約50%に低下しており,ホスファチジルイノシトール(PI)やホスファチジルイノシトール一リン酸(PIP)のレベルも低下している.塩素イオンポンプ(Cl-ポンプ)はその活性発現にPI4Pを必要とする事から,AβによるPI4K活性抑制に伴うPI4Pレベルの低下がCl-ポンプ活性を抑制し,神経細胞傷害をきたすかを検討した.病態生理濃度のAβ(1~10 nM)は,ラット脳細胞膜分画中のII型PI4K活性を阻害し,細胞膜のPIPレベルを低下させた.初代培養ラット海馬神経細胞にAβ1-40,Aβ1-42,Aβ25-35を投与すると,神経毒性の強さに平行して細胞内塩素イオン濃度[Cl-]iが上昇し,グルタミン酸興奮毒性が増強された.この機構に,神経細胞[Cl-]iの増加によるII型ホスファチジルイノシチド依存性キナーゼ(PDK2)活性低下とそれに伴うリン酸化Aktレベルの低下が考えられた.今後,Aβの新たな標的であるPI4Kを作用点とするAβ標的拮抗薬の開発が期待される.
著者
李 昌一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.6, pp.281-286, 2014 (Released:2014-12-10)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1

生体分子の酸化,とくに生体膜の脂質過酸化反応による損傷,タンパク質および核酸の変性の原因となる活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)・フリーラジカルによる酸化ストレス(oxidative stress)は糖尿病,動脈硬化,高血圧症などの生活習慣病だけではなく,脳梗塞,認知症に代表される神経変性疾患メカニズムの原因として知られている.ROS による酸化ストレスが原因とされている疾患は抗酸化システムの能力が減弱し,消去できないROSの産生量増加による酸化作用が強くなるバランスが崩れた状態である.この酸化ストレスは様々な疾患の原因となり,とくに血管病であり,生活習慣病である動脈硬化,高血圧症,糖尿病を惹き起こす.同様に,生活習慣病の一つでもある歯周病の発症メカニズムに酸化ストレスが関与していると言われている.全身疾患と歯周病との新しい相関概念としてペリオドンタルメディスン(periodontal medicine)という考えが米国から提示された.ペリオドンタルメディスンは全身疾患が歯周病に影響を及ぼすという従来の概念のみならず,歯周病が全身の健康状態に強い影響を与えるという二方向性の有用な情報を蓄積する新しい歯周病の疾患概念である.歯周病に対するヒトやラットモデルの抗炎症作用を中心とした様々な抗酸化物質による治療的効果が報告されており,歯周病の主要な要因として酸化ストレスが関与していることが考えられる.しかしながら,臨床の現場あるいは,感染症であるとともに血管病あるいは酸化ストレスが惹き起こす炎症による疾患としての歯周病が認知されているとは言いがたい.今後,様々な実験モデル,抗酸化物質を用いた臨床応用や新しい歯周病検査開発の試みなどの研究が続けられ,歯周病の酸化ストレス病因論としてのメカニズム解明を続ける必要がある.
著者
馬場 義裕
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.5, pp.202-206, 2011 (Released:2011-05-10)
参考文献数
16

カルシウムイオン(Ca2+)は細胞内シグナル伝達における主要なセカンドメッセンジャーであり,様々な免疫細胞の生理機能に重要な役割を果たす.細胞質内Ca2+濃度は厳密に制御され低濃度に維持されているが,外来抗原刺激により細胞質内Ca2+濃度の上昇が引き起こされる.このCa2+レベルの上昇は主に2つの経路から供給され,1つは細胞内Ca2+貯蔵庫である小胞体からの放出,もう1つは,細胞外からのCa2+流入である.免疫細胞の場合,Ca2+流入は小胞体ストアのCa2+レベルの減弱が引き金となって誘導されるストア作動性カルシウム流入(store-operated calcium entry: SOCE)機構によってなされる.SOCEの活性化メカニズムは長らく謎であったが,近年の小胞体Ca2+センサーSTIM1およびCa2+チャネルOrai1の同定により,SOCEの分子基盤ならびに生理機能に関する研究は飛躍的に進展した.STIM1は小胞体内Ca2+減少を感知すると,小胞体と細胞膜の近接領域でクラスターを形成し,Orai1を活性化することによりSOCEを発動させる.筆者らはSOCEの肥満細胞における生理的役割を明らかにするために,STIM1欠損マウスを樹立し,肥満細胞の機能を検証した.その結果,STIM1欠損肥満細胞は抗原刺激によるSOCEの障害がみられ,これに起因する脱顆粒ならびにサイトカイン産生の抑制が認められた.さらに個体レベルでのアナフィラキシー反応もSTIM1依存的であることが明らかになった.さらに,筆者らはB細胞特異的STIM1/STIM2欠損マウスを作製し,未だ不明であったB細胞のカルシウム流入の生理的意義の解明にアプローチした.本稿では,我々が明らかにしたSOCE活性化メカニズムと肥満細胞およびB細胞における生理的役割に関する知見を紹介する.
著者
中川 秀彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.5, pp.294-298, 2016 (Released:2016-05-13)
参考文献数
16

活性イオウ種は,近年注目されるタンパク質修飾因子あるいは生体シグナル因子の1つである.実験的に非常に扱いにくく,一部はガス状の分子であることから,実験系中や生体内でこれらの化学種を放出する化合物(供与剤,ドナー)が用いられることが多い.光化学反応により目的の化学種を生成する化合物を「ケージド化合物」と称するが,活性イオウ種のケージド化合物は,時間・場所を制御して投与することが可能であるため,生体内でメディエーターとしての作用を研究する上で有用である.ケージド硫化水素化合物の研究はまだ発展途上であるが,2つのグループが先行して研究を行っており,1つは,光解除性保護基が脱保護され,その後,加水分解を受けることで遊離の硫化水素を発生する.2つめの化合物は,2個の光解除性保護基が同時に脱保護されることで直接硫化水素が遊離する化合物である.それぞれの化合物に特徴があり,後者の化合物は細胞応用も可能であることが示されている.
著者
箕越 靖彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.4, pp.172-176, 2011 (Released:2011-04-11)
参考文献数
21

AMPキナーゼ(AMP-activated protein kinase: AMPK)は,酵母から植物,哺乳動物に至るほとんどの真核細胞に発現するセリン・スレオニンキナーゼである.AMPKは,細胞内エネルギーレベルの低下(AMP/ATP比の上昇)およびAMPKKによるリン酸化によって活性化し,代謝,イオンチャネル活性,遺伝子発現を変化させてATPレベルを回復させる.このことからAMPKは, “metabolic sensor” または “ fuel gauge” と呼ばれている.また,近年の研究により,AMPKは,メトホルミンなどの糖尿病治療薬,運動,レプチンやアディポネクチンなどのホルモン,自律神経によって活性化して,糖・脂質代謝を調節することが明らかとなった.さらに,視床下部AMPKが摂食を調節することも示された.AMPKは,様々なイオンチャネル活性を制御するとともに,遺伝子発現を調節する.従って,これらの機能を介して神経活動を制御し,摂食を調節することが考えられる.しかし,最近の研究によると,AMPKが末梢組織と同様に,神経細胞においても脂肪酸代謝を変化させ,これを介して摂食を調節することが明らかとなった.視床下部AMPKは,栄養素やホルモン,神経伝達物質からの情報を,神経細胞内での代謝変化などを介して統合し,摂食行動を制御している.
著者
中村 裕二 安東 賢太郎 杉山 篤
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.4, pp.166-169, 2012 (Released:2012-10-10)
参考文献数
3

ランゲンドルフ灌流心実験法は19世紀末にドイツの生理学者Oscar Langendorffによって開発された実験法である.摘出した心臓の大動脈にカニューレを挿入して冠動脈から心臓を灌流する手法であり,実験操作の簡便さと心臓に対する薬物の直接作用を評価できることから薬理学的作用の評価法として長く用いられてきた.モルモットを具体例として我々の研究室で行っているランゲンドルフ灌流心の標本作製と測定手法について概説する.標本作製の手順であるが,まずモルモットをペントバルビタールナトリウムで麻酔し,ヘパリンを静注後,心臓を摘出する.摘出した心臓の大動脈にカニューレを挿入して冠動脈から心臓を灌流し,ランゲンドルフ標本を作製する.ランゲンドルフ灌流心では心電図,灌流圧,灌流量,左室圧,有効不応期,単相性活動電位の測定が可能である.左室圧は左室内に生理食塩液を満たしたバルーンを挿入して測定する.バルーンの容積を調節することにより収縮末期の左室容積を設定ができ,任意の前負荷状態における等容性収縮を評価することができる.さらに単相性活動電位を用いると,薬物の催不整脈作用をより詳細に評価することが可能である.ここでは一般的な測定項目に加えてより詳細な電気生理学的指標およびそれらの測定に際しての注意点を紹介する.
著者
伊藤 崇志 東 純一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.311-317, 2004 (Released:2004-04-27)
参考文献数
29
被引用文献数
6 10

高脂血症や糖尿病,高血圧症などの生活習慣病の増加に伴い,冠動脈疾患をはじめとする動脈硬化性疾患が増加の一途をたどっている.タウリンは,循環器疾患に有効である可能性がこれまでの研究から明らかにされつつある.また近年,数々の報告から,タウリンが動脈硬化病変形成にいたるまでの様々な段階で抑制的に働くことが示唆されている.高コレステロール血症モデル動物において,タウリン投与によるLDLコレステロール低下作用やHDLコレステロール上昇作用,脂質酸化抑制作用を介し,動脈への脂質の蓄積が抑制されることが報告された.また,動脈硬化発症の引き金となる血管内皮機能障害がタウリン服用により抑制されることが報告された.タウリンは次亜塩素酸に対してスカベンジャー作用をもつことが知られ,近年の研究から,LDLの酸化にマクロファージ中のミエロペルオキシダーゼにより産生される次亜塩素酸が関与していることが明らかにされ,タウリンがLDLの酸化を抑えることが示唆された.さらに,タウリンと次亜塩素酸との反応物タウリンクロラミンは,NF-κBの活性化を阻害することにより白血球におけるサイトカイン産生を抑制することが報告され,サイトカインが動脈硬化の進展に大きく関与していることからも,動脈硬化抑制メカニズムの1つとして注目すべき作用である.
著者
竹澤 正行
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.138, no.5, pp.205-208, 2011 (Released:2011-11-10)
参考文献数
5
被引用文献数
4 4

臨床試験の実施の基準(GCP: Good Clinical Practice)は,医薬品として承認を得るために必要な臨床試験(治験)や医薬品の市販後に再審査,再評価を受けるために必要な臨床試験(製造販売後臨床試験)を実施する際に遵守しなければならない基準である.このGCPは,厚生労働省令として定められており,薬事法で「当該資料は,厚生労働大臣の定める基準に従って収集され,かつ,作成されたものでなければならない.」と規定されている「厚生労働大臣の定める基準」の1つである.なお,GCPは,治験などの対象となるヒト(被験者)の人権と安全性の確保,臨床データの信頼性の確保を図り,治験などが倫理的な配慮のもとに科学的に適正に実施されることを目的として定められている.
著者
福永 浩司 矢吹 悌 高畑 伊吹 松尾 和哉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.4, pp.194-201, 2018 (Released:2018-10-05)
参考文献数
34
被引用文献数
6 7

心的外傷後ストレス症候群(PTSD:post traumatic stress disorders)は戦争体験,交通事故,自然災害,性被害など深刻なイベントにより引き起こされる.わが国の生涯有病率は1.3%と報告されている.PTSDでは文脈記憶への過剰反応,恐怖記憶消去系の障害に加えて,軽度の認知機能,注意力,学習障害が見られる.ヒトや動物実験では扁桃体,前頭前野,海馬を含む情動・恐怖の神経回路の感受性亢進が関わる.しかし,PTSDのメカニズムは不明であり,根本治療薬もない.最近,オメガ3(ω3)多価不飽和脂肪酸の摂取が自動車事故や東北大震災後のPTSD症状を軽減することが報告されている.脳型脂肪酸結合タンパク質(FABP7)の遺伝子欠損マウスではPTSD様の不安行動と恐怖記憶の固定が亢進される.私達はFABP3欠損マウスにおいて恐怖記憶消去系が障害されること,多動と認知機能障害がみられPTSD様症状を呈すること見出した.さらに,睡眠障害治療薬でメラトニン受容体作用薬であるラメルテオンの経口投与がFABP3欠損マウスのPTSD様行動を改善することを見出した.FABP3欠損マウスでは前帯状回皮質(ACC)のCa2+/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)の活性が低下していた.逆に扁桃体基底外側部(BLA)のCaMKII活性は上昇した.CaMKII活性化と相関して扁桃体基底外側部での恐怖条件に伴うc-Fosタンパク質の発現は著しく亢進した.これらの反応もラメルテオンの慢性投与で改善された.これらの知見から,ACCの機能低下による扁桃体の過剰興奮がPTSDの発現に関わること,睡眠障害治療薬ラメルテオンはPTSD症状の治療薬としての臨床応用が期待できる.
著者
黒川 洵子 古川 哲史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.4, pp.273-279, 2005 (Released:2005-12-01)
参考文献数
17
被引用文献数
3 3

心筋細胞における外向きカリウム電流は活動電位の再分極に寄与する.外向きカリウム電流である遅延整流性カリウムチャネルは瞬時活性型IKrチャネルと緩徐活性型IKsチャネルからなり,IKsチャネルはKCNQ1遺伝子とKCNE1(minK)遺伝子によりコードされる.IKsチャネルの遺伝子異常により活動電位の再分極が遅延し,致死性不整脈を特徴とする家族性QT延長症候群(LQT1)がひき起こされる.IKsチャネルは種々の細胞内情報伝達システムによる制御を受け,これがQT延長症候群での不整脈発現のトリガー因子などの病態発現にも影響を与えることが指摘されてきた.本稿では,近年報告されたcAMPと一酸化窒素(NO)によるIKsチャネル調節の分子メカニズムを取り挙げ,臨床的結果との関連を議論する.チャネル分子複合体を介したcAMPによる調節では,運動時(マラソン・水泳など)・情動的興奮時などの交感神経系の賦活化がLQT1における不整脈を高頻度で誘発することに関与することが示唆された.また,男性ホルモンが膜上アンドロゲン受容体を介して産生されるNOによりIKsチャネルを調節し,QT延長症候群における不整脈発作の男女差との関連が示唆された.QT延長症候群に関わるイオンチャネルの細胞内情報伝達による機能調節と病態発現の関与がさらに検討されていくことにより,今後個別化医療・性差医療などのより精度の高い予防・治療戦略を立てることが可能となることが期待される.
著者
江頭 伸昭 川尻 雄大 大石 了三
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.2, pp.66-70, 2013 (Released:2013-02-08)
参考文献数
34
被引用文献数
1 2

白金系抗がん薬であるオキサリプラチンは,大腸がん治療のキードラッグであるが,急性および慢性の末梢神経障害を高頻度で発現し,身体的苦痛から患者のquality of life(QOL)を著しく低下させるだけでなく,がん治療の変更や中止を余儀なくさせることから,臨床上大きな問題となっている.オキサリプラチンによる末梢神経障害に対しては,エビデンスレベルの高い確立された予防・治療法はなく,症状が強くなった場合には休薬,減量,他薬への切り替えが行われているのが現状である.著者らは,オキサリプラチンによる末梢神経障害動物モデルを作製し,急性末梢神経障害である冷感過敏の発現には,オキサレート基によるNa+チャネル/Ca2+チャネル/nuclear factor of activated T-cell(NFAT)経路を介したtransient receptor potential melastatin 8(TRPM8)の発現増加が,慢性末梢神経障害である機械的アロディニアの発現には,白金を含有する部分によるNMDA受容体NR2Bサブユニットを介したnitric oxide(NO)の合成酵素(NOS)やCa2+/calmodulin dependent protein kinase II(CaMKII)の活性化がそれぞれ関与していることを明らかにした.さらに,その発現機序に基づいた予防・治療候補薬をいくつか見出した.今後はさらに詳細な発現機序の解明を行い,その発現機序に基づいた取り組みによって確かなエビデンスを構築していくことが重要である.
著者
周 至文 羅 聡 小山 隆太
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.5, pp.263-267, 2015 (Released:2015-11-11)
参考文献数
49

胎生期および小児期は神経回路形成における重要な時期である.この時期における各種のストレスは,ストレスホルモンや炎症因子,そして神経細胞活動の異常などを介して,神経細胞の遺伝子発現や神経回路の形成に異常をもたらし,さまざまな脳疾患に罹患するリスクを上昇させると推察される.本総説では,胎生期および小児期におけるストレスと将来の精神神経疾患発症との関係性について,我々の研究成果を交えながら紹介する.特に,各疾患のモデル動物を用いた研究によって発見された神経生物学的メカニズムに着目しながら議論する.
著者
浅川 和秀 半田 宏 川上 浩一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.158, no.1, pp.16-20, 2023 (Released:2023-01-01)
参考文献数
11

TAR DNA-binding protein 43(TDP-43)は,進化的に保存されたRNA/DNA結合タンパク質である.TDP-43は,健康な細胞では細胞核に豊富に含まれるが,筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患においては,変性した神経細胞の細胞質に凝集体として蓄積することが知られている.我々は,青い光を吸収すると自己会合する活性をもったCRY2タンパク質をタグとして用い,光照射によって多量体化(オリゴマー化)するTDP-43のバリアント(opTDP-43h)を構築した.組織の光透過性が高い熱帯魚ゼブラフィッシュの仔魚の運動ニューロンにopTDP-43hを発現させて青色光を照射すると,細胞核に局在していたopTDP-43hは,徐々に細胞全体に拡がり,やがては細胞質に凝集体を形成した.興味深いことに,短時間の光刺激によって一過的にopTDP-43hを細胞質に移行させると,opTDP-43hの凝集体が蓄積していない状態でも,運動ニューロンの軸索成長が阻害されることが明らかになった.これらの結果は,オリゴマー化したTDP-43が,凝集体として細胞質に蓄積する前の段階で細胞毒性を発揮していることを示唆している.本総説では,この光遺伝学型TDP-43を用いたゼブラフィッシュALSモデルを概説し,ALSにおける運動ニューロン変性においてTDP-43が発揮する細胞毒性のメカニズムについて議論したい.
著者
辻 正富 斉藤 宣彦 井上 修二
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.118, no.5, pp.340-346, 2001 (Released:2002-09-27)
参考文献数
28
被引用文献数
5 3

消化吸収阻害系薬物には, 1)脂質吸収阻害薬と2)糖質吸収阻害薬がある. 脂質吸収阻害薬としてはオルリスタットが, 米国, 欧州で実用化されている. 本邦でも治験が開始されている. カワラケウメイ抽出物はその作用成分が同定されれば薬物として開発される可能性があるが, 当面は食品添加による特定保健用食品(機能性食品)としての実用化が考えられる. 脂肪代替食品としては脂肪の味覚を保持し, 消化吸収されないオレストラ, 蔗糖ポリエステルがあるがまだスナック菓子の添加物として使用されている段階である. 糖質消化吸収阻害薬としては主として, 小腸絨毛にある二糖類分解酵素活性を阻害するα-グリコシダーゼ阻害薬が食後高血糖を抑制する作用により糖尿病薬として実用化されている. これが抗肥満薬として開発されるには下痢, 放屁等の消化器系副作用の克服が鍵になる.